資
料
授乳に伴う乳頭組織の変化過程
Change process of nipple tissue after initiating breastfeeding
中 村 真 弥(Maya NAKAMURA)
*安 積 陽 子(Yoko ASAKA)
* 抄 録 目 的 本研究の目的は,「授乳に伴う乳頭組織の変化過程」に関する説明モデルを提示することである。 対象と方法 対象は市内Aクリニックに産褥入院中である20歳以上の日本人女性50名である。研究デザインは前 向き観察研究である。調査内容は,経日的な乳頭部の画像データ,10段階の得点を用いた左右の乳頭 痛についての質問紙調査,母児の背景情報や授乳に関する診療録の情報である。画像は画像補正ソフト で色調と画像サイズを統一した後,パソコンディスプレイに経日的に並べ,先行研究にて抽出した7つ の乳頭組織の変化の所見に着目して 3 人以上で観察した。これらを変化の順序,同一所見の経日的変 化,所見間の関連性の観点で整理し,説明モデルを作成した。 結 果 乳頭を経日的に撮影した776枚の画像を分析対象とした。授乳により乳頭組織に生じる変化の順序と して,①【発赤】【腫脹】の発生→改善または治癒,②【発赤】【腫脹】→【離開】→上皮化→治癒,③【離 開】→治癒,④【発赤】【腫脹】→【水疱】→破綻→【痂疲】,⑤【水疱】→破綻→【痂疲】,⑥【発赤】→【痂 疲】,⑦【発赤】【腫脹】→【痂疲】→剥離部【発赤】の7パターン,同一所見の経日的変化として,【離開】 の経過,【水疱】の経過,血性痂疲の発生パターン,【痂疲】の剥離のサインの4点,所見間の関係性とし て,【発赤】【腫脹】と【痂疲】【水疱】の発生,【腫脹】と【水疱】,【腫脹】と【痂疲】の悪化・剥離,【紫斑】 【皮膚剥離】とその他の所見の4点が明らかとなった。 結 論 経日的な画像分析より,「授乳に伴う乳頭組織の変化過程」の説明モデルを作成した。【発赤】や【腫脹】 といった乳頭組織の小さな変化に着目して観察することで,深刻な乳頭損傷を予防できる可能性が示唆 された。 キーワード:授乳,画像分析,乳頭組織,変化過程,乳頭観察 2018年11月19日受付 2019年9月3日採用 2019年12月27日公開 *北海道大学大学院保健科学研究院(Faculty of Health Sciences, Hokkaido University)Abstract Purpose
The aim of this study was to clarify the change process of nipple tissue after initiating breastfeeding. Methods
Fifty Japanese breastfeeding women were enrolled at an obstetrics and gynecology clinic in Sapporo, Japan, from October 2016 to January 2017. Collected photographs were processed for color correction using CASMATCH®(KENIS Ltd., Osaka, Japan) and size correction using image-editing software (Photoshop 6, Adobe System Inc., Tokyo, Japan) and were displayed in chronological order. Visual analysis was conducted by three researchers based on the following seven nipple skin changes defined in a previous study:“erythema”, “swelling”, “blistering”, “scabbing”, “fissure”, “purpura”, and “peeling”. In addition, these data were analyzed together with nipple pain and characteristics of partic-ipants. Observed results are organized based on three factors: the order of signs, chronological changes in one sign, and the relationship among the sings. A model was developed to describe the change process of nipple tissue.
Results
