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海保博之・日比野治雄・小山慎一(編) デザインと色彩の心理学 朝倉書店

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Academic year: 2021

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.33.28 182 基礎心理学研究 第33巻 第2号

海保博之・日比野治雄・小山慎一(編)

デザインと色彩の心理学

朝倉書店

これまで,ありそうでなかった本である。デザインの 心理学といった類いの書籍は,ノーマンによる一連のも のが定番であり,少なくとも本邦では,それを超えよう という試みはなかなか見られなかった。 本書には,我が国唯一の「デザイン心理学」を標榜す る研究室における実践の事例を中心として,基礎心理学 会でもなじみ深い筆者らによる基礎的な解説や,実際の デザインの現場で活躍する研究者やデザイナーによる実 例の解説がふんだんに盛り込まれている。デザインに興 味のある心理学者にとっても,心理学に興味のあるデザ イナーなどにとっても,格好の入門書であり,また,手 際よく最新の成果がまとめられた事例集でもある。全体 として,ノーマンの定番とは全く異なる味わいの,とて も刺激的な一冊である。 本書で扱われているテーマは,色彩,テクスチャ,香 りなどとデザイン,視覚障害とデザイン,音とデザイ ン,広告とデザインなど,多岐にわたる。しかも,デザ インの観点から心理学の知見を都合良く援用するといっ た,類書にありがちなスタイルではなく,心理学の基礎 的な知見や最先端の方法論を,デザインの作成や評価に 取り入れるにはどうすればよいかが,真正面から扱われ ている。第Ⅰ部「デザインと色彩の基礎」では,「色彩 学の基礎(第 3章)」,「錯視とデザイン(第5章)」など について,手練れの筆者たちによって,専門的な内容が わかりやすくまとめられていて,心理学の解説としても 一読の価値がある。デザインと心理学の関係がわかりや すく説明されている他の章も,デザインにおける心理学 の役割を再認識させてくれる。また,第Ⅱ部「実践デザ インに向けて」では,デザインの現場での豊富な事例と ともに,そのデザインの背景にある理論や理屈が丁寧に 説明されている。「眼から鱗」の連続である。さらには, 視覚障害の問題や,広告や安心,安全の問題に実験心理 学の手法で切り込むあたりの章は,エキサイティングで すらある。第Ⅲ部「[デザインと色彩]実践事例」では, 豊富な実践事例がコンパクトにまとめられている。これ らはどれも,もっとじっくり知りたいような内容であ る。余韻を残した終わり方になっている。 色,テクスチャ,文字,形,音,匂い。いずれも基礎 系の心理学者には「刺激」としてなじみの深いものであ る。ヒトがこれらをどのように知覚し,認知するのかの 解明が基礎心理学の中心的なテーマである。一方,もの や環境をデザインする側から見れば,いずれも重要なデ ザインの要素である。デザイナーはこれらを駆使して, 自らのイメージを具現化し商品や製品などとして世に出 す。消費者は,商品の構成要素である,色,形,テクス チャなどを評価して,購入するかどうかを決める。利用 のしやすさも,当然のことながら,これらデザイン要素 によって決まる。ヒトが色や形やテクスチャをどう認識 するかが,心理学にとっても,デザインにとっても重要 なテーマであることは,言うまでもない。ならば,デザ イン要素を介して,心理学とデザインがもっと密接に連 携した取り組みがあってもよいように思う。特に,心理 学者は,本書が扱っているような問題に,もっと積極的 に興味を持ち,かかわりをもっても良いのではないだろ うか。ノーマンももともとは実験心理学者であった。本 書の著者のうちの心理学関係者も,実験系の心理学を バックグラウンドとする面々である。しかし,基礎系の 心理学者のなかでは,まだ,マイナーな存在と言わざる を得ない。そのような試みが広く一般的にならないのは なぜだろうか。 少なくとも私の場合には,「困っている人たちを助け たい」という高邁な精神のもとに臨床心理学などを志す 同級生を横目に見ながら,「自分の行為が人様の生活に 介入するなんて畏れ多い」と思いながら,ひたすら暗室 にこもっていた若かりし頃のメンタリティが影響してい るような気がしている。大勢の人たちが利用する製品や 環境を作り出すデザイナーという存在にあこがれつつ も,そのような「畏れ多い」行為に積極的に関わること についての躊躇がどうしてもつきまとう。しかしなが ら,本書は,慎み深い基礎系心理学者にも勇気を与える ような言葉が随所にちりばめられている。例えば,第8 章「視覚障害とデザイン」では,ユニバーサルデザイン の実現に当たっては,少数の当事者の意見を反映させる だけでは不十分であり,「科学的に検証可能な形で障害 の特性を考慮する」ことの必要性が語られる。デザイ ナーの感性や勘に頼るのではなく,より科学的な視点か

The Japanese Journal of Psychonomic Science

2015, Vol. 33, No. 2, 182–183

書 評

(2)

183 熊田: 海保博之・日比野治雄・小山慎一(編)デザインと色彩の心理学 らデザインの検証やユーザーの理解が必要であるという のが,本書を貫く思想であり,そこには基礎系の心理学 者が貢献できる余地が大いにある。 本書は,「色彩」が中心であるが,基礎系の心理学と デザインの間には,形やテクスチャ,あるいは,近年, 我が国の研究者が世界的に活躍している「質感」の問題 など,豊富な題材が揃っている。特に,デザインとかた ちの心理学やデザインと質感の心理学,顔のデザイン (化粧)の心理学など,本書の続編となるような,基礎 研究ならびに実践の大いなる進展に期待をしたい。本書 は,デザインと基礎心理学の新しい関係を感じさせる画 期的な書籍である。慎み深い基礎系の心理学者の皆さん にも,ぜひ,一読を勧めたい。 (京都大学大学院情報学研究科 熊田孝恒)

参照

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