Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Society for the Science of Design3D
プ
リ
ン
ト技 術
と デ
ザ イ
ン
思 考
の
革新 性
Innovative
Direction
of
3D
Printing
Technology
and
Design
Thinking
永 井 由佳
里谷
口俊 平
北 陸 先端 科学 技術
大学 院
大学
NAGAI Yukari
TANIGUCHI Shunpei
Japan
Advanced Institute of Science and Tl∋chnology1
.
デザ イ
ン思 考
の革 新 性
1
−
1
.
脱
・
20
世紀
デザイ ンH.
サ イモ ンが
『システム の科学
』〔
The
Science
ofthe
Artificial
)
第
3
版1 )を 執 筆し た とき、
従 来の科 学に内 在 する問 題と来た る 時 代の課 題 を 予 見 して い たと思 わ れ るが、
明確
に21
世 紀 社
会 を 見 通 して い た わ けで は ない だ ろう。
21
世 紀を迎えるにあ た り、
俯 瞰 的 な 視 点 だ けでは な く、
新 しい総 合 的 な 科 学の可能
性と必 要 性 が 主 張 さ れ、
以 降、
続々 と文 理 融 合 や 学 際 領 域の構 想 が 提 唱 さ れてき た。
俯
瞰 的であるだ けでは な く、
ニー
ズとの マッチング や 実社 会
へ の展
開 を 視 野 にいれ た 総 合 的 な 技 術 開 発計
画 が 必要 とな り、
ビ ジ ネス モ デ リ ング やロー
ドマ ッピング に代 表
さ れるプロジェ ク トマネ ジメン トのた めの未
来 予 想 技 術 に お い て は、
社会
的価 値
と の調和
が検 討
さ れて い る2〕。
最 近で は、
環境
・
エ ネルギ
ー
な
どの重 大 な 社 会 問題
を解 決 す
るため に、
バ ッ クキャス ト に よ る領 域や分 野をこえ た融 合的 な科学 技
術の構
想が求め ら れ て い る3)。
さ ら に、
バック キャス トするた め に は、
未 来社会
に対 す
る先 見性
が求
め ら れる こと か ら 技 術 開 発 の モニ タリ ングと シ ナ リ オプラ ンニ ングによるイノ ベー
ショ ン創 出
力 が期待
さ れる4}。し か し
、
融合
は科学
の適 応範
囲 を拡
げ、
新
し い考 え 方 や 技 術 を生
む契機
にはな
っ ても、
既存
の知 識
のあ り方
を根 本
か ら変
え る も ので は な い。 た と えば 「知識科 学
」 は、
日本
発 の新し い総合 的
な科学観
を反映
した もの であるが、
それ が 提 唱 して いる よ うな大 規模
で複雑
な 地球 規模
の問
題 を解
決 する方 法 に はいま だ 至っ て いない。
人 間 は 人 間の知 識 以 上 にそれ が 生み出 した 結 果 を扱
いか ねている。
要 す る に、
人 間 が 創 造 的で あ る が ゆえ に問 題 も生み出
し続
けてき たの であ り、
そ の解 消 策 を 見 出 すのは 至難
の技
なの であ
る。人
間による創造
は自然
の理に基 づいた科
学 の範 疇
を超え る。
し た が っ て、
人間 の知 識 を取 り扱う人 間の視点
での科学
が あるなら それ は 「デザ イン の学
」 に他
な ら ない。
「デザイ ン の学 」 を 牽 引 するかのよ うに、
数 年 前 か ら 「デザ イン思 考」 が 注 目 さ れ 始 め た。
デ ザ インを 思 考 と して とら え る こ と は従来
から行わ
れてき た が、
イノ ベー
ショ ンと 直 結 す る 技 術、
あ る い は方
法と し て デザイ ン 思考
が 期 待 さ れるよ う に なっ た 背 景 に は、
市
場の国際化
が急速
に進んだこと や、
製 品
や サー
ビスの価 値 創 出過 程がよ り複雑
に なっ て き て い る こと が 要 因 と して挙 げ ら れ る。20
世 紀
の も のづ く りでは、
ニー
ズ 理 解 に お いてもユー
ザの行
動観 察
や現 状
の問 題 を 理 解 す ることで、
製 品 や サー
ビスを 改 善 する こと ができ た。
そ のた め、
工 学と心 理学
、
認 知 科学
を組
み合
わ せる ことで現状
の問 題 解 決 ができ た。
し か し、
未 来 社 会
を想 定したイ ノベー
ティブ な 創 造のた め に は、
それで は不十分
である こ とが明 らかになっ てき た。
1
−
2
.
