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論理的表現力育成のための スピーチ指導*

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.序論

初級で基礎的な文法や語彙の学習を終えて中級以降に進むと、授業の中でも自分の意見 や考えを日本語で話すことが求められる機会が多くなる。しかし、実際に学習者の発話を 聞いてみると、話題が突然飛躍してしまったり、結論が明確でなかったりして、自分の言 いたいことを相手に的確に伝えるということができていない場合がある。現在筆者らが勤 務している韓国の大学でも、こうしたケースが多々見受けられた。このような学習者の多 くは、自分の意見や考えを整理し、その内容を聞き手に分かりやすいように構成して話す 力が不足しているといえる。

しかし、従来の日本語教育では、学習者の発話が分かりにくかったり、相手に意図が伝 わらなかったりする場合、言語知識が不足していたり、それを十分に使いこなせていない ことが原因だと考えられてきた。よって、どんな内容をどんな順序で話したらよいか、す なわち発話の内容を論理的に思考し、それを適切に構成することに関する指導は看過され

スピーチ指導

―韓国人中級日本語学習者を対象に―

古賀 万紀子・青木 優子

要 旨

自分の意見や考えを相手に分かりやすく伝えるためには、自らが話す内容と構 成について思考し、それを的確に組み立てて表現する論理的表現力が求められる。

そこで、本研究ではまず、韓国人中級学習者の発話構造分析により、(1)学習者 は日本語で論理的に話すことができるか、(2)相手に分かりやすく伝えるための 論理構造とはどのようなものか、の2点を明らかにした。その上で、スピーチの 準備段階で論理を構成するための「構想フォーム」を作成し、指導法に関する提 言を行うとともに、指導実践でその効果を検証したものである。構想フォームを 用いたスピーチ指導実践の結果、論理を分かりやすくする5つの条件が取り入れ られたことで、学習者の発話の論理構造が改善されたことが確認できた。この結 果は、日本語教育における論理的表現力の育成という目的において、構想フォー ムを用いた指導が有用であることを示唆するものである。

キーワード

論理的表現力 論理的思考 発話構造分析 スピーチ 構想フォーム

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がちであった。こうした状況は韓国においても同様である。韓国の教育の傾向として、教 師が一方的に知識を与え、学習者はそれを受動的に享受するというトップダウン式である こと、それによって知識偏重型になりがちであることが指摘されている。そのため、日本 語に関する知識はあっても、アウトプットに慣れていない学習者は多い。また、文法的・

形態的に「正しい日本語」で話すことが重視され、発話の内容や構成にまではほとんど目 を向けられていないという現状があるといえる。しかし、大学卒業後、進学や就職をする 場合に必要とされるのは、論理的思考を伴う日本語運用能力である。つまり、自分の考え を相手に的確に伝えるためには言語知識だけでなく、発話の論理構造が重要であり、それ に必要な論理的思考力や表現力を日本語教育においても育成していくべきである。

では、どのような練習や指導を通して、そうした力を育成していくことができるだろう か。まず、指導という観点からみると、独話から始め、対話へと移行していくのが妥当だ と考えられる。スピーチや講義のような独話も、聞き手の反応や表情を見ながら、聞き手 と情報を共有するという点では、一種の「対話」であるといえる。しかし、独話形式の場 合、原稿を書くなどの準備段階で、指導や内省によって内容や構成を練ったり、論の流れ を組み立てておいたりすることができる。一方、対話の場合は、発話者が交替しながら受 け答えや意見交換を通して論を組み立てていくものであるため、相手の意見を受けて反論 するなど、即時的な発話が求められる。論の展開は双方向的かつ流動的なものであるため、

前もって体系的な指導を行なうことは難しい。よって、学習者が論理的に思考し、話すた めの力の育成を目指す上では、まず、スピーチ練習を通して、自分の中で一貫性のある論 理を組み立てることが先決であると考えた。

そこで、本稿ではまず、韓国人中級日本語学習者の発話データを基に、その論理構造を 分析し、学習者の実態と適切な論理構造に必要な要素とを明らかにする。その上で、論理 的表現力育成のためのスピーチの指導法について提案し、指導実践を通してその効果の検 証を行なうこととする。

2.研究の背景

2.1. 論理的思考力低下の現状

日本語で自分の考えを相手に分かりやすく伝えるということは、たとえ日本語母語話者 であっても容易なことではない。実際、多くの先行研究では、日本語母語話者の論理的思 考力低下の実態が報告されている。

そもそも、論理的思考力とはどのようなものであろうか。丸野ほか(2002)は、論理的 思考について「自分の持っている知識や理論を再び思考の対象にすることであり、自分の 思考の特徴について考察を行うことであり、いわゆるメタ認知機能を働かせること」であ ると述べている。このように、論理的に思考するとはつまり、自身の思考をモニタリング するメタ認知を働かせることであるといえる。

三宮(2009)は、スピード偏重主義的な今日の日本の教育が子どもたちの思考力を低下 させていると指摘し、彼等に必要なのは「言葉を使って考えを組み立てる力」だと述べた。

現代の子どもたちは、「答のパーツ(要素)があったとしても、それらを順序よく並べて

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理路整然と展開することが難し」く、その要因は結論に至るまでの思考のプロセスに対す るメタ認知的能力が不足していることだと指摘したものである。すなわち、論理的に話す ためには、自身の思考に対し「わかりやすさに加え、根拠や裏付けを示していること、独 りよがりでなく他者の視点をも考慮していることなど」を精査し、検討することが必要だ ということである。

