●人工臓器 —最近の進歩 ■ 著者連絡先 九州大学大学院医学研究院循環器外科 (〒812-8582 福岡県福岡市東区馬出3-1-1) E-mail. [email protected]
1. はじめに
1960年のBall-Cage弁の登場以降,心臓人工弁の進化は 目覚しいものがあり,その後の心臓弁膜症患者の予後は飛 躍的に改善した。しかし,生体弁,機械弁ともに依然解決 できていない問題が残されていることも事実である。日常 の診療においては,現在入手可能な多数の人工弁のうち, 患者の病態に最も適した人工弁を選択することが大切であ る。このため,現在使用が可能な人工弁についてそれぞれ の特徴などを熟知しておく必要がある。今回,我が国にお いて使用可能な新しい人工弁の特徴や利点,そして現在国 内では認可されていないものの,ヨーロッパでは既にCE マークを取得し,今後の動向が注目されるカテーテル人工 弁について述べてみたい。2. 生体弁
1) これまでのスタンダード:CEP, Hancock Ⅱ 生体弁にはワーファリンなしでも低い血栓塞栓症率,簡 便で標準化された植込み手技,標準化された再手術の安全 性,急激な弁不全発症率の低さ,多くの弁サイズが入手可 能であるなどの利点がある一方,欠点として構造的弁破壊, 不完全な血行動態,人工弁感染性心内膜炎の標準的リスク, 稀ではあるがワーファリンなしでの血栓塞栓症の危険性な どが挙げられる。これまで我が国で数多く使用されてきた ステント生体弁はCarpentier-Edwards Perimaunt牛心嚢膜 (CEP)生体弁と, Medtronic HancockⅡブタ大動脈弁であった。 牛心嚢膜弁のCEP弁に関しては,大動脈弁置換術におい て構造的弁破壊の発生率は低く,術後15年において全ての 年齢の生存患者の77%で摘出されることなく機能してお り,また65歳以上で初回大動脈弁置換術を施行した患者で は,術後15年で弁摘出を必要とした率は10%未満であっ たと,Banbur y らは報告している1)。僧帽弁位CEPの Marchandらの報告では,術後14年の生体弁構造的劣化 (SVD)によるactuarial freedom from explantは68.8%であ り,特に60歳以上の患者群においては僧帽弁位の人工弁と して良好な長期成績であると結論付けている2)。現在,日 本国内では大動脈弁用としてCEP MAGNA(後述)に加え, 僧帽弁位用として縫合糸の巻き込みを防止するトライセン トリックホルダーを備えたCarpentier-Edwards Perimaunt Plusが販売されている。 一方,ブタ大動脈弁のHancockⅡは1970年代に発売さ れた初代Hancock Standardに改良を加え,2段階固定処理 (低圧→高圧),T6石灰化抑制処理,筋性中隔の弁口部外側 配置,X線不透化マーカ内蔵に加え,ステントをより低く, よりフレキシブルにしたブタ大動脈弁である。Bortolotti らやValfrèらは,Hancock Standardに比べHancockⅡがそ の耐久性が優れていることを示した3),4)。またBorgerら
の20年遠隔成績では,SVDによるactuarial freedom from explantは10年後,20年後において大動脈弁位で94%, 53%,僧帽弁位で88%,44%であり,特に65歳以上で更に 良好な耐久性を認めたと報告している5)。
2) ステント生体弁
①Carpentier-Edwards Perimount MAGNA(日本国内承 認2008年5月)
Carpentier-Edwards Perimount MAGNA牛心嚢膜生体弁 は,20数年の実績をもつEdwards Perimount牛心嚢膜生体 弁を更に改良し,優れた血行動態と高い耐久性を目指した
人工弁
九州大学大学院医学研究院循環器外科
徳永 滋彦,富永 隆治