デザ
イン思考
過
去
に は、一
般 的な 学術
の フ レー
ムワー
ク に対
し、
デザ イン とい う人 間の創 造 的 活 動を 如何
に し て フィ ッ ト さ せ る か と い う こ とが
デザ
イン研究
の課 題と考
え られ、
そもそも ど う し た ら研 究 と して成 立 す る の か、
というと ころか ら検 討
され
た。自然科
学の法 則 性 や 客 観 性、
計 算 機 科 学 や 哲 学の 正当性
、
工学
の合
目 的 性 や 妥 当 性、
社 会 学の実 証 性 な ど に準
拠 し、
研究
と し て成
立 するた めの条 件 を 満 た すこ とを 宿 願とし た 時 代 も あっ た。一
方 で、
芸術領
域で の デザ イン研 究の位 置 づ け も、
工 芸 に 通 じ る生
活
史や 民族 文 化の枠 組みで体 系 化が進め られ、
さ ら に は人 類 史 に通 じる歴 史 的 資 料 性 が 重 視 さ れ、
19
世紀
か ら20
世 紀
という 産 業 社 会 を 体 現 す る 資 料と して解 読される。 し か し、
プロダ ク トデザ イン とエ ンジニ ア リングデザインの境
目のない接
合 や、
情 報 デ ザ インや インタフェイスデザ
イン と いったよ り
ユー
ザ 側 に 近い立 場で の機 能 や サー
ビスの提 供が求め られ る 時 代 が 予見
さ れ、
そ れ ら を 統 合 し た トー
タ ル な デ ザ インそ の ものに価
値 が 生 まれると 考 え ら れるよ う に な り、
領 域 や 分 野 毎に行 わ れ て いた デ ザ イン教 育 と人 材 育 成 の 方 法 を 抜本 的
に見直
す必
要 が 生 じ た。
こうし た背 景か ら、
デ ザ イン活 動に秘
め ら れ て い る 問 題解決
の コツが、
領 域
や分
野 を超
え て創
造 的 問 題 解 決 と して有意
だと い う主 張 から、
N
.
クロ ス によって 「Designerly
Ways
ofKnowing
」が 提
唱 さ れ た 5)。
これ
はデザイ ン の活
動 につ い て、
よ り思 考の側 面 に 焦 点 を あて、
習 熟 や 知 識の構 造化
をメタ
レベ ル で説 明 しよ うとす る 研 究 姿 勢 を 示して い る。
デ ザ イン教 育
に おい て各 領 域 や 分 野 の 専 門 技 術 や技能
よ り、
思考
の面 を強 化
す る うえで の契 機と なっ た と位 置 付け ら れ、
手の技か ら 頭 の技へ の転換
と い え る。さ ら に
、
注 目 すべき こ と は、
実験
研 究によ りデザ イン の創 造 的 思考
を詳細
に 研究
す るこ とで、
心
理学
の知見
を適応
するに と どま るの ではな く、
デ ザ イン側か ら創
造性
と い う特 徴を もつ 人 間 理 解 を 深 め ること に資
す る知
見 が 見いだ され
たことである6}。
創 造 性 の 解 明 が 人 間 につい て の総 合 的
な理解
にむ けて の重 大 な40
デ ザ イ ン学研究特集 号SPeclal Issueot Japanese SOciety ferthe Science of Deslgn
Vol
、
22・
4No
.
882015Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Society for the Science of Design課題 である こ とが 認
識
さ れ て い た に も関わ らず、
認 知的
ア プ ロー
チ によ
る創造 性
の議論
は、
心
理学分
野 に おい ても 比較的 新
しいも のであ り、
理 論 化 も 進 んではいな かっ た。
思 考 に 焦 点 を あてたデザ イン研 究 に よ り、
実 社 会 に通 じる本 質 的 な 研 究 課 題 が 検 討 さ れ る よ う に なっ た といえ る。
これらのデ ザ インにおけ る 創 造 的 思 考 研 究が基 盤 を 形 成 し、
研 究 知 見 の 応 用 面 と もいえ る 実 践 的 活 動 が、
よ り具 体 的 な 現 実解
の創 出
に む けて展 開
し た。
そ の代
表 的 な 例 が 「デザ イン思 考」 と 称 さ れる一
群の創 造 技 法である。
「デザイ ン 思考」 によ る訓練
が人材育 成
という教 育面
の みな らず、製 品
や サー
ビス開
発にお ける実 用 的 な 手 法 とし て普及 した理由と し て、
創 造 的に 思 考 す る 方 法 が 体 験 的 に 習得