さらに、論理的思考力の低下は、子どもたちに限ったことではない。中央教育審議会答 申(2003)では、大学生の学力低下の現状に際し、「論理的に思考し、それを表現する力 が弱い」という大学側からの指摘が報告されている。論理的に思考する力というのは、先 天的な能力というより、寧ろ後天的に身につける技術に近いものであると考えられる。で あるとすれば、初等・中等教育でそれを会得できないまま大学に入学する者が多数いると いう現状は想像に難くない。昨今では、学士教育課程における論理的思考力育成の必要性 が叫ばれ、そのためのカリキュラムを組む大学も増加しつつある。一例を挙げると、早稲 田大学では2007年から学部生を対象に、基礎的な文章作成能力を身につけるための「学 術的文章の作成」という授業が行なわれている1。しかし、こうした大学教育の現状は、

裏を返せば、それだけ指導が必要な学生が多いということであろう。

このように、近年では日本語母語話者における論理的思考力の不足を指摘する声が挙 がっているが、こうした事態は日本語学習者についても同様である。橋本(2008)は、大 学の教育現場における日本語学習者の現状について、「「思い付き」で話したり書いたりし ている感が強く、聞き手や読み手にとっての分かりやすさ、つまり論理的表現が身につい ているとはなかなか言えない」と述べている。これは筆者らも同意するもので、日本語 を学ぶ韓国の大学生と日頃接していると、「なぜこの話題について話している時に、その 話をするのか」「結論は結局何なのか」と疑問に感じること、つまり話し手の意図が掴め ないことが多々ある。そして、彼らの多くが「語彙や文法を既に身に付けており、日常会 話には困らない」というのも橋本(2008)の指摘するところと同様である。こうした現状 を鑑みると、日本語学習者にとっても、相手にとって分かりやすく話すためには日本語の 言語知識や運用力が身に付いているだけでは不十分で、論理的に思考する力が必要だとい える。

2.2. 論理的表現力とは

本稿では、自分が伝えたいことを相手に分かりやすく話すための力を「論理的表現力」

と呼び、ここではその定義について述べることとする。先行研究の中にも、幾つか論理的 表現力について論じているものがある。以下に、それぞれの定義をまとめて示す。

・自分の考察や意見、判断を、筋道を立てて、言葉によって表す力(佐藤、2006)

・ 言語によって論理的に思考し、自分の考えなどを論理的に構成した上で、明確に表 現・伝達すること(橋本、2008)

・論理的整合性のある表現をする力(石上ほか、2009)

また、『デジタル大辞泉(小学館)』によると、「論理」は「考えや議論などを進めてい

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く筋道。思考や論証の組み立て。思考の妥当性が保証される法則や形式。」と説明されて いる。このように、「論理的」という言葉は、「筋道立てて」とほぼ同義であると考えてよ いだろう。論理的に述べる、筋道立てて説明するとはすなわち、先の三宮(2009)の引用 によれば、「パーツ(要素)」を「順序よく並べて理路整然と展開する」ということである。

筆者らが考える論理的表現力とは、この「パーツ」と「順序」との両方に関わるもので ある。まず、「何を話すか」、話す内容という「パーツ」を決定する力がその第一である。

次に、「どのような構成で組み立てるか」、話す「順序」を決定する力もそれに含まれる が、これは論理的構成力とも換言することができる。この両者の妥当性について思考を巡 らし、精査する段階では当然、論理的に思考する力、いわゆる論理的思考力も必要となる。

つまり、自分の意見や考えを相手に伝えるために、何を話したらよいか、それをどのよう な構成で組み立てればよいかについて思考し、的確に表現する力が論理的表現力である。

この「的確に」とはすなわち「どのような言語形式で」ということである。ここにおい ては、頭の中にある言語知識を発話化する際に、発音は正しいか、語彙の選択は適切か、

語の活用は正しいか、助詞が正しく使えているか、場面や相手にふさわしい発話であるか など、言語が正しく適切に使われているかを監視・調整する能力も必要となる。これは、

メタ認知の下位概念の一つで、言語的なモニタリングを行うメタ言語能力であり、思考を 発話化する際には、誤用を防ぐためにこの力を働かせることも重要となる。ただし、本稿 における発話の構造分析では、「何を話すか」「どのような構成で組み立てるか」の2点に 着目するため、形式的な誤用についての考察は別稿に譲ることとする。

2.3. 大学の日本語教育における論理的表現力育成の意義

先述の通り、論理的に思考して表現するというのは、相手に自分の言いたいことを的確 に伝えるということであり、それは様々なコミュニケーション場面において必要となる。

特に、日本で大学や大学院に進学したり、就職したりすることを希望する学習者にとって は、ただ「日本語が話せる」だけでは不十分で、日本語を使って論理的に表現できるか、

ということが肝要になる。日本社会で日本語母語話者と競合し、調和をとりながら生きて いく上では、高度な日本語能力はもとより、「日本語を使って何を話すか」、その内容の質 や精度が問われる。高等教育機関におけるゼミ発表や討論、ビジネスでの会議やプレゼン テーションの場面を想定すれば、論理的表現力の必要性は明白であろう。

2010年に日本経済団体連合会が約600社の日本企業を対象に行なった「産業界の求め る人材像と大学教育への期待に関するアンケート」によれば、2007年から2009年にかけ ての外国人人材の新卒採用割合は年々増加している。さらに、外国人人材を採用する際に 求める日本語能力については、回答した企業の56.5%が「専門能力に関わらず、日本人と 同程度の日本語能力を求める」としている。これは、日本における外国人人材の活躍の場 が増えていることと、より高い日本語能力が求められていることを示唆したものである。

また、大学生の採用にあたって重視する能力に関する設問では、「論理的思考力」が5 ポイント中平均4.1ポイントで、「重視する(4ポイント)」「非常に重視する(5ポイント)」

と回答した企業が多いことがうかがえる。さらに、採用する立場から大学教育に期待する ものは何かを訊ねる設問では、「論理的思考力や課題解決能力を身につけさせる」という

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回答が、文科系、技術系/理科系のいずれでも最も多いという結果になった。

