第
2
章 諸外国の防衛政策など 合衆国法典第 50 篇第 404a 条により、大統領は国家安全保障戦略を毎年議会に提出することが義務づけられているが、実際には必ずしもそのとおり 提出されているわけではなく、例えばブッシュ政権(当時)では、02(平成 14)年 9月および06(同 18)年 3月の2 度公表されている。オバマ政権下 での同戦略の公表はこれが初めてである。国家防衛戦略( NDS:National Defense Strategy)は、国家安全保障戦略を実施していく上での指針であるとともに、NMSを始めとする国防省の 戦略文書などの枠組を示すものであり、05(同 17)年 3月および08(同 20)年 7月に公表された。08(同 20)年のNDSは、米国の国益は、米国 および同盟国を攻撃あるいは威圧から守り、紛争を抑制し経済成長を促すために国際安全保障を促進し、 国際公共財( グローバル・コモンズ:Global Commons)とそれを通じた世界市場および資源へのアクセスを確保することにあるとした。また、これらを追求するために、外交や経済的手段などとともに、 軍事能力を発展させ、必要に応じてそれを行使してきたとしている。なお、ゲイツ国防長官(当時)は、08(同 20)年の国家防衛戦略の前文において、「米 国は間もなく新たな大統領を迎えるが、米国が直面する複雑な脅威は残存する。本戦略は来るべき将来における青写真となるべきものである。」としてい る。 QDRは、国防長官が合衆国法典第 10 篇第 118 条に基づき4 年ごとに議会へ提出することが義務づけられている文書で、今後 20 年の安全保障環境 を見据えた上で、国防戦略、戦力構成、戦略近代化計画、国防インフラ、予算計画などに関する方針を明らかにするものである。10(同 22)年 2月 に国防省は議会へ報告した。同年 2月のQDRは、08(同 20)年のNDSを踏まえたものになっている。 NPRは、今後 5 〜 10 年間の米国の核態勢の包括的な見直しを実施し、議会への報告が義務づけられているもので、これまで94(同 6)年および02(同 14)年に発出されており、今回が3 回目となる。 NMSは、統合参謀本部議長が合衆国法典第 10 篇第 153 条に基づき米軍のとるべき軍事戦略の指針的事項を示した文書で、偶数年に議会へ提出 することが義務づけられているが、実際には必ずしもそのとおり提出されているわけではない。今回のNMSは、NSSとQDRを踏まえた上で、①暴力的 過激主義への対抗、②攻撃の抑止と打破、③国際的・地域的な安全保障の強化、④将来の戦力の構築、が国家軍事目標であるとしている。 1
諸外国の防衛政策など
第
2
章
09(平成21)年1月に発足したオバマ政権は、10(同 22)年に入り、2月に「 4年ごとの国防計画の見直し」 ( QQuadrennial Defense ReviewDR)を、4月に「 核態勢の見直し」Nuclear Posture Review( NPR)を、5月 に「 国家安全保障戦略」( N
National Security StrategySS)を公表し、オバマ政権の 安全保障政策と国防政策を明らかにした。11(同23)年 2月には、NSS及びQDRを踏まえた「 国家軍事戦略」 ( N
National Military StrategyMS)を公表した 1。 NSSは、米国が追求する国益は、1)米国、米国民、同 盟国およびパートナー国の安全、2)力強く、革新的で、 成長する米国経済による繁栄、3)米国内と世界中におけ る普遍的な価値観の尊重、4)平和、安全、機会を促進す る国際秩序の4つであるとしている。その上で、これら
1
安全保障政策・国防政策
米国
第
1
節
の国益を実現するためには、軍事力、外交、開発支援と いった米国の国力の全ての要素の活用と統合が必要であ るとするとともに、同盟国や国際機関などと協調して取 り組んでいく必要性を強調している。 QDRは、国防省の役割は米国と同盟国を守り、米国 の国益を増進するために軍事力を維持、使用することで あるとしている。その上で、米国と同盟国は必要な場合 は武力を行使する意思と能力を示してきたとし、適切な 場合には米軍が単独で行動する能力も保持するとしてい る。また、米国は最も強力な主体であり続けるが、平和 と安定を維持するためには主要な同盟国及びパートナー 国との一層の協力が必要であるとしている。第
2