でき、
ニー
ズ という複層
的 な目標
を 見 出 しや す くするた めの ス テップ 式 な 手 法群
で構
成 さ れて、
未 経験 者
でも実 践
の過程
が分
か りやす
い こと。 ま た、
実際
の デ ザイン創
造は個
の活動
で は な く、
グルー
プ や チー
ム に よ る集
合知 的な 性質
であ
るこ とが、
学際 的 な集 合 知
によ
る創 出を基 本
と す る デザ
イン思 考 に 挙 げ ら れ る。
グ ルー
プ ワー
ク は 発 想 に おい て可 能 性を高めるのみ ならず、
そ れが学 際 的で あ るこ とで ニー
ズ 理解
の面で のよ り深い洞察
が 得 ら れ る。
ま た多
様 性 に 富 む グ ルー
プ を 構 成 す るこ と で、
多 様 な 視 点で解の可 能 性 を探 ること ができ る。一
方で、
グ ルー
プワー
ク を 成 功 さ せ る た め に は、
グ ルー
プ 構 成 員一
人ひと りの マイン ドや 態 度・
作
法 とい った 人 的 要 因 が 強 く影 響 する。
そ こ で アクテ ィビティ自体
が、
人 間の心 の持
ち 方 を よ り創
造的
にして いく ような仕 組
みが効
果的
だと い え るだろ う。
さ ら に、
デ ザ イン思 考では、
創 造 的 な 思 考 力 だ けでな く、
上 述の未 来 社 会 を 先 見 する能 力 や 技 術 が 必 要 と なる。
さら に は、
よ り深 く未来
とコミット し よ う と する マインドがデザイ ン創 造
の動 因 となると考 えられるη。
こ こまで
、
社 会 的、
あ るいは、
学 術 的 な視
点 か ら3D
プ リン ト技 術 が 「デザ イン思 考llと結
びつ くことで生 じる革新 性
を 述 べた。
次 項では、
創 造 性の高い デザイ ン 思考 を 発 揮 するため に 具体
的 に ど うい っ た技 術
が あるか につい て説 明
する。2 .3D
プリ
ント技術
がデ ザ イ
ン思 考 を 強 化 す る 理 由
技 術 は 時に は 思考 を 阻む ケ
ー
スが ある と い う こ と は、
誰
で も 経 験 的 に 知っ て いる だろう。
技 術 を 意識
し ないほ ど 「夢 中
にな る」 という意 味で あ れ ば、
そ れ は 「没 入 」 であ り、
創 造 性 に お け る認知
課程
の議論
では重
要 な テー
マに なっ てい る8)。
しか し、
技 術が思 考 を 阻 む 場 合 は 創 造 性への悪 影 響 と な ること に 気 を付
け な くては な ら ない。
た と え ば、
工芸の教 育で は、
教 育 者の関
心 がス キル や 技 術 に ある場 合、
それ に関
する知識
を伝
える こと に気
持 ち が 集 中 して し まい、
造 形・
意 匠の再 現に神 経 を 使い、
何 を 作 る か とい う 問 題 が 意 識 さ れ な くな る 傾 向 が 観 察で見いだ さ れ、
使
用者
や使
用の状 況な どへ の関 心や、
機能
や意 味
の側
面 で の探 求心 が伸
び ない こ と指 摘
さ れて いる9〕。
要 す るに造 形
の た めの 「技 」、
モノのか た ち や 意 匠 にこだ わ り すぎ
て、
そこか ら 抜 け 出 せ な くなる恐 れ が あるわ け だ。
創 造 的 な 新 しい発 想の た め に は、
技 術、
特 に 造 形 技 術へ の固 執 か ら 自 由 にな り、
あ ら ゆ る 可 能 性へ の探 索 を 拡 げ ることが 重 要 だ ろ う。
端 的 にいえ ば、
創 造 的 な デ ザ インに 必 要 なのは、
造 形 力 以 上 に 探 索 的 思 考 の能
力である。探索
的 思考
では、
特
に新
しい意味
をつ くる 「:] ン セプト生 成」 が 肝 心であ り、
優
れ たコ ン セプトが あっ て初
め て造 形
の セ ン スが 生 きてくるといっ ても過 言
ではな
い。上 述
(
1
−
2
)
の と お り、
デザイ ン 思考は そ う し た 「コ ン セ プ ト生 成」 を導
く発
想 に有 効
であ り、
探 索 的
な 思考
とし て期 待
さ れて い る。
で は、
デザイ ン 思考
を強化
す る た め に はどの よ う な技術
が有 効
で、
どのよ
うに技 術
と付
き合
えば
よいのだ
ろ う か。3D
プ リン ト技 術に おい て は、
デ ジタル デー
タの処 理 技 術が必須
で あ るこ とは 言 う までも ない。
立 体造
形の技
