2 0 1 5 年 3 月 日 本 銀 行 大 阪 支 店 本稿は、大阪支店営業課調査グループ 園田章(現金融市場局)、清水俊太郎、道勧麻美絵、長谷川淳子、 難波愛子、公平周次郎が執筆しました。ホームページ(http://www3.boj.or.jp/osaka/)からもご覧いただ けます。本稿の内容について、商用目的で転載・複製を行う場合は、予め日本銀行大阪支店までご相談く ださい。転載・複製を行う場合は、出所を明記してください。 【照会先】 日本銀行大阪支店営業課調査グループ 公 平こうだいら、山田(TEL:(06)6206-7751) 本稿における「関西」は、大阪府、京都府、兵庫県、滋賀県、奈良県、和歌山県の2府4県。
関西における個人消費と所得の特徴について
~所得対比でみて消費が堅調な背景~
1 本稿のポイント ■ 関西における個人消費と所得の動向をみると、所得が全国対比弱めで推移してきた一 方、個人消費の堅調さは全国並みで推移するなど、「所得対比でみた個人消費の堅調 さ」が目立つ。 ■ 関西の個人消費の特徴を業態別にみると、「百貨店」が全国に比べて好調である一方、 「スーパー」が弱めの姿となっている。また、品目別にみると、「衣料品」が全国対 比強めで推移する一方、「飲食料品」は相対的に弱めとなっている。 ■ 百貨店が好調な背景としては、関西の家計における株式などの金融資産の保有額が全 国対比で多いことが挙げられるほか、ここ数年、大阪市内を中心に魅力的な商業施設 の開業が相次いだことに伴い、需要が喚起されている可能性もある。また、訪日外国 人客や国内他地域からの観光客の増加も、関西における百貨店などの売上を下支えし ている可能性が高い。 ■ 一方、スーパーが全国対比で弱めであることの背景として、関西の家計における可処 分所得が全国対比で低く、飲食料品などの日常的な支出が抑制されやすいことなどが 考えられる。 ■ 今後、個人消費が堅調な領域を広げていくためには、全国や関東に比べて見劣りする 「可処分所得」の引き上げがポイントとなる。関西の一世帯当たりの収入をみると、 世帯主の勤め先収入が「全国並みにとどまり、関東よりかなり低い」、配偶者の収入 が「全国・関東に比べて低い」という特徴がある。従って、企業の設備投資やイノベ ーションの促進による生産性の向上を通じて世帯主の賃金水準を引き上げていく必 要がある。同時に、全国的にみて女性の大学・短大進学率が高いといった特徴を活か し、インバウンド観光やヘルスケアなどの成長分野を含め、女性の就業率を高めてい くことが重要と考えられる。 1.所得対比でみて堅調な関西の個人消費 関西の個人消費の動向を、百貨店、スーパーといった販売サイドの代表的な統計の動き を合成した「販売統計合成指数1(試算値)」でみると、関西・全国ともほぼ同様の動きと なっている。一方、家計サイドの支出動向をみると、関西では可処分所得から消費支出に あてられた割合(消費性向)が、ここへきて既往ピークの水準に達するなど、「所得対比 でみた消費支出の堅調さ」が目立つ(図表1)。 ―― この間、賃金の動向をみると、2014 年春以降、全国並みに回復しているが、それ 以前は弱めに推移していた。 2.関西の個人消費動向の特徴点 次に、商業動態統計の業態別・品目別の動きを関西・全国で比較すると、業態別では「百 貨店」が全国に比べて好調である一方、「スーパー」は弱めに推移している。品目別では 「衣料品」が全国対比強めである一方、「飲食料品」は弱めとなっている(図表2)。 1 衣料品、食料品、家具、家電、自動車登録台数の各系列を基準年=100 として指数化した上で、家計調査の支出金額ウエイ トで加重平均して算出した値。
2 百貨店や衣料品が全国対比で好調な背景については、以下の3点が指摘できる。 ① まず関西の家計は、全国対比で株式や株式投信などの金融資産保有額が多い。最近 の株式相場の上昇などを受けた資産効果が、百貨店などにおける高額消費の押し上げ に繋がっている可能性がある(図表2)。 ② また、ここ数年、大阪市内を中心に魅力的な商業施設の開業やリニューアルが相次 いだことに伴い、需要が喚起されている可能性がある。百貨店の売り場面積をみると、 ここ数年、全国はほぼ右肩下がりで縮小している一方で、関西は緩やかに拡大してい る。こうした下でも、2014 年の関西の百貨店売り場効率(1㎡当たりの売上高)は低 下しておらず、増床効果が百貨店販売額の押し上げに寄与していることが分かる(図 表2)。 ③ このほか、ここ数年、訪日外国人客や国内他地域からの観光客が増加2していること も、関西における百貨店などの売上を下支えしている可能性が高い。 一方、スーパーや食料品の販売が全国弱めとなっている背景としては、以下の2点が指 摘できる。 ① 関西の家計では、毎月の収入である可処分所得が全国平均よりも低い(図表3)。 このため、スーパーで販売されている飲食料品などの日常的な支出が抑制されてい る可能性がある。 ② ①に加え、消費増税後は、特に飲食料品などが節約対象となっている可能性もある。 3.個人消費が堅調な領域を広げていくために 今後、関西の個人消費が堅調な領域を広げていくためには、全国や関東に比べて低めと なっている可処分所得の引き上げがポイントとなる。関西の可処分所得の低さの背景とし て、中小企業の比率が高いことが指摘されることもあるが、全産業における中小企業雇用 者の割合は関西・全国でほぼ同じであることから、これ以外に要因があると考えられる(図 表3)。 そこで、一世帯当たりの可処分所得を世帯主と配偶者(女性が 99%を占める)に分け てみると、関西の世帯主の勤め先収入は「全国並みにとどまり、関東よりかなり低い」こ とが確認できる(図表3)。企業の設備投資やイノベーションを促進し、生産性を向上さ せることによって、賃金水準を引き上げていくことが必要と考えられる。一方、配偶者の 収入は「全国・関東に比べて低い」ことが確認できる(図表3)。これは配偶者の就業率 が全国・関東に比べて低いことが影響していると考えられるが、関西の女性の大学・短大 進学率は全国の中でも高い(図表4)。こうした教育水準の高さを活かし、観光・医療・ 研究開発などの成長分野を含めて女性の就業率向上を図り、配偶者の所得を増やしていく ことが重要と考えられる。 以 上 2 関西の企業では、近年急増する外国人観光客の需要取り込みについても総じて積極的である。その点については、当店レ ポート「訪日外国人客による消費が近畿の個人消費にもたらす効果について」(2014 年 10 月 8 日公表)を参照。