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最終解析と総括報告書

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総括報告書

JCOG0607:早期胃癌における内視鏡的粘膜切除術の適応拡大に対する第Ⅱ相試験

[作成年月日 2017 年 12 月 8 日] 研究事務局:蓮池 典明 (有床診療所はすいけクリニック) 小野 裕之 (静岡県立静岡がんセンター) 研究代表者:朴 成和 (国立がん研究センター中央病院) グループ代表者:武藤 学 (京都大学大学院医学研究科)

0.

試験概要

 試験の目的:胃癌治療ガイドライン(第 4 版 2014 年)では内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic Mucosal Resection: EMR)の適応外となるような早期胃癌のうち、1)潰瘍及び潰瘍瘢痕のない 2 cm を超える 分化型粘膜内(T1a)癌(UL(-)群)、および、2)潰瘍瘢痕のある 3 cm 以下の分化型粘膜内(T1a)癌 (UL(+)群)、を対象とした内視鏡的胃粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection:ESD)の 有効性と安全性を評価する。  対象:年齢 20 歳以上 75 歳以下。PS0-1。初発かつ単発胃癌。UL(-)群:潰瘍及び潰瘍瘢痕のない 2 cm を超える分化型粘膜内(T1a)癌、および UL(+)群:潰瘍もしくは潰瘍瘢痕のある 3 cm 以下の分化 型粘膜内(T1a)。画像上リンパ節転移や遠隔転移を認めない(cT1a N0 M0)。ESD にて一括切除可 能と判断される。  治療の概要:対象病変に対して ESD を行い、病理診断の結果から「経過観察」、「追加外科切除」、 「施設の判断によって選択」のいずれかを選択する。  Primary endpoint:5 年生存割合  Secondary endpoints:UL(-)群、UL(+)群各々の全生存期間、無再発生存期間、5 年胃温存割合、 病変一括切除割合、EMR による病理学的治癒切除割合、有害事象発生割合、重篤な有害事象発 生割合  予定登録数:470 人、登録期間:3 年間、追跡期間:登録終了より 5 年  本試験は、旧 JCOG 消化器がん内科グループでコンセプトが提出され、試験開始後に消化器内視 鏡グループに移行し、完了した試験である。

1.

背景

以下に示す技術的ならびに理論的条件をもとに、転移の可能性が極めて低い早期胃癌に対する ESD の適応拡大を評価する試験として計画された。 【技術的条件】 従来、わが国の胃癌に対する内視鏡治療は、T1a の胃癌に対して生理食塩水などを粘膜下層に局注 して隆起させた後にスネアで絞扼・通電して切除する EMR(endoscopic mucosal resection)が主流であっ た。しかし、この EMR 法では、手技上の制約から、一括切除可能な大きさには限界があり、分割切除割合 及び局所再発割合が高いという課題があり、胃癌治療ガイドライン(第 4 版 2014 年)が示す EMR におけ る適応は、2 cm 以下かつ潰瘍所見を認めない病変であった。

一方、1997 年に細川らが IT ナイフ(insulation-tipped diathermic knife)を開発したのを契機に、数々の 内視鏡用の切開デバイスが開発され、2000 年以降、病変の外側を切開したのちに粘膜下層を剥離し病 変を一括切除する内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection(ESD))が国内に普及し た。ESD の登場により 2 cm 以上の病変や潰瘍瘢痕を伴うような病変に対しても切除が可能となった。また、 高周波電源装置、止血鉗子等の改良、ヒアルロン酸ナトリウムによる局注液の開発により、安全性と確実 性の向上が得られた。その後、レトロスペクティブな検討ではあるが、EMR と ESD を比較したデータも示さ れ、腫瘍の大きさによらず ESD は EMR に比べて切除断端陽性割合が低く、高い一括切除割合を示した。