術 と知
識 が 基 盤であ る が、
上 に 述べ た と お り そ れ らの技 術 に 固 執 し す ぎ る と、
デザ インに 求 め られる自 由 な 発 想 や、
既 製の造 形 から の逸 脱 ができ に く く な る。
デ ザ イン思 考では、
アイ デアを、
即
時 に、
見 え る か た ち に していくこと が 重 視 さ れる。
基 本 的 なコ ン セ プ トの表現
は そ れで十
分 だ か ら だ。 そ のた め、
ラ フ スケッチ はも と よ り、
段
ボー
ル と紙
テー
プ、
新
聞紙
な ど、
手 軽
な素 材
で どんどん か たちに し て、
身振
り手振
り のジェ ス チ ャー
やロー
ル プレイング
で表
現 し、
コアの」
ン セフ トがど
う体 現 さ れ る か を伝
え る ほ う が よい。 精 緻な成 形はず
っ と後の 工程にな る。
そ れ よ り、
そ の前
のプロトタ イ プの モ デ ル の段 階
がコ ン セプ トと造
形の一
体 化に とっ て重 要で、
こ の段 階
で、
な るべ く早く、
かつ自由
に修
正がで きる技 術
が有効
であ
る。特
に二次
元の スケッチ と 三次 元の実体
で は イ メー
ジがか け離
れ て い る こ と も少な くな い。大
ま か な形 状
を素 早
く実体 化す
るこ とで、
頭の中
で思い浮
かべたイ メー
ジに近
づけ て い く必
要 が あ る。 その ためには、
な るべ く早い段階
で実体
モ デ ル と向き合
う こ と が求
め ら れ る。
ま た
、
デザイ ン思考
を上 手
に展 開 す るため に は ア イ デ ア を 形 に す る こ と も 大事
だ が、
それ 以上 に、
他 者とコ ンセ プ トを共 有す
る こ とが重
要 だと考
え られ る。特
に、
多様性
の高
いグ ルー
プ構
成の場 合は、
他者
とコ ンセ プ ト を共 有 する た め に、
「イメー
ジの可視 化
」は、
欠
かせないス テップであ る。多様 性
の高
い グ ルー
プで は言 葉の解 釈の差 が 大 きい こ と も報 告さ れ て お り、
イ メー
ジの可 視 化 が その補 正 を 助 ける こと も 期 待できる。
さ ら に
、
単
にコ ンセ プ トを共 有 す
るだけ
でな く
、
よ り深
い 理解
と し て の 「自分
ご と化
」 を促 進 する た め は、
まず
直 観(
ln
±uition)
を得
る こ と、
そし てその ため に はモデ ル に直
接触
り、
感じ る こ とが大切 だ。
な ぜ な ら、
こ こで共 有 すべ き イメー
ジ と は 実体
の形状
で はな く、
実 体
を介
し て自分
が 「感
じた こ蔽 毛
鞴
∵
∵ 階∵
誌
監
Japanese Society for the Science of Design
Japar ユese Society for the Science of Designと」
、
す な わ ち 経 験の ほ うだ から である。
モ デ ル を持っ た と き の フィ ッ ト感
、
ある い は逆
に違 和感
、
そうい った感 覚 的
な 要素
も含
め、
「自分
が感
じ取っ て いること」 を 他 者と素 直 に 共 有で き る こ と が、
デ ザ イン思考の展 開を 加速す る。
イ メー
ジの共 有 は、
「自分
こ と化
」 を経
て、
デザイ ン倉
1」
造
の次の ステッ プを 促 す。 そ の た め に は、
ラピッ ド プロ ト タ イ ピング等の3D
モ デリ ング 技
術が役に 立っ。
上 述の内 容に限ら
ず
、
技 術 的 な 側 面 か ら3D
プ リン トにっ い て、
数 多 くの報 告 や 調 査 が 行 わ れているが、
総じ て、
デザイ ン 思 考がよ り チャレン ジング な もの に なるた めには早
い段階
で、
かつ、
素 早い実 体 化 ができる モ デ リ ング が 必 要 だ という こ とが 確 認でき る だ ろ う。
一
方で、
ものつ く り に 取 り組 む 者にとっ て の魅 力は実 体 を 生 み出 すこと に あ り、
自 ら がつく り だ し た 実在
するイメー
ジ と 向 き 合う こ と や、
手こ た え の あ る イ ン タ ラ ク ショ ン が で き る こ と にある。
次
の項で、
3D
プリン ト技
術 を 用いたデ ザ イン の事
例 を紹
介しなが ら、
具 体 的に ど のよ う な 役 割 を 果 た して い るの か、
説 明し て い き た い。
3 .
