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研究レポート

No.206 September 2004

外航海運業にみる製造業の収益改善継続への示唆

主任研究員 木村 達也

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外航海運業にみる製造業の収益改善継続への示唆 主任研究員 木村達也 【要旨】 1.わが国経済は、本格的な経済の拡大に踏み出したようにみられるが、バブル崩壊以降の長期 低迷をもたらした需要構造変化に対する供給の対応の遅れなど構造的な問題の改善は緩慢であ る。また製造業では、エレクトロニクス製品などにおいてデジタル化、モジュラー化、オープ ン化に伴う競争激化が生じており、現在の収益回復の継続にはこれらの障害を乗り越えて行く 必要がある。そのための方策を検討するにあたって、外航海運業での経験が参考になる。外航 海運業の収益は、03 年度に著しい改善が注目された。この背景には、中国などによる活発な荷 動きがあるのは事実だが、その改善は 94 年度以降の顕著な収益回復のトレンド上にあり、80 年代に経験した大きな収益悪化以降に実行された対策があって、はじめて実現したものである。 2.本稿での分析対象の中心は、外航海運業に現存する中核船社の3社およびこの3社に集約さ れてきた中核船社の単体である。中核船社の収益は 81 年度をピークに大きく落ち込み、80 年 代後半から 90 年代にかけては収益の回復もみられたが、本格的な回復は 94 年度以降である。 収益の悪化は、売上高の減少、売上高に対する売上原価の変動費部分の比率上昇が主に影響し ており、この背景には①85 年のプラザ合意後に円ドル為替レートが円高方向に変動したこと、 ②わが国の産業構造の変動による原材料輸入の減少、③アジア諸国・地域、共産国船社の台頭、 ④定期船部門でのコンテナ船の急速な普及がサービスを擦り合わせ型からオープンなモジュー ラー型に転換し参入障壁を低下させたこと、⑤定期船部門で独占禁止法の適用除外とされてい た国際的なカルテルの海運同盟の拘束力が、84 年米国新海運法を機に弱体化したことがある。 3.外航海運業の収益回復は、売上原価のうち固定費部分の削減が 80 年代から大きく寄与してお り、また 94 年以降は売上高増加の影響も大きい。さらに一般管理費の削減も収益を下支えして いる。これらについて実際に行われた対策の効果は、まず売上原価のうち固定費部分の削減は、 必要乗組み船員数を削減した近代化船への取り組みや、船籍を海外に移すフラッギングアウト や日本籍船での混乗による外国人船員の活用で労務費を削減したことなどによるところが大き い。売上高増加は、3つの事業部門、定期船部門、不定期船部門、タンカー部門の各々の取り 組みに効果がみられ、①定期船部門では、海運集約体制の見直し、グローバル・アライアンス、 現地化の推進による発地・揚地とも外国である三国間輸送の増加、②不定期船部門では自動車 船による三国間輸送の増加、③タンカー部門ではLNG輸送への取り組み――によるところが 大きい。一般管理費の削減は、陸上従業員の削減に加え、経営計画や全社的なプロジェクトと してのコスト削減への継続的な取り組みによるところが大きい。 4.外航海運業の経験から、製造業の収益改善継続のために重要であると示唆される方策には、 ①外国人労働者の活用の検討、②現地化の推進、③継続的なコスト削減への全社的な取り組み ――がある。外国人労働者の活用の検討は、国内生産とアジア諸国・地域などでの生産の優劣 を判断する際に国内生産のコスト面でのデメリットを緩和し、メリットを生かせるかの検討の ために必要である。外国人労働者の導入にあたって問題とされる、①社会的費用の発生、②文 化、習慣、宗教の相違による摩擦、③職場内の意思疎通――などについては、外航海運業での 外国人船員の活用から示唆される点が多い。現地化の推進は、欧米先進国の顧客の高度な要求 に応えた製品を開発することによる競争力の強化、BRICs 諸国のような高成長の見込まれる大 市場での需要の獲得のために不可欠であり、そのためには外航海運業にみられる海外に設置し た企業の徹底した現地化が重要である。また継続的なコスト削減への全社的な取り組みは、外 航海運業では取り組み開始から 10 年以上経過しても、コスト構造改革運動の遺伝子としての定 着化に向けた取り組みが続けられているように、製造業でも近年の収益回復で緩むことのない 着実かつ継続的な取り組みが求められる。

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【目次】 Ⅰ.製造業に先行した外航海運業の経験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 1.90 年代における製造業の収益低迷 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 2.参考になる外航海運業の経験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1 3.外航海運業の事業分野と分析範囲 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2 Ⅱ.わが国外航海運業の収益動向と 80 年代の収益悪化 ・・・・・・・・・・・・ 4 1.外航海運業の収益動向 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4 2.80 年代における収益悪化の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8 Ⅲ.外航海運業の収益改善策 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10 1.売上原価の固定費部分削減による収益改善の内容 ・・・・・・・・・・・ 10 2.売上高の増加要因による収益改善の内容 ・・・・・・・・・・・・・・ 14 3.一般管理費の削減による収益改善の内容 ・・・・・・・・・・・・・・ 26 Ⅳ.製造業の収益改善継続へのインプリケーション ・・・・・・・・・・・・・ 32 1.外航海運業の収益悪化要因と収益回復策の要約 ・・・・・・・・・・・・ 32 2.製造業へのインプリケーション ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33 補論1.外航海運業の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48 補論2.外航海運業の 80 年代における収益悪化の背景 (詳細) ・・・・・・・ 57 主要参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63 本稿を作成するにあたりヒアリングに応じて頂いた、社団法人日本船主協会総務部課長筒井健氏、川崎汽 船株式会社IR・広報グループ長兼IR室長河村直樹氏、同社IR・広報グループ課長代理岩佐久美子氏、 富士通株式会社生産技術本部本部長山本治彦氏、同社生産技術本部プロジェクト統括部長柳田俊明氏、同 社生産技術本部プロジェクト統括部長淺田和徳氏、株式会社商船三井広報室長岡地隆氏、同社広報室マネ ージャー大貫英則氏、日本郵船株式会社広報グループ広報第一チーム濱川昌延氏、同社人事グループ船員 労務チームチーム長田中俊弘氏、同社定航マネジメントグループ配船チームチーム長鈴木英樹氏に感謝の 意を申し述べたい(ご所属、お役職はヒアリング当時、記載順はヒアリングの日時順)。