新しいステント生体弁である。国内では現在のところ大動 脈弁用のみの販売となっており,サイズは19∼27 mm(27 mmは受注発注品)がある。僧帽弁用はステント高が7.5 mmと極めて低いなどの特徴を持つが,2007年にヨーロッ パで販売が開始されているものの,米国および日本では 2008年8月現在,未承認の状況である。この生体弁は20年 の良好な長期遠隔成績をもつPerimount生体弁のプラット ホームを継承した上で,ステント部分にワンピース構造の PET製バンドを採用することで,更なる耐久性向上を目指 した。何よりもこの弁の特徴としては,既存の生体弁と比 しても更に優れた血行動態をもつという利点がある。19 mmのPerimount弁でEOAI(effective orifice area index)> 0.85を得るには体表面積(BSA)は1.4 m2までの患者でし か使用できなかったが,同サイズのMAGNA弁では1.8 m2 の患者まで使用可能となっている。EOAI>0.75では19 mmのPerimount弁でBSA 1.6 m2までのところ,同サイズ のMAGNA弁では2.0 m2の患者まで使用可能となっている (図1)。MAGNA弁についてTotaroらは同社のPerimount弁 やPrima Plusよりも優れた血行動態を示し,Perimount弁 よりも大きなサイズをインプラントできる傾向があり, よって本生体弁はPPM (patient-prosthesis-mismatch)を生 じにくい弁であると結論付けている6)。我が国に多い狭小 弁輪をもつ高齢者患者に対し,その有効性が期待される。 ②Medtronic Mosaic(日本国内承認2006年8月) Mosaic生体弁の弁尖(ブタ大動脈弁)は,同社のフリー スタイルステントレス生体弁と同じくAOA(αアミノオレ イン酸)石灰化抑制処理および生理的無圧固定化処理がな されており,これにHancockⅡで使用されているポリアセ タール製のフレキシブルステントを採用することで,優れ た耐久性が期待される第三世代の生体弁である(Mosaicの 名はHancockⅡとFreestyle双方の利点を寄せ集めた,モ ザイクにした,ところから来ている)。大動脈弁用,僧帽弁 用があり,それぞれサイズは2 mmごとに19∼29 mm(27, 29は常時在庫はなし),25∼33 mm(33は常時在庫はなし) となっている。Mosaic弁はステント自体の柔軟性が高い ことに加え,無圧固定処理により維持された弁尖がもつコ ラーゲンのうねりが維持されているため,弁の開閉の際に 弁尖にかかるストレスが軽減されるという。また,生体弁 構造的劣化の際に問題となる弁尖の石灰化を抑制するた め,AOAを用いて石灰化抑制処理が行われている。更に, 塑性力の高いポリアセタール製フレキシブルステントによ りステント壁が薄くなったことと,弁尖の柔軟性も相まっ て,優れた血行動態が得られている。Riessらは,10年ま でのMosaic弁の臨床経験の中で,その優れた耐久性や血 行動態を報告している7)。臨床の現場では,ラチェット機 構によるステントの内側への傾斜が可能になるため,大動 脈弁置換時の結紮が容易となり,また僧帽弁置換術時の縫 合糸のステントへの絡まりが防止できるなどの外科医に とっても非常に好ましい利点がある(図2)。ただし,30分 以上ステントポストを閉じた状態で放置しないように注意
する。現在,逢着カフをコンパクトにして,小口径弁輪に 対応した大動脈弁用のMosaic Ultraが追加された。狭小弁 輪への無理な挿入や,大動脈弁2尖弁への不自然な形での 逢着などでは,フレキシブルステントのために弁変形の危 惧があり,症例によっては注意を要する。 3) ステントレス生体弁 これまで,我が国では生体弁に関してはステント生体弁 が主に使用されてきた。一方で欧米では,凍結保存同種生 体弁(ホモグラフト)の使用も早くから可能であった。我 が国では後述のようにホモグラフトの使用が限られたもの となっているが,ホモグラフトの優れた血行動態をもちな がらも,常時必要なサイズの弁を選択可能なものにしたス テントレス(異種)生体弁が現在使用可能となっている。 ステントレス生体弁はステント生体弁にあるステントや縫 着弁坐を持たないため,一般的にステント生体弁に比べ大 きな弁口面積を得ることができる。また,ステント生体弁 に見られるステント近辺での過剰なストレスが生じないこ とから,高い耐久性が期待されるとされている。