が ん 概 論
~ がん登録の基礎知識 ~
国立がん研究センター がん対策情報センター
資料:平成30年人口動態統計(概数)の概況-厚生労働省
わが国の死因の年次推移(死亡数)
全死亡136万人中、37.3万人(H30)
死因の第1位、約3分の1を占める
がん とは何か
がん登録でいう「がん」とは?
『がん』とは?
悪性新生物の総称・・・ひらがなで『がん』(Malignant Neoplasm 広義のCancer)
①癌〈腫〉 (Carcinoma) 上皮細胞性
狭義のCancerは 癌
②肉腫 (Sarcoma) 間質細胞性
③その他
白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫 造血器由来
(Leukemia, Lymphoma, Myeloma)
悪性中皮腫 中皮由来
細胞の無秩序な増殖を「新生物〈腫瘍〉」という
外界と身体の境界を被う細胞
(皮膚・粘膜など)
外界と接していない体内の細胞
(骨・筋肉・血管など)
体腔を被う細胞(胸膜・腹膜・心膜)
血液などの成分である細胞
細胞 最小の生体単位
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細胞の増殖パターンと新生物〈腫瘍〉
細胞の正常でない増殖 1.過形成 hyperplasia
ハイパー プレイジア
2.肥大 hypertrophy
ハイパー トロフィー
3.化生(かせい)metaplasia
メ タ プレイジア
4.異形成 dysplasia
ディス プレイジア
5.新生物〈腫瘍〉性増殖 neoplasia
ネオ プレイジア
Reversible 可逆的 Irreversible非可逆的
異常な・秩序立っていない増殖の結果 新生物 neoplasm 腫 瘍 tumor が形成される
正常
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細胞の増殖と新生物〈腫瘍〉
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細胞の増殖は接触抑制されるがん細胞は接触抑制されない
→さらにサイトカインなどによる 転写因子の活性化が増殖促進
さらに血管新生などで 増殖が促進されていく
「悪性新生物~がん」とは
遺伝子異常の 蓄積による細胞の異常な増殖
→ 宿主の命に 関わる悪影響
正常細胞
遺伝子異常
がん細胞 がん組織
原がん遺伝子→がん遺伝子
原がん遺伝子に傷がつくと、活性化→ 細胞増殖のアクセルが踏まれたままの状態になる
がん抑制遺伝子に傷がついて、不活化→ 細胞増殖のブレーキが効かない状態になる
「がん」の特徴
自律性増殖良性腫瘍も自律的に増殖
浸潤と転移隣接臓器へ、遠隔臓器へ拡大
悪液質栄養を奪って全身が衰弱
良性腫瘍との違い
良性腫瘍も自律性増殖
浸潤と転移、悪液質を おこすことはない
増殖のスピードもゆっくり
圧迫症状をきたすことはあるが、外科的に完全切除すれば再発はしない あくまで 原則であって、例外は存在する
脳腫瘍(厳密には頭蓋内腫瘍)は良性であっても、重篤な影響を及ぼすのでが ん登録の対象となる
がんの進行と拡がり
がんは
どんなふうに
進行していくのか
粘 膜 粘膜下層
内腔
早期がん 進行がん
転移 症状(-) 症状(±) 症状(+)
がんの進行
粘膜上皮 粘膜固有層 粘膜筋板
血管・リンパ管が豊富
管腔臓器の例 消化管系や 尿路・生殖器
消化管などの壁
血管などは外(内腔と反対側)から入ってくる
血管やリンパ管を介して 他の臓器など離れた場所に病巣
転 移
がん細胞が 血管等に侵入
周囲の他組織を壊して 病巣を拡大していく
浸 潤
胃粘膜の構造と「胃癌」の拡大
13 粘膜上皮
漿膜(腹膜)
縦走筋層 輪状筋層 集合リンパ
小節
粘膜筋板 粘膜
(M)
(SM)
固有筋層
(MP)
(SS)
(S)
上皮に発生した癌腫が より血管等が豊富な 漿膜側に拡大していく
粘膜固有層
粘膜下層
漿膜下層
結合組織が豊富な層
(血管・リンパ管も豊富)
上皮と間質の関係
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上皮
間質 基底膜
膠原線維 リンパ管 血管など
これから 発生するのが
癌腫
これから 発生するのが
肉腫
上皮内癌( CIS )
あるいは上皮内新生物
Carcinoma in Situ(上皮内癌)intraepithelial neoplasia (上皮内新生物)の訳
上皮細胞と間質細胞(組織)を境界する膜(基底膜)を破って浸潤していない腫瘍(癌)
基底膜を破っていないと 切除がしやすい 転移することが少ない
子宮頸部がんに多く、その場合は、CINと呼ばれる
Cervical Intraepithelial
Neoplasia
予後がよい
浸潤と侵襲
浸潤Infiltration
修飾語としては
Infiltrative
侵襲Invasion
修飾語としては
Invasive
本来は異なるニュアンスだが、実際には、同じように使われる 癌〈腫〉では 上皮→基底膜→間質へ、
がん組織・細胞が連続して拡大していく
「非浸潤性」という言葉は、「上皮内」とほぼ同じ意味で使われることがある
転 移
血行性 血液の流れ肺や全身に転移
リンパ行性 リンパ液の流れリンパ節に転移