A total of 776 images were collected, and the following 15 patterns pertaining to the change process of nipple tissue were revealed. There were seven patterns pertaining to the order of signs: 1) development of“erythema” and/or “swelling” → improvement or healing; 2) “erythema” and/or “swelling” → “fissure” → epithelialization → healing; 3) “fissure” → healing; 4) “erythema” and/or “swelling” → “blistering” → rupture → “scabbing”; 5) “blistering” → rupture→ “scabbing”; 6) “erythema” → “scabbing”; and 7) “erythema” and/or “swelling” → “scabbing” → “erythema” of the peeled area. There were four patterns of chronological changes in one sign: 1) course of“fissure”, 2) course of “blistering”, 3) developing patterns of bloody “scabbing”, and 4) signs that predicted peeling of “scabbing”. There were four patterns of relationships among the sings: 1) relationship between“erythema” and/or “swelling” and development of“blistering” or “scabbing”, 2) relationship between “swelling” and “blistering”, 3) relationship between “swelling” and“peeling” or worsening of “scabbing”, and 4) relationship between “purpura” and/or “peeling” and the others. Conclusion
The change process of nipple tissue after initiating breastfeeding was presented based on daily nipple images. The findings of this study suggest that observations focusing on minor changes in the nipple tissue, such as “eryth-ema” and/or “swelling” prevents more severe nipple trauma that can lead to the discontinuation of breastfeeding. Key words: breastfeeding, image analysis, nipple tissue, change process, nipple observation
Ⅰ.緒 言
母乳育児は児の栄養学的意義をはじめ,母児の多様 な疾患リスクの減少,愛着形成の促進といった,母児 双方にとっての多様な意義が報告され(Mosca, et al. 2017),世界的に推進されている。一方,本邦での平 成27年度乳幼児栄養調査(厚生労働省,2016)による と,妊娠中93.4%の母親が母乳で育てたいと考えてい たものの,出生1か月児の母乳栄養率は51.3%であり, 約半数の女性が妊娠中に望んだ授乳方法を実現できて いない。 母乳育児支援にあたり,解決すべき授乳における課 題のひとつに乳頭損傷がある。乳頭損傷は,乳頭皮膚 への物理的な刺激により発生する。乳頭損傷に伴う痛 みは,母親の精神的な負担となるばかりではなく,授 乳の中止や授乳回数の減少を招き,乳汁分泌量を低下 させる誘因となる。さらに,乳頭損傷による皮膚連続 性の破錠は,乳腺炎のリスク因子ともなる。このよう な乳頭損傷は,産褥早期の母親の29~76%が経験する とされ(Vieira, et al. 2013),母乳育児を断念する主要な 理由として挙げられている(Odom, et al. 2013)。よっ て,乳頭損傷の発生を予防すること,また,発生して しまった乳頭損傷の悪化を防ぎ,早期治癒にむけた支 援をすることは母乳育児支援における必須事項である。 母乳育児をはじめた母親を支援する際,助産師は乳 頭組織の状態を肉眼的に観察,評価し,勤務交代後の 助産師に引き継ぎながら支援を継続する。しかし,先 行研究において乳頭損傷の定義や分類,評価方法にコ ンセンサスが得られておらず,同一皮膚損傷に対して 異なる評価が行われている可能性が指摘されている (Cervellini MP. 2014)。実際に文献検討すると,既存 の乳頭損傷評価尺度のうち,研究者が発赤や出血など の所見に重症度の順位付けをした尺度において,所見 の種類と重症度の位置づけには相違があった(中村 他,2017)。このような評価の相違は,助産師による 一貫した継続支援の妨げとなる。さらに,軟膏の塗布や創部の保護など多様に存在する乳頭損傷の予防や対 処方法を比較した研究結果の総括を困難にしている (Dennis, et al. 2014;Vieira, et al. 2013)。