同じく2010年に経済同友会が行なったアンケート結果でも、新卒採用の際に重視する 能力として「論理的思考力」は大学卒の場合で30.2%、大学院卒で33.3%を占め、16項 目中4位となっている。また、「表現力・プレゼンテーション能力」は大学卒・大学院卒 でそれぞれ14.7%、12.7%を占めた。このように、論理的に思考して表現する力は、企業 が新しい人材を採用する際にも重要視するポイントとなっている。よって、日本での就職 を目指す場合、日本語を母語としない者であっても、日本人と同程度の日本語能力を持ち、

さらに論理的思考力や表現力を身につけていることが必要となるといえる。

一方、先の日本経済団体連合会のアンケート結果に対し、G30採択13大学からは、「社 会で働くためには、論理的思考や課題解決能力は欠かせないが、(中略)学部四年間だけ では十分ではないケースもある。」「そもそも高等教育の目的は論理的思考や課題解決能力 をつけることであるが、それが徹底していないという指摘と受けとめる。」などの意見が 挙げられた。これは、日本の大学教育における論理的思考力の育成が十分でない現状を示 唆したものである。

また、こうした傾向は韓国においても同様である。近年韓国では、就職のために必要な 能力を診断するための「大学生職業基礎能力診断評価制度」が実施されている。한국직업 능력개발원[韓国職業能力開発院](2007)によると、その評価領域として、大学や企業 および研究機関の関連専門家らは、コミュニケーション能力、対人能力、総合的思考力な どの6つの領域を選定した。ここで示される総合的思考力とは、「創意的思考力」「問題認 識および解決」「論理的思考力」の3つを指すものであり、ここにおいて、韓国でも就職 にあたって論理的思考力を身につけていることが求められているといえる。

また、고등고시(高等考試:公務員試験)では論理的思考を必要とするPSAT(Public Service Aptitude Test:公職適性テスト)の比重が高まっており、企業や専門大学院の適 性試験においても論理的思考を必要とする課題等が実施されつつある。このような現状を 受け、한대신문사[韓大新聞社](2006)は、「高等考試ではなくても大学生において論理 的な思考力は大変重要(原文は韓国語、筆者訳)」であり、「専門大学院進学にも論理的思 考は必ず必要な能力と評価される見通しだ(同)」と述べている。このように、韓国の学 習者を取り巻く韓国社会、また留学先や就職先となりうる日本社会の現状を鑑みても、彼 等に論理的表現力が求められていることは明白であり、その力の育成は韓国の大学教育に とって重要な課題の一つといえる。

よって、本稿では、韓国人学習者を対象とした指導法の考察を通じ、大学日本語教育に おける論理的表現力育成というテーマに取り組むこととする。次章では、指導法に関する 提言に向けて、学習者の発話構造分析を行ない、学習者の発話の実態および適切な論理構 造を明らかにしたい。

3.韓国人中級学習者の発話構造分析

3.1. 調査概要

調査の目的は、(1)学習者は日本語で論理的に話すことができるのか、(2)相手に分か

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りやすく伝えるための論理構造とはどのようなものか、の2点を明らかにすることである。

対象者は、韓国の大学で日本語を専攻する1年生6名(男女各3名、18〜19歳)で、日 本語レベルは中級相当2である。ここで中級学習者を対象としたのは、ある程度まとまっ た分量の発話が可能になり、論の内容や構成に目を向けられるようになるのは中級段階か らだと考えたためである。

調査においては、まず、タスクについて説明し、筆者らが設定した5つの社会問題に関 するテーマのうち1つを学習者に選ばせた。タスクの内容は、テーマに関する具体的な現 状や問題点をふまえ、自分の考えを聞き手に分かりやすく、論理的に説明するというもの である。テーマを選んだのち、話す内容や構成を考え、自由にメモを作成する時間を10 分間与え、学習者がスピーチ形式で話したものを録音、文字化した。

3.2. 分析方法

分析においては、橋本(2008)によって考案された「スピーチ構成図」を参考に、各学 習者の発話の内容をまとめたものを図式化した。「スピーチ構成図」とは、聞き手や読み 手に分かりやすく自分の意見などを表現する際に必要となる要素を視覚的に示すためのも のである。以下の図1に、同論文の「スピーチ構成図」を引用する。

図1 スピーチ構成図(橋本、2008:18)

「スピーチ構成図」は、「導入」「主張」「理由」「理由の裏づけ」「反論」「結論」という 6つの要素から成り、これらの各構成要素が時系列式に配置されている。そのため、話し たい内容をこの図に当てはめて話せば、導入から結論まで一貫性を持った論を組み立てる ことができるというものである。橋本(2008)で説明されている6つの構成要素の内容に ついて、次の表1にまとめて示す。

表1 構成要素の内容(橋本、2008)

導入 主題を聞き手に紹介するとともに、聞き手・読み手に興味・関心を持たせる ことを目的としたもの

主張 ある問題や背景に対する話し手・書き手の意見 理由 主張の土台としてその考え方を支える概念

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理由の裏づけ 理由を支えるための実証データや、理由を具体化するための材料

反論 自分とは意見を異にする立場の意見をも客観的に検討し、予想される反論に 対して、予めその点を除外しておくこと

結論 「導入」「主張」「理由」「理由の裏づけ」「反論」のすべてを考慮し、分析し た結果、導き出された最終的な意見

論理的な発話構造に必要な構成要素やその順序としては、この他にも多様なバリエー ションが考えられうるが、ここで示されたものは基本的かつ必要最低限なものであるとい えるだろう。よって、本稿では、「スピーチ構成図」の形式を用いて学習者の発話内容と 構造を可視化することで、これ以外にも必要な構成要素があるか、相手に分かりやすく伝 えるための論理構造の特徴とはどのようなものかを分析する。

