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宮川俊行 聖書正典成立史の諸問題 る 正典の基本的特色としてさらに限定性が挙げられる 正典は厳密に限定されており これら 73 書 以外の他の一切の書は排除されている 正典に属するのはこれら 73 書だけであって 世界中の他の 一切の書は非正典書である これ以上つけ足されることも差し引かれることもな

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(1)

純 心 人 文研 究 第 10号  2004

諸 問題

 

 

 行

Theological

 

Reflections

 

on

 

the

 

History

of

 

the

 

Formation

 

of

 

the

 

Biblical

 

Canon

Toshiyuki  

MIYAKAWA

1

IIIIIIVVVI        

Outline

Introduction

Birth of 

Sacred

 

Writings

 

in

 the 

People

 of God

Formation

 of the 

Canon

 ofthe  

Old

 

Testament

Formation

 of the 

Canon

 of the New  Testament

Theological 

Problems

 about  the 

Formation

 of the Biblical Canon

Conclusion

  は じ め に

1

 正典と し て の聖 書

 

普 通

わ れ わ れ が

聖書 」 と呼んで い る の は

厳 密には キ リス ト教用 語で 「聖書正典

Libri

canonici

」と さ れて い る書 物の こ とである

。単

に 「正典 」と略 称 するこ とも多い 。 教 会の普 遍 的 教 導 職 (magisterium  universale

が 「直接的 に霊感の下 に書か れ

民 』に神か ら委ね ら れ た聖 な る書 」と して認 定 してい る

す な わ ち 「正

録 (

Canon

」(1) 、 初 期キ リス ト教 文 書 集である。 カ ト リッ ク教 会で は 旧約聖書

46

新 約 聖 書

27

書の 合

計73 書

書が 正典 目録

Canon

に属 する書

、す

な わち正典 書

Liber

 canonicus a canonical  

book

さ れ てい る。

 

カ ト リッ ク教 会の正典 観におい て

正 典の特 色と さ れ るの は、 先 ず、 その最 高 権 威 性であろ う。 教 会の

切の信 仰

、神学、伝統 、典礼、倫

・道徳、

制 度

宣 教

司 牧 活 動 は 正 典 を最

会 自身

も 正典の下 にあ りこ れ に仕 えるべ き もと さ れ る

ニ ヴァ テ ィカ ン公 会 議 「教 会 憲

10

。 キ リス ト教は 正典 宗 教である。 教 会お よ びその成 員に とっ ての信 仰生活の最

基準とい

の こ の よ

な 至 上の権 威の根 拠は何か。 カ ト リッ クの

仰の理解 によ れ ば

それ は 「霊感

inspiratio

)」

で ある 〔2)。 正典に属 する すべ ての 書は聖 霊の原 因 的特別

入 で あ る

霊 感 」の影 響 下 に誕生 し た特 別な書

すな わち神 的 起 源 を もつ

か らの

書」

である

とい う。 権 威の根 源が

にあるとさ れ る ゆえに

は キ リス ト教におい て普 遍

不 変の 最 高 基 準 として

能 しうる の で あ

(2)

宮 川 俊 行

聖 書正典 成立史の諸 問題 る。

 

の基 本 的特 色と して さ らに限 定 性が挙 げら れる。 正典は厳 密に限 定さ れてお り

これ ら

73

書 以外の他の

切の書は排 除さ れてい る。 正典に属 するの はこ れ ら

73

書だけで あっ て

世 界 中の他の

典 書で あ る 。 これ 以 上つ け 足 さ れ るこ とも差 し引 か れるこ ともない 固 定 し た もの と して

聖 書は他の

切の 書 物

非正典 書

か ら截 然と区 別さ れ てい る。 こ の よ

な 限 定の根 拠は

それ らの文 書だけが 霊感の

の 下 に 誕 生 して い る とい うことである   。 しか も

正典は 唯

73文

書 が

然と並んでい るもの で はな く

まと ま りを もっ た

つ の

全体 」と

えら れ てい る

そ の意 味 でそれ は完 結 し た

書 」と言

である

そこに は

定の基 準に従っ た構 成 が あ り

区分 が あ る。 その中で

73

文 書の

は か

特定部

と し

位 置与 えら れ

、範

し た 「全

体」

を形 成し てい るの で ある。

2

  本 稿の課 題と方 法 a

ところで こ の特 別 な 「書 」である 「聖 書正典 」は 歴史の産 物であ る とい

面 も備 えてい る。 歴 史の 中で長い 時 間を か けて

々 に形 成さ れ現

の よ うなもの になっ た。 初め は曖 昧な存 在だっ た が 少しずつ を整 えてい

に現

の ような

定 数の特 定 書 より構 成 される

閉じ ら れ た叢 書

a closed  collection

と し て

立 し た。

 

霊感を

けて い る か どうかを 識別で きる万 入に通 用 する外 的 印ご とき ものは ない

、教会

が 自 己の判 断で

特 定の文 書を霊 感を受 けた書、 すな わ ち、

神か らの書 」、 との認

を行っ てい る

とい

こと である

その書の正典 化

canonization )と言われる。 こ の ように 「閉じ ら れ た叢 書 」と して の聖 書 正 典の成立 に長い 期 間を要し た とい

の は教

の こ の最

的な判

断 ・

認 識が時 間 を必 要 と し た か ら で あっ た。

 

聖 書 正 典の形 成は二段 階を経て行わ れ る

と見ること が で きる。

階 は その文 書が霊 感の影

響下に誕生するこ と

liber

 canonicus  

quoad

 se et 

in

 actu 

primo)

であ り

第二段 階は その文 書が 霊 感の

響下 に 誕生し た もの で ある こ と を教 会が認 識し受 け 入れ ること

liber

 canonicus  etiam  

quoad

nos et 

in

 actu secundo

である。 これ に

い 期 間が必 要だっ た

とい うの である

  「

約聖書

に関して は正典 化の総 過 程は こ の ように 二段 階に分 けら れる。 第

準 備 段 階

新 約 聖 書正典に属 する各 書が作ら れてい っ た期 間で あ る。

二 は形 成 段階 で

諸 文 書が収 集さ れ編 成さ れ承 認さ れ た

新約

聖書正典と して

体 化 されてい っ た期 間である。

 

「旧 約 聖 書 」に関 しては各 書の形 成 過 程は勿 論 先 行 する もの の

は 「

使徒的教会」

に よ る自己の前

かつ

信仰

前提

要 素と して の旧 約 聖書の認 識と受 け 入れである。

b

) 本 稿は

聖 書正典 形 成二段 階の中の

二 と 関わろ うとする もの で ある。 正 典が どの よ うに して 現 在の ような もの と して 成立する に到っ たか の歴史 的 経 過を 追い な が ら、 そこ に出て くる諸 問題 を カ ト リック

