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機能評価と治療法を運動力学から考える

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 797 ~ 798 頁(2015 機能評価と治療法を運動力学から考える 年). 797. 分科学会シンポジウム 7(日本運動器理学療法学会). 機能評価と治療法を運動力学から考える* ─慢性疼痛症候群の障害像を科学する─ 脇 元 幸 一 1) 嵩 下 敏 文 2). はじめに. 回復の治療プランを促進させるための治療の前処置として使わ れるべきであり, 「物理療法と安静」という治療選択は,回復・. 現状の慢性疼痛症候群治療における理学療法スタンダードは. 治療期間が延び,費用が増大,手術や注射などの不必要な高価. 「患部の疼痛緩和を目的とした物理療法」「患部可動域エクササ. な治療を選択しなければならなくなる可能性があるとしている。. イズ」「患部筋力トレーニング」が主流となっている。しかし,. ②「高齢者に,不十分な量の筋力トレーニングを処方しないよ. そのような治療介入を二十数年臨床で繰り返した私たちが思う. うにしよう。その代わりにエクササイズの強度・持続時間・頻. ことは,疾患の治癒成果どころか改善の見こみさえ感じられな. 度を,個人の能力や目標に合わせよう」. い理学療法を漫然と繰り返しているのではないかという懸念で. 高齢者の筋力改善は QOL(Quality of Life)・身体機能の改. ある。. 善と転倒リスク低下につながる。しかし現状の高齢者の筋力ト. 慢性疼痛症候群の病態理解にあたり,厚生労働省から「慢性. レーニングは,セラピスト側が抱く患者がトレーニングで怪. 疼痛症候群は,精神医学的要因,心理学的要因,社会的な要因. 我をするのではないかという恐れ等から,生理学的に不十分. が複雑に関与して痛みを増悪させ遷延させている」との提言が. な(低)量のエクササイズや身体活動を処方している。個々の. なされている。この提言を踏まえると,様々な因子によって. 筋力レベルから正確に設定してないトレーニングプログラム. 慢性疼痛症候群の病態が形成されていることは理解できるが,. は,筋力トレーニング量の妥当性がなく効果も少ない。つまり,. 身体機能的要因については一切言及されておらず,理学療法の. 個々の筋力レベルに合わせて入念につくられた筋力トレーニン. 明確なガイドラインを得るまでには至っていない。 本稿では,米国における「無駄な医療撲滅運動:Choosing. グプログラムの実践が,高齢者に健康上大きな利益をもたらす (負荷が弱く簡単過ぎるのであれば,頻度・負荷強度・新規エ. Wisely」から,効果の乏しい理学療法を見直そうとする取り組. クササイズの追加をするべきである)としている。. みと,運動力学の観点から慢性疼痛症候群の身体機能的側面を. ③「急性深部静脈血栓症の抗凝固療法開始後は,特別な運動リ. 捉え直した新しい考え方を紹介する。. スクがない限りは,ベッド上安静を勧めないようにしよう」. 無駄な医療撲滅運動:Choosing Wisely. 抗凝固療法開始後は,ベッド上安静よりも,起床および歩行 などの運動を行う方が患者の精神面や疼痛緩和,むくみの緩. 医療ガイドラインの整備を積極的に進めてきた米国医学界. 和,体力低下を予防できるとしている。. は,次なるステップとして社会的側面から医療を評価し,不要. ④「TKA(Total Knee Arthroplasty)術後の患者の術後管理. な医療サービスを名指しして国民に知らせるという米国初の無. に CPM(Continuous Passive Motion)治療を用いないように. 駄な医療撲滅運動を展開している。米国理学療法学会もこの活. しよう」. 動に参加し,2014 年 9 月に無駄な医療として以下の 5 つの提. CPM 治療は,TKA 患者の膝関節伸展・屈曲可動域,筋機能,. 言を挙げている。. 痛みや QOL に臨床的に重要な効果をもたらさない。CPM を使. ①「積極的治療プログラムを促進するための補助的治療とする. 用するよりもセラピストによる膝周囲の筋機能再教育や正しい. 以外は,受動的な物理療法(ホットパック,アイスパック,超. 動き方等を指導した方がよいとしている。. 音波,電気等)を用いてはいけない」. ⑤「創傷管理に,ワールプールを用いないようにしよう」. 物理療法は,セラピストによる運動器の早期可動性と機能性. 創傷治療にワールプールを利用することは,患者の相互(二. *. Think the Functional Evaluation and Treatment from Kinetics: Science of Chronic Pain Syndrome 1) 医療法人社団 SEISEN 理事 (〒 411–0904 静岡県駿東郡清水町柿田 191–1) Koichi Wakimoto, PT: Medical corporation SEISEN 2) 医療法人社団 SEISEN 清泉クリニック整形外科 静岡 Toshifumi Dakeshita, PT: Seisen Clinic of Orthopedics Shizuoka キーワード:チューズィングワイズリー,慢性疼痛症候群,運動力学. 次)汚染・感染の危険性がある。加えて,強い水流が脆弱な組 織を損傷させ,また温水の中で手や足を下にして治療したと き,四肢の浮腫等の合併症を伴う可能性がある。ワールプール を用いるよりも,他の安全で優しく効果的な水治療法(直接的 な創傷洗浄や吸引によるパルス洗浄など)が用いられるべきで ある。.