3.3. 分析結果

ここでは、図1で示した「スピーチ構成図」の形式に沿って学習者の発話構造を図式化 したものを基に、それぞれの特徴を見ていくこととする。

まず、「教育制度」のテーマを選んだ学習者Aの発話構造を示したものが次の図2で ある。

図2 学習者Aのスピーチ構成図

Aの発話には、橋本(2008)が提示する順序通りに6つの要素が盛り込まれている。ま た、理由や反論を述べる際に「そして、こう、まとめて、やっぱり何が一番、基本的に問 題なのかと思えば、やっぱり、大学に行かないといけないということですね。」「(いい大 学に進学するために小さい頃から)たくさんお金使って私立とかに入るのが、教育ってそ んなんじゃないんじゃないかなと思いますね。」というように、自身の主張を何度も繰り 返しながら話したため、論点がぶれず、聞きやすい発話となった。さらに、「スピーチ構 成図」には含まれていない要素であったが、反論に対する裏づけまで述べたことで、Aの 発話には説得力が増したといえる。

次の図3は、「フリーター」のテーマを選んだ学習者Bのスピーチ構成図である。

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図3 学習者Bのスピーチ構成図

Bは、導入部分では、フリーターについての詳しい現状を話しているが、主張を支える 理由の説明は乏しく、なぜフリーターの生活が安定的でないと思うのかということや、な ぜ社会的な視線がよくないのかについては触れていない。また、構成要素としても、理由 の裏づけ、反論、結論の3つが欠けている。これらの要素がないため、論を膨らませるこ と、最後にまとめることができておらず、スピーチの途中で話が突然終わってしまったと いう印象を受ける。その結果、「フリーターに反対しているのであろう」という曖昧な主 張しか伝わらず、分かりやすい発話とはいえない。

次の図4は、「教育制度」のテーマを選んだ学習者Cのスピーチ構成図である。

図4 学習者Cのスピーチ構成図

Cの主張から反論の裏づけまでの流れをふまえると、<ただ受験勉強だけしていい大学 に合格すれば人生が保障されるという時代は終わったのだから、大学に入ることがゴール となってはいけない>という結論を述べることが予想される。しかし、Cは結論として、

「今は受験のための教育だから、学生達に知識をただたたき込むだけで、何というか、自 分で考えることができないと思うんです。」「大学に行って授業をしたら、高校までの授業 とは全然ちがう授業のやり方だから、それがちょっと大変だと思うんです。」とまとめて、

話を終えてしまっている。このように、<受験を勝ち抜いていい大学へ進学することを目 的とする教育制度への批判>と<知識詰め込み型の教育内容への批判>という2つの論点 を混同させてしまったため、主張と結論とが乖離し、結局Cが何を伝えたかったのか分

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からないまま話が終わってしまった。

次の図5は、「いじめ」のテーマを選んだ学習者Dのスピーチ構成図である。

図5 学習者Dのスピーチ構成図

Dは、導入、理由、主張の順序で話を進めた。そのため、聞き手にはDの主張が最後 まで分からず、導入や理由として述べられた説明が主張を支える役割を果たせていなかっ た。つまり、いくら説明を続けても、それらは論を強める効果を持っていないということ になる。また、Bと同様、理由の裏づけ、反論、結論の要素が含まれておらず、主張を述 べて急に話を終わらせてしまったため、まとまりのない発話となった。

次の図6は、「美容整形」のテーマを選んだ学習者Eのスピーチ構成図である。

図6 学習者Eのスピーチ構成図

Eの発話には理由の裏づけの要素が含まれていないものの、「スピーチ構成図」に示さ れた6要素中5要素が含まれている。EもAと同様、「私は基本的には、(整形に)賛成 です。」「自信がないなら整形はしない方がいいと思います。」というように、話の中で自 分の主張を何度か繰り返し述べ、その都度、違った角度から理由を付け加えていった。そ のため、論を追うごとに主張を支える論理が明確になり、主張がぶれない発話となった。

次の図7は、「いじめ」のテーマを選んだ学習者Fのスピーチ構成図である。

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図7 学習者Fのスピーチ構成図

Fの発話は、導入としての一般論の説明が長く、話の中盤までテーマに対する主張が述 べられないため、聞き手には、その時点までFの立場が分からない。また、理由の説明 が短いうえに、その理由を支える理由の裏づけも反論もないため、結論への論理の繋がり が弱く、説得力に欠ける印象であった。

3.4. 考察

調査の結果をふまえ、(1)学習者は日本語で論理的に話すことができるのか、(2)相手 に分かりやすく伝えるための論理構造とはどのようなものか、という2点のリサーチ・ク エスチョンについて考察を行なう。

学習者6名の発話分析を行った結果、それぞれの発話に現れた構成要素の種類とその順 序をまとめたものが以下の表2および表3である。なお、橋本(2008)では、反論の裏づ けという要素については言及されていないが、学習者の発話分析にあたり、学習者Aお よびCの発話に、これに該当する発話内容が認められた。よって、これも発話を構成す る要素として取り上げることとする。

表2 学習者の発話に現れた構成要素の種類

A B C D E F

導入 ○ ○ ○ ○ ○

主張 ○ ○ ○ ○ ○

理由 ○ ○ ○ ○ ○ ○

理由裏づけ ○

反論 ○ ○ ○

反論裏づけ ○ ○

結論 ○ ○ ○ ○ ○

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表3 学習者の発話に現れた構成要素の順序

A 導入→主張→理由→理由裏づけ→主張→理由→反論→主張→反論→反論裏づけ→結論 B 導入→主張→理由

C 主張→理由→反論→反論裏づけ→結論 D 導入→理由→主張

E 導入→主張→理由→反論→主張→理由→反論→理由→結論 F 導入→主張→理由→主張→結論

まず、学習者は日本語で論理的に話すことができるのか、という1つ目のリサーチ・ク エスチョンに基づいて考察を行う。

調査対象とした6名の学習者のうち、橋本(2008)で示された6つの要素と反論の裏づ けまですべて取り入れていたのは学習者Aのみであった。次に構成要素の種類が多かっ たのはCおよびEで、それぞれ5つずつ取り入れられていた。しかし、Eは主張とそれ を支持する理由とを繰り返し述べることで、論に一貫性を持たせていたのに対し、Cの 発話は主張と結論との整合性が取れておらず、肝心の主張が何なのかが伝わらなかった。

