営
談
のれんの会計と税務
勝木幹雄
相談部 東京相談室
花野 稔
相談部 大阪相談室
大企業間だけではなく、中小企業間でもM&Aが積極的に進められるようになりまし
た。M&Aでは、対象となる企業(または事業)の純資産価格と実際の売買価格とが
異なるケースがあり、その差額は、その企業(または事業)の超過収益力、すなわち
「のれん」を評価したものと説明されることがあります。
「のれん」は買収や合併の際に発生する特有の勘定科目です。今回は「のれん」の定
義と会計・税務処理の概略を説明します。
1. のれんとは
[1] のれんとは
企業結合会計基準等では、「のれんとは、被取得企業又は取得した事業の取得原価が、取得した資
産及び引受けた負債に配分された純額を超過する額をいい、不足する額は負ののれんという」と定
義しています。取得原価と被取得企業(事業)の純資産価額(=純額)との差額がのれんになります。
■のれんのイメージ
取得原価>純資産価額 取得原価<純資産価額
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取得原価
資産
のれん
負債
資産
負ののれん
負債
取得原価
純資産
価額
純資産
価額
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[2] のれんの発生原因
企業(または事業)を合併・買収する場合の取得原価は、買収される企業(または買収される事
業)の資産および負債を、時価で評価することが前提となります。また資産や負債に計上されてい
ない特許権などの法律上の権利や顧客口座などの無形資産についても、その金額が合理的に算定で
きる場合は、当該無形資産に配分することができるとされていますので、資産がきちんと時価で評
価されていれば基本的にはのれんは発生しないことになります。しかし、合併・買収などの価格決
定では“ブランド”や“社員能力”などに価値を見出す場合も多く、これらはその金額が合理的に
算定できないことから、一種のプレミアム(超過収益力)としてのれんに含まれることになります。
また、合併・買収した企業(または事業)が将来にわたり期待した収益が見込めない場合、将来
的に損失が発生することが予測されるため、その損失部分を取得原価に反映させている場合、何らか
の理由で資産を時価未満もしくは負債を時価以上で取得した場合などには負ののれんが発生します。
なお、のれんは上記の場合のほかに、連結財務諸表での親会社の投資勘定と子会社の純資産を相
殺消去した場合にも発生します。これは従前の「連結調整勘定」のことで、連結財務諸表規則の改
正によりのれんと表示されることとなったものですが、本稿では内容に含めておりません。
2. のれんの会計処理
[1] のれんの計上方法
のれんは無形固定資産に、負ののれんは固定負債に計上します。ただし、のれんと負ののれんの
双方が生ずる場合には、相殺して表示(計上)することができます。
[2] のれんの償却方法
のれんは計上後、20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって定額法などの合理的な方法によって
償却します。その際、のれんの場合は販売費および一般管理費として、負ののれんの場合は営業外
収益として処理します。かつては会計上償却期間が明確でなかったため、企業によっては発生時に
全額を費用としていた事例が見られましたが、現在は認められません。ただし、のれんの金額に重
要性がないと判断される場合には、全額費用処理または利益処理が認められることがあります。
なお、企業会計基準委員会で「企業結合に関する会計基準等の改正」が行われ(平成20年12月26
日公表)、改正後は平成22年4月1日以降に行われる企業結合において「負ののれん」は、その生じ
た事業年度に「負ののれん発生利益」として特別利益に計上することとなりました。
発生したのれんについては、その金額、発生原因、償却方法及び償却期間を財務諸表上の注記事
項として開示することになります。
【注記例】
発生したのれんの金額、発生原因、償却の方法、及び償却期間
(1)のれんの発生金額 ○○○百万円
(2)発生原因
(のれんの場合)今後の事業展開によって期待される超過収益力から発生している。
(負ののれんの場合)企業結合時の時価純資産が取得原価を上回ったため。
(3)償却の方法及び償却期間
5 年間の定額法によって償却している。
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[3] のれんの減損処理
のれんについては、他の固定資産と同様に会計上、減損の対象となります。
M&Aブームによる取得価額の高騰により、プレミアムとして多額ののれんを計上するケースが