事例 報 告
本 稿
で は、
3D
プ リン ト技 術 の 特 長、
及 び、
そ の 過 程 が どの よ う に 新 しいアイ デア の創 出 や価
値 に結
びつく か を考
えるた め に 「デザイ ン 思考 」 との関 係に注目 し、
モ デ リ ングの 果 た す役 割 を 議 論 を している。
そこで、
この項では、
3D
プリ ン ト技術
を 用いた もの づ く りの実 践 例 を 紹 介 すると と もに、
それ を用 い ることで 「デ ザ イン思 考 」 に よ る イ ノベー
ショ ンデ ザ インが ど の よ うに支 援 さ れ、
ま た、
今 後どのよ うな 可 能 性 が 広 がっ てい くの か、
検 討 していく。
3−1,
サ イ ズ と イ メー
ジ 言 葉での や り と りで、
な か な か イ メー
ジ が 共 有 し に くい’
1・
E
報 があ る。
例えば、
質 感 はことばで は 表 現 しに く く、
最 終 成 果 物 が 完 成 す る まで、
な か な か 共 有でき ない。
重 さ も 数 字で表 さ れ た だ けで は、
実 際に手に持っ た ときの重 みが どれ ほどの ものか は伝
わ りに くい。
これ らの情 報 を 実 体 がで き あ が る よ り 前 に、
感 じ 取っ た り理 解 し あ うこと が ものつく り 支 援 技 術の課 題 と なっ てい る。
そ のな かで、
3D
プ リン ト技 術 が 解 決できる問 題 として、
スケー
ル、
あ るいは、
オー
ダー
と称 さ れ る サ イズ感 が ある。
サ イ ズ感は数 字で表 現で き る よ うで、
な か な か伝え に くい。
しか も 「お よ そ どの程度
の大 き さなのか1 に よっ て、
実 体の持つ 意 味 や 印 象が大 き く 異 な る 場 合があ る。
3D
プ リン ト で、
各 種のサ イ ズ を 実 体 化 し 比 較 するこ とで、
ぴっ た りのイ メー
ジ にな る 大 きさ を見つ け ること がで き る。
ユー
ザや クライ アン トに、
それ を 実 際 に 手 に 取っ て確 認 しても ら うこ と ができ るのは、
も のつ く りの過 程で役 に 立つ。
42
デ ザ イン学研究特集号SpeGial
lss]eofJapaneseSocietyfortheScle
冂
ceefDeslgn Vol
、
22−
4 No.
88 2015。
邏
図 1 灯 りをモチー
フに した ミニ サ イズの オブ ジェ一
時
、
「カワ イ イ 」 が ブー
ム になっ たことが あ る。動物
も 飛 行 機も家 具も日用 品も、
ミニ チュ アサ イ ズにしただ けで 「カワ イ イ」 グッズとなる。
恐 竜 や工場ですら シ リー
ズ 化 さ れるほ ど、
ミニ チュ ア モデ ル は 人 気 は 高い。
こう した グッズ は あ ら ゆ る 分 野の実 物 をモチー
フに、
サ イズを 変 えていくことで生み出 さ れ る。
これ ら は 単 な る ○ ○ 分の1
に 縮 小 した 模 型で は ない。
リ サ イズ によっ て原 型となるモノが もつイ メー
ジ や 意 味 を 書 き 替 え る一
これ は、
最 も 基 本 的 な リデ ザ イン の方 法である。
特
に ミ ; チュ ア では数
ミ リ メー
トル の違
いが印 象
を変
える。 そ の際
、
リ サ イズは均一
に行わ れ る ので は な く、
デフ ォ ル メ が施さ れる場 合
が ある。 歴史 的
な秀 作
と される美術 作
品の分 析か ら人 間 の 認知 的 な 癖を利
用 し た、
デ フォル メ の効
果が指
摘さ れて い る10 }。
ミニチュ アサ イ ズの造 形 に おい ても局
所 的 なリサ イ ズ が 効 き 目 が ある。
3D
プリ ン ト技 術 を用 いる と、
様々なリ サ イ ズのパ ター
ンや、
局 所 的 なデ ィフォル メ の効果
を 実際
に見
て確
認できる。
「キ ャラク ター
もの」 の流 行 やキャ ンペー
ングッズ の配 布 な ど、
ミニ チュ アサ イ ズの フィギュ ア作
成の機
会は少
な く ないが、
本 格 的に生 産 する前の試験 開発
とし て、
リ サ イズモ デ ル の各パ ター
ン の印 象 比 較と コ ス ト計 算の兼ね合い で、
最も 合 理 的 な サ イ ズ を 決 定 すること も 可 能である。
図1
に 灯 り をモチー
フ に したミニ チ ュ ア・
オ ブ ジェ を示す。
実 際の街 頭 は 自 由 自 在 に 並べる ことはで き ないが、
ミニチュ ア・
オ ブ ジコニによっ て幻 想 的 な 光 景 を仮 想 的に作る こ とができる。
3−2.