このような評価の相違は,助産師が日常業務のなか で乳房を詳細に観察し,さまざまな言葉を用いて記述 してきたこと(宮下他,2015),母乳育児の支援内容 が個々の助産師の知識と経験値にゆだねられてきたこ と(公益社団法人日本助産師会母乳育児業務基準検討 委員会,2016)が報告されているように,個々の経験 をもとに,母乳育児支援が伝承された歴史が影響して いる可能性がある。 本来,乳頭損傷の評価方法は,乳頭皮膚組織にみら れる変化の経時的観察を根拠に,解剖学的視点をふま えて検討されることが望ましい。先行研究において, Ziemerら(1993)は白人女性 20 名を対象に 2 日毎に乳 頭皮膚の変化を観察し,全員に肉眼的に認識可能な皮 膚変化が生じること,乳頭組織にみられる隙間の位置 は授乳による影響で変化しないことなど,乳頭皮膚に 生じる変化の特徴を明らかにした。さらに,日本人女 性を対象とした先行研究において,授乳によって生じ る乳頭組織の変化である 7 所見(発赤,腫脹,痂疲, 水疱,離開,紫斑,皮膚剥離)が特定され,臨床助産 師によりその所見判定の信頼性が確認された(Naka-mura, et al. 2018)。また,各所見は表皮までの損傷で ある【発赤】と【腫脹】,真皮までの損傷である【痂疲】 と【水疱】,乳頸部に生じる損傷である【離開】,見過 ごされることの多い変化である【紫斑】と【皮膚剥離】 に分類された(Nakamura, et al. 2018)。今回,先行研 究で特定された所見に着目し,画像を経日的な視点で 再分析することにより,「授乳に伴う乳頭組織の変化 過程」に関する説明モデルを作成したため報告する。
Ⅱ.目 的
本研究の目的は,「授乳に伴う乳頭組織の変化過程」 に関する説明モデルを提示することである。Ⅲ.研 究 方 法
1.研究デザイン 前向き観察研究 2.研究施設・対象者 調査協力施設は,A市の産婦人科クリニック1施設 である。母乳育児支援の内容の違いによる乳頭組織の 変化への影響を除外する目的で,対象施設を1施設に 限定した。なお,協力施設ではUNICEF/WHO(2009) の直接授乳観察用紙を参考に,2交代勤務の各勤務帯 で一回以上,助産師による個別の授乳指導や乳房状態 の確認が行われていた。搾母乳や人工乳の補足は,母 子の経過について複数の助産師で討議したのちに開始 され,直接授乳後に人工乳首を使用して行われた。正 常な経過をたどる褥婦の場合,母子同室は経腟分娩で 分娩直後もしくは産褥1日目,帝王切開で産褥1 日目 から開始され,帝王切開の場合でも助産師の支援のも と母子同室できる環境が整えられていた。入院期間 は,経腟分娩で産褥 5~6 日目まで,帝王切開で産褥 8~9日目までであった。 研究対象者は,調査協力施設にて出産し産褥入院中 である20歳以上の日本人女性とした。直接授乳を行い ながら授乳方法を確立していくことが見込まれること を条件とし,精神疾患による内服や母子分離等により, 直接授乳を実施しない症例は除外した。研究対象期間 は,研究協力の同意が得られた日から退院日とした。 3.調査期間 2016年10月21日から2017年1月12日 4.調査方法 対象施設のスタッフに紹介された研究対象候補者と 面談し,研究目的,研究方法,倫理的配慮等を説明 し,同意書に署名してもらった。カルテ調査を行い, 対象者の条件を満たしていることを確認した。 5.調査内容 1)乳頭部の画像データ 写 真 撮 影 は, デ ジ タ ル カ メ ラ(Nikon COOLPIX A300 N1517,Nikon,東京)を用いてマクロモードで 約 24 時間毎に行った。記録画素数は,5152×3864dot (2005 万画素)とした。画像補正用カラーチャート (CASMATCH,ケニス株式会社,大阪)を貼付した 18cm定規を創部と平行に設置し,創部と定規から成 る平面に垂直になるよう,正面から撮影した。なお, 写真撮影の信頼性については,木村(1992)の臨床写 真の撮り方,真田他(2009)の明確な写真を撮るため のポイントを参考に,施設の採光状況等を確認した研 究者1名が全ての写真撮影を行うことで誤差が最小限 となるよう配慮した。また,授乳による影響を最小限とするため,授乳後 30 分程度は避けて撮影した。乳 頭先端は各乳頭を 1日1 枚,乳頸部は皮膚変化が観察 された部位を,1部位につき1日1枚撮影した。 2)質問紙調査 「授乳時以外」「授乳開始直後」「授乳中」の 3 時点に おける左右それぞれの乳頭痛について,1 日 1 回,質 問紙を用いて調査した。痛みの調査には,痛みを1か ら 10 の 10 段階に分け,痛みが全くない場合を 1,考 えられるなかで最悪の痛みを 10 として痛みの点数を 問う方法を採用した。 3)カルテ調査 母児の基本属性と今回の分娩に関する項目や授乳に 関する項目について診療録より調査した。乳房形は, 佐世他(2016)や山岸他(2017)を参考に,乳房を側面 から観察し,胸骨上縁から下した直線に対して乳頭か ら直行する線を仮定して求めた乳房の上半分をa,下半 分を b とし,a<b を I 型,a≒b または a>b を II 型,a≫b を III 型とする方法を用いて判定した。また,乳頭形 は佐世他(2016)や金子他(2017)を参考に,乳頭頂の 直径と乳頭側壁の長さが 1.0~2.0cm 程度を「正常」, それ以下を「短小」,それ以上を「大」として判定した。 6.分析方法 1)画像分析について 得られた画像データは画像処理ソフト(Photoshop, アドビシステムズ株式会社,東京)と画像補正用カ ラーチャート(CASMATCH,ケニス株式会社,大阪) を使用し,色調と画像サイズを統一した。