また冠動 脈孔を含む大動脈基部を残したデザインであるためにホモ グラフトと同様に基部をトリミングして用いることが可能 である。ステントレス生体弁に関しては優れた血行動態と 術後の左室心筋重量軽減が期待されているが,その結果に ついては議論のあるところであり8),長期における左室心 筋重量軽減の重要性そのものも明らかではない。手術手技 はステント生体弁よりも複雑であり,長期成績も現在のと ころ明らかではない。手術手技はFull root,Root-inclusion, Subcoronary techniqueなどホモグラフトと似ているが,ホ モグラフトよりも入手が容易であるという利点がある。 ①Medtronic Freestyle(日本国内承認1997年11月) ブ タ 大 動 脈 基 部 由 来 の ス テ ン ト レ ス 生 体 弁 で あ る Medtronic Freestyle弁はMosaic弁と同様,αアミノオレイ ン酸(AOA)を用いた石灰化抑制処理を行うことにより,優 れた石灰化抑制が期待される。また,大動脈壁のみを圧固 定し,弁尖には圧をかけずに固定する生理的無圧固定化処 理をすることにより,弁尖の自然な形態を維持することが 可能となった。Bachらは,北米8施設の多施設研究のなか で10年間の遠隔成績としてその優れた耐久性や血行動態 を報告している9)。サイズは2 mmごとに19 mmから29 mmまである(29 mmは常備在庫なし)。なお,本製品は 1997年に国内承認となった後,狂牛病に端を発する異種由 来生体組織の社会問題化のため,2002年6月に一時販売停 止となったが,2004年12月に再び使用可能となった。
②Edwards Prima Plus(日本国内承認2004年12月) 同じくブタ大動脈基部由来のEdwards Prima Plusステン トレス生体弁は,低圧による組織固定処理を行うことで組 織のコラーゲン線維を保ち,弁尖のコンプライアンスを高 めた。また,石灰化に影響を与えるリン脂質を組織から排 除した上で固定を行うXenologiX処理により,グルタルア ルデヒドのみの処理に比べ明らかな石灰化減少を可能とし た。Jinらは8年間の遠隔成績のなかで構造的弁劣化非発 生率が97.8%,圧格差6.2mmHg,EOA(effective orifice area)1.91 cm2とその優れた耐久性,血行動態を報告して いる10)。サイズは2 mmごとに19 mm∼29 mmがある(19 mm,29 mmは受注発注)。 4) ホモグラフト 屍体から採取した大動脈弁,肺動脈弁を抗生剤入りの溶 液で処理した後に凍結保存した凍結保存同種心臓弁が心臓 弁膜症手術に使用される。Subcoronar y, Mini-root, Full rootテクニックが使用されるが,いずれも機械弁やステン ト生体弁に比べ手技が複雑である。利点は,感染に強く, 手術早期の感染性心内膜炎の回避や大動脈弁感染性心内膜 炎の治療として使用できることなどが挙げられる。また, 血栓塞栓症発症率が低い,小口径弁でも優れた血行動態を 有する,石灰化や脆弱な弁輪にもフィッティングが良いな どの長所がある。欠点として,再手術の際,重度の石灰化 のために手技が非常に困難となりうる,と言われている。 図2 Medtronic Mosaic弁のラチェット機構によるステントの内側への傾斜,A:大動脈弁用,M:僧帽弁用 (A) (M)
また40歳未満の患者では,大動脈弁逆流による再手術の可 能性が増加すると言われている11)。我が国においては, 東日本組織移植ネットワーク,西日本組織移植ネットワー クが同種組織移植の要として機能している。しかし,心臓 弁に関してはその数は必ずしも多いとは言えず,また海外 からのホモグラフト輸入使用も現実的には難しいため,一 部の施設を除きホモグラフト入手が困難であるという問題 は依然未解決であり,日常診療で容易に使用できるものと はなっていないのが現状である。地方でも同種組織採取が 可能となる全国規模のネットワークづくり,およびそれを 医療経済的に可能とするシステム構築が望まれるところで ある。
3. 機械弁