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Ⅰ.製造業に先行した外航海運業の経験

1. 90 年代における製造業の収益低迷 わが国経済は、現在バブル崩壊後3回目の拡大局面にある。今回は前2回とは異なり本 格的な経済の拡大に踏み出した様にみられ、失われた10 年ともいわれる長期低迷をようや く脱するとの期待が高まっている。現在の景気の回復には、新3種の神器といわれるデジ タル家電(薄型テレビ、DVD レコーダー、デジタルカメラ)などによる消費の回復が寄与 しているが、米国経済および中国経済の好調による輸出の拡大と、この拡大を背景の1つ とする設備投資の増加によるところも大きい。しかし、米国経済には金利の引上げの影響 や04 年度後半以降の減税効果のはく落など、中国経済には過熱状態からのソフトランディ ングが可能かといった懸念がある。わが国の経済成長は、米国や中国の経済状況からの影 響が小さいものへの転換が望まれるが、この実現は容易ではないとみられる。 この理由は、わが国経済に長期低迷をもたらしてきた大きな要因の改善が緩慢なためで ある。たしかに、大企業を中心に債務圧縮は進展しており、引き続き対応の必要はあるも のの、バブル崩壊に伴う資産デフレの投資面および金融面での抑制効果には改善がみられ る。しかし、戦後の先進国へのキャッチアップ過程およびバブル期と、バブル崩壊後を比 較してみた場合に明確となる需要構造変化への供給面での対応の遅れには大きな変化がみ られず、わが国経済が持続的かつ自律的に成長していくためには、依然として障害が大き いとみられる。本稿ではこうした状況のもとで、わが国製造業において02 年度以降にみら れている収益回復を将来にわたり継続するための方策を検討する。 わが国製造業の収益動向は、加工組立型製造業の分野で、製造業の強化による成長政策 をとってきた中国を始めとするアジア諸国・地域が、エレクトロニクス製品などにおける デジタル化、モジュラー化、オープン化のもとで工業化を加速した影響を強く受けている。 この影響は輸出市場でのアジア諸国・地域の企業との競合だけではない。わが国製造業が、 低コストの労働力による生産を求め、生産拠点をアジア諸国・地域に大きく移転させ、こ れらアジア諸国・地域の現地法人から逆輸入もしくは生産委託でのOEM供給による低価 格の製品が大量流入し製品価格が下落したことによっても、収益は圧迫されている1 2.参考になる外航海運業の経験 前節で述べたようなわが国製造業における収益回復を将来にわたり継続させるための方 策を検討するにあたって、その経験が参考になると考えられる業種に、外航海運業(日本 と外国の諸港との間又は外国の諸港間で船舶により主として貨物の運送を行う事業2)があ る。外航海運業の収益は製造業に先行して80 年代に大きく悪化したが、94 年度以降の回復 1 木村[2003a] 2 日本標準産業分類(平成 14 年3月改定)の外航貨物海運業の定義であり、本稿で用いる外航海運業はこ の外航貨物海運業を表すものとする。これは日本標準産業分類(同)における外航海運業は外航旅客海 運業を含み、実際にわが国の外航貨物海運業を行う事業者には外航旅客海運業を営むものもあるが、製 造業の収益向上に参考となる産業は外航貨物海運業であることから外航旅客海運業を除くものである。

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が顕著であり、また外航海運業の収益悪化には製造業と共通する要因も多い。外航海運業 では03 年度に主要3社がそろって営業、経常ベースで過去最高益を更新したが、この要因 として、中国などによる活発な荷動きがまず挙げられることが多い。しかし、活発な荷動 きが収益の改善につながったのは、本稿のⅢ章で示すような80 年代以降の徹底的な収益改 善への取り組みがあったからである。 たしかに外航海運業と製造業の産業特性には大きく異なる面がある。外航海運業は輸送 サービス業であり供給と需要が同時に行われ、また供給は船舶の移動に伴って世界各地で 行われる。一方製造業は工業製品を製造・販売し、その生産は基本的に一定の場所で行わ れる。また製造業も一様に収益が低迷している訳ではなく、バブル崩壊後の落ち込みから の回復が顕著で収益性の高い精密機械や乗用車、90 年代以降も高い収益性を維持している 化学工業のような分野が存在する3。これらの分野は、外航海運業に比べ、バブル崩壊後長 期にわたって収益の低迷を続けた他の製造業の分野と産業特性は近い。しかし前節に述べ たエレクトロニクス製品などの製造業の分野でみられる収益悪化の理由が、必ずしも該当 しない分野である。精密機械の一部4と乗用車は擦り合せの特性が強くオープンなモジュラ ー化は進んでおらず、東アジア諸国との競争が顕著にはなっていない。また化学工業は素 材産業であり、オープンなモジュール化の概念になじみにくい5。これに対し外航海運業の 80 年代における収益悪化は、輸送システムのオープンなモジュラー化やアジア諸国の台頭 による競争激化が収益悪化の大きな要因となっている(補論2参照)。 さらに外航海運業は、①技術革新などに伴って生じた新たなビジネスではなく、古い歴 史を持つ産業であること、②全産業で進展するグローバル化についても、産業の特性とし て本源的に事業内容にグローバルな性格を持つ産業であること――といった点からも、そ の経験は、エレクトロニクス等の製造業が収益改善を将来にわたり継続するために、参考 になると思われる。 3. 外航海運業の事業分野と分析範囲 本稿では外航海運業での収益の悪化要因と回復の方策を明確化し、それらがわが国製造 業の収益改善の継続に持つ含意を探っていくが、そのためには外航海運業の概要、産業特 性の把握が不可欠である。しかしここでは、最低限必要な事項として外航海運業の事業が 大きく分けて定期船部門、不定期船部門、タンカー部門の3つから成ることを述べるにと 3 収益性の判断は、総資本経常利益率により大蔵省、財務省財務総合研究所編『財政金融統計月報(法人 企業年報特集)』のデータに基づく(精密機械は精密機械器具製造業)。ただし乗用車は、トヨタ自動車、 日産自動車工業、本田技研工業、三菱自動車工業、マツダ、スズキ、ダイハツ工業、富士重工業の NEED-Financial QUEST の財務データに基づく。 4 精密機械の範囲は広く、計量器・測定器・分析機器・試験機、測量機械器具、医療用機械器具・医療用 品、理化学機械器具、光学機械器具・レンズ、眼鏡、時計・同部分品をその範囲に含み、擦り合せ型か らオープンなモジュラー型までの製品を含む。具体的には、内視鏡は高度な擦り合せ設計の製品である が、デジタルカメラはオープンなモジュラー性の強い製品である。 5 素材産業についても、溶融メッキ鋼板などにモジュラー型、擦り合わせ型の議論を適用したものがある (藤本隆宏「製造業「擦り合わせ力」磨け」日本経済新聞2004.1.12 朝刊 p16 経済教室)。

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どめ(各々の運賃収入割合は 03 年で 32.3%、47.8%、16.3%)6、収益を論じる際に不可 欠な輸送量、市況動向などの詳細は補論1を参照頂きたい。 本稿において外航海運業の分析対象の中心は、現存する中核船社である3社(日本郵船、 商船三井、川崎汽船)およびこの3社に集約されてきた中核船社の単体とする(中核船社 の集約状況については補論1−5、P55-56 参照)7。これら3社の03 年度における単体の 運賃収入を、外航海運業全体の03 年の運賃収入と比較すると、94.2%に達する8。このよう に、わが国の外航海運業におけるかなりの部分が、3社およびその集約前の中核船社でカ バーされる。また、これら主要3社は、歴史的にみてもわが国の中核船社が集約されてき たものであり、そのいずれもが補論2で述べているように、近年の製造業にみられるアジ ア諸国の台頭など、グローバル化の影響を強く受けた定期船部門の主要なプレーヤーであ る。これらが、本稿での外航海運業の収益回復に関する要因・方策の分析対象として主要 3社を中心とする理由である。 3社およびその集約前の中核船社について連結ではなく単体を主要対象とするのは、1 つには連結のデータが時系列、範囲ともに分析には不十分であるからである。また3社合 計の連結セグメント別の売上高で、海運業の構成比は 74.5%9(2003 年度)に過ぎないの に対し、単体の事業別売上高では、海運業が99.4%(同)とほとんどを占めるからである。 本稿の構成は、第Ⅱ章で外航海運業の収益動向と80 年代の収益悪化の概要を述べる。第 Ⅲ章では、収益回復の要因、方策を明らかにする。これらを受け、第Ⅳ章で外航海運業の 経験からわが国製造業の収益改善継続策に資すると考えられる方策を提示する。また補論 1では外航海運業の概要を、また補論2では80 年代における収益悪化の背景の詳細を述べ る。 6 定期船部門とは、ライナー(liner)部門とも呼び、一定の航路について運航スケジュールを公表し定期 的な船舶の運航を行う部門である。このような運航を行う船舶は、補論2−2で詳しく述べているよう に、現在ではそのほとんどがコンテナ船である(コンテナ船とは、貨物を収納しユニット化する標準化 された箱型の容器であるコンテナ専用の船倉を持つ船舶である)。不定期船部門は運航スケジュールを定 めず、貨物輸送の需要に合わせて乾貨物を運ぶ船舶の運航を行う部門である。この部門で運航される船 舶には輸送する貨物を想定せずに建造された旧来からのばら積み船だけでなく、自動車専用船、木材専 用船、石炭専用船など、特定貨物についての専門の輸送に適した特殊な構造、設備を持った専用船があ る。タンカー部門は、原油・石油製品など液体の貨物を運ぶ密閉型の船倉を持った船舶の運航を行う部 門である。この部門には原油や石油製品(重油、ナフサ、ガソリン)などを運ぶタンカーだけでなく、 アルコール類、苛性ソーダ、硫酸、糖蜜などを運ぶケミカルタンカーやLPG船、LNG船がある。 7 各年度末時点では、64∼88 年度は、日本郵船、大阪商船三井船舶、川崎汽船、昭和海運、山下新日本汽 船、ジャパンラインの6社、89∼97 年度までは日本郵船、大阪商船三井船舶、川崎汽船、昭和海運、ナ ビックスラインの5社、98 年度は日本郵船、大阪商船三井船舶、川崎汽船、ナビックスラインの4社、 99 年度からは、日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社である。 8 中核船社の運賃収入は、各社有価証券報告書による。外航海運業全体の運賃収入は「海上運送法に基づ く船舶運航事業者の提出する定期報告書に関する省令」による外航船舶運航事業を営む者の報告による。 両者の比較には、年度と暦年の相違があること、前者は運賃の割増課徴金であるサーチャージを含み、 後者は含まないことといった相違があることに注意が必要である。 9 日本郵船の海運業、商船三井の外航海運業、川崎汽船の海運業の外部顧客に対する売上高の売上高計に 対する比率。