本研究で は,先行研究(Nakamura, et al. 2018)で特定された 7 所見に着目し,先行研究(Nakamura, et al. 2018)にお ける帰納的分類で得られた操作的定義に基づき,画像 を経日的な視点で視覚的に再分析した。画像データは 経日的に並べ,部分的な拡大が可能であるタブレッ ト,または,一画面で経日的画像を表示できるディス プレイを使用しながら観察した。各所見の操作的定義 と視覚的な分析の手順を以下に示す。 a.各所見の操作的定義 【発赤】乳頭先端または乳頸部に肉眼的に認識可能な 皮膚の赤みがある状態。皮内出血に至っていないもの とし,痂疲の周囲や痂疲の剥離部にあるものを含む。 【腫脹】乳頭先端または乳頸部に肉眼的に認識可能な 皮膚の腫れがある状態。組織間の断裂を伴う腫脹と組 織間の断裂を伴わない腫脹がある。 【痂疲】乳頭先端または乳頸部の損傷部が血液や組織 液による肉眼的に認識可能な硬い構造物で被覆された 状態。血液によって形成された赤色,茶色,黒色の血 性痂疲と,組織液によって形成された黄色の漿液性痂 疲がある。 【水疱】乳頭先端または乳頸部の表皮内における水様 性成分の貯留により肉眼的に認識可能である透明な弛 緩性皮膚隆起がある状態。水疱のうち紅色である血疱 を含む。 【離開】乳頸部に肉眼的に認識可能な皮膚の離開があ る状態。皮膚欠損がみられる離開と上皮化した離開が ある。 【紫斑】乳頭先端または乳頸部に肉眼的に認識可能な 紫色の色調変化がある状態。 【皮膚剥離】乳頭先端または乳頸部に肉眼的に認識可 能な皮膚表面の剥離がある状態。 b.視覚的な分析の手順 ① 対象画像を観察し,操作的定義に基づき上記の7 所見の有無を検討する。 ② 各所見を前後の画像と比較し,経日的変化に着 目して観察する。 ③ 所見の発生順序,同一所見の経日的変化,各所 見間の関係性の視点で整理する。 内容妥当性を担保するため,画像分析はビジュアル 調査法の一手法である集合的写真観察法の妥当性の高 い解釈をするための方法を参考に,助産学分野の研究 者3名以上で実施した。 2)統計学的分析について 背景情報等の記述統計はJMP Pro12,各所見の有無 と乳頭痛に関する統計は SPSS ver.22を用いて分析し た。各所見の有無と乳頭痛の関連は「所見が観察され た群」と「所見が観察されなかった群」の 2 群に分け, Mann-Whitney U検定を行った。なお,乳頭痛の値は, 「授乳時以外」「授乳開始直後」「授乳中」の各時点の得 点を用い,画像単位で計算した。計算式の具体例を挙 げると,【発赤】の乳頭痛の平均値=【発赤】が観察され た画像の対象者が記載した乳頭痛得点の合計÷【発赤】 が観察された全画像数である。1つの乳頭に2つの【発 赤】がある場合,すなわち乳頭先端と乳頸部にそれぞ れ【発赤】があり,画像が2枚ある場合には,同じ値を 2回採用して計算した。有意水準は5%未満とした。 7.倫理的配慮 本研究は北海道大学大学院保健科学研究院倫理審査 委員会の承認を得て行った(承認番号:16-82)。本研
究への参加は,決して強制せず研究対象者の自由意思 とし,協力を断った場合にも不利益が生じないことを 説明した。写真撮影はプライバシーや羞恥心に十分配 慮し,乳頭,乳房のみを撮影することで個人が特定さ れることのないようにした。
Ⅳ.結 果
1.研究対象者の概要 研究協力が得られた 51 名のうち,胃腸炎症状のた め途中脱落とした 1 名を除く 50 名から解析可能な データを得た。4.76±1.37(日)の観察期間中に経日的 に撮影した 167case,776 枚(乳頭先端 491 枚,乳頸部 285枚)の画像を分析対象とした。 対象となった母親の平均年齢は 30.3±4.7(歳)であ り,分娩歴は,初産16名(32%),経産34 名(68%)で あった。経産婦は全員に授乳歴があった。分娩方法は 経腟分娩45名(90%),帝王切開5名(10%)であった。 乳房形はI型2%,II型78%,III型20%であり,乳頭形 (右/左)は, 短 小(24%/24%), 正 常(72%/74%), 大 (4%/2%)であった。24時間の平均授乳回数は9.4±4.3 (回)であり,産褥日数別では,産褥 0 日目 4.13±4.21 (回),産褥 1 日目 6.96±4.17(回),産褥 2 日目 10.07± 4.91(回),産褥 3 日目 10.34±4.15(回),産褥 4 日目 9.76±4.03(回),産褥 5 日目 10.02±4.03(回),産褥 6 日目9.18±3.57(回),産褥7日目7.96±2.36(回),産褥 8日目 6.50±2.45(回),産褥 9 日目 6.40±0.49(回)で あった。観察期間中に 34 名(68%)が人工乳首を使用 し,29名(58%)が乳頭損傷への対処として100%天然 ラノリン(PureLanTM100® ,メデラ株式会社,東京), 搾母乳または,漢方製剤(タイツコウ軟膏® ,メルス モン製薬株式会社,東京)を乳頭に塗布した。 児の平均在胎週数と出生体重は 38.91±1.20(週), 3225.02±406.06(g)であった。35 週 1 例,36 週 2 例の 早産を含み,そのうち1例が低出生体重児であった。 2.産褥日数毎の各所見の発生率 観察期間内において,対象者全員の両乳頭それぞれ に,乳頭組織の変化の 7所見のうち少なくとも1 つが 観察された。産褥日数毎の各所見の発生率を表1に示 した。産褥 0 日目の【痂疲】と【水疱】の発生率は 0% であり,産褥4日目まで徐々に増加傾向を示し,その 後減少傾向となった。