1) これまでのスタンダード:SJM, CM 一般的に機械弁の特徴としては,生体弁に比べ良好な耐 久性を誇るという利点がある。しかし,全ての機械弁は生 涯にわたる抗凝固療法を要する。また弁血栓,組織増殖に よる弁不全,弁周囲逆流,感染性心内膜炎,患者̶人工弁 不均衡,ワーファリン治療に起因する反復性の出血などの 理 由 で,再 手 術 と な る 可 能 性 は 否 定 で き な い。Starr-Edwards ball弁などのBall-Cage弁が1960年代前半から約 20年間のゴールドスタンダードであり世界中で広く使用 されたが,ノイズや血行動態上の問題などの欠点のため, これは現在ではほとんど使用されることはない。Björk-Shiley弁やMedtronic-Hall弁などのSingle-tilting disc弁は Ball-Cage弁に比べ優れた血行動態を持ち,構造的にも安定 しているが,血栓弁やパンヌス形成により弁の可動性が損 なわれた際には血行動態の著しい破綻をきたす可能性があ る。現在最も多く使用されているのが二葉弁であり,その 優れた耐久性や血行動態が証明されている12),13)。これま で 我 が 国 で 数 多 く 使 用 さ れ て き た 機 械 弁 は,St. Jude Medical弁(SJM弁)とCarboMedicus弁である。 SJM弁 は1977年 に 初 め て 臨 床 応 用 さ れ た パ イ ロ リ ティックカーボン二葉弁であるが,これまで30年以上にわ たり160万個以上の植え込みがなされた機械弁である。そ の後,縫合カフを改良したエキスパンドカフ,PTFEカフ, 弁のローテーション機能を加えたマスターシリーズ,より 大きなオリフィスリングを用い広い有効弁口面積を得た HP(Hemodynamic Plus)シリーズとこれまで改良を重ねて きた。最近では,より大きな弁口面積を持ち,優れた血行 動態を目指したRegentシリーズが発売された(後述)。 Emeryらは25年遠隔成績で,4,480例のSJM弁による心臓 弁置換手術の中で構造的弁不全は僧帽弁位の1例のみで あったと,その優れた耐久性を報告している12)。 CarboMedicus弁は,長年パイロライトカーボン素材の 部品を他社に供給してきたCarboMedicus社が1986年に発 売したパイロライトカーボン二葉弁である。これは弁葉の パイロライトカーボン被覆グラファイトによる優れた生体 適合性と独自のピボット構造による血栓塞栓症予防などの 特徴をもつものであるが,1986年の発売以来60万個以上 の実績がある。その後,狭小弁輪用の16 mm,18 mmの追 加,補強チタンリングを細くすることで内径を変えること なく外径を小さくしたRシリーズ(Reduced)の発売,更に 弁輪径を小さく弁口面積を大きくした大動脈弁Supra-annular用のTop Hatシリーズ,そしてカフの柔軟性による 石灰化病変などへの良好なフィッティングや,スプラア ニュラポジションによる左室流出路障害や弁葉可動性障害 を減少させる僧帽弁用OptiFormの追加などを行っている。 Aagaardらは,15年遠隔成績で溶血,構造的弁不全は皆無 で,弁関連合併症も低率であったとしている14)。 2) 二葉弁 ①SJM Regent(日本国内承認2004年12月) 1977年の臨床応用以来,30年以上の実績を持つSt. Jude Medical二葉弁は多くの改良を加えた後,2004年に日本で も認可されたさらなる広い有効弁口面積を持つRegentシ リーズへと改良された(大動脈弁用のみ)。これまで同社 人工弁の弁口/弁輪比は19 mmの場合,スタンダードシ リーズ56%,HPシリーズ72%であったところ,Regentシ リーズでは84%まで拡大されている(図3)。これにより, より低いin vivoでの圧較差が実現されたうえ,さらに小さ な17 mmのサイズもあるため,日本人に多い体格の小さな 大動脈弁狭小弁輪症例でも,弁輪拡大術を要することなく 満足できる手術を完遂することが可能となった。Takaseya らは,弁輪径19 mm未満の高齢者狭小弁輪症例に対し17 mm Regent弁を使用することにより,満足できる臨床的, 血行動態的結果を得ることができたと報告している15)。 