(2) 798. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 以上が,これまでスタンダード化された治療法を見直そうと する米国理学療法学会の提言である。今後,本邦においても効 果の乏しい理学療法サービスを見直し,効果的な理学療法の研 究開発が急務であると思われる。. 慢性疼痛症候群の障害像を科学する 理学療法が誕生して半世紀の間,私たちの行う理学療法サー ビスの評価手法と治療手法の研究開発を振り返ってみると,形. 図 1 ニュートンの第 3 法則(作用反作用の法則). 態学(kinematics)を利用した研究開発がもっとも多い。つま り形態を評価し,形態を治療する手法がおもに開発されてき. の研究にて多数報告されており,これらに加え,最大質量を有. た。しかし,臨床成果を示す研究論文をレビューすると,評価. する体幹の柔軟性も有意に低値となる 3)。つまり,骨格筋の柔. 手法については妥当性と信頼性が高いとする報告は多いが,治. 軟性低下は反作用力エネルギー吸収・緩衝機能の低下であるこ. 療手法については,治療介入に高い成果を示した報告が非常に. とを示しており,慢性疼痛症候群は身体柔性が低いということ. 少ないことがうかがわれる。これは形態評価で得た問題点を解. を意味している。. 決する治療法は効果が不確かであることを示唆している。この ことは本邦の理学療法ガイドラインをみても,その懸念を明確. 2.身体剛性と身体柔性の関係 1). にしており,形態学的評価に運動力学的評価も加えた問題点考. 身体運動には,作用力エネルギーを生む身体剛性,反作用力. 察が必要であるとしている。. エネルギーを吸収・緩衝する身体柔性を確保することが必要で. 運動力学(kinetics)を利用した評価法は,筋力測定が代表. あり,骨格筋のみが身体剛性と身体柔性という両機能を担うこ. 的手法であるが,著者らは力学的エネルギー公式に基づいた運. とができる。. 動力学的評価から,慢性疼痛症候群の共通した身体機能特徴の. 運動が成立するには「作用力エネルギー(F ベクトル A)」. 知見を得たので以下に紹介する。. の発生と同時に,同量の「反作用力エネルギー(F ベクトル B)」 が発生し,これが身体に吸収される必要がある(ニュートンの. 1.身体剛性と身体柔性 1). 第 3 法則,図 1)。F ベクトル A が身体剛性によって生まれる. 1)身体剛性. のに対し,F ベクトル B は身体柔性によって吸収・緩衝される. 身体が運動を行うためには,筋張力が生みだす運動エネル. エネルギー量であり,F ベクトル A が大きくなればなるほど. ギーと身体質量が有する位置エネルギーの合算が作用力エネル. F ベクトル B もそれに伴って大きくなり,それに見合った身体. ギーとなって身体剛性を高めて動作を起こす。. 柔性が必要となる。つまり,身体剛性の機能は身体柔性の機能. 動作は,固定源の筋支持性機能により剛性を高め,駆動源と. に依存し,両者は釣り合いの関係を保っている。これは身体柔. なる筋を稼働させる。つまり,固定源,駆動源の稼働に機能す. 性が吸収・緩衝できる範疇でしか身体剛性は機能できないこと. るのが骨格筋および骨・関節であり,固定源の骨格筋は骨・関. を意味している。以上から,慢性疼痛症候群は,筋量に見合う. 節を強固に接触・固定することで関節適合性を高めて剛性をつ. 筋出力が得られていない原因に,反作用エネルギー吸収・緩衝. くりだす。その固定源を軸として,骨格筋の収縮によって駆動. 機能の低下という共通した身体力学的問題点を有していること. 源を稼働させて運動を遂行する。これら固定源と駆動源の骨格. が推察される。. 筋による運動エネルギーと,質量が有する位置エネルギーの 2 つを総称して「身体剛性」という。. ま と め. 慢性疼痛症候群は健常群と比較し,筋量に対する筋力が有意. 本稿では,慢性疼痛症候群に共通する身体機能的側面から骨. に低下しており筋出力抑制が大きい。つまり,同じ筋質量で. 格筋に焦点をあてて論じ,力学的エネルギー公式に基づいて身. あっても生みだされる運動エネルギーが小さいため,慢性疼痛. 体剛性ならびに身体柔性の関係性を導いた。今後,従来の理学. 症候群は身体剛性が低いということを意味している。加えて,. 療法では解決できない慢性疼痛症候群に対し,形態学から運動. その数値は疼痛部位には左右されない特徴を有する. 2). 。. 2)身体柔性 身体が運動を行う際,作用力エネルギーを生みだすと同時に 反作用力エネルギーが発生する。そのため,反作用力エネル ギーを吸収・緩衝できなければ身体運動は成立しない。 これら吸収・緩衝に機能するのが, 「半月板・椎間板・軟骨な どの軟部組織」と「骨格筋」である。骨格筋は身体運動を行う 運動効果器の中で最も柔軟性を有する組織であり,その骨格筋 の柔軟性が各関節の可動域を決定し,外力の吸収・緩衝に大き く関与する。これらの機能を総称して「身体柔性」という。 慢性疼痛症候群の筋柔軟性が低下しているという報告は過去. 力学へパラダイムシフトした理学療法の展開がなされることを 期待している。. 文 献 1) 尾崎 純,嵩下敏文,他:Spine Dynamics 療法,電子ジャーナル プロフェッショナルリハビリテーション.脇元幸一(監),運動と 医学の出版社,神奈川,2014,pp. 5–11. 2) 嵩下敏文,脇元幸一:Spine Dynamics 療法,新人・若手理学療法 士のための最近知見の臨床応用ガイダンス.嶋田智明,他(編), 文光堂,東京,2013,pp. 93–102. 3) 九 藤 博 弥, 脇 元 幸 一, 他: 健 常 人 と 慢 性 疼 痛 患 者 に お け る 脊 柱 弯 曲 可 動 域 の 比 較:WBI 境 界 値 を 基 準 と し た 検 討. 日 本 理 学 療 法 学 術 大 会.2010(0),CcOF2059-CcOF2059, 2011. CiNii NAID130005017352..

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