【発赤】は各所見のなかで最も発 生率の高い所見であり,発生率のピークは産褥3日目 であった。 3.各所見の有無と乳頭痛 母親が感じる乳頭痛は,【発赤】【腫脹】【痂疲】【水 疱】の所見がある場合,所見がない場合に比べ,授乳 開始直後と授乳中の【水疱】,授乳中の【腫脹】を除 き,有意に高値であった(表2)。 母親が報告した乳頭痛の平均値は,授乳時以外,授 乳開始直後,授乳中のどのタイミングにおいても, 【痂疲】【水疱】の所見がある場合に【発赤】【腫脹】の所 見がある場合に比べて高値であった。具体的に一例を 挙げると,授乳時以外では,【痂疲】の所見ありで 2.44±1.93,【水疱】の所見ありで 2.37±2.18 と比較し, 【発赤】の所見ありで 2.23±1.69,【腫脹】の所見ありで 2.36±1.74であり,【痂疲】【水疱】の所見がある場合の 乳頭痛の平均値は【発赤】【腫脹】の所見がある場合に 表1 産褥日数毎の各所見の発生率 産褥日数 (画像数) 産褥 0 (16) 産褥 1 (67) 産褥 2 (122) 産褥 3 (157) 産褥 4 (166) 産褥 5 (143) 産褥 6 (68) 産褥 7 (24) 産褥 8 (8) 産褥 9 (5) 合計 (776) 発赤 (n)% 43.8(7) 55.2(37) 66.4(81) (118)75.2 (114)68.7 63.6(91) (35)68 (9)24 (4)50 60(3) 499 腫脹 (n)% 12.5(2) 31.3(21) 36.9(45) 42.0(66) 47.0(78) 32.9(47) 25.0(17) 12.5(3) 12.5(1) (0)0 280 痂疲 (n)% (0)0 23.9(16) 29.5(36) 35.7(56) 41.0(68) 40.6(58) 36.8(25) 33.3(8) 50.0(4) 40.0(2) 273 水疱 (n)% (0)0 6.0(4) 3.3(4) 5.1(8) 5.4(9) 0.7(1) 2.9(2) 8.3(2) (0)0 (0)0 30 離開 (n)% 6.3(1) 10.4(7) 17.2(21) 14.0(22) 13.9(23) 12.6(18) 19.1(13) 29.2(7) (0)0 (0)0 112 紫斑 (n)% 6.3(1) 7.5(5) 7.4(9) (14)8.9 (14)8.4 (12)8.4 7.4(5) 8.3(2) 25.0(2) 40.0(2) 66 皮膚剥離 (n)% (0)0 3.0(2) 4.1(5) (10)6.4 (10)6.0 5.6(8) 2.9(2) 8.3(2) 25.0(2) (0)0 41比べて高値であった。これは,授乳開始直後,授乳中 においても同様であった。 4.変化の順序 代表的な経日的画像を図 1~図 3 に示す。なお,こ れらの 10case は分析対象となった 167caseを助産学分 野の研究者3名で吟味し選定した。 1)表皮までの乳頭先端の変化 ①【発赤】【腫脹】の発生→改善または治癒
Case1(上方の目印)では,Day2 や Day3 にかけて 【発赤】や【腫脹】が発生,増強し,Day4以降に改善し ている。Case2 では,Day2 にかけて【発赤】や【腫脹】 が発生,増強し,Day3以降に改善し,Day5 では健常 皮膚と同様の状態となり,治癒している。Case1, Case2のように【発赤】や【腫脹】が改善または治癒す るという経過は,観察期間中に【発赤】や【腫脹】が増 強する経過を経た Case も含め,【発赤】や【腫脹】が発 生した161Case全てで観察された(図1)。 2)乳頸部の変化 ①【発赤】【腫脹】→【離開】→上皮化→治癒 Case3では,Day1,Day2に【発赤】【腫脹】が観察さ れ,Day3 では【離開】している。Day4,Day5 では離 開部の上皮化がみられ,Day6 では健常皮膚と同様の 状態となり,治癒している。Case3 のように【離開】 の発生以前に【発赤】や【腫脹】が観察された Case は, 【離開】が観察された 27Case のうち 10Case(37.0%)で あった。また,【離開】から上皮化を経て治癒に向 かったCaseは19Case(70.4%)であった(図2)。 ②【離開】→治癒 Case4では,Day1に観察される【離開】がDay2では 表2 各所見の有無と乳頭痛 授乳時以外 所見あり 所見なし Mann-Whitney n 平均±SD乳頭痛 中央値(IQR) n 平均±SD乳頭痛 中央値(IQR) Z p 発赤 499 2.23±1.69 2(1-3) 277 1.85±1.69 1(1-2) −4.44 0.00* 腫脹 280 2.36±1.74 2(1-3) 496 1.95±1.65 1(1-2) −4.43 0.00* 痂疲 273 2.44±1.93 2(1-3) 503 1.91±1.52 1(1-2) −4.72 0.00* 水疱 30 2.37±2.18 2(1-2.84) 746 2.09±1.68 1(1-2.06) −4.72 0.00* 離開 112 2.00±1.40 2(1-2) 664 2.11±1.74 1(1-3) −0.34 0.73 紫斑 66 2.29±1.83 2(1-3) 710 2.08±1.68 1(1-2) −0.91 0.36 皮膚剥離 41 1.41±0.94 1(1-1) 710 2.13±1.72 1(1-3) −3.08 0.00* 