またBachらは,Regent弁使用においてどのサイズでも残 存圧較差は低値で,速やかな左室重量減少が認められたと している16)。カフは水平方向に広がるフレックスカフを 採用しており,柔軟性が高く組織へのフィッティングに優 れている(スタンダードカフは受注発注)。サイズは2 mm ごとに17 mm∼29 mmがある(23 mmから29 mmは在庫 の有無を確認のこと)。 ②On-X valve(日本国内承認2005年1月) 近年日本国内でもシェアを伸ばしてきている機械弁が, On-X弁である。これは最適化された弁高,最大90°の開放 角,可動性の良いピボット,インフレットフレアーなどの採用により血液の乱流を抑え,自然な層流を生み出してい る。またピボット特徴により閉鎖角も50°と小さくClosing volumeも減少し,ピボット部の逆流血による同部の洗浄も 可能となっている(図4)。更にリーフレットガードによる パンヌスの侵入防止,そしてシリコンを含まない純粋なパ イロライティックカーボンを用いているため滑らかな表面 (図4)を生み出し,上記の特徴と相まって優れた抗血栓性 が期待されている。南アフリカのWilliamsらによる5年間 の臨床試験の報告によると,社会的・経済的に恵まれてい ない南アフリカの患者群では,抗凝固療法のコンプライア ンスは低いにもかかわらず,On-X弁を使用した弁置換症 例群において合併症発生率の低減,特に血栓塞栓症の減少 が認められたとしている17)。ここからOn-X弁における低 用量抗凝固療法の可能性が期待されることになったが,現 時点ではその有効性は明らかではない。2006年1月に, FDAは 米 国 で の 低 用 量 抗 凝 固 療 法 試 験(PROACT: prospective randomized On-X anticoagulation trial)実施を 承認し,現在のところ合計1,200例の患者登録は2008年半 ばに完了の予定である。PROACT試験データ分析の終了 までは,On-X弁における抗凝固療法は従来の機械弁にお けるものが推奨されている。サイズは大動脈弁用で19, 21,23,25,27/29 mm,僧帽弁用で23,25,27/29,31/33 mmがある。
③ATS open pivot(日本国内承認1995年5月)
ATS open pivot二葉弁は,従来の二葉弁のヒンジデザイ ンであるキャビティーピボット(ヒンジ部の窪み)を排除 し,ヒンジ部に小さな半球体構造を持つオープンピボット を採用することにより,ヒンジ部での血液成分蓄積や滞留 による血栓形成を抑制することを可能にした二葉弁である (図5)。これにより,弁葉閉鎖時におけるヒンジ部での逆 流経路は最小限に抑えられ,赤血球へのダメージも減少し 術後のLDH値も低くなっている。また,他の機械弁と比 し音圧が低く,その周波数特性により開閉音が静かである という特徴がある18)。これまで大動脈弁位,僧帽弁位と もに比較的低いPT-INRにて弁関連合併症発生率であった と報告されている19),20)。スプラアニュラータイプのATS 弁AP(Advanced Performance)シリーズでは,オリフィス にグラファイトの芯材を持たず,100%パイロリティック (A) (B) a b c 図3 SJM Regent 弁(A)とSJM機械弁シリーズ の弁口面積比較図(B),a:SJM Standard Valve, b:SJM HP Series, c:SJM Regent
図4 On-X弁ピボット部における逆流血によ
る洗浄効果(A)と電子顕微鏡写真(B)
(B)