ラ イフス タ イ ル 創 造 最 近、
「何を デ ザインす るのか 」 とい う 問 題が、
ことさら問 わ れ る よ う に なっ た。
高 付 加 価 値 を 目 指 し た デ ザ イン戦 略 だ と いう考え方もあ るが、
そ れだけでは ないだ ろう。
プロダ ク トデ ザ インに おいても、
サー
ビ
スデザ インに おいても、
デザ イン対 象を狭 くと ら えるの で はな く、
人 間の関係の 先 をと ら えよ うと して い る。
例 え ば、
デザ インに よっ て創 出 さ れるユー
ザの経 験 を価
値として説 明 す る ケー
ス が少 な く ない。
一
Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japanese Society for the Science of Designsu
ぬ」
お
縛
図2
3D
プ リン ト技 術 に よ る卓 上八一
ブ栽培 キッ トしか し
、
そ れら は決
して ユー
ザ や 顧客
を満
足さ せれ ば充分
と い う もので はない。
新しい ラ イフ ス タ イ ル を提案
す る こ と で、
よ り豊
か な社
会の創出
に もつな が る。
ウェル ビー
イング
やサス ティナ ブ ル な ラ イフ スタ イ ル を 未 来 の 価 値 と していくソー
シャ ル デザ インだ といえる。
図
2
は、
卓
上ハー
ブ 栽 培 キッ トだ が、3D
フ リン トで好 みの フォルム や サ イ ズで作る こと がで きる。
照 明 器 具 も 兼 ねてお り、
生 活の場 に 緑 を 活 か す た めの アイ デア であ る。
単 体 と して見
ると水耕 栽 培器
の デザ インだ とい えるが、
そ れ 以 上 に、
リラ クゼー
ショ ン の効 果や、
自然
志 向の ラ イ フ スタイ ルを 提案
する こ と で、
生 活
の質 的 な 豊
か さ を求
め る実現
を促 す
もの である (図3
)。
_ 図3
緑 に親し む ラ イ フスタイ ルの提 案自分 た ち が 使 う ものは 「買 うの では な く作 る 」 (
Do
It
Yourself
)
と い う考
え方 は、
自分で できることは 自 分で行 うという 基 本 的 な 考え方 を示 し てお り、
も と も とは 戦 後の復 興 活 動として欧米
を中
心 に 拡 がっ た もの であ るが、
日 曜 大工 など、一
般 人で も ホー
ムセ ンター
や ネッ ト販 売で、
専 門 業者
が使
う よ うな道
具 や資材
が 入 手で き る だ けでな く、
初 心 者 向 け に キット化 さ れ た商
品も販 売さ れ て い る。
日常 生 活 を よ り豊 かにする創 造 活 動 と して、
ものづく り
に親
しもうとす
る人
々 は数 多
く、
工芸
や家
庭 菜 園 と と も に ラ イフ スタ イ ルとして普
及 し ている。今
日の、
FabLab.
や ものづ く りの民 主 化と提 唱 さ れ るパー
ソ ナ ルフ ァブ リケー
ションが 隆 盛 す る 基 盤 の価 値 観 だ とい え る だ ろ う。
手 作 り主 義 か ら よ り本 格 的 な 機 械 に よ る 製 作へ 展 開 す る 過 程では、
デ ジ タ ル デ ザ インに よ る 造 形 と、
3D
フ リン ト技 術の普 及 が 強 く影 響 を 及 ぼ し たと考 え ら れ る。
「自 分でつ くる 」 とい う 基 本 理 念 は、
自 分の家 庭のものだ け でな く、
公 共性
に 通 じる考
えであ る た め、
市 民 参 加 型の社 会 運 動と し て の一
面 も有 する と ともに、
発 展 途 上 国 との格 差 問 題や
、
貧 困等
の世 界規 模
の複 雑
な問
題 に 対 し、一
般市
民でも活
動 と し て参
加で き る範
囲 を 拡 げる と ともに、
技 術 を 高 度 化 する こ と にっな がっ て い る。ラ イ フ スタイ ル の
創
造を求め る人 々の 「生 き 方 探し 」 と もい える 「デザ
イン思考
」 は、
3D
プ1丿ン ト技 術
に代 表
さ れる個 人
の も のづ く りの高度
化 と 結 びつくこ と で、
社会 改革
にも 通 じ る ムー
ブ メン トへ と展 開 す ると予 想 さ れて いる。
3−3.
イ ン ター
プ レ イ・
メ ディア ものっく りの 喜 び や 楽 し さ を、
さ ら に 強 め る 要 因 は、
ア イ デ ア を 展 開 す ることで相 互 作 用 的 な 効 果 が 予 見 さ れ るこ と であ る。
上 述のと お り
、
D
」.
Y
.