授乳開始直後 所見あり 所見なし Mann-Whitney n 平均±SD乳頭痛 中央値(IQR) n 平均±SD乳頭痛 中央値(IQR) Z p 発赤 499 5.01±2.28 5(3-7) 277 4.31±2.48 4(2-6) −4.33 0.00* 腫脹 280 5.14±2.32 5(3-7) 496 4.55±2.38 4(3-6) −3.43 0.00* 痂疲 273 5.74±2.19 6(4-7) 503 4.22±2.31 4(2-6) −8.50 0.00* 水疱 30 5.33±2.10 5(3.25-7) 746 4.74±2.39 5(3-6) −1.48 0.14 離開 112 5.08±1.96 5(4-7) 664 4.71±2.44 4(3-6) −2.06 0.04* 紫斑 66 4.68±2.05 5(3-6) 710 4.77±2.40 5(3-7) −0.01 1.00 皮膚剥離 41 4.29±2.72 5(1-6) 710 4.79±2.36 5(3-6) −1.19 0.23 授乳中 所見あり 所見なし Mann-Whitney n 平均±SD乳頭痛 中央値(IQR) n 平均±SD乳頭痛 中央値(IQR) Z p 発赤 499 3.37±1.90 3(2-5) 277 2.92±2.15 2(1-4) −4.10 0.00* 腫脹 280 3.31±2.00 3(2-5) 496 3.15±2.00 3(1-5) −1.22 0.22 痂疲 273 3.74±2.17 3(2-5) 503 2.92±1.85 2(1-4) −5.22 0.00* 水疱 30 3.63±2.54 3(2-6) 746 3.19±1.98 3(2-5) −0.62 0.53 離開 112 3.91±1.81 4(2.75-5) 664 3.09±2.02 2(1-4) −4.72 0.00* 紫斑 66 3.29±1.89 3(2-5) 710 3.20±2.02 3(2-5) −0.57 0.57 皮膚剥離 41 2.56±2.24 1(1-3) 710 3.24±1.99 3(2-5) −3.04 0.00* Mann–Whitney U 検定 p値:*p<0.05
改善傾向となり,Day3 では健常皮膚と同様の状態と なり,治癒している。Case5 では,Day1,Day2 に観 察される【離開】が Day3 以降に改善し,Day4 では健 常皮膚と同様の状態となり,治癒している。Case4, Case5のように【離開】が直接治癒に向かった Case は 【離開】が観察された 27Case のうち 8Case(29.6%)で あった(図2)。 図1 表皮までの乳頭先端の変化について 図2 乳頸部の変化について
3)真皮までの乳頭先端の変化
①【発赤】【腫脹】→【水疱】→破綻→【痂疲】
Case6では,Day1 の授乳前の健常皮膚から,Day2 で【発赤】や【皮膚剥離】,Day3 では【腫脹】も重複し て観察され,Day4 で【水疱】の発生に至っている。 Day5で は【水 疱】が 破 綻 し,【痂 疲】化 し て い る。 Case6のように【水疱】の発生以前に【発赤】や【腫脹】 が観察された Case は,【水疱】が発生した 18Case のう ち8Case(44.4%)であり,その全てで【水疱】が破綻し た部位に【痂疲】を認めた(図3)。 ②【水疱】→破綻→【痂疲】 Case7(上方の目印)では,Day1の【水疱】がDay2で 破綻し,Day3 で【痂疲】となっている。Day4 では, 【痂疲】と同時に,下方に新たな【水疱】が発生し, Day5で破綻している。Case7 のように発生した【水 疱】が破綻し【痂疲】化する経過は,【水疱】が発生した 18Caseのうち,退院日にはじめて【水疱】が観察さ れ,翌日観察できなかった1Caseを除く17Case全てで 観察された(図3)。 ③【発赤】→【痂疲】 Case8では,Day1 の【発赤】が徐々に内出血様とな り,Day3,Day4 では【痂疲】となっている。Case8 の ように【痂疲】の発生以前に【発赤】や【腫脹】が観察 さ れ た Case は【痂 疲】が 発 生 し た 72Case の う ち, 図3 真皮までの乳頭先端の変化について
30Case(41.7%)であった(図3)。
④【発赤】【腫脹】→【痂疲】→剥離部【発赤】
Case9では,Day1 の【発赤】のある部位に Day2 で 【痂疲】が発生し,Day4まで痂疲面積の拡大を認める。 Day5で【痂疲】は黒色化し,Day6 では【痂疲】が一部 剥 離 し, 剥 離 部 に【発 赤】を 認 め る。 Case10 で は, Day1の【発赤】のある部位にDay2で【痂疲】が発生し, Day4まで痂疲面積の拡大,【腫脹】の増強を認める。 Day5で【腫脹】は軽減,【痂疲】は黒色化し,Day6では 【痂疲】が剥離し,剥離部に【発赤】を認める。Case9, Case10のような剥離部【発赤】は,観察期間中に【痂 疲】が部分的にでも剥離に至った68Caseの全例で観察 された(図3)。 5.同一所見の経日的変化 1)【離開】の経過 Cace3のDay3で発生した【離開】はDay4,Day5で上 皮化し,Day6 で治癒した。Case4 では,Day1 の【離 開】がDay2で改善傾向となり,Day3で治癒している。 このように,乳頸部に発生した【離開】は,上皮化を 経て治癒するパターンと,【離開】から直接治癒にむか うパターンがあった。また,発生した【離開】は,通 常 1~2 日で上皮化または治癒するという経過をた どっていた。 2)【水疱】の経過