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Ⅱ.わが国外航海運業の収益動向と

80 年代の収益悪化

本章では、わが国の製造業に先行して収益の悪化を経験し、顕著な回復を果たした外航 海運業の経験を考察するにあたり、まず03 年度に著しい改善が注目された外航海運業の収 益における長期の動向を75 年度以降についてみる。さらに収益変動を要因分解し、財務的 な観点からみた場合の変動の要因を把握する。そのうえで、80 年代の収益悪化の要因の背 景にある事象の概要について述べる(詳細については補論2参照)。 1. 外航海運業の収益動向 (1)93 年度を底にその後著しい収益の回復 外航海運業の中核船社の 80 年代以降現在までの売上高・経常損益の動向をみると、81 年度をピークにその後大きく落ち込み、売上高は88 年度にピーク比 37%減の水準で底を打 つまで、また経常損益は、86 年度に 268 億円と 75 年度以降で最大の赤字(ピークの 81 年 度には665 億円の黒字)となるまで、悪化傾向が続いた。その後 80 年代後半から 90 年代 にかけて収益の回復もみられたが、本格的な回復は経常利益が93 年度に底を打った後であ り、03 年度の経常利益は、81 年度の 2.8 倍に達している。03 年度の大幅な収益の改善は、 中国などによる活発な荷動きを伴っており、この収善が中国特需によると扱われることも 多い。しかし、経常利益の動向から、活発な荷動きが収益の改善につながったのは事実と しても、この改善は94 年以降のトレンド上にあることが理解できよう。すなわち収益改善 の背景には、Ⅲ章で述べるような80 年代以降の徹底的な収益改善への取り組みがある(図 表Ⅱ−1)。 図表Ⅱ−1 中核船社合計の売上高、経常利益の推移 5, 0 000 10,000 15,000 20,000 25,000 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年度 億円 -500 0 500 1,000 1,500 2,000 億円 売上高:左目盛 経常利益:右目盛 (注)中核船社の内容についてはⅠ−3の脚注7(P3)を参照。 (資料)各社有価証券報告書

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(2)総資本事業利益率 前項でみた状況について収益性を一層明確化するために、総資本事業利益率10をみると、 やはり81 年度の 7.8%をピークに、86 年度には−0.2%まで大きく落ち込んでいる。86 年 度の急激な落ち込みは、85 年 9 月のプラザ合意以降の大幅な円高の進行の影響が大きい。 その後89 年まで人員削減、不採算船の処分や費用のドル化などの経営努力と、不定期船を 中心とした市況の回復などから利益率は回復した。しかし90 年度以降、湾岸危機に伴う燃 油価格の上昇や、91 年度以降の大幅な円高の進展11により再び利益率は低下した。しかし 93 年度に底を打ち、その後回復し 03 年度の総資本事業利益率は 93 年度の 6.0 倍の 12.6% となっている(図表Ⅱ−2)。 図表Ⅱ−2 中核船社合計の総資本事業利益率、円ドル為替レートの推移 -2% 0% 2% 4% 6% 8% 10% 12% 14% 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年度 0 50 100 150 200 250 300 350 円/ドル 総資本事業利益率:左目盛 円ドル為替レート:右目盛 プ ラ ザ 合 意 (注)中核船社の内容についてはⅠ−3の脚注7(P3)を参照。為替レートは年度平均。 (資料)各社有価証券報告書、日本銀行『金融経済統計月報』 10収益性の指標として総資本事業利益率を用いるのは、企業が利潤の最大化を目的にしているとすると、産 業の収益性を測定するには、一定の使用資本に対する利益額が適すると考えられるためである。使用資 本として総資本を用いるのは、産業の収益性は企業の収益性とは異なり、資本について自己資本、他人 資本の区別なく、使用している全ての資本に対する利益率が問題となるためである。また利益として事 業利益を用いるのは、自己資本、他人資本の比率により利益額が変化しないようにするためであり、事 業構造上必要な子会社、関連会社への投融資からの収益を利益額に反映させるためである。事業に必要 である以上に資金調達を行い、これを運用していた場合、事業利益が産業からの利益を表さなくなり、 総資産が膨らむ可能性があるが、本章でみる外航海運業の中核会社の状況からこうした要因による利益 率の変動の可能性は低いとみられる。外航海運業以外の金融・保険を除く大分類の各産業についても、 木村[2003b]p4 に示したように、一部に検討に必要はある産業はあるが、こうした要因により総資本 事業利益率が受けている影響は小さいものと考えられる。 11 91 年度以降の円高の進展は、図表Ⅲ−3では軸が円ドルレートの絶対額(円/ドル)であるため、大き く見えないが、割合でみるとプラザ合意後の85 年度から 86 年度への円高の進展が 27.7%であったが、 90 年度の円ドル為替水準に対し、最も円高の進んだ 95 年度には 31.7%、外航海運中核船社の総資本事 業利益率が底を打った93 年でも 23.7%の円高となっている。