章 諸外国の防衛政策など ゲイツ国防長官(当時)は11(平成 23)年 5月の記者会見で、オバマ大統領の指示を受けての国防の包括的見直しは、NSS、NDS、NMS、「統 合参謀本部議長のリスク評価」、QDRによって導かれるものであり、まず戦略的な選択肢を特定した後でそれに伴う国防省予算の変更について検討を 行う、と述べた。 世界最大の人口大国である中国と世界最大の民主主義国であるインドの台頭は国際システムを再形成し続けるであろう、としている。その上で、中国の 台頭はアジア太平洋地域及び世界レベルの戦略環境を変化させる最も重要な側面の一つであり、米国は、力強く、繁栄し、成功した中国がより大きな 世界的役割を担うことを歓迎するとしている。 2 3 オバマ大統領は11(同23)年4月の演説で、米国政府 の財政状況が深刻化する中で、安全保障分野においても 歳出を見直すのみならず、変化する世界における米国の 任務、能力、役割について抜本的な見直しを実施すると 表明した2。 QDRは、イラクとアフガニスタンにおいて米国が現 在戦っている戦争、中国やインドなどの新興国の台頭3、 非国家主体の影響力の増大、大量破壊兵器の拡散、海、 空、宇宙、サイバー空間といった国 Global Commons際公共財(グローバ ル・コモンズ)に対する侵害などにより、安全保障環境 が複雑で不確実なものになっているとしている。また、 紛争に多様な主体が各種手段を用いて参加することで、 紛争が複合的な性格を有するハイブリッドなものとなっ てきているとしている。さらに、脆弱な国家は過激主義 や急進主義の温床となるおそれがあり、紛争を引き起こ す要因となるとしている。 米国はQDRにおいて、このような安全保障環境にお ける戦略的優先事項として次の4項目をあげ、その間で リスクと資源のバランスをとる必要があるとしている。 1) 現在の戦争における勝利(Prevail):アフガニスタ ン及びパキスタン国境地域におけるアルカイダとタリ バンとの戦いに勝利することが最大の優先事項であ る。 2) 紛争の予防(Prevent)と抑止:米国を直接的な攻 撃から防衛し、潜在的な敵対者を抑止し、地域の安定 を強化するとともに、国際公共財へのアクセスを保証 する。そのため、パートナー国の能力構築や米国自身 の所要の態勢整備に努め、また、核兵器のない世界が 実現されるまでは、米国及び同盟国の利益に適合した1
安全保障環境認識
2
国防戦略
安全かつ効果的な核兵器を最低限のレベルで維持し、 米国及び同盟国などへの攻撃を抑止する。 3) 敵の打破及び多岐にわたる緊急事態での成功に向 けた備え(Prepare):抑止に失敗し敵対者が米国の国 益を脅かす場合、多岐にわたる事態に対応すべく備え る必要がある。 4) 全志願兵制度の維持(Preserve)・強化:現在戦っ ている戦争に勝利するとともに将来に備えるために は、全志願兵制度を長期にわたって維持する必要があ る。 QDRは、4つの戦略的優先事項を実施するためには、 次の6つの任務領域で戦力を強化する必要があるとして いる。 1) 米国の防衛及び国内における非軍事部門の支援:米 国本土への攻撃に際しての所要の態勢や、国内の政府 関係機関との協力関係を強化する必要がある。このた め、不測事態対処部隊の再編・整備、陸、海、空、宇 宙、サイバー空間における警戒能力の強化などに取り 組む必要があるとしている。 2) 反乱鎮圧作戦、安定化作戦、対テロ作戦での成功: 米国が現在戦っている戦争に勝利するために必要な諸 能力を強化する。このため、回転翼機の増加、情報・ 監視・偵察(ISR)用の有人・無人飛行システムの強 化、特殊部隊の主要装備の増強などを行うとしている。 3) パートナー国の治安能力の構築:平和で安定した国 際秩序を保つためには、パートナー国における治安部 隊の能力構築を支援することが重要である。このため には、語学能力の向上、地域及び文化に関する知識の 深化などが必要であるとしている。 4) アクセス拒否環境下における攻撃の抑止・打破:多 岐にわたる洗練された武器などを有する国家が、米軍3
能力強化の重点分野
第
2