学の立 場 か ら考 察 しよ

とい

ので

る。

究極的

に意 図さ れ てい るの は 正

典本質

の 理 解を深めその権

を より深 く基

礎付

けるこ とである

正 典 を 巡る神 学 的 諸 問 題の 幾つ かと はすで に 別

稿

が取り組ん で い る ω

重 複 を避 けた め

本 稿は そこ で は取 り上げら れてい ない 諸 問 題に眼を向 ける こ と に な る。 な お 正典 論の重 要な 問 題 とし て形 態 論 (5)る が紙 幅都 合で こ

(3)

純 心人 文 研 究 第10号 2004 こでは関わら ない ことに

る。

 

本稿

構成

を次のようにしたい 。 先 ず

聖典

教で あ るこ と が キ リス ト教に とっ て どのよう な必 然 性をもっ てい るの かにつ い て の考 察を行 う

ら ゆ

が 聖を もい る わけではない 信 仰 共 同 体の中で聖 典 す な わ ち正

な る ものが形 成さ れ るにい たっ た事 情と その意 味 を

とい うのである。

に現 在のカ トリック教 会の 聖書正典目録が どのよ

に形 成さ れ た かの歴史 的 経 過を 見る。 キ リス ト教の 聖書正典は どの ように生 まれてきた か

である 正典目録は 旧約聖書と新 約 聖 書に分か れてお り別々 の

考察

要とする。 先 ず

旧 約 聖 書 正 典を (三)

次に新 約 聖 書正

。次

にこ の よ

な形 成 過 程 と関わる幾つ かの 間 題 を

り上 げて、 カ トリッ ク神 学 的

考察

を行

。 最 後に

「む すび

を置 く

。 二

 

お け

聖典

1

 

古 代イスラエ ル」にお ける

聖 典

の誕 生 a

)古代

イス ラエ ル における

書 き物

 

α

言葉」

と 「文 字 」

 

人 間は

言 葉 」 を用い る社 会 的

動物

である か ら

語 り

聞 き

それ を通 して思想や意思、 感 情を 互い に

え合い 交 流を行 うことは人間の

然本性

に 基づ い てい る。 し か し

文 字 」を用い る こ と

すな わち

読んだ り書い た り

るこ と が果た して本 性 的と言えるかどう かは問 われ えよ

本性

に 矛 盾は し ない

しか し人間が必 然 的に文 字を用い るわけで は ない

文 字は発明 に基づ く記号であ り

代 社 会になっ て用い れ始め た もの が

る た めには人はそれ を学ばねばな ら ない 。 従 っ て 歴

的社 会 的 環 境諸 条 件規 定 され偶 然 的 面非 常大 きV  現 代 文 字 用い ない 社 会 が あ り

また

文字

を用い る社 会で生活してい て も

読み書 きの で きない 人 は決して

な くない 識 字 教 育の必 要が

ばれ てい る が、 これ は文 明 社 会に 生 き、 現 代の世 界で文 明の恩 恵に 与る た め

また 人

厳に相応 しい 生 き方をする の に識 字が必 要不 可欠 だと

えら れてい る とこ ろ か ら来る。

書 くこと

読むこ と が 人 間の 文 化的 生 活 を高め、 人 間とし て の 自覚を促し

知 識の

達 を正

に し、 人間 間の交 流を より生 き生 きと し活 発 な もの に してきたのは否 定で き ない 。

 

β

古 代イス ラエ ル とヤ

ウ ェ 信 仰

 

さて

古 代イス ラエ ルの民はある事 情か らヤ

ウェ

Jahweh

)神

を 信じ る よ

にな り、 この信 仰 を中 心に生 きた民であっ た。 こ の信仰は民を

つ に ま と め自己同

性を保 持 させ

継 続させ る 原 理 であっ た し、 か れ らの世 界 観

歴 史 観

社 会 観

人 生

はこ の

信仰

を基

とするもの であっ た。 か れ らの個 人 的

社 会 的 生 活はこの信 仰 を 中心と し、 この信 仰に基づ き営 まれ

また社

の 規 範もこ の 信 仰に規 定さ れ な が ら形 成さ れ実践 さ れ てい さ ら に

ェ との交わ りは様々 の宗 教 儀 礼 を通して行わ れ

これ ら は 生活の中心 だっ た。 こうして イス ラエ ル教 ( 6)が 生 れ た

か れ ら 共 同

の基

である先 祖の ヤ

ウェ 体 験は ヤ

ウェ 讃

の 中で 繰 り返し記 念 され歌わ れ

世 代か ら 世 代へ 語 り継が れ てい っ た

信 仰的内容の 口伝 伝 承が形 成さ れ

れ は時の過の 中で豊 か さ を増し てい っ た

(4)

宮川 俊行

聖書正典成 立史の諸問 題

 

γ) 古 代 イス ラエ ル の信 仰生活 と 「書 き物 」

 

こ の よ

な か れ らの世界にある とき

文字

が 入っ て き

少しずつ使 用が広 まっ てい く。 ヤ

ウェ 信 仰の 領 域におい て も用い られ 始

時と共に広が り

大き な役 割を果たす よ

に なっ てい く

これ まで

記 憶 され

朗 唱 され耳で聞か れる とい う音 声 的 言 葉ま れて い た もの が、

か れ

、読

まれ る文

を 用い て の

み に

つ代わっ てい く。

 

伝伝

承の 中の 特に大切な文

を書き記 し固定しよ

と し たのは

然だっ た

。直

、神

によっ て 委 託さ れ た言 葉と信じ ら れてい た

律法」

や、

司の

言者

の言

録され た。 知 恵の教 師の格 言が記さ れた

先 祖の さ ま ざ まの ヤ

ウェ 体 験の歴 史が記 録 され た。 祭 儀の祈 りや歌が記 録 さ れ た。 それ ら は伝 承さ れる と き さ らに

しい

体験

を通 して

さ れ

編 集し

され

より豊か な内容を もつ もの に さ れ た。 歴史 記述 や、 契 約 書や

紙や さま ざ まのリス ト類が

社 会 規 範や慣 習 が、

め ら れ た もの になっ てい っ た

口伝 伝 承 が 重ん じ ら れる社 会であ り続 ける イス ラエ ル の 中に、 こ

し て

々に

書 化さ れた

承が増 えて い っ た。 こ れ らの文 書は殆ど断片 的で

料 的なも の だっ た が

ま と まっ た形の もの も少しずつ 見ら れ る よ

に なっ てい く。 文 書は何れ も

かれ少 な か れ

威 を もつ 聖 なる言 葉 」と して 聖 所に寄 託 され た。

b

) イスラエ ル教の 「聖 なる書 」

 