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(3)売上高変動の寄与度分解 前項までにみた収益の推移についてその変動の内容をみるため、まず売上高を部門別の 運賃収入と貸船料収入(船舶または船腹の貸し付けに伴う収入)およびその他の収入に寄 与度分解する。81 年度のピークから経常損益の赤字が最大となった 86 年度までの売上高の 36.5%の減少に対する寄与度は、不定期船運賃収入が−19.5%と最も大きく、これに定期 船運賃が−11.3%で続く。86 年度比で 90 年代の回復前におけるボトムの 93 年度は 7.4% の増収だが、これに対する寄与度は貸船料、定期船運賃が大きく、不定期船運賃はマイナ スの寄与となっている。また 93 年度比の 03 年度における 39.4%増収への寄与度は、定期 船運賃 17.5%、不定期船運賃 12.8%、貸船料 6.7%となっている(図表Ⅱ−3)。 図表Ⅱ−3 売上高変動の寄与度分解 12.8% (注)表は各年度別に行った要因分解の合計。表の1 列目の**/++は、**年度の++年度に対する変化率を意味する。 -30% -20% -10% 0% 10% 20% 30% 40% 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 年度 定期船 不定期船・専用船 油送船 貸船料 その他 合計 売上高変動 定期船運賃 不定期船運賃 タンカー運賃 貸船料 その他 86/81 -36.5% -11.3% -19.5% -2.1% -2.7% -0.9% 93/86 7.4% 5.2% -4.9% -0.3% 6.1% 1.3% 03/93 39.4% 17.5% 3.7% 6.7% -1.3% (資料)運輸省海上交通局[1980b]∼[1984b]、[1992b]∼[2000b]、運輸省[1985]∼[1991]、国土交通省海事 局[2001]∼[2004] (4)総資本事業利益率変動の要因分解 ここでは(2)項でみた総資本事業利益率の推移が、どのように生じたか要因分解してみる。 要因分解は図表Ⅱ−4の注に記した式に基づくが、分解する要因は以下のとおりとした。 売上高要因:売上高(海運業収益とその他の事業収益の和)の変動によるもの 固定原価要因:売上原価(海運業費用、その他事業費用)のうち固定費部分12の変動によ るもの 原価率要因:売上原価(海運業費用、その他事業費用)のうち変動費部分13の売上高に対 12 売上原価のうち固定費としたのは、船費とその他事業費用である。その他事業費用については、その内 容により固定費と変動費に振り分けるべきであるが、有価証券報告書上の記載が一括であること、売上 原価に占める構成比が80 年度以降03 年まで最大でも0.5%とわずかであることから全額固定費とした。 13 売上原価のうち変動費としたのは、運航費、借船料、その他海運費用である。

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する比率(以下、売上原価変動費比率)の変動によるもの 管理費要因:一般管理費の変動によるもの 受取利息・配当要因:受取利息・配当金の変動によるもの 総資本要因:総資本の変動によるもの これらのうち原価率要因は、外航海運業で収益を大きく左右するバンカー(燃油)単価、 用船市況の変動などによる影響をみるための要因である。 要因分解は年度毎に行うが、年度によって各要因の寄与度には振れが大きいため、傾向 を把握するため、一定の期間を集計した寄与度も算出する。集計の区分は、収益の80 年代 における悪化以前のピーク後の82 年度から総資本事業利益率が最も落ち込んだ 86 年度ま で、87 年度から収益の本格回復以前の底となった 93 年度まで、94 年度以降の3期間とす る。ただプラザ合意後の円高は、その直後からコスト削減を中心に収益回復策への取り組 みに大きな変化を与えたとみられることから、要因分解の93 年度以前における集計の区分 を82∼85、86∼93 年度とした集計結果も併せて示す。 要因分解の結果をみると、82∼86 年度の利益率悪化は、売上高要因によるところが最大 だが、原価率要因の寄与も大きい。一方固定原価要因は86 年度以降に、利益率の下支えの 寄与が大きくなっている。また管理費要因の寄与度は、82∼85 年度の−0.2%から 86∼93 年度には 0.0%となっており、86 年度以降にコスト削減の動きが本格化したことが判る。 また利益率が底を打った93 年度より後では売上高要因の寄与が最大で、原価率要因がこれ に次いでいるが、年度により寄与がプラスとマイナスの場合がある。また固定原価要因と 管理費要因は、数年を除きプラスの寄与で利益率を下支えしている。固定原価要因の寄与 度は82∼85 年度には 0.1%に過ぎないが、86∼93 年度は 4.7%である(図表Ⅱ−4)。 図表Ⅱ−4 中核船社合計の総資本事業利益率(ROA)変動の要因分解 -6% -4% -2% 0% 2% 4% 6% 8% 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 年度 売上高要因 原価率要因 固定原価要因 管理費要因 受取利息・配当要因 総資本要因 ROA変動

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ROA変動 売上高要因 原価率要因 固定原価要因 管理費要因 受取利息・配当要因 総資本要因 誤差 82∼86年度 -8.0% -6.5% -3.4% 1.3% 0.4% 0.0% -0.5% 0.7% 87∼93年度 2.3% 1.2% -1.3% 3.5% -0.6% -0.8% 0.2% 0.2% 94∼03年度 10.5% 5.0% 2.7% 2.0% 1.2% -0.6% 0.1% 0.1% 82∼85年度 -4.9% -2.6% -2.0% 0.1% -0.2% 0.0% -0.6% 0.3% 86∼93年度 -0.8% -2.8% -2.7% 4.7% 0.0% -0.8% 0.2% 0.6% (注)要因分解は下式による。 総資本事業利益率をROA、売上高を SLS、売上原価のうち固定費の部分を FMC、売上原価のうち変動費部分の 売上高に対する割合をα、一般管理費をSG、受取利息配当金を IR、事業利益を BP、総資本を TA とし、各記号 に’がついたものを時間に関する微分値として、 ’ ’ ’ ’ α’ ’ α) ( = ’ TA TA BP -IR TA 1 SG TA 1 -FMC TA 1 -SLS TA 1 -SLS -1 TA 1 ROA × + 2 右辺第一項を売上高要因、第二項を原価率要因、第三項を固定原価要因、第四項を管理費要因、第五項を受取利 息・配当要因、第六項を総資本要因とした。 (資料)各社有価証券報告書 2. 80 年代における収益悪化の背景 ここでは前節でみた外航海運業の収益変動のうち、81 年度のピーク後の 86 年度までの収 益悪化の背景の概要を述べる。前項の総資本事業利益率変動の要因分解では、86 年度にお ける81 年度比の同利益率の変動−8.0%に対し、売上高要因は−6.5%の寄与度であった。 しかしこれには、同期間に進んだ大幅な円高方向への為替レートの変動の影響がある。為 替レートの変動の影響を除外した影響を推察するために、営業収入の 69.4%がドル建てで あるとの想定14のもと、為替レートの変動がなかった場合の売上高を試算し、その変動の総 資本事業利益率への影響を再計測してみた15。その結果、売上高要因は−3.8%となり、為 替レート変動の影響を除いてもなお利益率低下への影響が大きく、外航海運業における80 年代の収益悪化には、売上高の減少と、売上原価変動費比率の上昇によるところが大きい ことが判る。また(2)項でみた売上高変動の寄与度分解から、売上高の減少は不定期船と定 期船の運賃収入の減少によるところが大きいことがわかる。 このような収益悪化要因の背景には、為替レートの円高方向への変動の直接的な影響以 外に、①70 年代の2 度の石油危機を経たわが国の産業構造の変化から原材料の輸入などが 減少したこと、②85 年度以降は円高の影響からわが国の海上貿易貨物量が減少したことが ある。しかしこれらのほか、③アジア諸国・地域および共産諸国船社の台頭、④定期船に おけるコンテナ船の導入による輸送システムのオープンなモジュラー化、⑤1984 年に発効 14 運輸省『日本海運の現況』、国土交通省『海事レポート』に記載のある中核船社のドル建て収入の割合で、 最も過去のデータとして利用できる96 年度の値。この割合は、川上、森[2000]p17 に大手海運会社 のドル建て運賃収入がほぼ7割との記述とも整合的でそれ程無理のない仮定と思われる。 15 計測方法は、まず売上高の 69.4%はドル建てとし円ドル為替レートが 81 年度の水準であった場合の円 換算の金額を計算し、これに実際の売上高の30.6%を加え、為替レートが無かった場合の売上高を計算 する。また本来売上原価のうち変動費におけるドル建ての部分を、81 年度の為替レートの水準に調整す るべきであるが、売上原価におけるドル建ての割合は不明であるため、売上原価変動費比率(図表Ⅱ− 4の注に示した要因分解式のα)は現実の値を用いた。