章 諸外国の防衛政策など 部隊の展開を阻害するアクセス拒否能力を行使する可 能性がある4。米軍はこのような環境下でも米国と同 盟国を守ることができるような能力を保有する必要が ある。このため、長距離攻撃能力の向上や強靭な前方 展開態勢の構築に取り組む必要があるとしている5。 5) 大量破壊兵器の拡散阻止・対抗:大量破壊兵器の除 去にあたる常設の統合任務部隊司令部を創設するとし ている。また、核物質の分析・識別能力を強化するほ か、核兵器がテロリストの手に渡ることを阻止するた め、全ての核関連物質の防護を万全とするとしている。 6) サイバー空間における効果的な作戦:サイバー空間 において国防省が行う活動について包括的なアプロー チを発展させることで、情報セキュリティが国防省の 優先事項の一つとして重視されるような環境を構築す る。また、サイバー空間の専門家を育成するとともに、 新設するサイバーコマンドに国防省のサイバー活動の 司令機能を集中させるとしている。 冷戦終結以降、2つの大規模な地域紛争を戦い、勝利 するという考え方をもとに米軍の戦力が構成されてきた が、QDRは、現在の安全保障環境はこの考え方が採用 された頃よりも複雑になっており、米軍は多様な事態に 対処しなくてはならないため、この考え方のみで米軍の 戦力構成を決定することはもはや適切ではないとしてい る。QDRは、米軍の戦力構成は前述の4つの戦略的優 先事項及び6つの任務領域から導かれるものであり、そ の上で、米軍は2つの国家による攻撃に対処する能力は4
戦力構成
保持しつつも、多岐にわたる作戦を実施する能力を保有 しなくてはならないとしている6。そのために、米軍は戦 力バランスの修正(rebalance)を行う必要があるとし ている。 QDRは、世界的に展開する米軍の態勢を決めるにあ たっては、地域の政治情勢や安全保障環境を踏まえた協 調的なアプローチが必要だとしている。その上で、将来 の米軍の態勢を決める際には、1)前方配置やローテー ション展開される米軍部隊は引き続き有効であり必要で あること、2)国外における恒久的プレゼンスの必要性と 緊急事態などに対応する柔軟な能力の必要性の間のバラ ンスをとること、3)進行中の作戦支援のために戦場にア クセスすることの必要性と輸送ルートが分断されてしま うリスクの間のバランスをとること、4)米国の防衛態勢 が安定化効果を生み出し、受入れ国に歓迎される必要が あること、5)米国の防衛態勢は、継続的に戦略環境の変 化に適応していくこと、という原則を踏まえる必要があ るとしている。 QDRはさらに、今後5年間においてグローバルな防 衛態勢を適応させ、発展させていく際には、次の4つの 点を重視するとしている。 1) ヨーロッパにおけるミサイル防衛能力の発展など を通してヨーロッパと北大西洋条約機構(NNorth Atlantic Treaty OrganizationATO)へ の関与を再確認する。 2) アジア太平洋地域の平和と安全を確保するため、同 盟国及び重要なパートナー国と協力する。
5
軍事態勢見直し
北朝鮮とイランは新しい弾道ミサイルシステムを開発・配備しており、前方展開された米軍部隊を脅かすおそれがあるとしている。また、中国については、 大量の中距離弾道ミサイルと巡航ミサイル、先進兵器を装備した新型の攻撃型潜水艦、能力を向上させつつある高性能の長距離防空システム、電子 戦およびコンピュータネットワーク攻撃能力、先進的戦闘機、対宇宙システムを開発・配備しているが、その軍事力近代化計画については限られた情報 しか明らかにされていないため、中国の長期的な意図について疑問を生じさせているとしている。したがって、米中関係は、多次元的で、かつ、相互利 益を増進するようなやり方で信頼関係を強化し誤解を減らすプロセスによって下支えされたものでなければならず、両国が不一致について議論する開かれ たコミュニケーション・チャンネルを維持する必要があるとしている。 洗練されたアクセス拒否能力とエリア拒否能力を有する敵対者を打破するため、空軍と海軍が新しい統合エアシーバトル構想を進めている。QDRによれ ば、この構想は、航空戦力と海上戦力が全ての作戦領域をまたいでどのように能力を統合させていくかを規定するものであり、効果的な戦力投射に必要 な将来の能力発展の指針を付与するものである。シュワルツ空軍参謀総長は10(平成 22)年 12月の講演で、同構想の構築にあたって、空軍と海軍 の間で、制度、戦略構想、装備という3つの次元でより恒常的でより戦略的な関係を構築していく必要があると指摘している。 ゲイツ国防長官(当時)は10(平成 22)年 2月1日の記者会見において、「QDRを作成していた人々に与えた私の指令の一つは、私が2つの大規模 正面における作戦という考え方は時代遅れだと感じてきたということ、そして我々は既に2つの大規模な軍事作戦を行っているということだった。もし米国 本土で災害が起こったらどうするのか。もしもう一つの軍事衝突が起こったらどうするのか。もしハイチのような事案が発生したらどうするのか。2つの戦争 を戦うという考え方が生まれた90 年代前半よりも現在の世界は遥かに複雑なのである。」と述べ、2つの大規模な地域紛争に対処するという考え方では 不十分であるとした。 4 5 6第