カーボンとしたことにより,大きな幾何学的弁口面積 (GOA)が得られ,周囲に配されたチタン製補強リングによ り高い強度を持つ。サイズはATS Standardシリーズで大 動脈弁用が2 mmごとに19∼31 mm,僧帽弁用が19∼33 mm,APシ リ ー ズ で 大 動 脈 弁 用 が2 mmご と に16∼24 mm,僧帽弁用では16∼20 mmがある。ちなみにATSの名 前は,「Advancing The Standard(標準を卓越した)」の頭文 字に由来するとのことである。 ④Sorin Bicarbon(日本国内承認1996年12月) Sorin Bicarbon二葉弁は,薄いパイロリティックカーボ ンのフィルム(Carbofilm)でコーティングされたチタン製 ハウジングと,湾曲したパイロリティックカーボン製の弁 葉を持つ二葉弁である(図6)。チタン製ハウジングは高い 強度と広い有効弁口面積を可能とし,湾曲した弁葉により 弁口が3つの領域に等しく分割され,翼状のハウジング形 状と相まって滑らかな層流と乱流抑制を生み出している。 ヒンジ機構の工夫により,ピボットとハウジングとの間で 単一の接触点が常に変動することで,摩擦,磨耗を最小化 している。PTFEおよびPETの複合ソーイングカフには carbofilmのコーティングが施されている。またソーイン グカフの厚みを薄くすることで弁口/弁輪比を大きくした スリムラインシリーズが大動脈弁用として追加されてい る。Bottioらは,現在市販されている二葉弁の小口径弁輪 モ デ ルin vitro studyの な か で,SJM RegentとSorin Bicarbon Slimlinenoの2つがbest performanceを示したと 報告している21)。 ※以前国内で販売されていた二葉弁のEdwards-MIRAは 2007年12月に,Advantage弁は2007年6月に,一葉弁の Omnicarbon弁は2006年3月にそれぞれ国内販売中止と なっている。 3) 弁付きグラフト ①Carbo-Seal(日本国内承認2005年8月) カーボシールはカーボメディクス機械弁に術前プレク ロッティングを不要としたバスクテック社製ゼルウィーブ 人工血管を組み合わせた弁付きグラフトである。人工弁と 人工血管はロッキングワイヤー機構により確実に接合され ている。ゼルウィーブ人工血管は,プレクロッティングが 必要なく,低血栓形成率,非発熱性と長期にわたり炎症反 応を惹起しないことが報告されている22)。弁サイズは21 mmから2 mmごとに27 mmまでがある(グラフトサイズ は弁サイズより3 mm大きい)。なお,焼灼器により冠動脈 口用の孔を空ける際,グラフトが乾燥していると使用する グラフト自体が燃焼するので,必ずグラフトを生食に浸す 図5 ATS弁におけるオープンピボット (A)弁葉がヒンジの半球体(オープンピボット)にて 支持・開閉する。 (B)一般的なキャビティーピボット 図6 Sorin Bicarbon弁の湾曲したパイロリティックカーボン製 弁葉 (A) (B)
必要がある。
②SJMマスターシリーズ大動脈弁付きグラフト(日本国 内承認2007年6月)
これまで160万個以上の植込み実績のあるSJM機械弁に Meadox Hemashield Graftを組み合わせた弁付きグラフト である。プリーツやテーパーのない接合部や,柔らかくフ レキシブルなポリエステル製増量カフをもつ。ヘマシール ドはコラーゲンでコーティングされておりプレクロッティ ングを要しない。弁サイズは19 mmから2 mmごとに33 mmまで幅広選択が可能である(グラフトサイズは弁サイ ズより1 mm大きい)。 ※ 以前使用可能であったCarpentier-Edwardsブタ弁付 きグラフトは,2003年9月に国内での販売が終了となって おり,現在国内での使用はできない。 ※ 我が国では現在販売されていないが,右室流出路再建 に 牛 頚 静 脈 弁 グ ラ フ ト(Medtronic-Venpro Contegra Pulmonary Valved Conduit)を使用した欧米での報告があ る。これは,低濃度グルタールアルデヒド溶液で保存され, 弁の部分をリングでサポートしたモデルとサポートなしの 2種類がある。1歳以上の患者における術後中期成績は満 足できるものであるが,小口径,肺高血圧症例,1歳未満の 症例では再手術率が高い23)。今後の遠隔期成績の検討を 必要とする。 ※ 商品化はされていないが,特別の型によりsinusの形 状を持たせたePTFE弁付きグラフト,弁付きパッチを宮崎 らが考案し,小児心臓外科領域における右室流出路再建術 に使用し良好な早期∼中期成績を報告している24)。これ まで49症例で弁付きグラフト,109症例で弁付きパッチと して使用し,5.6ヶ月から63.7ヶ月(20.8ヶ月)の心エコー フォローアップにおいて,狭窄症例はなく,弁付きグラフ トにおいては閉鎖不全が全症例で軽度未満,弁付きパッチ では15症例(13.8%)で中等度の逆流を認めるもののそれ 以上の進行は認めなかった。再手術を必要とした症例はな かった。日本の小児心臓外科においては既にポピュラーな グラフトとなっている。