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2 ただし、ESD の問題点として、習熟に時間がかかること、出血や穿孔などの合併症が多いことなどが報 告された。そのため、本試験では、術者として胃癌に対する ESD を 100 例以上経験していることを条件と して、研究代表者が指名した医師のみが術者または指導者として ESD 治療を実施できることとした。 【理論的条件】 理論的には、リンパ節転移・遠隔転移のない胃癌は、局所切除だけで治癒可能である。胃癌治療ガイ ドライン(第 4 版 2014 年)にて EMR の適応とされていた「2 cm 以下かつ潰瘍所見を認めない分化型粘膜 癌」以外にも、内視鏡的切除術の適応拡大の可能性について議論がなされてきた。Gotoda らは、早期胃 癌のリンパ節転移について、外科的切除された単発早期胃癌 3,261 人の検討を行い、従来のガイドライン での適応病変に加えて、「分化型粘膜内癌、脈管侵襲なし、①UL(-)かつ 2 cm 超、②UL(+)かつ 3 cm 以 下」の条件を満たす早期胃癌ではリンパ節転移はなく、それぞれリンパ節転移割合は①0%(0/493) (95%CI.:0~0.6%)、②0%(0/488)(95%CI.:0~0.6%)となり、いずれも 95%信頼区間の上限が 1%を超えない ことを示した。従来、これらの条件を満たしている病変に対しても、標準治療は外科的切除であったが、こ れらの病変は理論的には転移リスクが極めて低く内視鏡的切除で治癒可能であると考えられた。 【治療方針の最終決定】 リンパ節転移のリスク因子である、深達度や組織型、脈管侵襲などは、内視鏡だけでは正確な診断は 困難である。本試験では、対象病変に対して ESD によって得られた検体により病理学的な根治度を判定 した上で追加治療の是非を決定することとした。非治癒切除であった場合のうち、病理学的リンパ節転移 リスク因子を認める場合にはリンパ節郭清を伴う追加外科切除を行う。一方、分割切除、あるいは水平断 端陽性または判定不能となったことが非治癒因子であった場合のみ、施設の判断により経過観察、追加 内視鏡的切除、胃切除のいずれかの選択を可能とした。すべての ESD 後の追加治療までをプロトコール 治療として評価した。

2.

目的

本試験では、1)潰瘍や潰瘍瘢痕のない 2 cm を超える分化型粘膜内(T1a)癌(UL(-)群)、および、2)潰 瘍瘢痕のある 3 cm 以下の分化型粘膜内(T1a)癌(UL(+)群)を対象として、ESD の効果と有効性を検討 することを目的とした。

3.

試験デザイン

【エンドポイントと試験デザイン】 本試験の対象は外科切除により良好な治癒割合が得られる集団であり、ESD にて治癒切除と判定され なかった場合でも、そのほとんどが直後に外科切除を追加することによって再発せず治癒する。そのため、 無再発生存期間や無病生存期間は endpoint として適当ではない。また、本試験の対象では、5 年生存割 合は原病死よりも他病死の方が大きく影響する(原病死 1%、あらゆる死亡 5%)ことが予想された。一方、 原病死のみをイベントとする cause-specific survival は、統計学的に競合リスクの問題が生じることから、 原病死のみの評価ではかえってバイアスが生じる危険性があるとも考えられた。 以上より、他病死を含めたすべての死亡をイベントとする全生存期間を評価することとし、その 5 年推 定値である 5 年生存割合を primary endpoint としたが、生存割合は登録された対象者の性別、年齢の分 布によって変化すると考えられた。これらを考慮しない限り、試験結果を適切に解釈することが困難と考 えられたため、全登録患者の生存期間を主たる解析の対象とし、実際に得られた性別・年齢ごとのサブグ ループの比に基づいて検定に用いる閾値・期待値を設定することとした。 試験開始前の旧 JCOG 消化器がん内科グループの施設に対するアンケート調査から、本試験に登録 される対象の年齢分布は 50 歳以下:5%、51~60 歳:20%、61~70 歳:40%、71~75 歳:35%と予測し、また、 男女比については静岡がんセンターのデータから男:女=3:1 と予測した。それらに基づいて期待 5 年生 存割合は約 90%、閾値 5 年生存割合は約 85%と算出した。 試験デザインとしては、ESD と外科切除は治療の侵襲および術後経過が大きく異なり、同意取得の点 からも 2 つの治療をランダム化する第Ⅲ相試験を行うことは困難と考えられた。従って、本試験は単アー

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3 ムの第 II 相試験ではあるものの検証的試験に近い位置付けを持たせることとし、通常の第 II 相試験より も精度を高く設定した(片側αを 0.05、検出力を 80%)。ただし、下記の第 1 回改正内容の箇所に示すように、 片側α0.025、検出力 90%とした。 最終解析においては、実際の登録例の性・年齢分布を元に計算し、期待 5 年生存割合は 91.092%、閾 値 5 年生存割合が 86.092%と設定し、解析を行った。 図 1 スタディシェーマ

4.