2
章 諸外国の防衛政策など 3) 中東、アフリカ、中央・南アジアにおいて戦略的な 防衛態勢を発展させていく際には、現在行っている作 戦、危機への即応及び紛争の予防・抑止の活動の間で バランスをとる。 4) 重要な地域や国家において、パートナーの能力構築 を支援する。 米国は、このような米軍の態勢見直しとして、欧州に おいて、より機動力があり、柔軟で、即応体制が整った 軍の前方態勢を構築してきた。QDRは、ヨーロッパに おいて強固な米軍のプレゼンスを維持することは、1)同 盟国やパートナー国への政治的な威嚇の抑止、2)エーゲ 海、バルカン半島、コーカサス、黒海地域における安定 の促進、3)NATO同盟国への米国の関与の明示、4)受 入れ国における信頼と友好の構築、5)ヨーロッパ大陸内 外における相互の安全保障上の利益を支援するための多 国間作戦の促進に役立つとしている。その上で、ヨーロッ パ大陸において4つの旅団戦闘チームと1つの陸軍軍団 司令部を維持するとともに、ミサイル防衛システムの展 開や海軍の前方展開プレゼンスの強化を開始するとして いる7。 アジア太平洋について、QDRは、この地域における 米国の基地やインフラがまばらであることから、前方に 展開・駐在している米軍部隊を重視するとし、また、相 互の安全保障の利益を増進し、地域における持続可能な 平和と安全を確保するため、アジア太平洋地域の同盟国 とパートナー国を維持・強化していくこととしている8。 具体的には、次のような方針を打ち出している。 1) 日本及び韓国に対する拡大抑止の提供などを通し て、地域の安定を維持し同盟国の安全保障を確保する ため、必要となる軍事プレゼンスを適応させていく努 力を継続する。地域における抑止と緊急即応能力を強 化するとともに、人道的危機や自然災害を含む各種緊 急事態により効果的に対処するための能力を構築す る。 2) 在日米軍の長期的プレゼンスを確保し、グアムを地 域における安全保障にかかる活動のハブにする二国間 のロードマップ合意の実施に向けて、日本とともに引 き続き取り組む。 3) 朝鮮半島において、より適応力があり、柔軟な戦力 態勢を発展させ、米韓同盟の抑止・防衛能力を強化す る。12(同24)年に戦時作戦統制権を韓国に移管する。 4) 増大するアクセス拒否能力およびエリア拒否能力 に対応して米国や同盟国などの国益を守るため、米軍 と施設の強靭性を向上させる。海洋の安全のための多 国間協力、海、空、宇宙、サイバー空間へのアクセス 確保のための努力を支える前方展開プレゼンスを強化 する機会を追求する。 5) 西太平洋地域において、特に人道支援、災害支援お よび海洋の安全といった分野における共同訓練のさら なる機会を追求する。 中東について、QDRは、米国はイラクとアフガニス タンの戦争における当面の作戦能力に必要な防衛態勢を 優先させてきたが、これからは中長期的に米国、同盟国、 パートナー国に役立つような戦略的な態勢に焦点をあて なおす必要があるとしている。また、大規模かつ長期に わたる米軍のプレゼンスに対してこの地域が過敏である ことを踏まえつつ、相互の安全保障関係に対する米国の 長期的な関与をパートナー国に保証するため、また攻撃 を抑止するために、防衛態勢を再形成するとしている。 米国はまた、防衛力と防衛態勢のネットワークを強化し、 国防省は11(平成 23)年 4月、計画を見直し、ヨーロッパ大陸において三つの旅団戦闘チームを維持すると発表した。柔軟性があり、即時に展開で きる陸上兵力を維持することで、米国のNATOに対するコミットメントを果たし、同盟国と友好国に効果的に関与し、21 世紀の広範な課題に適応する、 としている。 ゲイツ国防長官(当時)は11(平成 23)年 6月3日の講演の中で、オーストラリアとの関係について、両軍がともに訓練・活動する機会を拡大するた めの戦力態勢作業部会を設立しており、①災害により迅速に対応するための両国共同の海上でのプレゼンスと能力の向上、②国際的に重要性を増し ている地域であるインド洋における施設の改善、③地域における他の友好国の参加も視野に入れた水陸両用および陸上の作戦と活動のための訓練・ 演習の拡大、といった広範な選択肢を評価しているとした。 