4. カテーテル人工弁(嵐に備えよ!)
世界的に先進国の人口高齢化が進むなかで,高齢化とと もに心臓弁膜症の発症率が増加し,なかでも大動脈弁狭窄 症は最も多い弁膜症となっている。このような状況のなか, 全身状態や予備能低下のために手術適応から除外される高 齢者重症大動脈弁狭窄症も増加している。またさまざまな 理由で手術まで回ってこない高齢患者も相当数にのぼると 思われる。しかし,Varadarajanらが示すように,80歳以上 の重症大動脈弁狭窄症患者においては,内科的フォロー アップ群に比べ,明らかに大動脈弁置換群の方が生存率が 高くなっている25)。とはいえ80歳以上の高齢者大動脈弁 置換術は6.1∼9.3%と高い死亡率となっている26)。ここ でこれまでになかった低侵襲のカテーテル操作による大動 脈弁位人工弁装着が注目されており,ヨーロッパでは CoreValve Revalving SystemとEdwards SAPIEN THVの2 つの製品が既にCEマークを取得している(後述)。現時点 で は,日 本 国 内 で の 発 売 時 期 は 未 定 で あ る。Euro PCR2008におけるSerruysらのkeynote lectureによると, 2008年4月の時点で欧米では,手術適応から除外された重 症大動脈弁狭窄症に対してこれら2種類のカテーテル人工 弁だけで既に2000件以上の臨床実績があり,成功率90% 以上,30日死亡率10%前後,NYHAの改善,圧較差の解除 が可能となっている。中期生存率もCoreValveが7ヶ月で 79%,SAPIEN THVが12ヶ月で83.4%とその患者重症度を 考えると満足できるものとなってきている26)。アクセス 法は,経大腿動脈と経心尖部のアプローチがある。以前は 大腿静脈から経心房的にアクセスする順行性のアプローチ が行われていたが,手技の難易度が高く僧帽弁の腱索を損 傷するなどの有害事象が懸念されるため現在は中止されて いる。現在ヨーロッパではその使用例が右肩上がりで増加 しており,Millennium Research Group 2008の予想では, 弁置換における使用頻度は2007年の0.2%が2012年には 41.1%に,市場規模としては2007年の1.8%が2012年には 79.3%に激増するという試算もある。またCEマークを取 得した上記2つのカテーテル人工弁以外にも,複数のもの が臨床段階直前にあり,今後の動向が注目されるところで ある。EuroPCR 2008のkeynote lectureでは「嵐に備えよ! Ready for the Storm!」と,この弁の急増の可能性に対応で きるように態勢を整えるよう警鐘を鳴らしている。しかし, 本処置に伴う合併症として大動脈弁周囲逆流,脳梗塞,心 筋梗塞,血管損傷(大動脈解離を含む),伝導障害による ペースメーカー植え込みなども認められ,また一度装着す るとやり直しがきかない。今後の更なる改良が望まれると ころである。また現存のサイズは23 mm,26 mm,29 mm となっており,日本の高齢者に多い小口径弁輪に適合する ものが存在せず,サイズ的には我が国での現状に適してい ない。1) CoreValve Revalving System
Self-expandableのNitinolフレームにブタ心嚢膜弁をマ ウントした三尖弁であり,大腿動脈(または総腸骨動脈ま たは鎖骨下動脈)から逆行性に進め大動脈弁に留置をする (図7)。現在,心尖部アプローチ用のデバイスは開発中と