α

こ の過 程の仕上げはイスラエ ル教で権 威を もっ た特 別の 「書 物 」の形 成であ る。 神に 由 来 す ると さ れる

聖 なる書

が 生まれ た。 これ は イス ラエ ル の

の 地パ レス チ ナの イス ラエ ル教におい てで

っ た。       「律 法 (ト

)」 と呼ば れ るモ

セ 五書が紀 元 前

400

年 頃ま で に は ヤ

ウィ ス ト、 エ ロ ヒ ス ト

申命 記

祭 司

資料

な どの諸

文書

成 として基 本 的には成 立し た と考 え られる。 世 界の創 造

者 ・

配者である ヤ

ウェ によっ て世 界の民の中か らイス ラエ ル の民が選び出さ れ る まで の 歴 史

この民にモ

Moses

に よっ て

仲介

さ れ た

律法

え られ るまで の歴 史

律 法の解 説 と

律法

に基づ

な どが詳し く語ら れ

はモ

セ の死で

わ る。 「

律法 (

は 以後も多 少の変 更や 追加は為さ れ る と はい え

の こと ば

とし て イス ラエ ル の民の宗教

生 活 の全て の領 域に おい て定 冠 詞 付 きの特 権 的 「聖な る書 」の絶 対 的な 地位を占め る こ と に な る。

  

 

イス ラエ ル の民における

聖 な る

書」

の形 成はこれ で

わっ たわ けで はない 。 以 後 も続 き

紀 元

3

に は 「

律法」

に近い 基 準の書 とし ての権 威 を備 えた 「預 言 者 (ネビ

)」 も大 体 出 来 上が る。 イス ラエ ル教の歴 史におい て預 言 者の言 葉は

神の こ と ば」と して重 ん じ ら れて きたの で預 言 者たち 自身 や その弟 子た ち に よっ て書 き記さ れたもの とい

え と共に

承 さ れ保 存さ れ てきた

片 的 資 料が年 月 をか けて整 理 され、 編 集 され独立 し た数 書と なっ た ものが こ こに入るこ とにな る。 これ に

えて

継 者 ア にか れ た パ レ ス チ ナ占 領や

土地 分 配、 士

たちの

指導、

サ ムエ ル と 王国 建 設、 サウ ル と ダビ デ

ソロ モ ン

南北 両王国

北 王国イス ラエ ル の滅亡、 南王国の滅亡、 バ ビロ ン

囚 までの民の歴 史 を記 し た

ヨ シュ ア記

士 師 記

サム エ ル記 上下

列 王 記 上下 も併せ てこ こに置 か れた ら しい 。 これ らが歴 史の書であ りな が ら

者」

とされ たのは 「歴 史は誰 もが 書 けるもの で は なく

霊 感に よ るもの

、 預 言

い たもの だ

と 考 えら れ たので

セの

律法

につ ぐ もの とし て

ま たそ の中に出て くる預 言 者との関わ り も あっ

(5)

純 心 人文 研 究 第

10

号 2004 て、

申命

記の 後に続 けら れ た」 らしい

とい

ω 。 何れ に せ よ

預 言 者 」に関 しては中に入 れ ら れ た文 書の正

な書

は分か ら ない が

世 紀 末のユ ダ ヤ教フ ァ リサ イ派 最

会 議で

決定

さ れ たユ ダ ヤ 教正典 目録か ら推 して恐 ら く大 体こ

であっ た と思 わ れる。

  

 

さ らに、 「聖 なる書

とし て 「

律法

」や

預 言 者 」に近い権 威を認め ら れて いた文 書群 も他に あっ た よ

で 、 こ の 第三の文 書 群は 「諸 書 (ケ トゥ ビ

ばれ た。 これ 以 上 はあまりはっ き りしない 。 内 容 的に不

安定

で どの 書がこ れに入 れ ら れるか につ い て も時 代や地 域に よっ て

い があ る とい

状 態が か なり長い間続い てい たよ うである。 キ リス ト教誕 生時にもま だこ の状 態だっ た。

 

こ う して

ま だ流 動 的であい い な 面 は

く残し な が ら も

、「

律 法 (ト

「預 言 者

ネ ビイ

・ 「

諸 書

ケ トゥ ビ

の 三部 構成の ヘ

書 」信 仰

の中で

別の

威を認め ら れ る とい う状 態 が 徐々に確 立し

イス ラエ ル教は 聖典 宗 教になっ た。 三部 構 成の 「聖 なる書

存在

元 前

132 年

頃 書か れ た

集 会の書

の 「

序文」

にも言 及さ れて い る (

Cf

1

1

 

β

ギ リ シャ語 訳

聖 なる書 」

 

エ ジプトの ア レ ク サ ン ドリ ア には 公称ヘ ブ ラ イ語

聖 な る書

の ギ リシ ャ語 訳、 い わ ゆ る 七十 人 訳 (

LXX

が あっ た。

332

にアレ ク サ ン ド リアが建 設さ れて以 来、 こ こにはコ イ ネ

ー ・

ギリシ ャ語 を用い

ギ リ シャ 人に

しい 市 民 権をもっ たユ ダヤ人たちが沢 山

んでい た 語を解さない 世

も 出てきた た め、

聖 な る書 」のギ リシャ語 訳 が 必 要とされ

これ が 生 まれ た、 と い

3 ・2

世 紀 頃

100

ほどか けて作 り出さ れ た と言わ れてい る。 先 ず

セ 五書 (「律 法 」

次い で 「預 言 者

が そ して 「諸 書 」、 と順 次に時 代を 下っ て訳 された ら しい 。 上 に挙 げた 通 り前

132 年

頃 書か れ た

シ ラ書

集 会の

」序文

に は、 ギ リ シャ語 訳のモ

セ 五書の他に 「預 言 者と そ の他の書

がある と さ れてい る。 訳 者たちの能 力や文 体はさ ま ざ まで

翻訳方 法 も

してい ない 。 厳 密な訳 もあれ ば自 由 な訳 もある 〔8)

 

イス ラエ ル 教 団の ヘ 語 「律 法

預 言 者

諸 書

聖 な る 書 」である こ と は知っ て い た が、 デ ィ ア スポ ラのユ ダ ヤ 人 たちに とっ ては、 こ の

LXX

は実生活上ヘ ブライ語 原 典 と全 く 「同 じ権 威

を もつ ものと して通 用してい た。 これ は表 向 きにはヘ ブライ語 「聖 な る書

の 翻訳と さ れてお り

事 実 実 体 的にはそ

なっ い た が、 後に見る ように、 内 容におい て はか な りの違い もあ

個性

的な もの であっ た。 公 的 イス ラエ ル教 団の立 場は

ヘ ブ ラ イ語 「

律法 (

ー)

j

・ 「

預 言 者

ネビイ

」 ・

「諸 書

ケ トゥ ビ

ム〉」が原 典であ り

これ が 公

の 「聖 な る書 」、 と は し な が らも、

LXX

がこれと完 全 合 致し てい ない ことは

認してい た ようである。

 