シンガポールとの関係については、「戦略的枠組み協定」のもとで二国間の防衛関係を強化しているとともに、米国が沿海域戦闘艦(LCS:Littoral Combat Ship)を展開することによってさらなる作戦上の関与を追求しているとした。また、両軍がともに訓練・活動する機会を拡大するための措置として、 ①災害への対応を改善するための物資の事前集積、②指揮統制能力の向上、③太平洋において活動する中で両軍が直面する課題に備えるための訓 練の機会の拡大、といった取組を検討しているとした。 7 8(注)資料は、米国防省公刊資料(10(平成22)年12月31日現在)などによる。 陸軍 :約4.4万人 海軍 :約0.4万人 空軍 :約3.1万人 海兵隊 :約0.1万人 総計 :約8.0万人 (1987年総計約35.4万人) ヨーロッパ正面 陸軍 :約2.0万人 海軍 :約1.1万人 空軍 :約2.1万人 海兵隊 :約1.9万人 総計 :約7.0万人 (1987年総計約12.9万人) アジア太平洋正面 陸軍 :約56.5万人 海軍 :約32.7万人 空軍 :約33.5万人 海兵隊 :約20.2万人 総計 :約142.9万人 (1987年総計約217万人) 米軍の総兵力 イラクおよびその周辺に 約8.6万人が展開 アフガニスタンおよび その周辺に約10.4万人が展開 図表Ⅰ−2−1−1 米軍の配備状況 第
2
章 諸外国の防衛政策など 地域の安定と安全を増進するための地域安全保障にかか る取組を支援するとしている。 アフリカにおいては、08(同20)年10月、「アフリカ 軍」(司令部:ドイツ)の本格運用を開始した。アフリカ 軍は、平和維持にかかる訓練など軍事的な支援を行うこ とにより、アフリカ諸国が同地域の紛争に対処する能力 を高めることを志向した統合軍である。また、QDRは、 米国はアフリカにおいて限られた展開兵力のプレゼンス を維持することで、パートナー国の治安能力の構築を支 援することとしている。国防省は現在、「グローバルな軍事態勢の見直し」(GPR: Global Posture Review)を実施中としている。GPRに関連してゲイツ国防長官(当時)は
10(平成 22)年 6月5日の講演の中で、アジアにおける米国の防衛態勢は、地理的により分散し、運用の観点からより強靭で、政治的により維持可 能なものでなくてはならず、グアムの強化および日本との基地にかかる合意はこのような考え方に沿ったものであるとした。さらに、ゲイツ国防長官(当時) は同年 11月7日の記者会見で、GPRの中ではアジアにおいて新しい基地を追加することを検討しているのではなく、米国が既に有している関係を如何 にして強化するかを検討しているとし、米軍のアジアにおけるプレゼンスを強化すると述べた。 9 南北アメリカ大陸について、QDRは、米軍による強 力な前方展開は必要ないものの、限られた軍事プレゼン スを維持しつつ、地域の国々との関係を向上させていく こととしている。また、テロリストからの攻撃や自然災 害といったリスクを低減するために、米海軍は東海岸の 空母1隻の母港をフロリダのメイポートに移すとしてい る。 QDRで示された世界的な規模での米軍の態勢の見直 しについての考え方がどのように実施に移されていくの か、今後とも注目していく必要がある9。
第
2
章 諸外国の防衛政策など オバマ大統領は、核兵器のない世界を目標にする一方 で、この目標は早期に実現できるものではなく、核兵器 が存在する限り核抑止力を維持するとしている。 10(同22)年4月に発表されたNPRは、核をめぐる 安全保障環境が変化してきており、核テロリズムおよび 核拡散が今日における切迫した脅威となっているとして いる。また、核兵器保有国、特にロシアおよび中国との 戦略的安定性の確保という課題に向けて取り組まなくて はならないとしている。 NPRはこのような安全保障環境認識に立脚し、次の5 つの主要目標を提示している。 1) 核拡散と核テロリズムの防止:核不拡散体制強化の ため、北朝鮮及びイランの核兵器獲得への野心を転換 させるとともに、核兵器不拡散条約(NTreaty on the Non-Proliferation of Nuclear WeaponsPT)の不遵守 に重大な制裁などが科される環境を創出する。また、 核テロリズム防止のため、4年以内にすべての脆弱な 核物質の管理を徹底して安全を確保するとともに、エ ネルギー省の核不拡散プログラムの予算を拡大するな どの措置をとる。 さらに、軍備管理・軍縮促進のため、ロシアと新た な戦略兵器削減条約を締結し、包括的核実験禁止条約 (C