Case6では,Day4 で発生した【水疱】が,Day5 で破 綻し,【痂疲】化している。同様に,Case7では,Day1 の【水疱】が Day2 で破綻し,Day3 で【痂疲】となって いる。Day4で発生した新たな【水疱】は,Day5で破綻 している。このように,発生した【水疱】は,通常 1~2 日で破綻し,【痂疲】化するという経過をたどっ た。 3)血性痂疲の発生パターン 【痂疲】の発生した症例を検討すると,その発生パ ターンは 3 パターンに分類された。そのパターンは, 1)Case9,Case10 のように著明な血痂が 0~1 日の間 に急速に形成される急性増悪パターン,2)Case8のよ うに【発赤】や【腫脹】のあった部位が徐々に内出血様 となり,1)より色調のうすい痂疲が数日かけて発生 する,じわじわ進行する内出血パターン,3)Case6, Case7のように形成された水疱が破綻した部位に生じ る水疱破綻パターン,であった。 4)【痂疲】の剥離のサイン Case9,Case10では,共通して存在していた【痂疲】 がDay5で黒色化し,Day6では剥離に至った。このよ うに,【痂疲】は剥離前に黒色化し,痂疲の剥離のサイ ンとして観察された。 6.所見間の関係性 1)【発赤】【腫脹】と【痂疲】【水疱】の発生 Case6では,Day2やDay3で【発赤】【腫脹】が観察さ れ,Day4 で【水疱】が発生した。Case8 では,Day1 の 【発赤】が徐々に内出血様となり,Day3,Day4 では 【痂疲】が発生した。Case9,Case10では,Day1の【発 赤】のある部位に Day2 で【痂疲】が発生した。このよ うに,【痂疲】や【水疱】が発生した Case のうち,約 4 割で【痂疲】や【水疱】の発生前に【発赤】や【腫脹】の 所見が認められた。その変化は,Case8 の Day1 の疼 痛の値が 1/10,助産記録に乳頭損傷所見の記載がな かったことが示すように,母親が乳頭痛を感じる,ま たは助産師が乳頭損傷所見を認識する以前に生じるこ とがあった。しかし,発生は注意深く観察することで 認識可能な所見であった。 2)【腫脹】と【水疱】 Case6では,Day1からDay4にかけて【腫脹】が増強 し,Day5 以降に軽減している。【水疱】との関係に着 目すると,【水疱】は【腫脹】が最も悪化している Day4 に発生し,【腫脹】が軽減するDay5には消失している。 同様にCase7 では,Day1に【腫脹】【水疱】の所見があ り,Day2 と Day3 では【腫脹】とともに【水疱】は消失 している。また,新たな【水疱】についても,【腫脹】 の所見がある Day4 に発生し,【腫脹】の軽減とともに Day5で消失している。このように,【水疱】の経過は, 【腫脹】の増強や軽減といった経過とリンクしていた。 3)【腫脹】と【痂疲】の悪化,剥離
Case9,Case10 では,痂疲面積が最大となる Day4 まで【腫脹】が増強し,【痂疲】が黒色化する Day5,剥 離するDay6に向けて【腫脹】が軽減している。このよ うに,【腫脹】が認められる間【痂疲】は悪化する可能 性があり,【腫脹】の軽減は,痂疲の剥離のサインとし て観察された。 4)【紫斑】【皮膚剥離】とその他の所見
【紫 斑】は Case1 の Day2 , Day3 の 下 部 や Case7 の Day1~Day5の下部など16case,【皮膚剥離】はCase6の Day2など 10case において観察された。経日的に観察 すると,【紫斑】や【皮膚剥離】の発生または消失部位 にその他5所見が観察されるといった,その他の5所 見との関連性はみられなかった。
Ⅴ.考 察
1.経時的な変化の観察について 本研究の対象は,帝王切開分娩の割合がやや少ない 傾向はあるものの,母子同室にて自律授乳を行う,本 邦における一般的な対象集団であった。本研究の結果 より,産褥早期の乳頭組織は授乳という物理的な刺激 が加わり続けることで,悪化または改善の過程をたど り,変化し続けることが明らかとなった。これは,乳 頭損傷における創傷治癒は,授乳で何度も損傷を繰り 返す,傷が母だけではなく児の口の細菌にも触れる, 児の口で湿潤と乾燥を繰り返す,服に触れるといった 特徴により,ほかの創傷の治癒に比べ対処が難しいと するBrent(1998)の指摘を裏付ける結果であった。長 田(2009)は,助産師は一時点を見るのではなく,動 的な情報である変化や経過を観ることにより,その後 のケアの方向性を判断するとしている。授乳により乳 頭組織は変化し続けるという本研究の結果をふまえる と,乳頭損傷への支援においても,経時的な変化に着 目することが重要であると考えられる。 2.深刻な乳頭損傷の発生予防 【痂疲】や【水疱】が発生した Case のうち,約 4割で 【痂疲】や【水疱】の発生前に【発赤】や【腫脹】の所見 が認められた。本研究では,観察開始時にすでに【痂 疲】や【発赤】が発生していた Case もあり,実際の症 例数はさらに多いと推察される。さらに,表1におい て,【痂疲】や【水疱】が発生していない産褥 0 日目に 【発赤】や【腫脹】が観察されたこと,また,【発赤】の 発生率が最高となる時期が,【痂疲】や【水疱】の発生 率が最高となる時期よりも早いことからも,【痂疲】や 【水疱】の発生前に【発赤】や【腫脹】の所見が認められ ることが裏付けられる。