γ

「聖 な る

書」

目録の未 確 定 性

 

何れにせ よ キリス ト教 誕 生 頃の イス ラエ ル教は

応 「聖 な る書 」と さ れる もの をもつ

」宗

教で はあっ た が その

聖典 」の権 威は十 分で はなっ た。 範囲も明確で な く、 目録を構 成 する書 が何である か も

セ五書 」 を別と し て

、確定

的理

は な かっ た ようで ある。

で は こ れ らの 「聖 典

威は

め るもの の、 他 方で はその 目録

の書に も

しい 権 威を認め るなどの こ とも 特 別 違 和 感 を伴 わ ずに

われ てい た とい

のが教 団 内 部の事 情だっ た ようである。 「聖 な る

書」

のヘ ブライ語 原 典 と そのギ リシャ語 版の 間のかな りの違い などもその 許容 範 囲 内にある と見ら れ たの で

(6)

宮川俊行

聖書正典成 立史の諸 問 題 あろ

。 結 局、 教 会 誕生期のイス ラエ ル教は

聖 な る書 」と さ れ るものは

応 も て は た が

れは特 定 文 書 より成る限 定 的 な 「正 典 」とい う概 念か ら は程 遠い ものだっ た

とい うこ とで ある 〔9)。

律 法

預 言 者

諸 書 」を 「神か らの書 」と は し な が らも他に も 「

か らの

威 ある書

を認め る と い

こと であっ た。 こ の

傾向

に ア レク サ ン ド リ ア

イス ラエ ル教に おい て強 かっ たようである。

2  

キリス ト教 会 固 有の

聖な る書

の誕生 a

教 会

 

考 察の対 象は原 始 教 会である。 十二使 徒とパ ウロ が主の

遣に基づい て証 言

教活動

をし

会を設立 し指 導してい た

使 徒 期

the

 apostolic  

period)」

と、 そ れ に

く 「

準使徒期 (

the

 subapos

tolic

 period

す な わ ち使 徒の弟 子 た ちや孫 弟 子 た ち さ らにその弟 子たちや後 継 者たち が 中 心となっ て宣 教や教 会 形 成

指 導を行っ てい た時 期

の両 者が形 成 する 全期 間である。

使 徒

the

 apos

tolic

 age

と も

ば れ る (10 ) 。 こ の期 間は 「公 的

示 」の

間であ り

さ ら に

こ の

示が生み出 し た教 会の信 仰 生 活の営みの中で啓 示の理 解が深め ら れ 「信 仰の遺 産 」が形 成さ れてい っ た期 間で もある。 こ れ は中

と なる 「聖

」の

蓄内容の

程 度 具 体 性

性 を伴っ て現 れ

象化

した もので

伝承 (

the

 ecclesial 

tradition

〔11)

。 そ し てこれを 中 心に形 成され た

教 会 的伝 統

ecclesiastical  tradition

(12)の中か ら そ れ を母 体とする

約聖書正典

書が 生 み 出さ れてい っ た (13>期 間あ る 。

約聖書が 生 み 出 さ れた源 泉は 「教 会 的

伝統」

である。

信 仰 共 同 体に は使 徒たちが い ろい ろな 形で伝 えた キ リス トの言 葉や わ ざ が記 憶さ れ、 使 徒た ちの信 仰へ の

与が 歴

的具

的な状 況の諸 規

け なが ら続 け られ

より豊 かにされ

深 め られ

伝 え られ て きた 固有の信 仰生活があっ た。 使 徒の後 継 者と して共 同体の信 仰生活を指

する司 教を中心 とす る地 方 教 会であっ た。 そこに は、 「主の日」の祝

があり

祈祷

があ り

、讃

美 歌があ り

信 仰 告 白 文 が あ り

信 仰 道 徳があ り

典 礼があ り

神 学 思 想が あ り

カテ ケ ジスや

宣 教 活 動が あ り、 慈 善 活 動があっ た。 こ れの

個 性を も

記 者

を通して文

書化

さ れ固

定化

さ れ るこ と に なっ た。 将 来 新 約聖書 正

を形 成 すること になる であろ う すべ て の書 が

こ の 時 期に著 され た。 こ の期 間は特 殊 救 済 史の

中心的 期 間」であ る。

b )

原 始 教 会に おける

言 葉と

文字」

 

α

「言 葉の宗 教 」よりの出発

 

教 会は 出発 点におい ては 「

書の

とい う性 格 をはっ き り示 す もの で はな かっ た。 この本 性 は歴 史の中で徐々に姿 を現 して くるの で ある。

 

原 始 教 会は最 初 期に は

言 葉の

宗教」

だっ た イエ ス

自身

何 も

さなかっ た。 イエ ス は人々 に

接 語 りか け

行 動に よっ て働 きかけた。 ま た イエ ス は自分の重 要な教 えや

分の活 動の記 録を 書 き留め

後 世の た めに書 き残 すよう弟 子た ち に

じて もい ない 直 弟 子た ちもイエ ス か ら

けた 薫 陶や教 えや イエ ス の出

来事

とい

自分 た ちの特 別 な体 験 を 先 ず 書 き物に しよう など と は考 え なか っ た。 かれ らは

分たちの イエ ス の人 物と出

来事

体験

印象

や 思い 出を入々 に生 き生 き と口で伝 えたのである

重 視さ れ たの は 語 ら れ る言 葉 だっ た

事 実

初 期の キ リス ト教 徒たちは十 字 架 上で 刑 死を遂 げた が神が復 活さ せ た 主 イエ ス の人 格に熱 中し

終 末 論的待望の 中で緊 張し た 日々 を 送っ

(7)

純 心 人 文 研 究 第10号 2004 てい た。

末はすで に始 まっ てお り

イエ ス

キ リス ト の近い将

に おける再 臨を

望と緊 張の 中 に待 ち望ん でい る

日 だっ た。

 

β

イス ラエ ル教の 聖 典尊 重

 

し か し教 会が文 字に無 関 係だっ たわけではない 。 原

始教会

に は初め か ら 「聖典

的なものはあっ た。 そ れはイス ラエ ル教の 「聖 な る書 」だっ た。 イエ ス 自 身これ を重 視 してい た。 そこ には自分の

使命

の約 束と預 言がある と

えてい た

は この イス ラエ ル の 聖典が神の 導 きの 下に生 ま れ た ものであり

メシア の 到 来の約 束がそこ にあ り

イエ ス

キ リス トに おい て その約

現さ れた と考 えていた

その意 味で

イス ラエ ル

の この 「聖 な る書 」は ま さに教 会の構 成 要 素の

部 で

っ た。 c

信 仰 諸

の要 請

 