試験経過

2007 年 6 月より登録が開始された。JCOG 消化器内視鏡グループ(旧 JCOG 消化器がん内科グループ を含む)29 施設から登録があり、2010 年 10 月(全登録期間:3 年 4 か月)に登録を完了、2015 年 10 月に 全登録例の追跡期間が終了した。 プロトコール改正が 1 回、プロトコール改訂が 1 回行われ、内容は以下のとおりである。  第 1 回改正(ver.2.0):予定登録数の増加ならびに登録期間の延長(2009/4/23 承認) 患者登録が順調であったこと、JCOG 胃がん外科グループ(現 JCOG 胃がんグループ)で行われていた JCOG0302(早期胃癌におけるセンチネルリンパ節生検の妥当性に関する研究)が中止されたことから、 本試験の結果が内視鏡治療の適応拡大の是非の判断材料となる可能性が高いと考えられた。そこで、 当初設定されたαを 0.05 から 0.025 とより厳しくし、かつ検出力を当初の 80%以上から 90%以上と高める ことにより、より確かな意思決定の根拠とすることを意図して改正を行った。なお、登録例のデータに基 づいて男女比と年齢分布から予定登録数の再計算も行い 330 人⇒470 人とし、登録期間も 2 年⇒3 年 に延長した。  第 1 回改訂(ver.2.1):外科切除後の術後補助化学療法の追記(2010/2/9 承認)

プロトコール「2.3.3. 後治療」および「6.5. 後治療」に「追加外科切除後に pStage II(T1N2 を除く)、IIIA、 IIIB であった場合は、S-1 による術後補助化学療法を推奨する。」や「本試験では、T1N2 であった場合 も、術後補助化学療法を施行することを推奨する」を追加した。

内視鏡的深達度Mの分化型胃癌

・①ULなしで2cmを超える もしくは ②ULありで3cm以下 ・N0M0 ・初発かつ単発 ・20歳以上75歳以下 ・ESDにて一括切除可能

EMR (ESD)

治癒切除判定規準 以下のいずれかを満たす ・分化型優位, M, UL(-), 脈管侵襲(-), 断端(-) ・分化型優位, M, UL(+), 3cm以下, 脈管侵襲(-), 断端(-) ・分化型優位, SM1, 3cm以下, 脈管侵襲(-), 断端(-) 施設の判断によって選択 (経過観察可能判定) 経過観察 (治癒切除判定) 追加外科切除 (要追加外科切除判定) 以下のいずれかを満たす ・未分化型優位 ・SM浸潤部に未分化型成分あり ・M, UL(+), 3cmを超える ・SM1, 3cmを超える ・SM2以深 ・脈管侵襲陽性 ・垂直断端陽性もしくは判定不能 以下のいずれかを満たす ・分割切除となった ・水平断端陽性もしくは判定不能

登録

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4

5.

登録状況

登録ペースは、当初予測したペースと比べてほぼ予想通りであった。施設毎の患者登録数は、上位 6 施設(静岡県立静岡がんセンター、国立がん研究センター中央病院、石川県立中央病院、国立がん研究 センター東病院、大阪府立成人病センター、四国がんセンター)が登録例の半数以上を占めたが、全施 設からの登録があった。なお、誤登録や重複登録など、登録上の問題点はなかった。

6.

背景因子

全登録例の年齢中央値は 65 歳(40-75 歳)で、男性が 8 割を占めた(男性 385 名、女性が 85 名)。ま た、UL(-)群 263 例、UL(+)群 207 例が登録された。当初、UL(+)群の登録数の不足が懸念されたが結果 として十分な登録が得られた。また、UL(-)群においても同様に 3 cm を超える比較的大きいサイズの病 変が 111 例と偏りなく十分な登録が得られた。

7.

治療経過

プロトコールで規定した治療を完遂した患者は 470 人中 448 人であった。中止となった 22 例のうち、有 害事象(術中穿孔)に伴う中止例が 1 例、追加外科切除における患者拒否が 13 例、他院での追加外科切 除例は 8 例であった。なお、プロトコール治療期間中の死亡例は認めなかった。

8.

