てんかんの手術を受ける患児に対するプレパレーション
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(2) この調査で明らかに出来たことは、以下の点である。 看護師は、患児に、何らかの形で理解してもらえるように、 なぜ手術をするのか、目的を伝えたい思いがあった。発達障害 がある、多動がある、知的障害があるなど、さまざまな障害が ある中でも、看護師は手術を受ける当事者に、その目的を伝え ることが重要であると考えていた。しかし、その一方で、看護 師の中には、「親にさえ伝わればいい」「患児はわかっているの か、わかっていないのか、その判断が難しい」という、発達レ ベルに応じた理解度への限界も感じていた。看護師は、この相 反する気持ちの中で、あきらめを感じつつも、患児一人一人へ の特性を考え、どう伝えれば不安や恐怖を増強せずに伝えられ るかを、試行錯誤していた。プレパレーションは、「ある特定 の目的や予定されている出来事のために、‘もの’や‘こと’. 図4 米国における小児医療におけるインフォームド・コンセントと インフォームド・アセント6). 4.子どもが楽しめ、親に説明もできるプレパレーション. を準備していくプロセスである」と一般的に定義されている5)。. ツール. 看護師はその定義をしっかりと把握しているため、手術を受け. そこで、どのようにしたら効果的にプレパレーションができ. る患児自身に「手術を受ける」事実は理解してほしいとの看護. るのか。プレパレーションを受ける一人ひとりにアレンジでき. 師の思いが強くあったのではないか。. るようなツールが必要と考え、研究結果をもとに、ツールの作. このような状況から、「手術への励まし」の項目が最も多く. 成を開始した。制作者に、研究結果を示し、説明をした。しか. あったのではないかと考える。看護師は患児に頑張ってほしい. し、制作者は医療従事者ではないため、「てんかん」を知らず、. と願う姿があると明らかになった。患児の力になりたい看護師. 「障害がある」「発作がある」ということは、想像がつかない。. の願いが感じられ、看護師は悩みながらも「一緒にがんばろ. どのように作成したらよいか、かなり悩んだことと思う。「手. う」と患児や親へプレパレーションを実施していた。. 術の目的」を伝えるには、と提案されたプロトタイプが写真. また別の考えかたも抽出されていた。不安を煽りたくない、. 1∼3である。看護師は手術の目的を一番重要と考え、また親. しかしこれから起こる事実については説明しなければならな. に伝わればいいと考えていることもあると伝えると、このよう. い、と考える看護師は、親と相談しながら伝える項目を選択し. なツールが出来上がってきた。. ていた。「『おしっこの管』が想像できない方もいる。私たちに. 写真1は、手で顔を半分かくしている絵本の表紙である。こ. とっては当たり前のことだけれど……」と、話す看護師もい. れから、何が始まるのか、何が見られるのか、ワクワクして子. た。どの看護師も、具体的に起こりうることを人形や紙芝居を. どもが開く様子が目に浮かぶ。窓のようになっていることも、. 使用し、保育士とも連携しながら、患児がより理解できるよう. よく考えられている。「BOY」となっているので、これはもち. に関わっていた。. ろん男の子用である。女の子用は別にある。自分のこととして. 患児が「怖い」「いやだ」と感じるものはそれぞれ異なって いる。また、患児の発達や理解力などを一番把握しているのは. 意識させるためには、自分の性別にあったプレパレーション ツールを使用すること、実はとても重要なポイントである。. 親である。親との信頼関係を築き、患児が納得して手術を受け られるように援助していくことが必須になってくる。 米国小児科学会での生命倫理委員会では、子どもへのイン フォームド・アセント(informed assent) 、そして親への許 可(parental permission)があって、インフォームド・コンセ ント(informed consent)が成立するとされている(図4)6)。 実際看護師は親と連携を図りながらプレパレーションに取り組 んでいた。また、親も医師からの説明を受けた後、看護師の 説明でわからないことを確認していた。自然と子どものイン フォームド・コンセントを取る体制ができているのではないか と考える。 写真1 プレパレーションツールのプロトタイプ(男児用). デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 11.