播種性胸腔・腹腔や脳脊髄液に ばらまかれるように転移
原発巣
基底膜
リンパ 球 血小板 細胞外 基 質
転移巣 原発巣
基底膜
リンパ球
血小板
細胞外 基 質
転移巣
原発巣と離れた病巣を腫瘍が作ること
血管系
リンパ系
細胞を潤す組織液を 組織の外へ流し出すルート
組織液→リンパ細管
→リンパ管→リンパ節
→リンパ管主幹・胸管
→鎖骨下静脈→心臓
リンパの流れとリンパ節
胚中心 暗殻 濾胞
輸入リンパ管
輸出リンパ管 皮質 傍皮質 髄質
末梢から
左鎖骨上へ流れていく
(右上肢と右頸部は右鎖骨上へ)
途中のリンパ節が関所的役割
(リンパ節には被膜が存在)
血行性転移のイメージ
20 基底膜
間 質
毛細血管
毛細血管壁に接着 血管壁の外へ侵入 転移病巣を形成
1000細胞の1個程度が 他臓器にたどり着ける
他の臓器
がんの病理像
~ がんと病理所見 ~
病理像の種類
マクロ(肉眼像)Macroscopic
ミクロ(顕微鏡像)Microscopic
細胞診
ひとかたまりでなく採取
(病理)組織診
ひとかたまりとして採取
がん登録でいう顕微鏡(学)的検査は
細胞診
組織診
合わせて
病理学的検査
病理診断 (細胞診)
身体から排泄されたものから標本を作成
擦過したり、洗浄液をとったりもするブラシ
スワブ(綿棒)
スライドグラスに塗布して標本を作製 → 個々の細胞がバラバラの状態で観察
病理診断(組織診)
組織を採取(生検:biopsy)する必要がある 手段としては手術的
内視鏡的 手術/内視鏡では 検査(生検)でなく、
治療として
病変全体の切除が おこなわれることも多い
針生検
病変部に太い針を刺して 塊を採取
生検用鉗子
生検針 バイオプシー
経皮的針生検
塊を薄くスライスして標本作製 → 塊の状態(細胞と細胞が整列)の断面を観察
単層円柱上皮(上皮の種類)
円柱形の細胞が、一層を作る形態 例:消化管や胆嚢などの粘膜物質を吸収したり、分泌したりするのに都合のいい上皮 腫瘍化すると「腺癌」になりやすい
重層扁平上皮(上皮の種類)
何層にも重なった上皮が 表面に近づくと 扁平な形になる 例:皮膚や食道など物理的な刺激から身体を守るのに都合のいい上皮 腫瘍化すると「扁平上皮癌」になりやすい
移行上皮
(古い言い方) → 尿路上皮
最表層の細胞(大型の被蓋細胞と呼ばれる細胞)の形が 変形(扁平 円柱)する上皮例:膀胱・尿管などの泌尿器系
被蓋細胞
伸縮するのに都合のいい上皮 腫瘍化すると「尿路上皮癌」になりやすい
上皮形態の種類(まとめ)
単層扁平上皮
(肺胞上皮)
単層立方上皮
(尿細管・甲状腺)
単層円柱上皮
多列線毛上皮 重層扁平上皮 移行上皮(尿路上皮)
中皮・血管内皮もこの形態
異型性(異型度)の分類
組織診Group Ⅰ 異型を示さない
Group Ⅱ 異型はあるが、良性
Group Ⅲ 良性・悪性の境界域
Group Ⅳ 悪性が強く疑われる
Group Ⅴ 悪性病変
細胞診Class 1、2、3、4、5 と分類
時にClass 3を 3Aと3Bに細分
どちらとも決めがたい「グレーゾーン」が存在する
「悪性度」と同様 高い方が より「悪性」
低い方が より「良性」
分化とは、何か
受精卵から分化が始まる
分化能高い細胞として幹細胞が残存(何にでもなれる=幼若な細胞、腫瘍になると「たちが悪い」)
「専門分化」と同様
分化した方が「成熟=おとなしい」
分化度低いと「幼若=自分勝手」
腫瘍の命名法
腫瘍の名前に接尾語(oma)をつける(○△□-oma : ○△□腫瘍) 腺腫 :
adenoma
上皮性悪性腫瘍(癌)は、 carcinoma 腺癌 adenocarcinoma扁平上皮癌 squamous cell carcinoma
間葉系悪性腫瘍(肉腫)は、 sarcoma
基本表現に、修飾語がつく管状、乳頭状、濾胞性など ←イメージを持つことが重要 見た目の形(形態)に関する用語に慣れるように、病理所見を数多く読むこと
悪性細胞の診断(病理診断)
正常の細胞との違いは核の不正、異常(濃い紫の部分)
細胞質の異常(淡いピンクの部分)
その他
組織構築の異型
まわりとの関係 などで判断される 病理診断は
細胞の形態(顔つきなど)で判断
がん概論のまとめ
がんの病態を理解することが、がん登録の精度を上げることにつながる。
(特に病理学的な見方は重要)
がんは遺伝子異常の積み重ねで生じる。
がんは、原発部位から隣接臓器や遠隔臓器に拡がることで、
生命にかかわる状態を引き起こす。
【参考】
遺伝子とは何か
細胞→核→染色体→遺伝子
→DNA→塩基配列(AGTC)
ゲノム(genome)
= 遺伝子(gene)
+ 染色体
(chromosome)
→タンパク質の設計図
【参考】 遺伝子異常だけではない
発がん
エピジェネティック異常(epigenetic)DNAのメチル化
遺伝子に変異はないが、発現しにくくなる
H. pyloli感染などで起きている がん抑制遺伝子などが発現しにくい
→発がん、発がん後の増殖が止められない
遺伝子異常(遺伝子変異)によるgeneticな異常生殖細胞系列変異 変異が遺伝する
体細胞系列変異 変異は遺伝しない
35 epi =
~の外
発がんメカニズムの解明も進んでいるが、
がん登録を行う上では、
遺伝子異常の蓄積が原因と 考えてよい
ジェネティック エピ ジェネティック