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した米国の新海事法の影響が大きい(③∼⑤の要因の詳細については補論2参照)。 ③∼⑤の要因は、グローバルな競争の激化による運賃単価の低下を進展させ、売上高減 少と売上原価変動費比率の上昇から収益を悪化させた。またこれらのうち③、④の要因に ついては、90 年代以降の製造業における状況との共通性がみられる。すなわち製造業にお ける90 年代の収益低迷の背景には、中国などアジア諸国・地域の台頭や東欧諸国などの市 場への参入による供給圧力の増大と、その下での価格低下が背景にある。またエレクトロ ニクス製品などの加工組立型製造業でのアジア諸国・地域の台頭の背景には、それら製品 についてデジタル化の進展のもとオープンなモジュラー型への変化が進んだことがある。

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Ⅲ.外航海運業の収益改善策

本章では、80 年代の収益悪化以降に外航海運業がどのように対応したかをみる。図表Ⅱ −2(P5)にみたように、外航海運業の顕著な収益の回復は 94 年度以降であるが、当然な がら収益が大きく悪化した80 年代から収益改善は強く推進された。そして収益が回復する 以前の80 年代からとられた収益回復策により基盤が築かれ、更に継続された収益改善策が あってはじめて、94 年度以降に業績は改善したと考えられる。したがって本章では、80 年 代以降の収益改善策についてみていく。 中核船社合計の総資本事業利益率をみると、81 年度にピークつけた後 85 年度までは図表 Ⅱ−4(P7-8)の要因分解に示したように、売上原価のうち固定費部分の削減(固定原価 要因)が同利益率を若干下支えしたが、収益改善策の効果は顕著ではない。しかし86∼93 年度における同利益率の引上げ方向への寄与は、固定原価要因によるものが大きくなって いる。また一般管理費の削減(管理費要因)も、プラスの寄与には至っていないものの、 費用の増加抑制により寄与はニュートラルとなっている。さらにプラザ合意後の円高の影 響が大きい86 年度を除外し 87∼93 年度でみると、売上高の回復(売上高要因)の寄与も 大きくなっている。94 年度以降では、売上高要因の寄与が最大となり、これを固定原価要 因、管理費要因が下支えしている(売上原価のうち変動費部分の売上高に対する比率の変 動による原価率要因については、寄与は大きいが年度によりプラスとマイナスのばらつき が大きい)。したがって 80 年代以降の収益回復策を考えるにあたり、まず早い時点から収 益回復への寄与が大きかった固定原価要因に着目し分析を行う。またその後、売上高要因、 管理費要因についても分析を行う。 ここでの分析の年代区分は、収益について86 年度がボトム、93 年度が本格回復前の底で あることから、売上高は82∼86、87∼93 年度、94 年度以降でみていく。しかしコスト面 では、Ⅱ−1−(4)でも述べたように、85 年 9 月のプラザ合意後の円高が収益回復策に大き な変化を与えたとみられるため、82∼85、86∼93 年度、94 年度以降をベースにみる。 1.売上原価の固定費部分削減による収益改善の内容 (1)売上原価の固定費部分変動の費目別寄与度分解 売上原価の固定費部分は82∼85 年度、86∼93 年度、94∼03 年度に各々1.3%、64.8%、 43.0%減少し、本格的な削減は 86 年度以降である。また変動を費目別に要因分解すると 82 ∼85 年度は労務費を中心とにした削減であり、86∼93 年度、94∼03 年度には、労務費の 削減の寄与はより大きくなり中心的な削減費目の1つとして変化はないが、それ以上に船 舶償却費減少の寄与度が大きくなっている(図表Ⅲ−1)。これら要因の寄与の背景には、 労務費の削減は船舶への乗組員定員数の削減及び外国人船員の活用がある。また船舶減価 償却費減少は、外国人船員の活用推進のため、船籍を外国籍とするフィラッギングアウト を進めたことが主因で、労務費削減と同様な背景による。以下これらの状況をみていく。

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図表Ⅲ−1 中核船社における売上原価の固定費部分変動の費目別寄与度分解 -20% -15% -10% -5% 0% 5% 10% 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年度 労務費 船舶消耗品費 船舶保険料 船舶修繕費 船舶減価償却費 その他船費 その他費用 計 売上原価固定費部分変動 労務費 船舶消耗品費 船舶保険料 船舶修繕費 船舶減価償却費 その他船費 その他費用 85/81 -1.3% -6.2% -0.1% 0.8% -3.7% 7.9% 0.0% 0.0% 93/85 -64.8% -26.3% -3.3% -2.2% -5.4% -31.9% -1.3% 5.6% 02/93 -43.0% -14.3% -1.4% -2.1% -3.9% -20.6% -2.5% 1.8% (注) 表は各年度別に行った要因分解の合計。表の 1 列目の**/++は、**年度の++年度に対する変化率を意味する。 船舶修繕費には、特別修繕引当金を含む。 (資料)各社有価証券報告書 (2)フラッギングアウトと労務費の削減 外航海運業では高度成長期のインフレの進展に加え、60 年代末には船舶の自動化・大型 化などの技術革新の導入による効率化が鈍化したことから、欧米の外国船社に対するコス ト競争力が低下した。さらに70 年代前半にはニクソン・ショックを契機とした対ドル為替 レートの切り上げおよびその後の円高傾向のもとで、コストの引き下げ、なかでも船員賃 金単価の上昇のもとで船員費を低下させる方策が不可避となった。従来、わが国外航海運 企業が船員の配乗権を有する日本籍船については、陸上部門における外国人労働者の国内 受け入れ問題に係る閣議了解を準用し、外国人船員を配乗しないよう行政指導がなされて いた。こうしたなか船員費の引き下げのために取られた方策の1つが、「近代化船」への取 り組みによる船舶への必要乗組み船員数の削減であり(在来船の要員数は、機関室を無人 化したMゼロ船で約 24 名)、また他の方策がフラッギングアウトなどによる外国人船員の 活用である。 ①近代化船による乗組員定員数の削減 近代化船とは、輸送の合理化、省力化を図るために最新機器を搭載した船舶である。近 代化船への取り組みは、80 年代の収益悪化以前の 77 年には既に官労使及び学識経験者から なる船員制度近代化調査委員会が設置され開始された。そして82 年度以降の収益悪化のも と推進され、83 年には乗組員数 18 名で運航する近代化船の乗組み体制が法正化された。し かし85 年のプラサ合意後の大幅な円高によって、それまでに実用化へ向けた実験が取り組