プロトコール遵守

本試験におけるプロトコール逸脱として、開始前検査に関する逸脱が 27 例/27 件、追加外科切除に関 する逸脱が 22 例/27 件あったが、ESD に関連する逸脱はなかった。開始前検査の逸脱は、主に採血項目 (CEA、CA19-9、FBS など)や ECG 等の欠測または期限の不遵守であった。また、追加外科切除に関する 逸脱は、腹腔鏡(補助)下胃切除を行ったものが 16 件、リンパ節郭清の不遵守が 5 件、期限の不遵守が 6 件であった。腹腔鏡下胃切除に関して、班会議でも逸脱しないよう注意喚起した。全体として有効性や 安全性に関しての評価に影響を与える逸脱はなかったと考えられる。

9.

安全性

登録期間中、年に 2 回のグループ班会議において、ESD 施行時間が 2 時間を超えたものを全例ビデオ 供覧したところ、ESD の適応に問題となる例はなく、長時間かかったことが安全性や有効性に直接的に影 響した例も認めなかった。また、これらのビデオ供覧を通じて、グループ内全体の技術向上につながり、 試験進捗後半においては前半に比べて長時間かかる例が減少した。

ESD 後に 1 例、追加外科切除に 2 例(3 件)の Grade 4 の有害事象を認めた。ESD 後の 1 例は SIADH に伴う低 Na 血症であり、治療との因果関係はないと考えられた。一方、追加外科切除の 2 例は、術後の 一過性脳虚血発作が 1 例、術後膵炎と ARDS が 1 例報告された。いずれもプロトコール治療との因果関 係ありとされたものの、短期間で回復、軽快した。また、予期されない Grade 3 以上の有害事象は認めな かった。留意すべき ESD 関連の合併症として、ESD 時の胃穿孔を 12 例(2.6%)に認めた。それらのうち、1 例のみ緊急手術に移行(Grade 3)となるも、その他の 11 例はすべて内視鏡的に穿孔部のクリップ閉鎖を 行い保存的に軽快した(Grade 2)。遅発性穿孔は認めなかった。また、ESD 後出血を 29 例(6.2%)に認め、 内視鏡による止血が可能であったが、3 例のみ輸血を要した(Grade 3)。なお、Grade 2 以上の穿孔、後出 血の因子別のサブグループ解析を追加し、胃穿孔において有意な関連因子は抽出されず、ESD 後出血 において、腫瘍長径が 3 cm を超えるものが 3 cm 以下のものと比較して頻度が高くなる(p 値:0.024)結果 を示した。

10.

有効性

Primary endpoint である 5 年生存割合は 97.0%(95%C.I:95.0-98.2%)であり、非常に良好な結果が得られ た。性別・年齢を調整した簡易生命表から得られた一般人口の 5 年生存割合をもとに設定された閾値生存 割合 86.1%を 95%信頼区間の下限(95.0%)が上回ったことから、帰無仮説が棄却され、有効性が証明された。 再発・原病死は 3 例で、いずれも ESD で非治癒切除(粘膜下層(SM)浸潤癌)であり、追加外科切除を行っ

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た後の経過観察中に再発・原病死を来した。この 3 例は、追加外科切除時に組織遺残あるいはリンパ節 転移(pN2)が確認されており、初期治療として外科手術を選択したとしても再発の可能性が高いと考えら れた。なお、ESD で治癒切除と判定されたものの中に再発・原病死を認めなかった。

Secondary endpoints である病変一括切除割合は 99.1%(466/470 例 95%C.I, 97.8-99.8%)であり、参加施 設の ESD を完遂する高い技術的成熟度が示唆された。 一方、ESD による病理学的治癒切除割合は、67.5%(317/470 例)であり、当初の予測よりも低い結果で あった。非治癒切除 152 例のうち、非治癒の理由として 268 項目(重複あり)が抽出されたが、それらのう ち深達度や範囲診断の誤りなど、術前内視鏡診断に直接関わるものが 115 項目(43%)あり、術前診断の 精度についての今後の課題が明らかとなった。 標準治療である外科切除に対して臓器温存かつ根治性を評価する指標として、5 年胃温存割合を評価 した。全登録例 470 例による解析では 5 年胃温存割合は 68.8%(95%CI, 64.4-72.8%)であり、本対象の標準 治療が外科切除であることから ESD を先行することにより約 7 割の胃温存が得られたと解釈できる。 また、完全治癒切除が得られた 317 例の解析では 5 年胃温存割合は 95.8%(95%CI, 92.9-97.5%)であっ たが、プロトコール治療完了後の経過観察期間内に 10 例胃切除が施行された。それらのうち 9 例が異時 性重複癌に対する胃切除であり、完全治癒切除後も内視鏡による経過観察の重要性が示唆された。

11.