(3) わればいい」とする看護師の考えは「理解度へのあきらめ」と とらえていたが、親が理解することで、親から患児へ説明がさ れることも期待される。そして親が説明することで患児の理解 も生まれてくる可能性があるのではないだろうか。 写真4、5は着せ替えをし、「病衣に着替えて手術室に行く」 ことを理解してもらうツールである。同じく、親への説明も記 載されている。着せ替えや、ツールのイラストが変化すること で患児と親が一緒に遊ぶことができ、同時に手術へ向けての準 備ができるのではないかと考える。 写真2 開いたり閉じたりして遊べる工夫がある. 写真3 親への説明が引き出せる. 写真2は、疾患部位である、頭の中が見られるような工夫が してある。これは患児にとってはショッキングな絵かもしれな. 写真5 同じく親への説明が書かれている. い。「頭の手術」を、なぜしなくてはならないか。これを患児 たちに言葉だけで説明して、理解してもらうには非常に困難で ある。「頭の中のかみなりゴロゴロ……いじわるをしています」 このキャッチフレーズは、とても見事である。医療現場では、 ‘こどもに恐怖を与えてはならない’としているので、この ツールの使用は反対される可能性も高い。実際の使用にあたっ ては、保守的な医療の世界に立ちはだかる、いくつもの壁を乗 り越えなくてはならないが、患児たちの「知りたい」に応えて. 写真6 点滴や膀胱留置カテーテルの説明. いくためにも、ぜひ使っていきたいと考えている。 写真3は、親への説明である。松本ら7) は、親子が視覚的. 写真6も工夫が凝らしてある。点滴の説明だ。「点滴はごは. に手術の流れが確認できると、親が患児に具体的な声かけや励. んにかわるもの」と説明している。これは「点滴は痛いけれ. ましの言葉をかけることできることを報告している。「親に伝. ど、大事なものだ」ということが患児に伝えられる。点滴ボト ルを裏返すと、食べ物が見えてくるのは、患児もワクワクする に違いない。 このツールはまだ作成途中であるが、今後も制作者と意見交 換をしながらプロトタイプを作成していきたいと考える。. 5.デザインとプレパレーション 幼児は感覚を主に物事を認識するため、視覚的な道具が説明 写真4 着せ替えをして遊べる工夫がされている. 12. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. に役立つことが多い8)。繰り返し、道具を用いて説明すること.
(4) で納得することができる。患児が好む配色、キャラクターで、 少しでも「楽しい」と思える工夫が必要であるが、これは、看 護師の力だけでは十分にはできない。デザインの力との協働作 業によって、患児の不安や恐怖を少しでも軽減できると考えて いる。 プレパレーションが導入され始めた当初は「ツールを使用す ることがプレパレーションだ」と間違った考えを持つ看護師が 多かったが、「ツールを使うだけがプレパレーションではない」 という考えが徐々に浸透しつつある。患児の権利を尊重する、 守る意味では、確かにツールを使用しなくてもプレパレーショ ンは実施可能である。しかし、ツールがあることで、プレパ レーションを考えるきっかけになると考えている。特に、手術 に関しては患児に伝えたいことがたくさんあるため、ツールが あるほうが説明しやすい。患児が手術を受けることは、親も不 安であり、自分のこと以上に心配で仕方がない一大事である。 親との信頼関係ももちろんである。親も十分理解し、患児が遊 びながら納得できるようなツールをさらに検討していきたいと 考える。 【引用文献】 1)師田信人,齋藤弘恵,竹内理恵,他:小児における機能的 (9) :1011-1021,2009. 脳神経外科,Brain Nursing,25 2)前掲1):1011-1021,2009. 3)崔 烘碩,岡崎 章:製品の感性評価ツールの開発─概念 モデルの可視化を中心に─,日本感性工学会論文誌,11 (2) : 289-295,2012. 4)中原明日香,奥園夏美:PNS における暗黙知獲得に向け た気づきの言語化や共有化の実態,日本看護学会論文集 【看護管理】,45:7-10,2015. 5)平田美佳,他:プレパレーションとは,チームで支える! 子どものプレパレーション,中山書店,20-25. 6)平田美佳,他:子どもの権利とは,チームで支える!子ど ものプレパレーション,中山書店:14-17,2012. 7)松本美津江,西宮由美子,山下和子,他:小児周手術期看 護の充実 患児に合わせたプレパレーションの実践と親へ の関わり,逓信医学,66(3),171-175,2014. 8)竹乃内直子,松岡真里:アセスメントに必要な技術,小児 看護学概論,医学書院:282-283,2015.. デザイン学研究特集号 Special Issue of Japanese Society for the Science of Design Vol.24-1 No.93 2016. 13.
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