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まれてきていた近代化船も国際競争力を保つことは難しくなった。このような日本籍船の 国際競争力の喪失により、次項で詳細を述べる便宜置籍船(船籍を日本から便宜的に海外 に移した船舶)などによるフラッギングアウトが加速された。こうした事態に歯止めをか けるため、近代化船への取り組みは一層強化された。86 年には乗組員数 16 名体制の乗組み 体制が法制化され、また従来の近代化船の実験と平行して乗組員数11 名の「パイオニア・ シップ計画」の実験が87 年 10 月から開始された。そして 88 年には乗組員数 14 名体制の 乗組み体制の法制化が行われ、93 年にはパイオニア・シップが実用化された。 ②フラッギングアウトと外国人船員の活用 (ⅰ)フラッギングアウトの加速 フラッギングアウトは、73 年の第一次石油危機以降に進展したが、前述のように 85 年の 円高後に加速した。これは日本籍船には外国籍船員の配乗が行うことができなかったため、 わが国の船社が実質的に支配する海外船籍の船舶に低賃金の発展途上国の船員を配乗する ことで労務費を削減し、台頭してきたアジア諸国・地域などの船社に対する競争力の回復 を図るものであった16。フラッギングアウトには、既存の船舶を便宜置籍国17などの船主に 売却し、発展途上国の船員を配乗してコストの引下げをしたうえで改めて用船するチャー ターバック船によるものと、わが国の船社が確保した船台を外国船主にあっ旋し,そこで建 造した外国籍船を長期にわたり用船するいわゆる仕組船によるものがある。加速したフラ ッギングアウトによる日本籍船の減少は、前項でみたパイオニア・シップなど近代化船へ の取り組みなどでは、食い止めることができず、日本籍船(2000 総トン以上の外航船舶) は85 年央に 1,028 隻(単純外国用船、仕組船を加えた日本商船隊における構成比 42.2%) であったが、90 年央には 449 隻(同 22.5%)、95 年央には 218 隻(同 10.9%)に減少した。 その後フラッギングアウトはさらに進展し、2003 年央には日本籍船は 103 隻(5.5%)に まで減少した(図表Ⅲ−2)。 主にこのようなフラッギングアウトの結果として船舶減価償却費は減少したが、これは 船員費等のコスト削減に伴うものである。したがって中核船社の売上原価の固定費におけ る船舶減価償却費の構成比は 85 年度に 49.6%から横這いからやや上昇傾向で推移し、03 年度には53.8%となっている。一方労務費の売上原価の固定費における構成比は 85 年度の 34.6%から 03 年には 25.4%に低下している。このような労務費低下に寄与している外国人 船員については、良質な船員確保のためフィリピン等に配乗会社を設立し船員の選択を行 っているほか、船員養成学校を設立し人材の育成も行っている。 16日本人船員の配乗と外国人船員の配乗によるコスト格差は、88 年で東南アジア船員 24 名が乗組む便宜置 籍船が約 35 万ドルであるのに対し、日本人船員 15 名フル配乗の近代化船で約 175 万ドル(1$=125 円で 換算)と 5 倍の水準にあった。コスト格差は 2003 年には、東南アジア船員 23 名が乗組む便宜置籍船に 対し、6 名の日本人船員と 17 名の外国人船員の乗組む近代化船(1$=112 円で換算)は 3 倍のコスト水 準となっている(日本船主協会[1988]、[2003])。 17税収等のため、船舶に対する優遇税制等の措置により先進国船社の船舶の誘致・置籍を図っている国。バ

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図表Ⅲ−2 わが国商船隊の構成(隻数)の変化 3, 2, 2, 1, 1, 0 500 000 500 000 500 000 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03年央 隻 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 単純外国用船①(左目盛) 仕組船②(左目盛) ①+②(左目盛) 日本籍船(左目盛) 日本籍船割合(右目盛) (注)2000 総トン以上の外航船舶数。 (資料)運輸省[1999b]、国土交通省海事局[2003]、[2004] (ⅱ)日本籍船における外国人船員の混乗 前項で述べたように85 年の円高以降のフラッギングアウトの加速は、非常に激しいもの であったため、その対策として日本籍船への外国人船員の配乗についても検討が行われ、 海運造船合理化審議会海運対策部会小委員会フラッギングアウト問題ワーキンググループ による88 年 12 月の報告書「フラッギングアウトの防止策について」により、外国人船員 の配乗を一部で認める提言が行われた。これは、近海船等の分野ですでに行われていた日 本籍船を外国船社に裸用船18し、借り手の船会社がこれに外国人船員を配乗したうえで、そ の船を再び日本の船会社が用船することにより日本人船員と外国人船員が同一船舶に乗組 む「海外貸渡方式(マルッシップ方式)による混乗」を、外航船一般に拡大するというも のであった。この提言に沿って具体的な内容について労使で協議が進められた結果、原則 として新造船に限り 9 名の日本人船員を配乗することで労使間の合意が成立し、これに基 づく混乗船の運航が90 年 3 月から開始された。93 年には近代化船でのマルシップ混乗の 実験が開始され95 年には実用化された。また 96 年には海上運送法の一部が改正され、国 際海上輸送の確保上重要とされた近代化船、LNG船などの日本籍船を国際船舶と位置付 け税制上の優遇措置が講じられ、その海外譲渡については届出・中止勧告措置が設けられ た(国際船舶の日本籍船における構成比は03 年央で 92.2%)。さらに 99 年には改正された 船舶職員法の施行により、外国船員資格の受有者を運輸大臣の承認により船舶職員として 受け入れる制度が導入され、国際船舶での日本人2名(船長、機関長)体制が実現した。 以上みてきたことなど労務費低下のための近代化船、日本籍船における混乗への取り組 みの流れを図表Ⅲ−3に示した。 ハマ、レバノン、リベリア、オマーン、パナマなど。 18 裸用船とは船舶の貸し手が乗組員の配乗をせず船舶だけを用船者に貸渡し、用船者が船舶管理の責任を 持つ船舶形態の用船をいう。これに対し、船舶の貸し手が乗組員を配乗したうえで用船者に貸渡し船舶

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図表Ⅲ−3 近代化船、日本籍船における混乗への取り組みの流れ 年 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 近 代 化 船 関 係 77.4 船員制度近代化調査委員会設置 86.4 ビジョン検討委員会設置 77.4 船員制度近代化調査協議会設置 87.4 パイオニア・シップ実験計画策定 78.3 調査報告及び提言 86.2 第 2 次近代化計画策定 79.4 船員制度近代化委員会設置 88.9 第 3 次近代化計画策定 79.4 船員制度近代化協議会設置 97.3 船員制度近代化協議会解散 81.10 第一次提言 85.10 第二次提言 92.6 第四次提言 82.2 近代化計画策定 88.9 第三次提言 基礎実験 79.5 基礎実験 83.3A 段階実証実験 総合実験 79.11 総合実験 86.6 第一種近代化船実用化 第一種 81.2A 段階実験 (乗組員 18 名) 第二種 82.8 実験 86.7 実証実験 (乗組員 16 名) 88.7 実用化 第三種 86.7 実験 89.1 実証実験 (乗組員 14 名) 90.6 実用化 第三次総合実験船 89.2 実験 91.7P実験 (乗組員 13 名) 93.5P実用化 パイオニアシップ(P)(乗組員 11 名)87.10 実験 混日 乗本 関籍 係船 87.12 海造審海運対策部会小委員会フラッギングアウト問題ワーキンググループ設置 88.12 報告書「フラッギングアウトの防止策について」 90.3 マルシップ混乗船就航 93.7 混乗近代化実験(日本人 8∼9 人+外国人) 94.5 実用化 94.12 混乗近代化深度化実験(日本人 6∼7 95.9 実用化 人+外国人) 98.9 混乗近代化および 混乗近代化深度化実験 99.5 船員職員法 (改正法)施行 第二種、第三種近代化船 パイオニアシップ (資料)日本船主協会『海運統計要覧(2003)』(pp252-253)をもとに変更、加筆 2.売上高の増加要因による収益改善の内容 (1) 部門別の売上高増加の状況 前節で図表Ⅱ−4(P7-8)に示した固定原価要因、すなわち売上原価の固定費の削減に よる総資本事業利益率の改善状況をみたが、本節では売上高要因、すなわち売上高の増加 により同利益率の改善がどのように実現されたのかをみていく。売上高要因がプラスの寄 与をしている 87∼93 年度以降における売上高の部門別寄与度をみると、プラスであるのは 主に、87∼93 年度は定期船運賃、貸船料によるが、94∼02 年度はこれらにもよるが不定期 船運賃の寄与が最も大きくなっている。しかし貸船料等を定期船部門、不定期船部門、タ ンカーに再配分して算出が可能な 94∼02 年度について部門別の増収への再配分後の寄与度 をみると19、定期船部門が 10.9%、不定期船部門 8.2%、タンカー部門 7.0%と、3部門そ れぞれ売上高を伸ばし収益改善へ貢献してきたことが解かる(図表Ⅲ−4)。以下ではこれ ら3部門それぞれにおける増収の状況、背景について述べる。 管理の責任ももつ形態の用船を定期用船という。 19 グラフの 03 年度、87 年∼90 年度、表の 87∼93 年度の貸船料を定期船部門、不定期船部門、タンカー に配分した売上高についての部門別の寄与度を示していない理由は、03 年度は、日本郵船の必要データ が有価証券報告書に開示されなくなったためである。またグラフ 86 年∼89 年度、表の 87 年∼93 年度は 山下新日本汽船とジャパンラインの必要データが有価証券報告書に記載されていないため、90 年度以前 の部門別の寄与度が算出できないためである。