よって、「論理的に話す」というタスクが達成できていたのはAおよびEの2名のみであっ たといえる。このことから、論理的に話すためには構成要素の種類や数だけでなく、その 順序や論の一貫性も影響することが分かった。これについては後ほど詳しく述べたい。

他の4名は、要素が不足していたり、構成の順序に問題があったりして、論理的に話せ ているとは言い難かった。先に述べたように、Cのように初めの主張と最後の結論の内容 とが一致しないと、結局、話者が何を伝えたいのかが聞き手には分からず、話を聞き終え ても釈然としなかった。また、Dのように、導入に続いて自身の主張を最初に述べない場 合、話者が何を意図して話しているのか、聞き手は推測できないため、論を追いにくい。

また、B・D・Fは、自身の主張を述べる前に一般論を述べるなどして導入部分を長く話 しているが、主張が分からない状態だと何のためにそれを話しているのかが聞き手には伝 わりにくい。導入部の役割は、テーマの紹介や聞き手の関心を引くことであるため、主張 を強める働きはなく、それほど長く話す必要はないと考えられる。

このように、日本語で論理的に話すことができない学習者の存在が本調査で明らかに なった。2.3で述べたように、昨今では大学卒業時に論理的表現力を身につけていること が要求される傾向にある。そのため、大学教育の段階でそれを身につけていないと、学習 者自身の評価や将来の業務にも影響をおよぼしかねない。従来は、ただ正確な文法や語彙 の知識を身につけ、それを運用できていれば、日本語能力が高いとして評価されてきたが、

外国人人材が増加している現代の日本社会では、より高度な日本語能力が要求されること も先に述べた通りである。これはすなわち、「日本語を話す」のではなく、「日本語で話す」

ということであり、日本語を手段として自身の考えや主張を的確かつ論理的に表現するこ とが必要となっているといえる。よって、大学における日本語教育では、日本語の運用能 力だけでなく、社会生活において必須となる論理的表現力の育成をも目指すべきだという のが筆者らの主張である。

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次に、2つ目のリサーチ・クエスチョンである、相手に分かりやすく伝えるための論理 構造について考察を行なう。調査分析の結果、分かりやすい発話の条件として、①構成要 素の種類と順序、②理由・反論の種類と裏づけ、③理由・反論の具体性、④主張の反復、

⑤主張と結論の整合性、の5つが挙げられた。それぞれのポイントについて、次に詳しく 述べることとする。

まず1つ目に、論理構造を決定づけるのは発話の構成要素の種類と順序であるが、基本 的には要素の種類が多いほど分かりやすくなる。分析の結果、反論の裏づけを含む7つの 要素を全て取り入れたAおよび5つの要素を効果的に取り入れたEの発話が最も分かり やすい発話であった。また、学習者6名の発話分析結果を概観すると、導入に続いて主張 を述べた方が、聞き手が早い段階で話の核心を掴むことができ、その後の話を聞きやすく なることが分かった。よって、要素を取り入れる順序は基本的にスピーチ構成図が示す通 り、導入、主張から始まり、結論で主張を繰り返して終わることが望ましい。ただし、理 由と反論とは、主張の理由づけとなる働きをするという点では同じであるため、両者の順 序を入れ替えても、論の流れにはさほど影響を与えないと考えられる。

2つ目に、理由と反論は複数挙げ、様々な角度から主張を支えることが重要である。A やEは、発話の中で理由と反論をいくつも挙げ、主張を強化しているため、話者の意見 がより伝わりやすくなっている。さらに、理由と反論にはその根拠となる裏づけが必要 である。橋本(2008)では反論の裏づけについては言及されていなかったが、説得力を 増すためには反論にも裏づけを付与することが有効である。Aの発話を見ると、6つの要 素に加えて反論の裏づけを述べることで説得力が強まり、結果的に主張を支える効果が あった。

3つ目に、聞き手が話の内容をより明確にイメージできるよう、理由や反論には一般論 のみではなく、具体的な例やデータ、エピソード等も取り入れると効果的である。この点 においても、Aは自身の経験を紹介したり、韓国と他国を比較したりするなどして、具体 的な例を挙げたため、分かりやすいと感じられた。

4つ目に、話の論点を逸らさず、聞き手も話者の主張を意識しながら話の流れを追うこ とができるよう、自身の主張を繰り返し述べることも有効である。AとEは、理由と反 論を複数挙げながら、その間に自身の主張も織り込んで論を進めていた。Eの発話には理 由の裏づけと反論の裏づけの要素が含まれていないが、繰り返し主張が強調されること で、話者の言いたいことがよく伝わる発話となっていた。このように、発話の構成要素に 関しては、順序を工夫することで種類の少なさをカバーできる可能性も示唆された。

5つ目に、主張と結論とは一致させる必要がある。理由や反論など、具体的に述べてき た論をまとめ、最後に主張を聞き手に印象づけて話を終えることが結論の役割である。つ まり、結論とは、最後に再び主張を含めた自身の意見を提示するものであり、主張と結論 との整合性が取れているということが、分かりやすい発話の条件となる。

では、この5つの条件の間に重要度の差異はあるのだろうか。CとFの発話を比較し てみよう。Cの発話は「①構成要素の種類と順序」「②理由・反論の種類と裏づけ」「③理 由・反論の具体性」の条件はほぼ満たしているが、「④主張の反復」「⑤主張と結論の整合 性」の条件に合致しない。一方、Fは「①構成要素の種類と順序」はほぼ満たしており、