(A) (B) のことである。サイズは26 mm(弁輪径20∼23 mm用)と 29 mm(弁輪径23∼27 mm用)がありデリバリーカテーテ ルは第三世代では18 Fr.となっている。経食道心エコーま たは透視下にてDeviceを進め,留置の際にはRapid pacing を行うか,ECMO下に行う27),28)。18 Fr.のデリバリーカ テーテルを使用した最近のほとんどの症例では大腿部局麻 下穿刺でのアプローチが可能であり,Rapid pacingや ECMO補助なしでの留置が可能となっているという29)。 2) Edwards SAPIEN THV Baloonにより拡張されるステンレスフレームに牛心膜 弁をマウントしたもので,大腿動脈および左室心尖部より の2つのアプローチがある(図8)。サイズは23 mm(ステン ト高14.5 mm)と26 mm(ステント高16.0 mm)の2サイズ がある。大腿動脈アプローチの場合,デリバリーカテーテ ルのサイズはそれぞれ22 Fr.と24 Fr.,心尖部アプローチ の場合のデリバリーカテーテルサイズは33 Fr.となってい る。大腿動脈アプローチの方法はほぼ前述のCoreValveと 同じである。心尖部アプローチの場合はleft anterolateral minithoracotomy(第5肋間開胸)を行い,心膜切開後に左 室心尖部にプレジェット付き2−0プロリン糸を用いた purse-string sutureを置いたところにデリバリーカテーテ ルを挿入する。Rapid pacingまたはECMO下に人工弁を留 置する30),31)。
5. おわりに
抗凝固療法を必要とせず,耐久性も優れているという理 想の人工弁は未だ開発されてはいないものの,既存の人工 弁の更なる改良が行われ,心臓人工弁も新しい世代へと移 行してきている。また冠動脈疾患,大動脈疾患に続き,心 臓弁膜症に関してもカテーテル治療が登場し,臨床段階に まで開発が進んできており,今後その動向には注目してお く必要がある。 文 献1) Banbury MK, Cosgrove DM, White JA, et al: Age and valve size effect on the long-term durability of the Carpentier-Edwards aortic pericardial bioprosthesis. Ann Thorac Surg
72: 753-7, 2001
2) Marchand MA, Aupart MR, Norton R, et al: Fifteen-year e x p e r i e n c e w i t h t h e m i t r a l C a r p e n t i e r - E d w a r d s PERIMOUNT pericardial bioprosthesis. Ann Thorac Surg
71: S236-9, 2001
3) Bortolotti U, Milano A, Mossuto E, et al: Porcine valve durability: a comparison between Hancock standard and Hancock II bioprostheses. Ann Thorac Surg 60: S216-20, 1995
4) Valfrè C, Rizzoli G, Zussa C, et al: Clinical results of Hancock II versus Hancock Standard at long-term follow-up.
図7 CoreValve Revalving System(A)と装着時の透視
画像(B)
図8 Edwards SAPIEN THV(A)と心尖部アプ
ローチによる装着図(B)
J Thorac Cardiovasc Surg 132: 595-601, 2006
5) Borger MA, Ivanov J, Armstrong S, et al: Twenty-year results of the Hancock II bioprosthesis. J Heart Valve Dis
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