Comprehensive Nuclear-Test-Ban TreatyTBT)の批准及び早期発効を追求する。
2) 米国の核兵器の役割の低減:米国の核兵器の根本 的な役割(fundamental role)は、米国、同盟国、 パートナー国に対する核攻撃の抑止である。非核手段 による攻撃を抑止するに際しての核兵器の役割を低 減するため、消極的安全保証(Negative Security Assurance)を強化し、NPTに加盟し、核不拡散の義 務を遵守している非核兵器国に対しては核兵器を使用 せず、核兵器による脅威を与えないこととする。生物・ 化学兵器による攻撃に対しては、通常兵器による壊滅 的な反撃で対応するが、バイオ技術などの進展などを 考慮してこの方針に修正を加える権利を留保する。核 兵器保有国またはNPTを遵守しない非核兵器国に対 処する場合は、通常兵器あるいは生物・化学兵器によ る攻撃を抑止するにあたって核兵器が一定の役割を担 う可能性を排除せず、核兵器の役割を核攻撃の抑止と
6
核戦略
いう唯一の目的(sole purpose)に限定する用意は現 時点ではない。米国、同盟国、パートナー国のきわめ て重要な国益を防衛するための、極限の状況でのみ核 兵器の使用を考慮する。 3) 低減された核戦力レベルでの戦略的抑止と安定の 維持:ロシアとの新たな戦略兵器削減条約のもと、配 備戦略弾頭と運搬手段を削減しつつも、大陸間弾道ミ サイル(IIntercontinental Ballistic MissileCBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SSubmarine-Launched Ballistic MissileLBM) および戦略爆撃機による核抑止の三本柱は維持する。 非戦略核兵器については、米露間の将来の削減対象と することを目指すが、通常兵器と核兵器の双方を搭載 可能な戦闘機を保持する。また、他の手段による代替 が可能なため、核搭載海上発射型巡航ミサイル (T
Tomahawk Land Attack Missile-NuclearLAM-N)を退役させる。
4) 地域的抑止の強化と同盟国・パートナー国に対する 安心供与:二国間及び地域的な安全保障上の結びつき を強化し、同盟国などと緊密に協力する。ミサイル防 衛、大量破壊兵器(W
Weapons of Mass DestructionMD)対処能力、通常戦力投射 能力などからなる地域的な安全保障構造を強化する。 同盟国およびパートナー国に対し、米国の拡大抑止が 信頼でき効果的なものであるとの安心感を供与する。 5) 安全で確実で効果的な核兵器の維持:米国は今後、 核実験を実施せず、新しい核弾頭の開発を行わない。 その中で核弾頭の安全性・確実性・効果性を確保する ため、核弾頭の寿命延長プログラム(L
Life Extension ProgramEP)を実施す るとともに、LEPの実施に必要な科学・技術・工学的 基盤を強化する。 米軍は情報収集や通信の多くを宇宙システムに依存す るようになっている。10(同22)年、米国は「国家宇宙 政策」を公表し、宇宙空間の持続可能性、安定性、自由 なアクセスおよび使用は、米国の国益にとって死活的な ものであるとし、宇宙空間の安定性の向上などが米国の 宇宙政策の目標であるとした。 11(同23)年2月に公表された「国家安全保障宇宙戦 略」(NSSS)は、現在及び将来の宇宙環境には、①衛星 などの人工物体により混雑している、②潜在的な敵対者
7
宇宙政策
業務などの効率化に向けた取組を発表する ゲイツ国防長官(当時)とマレン統合参謀本部議長 〔米国防省〕 (百万ドル) (%) (注)2012年度Historical Tablesによる狭義の支出額。 2011年度の数値は推定額 図表Ⅰ−2−1−2 米国の国防費の推移 11 10 09 (年度) 08 07 0 5 10 15 20 0 100,000 200,000 300,000 400,000 500,000 600,000 700,000 800,000 国防費(百万ドル) 対前年度伸率(%) 第