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「⑤主張と結論の整合性」の条件にも合致するが、「②理由・反論の種類と裏づけ」「③理 由・反論の具体性」「④主張の反復」の条件は満たしていない。この両者の発話を比べた 際に、Cは結局何が言いたいのか分からなくなってしまったが、Fは主張の伝わる発話で あったといえる。このことから、発話の分かりやすさを決定づける条件としては、理由と 反論に関わるものより、主張と結論との整合性が取れていることがより重要であることが 分かる。

こうしたポイントを、スピーチの際に学習者が自身の発話に取り入れられるようにする ためには、どのような指導が必要になるだろうか。次章では、学習者が論理的に話すため の指導法に関する提言を行うこととする。

4

.指導法に関する提言

4.1. 構想フォームの作成

学習者が論理的に発話を組み立てるのを助けるために、話す内容と流れを視覚化したメ モが有用であると考えられる。今回の調査では、話す前に各学習者に自由にメモを書かせ たが、Dのように、ほとんどメモを書かないまま話し始めた者もいた。また、論理的に話 せていない学習者ほど、メモが簡易・散漫的であるといった傾向が見受けられた。

そこで、学習者が論理的な発話構造のポイントを視覚的に捉え、話す内容を明確化する ための教材案として、「構想フォーム」を作成した。次の図8が、その一例である。

図8 構想フォームの例

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この構想フォームは、橋本(2008)の提案する「スピーチ構成図」の構成要素と順序を 参考に、3.4で述べた5つのポイントをふまえて作成したものである。これを用いて発話 内容を整理し、相手に分かりやすく話すための指導法を検討する。

このフォームは、上から下へ、「導入」「主張」「理由」「理由の裏づけ」「反論」「反論の 裏づけ」「結論」という順序で話を進めていくことで、分かりやすく論理的な発話を導く ものとなっている。要素には「スピーチ構成図」の6つに加え、反論の裏づけを追加した。

理由と反論は複数挙げ、それぞれの裏づけもそれに対応させるようになっている。このよ うに、構想フォームを使用することによって、3.4で述べた「①構成要素の種類と順序」「② 理由・反論の種類と裏づけ」のポイントをふまえながら、学習者が発話を組み立てていく ことが容易になると考えられる。

4.2. 指導上の留意点

3.4で述べた「③理由・反論の具体性」「④主張の反復」「⑤主張と結論の整合性」のポ イントについては、構想フォームを用いる上で、教師が留意して指導を行なう必要がある。

まず、理由や反論の中に具体的な例やデータ、エピソード等を取り入れることである。

多くの学習者は社会的なテーマについて話す際、典型的な一般論に終始することで、論が 上滑りになり、画一的な主張ばかりになっているように感じられることがある。すると、

聞き手の興味を引けないだけでなく、説得力のない発話になってしまう。そうならないよ う、教師はメモ作成の指導の段階で、学習者各自の論の根拠を引き出す工夫をしなければ ならない。また、具体例を取り入れることについて言及するだけでなく、実際に自身の経 験談、テレビ番組や新聞記事など、身近なものからいくつか例を示したり、一人一人に「ど うしてそう思ったのか」「それを知ったきっかけは何だったのか」といった質問を投げか けたりするなどして、理由や反論の根拠を明確化することを意識させるべきである。

次に、主張を繰り返し述べることであるが、これは構想フォームでは可視化しにくいた め、教師が工夫して指導する必要がある。学習者の発話の中には、主張と、それに続く理 由、反論、結論との繋がりが不明確なものがある。これは、論全体の核となる主張に対す る意識が弱いためだと考えられる。しかし、論を進めるにつれて主張がぶれてしまうと、

「結局何が言いたいがための話だったのか」という肝心な点が聞き手に伝わらなくなって しまう恐れがある。よって、教師は随時学習者の主張を確認し、それを意識化させるよう 努めなければならない。指導の一案としては、理由や反論を挙げる度、それらと主張との 整合性を逐一確認しながら、主張を強化するように論を組み立てていくという方法が挙げ られる。例えば、図8の構想フォームの例では、理由③と主張とは、「整形は永続するも のではない」、<よって>、「整形で手に入る美しさは本当の美しさではない」というよう に、両者の論理関係が明確である。このように、一つ一つの論のピースが主張に繋がるも のであるかを確認しながら、必要な箇所では主張を繰り返し述べるよう、指導していくこ とが重要である。

また、主張と結論を一致させ、整合性を取るためには、この2つを最初に構想フォーム に記入させることが有効である。図8で示したように、構想フォームではこの整合性を意 識化させるよう、両者の記入枠を同じにし、強調してある。橋本(2006)は、論理的に話

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すためには、自分が何を言いたいのかはっきりさせるとともに、話の内容と内容とに関連 性を持たせ、筋道立てて話すことが必要だと述べている。このように、まずは「自分が相 手に対して何を表現したいのか」、すなわち主張を明確化することが重要である。先に核 となる部分を決めることで、その主張の妥当性を検討・強化するために理由や反論を考え る、というようにして話の筋道を立てていくことができる。

こうして、話す内容について思考を巡らせ、構想フォームに従って「どうしたら相手に 分かりやすく伝わるか」と精査しながら論理を組み立てていくことで、学習者は論理的思 考のプロセスを身に付け、日本語授業を通じて論理的表現力を育成していくことができる と考える。

4.3. 指導実践

4.3.1. 韓国人上級学習者への指導実践

古賀・青木(2011)は、この構想フォームを用いて、韓国人上級学習者を対象に指導実 践を行なった。対象としたのは、3.1と同様の方法で行なった発話調査分析において発話 構造に分かりにくい点が見られた上級学習者1名である。調査の目的は、スピーチのメモ 作成の段階で構想フォームを用いることで、学習者の発話構造がどのように変化するかを 調べることであった。