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図表Ⅲ−4 売上高増加の寄与度分解

-10%

-30%

-25%

-20%

-15%

-5%

0%

5%

10%

15%

8 6 8 7 8 8 8 9 9 0 再 配 分 9 1 再 配 分 9 2 再 配 分 9 3 再 配 分 9 4 再 配 分 9 5 再 配 分 9 6 再 配 分 9 7 再 配 分 9 8 再 配 分 9 9 再 配 分 0 0 再 配 分 0 1 再 配 分 0 2 再 配 分 0 3 年度 定期船 不定期船 タンカー 貸船料 その他 売上高変動 定期船運賃 不定期船運賃 タンカー運賃 貸船料 その他 定期船部門 不定期船部門 タンカー部門 −− その他 87∼93年度 7.4% 5.2% -4.9% -0.3% 6.1% 1.3% −− −− −− −− −− 94∼02年度 25.3% 8.6% 9.2% 3.1% 5.9% -1.5% 10.9% 8.2% 7.0% −− -0.8% (注)横軸の再配分表示上のグラフは、貸船料を定期船、不定期船、タンカー部門に再配分後の寄与度。また横軸の年 度表示上のグラフは、貸船料再配分前の寄与度。 表は各年度別に行った要因分解の合計。各行の上段(下段)は貸船料等の分配前(分配後)の一行目の上段(下 段)に記載の要素の寄与度を表す。87∼93 年度の貸船料を要因の一つとする寄与度(表の上段の寄与度およびグ ラフの貸船料配分前の寄与度)は図表Ⅱ−3(P6)のデータの再録。 再配分後の分解では、川崎汽船のエネルギー資源輸送部門はタンカー部門に分類している。 (資料)運輸省[1986b]∼[1991b]、運輸省[1992b]∼[2000b]、国土交通局海事局[2001]∼[2003] (2) 定期船部門の増収要因:規制緩和、アライアンス、現地化 ①輸送量増加による定期船部門の増収 前項に示した貸船料を再配分後の各部門における売上高の変動は、運賃収入の変動によ る部分と20、貸船料等の変動の部分(貸船料等要因)に分離でき、また運賃収入の変動はさ らに運賃単価の変動による部分(運賃単価要因)と輸送量の変動による部分(輸送量要因) に分解できる。定期船部門について、この3要因への分解を行った(図表Ⅲ−5、ただし 89 年度以前は貸船料を部門別に再配分できないため、運賃収入変動を運賃単価要因と輸送 量要因の2要因にのみ分解した。要因分解の方法は図表Ⅲ−5(注)記載のとおり)21。要因 20為替レートの変動による部分を含む。 21貸船料等については、貸船料を再配分後の各部門の売上高から再配分前の各部門の売上高を差し引いた額 とした。この額を貸船料等と表しているのは、貸船料の再配分後の売上高では、再配分されているのは 貸船料が主なものであるが、運賃以外のそれ以外の売上高についても再配分されているものがあると考

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分解の結果から、86 年以降では増収のほとんどが輸送量の増加によることが判る。 図表Ⅲ−5 定期船部門の売上高変動の要因分解 -40% -30% -20% -10% 0% 10% 20% 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 年度 貸船料等 輸送量 運賃単価 合計 (注)要因分解は以下によっている。 記号を、部門の売上高:S、運賃収入:f、平均運賃単価:p、輸送数量 q、貸船料収入等:r と定義すると、 S=f+r また f=p×qより, S=p×q+r ・・・① ①を時間に関して微分し、両辺をSで除すと、 r S q S p S q S S d 1 d dp d = × + × + × となる(dS、dp、dq、drは各々S、p、q、rの時間に関する微分値。右辺第一項を運賃単価要因、第二項 を輸送量要因、第三項を貸船料等要因とした。ここで使用した平均運賃単価(p)は図表補1−4(P51)の円 建単価であり、輸送数量(q)は中核会社の定期船部門の運賃収入をpで除した値である。 89 年度以前は輸送量要因と運賃単価要因の2要因への分解。 (資料)運輸省[1986 b]∼[1991 b]、運輸省[1992 b]∼[2000 b]、国土交通局海事局[2001]∼[2003]、各社 有価証券報告書、日本郵船決算短信 ②輸送量増加に寄与の大きい三国間輸送 定期船部門における輸送量の増加の主な要因は、わが国からの輸出貨物や近年増加して いる製品などの輸入貨物によるものではなく、貨物の積地、揚地の双方が外国の港である 三国間輸送の貨物によるものである。わが国商船隊全体の輸送量でみた部門別の輸送量に 対する三国間輸送のシェアは、定期船では86 年の 26.5%から 03 年は 61.8%と大きく上昇 している22。またこの間不定期船部門では2割前後、油槽船部門では1∼2割程度で推移し、 定期船における三国間輸送の貨物の増加は目立ったものである(図表Ⅲ−6)。 定期船部門おける輸送量の増加に対する三国間輸送の寄与の大きさは、収益が底を打っ た93 年より後に特に顕著である。わが国商船隊全体の定期船部門における三国間輸送量の えられるためである。 22 中核船社のデータが利用できないため、外航海運業全体のデータを用いた。ただ定期船部門では、飯野 海運ナのホトカ航路のように中核船社以外にも定期船輸送を行うものがあるが、そのほとんどを中核船 社が行っている。したがって中核船社以外の船社も多い不定期船部門、タンカー部門に比べて中核船社 のシェアは高いとみられ、外航海運業全体の輸送量でみるとことによる問題性は少ないと考えられる。

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増加の寄与率をみると87∼93 年度には 67.2%であったが、94∼03 年度では 101.0 と、三 国間輸送の増加が定期船部門全体の輸送量の増加を上回っている(図表Ⅲ−7)。 図表Ⅲ−6 わが国商船隊の輸送量における三国間輸送の比率(トンベース) 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03

