機能評価と治療法を運動力学から考える
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(2) 798. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 以上が,これまでスタンダード化された治療法を見直そうと する米国理学療法学会の提言である。今後,本邦においても効 果の乏しい理学療法サービスを見直し,効果的な理学療法の研 究開発が急務であると思われる。. 慢性疼痛症候群の障害像を科学する 理学療法が誕生して半世紀の間,私たちの行う理学療法サー ビスの評価手法と治療手法の研究開発を振り返ってみると,形. 図 1 ニュートンの第 3 法則(作用反作用の法則). 態学(kinematics)を利用した研究開発がもっとも多い。つま り形態を評価し,形態を治療する手法がおもに開発されてき. の研究にて多数報告されており,これらに加え,最大質量を有. た。しかし,臨床成果を示す研究論文をレビューすると,評価. する体幹の柔軟性も有意に低値となる 3)。つまり,骨格筋の柔. 手法については妥当性と信頼性が高いとする報告は多いが,治. 軟性低下は反作用力エネルギー吸収・緩衝機能の低下であるこ. 療手法については,治療介入に高い成果を示した報告が非常に. とを示しており,慢性疼痛症候群は身体柔性が低いということ. 少ないことがうかがわれる。これは形態評価で得た問題点を解. を意味している。. 決する治療法は効果が不確かであることを示唆している。この ことは本邦の理学療法ガイドラインをみても,その懸念を明確. 2.身体剛性と身体柔性の関係 1). にしており,形態学的評価に運動力学的評価も加えた問題点考. 身体運動には,作用力エネルギーを生む身体剛性,反作用力. 察が必要であるとしている。. エネルギーを吸収・緩衝する身体柔性を確保することが必要で. 運動力学(kinetics)を利用した評価法は,筋力測定が代表. あり,骨格筋のみが身体剛性と身体柔性という両機能を担うこ. 的手法であるが,著者らは力学的エネルギー公式に基づいた運. とができる。. 動力学的評価から,慢性疼痛症候群の共通した身体機能特徴の. 運動が成立するには「作用力エネルギー(F ベクトル A)」. 知見を得たので以下に紹介する。. の発生と同時に,同量の「反作用力エネルギー(F ベクトル B)」 が発生し,これが身体に吸収される必要がある(ニュートンの. 1.身体剛性と身体柔性 1). 第 3 法則,図 1)。F ベクトル A が身体剛性によって生まれる. 1)身体剛性. のに対し,F ベクトル B は身体柔性によって吸収・緩衝される. 身体が運動を行うためには,筋張力が生みだす運動エネル. エネルギー量であり,F ベクトル A が大きくなればなるほど. ギーと身体質量が有する位置エネルギーの合算が作用力エネル. F ベクトル B もそれに伴って大きくなり,それに見合った身体. ギーとなって身体剛性を高めて動作を起こす。. 柔性が必要となる。つまり,身体剛性の機能は身体柔性の機能. 動作は,固定源の筋支持性機能により剛性を高め,駆動源と. に依存し,両者は釣り合いの関係を保っている。これは身体柔. なる筋を稼働させる。つまり,固定源,駆動源の稼働に機能す. 性が吸収・緩衝できる範疇でしか身体剛性は機能できないこと. るのが骨格筋および骨・関節であり,固定源の骨格筋は骨・関. を意味している。以上から,慢性疼痛症候群は,筋量に見合う. 節を強固に接触・固定することで関節適合性を高めて剛性をつ. 筋出力が得られていない原因に,反作用エネルギー吸収・緩衝. くりだす。その固定源を軸として,骨格筋の収縮によって駆動. 機能の低下という共通した身体力学的問題点を有していること. 源を稼働させて運動を遂行する。これら固定源と駆動源の骨格. が推察される。. 筋による運動エネルギーと,質量が有する位置エネルギーの 2 つを総称して「身体剛性」という。. ま と め. 慢性疼痛症候群は健常群と比較し,筋量に対する筋力が有意. 本稿では,慢性疼痛症候群に共通する身体機能的側面から骨. に低下しており筋出力抑制が大きい。つまり,同じ筋質量で. 格筋に焦点をあてて論じ,力学的エネルギー公式に基づいて身. あっても生みだされる運動エネルギーが小さいため,慢性疼痛. 体剛性ならびに身体柔性の関係性を導いた。今後,従来の理学. 症候群は身体剛性が低いということを意味している。加えて,. 療法では解決できない慢性疼痛症候群に対し,形態学から運動. その数値は疼痛部位には左右されない特徴を有する. 2). 。. 2)身体柔性 身体が運動を行う際,作用力エネルギーを生みだすと同時に 反作用力エネルギーが発生する。そのため,反作用力エネル ギーを吸収・緩衝できなければ身体運動は成立しない。 これら吸収・緩衝に機能するのが, 「半月板・椎間板・軟骨な どの軟部組織」と「骨格筋」である。骨格筋は身体運動を行う 運動効果器の中で最も柔軟性を有する組織であり,その骨格筋 の柔軟性が各関節の可動域を決定し,外力の吸収・緩衝に大き く関与する。これらの機能を総称して「身体柔性」という。 慢性疼痛症候群の筋柔軟性が低下しているという報告は過去. 力学へパラダイムシフトした理学療法の展開がなされることを 期待している。. 文 献 1) 尾崎 純,嵩下敏文,他:Spine Dynamics 療法,電子ジャーナル プロフェッショナルリハビリテーション.脇元幸一(監),運動と 医学の出版社,神奈川,2014,pp. 5–11. 2) 嵩下敏文,脇元幸一:Spine Dynamics 療法,新人・若手理学療法 士のための最近知見の臨床応用ガイダンス.嶋田智明,他(編), 文光堂,東京,2013,pp. 93–102. 3) 九 藤 博 弥, 脇 元 幸 一, 他: 健 常 人 と 慢 性 疼 痛 患 者 に お け る 脊 柱 弯 曲 可 動 域 の 比 較:WBI 境 界 値 を 基 準 と し た 検 討. 日 本 理 学 療 法 学 術 大 会.2010(0),CcOF2059-CcOF2059, 2011. CiNii NAID130005017352..
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