しか し徐々に 「文

であ る とい

教 会の本 質 的 特 質 (14)姿し て 。 新興 キ リス ト教 団は少 しずつ 固 有の信 仰 基

本文

書の 「内的

め る こ と に な る。 再 臨の切 迫 感が薄 れ てい っ たこととも関連して い る

 

原 始 教 会には先 ず

イエ ス

験 を 中 心 とする 「

教会的伝統 (

ecclesiastical  

tradition

形 成 始め る u5) 。 上述の ように使 徒たちの イエ ス

キ リス ト

験は初め は 口 で語ら れ た。 イエ ス

キリ ス ト につ い て の

説教

が中心 だっ た。 それ は 口伝の形で伝え ら れ た。 イエ ス 体 験の 情 報 は先

で 広めら れてい っ たの で あ る。 しか し口伝 承はその ま ま引 き継が れてい っ た わけで は なかっ た。 そ こ に は書 き止め ら れ た ものなども 出て来 始め る。 すで に当

の 社

で は

の役 割も か な り大き く な りつ つ あ り

必 要 じ て

書 も利用 さ れい た。 書 簡も書か れ た。 エ ルサレ ム における使 徒 会 議の

決定事

項は書 面で

えら れてい る (使 徒

15 ・28)

。 イエ ス と

子た ちの 言 語は ア ラマ イ語だっ た か ら最 初の こ ろ の 口

承 は全て ア ラマ イ語だっ た が、 宣 教 活 動が当 時のヘ レニ ズム世 界に広 がっ てい につ れ、 ギ リ シャ 語へ の翻 訳が必 要と なっ た。 ギ リシ ャ語の 文 化 圏で は 口頭 に よ る

達よ り もむ しろ

を重ん

る傾

があっ た (16 ) の であ り その影 響 も受 ける こと にな

 

イエ ス の言 葉やその出 来 事の記 憶 を文 字 を 用い て 不

化 し

、 自

分た ちの許に常に

め置き たい

とい

信 仰 共同

の願い は

ずと 生 ま れ る。 こ うして 口頭で伝え ら れ

記 憶され

口頭で 反 復さ れ てい くだけで な く

言 葉 を小 さ な書 き物に文 字で

め た ものが必 然 的に要 請さ れ、 あ ちこ ちで出 現 し

め る。

は 正確な記 憶を保 証し

ま た内 容の伝 達 が 時 空の制 約 を越 えて広 げら れ てい くこ と を可 能にする。

 

文 書 化や保 存の 要 請は伝 承に依 存 しつ つ 営 まれる信 仰 共 同体の諸 活 動か らも生 まれ た。 典

に お い て用い る定 式 文や朗 唱のた め には文 書は便 利 だっ た 宣教 活動た め

ま たユ ダ ヤ人たちとの論

の た め、 あるい は信 者た ちの信 仰 教 育のた めにも文 書は役 立っ た。

 

書 き物の 必

本格

感さ れ るよ

になっ たの には イエ ス の出 来 事の撃 証 人である

使徒

たちが殉 教に よっ て次々 に世 を 去っ てい くこと にも原 因があっ た

仰 共 同体の基 礎 的 記 憶が徐々 に曖 昧になっ てしま

こ とへ

が 生 ま れ

機 感 の で

頼 され

るか れ らの 証 言 や説 教 を文 書 化 して保 存 し よう とする積 極 的

努力

地の信 仰 共 同 体で見ら れ る ようになる。

(8)

宮 川俊行

聖書正典 成立史の諸 問題

d

) 新 約 聖 書 諸 文 書の形 成

 

α

イエ ス につ い ての

々の 口

継続

さ れ てい く傍ら

分離

合 併

拡 張

整 序

整 形

編 集 な どの変 化を蒙 りな が ら

徐々 に

大 小の ま と ま りを もっ た多 種 多 様の様 式における イエ ス伝 承 (17) を 生 み出してい っ た 。 現 代 聖 書 批 評 学に よ れ ば大ま かにイエ ス の言 葉

承、 アポフ テグマ

物 語に

枠付

け ら れ たイエ ス の言 葉

)、

物 語

承の三群に分 け ら れるとい う (18)。 これ らの中の

部 か ら

まっ た

書 化は時の

過と共に徐々 に広が っ てい く。 諸 信 仰 共 同 体 間の交 流は相互の伝 承の利 用 を も伴っ た。

難 物 語 伝 承な ど はあち こ ちの共 同 体で典 礼で の使 用のた めの文 書 化が早くか ら進ん でい た の で はない か と思 われ る

Q

資 料の起 源が どこまで遡 れるか は と もか く

これ とは 繋 が りの ない イエ ス の言 葉 伝 承も

かっ た、 少な くと も イエ ス の言 葉の収 集と文 書 化の始ま りは使 徒た ちの 証 言 活 動の開 始と時 間 的に は大 きな隔たりは な かっ た かもし れ ない (19 )。  口伝 承 を重 視 する

般 的傾 向 も依 然 残 り続 ける中で

これ らの文 書 諸 伝 承は成 長の段 階

段 階に あっ てそ れ ぞ れの帰 属 信 仰 共 同体の信 仰 生 活

活 動におい て

定の役 割を果た してい く。 こ れ ら諸 伝 承の最 大の働き は そ れ ら が福 音 書 形 成の直 接 的

資料

と して用い ら れ たこ とであ ろ

分の属し てい る

信仰

共 同

に口

や文 書で

え られ 所 有 されてい る諸 伝 承 を資 料として用い

自分置 か れ てい た文 化 的社 会 的 諸 条 件に規 定 され な が ら も 自己の独 自の神 学 的 視 点か らこれ らを統 合 整 理 編 集 し て 「イエ ス

伝」

を もの しよ うとする者によ る正 典 的 「福 音 書 文 学 」 作 品   が 四 か れ たの で ある。 成立 は

マ ル コ に よる

音 書 」が

60年

代の末か ら

70年

代の初

(21)

、「

書」

80

90

代 〔22)

カ に よ る福 音 書

80

90

年 代 (23>

に よ る福 音 書

90

年 代 (24)

と言わ れてい る。

 

β

教 団に

れ そ れ ぞ れ役

を果 たした 別の ジャ ンル の諸 文 書 も あっ た。  ペ ロ とパ ロ の活 動 を 中心に初 代 教 会の歴 史 を物 語る歴 史 書 「使 徒 言 行 録 」 がル カ によっ て