考察

本試験は、本邦初の、早期胃癌に対する ESD の効果と安全性を前向きに検証した多施設共同試験で ある。Primary endpoint の 5 年生存割合は 97.0%(95%C.I:95.0-98.2%)であり、非常に良好な結果が得られ た。閾値生存割合 86.1%を 95%信頼区間の下限が上回ったことから、対象に対する ESD は標準治療の外 科切除に遜色ない治療オプションとの結論が得られた。 本試験の limitation は、外科切除との RCT を行うことを想定していない点である。その理由として、急速 な国内普及により ESD が本対象においても日常診療で広く行われるようになっていたこと、ESD と外科切 除とでは患者が負担する侵襲や有害事象に明らかな差異があり、ランダム化の実現性が低いことがあげ られる。従って、十分なサンプルサイズを設定し、検出力を高めることで、単アームの検証的な試験と位 置づけた。 技術的評価においては、術者を技術認定した上で、半年ごとの班会議において ESD 困難例や ESD 後 の合併症等の事例をビデオ供覧することで Quality control を徹底した。病変一括切除割合は 99.1%であり、 これらは既報と比較しても本邦の極めて高い技術力を示す結果となった。 病理学的治癒切除割合が 67.5%、5 年胃温存割合 68.8%は予測していたよりも低い結果であった。しかし、 標準治療が外科切除であることから、およそ 2/3 で胃切除を回避でき、胃温存の観点から意義深いとい える。一方、ESD で非治癒切除となっても、適切に追加外科切除を行うことでほとんど完治可能であること を示した。このように、この対象群に対する ESD を一般化するにあたり、約 3 割の追加外科切除が必要と なる旨を患者に告知すべきであり、その多くが内視鏡診断に関連するものであったことを考慮すると、今 後の診断精度の向上が必要であると考えられる。 一方、経過観察中に追加外科切除を追加したにもかかわらず 3 例の転移再発・原病死を認めたが、 pN2 のリンパ節転移を伴っており、ESD を行わず外科手術を行っていても再発は避けられなかったと思わ れる。 安全性については、ESD の代表的な合併症として穿孔と後出血があるが、いずれも頻度は約 3%、6%程 度にとどまった。これらのうち 1 例のみ緊急手術に移行したものの、ほぼ全例内視鏡処置のみで保存的 に経過観察し得た。本試験の対象は、従来の適応病変よりも技術的な困難性から合併症の発生頻度が 高くなることを懸念していたものの、予想より少なかったことは、本邦の ESD 技術の高さを示唆するもので ある。ただし、本試験では熟練した内視鏡医あるいはその指導の下で ESD を行った結果を示すものであ り、一般化の際には経験の少ない術者が行う対象ではないことを十分に周知する必要がある。

12.

結語

(6)

6 早期胃癌のうち、本試験の対象となる病変(分化型腺癌、UL(-)の場合はサイズを問わず、UL(+)の 場合は 3 cm 以下)に対する ESD は、従来の外科切除に替わる標準治療になり得る。 これらの結果は既に論文化が終了し、2017 年 2 月に Gastric Cancer に掲載され、近日改訂予定の胃 癌治療ガイドラインに反映される予定である。

13.

今後の展開

本試験は、理論的に転移の極めて少ない早期胃癌のうち、分化型腺癌に対する ESD の適応拡大を検 証した。一方、未分化型腺癌についても、我々は、術前診断で 2 cm 以下の未分化型粘膜内癌を対象とし て同様の臨床試験(JCOG1009/JCOG1010「未分化型早期胃癌に対する内視鏡的粘膜下層剥離術の適 応拡大に関する非ランダム化検証的試験」)も行っている。2011 年より JCOG 消化器内視鏡グループおよ び JCOG 胃がんグループ共同で開始し、2013 年に登録を完了して 2018 年に最終解析予定である。この 試験の結果をもって、理論的に転移の極めて少ない早期胃癌に対する内視鏡的局所治療(=ESD)の評 価が完了する。 現在、JCOG 消化器内視鏡グループにおいて、外科切除例から得られるリンパ節転移リスクの層別化 を行い、さらなる適応拡大に向けての条件を議論している。今後は、80 歳以上の高齢者を対象に、リスク ベネフィットを考慮した適応拡大に関する臨床試験を実施する予定である。

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