よって,乳頭痛や乳頭損傷の 有無だけではなく,より早期の乳頭組織の小さな変化 を観察することで,深刻な乳頭損傷を予防することが 可能であることが示唆された。乳頭損傷に伴う乳頭痛 は,母乳育児を断念する主要な理由であるばかりでは なく,産後うつとの相関も指摘されている(Berens, et al. 2016)。したがって,乳頭組織の小さな変化に着 目し,母親が乳頭痛をより強く感じる深刻な乳頭損傷 を予防することは,母乳育児の継続支援の一助となる と考えられる。 さらに,所見間の関係性を分析すると,【腫脹】は 【痂疲】や【水疱】の経過とリンクする経過を示した。 これは,表 1 の各所見の発生率の推移において,【腫 脹】【痂疲】【水疱】が同様の推移をたどること,すな わち,いずれも産褥4日目まで増加し,それ以降減少 するという経過からも示される。Cable et al(1997) は,乳頭損傷のアセスメントに必要な項目に【浮腫】 を挙げているように,腫脹した皮膚は,その脆弱性に より,損傷の悪化の可能性が存在することを示す因子 である。よって,【腫脹】は乳頭組織の変化を検討する 際,経過予測のカギとして活用可能であることが示唆 された。 3.悪化と改善を示す3つのサイン 経日的な画像分析の結果をもとに,皮膚科領域での 創傷治癒に関する見解を参考に検討した。その結果, 乳頭組織の変化のうち,その変化が悪化または改善に 向かっていると判断されるサインとして以下の3つが 考えられた。悪化の方向に向かっていると判断される 所見は【痂疲や水疱の発生】,【発赤や腫脹の増強】, 【重複所見の増加】の3つ,改善の方向に向かっている と判断される所見は【痂疲や水疱の消失】,【発赤や腫 脹の軽減】,【重複所見の減少】の 3 つであった。各サ インの作成根拠を以下に示す。 ①【痂疲や水疱の発生・消失】 皮膚の解剖学的所見を根拠とし,損傷深度に着目し た。DESING-R でも創傷評価の判定の項目に Depth: 深さを挙げている。よって,【痂疲】【水疱】といった 真皮までの損傷所見は,乳頭損傷領域においても悪化 と改善を示すサインとして挙げられる。 ②【発赤や腫脹の増強・軽減】 【発赤】【腫脹】は,創傷治癒の過程において,炎症 期の所見である。炎症期にある場合,さらに悪化する 可能性がある一方,炎症所見の改善は,創部全体の改 善傾向を示す。また,DESING-Rでも創傷評価の判定 の項目に Inflammation:炎症を挙げている。よって, 【発赤】や【腫脹】の増強・軽減は,乳頭損傷領域にお いても悪化と改善を示すサインとして挙げられる。 ③【重複所見の増加・減少】 【重複所見の増加・減少】は,【痂疲や水疱の発生・ 消失】と【発赤や腫脹の増強・軽減】を総合したサイ ンであるといえる。つまり,【痂疲や水疱の発生】は 【重複所見の増加】となり,【発赤や腫脹の軽減】は【重 複所見の減少】となる。 これらのサインは,創部の状態が悪化傾向であるの か,改善傾向であるのかをアセスメントし,介入の効果を判断する指標となる。このサインを活用するため には,前日の所見との比較が必須である。したがっ て,組織の変化について正確に描写していくことが重 要である。 4.授乳に伴う乳頭組織の変化過程 分析より明らかとなった結果を統合し,授乳に伴う 乳頭組織の変化の経過を『授乳に伴う乳頭組織の変化 過程』として図式化した(図4)。これは,①中央に配 置した各所見の順序性を示す部分と,②上下に配置し た悪化と改善を示す 3つのサインの2つから構成され る。 ①は,上方にむかう矢印が改善の方向,下方にむけ た矢印が悪化の方向,右にむけた矢印が経時的な変化 を示す。これは,乳房ケアの一場面で各所見が観察さ れた場合,次にどのような変化が生じるのかを予測す る材料として活用できる。具体的には【水疱】が発生 した場合,1~2日で破綻し【痂疲】が生じることが予 測され,経過予測の一助となる。②は,上述の通りサ インを活用することにより,前回観察時と比較した創 部のアセスメントが可能となる。 よって,①②を統合した『授乳に伴う乳頭組織の変 化過程』は,今後妥当性の検討を行うことで,一時点 で観察された乳頭組織の状態から,これまでの経過を ふまえ,今後の経過を予測する材料として活用可能で あると考えられる。 5.研究の限界 本研究の限界は,対象者を一定の条件下に設定でき ない点である。観察期間中のケア介入や,協力施設の 母乳育児支援の内容が乳頭組織の変化に影響した可能 性は否定できない。また,乳頭組織の観察方法にコン センサスはなく,各所見は操作的定義に基づき観察さ れた。 しかし,50 名の女性の協力を得て,画像をもとに 産褥早期の乳頭組織の変化の概要が示された点は,本 研究の強みである。
Ⅵ.結 論
経日的な画像分析より,「授乳に伴う乳頭組織の 変化過程」の説明モデルを作成した。【発赤】や【腫脹】 といった乳頭組織の小さな変化に着目して観察する ことで,深刻な乳頭損傷を予防できる可能性が示唆さ れた。 図4 授乳に伴う乳頭組織の変化過程謝 辞 本研究にご協力いただきました研究対象者の皆様, 研究協力施設における院長ならびに助産師の皆様に心 より御礼申し上げます。 本稿は北海道大学大学院保健科学院提出の特定課題 研究報告書の一部に,加筆修正したものである。 利益相反 論文内容に関し開示すべき利益相反の事項はない。 文 献
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