2
章 諸外国の防衛政策など による挑戦を受けている、③他国との競争が激化してい る、という3つのトレンドがあるとの認識を示した。こ の認識を踏まえ、米国の宇宙における戦略目標は、①宇 宙の安全、安定、安全保障の強化、②宇宙によりもたら される米国の戦略的な国家安全保障上の優越性の維持及 び強化、③米国の国家安全保障を支える宇宙産業基盤の 活性化、であるとしている。そして、これらの目標を達 成するために、①責任のある平和的で安全な宇宙利用の 促進、②向上した米国の宇宙能力の提供、③責任ある国 家、国際機関、民間企業との連携、④米国の国家安全保 障を支える宇宙インフラに対する攻撃の防止及び抑止、 ⑤悪化した環境において攻撃を打破し、活動するための 備え、という戦略的アプローチを追求するとした。 米国政府の財政赤字が深刻化している一方で、国防省 の予算はこの10年間で2倍以上に増加している。この中 で国防省は10(同22)年5月よりゲイツ長官(当時)主 導の下で歳出の節減に向けた業務などの効率化を行って おり、11(同23)年1月には、国防省全体で今後5年間 で合計1,500億ドル以上の歳出を見直すことで、今後も8
12 会計年度予算
国防予算を増加させつつも国防予算の増加率を当初計画 よりも抑制する計画を発表した10。 このような中で発表された12会計年度予算教書は、 その主要な目標を、1)兵士のケア、2)現在と将来の戦 争に対応するための能力バランスの修正、3)戦地部隊の 支援、4)国防省業務の改善、としている。本予算につい ては、歳出効率化の取組を踏まえ、11会計年度の要求予 算の水準から42億ドル増の5,531億ドルを計上すると ともに、海外における事態対処作戦の予算11については、 イラクからの部隊撤収などを踏まえ、11会計年度の要求 予算の水準から415億ドル減の1,178億ドルが計上さ れている。会計総額では11年度の要求予算の水準から 373億ドル減の6,709億ドルとなっている。 また、オバマ大統領は11(同23)年4月、国防省は過 去2年間の取組により4,000億ドルを節減してきたが、 財政赤字削減のためにさらに安全保障関係の歳出を節減 する必要があると指摘した。その上で、歳出の増加率を 物価のインフレーション率以下にとどめることで、23 (同35)年までに安全保障関連の歳出を4,000億ドル節 減するとの目標を示した。 今後 5 年間で陸軍は290 億ドル、海軍は350 億ドル、空軍は340 億ドル、本省や機関などは合計で540 億ドルの歳出を節減し、各軍の合計約 1,000 億ドルの節減分は優先度が高い軍事能力などへの投資に充当する。13、14 会計年度は予算の実質的増加率を低下させ、15、16 会計年度は実質 的増加率をゼロとし、今後 5 年間の予算総額を当初計画よりも合計 780 億ドル削減する。歳出節減のための取組として、15 会計年度からの陸軍と海 兵隊の人員削減開始(陸軍は2 万 7 千人、海兵隊は1 万 5 千人から2 万人の人員を削減するとしている。)、高官ポストの削減、統合戦力軍(JFCOM) の廃止、試験上の問題が発生している海兵隊用 F-35Bの2 年間の検査(この期間に問題が解決されない場合は、開発を中止するとしている。)、海 兵隊の水陸両用強襲車である遠征戦闘車(EFV)の開発中止などを発表した。 ブッシュ前政権における対テロ戦費に相当するものであり、イラクおよびアフガニスタンでの活動費を含む。 10 11第
2
章 諸外国の防衛政策など 配備済みのICBMおよびSLBMに搭載した弾頭ならびに配備済みの重爆撃機に搭載した核弾頭。 11(平成 23)年 2月5日現在の数値であるとしている。「通常弾頭搭載型打撃ミサイル」(CSM: Conventional Strike Missile)は、この構想を主導する開発計画であり、退役した弾道ミサイルのロケットなど
を流用するものの、弾道ミサイルとは明確に異なる低い弾道を描くことで、核兵器との混同を防ぐとしている。また、同構想による兵器は、新たな戦略 兵器削減条約における弾頭数および運搬手段数の制限を受けるものとされている。
ゲイツ国防長官(当時)とカートライト統合参謀本部副議長によるブリーフィング(09(平成 21)年 9月17日)。