第1回目の調査で自由に発話の構想内容のメモを書かせた際、この学習者はマインド マップ形式でメモを作成した。しかし、実際にメモを見てスピーチをする段になると、話 す内容と内容との繋がりに対して意識が及ばず、話す順序が整理されていなかった。また、

接続詞をほとんど使用しないことも、話の繋がりが分かりにくくなる一因となっていた。

そのため、聞き手にとっては話の展開が掴みにくい発話となってしまった。

それに対し、第2回目の調査で構想フォームに記入したメモを見ながらスピーチをした 場合には、構想フォームの枠に従って話を進めていくため、話が前後したり、順序が入れ 替わったりすることはなかった。また、第1回調査時の発話には見られなかった導入、反 論、反論の裏づけといった要素を取り入れたことで、主張に説得力が増した。さらに、導 入、主張、理由、とそれぞれの枠に沿って話していくため、間に適切な接続詞を挿入する ことができており、聞き手にとっても論理構造が掴みやすい発話となった。

このように、スピーチ内容をまとめるメモとして構想フォームを用いることによって、

(1)今何について話しているのかを意識しながら話すことができる、(2)話す順序が整理 され、聞き手が話の流れを掴みやすくなる、(3)接続詞の適切な使用を導くことができる、

といった効果が見られた。特に話の流れが明確化されたという点で、構想フォームの意義 があったといえる。

しかし、全体的な構造は良くなったものの、細部を見ると、主語と述語が一致していな いといった問題点も見られた。構想フォームの作成意図としては、話す内容をフレーズ 化・簡略化してメモを作成することで、話が冗長になることを避ける狙いがあったが、簡 略化しすぎたことで発話化する際に完全な文が作れないという問題が生じた。この問題を 解決するためには、構想フォームの使い方とそれを使用したスピーチのやり方に関する適 切な指導が必要だといえる。

(16)

この結果を基に、次節では中級学習者への指導実践を行ない、構想フォームの効果と指 導法に関して検討を行なうこととする。

4.3.2. 韓国人中級学習者への指導実践

発話構造分析を行なった韓国人中級学習者のうち、発話構造に何らかの問題点が見られ

たB・C・D・Fの4名を対象に、構想フォームを用いた指導実践を行なった。構想フォー

ムに基づいて自身の考えや説明したい内容をまとめ、それをスピーチとして発話化するこ とで、3章で行なった発話調査時に比べ、どのように発話構造が改善されるかを明らかに することが実践の目的である。

指導実践は、第1回目の調査から約7カ月後に行なった。期間が空いたことで、以前に 話した内容を覚えていないと想定し、前回の調査時に各学習者が選んだテーマと同じテー マで再度スピーチをするというタスクを与えた。

前節の上級学習者対象の調査で明らかになった課題を基に、今回は学習者が一人でメモ を作成するのではなく、構想フォームの使用法に留意して筆者らが対面指導を行なった。

指導においては、まず学習者に構想フォームを与えて各要素について説明した後、「主張」

「結論」→「理由」「理由の裏づけ」→「反論」「反論の裏づけ」→「導入」の順序で記入 させた。これは、先に主張と結論とを書かせることで、両者の整合性を図ったものである。

さらに、第1回目の調査で導入部分が冗長になる学習者が多かったことから、導入は最後 に、テーマの導入や紹介、テーマ選択の理由などを簡潔に記入するよう指導した。

各要素の記入に際しては、筆者らが学習者と話しながら、質問をすることで考えを深化 させたり、例を提示したりすることで、メモを作成する手助けを行なった。さらに、メモ を見ながらその順序に従って完全文で話せるかを確認するため、構想フォームを用いて作 成したメモを見ながらスピーチをするリハーサルを一度行なった。そこで筆者らが不足点 を指摘した後、再度スピーチさせたものを録音・文字化したデータが分析対象となる。

ここでは、例としてBとDの発話構造の変化についての分析結果を取り上げ、考察す ることとしたい。3.3および3.4で述べた第1回目の調査時の両者の発話の問題点には、

次のようなものがあった。

・発話を構成する要素が、導入、主張、理由の3つしか取り入れられていない。

・理由が主張を支えるものになっておらず、理由づけに乏しい。

・自分の主張を述べることに終始するため、視点が画一的で、説得力に欠ける。

・発話の終盤まで主張が述べられない。(学習者D)

では、構想フォームの使用と教師の指導によってこうした問題点は改善されただろう か。次の図9および図10は、それぞれB、Dの発話構造を「スピーチ構成図」の形式に あてはめて図式化したものである。

(17)

図9 学習者Bのスピーチ構成図(指導後)

図10 学習者Dのスピーチ構成図(指導後)

まず、構成要素の種類としては、「導入」「主張」「理由」「理由の裏づけ」「反論」「反論 の裏づけ」「結論」の7つ全てが取り入れられていることが分かる。さらに、理由と反論 が複数挙げられており、それぞれの裏づけも対応している。また、理由と反論には一般論 だけでなく、自身の経験やテレビで見た内容、ドラマの話などを挙げることで具体性を強 めている。発話の途中には、「フリーターはやっぱり大変だって、生活が難しいって言っ ていましたから、私は正社員の方がやっぱりいいと思うんです。(学習者B、下線筆者)」、

「私はそんな経験があるので、いじめがどのほど悪いものっていうのを知っているので、

私の手でなくしたいと思っていますね。(学習者D、同)」のように、核となる主張が繰り 返し挿入されている。そして、最後に述べられる結論も最初の主張と一致する内容となっ ていることが分かる。

このように、構想フォームを用いた指導後の両者の発話は、3.4で述べた分かりやすい 発話の条件を全て満たしていることが分かる。第1回目の発話調査時の構成図に比べると、

(18)

それぞれの構成要素が適切に取り入れられているだけでなく、内容が整理され、構造が分 かりやすい発話になっていることは明らかである。他の学習者CとFの2名における調 査でも同様に、構成要素が増え、話す順序が整理されるという効果が見られた。ここにお いて、構想フォームを用いたメモの作成およびスピーチの指導によって、学習者の発話の 論理構造が改善されたことが確認できた。