定期船 不定期船 油送船 (資料)日本海事広報協会『数字でみる日本の海運・造船』 図表Ⅲ−7 わが国商船隊の定期船部門の輸送量増加への輸出入・三国間別寄与 定期船部門 寄与度(寄与率) 全体増加率 輸出 輸入 三国間 80∼85 年 13.3% 0.2%(1.5%) 1.0%(7.7%) 12.1%(90.8%) (86∼93 年) (69.2%) (1.5%(2.2%)) (18.4%(26.6%)) (49.2%(71.2%)) 87∼93 年 57.5% 4.6%(8.0%) 14.2%(24.8%) 38.6%(67.2%) 94∼03 年 52.2% 1.2% (2.4%) -1.8% (-3.4%) 52.7% (101.0%) (資料)日本海事広報協会『数字でみる日本の海運・造船』 ③三国間輸送増加の要因:海運集約体制の見直し、グローバル・アライアンス、現地化 定期船部門の輸送量における三国間輸送の構成比は、図表Ⅲ−6のように86 年以降大き く上昇し、さらに98 年以降上昇が顕著になっている。このように三国間の輸送量が増大し た背景には、85 年のプラザ合意以降の大幅な円高の下でのわが国の製造業拠点の海外展開 や、輸出志向の工業化の下でのNEIS、ASEAN、開放改革が進められた中国などアジア諸 国・地域の経済成長、貿易量の拡大がある。すなわちわが国の輸出入貨物量が伸び悩むな か、わが国の商船隊は他のアジア諸国・地域から北米、欧州への貨物の輸送を増大させた のである。この背景には、経済発展に伴うアジア諸国・地域から輸出される貨物の増加が ある。アジア諸国からの貨物の積取りの増大は、各社の取り組み強化によるが、その背後 にはわが国外航海運業における海運集約体制の見直しにより構築された各社の独自の運航 体制と、世界の複数のメガキャリアである船社との戦略的提携、すなわちグローバル・ア

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ライアンスの形成がある。 定期船は、一定の航路について運航スケジュールを公表して船舶の運航を行う事業であ り、荷主の利便性のため一定期間以下での便数を運航するためには複数の船舶が必要にな る。特にわが国船社の主要航路であるアジア/北米航路、アジア/欧州航路は航行距離が 長く、必要とされる船舶は多数になる。週1便で運航するためには、アジア/北米(北米 西岸)航路では1航海(往復航)に35∼42 日を要するため 5∼6 隻、アジア/欧州航路で は1 航海(同)に 56 日を要するため 8 隻の船舶が必要になる。したがって、荷主の利便性 のために毎日1 便の運航とするためには23、アジア/北米(北米西岸)航路で35∼42 隻が 必要となり、アジア/欧州航路で56 隻が必要となる。さらに定期船部門は、大きな技術革 新であるコンテナ船の急速な普及を大きな要因として競争が激化したが(補論2−2参照)、 コンテナ船は在来船に比べ船価が高い。また船舶は運航の効率化のために年々大型化して おり、コンテナやコンテナを積降しするターミナル関係の設備が必要なこともあり資金負 担が大きい。このような資金負担を低減しながら、運航のネットワークの拡大、頻度の増 加等提供するサービスを向上させるには他社との提携が重要となる。こうした状況のもと、 海運集約体制の見直しによる独自の運航体制の構築、グローバル・アライアンスはともに、 外国船社を含む他船社との自由な提携など環境変化に応じた航路網の拡大、サービスの増 強によって三国間輸送の増加を可能としたものである。 (ⅰ)海運集約体制の見直し わが国の外航海運業界は64 年に中核6社への集約体制(海運集約体制)が成立したが(補 論1−5 参照)、その後も低利の財政資金の貸出と利子補給などを背景とした運輸省の強い 指導のもとに、この体制は80 年代後半まで維持されていた。こうした状況のもとで定期船 部門は、運輸大臣の諮問機関であった海運造船合理化審議会の66 年および 69 年の答申に より、邦船間の提携、協調を強化すべきであるとされた。そして日本/北米航路(わが国 の定期船による輸送量に占める構成比は85 年度で 24.8%)は、運輸省の強い指導の下に、 わが国海運の国際競争力の維持・強化を図るため基本的に邦船社間で提携し、各社の投入 船腹のスペースを相互に貸借し合うスペースチャーター方式により運営された24(わが国の 船社にとって重要なもう一つの主要航路の日本/欧州航路では、政府の積極的な介入を受 けることなく成立したコンソーシアムによっていた25。欧州航路がわが国定期船の輸送量に 占める構成比は85 年度で 6.5%)。 23 中核船社の2003 年 3 月期の有価証券報告書に記載の単体の延航海数で、最も多いものはアジア/北米 (北米西岸)航路(各社複数の航路をもつが、極東・日本/北太平洋コンテナ航路などを1航路として) で375 回、アジア/欧州航路では 356 回であり、ほぼ毎日1便の運航となっている。 24 スペースチャーター方式では、貸借により確保した船腹については、各社が独自の営業活動により集荷 のほか参加船社の広範な自主性を認めるものであった。これに対して日本/欧州航路でとられたコンソ ーシアムでは、集貨が各社の自主性にまかされた以外は運営が統一的に行われた。 25日本/北米航路、日本/欧州航路でとられた運航方式の相違の理由については、地田[1993]pp132-134 参照。

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しかし80 年代の外航海運業の収益悪化のなか、環境変化への適応の遅れなどの弊害が目 立つようになり、海運集約体制は見直されることになった。すなわち85 年6月に海運造船 審議会による答申「今後の海運政策のあり方」が示され、わが国の海運企業は、「個々の企 業の自主性と関係企業のそれぞれの事情によって企業間のそれぞれの関係がおのずと決め られていき、民間において自立的な活力ある海運企業体制が形成されていくことが望まし い方向である。」26とされた。またこの答申を受けて運輸省国際運輸・観光局より出された 通達(85 年 6 月)27により、従来の集約体制への参加企業は、自主性と自らの責任に基づ き企業関係を形成することが認められることになった。 わが国船社は、このような海運集約体制の見直しにより、定期船部門でも従来行われて きた日本/北米航路のスペースチャーター方式による邦船社間の提携体制から脱し、自己 の経営責任による多様な企業努力による運航体制を構築することが可能となった。政府規 制の緩和への船社の対応は早く、85 年度中には、船体整備による単独運航や外国船社との 提携による運航が開始され、翌年以降も同様な対応のほか、航路の再編、大型船の投入な どの船隊整備、日本/北米航路のアジアへの延航、極東/北米航路での直行サービスの開 設、邦船社間の自主的な提携などが行われた28 こうした対応は、運輸省の強い指導のもとにあった海運集約体制下で抑制されていた自 主的な各船社の環境変化への対応が、規制緩和とともに実行されたものと考えられる。そ して各船社の収益強化へ向けた自主的な経営判断による対応から、86 年度以降に三国間輸 送は増加したと考えられる。 (ⅱ)グローバル・アライアンス 定期船部門におけるアライアンスとは、複数船社間の協定による提携である。その内容 は、地理的および機能的なサービスの範囲、航路設定、船腹スペースの割当、投入船腹計 画、メンバー間の係争、撤退、内陸輸送、コンテナの相互融通、情報システムの共同開発 に及ぶ広範なものである。Ⅱ−2で述べた外航海運業の収益を悪化させた要因による定期 船部門の競争激化が、わが国のみならず外国船社にも共通であった状況のもとで、前述の ような資金負担の大きいコンテナ船による運航のネットワークの拡大、頻度の増加等サー ビスを向上させていくためにアライアンスは形成された(アライアンスの形成以前にも前 項でみたわが国船社のスペースチャーター方式に基づくものなど、規模・内容は異なるが 26 運輸省[1985b]P85 27 85.6.26 付通達「今後の海運企業体制について」、文書番号:国海 169 号 28 具体的には、85 年度の川崎汽船の日本・極東/カリフォルニア航路での単独運航の開始とネプチュー ン・オリエント・ラインズ(シンガポール)、オリエント・オーバーシーズ・コンテナラインズ(香港) との提携、86 年度のジャパンラインのエバーグリーン マリン(台湾)との提携、日本郵船による大型 コンテナ船投入による新配船体制への移行、87 年度の日本郵船による極東/北米西岸直行サービスの開 設、88 年度の日本郵船と商船三井の提携、商船三井による極東・日本/カルフォルニア航路における単 独運航の開始とシンガポールへの延航などである。

参照

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