今後、細部やタイミングが変更される可能性があるとしつつ、11(平成 23)年までにスタンダード・ミサイルSM-3ブロックIA、15(同 27)年までに SM-3ブロックIB、18(同 30)年までにSM-3ブロックIIA、20(同 32)年までにSM-3ブロックIIBを配備することにより、BMD 能力を4 段階で向上さ せる計画である。米国はこの計画に基づき、イージス艦を既に地中海に展開中であり、15(同 27)年までにルーマニアに、18(同 30)年までにポーラ ンドに地上配備型ミサイル防衛システムを配備するとしている。米国とポーランドはブッシュ政権時代の弾道ミサイル防衛協定を10(同 22)年 7月に修正 し、米国のミサイル防衛システムをポーランド北部に配備するとした。また、米国とルーマニアは11(同 23)年 5月、ルーマニア南部に米国のミサイル 防衛システムを配備することで合意した。 第 2 艦隊司令部は業務などの効率化に向けた取組を受けて廃止される予定である。 1 2 3 4 5 6 核戦力を含む戦略攻撃兵器については、11(平成23) 年2月、第1次戦略兵器削減条約(S
Strategic Arms Reduction Treaty ITARTI)に代わる 新たな戦略兵器削減条約が発効した。同条約は、条約発 効後7年までに双方とも配備戦略弾頭1を1,550発ま で、配備運搬手段を700基・機まで削減することなどを 内容としている。米国は同年6月、現在の配備戦略弾頭 は1,800発、配備運搬手段は882基・機であると公表し た2。 米国はさらに、核兵器への依存を低減させる能力の一 つとして、「通常兵器による迅速なグローバル打撃」 (C
Conventional Prompt Global StrikePGS)構想を研究している。同構想は、世界のいかな る場所に所在する目標に対しても、命中精度の高い非核 兵器によって、敵のアクセス拒否能力を突破して迅速な 打撃を与えようとするものである3。 ミサイル防衛(M Missile DefenseD)については、オバマ政権は09(同 21)年9月、MDシステムの一部をチェコ及びポーラン ドに配備するというブッシュ政権による計画を見直し、 11(同23)年頃から20(同32)年頃までに欧州におけ る弾道ミサイル防衛(B
Ballistic Missile DefenseMD)能力を段階的に向上させ、 最終的にはICBMにも対応する包括的なMD体制を構 築するという新たな計画を発表した4。オバマ政権は見直 しの理由として、イランの短・中距離弾道ミサイルの脅 威が予測よりも急速に進展している一方、ICBMの開発 は予測よりも遅延していること、迎撃ミサイルやセン サーといったミサイル防衛に関する能力と技術が顕著に 向上していることを挙げている5。
2
軍事態勢
米国は10(同22)年2月に「弾道ミサイル防衛見直し」 (BBallistic Missile Defense ReviewMDR)を公表し、米国本土に対するICBMの脅威を 正確に予測することは困難であるが、北朝鮮とイランの 動向に注目すべきであるとする一方、他の地域における 米軍および同盟国を攻撃できる短・中距離弾道ミサイル の開発は進展しており、明白な脅威となっているとした。 その上で、米国本土の防衛については地上配備型迎撃ミ サイルにより北朝鮮やイランのICBMに対処するとし ている。他の地域の防衛については、MDシステムへの 投資を拡大しつつ、同盟国との協力と負担の適切な共有 のもと、それぞれの地域に応じてBMD能力を段階的に 向上させるアプローチ(P
Phased Adaptive ApproachAA)をとっていくとしている。 陸上戦力は、陸軍約57万人、海兵隊約20万人を擁し、 米国のほかドイツ、韓国、日本などに戦力を前方展開し ている。QDRは、陸軍はあらゆる事態に対応する能力 を保ちつつ、反乱鎮圧作戦、安定化作戦、対テロ戦に焦 点をあてるとしている。海兵隊は、近年の作戦で大きな 役割を果たしている特殊作戦部隊を強化しており、非正 規型戦闘への対処能力の向上に努めている。 海上戦力は、艦艇約1,070隻(うち潜水艦約70隻)約 614万トンの勢力を擁し、北西大西洋に第2艦隊6、東大 西洋、地中海、アフリカに第6艦隊、ペルシャ湾、紅海 および北西インド洋に第5艦隊、東太平洋に第3艦隊、南 米およびカリブ海に第4艦隊、西太平洋とインド洋に第 7艦隊を展開している。QDRは、海軍は前方展開によ る強力なプレゼンスと戦力投射能力を引き続き保つとし
サイバー攻撃対処のためにソフトウェアの アップデートを行う米軍人〔米空軍〕 第