ありますが、M&Aの効果が期待通りでなかったような場合、特に償却期間を長期間に設定してい
る企業においては、のれんの減損が問題になる可能性があります。
3. のれんの税務上の取り扱い
税務上、のれんの取り扱いが不明確でしたが、会計基準が明確になったことを受け、平成18年度
税制改正において規定が整備されました。非適格合併等における合併等対価の額と、移転を受けた
資産および負債の時価純資産価額との差額を、資産調整勘定(および差額負債調整勘定)という名
称を用いて、のれん(および負ののれん)を定義しています。
■税務上ののれんのイメージ
取得原価>純資産価額の場合 取得原価<純資産価額の場合
のれんの償却については会計と異なる取扱いとなっています。資産調整勘定(のれん)について
は計上後、5年間で均等償却(損金算入)し、また差額負債調整勘定についても5年間で均等償却(益
金算入)することとされています。
この場合の「5年間の均等償却」は調整勘定の当初計上額を60ヶ月で割った金額に当該事業年度
の月数を掛けて計算した金額ですので、期の途中であったとしても1年決算法人であれば1年分の償
却を行うこととなります。
会計上、税務上(5年間)と異なる償却期間を設定している場合は申告調整が必要となります。
取得原価
資産 負債
資産調整勘定
(のれん)
負債
資産
取得原価
資産調整勘定
(のれん)
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4. のれんに関するQ&A
[Q1]「営業権」と「のれん」とは同じ意味なのでしょうか。
[A1]のれんは企業結合会計基準等において「取得原価と被取得企業(事業)の純資産価額の差
額」として定義されていますが、営業権については会計原則でも会計基準でも直接的には定義さ
れていません。一方、企業結合会計基準注解(注19)では「営業権のうちのれんに含まれないも
のの具体的例としては営業権という権利それ自体を購入した場合があり、その場合には貸借対照
表上、営業権として表示されることとなる」と規定しています。この注解から、会計上の営業権
は、のれんを包含する広い概念として捉えられていると考えられます。
[Q2]会計と税務で「のれん」の償却期間が異なる場合の申告調整はどのように行いますか。
[A2]以下の処理が必要となります。
前提:合併法人 甲社、被合併法人 乙社
この合併は会計上「取得」とみなされ、また税務上も「非適格合併」のため、会計上
ののれんと税務上の資産調整勘定がそれぞれ 500 計上されるとします。
償却期間は、会計上は 10 年、税務上は 5 年。
〔会計上の償却処理〕
(借方) (貸方)
のれん償却額 50 のれん 50
〔税務上の償却処理〕
(借方) (貸方)
資産調整勘定取崩額 100 資産調整勘定 100
〔申告調整〕
(別表四)
加算:のれん 50
減算:資産調整勘定 100
(別表五(一))
営業権 ・法律的な権利関係を基礎とする営業権
(代理店契約、ライセンス契約など)
・超過収益力を背景とする営業権
のれん(取得原価と純資産価額との差額)
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本情報は、法律、会計、税務等の一般的なご説明をしたものです。個別具体的な法律上、会計上税務上等の判断や対策などについては
専門家(弁護士、公認会計士、税理士等)にご相談ください。また、本情報の全部または一部を無断で複写(コピー)することは著作権法
上での例外を除き、禁じられています。
利益積立金(記載の一例)
当期の増減
区分 期首現在
利益積立金額 減 増
差引翌期首現在
利益積立金額
のれん △50 △500(※) △450
資産調整勘定 100 500(※) 400
※は別表四での調整の対象でないため、他の調整項目との違いを明らかにするため
[Q3]「負ののれん」はなぜ発生するのですか。
[A3]会計上ののれんはあくまで被取得企業(事業)の時価純資産価額と取得原価との差額であ
り、買い手売り手の事情により高くなったり、安くなったりすることは十分有り得ることです。
一般的に「負ののれん」が発生する原因としては①被取得企業の資産及び負債の時価の評価が正
確には行われていない。(資産を過大評価したり、負債を過小評価している場合)②将来予想さ
れる費用、損失や偶発債務が存在している場合。③売り手側の特別な要因により継承する資産・
負債を時価よりも低い価額で取得できた場合などが考えられます。
みずほ総合研究所 相談部 東京相談室 03-3591-7077 大阪相談室 06-6226-1701 http://www.mizuho-ri.co.jp/
内容は2009年3月24日時点の情報に基づいて作成されたものです。