90

年代に書か れ た 〔25 > 。

 

自身

や その 思想の

後継者

たちや

著者

たちによ る

書簡文学

品 も

数多

く書か れ た。 パ ウロ による

テサ ロニ ケの信 徒へ 手 紙

1

、 お よ び

2

」は新 約聖書 文 書 群の中で最も早 く、 紀 元

50

51

年に書か れ た

  黙 示 書 も

つ 書か れ た。

  新約

聖書の 中で最 後に書か れ た の は 「ペ 手 紙

2

遅 く と も二世 紀の半 ば以 前に成 立し てい る。

 

γ

原 始 教 会 すな わ ち使 徒 的 教

はこれ をもっ て

わ っ た 。 この 二 世

紀半

ば までが

示の

間で あり 「原

教 会

時代である。

 

こ の期 間にすべ て の新 約聖書 文 書は形 成さ れ た が、 これ らの何れ も

多種多様

の 口

伝承

文書化

さ れた伝 承を素 材 として 用い て い る こ とに注 意し て お きたい 。 例え ばパ ウロ に おい て信 仰 告 白

承 (キ リス ト伝 承 )や典 礼 伝 承、 勧 告 伝 承

Paranetisches

 

Traditionsgut

な どの担っ てい る役

は大 きい

  な お

口伝 承や文 書 化 し た伝 承 と して この時 期に集 積さ れ た膨 大な イエ ス 伝 承のすべ てが新 約聖 書 全巻に 細大 漏ら さず 収 録さ れ た り

反映し た りし てい るわけ で は ない こ とは特に留 意に値 する。

(9)

純 心人 文研 究 第

10

2004

伝統

」を母 体として新 約 聖 書 全

成さ れ た が

そこに

体化

さ れ たのは 「

教会的伝統」

部であっ たの である 。

 

δ

)結

局、

約聖書

書の成立年 代は大 体 次のよう な もの であっ た と考 え られる ( 26) 。

   

「テ サロ ニ 信 徒へ の

1

2

」 (

50

51

年 )

  

  「コ ン トの信 徒へ の手 紙

1

」 (

54

年)

   

「コ リン トの

信徒

2

、「

ラ テ ア の信 徒 手 紙 」

55

56

年 )

   

「ロ

マ の信

へ の

手紙」 (

56

年〉

  

 

フ ィ リピの信 徒へ 手 紙 」

レ モ ン手 紙 」

「コ ロサ イの信 徒へ 手 紙

」 (

58

60

    年)

   

「マ ル コ に よ る

書」 (

60

代 末

70

代 初

  

 

マ タイによる福 音 書 」

「ル カ による福 音 書

」 (

70

90

年)

  

 

「ヨ ハ による

音 書 」、

使 徒 言 行 録 」

、「

ヤ コ ブ の手 紙

、「

ヨハ ネの

手紙1」、

「ヨハ ネの

手紙

   

2

「ヨハ

3

」 (

90

100

年)

   

エ フ ェ ソ の信 徒へ の 手 紙 」

ブ ライ人へ の 手 紙 」 (

80−

100 年 )

   

「ヨハ ネの 黙 示 録 」

ペ トロの手 紙

1

90 − 95

年 )

  

 

テモ テへ 手 紙

1

手 紙

2

」、

テ トへ の

手紙」、

「ユ ダの

手紙」

ペ トロの

    紙

2

」 (

100

150

年)

  「旧約 聖書」

典 形成 過程

1

  イス ラエル教の遺 産

 

旧 約聖書は教 会が その発生 母体であ る イス ラエ ル教か ら引き継い だ もの である。 キ リス ト教は初 め か ら

己を イス ラエ ル教の遺 産の正 当 な継 承 者と考 えてい た。 イス ラエ ル の民 を受 け取 り手とす る

の 歴

は今か ら は教 会を

け取 り手 と して継 続 して い であろう。 初 期のキ リス ト教に とっ て

神の こと ば (ロ

3 ・2>

」の書とはイス ラエ ル教の 「聖 な る書

1

コ リン ト

15

3

4

な わ ち

律法 (

) ・

預 言 者 (ネビ イ

諸 書

ケ トゥ ビ

の こ と だっ た。

に なると徐々 に キ リス ト教 固

の 「

か らの書

と して現

のい わ ゆ る

新 約 聖 書 」が 生 ま れるが

こ れ に合わ せ教 会は初め から イス ラエ ル教の 「聖 なる書 」 を も 自分 た ちの 「聖書

えて

わな かっ た。 教 会は自分たちの イエ ス

キ リス ト

仰 を基 礎 付 ける た めに も

ま た当 時の他のユ ダヤ人 たちにキ リス トの救い の 出来 事の画 期 的 意 義 を理解させ

か れ らの

的応

を引 き起こた め に も

イスラエ ル教の 「聖 な る

書」

に全面 的 に

依存

し たの である。 イス ラエ ル教の

聖な る書 」と は キリ ス ト教に とっ ては所 詮イエ ス

キリス トにおい て

頂点

達す

の 「

民 」へ の 啓 示と そ れ に反 応 する 「

の民

の こ れ まで の歴史の 中で の信 仰生活の記 録に他な らなかっ た。 イス ラエ ル教 の信 仰とその聖 典

律 法 (ト

預 言 者

ネビイ

書 (

ケ トゥビ

は イエ ス

キ リス ト に おい て

が遂 行 する であろ

人 類の救い の わ ざ を 「待 望し

「予告し

厂準備する

もの であっ た (ルカ

24

27

44

照。 他に ヨハ ネ

5

39

46

をも見よ

。 初 期キ リス ト教 会 内 部に発生 し

(10)

宮 川 俊 行

聖 書 正 典 成 立 史の諸 問 題 たマ ルキオン (

Markion

85

90−160)

とその

キ リ ト教 か らイエ ル教 聖 典を排 除 する」大 運 動に対 し、教 会は直 ちに挙 げて決 然た る排 撃 態 度で望み、 これ を異 端と して退 けたの であっ た   。

2 

七 十 人訳 ギリ シャ語聖

書 (LXX

a

だ が

当時

イス ラエ 典 」

複 雑 。   イスラエ ル教の公 式 理 解で は 「神 か らの聖 なる書 」 と はヘ ブイ語 「律 法 (ト

預 言 者

ネビイ

) ・

諸 書

ケ トゥ ビ

とい ことになっ て い た。 こ のヘ ブライ語の聖典は イエ ス と弟 子た ち に とっ て も

聖 な る書 」だっ た (28)。 但 し、 上 に触れ た よ

に初 代 教 会が成立 し た こ ろ は

まだ そこに含 まれ る文 書に 関 しては 「律 法

を別 とすればそ れ ほ ど明

で はな かっ た

イス ラ エ ル教に は厳 密 な 意 味で の正 典はなかった。

 