また、調査後の学習者との対話でも、「1回目は思いつくまま話してしまったため、自 分でも考えが整理できず、終わった後も何を話したのか分からなかったが、構想フォーム を使ったことで考えが整理された」「前回に比べて話しやすくなった」「このような練習を 繰り返していけば、将来役立つと思う」といった肯定的な所感が聞かれた。構想フォーム の使用によって考えが整理されたというコメントもあったように、フォームを手掛かりに 自身の論理を組み立て、それを検討するというプロセスを繰り返していくことでメタ認知 が強化され、学習者の論理的思考力の伸長にも繋がることが期待される。このように、学 習者自身が構想フォームの有用性を実感しているという点でも、この指導実践の意義が証 明されたといえるであろう。

5.まとめと今後の課題

本稿では、日本語教育における論理的表現力育成の必要性を示唆し、韓国人中級学習者 の発話構造分析を行なった。その結果、大半の学習者は論理的に話すことができていない こと、および相手に分かりやすく伝えるための論理構造に必要な5つのポイントが明らか になった。そこで、これらのポイントを取り入れた構想フォームを作成し、論理的表現力 育成のためのスピーチ指導に関する提言を行なった。さらに、これを基に指導実践を行な い、構想フォームおよび指導の有用性を検証したことで、日本語教育における論理的表現 力育成の可能性を証明したものである。

しかし、指導実践においては、次のような問題点が見受けられた。まず、「反論」、「裏 づけ」といった名称の分かりにくさ、およびフォームの使いにくさである。特に「反論」

は、自分の意見に対して出される反対意見を想定し、それに対する意見を記入する、とい う二段階の思考が求められるため、一部の学習者に混乱が見られた。この改善案として挙 げられるのは、「反論」の枠を二層に分け、想定される反対意見とそれに対する自身の反 論の両方を記入させることである。また、指導の際には理由や反論を具体的に話していた にもかかわらず、簡略化したメモを見ながらスピーチをさせると、そのエピソードを忘れ て話を進めてしまう学習者も多かった。このため、「裏づけ」に具体例を記入する欄を設 けることも、その名称と併せて検討したい。

また、構想フォームはあくまでも基本的な構成要素と順序に則った分かりやすい発話構 造の一案であり、それが絶対的な基準になるとはいえない。実際には、学習者は一人一人 思考プロセスが異なり、発話の内容や構成も無限に存在するが、それを指導によって規定 したり画一化したりしてしまう危険性もある。よって、今後は分かりやすい発話構造につ いてさらなる考察を行ない、様々なバリエーションを指導にどう取り入れていくかを検討 するとともに、指導法やフォームの形式についても改良を重ねる必要がある。

(19)

その上で、学習者の論理的思考力を伸長し、分かりやすい発話を導くための指導内容お よび指導法の確立を直近の課題の一つとして挙げ、本稿の結びとしたい。

1 読売新聞社YOMIURI ONLINE「新入生に『日本語の文章講座』、論理的思考力を育成…早大」

http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20071019ur02.htm(2011/09/02閲覧)、早稲田大学アカ デミック・ライティング・プログラム「学術的文章の作成」授業http://www.cie-waseda.jp/awp/

jp/od/(2011/09/02閲覧)

2 日本語能力検定N2取得者で、大学で基礎レベルの会話・読解・聴解・作文・文法の授業履修を 終えており、いずれも日常のコミュニケーションにほぼ支障のないレベルである。

参考文献

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経済同友会(2010)「「企業の採用と教育に関するアンケート調査」結果(2010年調査)」

http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2010/pdf/101222a.pdf(2011/05/27閲覧)

古賀万紀子・青木優子(2011)「韓国人上級日本語学習者の発話構造分析―分かりやすく話すための 指導に向けて―」『2011世界日本語教育研究大会論文集2:異文化コミュニケーションのための 日本語教育』、世界日本語教育研究大会、pp. 14–15

佐藤かおり(2006)「論理的思考力・表現力を育成する指導―「思考の型」を用いた論理的文章指導―」

『全国大学国語教育学会発表要旨集』111、全国大学国語教育学会、pp. 205–208

三宮真智子(2009)「論理的思考力育成の観点から」『教育心理学年報』第48集、日本語教育心理学会、

pp. 216–218

中央教育審議会(2003)「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策につい て(答申)」http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/03100701.html

(2011/05/27閲覧)

日本経済団体連合会(2010)「産業界の求める人材像と大学教育への期待に関するアンケート」

http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2011/005/index.html(2011/05/27閲覧)

―(2010)「「産業界の求める人材像と大学教育への期待に関するアンケート」結果に対す るG30採択13大学からの主な意見・コメント(日本経団連事務局による要約)」http://www.

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橋本恵子(2006)『論理表現の方法』創言社

―(2008)「日本語の論理表現と教育―『スピーチ構成図』を活用した日本語コミュニケーショ ン教育―」『東アジア日本語教育・日本文化研究』第11輯、東アジア日本語教育・日本文化研究 学会、pp. 15–31

丸野俊一・堀憲一郎・生田淳一(2002)「ディスカッション過程での論証方略とメタ認知的発話の分 析」『九州大学心理学研究』3、九州大学、pp. 1-19

한국직업능력개발원[韓国職業能力開発院](2007)「보도자료」http://www.krivet.re.kr/ku/ea/

prg_kuCGBVw.jsp?pgn=9&gk=&gv=&gn=F4-F420070015(2011/10/24閲覧)

한대신문사[韓大新聞社](2006)「논리가 있어야 실리도 있다」http://www.hynews.ac.kr/news/

articleView.html?idxno=1120(2011/10/27閲覧)

*本論文は2011年度韓国外国語大学校内学術研究支援費によるものである。

参照

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