やパー
ソナル ファブ
リケー
ションな ど による自分
の生 き方
も社 会
へ の参
加 に 対 しても、
「よ り創
造 的 な ラ イ フ ス タ イ ル」 の実
現は、
そ う いっ た価 値観
を 「共 有 」 し たいという動機
を 引 き おこし、
「伝 える 」 「教 える」 というの行 動 に結 びつ く。
特 に、
子 ど も た ち を 対 象 に 「教 え たい1 こと は、
大 人 の 世 代 に とっ ては 失 わ れてし まっ た、
あ るい は 失 わ れつ つあ る 自然 や 文 化 な ど、
環 境への 意 識 に 裏 打 ち さ れ た も ので あ るこ とが 少 な く ない。
環
境 教 育 は、
理 科 や 社 会 科といっ た 科 目の知 識 を 教え るだ けでは不十 分で、
それ ら を 総 合 する環 境 に 対 する意
識 や、
自然 を 大 切 に する意 欲 を 育 く むことの ほ うが本 質 的だ。
そのた め に、
目に 見て 手 に触
れ ることを 通して興味
関心
を高
める教 材
の果 た す 役 割 は 大 きい。
顕 微 鏡でみ るミクロ の世 界は子どもた ち の心を と ら え、
好 奇 心 を 揺 さ ぶ る が、
川 上 は3D
プ リン ト技
術 を 駆使
し て、
子 ども たち にタンパ ク質の仕 組み を体 験さ せて く れ る11)。
こ う し た 体 験 が ど れ ほ ど未 来
に対
す る行 動
に影 響
する か計
り知 れ ない。 各 国で、
科 学リ テ ラ シー
教育
が強 化さ れてい る が、
デー
タ に基 づいた推 論
や議 論
への態 度
が重視
され
て いるが、
最
も 重要
なこ と は、
そ の動機
で あ り、
そ の きっか け は体
験によっ て引 き 出 さ れ る好奇 心
と問いに他
ならない。 これ が、
デザ イン思考
におい て最 も重 視
され る 「探 求心
」 に通 じ る こ と は明らかである。欝
ヤ
∵
1
∴
[
焦
Japanese Society for the Science of Design
Japar ユe呂e Society for the Science of Design探
求心 を 生 む教 材は、
知 識 や 解 を 伝 授 する こと を目的と し た教材
と は基本
的に異 な る。
世 代 間の違いや 分 野の違いを超
え、
探 求心 を共 有す る 「イン ター
プ レイ 」 を 創 出 する メ デ ィ ア と し て理解
す る ほ う が適 切で ある。
思 考の道具 で あ るだけで な く、
デザイ ン 思考
的な問 題 発 見の フ ィー
ル ドでも ある。國 藤
ら は、
蟻
の行動
を観 察
す ることで集 合 知 を 探 求 する と と も に、
子 ど も た ち や 大 人 が 共 同で新 しい知識
を発 見
する 「知 識創 造
の場」 を 提 供 している12 }。
様 々 な 通 路のパ タ
ー
ン(
図4
)
は、
3D
プ1丿ン ト技 術で作 ら れ、
個 々の組み合 わせ る こ と に よ り、
全体と して 大 規 模 な 観 察 結 果 を 得 ることが 可 能である(
図5
)
。
図4 3次 元 プリ ン タ で生 成 さ れた多様 なパター
ン 図5 蟻の探 索 行動 を観 察す る教材こう した 「探 求 心 」 に
牽
引 さ れる行
動は、
科 学 者
や芸 術家
の インター
ブレ イ を醸 成し て い る。
そ の た め に、
3D
プ リン ト技 術 は、
リア ルな サ イエ ンス の実験
ツー
ル と、
実 験
のマイン ドを 提 供 しているといえる。
例えば、
テ オ・
ヤ ン セ ン が 発表し た風 で動 く 「ス トラン ド ビー
ス ト 」 は、
芸 術 分 野 に 限 ら ず 世 界 中の 科 学 技 術 者の注 目 を あつめている。
アイデ アを 短時間
で具現化
44
デザイン字酬究特集 号 SpeGial lssueotJapaneseSocietytortheSclenceefDes/gn Vol.
22.
4 No.
88 2015 で き る3D
プ リン ト技 術との 出 会いが、
実現
を も たら したこ と をヤンセン自 身 が 語ると と もに、
もっ と多様
な可能 性
が3D
プ リン ト技 術 に 潜 在 して い る こと を指 摘
し て い る13)。図
6
は、3D
プリン ト技 術により地下 の構
造 を モ デ リング し たもの であ る。
自分 た ち が 立っ て い る地面
の下はどうなっ て い る か、
また、
地 下の水 脈の仕 組み を知る こ と で、
身
近な自 然と 水の大 切 さ を 考 え よ う とい うものである。
水
の利 活 用 方 法 を 探 す た めに友 人 や 大人
た ち と協働
で、
よ り詳 細 な 構 造 を 追 究 し、
モ デ ル をつ く る こ とで、
環 境の複 雑さ を理 解 するこ と ができ る。
4 .