ところ で

当時

ユ ダ ヤ 人 た ち はパ レス チ ナで生活 する

と、 異 教世界でのデ ィ アス ポラ状況下 に信 仰生活を送る者に大 別で き た。 特にエ ジ プ トの ア レ クサ ン ド リア に はユ ダ ヤ人が多かっ た。  公的に はパ レス チ ナの イス ラエ ル こそ が イス ラエ ル で ある が、 歴史や環 境な ど文 化の違い が あ り

イス ラエ ル教の在 り方は

パ レ ス チ ナ と アレク サ ン ド リ アで同 じ と は言 えな かっ た。 そ れを 特 徴 的に現し てい る のが

聖なる書

」事

情である。 ヘ ブ ライ語

律 法

・ 「

預 言 者

ネ ビ イ

」 ・

「諸 書

ケ トゥ ビ

と公

これのギ リ シャ語 訳 とさ れ る

LXX

の違い であ る。 「律 法 」の権滅が絶 対 的で他の書 もこれ との 関連で 「権 威 」を認め ら れ る とい うことなど実 体

には同

と言 える が

細 部 だけ で なく

、収

録さ れてい る文 書や

、各

書の順

序、

成な ど に お い て両 者の相 違は かな り大 きい し デス ポ ラのイス ラル人たちに とっ て

LXX

は実 生 活 上 ヘ ブ ラ イ

と全 く 「同 じ

を も と し て 通 用 しい た

か れ ら はこれ が翻 訳に 過ぎ

ず、

真に

神の こと ば」と言 える の はヘ ブ ライ語 原 典だけであると観 念上は理 解し てい たが

、事

実上 こ の ギ リ シャ

は 「

の ことば 」と

け止 め ら れてい た。 「聖 な る書 」と はこれ だった。

 

パ レ スチナ に比べ の上で遥 かに

かっ たのがデアス ポ ラのイス ラエ ル教 徒だっ たが

同 じ イ ス ラエ ル教と はい え、

聖 なる書 」

情はこ の よ

にパ レ スチ ナ と は違っ てい たの である。

b )

誕生し たばか りの教 会が成 長 し てい っ た文 化 環 境はこち らの方 だっ た。

くの イス ラエ ル教 徒 たちに とっ て

LXX

が イス ラエ ル教の信 仰と 生活の規 範と な る権 威 ある 「神か らの書 」だっ た

と い

う事

初 期 教 会に おい て 「聖 な る書 」と は 心的には七 十 人訳ギ リシ ャ聖書

LXX

である とい う事 情を 生 んだ。 誕生期キ リス ト教はア レ クサ ン ド リア

イス ラエ ル教の 「聖 なる書 」 目録 を取 りあ えず大体その ま ま

け 入 れ

LXX

か ら決 定 的 な 影 響 を受 けること になっ た

 

誕 生期の キ リ ス ト教に とっ て、 イエ ス

キ リ ス ト以前の段 階の

神の民 」イス ラエ ル に神か ら与 えら れ た権

ある

聖 な る書 」と は中心的に は

LXX

すとい

こと に なっ た。 初 代 教 会は

を 権 威 を もっ た 「神か らの書 」と受 け 止め

自分たちの イエ ス

ス ト信 仰 をこ を基に 理 解 し基 礎 付 けようと し た し

ユ ダ ヤ人たちへ 宣 教 活 動こ の

聖な る書 」の権 威に訴え な が ら行 われたの である。 勿 論

使 徒 的教 会は

LXX

が翻 訳であること を知っ てい たので 「究 極 的には」 規 制 する もの と して のヘ

聖 な る書 」

律 法

ー) ・

預 言 者

) ・

諸 書

ケ トゥ ビ

が 「

か らの

として

け 入 れ ら れて はい たが、 「

直接

的には

「聖 な

(11)

純 心 人文 研 究  第10号  2004 る書

と は

りあ え

LXX

だっ た わけである。

 

イス ラエ ル教

自体

の正典 概

が ま だ明確でな く、 ヘ ブライ語 原 典も

LXX

聖な る書 」 と して も文 書は完 全 に確 定 してお らず

従っ てア レ クサ ン ド リア

イス ラエ ル

LXX

にも

権威

あ る

神か らの書 」 を若 干 認 め た りし てい

う 「

典」

い な

事情

キ リス ト 教 にも反映せ ざる をえな かっ た。 新 約聖書には 「エ ノ ク書 」

「ソロ モ ン の詩 編 」

「モ

セ の昇 天 」

マ カバ イ記

3

」 など旧約 聖 書 外 典 書の 影 響 も見られ る

3

 ユ ダ ヤ 教のヘ ブ ラ イ語 正 典 a

キ リス ト教の発生 と共にイスラエ ル教の使

は終わ り消 滅 するが

イス ラエ ル

教内部

にこれを 認め ない

は 圧倒 的に

かっ た。 イス ラエ ル教の遺 産を引 き継こうとするユ ダ ヤ 教 団 が 生 ま れた。 か れ らはユ ダヤ教の歴

な く と も

蓄的 に イス ラエ ルの歴史の全過 程を 包 む もの と見 做し た。 キ リス ト教は当 時のユ ダ ヤ

の異

端的

であるナ ザ レ

と して片

けら れ た。

 新

生のユ ダ ヤ教 団は先 ず、 聖 典 問 題を解 決せねばな らなか っ た。 エ ルサレ ム を 失っ たユ ダ ヤ教団 は不 動の 権 威

によっ て自己 同

性 を

保持

せ ねばな ら な かっ た。

末 的政治 的メ シ ア待 望を 語る黙 示 文 書がユ ダヤ教 内部に溢 れてお り

真の 「神か らの書

をこれ ら か ら区別せねばな ら な か っ た。 新興 キ リス ト教 運

に よ る

乱か ら

分た ちの

産 を守ら なけれ ば な ら な か っ た   。 自分 た ちこそ伝 統 的な

神の民 」の本 体を継 承 する もの と自負 して い たかれらは

イス ラエ ル教で 「聖 な る書

」扱

い さ れて き た

LXX

を キリス ト教が自分たちの 「聖 なる書 」と して用い 始め たのに対 抗 し

これ まで の

LXX

尊 重の態 度 を放 棄し てヘ ブ ラ イ 語 原典 主 義 を 強 く打 ち 出 す

に な る 。 

LX

X

は誤 訳や不正確 訳な どの欠 点に満ち

収 録 さ れて い る文 書に も

近 年ギ リシャで書か れ た もの な ど 「聖 な る

書」

と し て相 応し く ない よ

な もの さえ 見ら れ る、 その結 果イス ラエ ル の民が受 けて きた神の啓 示を誤 解さ せ キリス ト教の ような もの を 生み 出 して しまっ た

と非 難 を始めた。

 

紀 元

90− 100

年 頃の ヤムニ

Jamnia

で の フ ァ リ サ イ

たちの主

するユ ダ ヤ教 最

高会議

サ ンヘ ド リ

で これ らの問 題の解 決を図ろ うとした。 そこ で

何 をユ ダヤ教 団の 「正 典 」 す な わ ち 「信 仰や生 活や

え方の絶 対 的 基

威 的書

とする かの公

の立場が

決定

さ れ た。 これ ま で イス ラエ ル教

ユ ダ ヤ教の世 界で

権 威 ある 「聖 なる書 」と見 倣 され て きた もの を洗い

して

、真

の 「

的 起 源の聖 な る

書」

確定

し よ

と し た。 ユ ダ ヤ教正典 書の条 件は次の もの だっ た。

i

) 聖 な る言 葉ヘ ブ ライ 語 (また は ア ラ

で 書 か れ た もの であること

ii

エ ズ ラ がユ ダ ヤ 人

囚の 地バ ビロ ンか らエ ルサ レム に帰還 し た

年 (

397)

まで に書か れ た もの である こと。 モ

セ から第二 の モ

セ と言 われ るエ ズ ラ迄

済史

り霊

あ り聖 な る書 」も あ り うの で 。 フ ァ リ サ イ派に よ れば、 霊感はモ

セ か ら ル シ ア ル ク セ ル ク セ ス 時代 ま に限る とい う。

 

こうし て以後 書か れ た書や

パ レス チ ナ以

か れた もの や ギ リシャ語で書か れ た文 書はこ れ までイス ラエ ル

ユ ダ ヤ教の伝 統で

聖 な る書 」 扱い を受 けてい た として も

今 後はユ で は 聖 典と見 倣 さ ない とい うこ と になっ た

結 局

正典リス ト に残さ れ たの は

39

文 書で

これ が 公

ユ ダ ヤ教 団 すな わ ちパ レ スチ ナ

ユ ダ ヤ教の正典とされる こ とになっ た。

伝統

い 「

律法 (

」、

預 言 者

ビ イ

」、

書 (

ケ ト

分 けら れ 、 こ の順 序は権 威

(12)

宮 川 俊 行

聖書正典 成立史の諸 問題 の順 序であ り

、「

聖 な る書 」と して成立 し た順 序で もある

と さ れ た。 これ がユ ダヤ教の公 式

聖な る書の総

体」

で あ る。 イス ラエ ル教の中で最も早 くか ら

律 法 」が確 定し、 その後さ らに

預 言 書 」 も権 威 ある 「神か らの諸 文 書 」と して内 容 も大 体は確 定してい た。 「諸 書 」 部 分は まだ形 成 途 上で ど の が入れ ら れ る か は長い 間確 定さ れない ま来てい た が、 これ もこ こ で確 定 され た。  こ うしてユ ダヤ教は キ リス ト教に刺 激さ れて 「正典 」 概 念 を 明確に し た。 厳 密には

この とき初 め て イス ラエ ル教

ユ ダ ヤ教の

正典 」が 生 ま れ た。 先に

わ れ わ れ はパ レ スチナ

イス ラエ ル教 の ヘ ブ ラ イ語 「聖 な る

ア レク サン ド リア

イス ラエ ル

聖 な る書 」

LXX

につ い て見た が

これ ら は た しかに 「神 か らの書

とし て

威 を認め られ てい る諸

書の

集積

で はあっ たが

そ の範 囲は ま だ明確で は な かっ た。 原 典が神の霊の働 きを受 けて生 まれた 「聖なる書

である とは し てい た が、 文 書の確 定も十 分で なく、 排 他 性 も明確で な かっ た。

LXX

とヘ ブライ語 原 典の間の 違 い に教団 と して対 応 を取るなどの こともな かっ た

今回

初め てユ ダ ヤ教 団は 「

全に閉じ ら れ た 正典

a 

definitively

 closed  canon

」を意 識 的に形 成 し ようとしたの である。 こ れ は基 本 的に は大 体

すで にパ レス チ ナ

イス ラエ ルでヘ ブ ラ イ語 「聖 な る

書」

律法 (

) ・

預 言 者

ビイ

) ・

諸 書

ケ トゥ ビ

」と して輪 郭 的に固 ま りつ つ っ たもの の 確 定 化 的 意 味 を もっ てい た。 これ らの文 書は形 相 的に はこの とき初めてユ ダ ヤ教

正典 」 と なっ たの で ある。 目録の内 容は次の 通 りである。

  「

     

創 世 記

出エ ジ プ ト

レビ記

民 数 記

、申命

記。

  「

預 言 者

ネビ イ

ム)」       前 預 言 者          ヨ シ ュ ア記 士師 記 サム エ ル 記上 サム エ ル記 列 王 記上 列 王 記       後 預 言 者

     

イザヤ

、 エ レ ミア書、 エ ゼキエ ル書、

     

ホセア書

ヨエ ル

書、

アモ ス

書、

オバ デ ア

、 ヨ ナ

、 ミ カ書、 ナ ホム書、 バ バク ク書、          ゼパ ニ ア書、 ハ ガ イ書

ゼカ リア書

マ ラキ書。

  「

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伝 道の書

エ ステル記

ダニ エ ル書

エ ズ

     

ラ記、 ネヘ ミ ヤ記、 歴代 誌上、 歴代 誌 下  だ が

折 角の こ の決 定も教 団 内 部には さ ほ ど浸 透は し な かっ た ようで

その後 もし ば ら く不安 定 な状 態が続 く。

、 教 団として

排 他 的 固 定 的 」に正典 諸 文 書が

確 定し」、 ユ ダヤ教 聖 書正典 目 録が真に成 立 する の は二 世 紀 末と言わ れてい る 〔3  。

b )

こ れ はユ ダ ヤ教の最

聖典

な わ ち

聖 なる書 」の 目録 形

の問 題で あるか ら

あ くまでユ ダ ヤ教 団 内部の

柄であり キ リス ト教に

直接

関 係は ない キ リス ト教の正典目録は キ リス ト教 信 仰に 固 有の価 値 基 準に よっ て教 会が 自律 的に決 定 する の である。

 

し か し キ リス ト教

仰 を基礎 付け る

威と して全面依

してい る イス ラエ ル

伝統

的 な

威の書の問 題である。 さ らに

教 会はユ ダ ヤ 教との論 争におい て はユ ダ ヤ 教 徒 た ち も権 威 を認 めて

参照

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