展 望
4
−
1
.
探
求ツー
ル と し て の3D
プリン ト技 術前
項で は、
著 者
らの作
品 を事
例 と して取 り上 げ な がら、
3D
プ リン ト が ど の よ うな 特 長と可 能 性 を 持っ ているか を 述べ た。 サ イズと イ メー
ジの 関 係 か ら リサイズによる意 味 生 成の 可能 性
と、
そ れに寄 与 す る3D
プ リン ト技 術の機 能、
ま た、
プロダ ク トやサー
ビス の提 案 を 通 じ たラ イ フ スタイ ル の デザイ ンへ の3D
プ リンタの役 割、
さ ら に、3D
プリン ト技術
がも た らす、
探 求 心 を 共 有 するインター
プレ イ の メ ディア を述べ た。
いず
れ も、
ア イ デアを 比 較 的 短 時間
に、
かつ簡
易な方法
で実
現 化 す る ことが 利 点 と なっ ている。4 −2 .
イメー
ジ を 伝え る こ と の威
力3−1
で、
デザイ ン思考
におい て はイメー
ジ を 伝 え、
他 者 と 共 有 する こ と の重 要1
生 を 述べ た。
イ メー
ジを 表 現 する技 術 と して の3D
プ リン トの可 能性
はどん どん進
ん で いる。事
例で 紹 介 し た サ イ ズイ メー
ジの他に、
3D
プ リン ト技 術が期 待されて いる イ メー
ジ 表 現 は、
「質
感」 である。3D
プ 1丿 ン タによ る 造 形 は 樹 脂 や 石 膏とい っ た 材 料 が 開発 さ れ て い る だ けで な く、
ど ん ど ん新 しい 材 料 が 試 験 さ れている。
し か し、
それ以
上に表
面 加 工 によっ て質 感の リア ルな 表現
が開発
され
て いる14 )。 これ は、
人 間の知 覚 が 視 覚 が 優 勢で あ る こ と に も関 係し、
「D3
テ クス チャー
」 の進 展 は、
イ メー
ジ探 索
に お い て、
新
しい方 向 性 が あ ると 考 え ら れ、
将 来、
有用な 技 術で あ る。
4−3.
新 しい用 途 が も た ら す革 新
上述し た が、
新 しい デザインの倉1」出は コ ン セ プ ト に よ る も の で、
形 状 そのものか ら生 ま れ る わ けでは ない。
言い換 え れ ば新
しいデ ザイン と は、
新 しいデザ インの意 味 をつ くる こ と に他な らない。
そ れ が、
新 しい ものや サー
ビス の価 値 につな がる場
合、
革 新 的 だと評 さ れ、
さ ら に は社
会 的 なイ ノベー
シ ョン を引 き 起こす 場 合 も ある。
そ う した 新し い デザイ ン の創
出は既存
の コ ンセ プ ト を融 合 す ることで生 じ ると考 え ら れている。
取
り上 げ た事
例では、
LED
等
の照 明 技 術 を前 提としているが、
水 耕 栽培
と い う用途
か ら発想
さ れ た ア イ デ アであ る。
さ ら に、
太 陽 光Japanese Society for the Science of Design
NII-Electronic Library Service
Japar ユese Society for the Science of Design艦
酌
彗
畿.
.
、
織
図6
3D
プ リントの モデ ル を 使って子 ど も た ち が 自 分の暮 ら す 町の地 下 構 造と水 脈の仕 組 み を 探 る 過 程 発 電 な ど環
境・
エネ ル ギー
分 野の技 術 融 合 も 見 込まれて い る が、
ラ イ フ スタイ ル の創 出 と、
技 術 融 合 に よる新 しい コ ンセプ トの実現
は どこかで接 合 して いる といっ ても よい。
3D
プ1丿 ン ト技 術の 用途と し て は、
取 り 上 げ た 事 例の他に、
文 化 財
の レプリ力制 作
による保 護
と普
及、
建築
やバイ オ 領 域 や 医 学な ど情 報
の共有 化
を超え た知の 公共 化 が 期 待 される分野 で のインター
プレ イ15〕、
また、
繊 維
や食 品 等
を 対象
と し た3D
プ リ ン ト の用 途 が新
しい材 料
の開
発 を 促 している16 〕。
3D
プリ ン ト技 術は デザイ ン 思考 と 相 まっ て、
もの づ く りの 民 主化
と称
さ れるな ど、
産業 構
造 や業 界
の仕 組み、
さ ら に は、
流通 の仕組
み やユー
ザの立 場 を 根 本 から変え る革 新 性 を 秘 めて い る。【
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