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中学校における物語創作の方法と意義(1)―ライティング・ワークショップを用いた授業の構想―-香川大学学術情報リポジトリ

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香川大学教育実践総合研究(Bull. Educ. Res. Teach. Develop. Kagawa Univ.),25:1−12,2012

中学校における物語創作の方法と意義(1)

―ライティング・ワークショップを用いた授業の構想―

山本 茂喜・川田 英之

・大西 小百合

* (国語教育)(附属坂出中学校)(附属坂出中学校) 760−8522 高松市幸町1−1 香川大学教育学部         *762−0037 坂出市青葉町1−7 香川大学教育学部附属坂出中学校

The Method and the Meaning in order to Product Stories in

Junior High School (1)

:Writing Workshop Using the Design

of Classes

Shigeki Yamamoto, Hideyuki Kawata

and Sayuri Onishi

Faculty of Education, Kagawa University, 1-1 Saiwai-cho, Takamatsu 760-8522

Sakaide Junior High School Attached to the Faculty of Education, Kagawa University,

1-7 Aoba-cho, Sakaide 762-0037 要 旨 2011年度から実施されている学習指導要領国語科では,新たに「創作活動」が重視 された。中学校(2012年度より実施)においても「B書くこと」の言語活動例等で,「創作」 が新たに示され,その意義が記述されている。しかし,物語創作の実践は,中学校ではほと んど例がない。そこで,日本の創作活動の先行実践を踏まえた上で,ライティング・ワーク ショップの手法を取り入れた物語創作活動の実践を行う。 キーワード 物語創作 ライティング・ワークショップ 欠損と補充 読者意識       コミュニケーション活動

はじめに

 学習指導要領国語科では,新たに「創作活動」 が重視されている。しかし,どのように学習を 進めていくのか,どう評価していくのかの記述 は少なく,曖昧で定かではない。  本小論では,日本における創作活動の実例を 踏まえ,中学校においてライティング・ワーク ショップの手法を取り入れた物語創作活動の実 践を行い,新たな学習指導法として提案するも のとする。

1 創作文の学習活動の重視

(1)学習指導要領における創作活動  学習指導要領国語科では,新たに「創作活 動」が重視された。また,小学校から中学校ま で「B 書くこと」の「(2)言語活動例」「ア」 は,全て創作に関わる記述であり,系統的に位 置付けられている。  一例として中学校学習指導要領 第2学年 「B 書くこと」(2)言語活動例を見ると,「ア  表現の仕方を工夫して,詩歌をつくったり物

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する意義の中には存在することを許さぬ。」2 いうように,フィクションとしての作文は論外 と見られていた。この考えは,現在の作文指導 に至るまで受け継がれているものがある。  また,「赤い鳥」綴り方や「山びこ学校」といっ た事例からも,大人の視点から見た一部の理想 としての子どもによる優れた作品が「創作」と 見られていたと言える。  60年代後半から,「創造力の育成」が叫ばれ, 創作の指導が注目されるようになった。西尾実 は次のように述べる。   低学年たとえば小学校1年生のごときには 創作的作文は困難であると考えていたのも, 創作を特殊才能とする考えにとらわれた考え 方で,むしろ全児童が現実よりも想像の世界 に翼をひろげようとしている関係上,書くこ との学習においても,そういう生き方の発表 にはけ口を与えるような広義の創作活動に向 かわせることが適切な指導である。つまり, 創作を特殊才能として専門化してきたこれま での文学教育の門戸を学習者のすべてに開放 し,全学習者がいかなる程度にいかなる方向 の創作に向かいつつあるかを厳密に調査する ことが,創造教育の欠くべからざる前提であ る3  このように西尾は,「創作の指導」を,文学 教育と作文教育の接点の一つとして,全児童が 行うべきものであるとした。しかし,「生き方 の発表」とあるように,あくまで西尾の文学教 育の理論実践のための創作という位置づけであ る。  松崎正治は国語教育における文学的文章創作 の方法を次の三つに分類している4  ① 全くオリジナルな創作を書いていく。  ② 既成の文学作品の翻案,パロディ,続き 物語などをする。  ③ 文字のない絵本や漫画本などに文章を付 け加えて,創作する。  ①に分類されるものとして,大阪教育大学附 属平野小学校の実践研究5などがある。また, ②に分類されるものとして,青木幹勇の「変身 作文」6などがある。③に分類されるものとし 語を書いたりすること」とある。また,中学校 学習指導要領解説・国語編 第2学年「書くこ と」の「イ 構成に関する指導事項」において は「物語を書くような場合には,伝えたい事柄 が,どのように推移し展開したのかが明確にな るように,場面や登場人物などの設定や事件の 発端,山場,結末などの文章の構成を考えて書 くことが大切である」とあり,「言語活動」に ついても「身の回りの物事や体験,心の動きな どをとらえて詩歌をつくったり物語を書いたり することは,生徒のものの見方や感性を豊かな ものにすることにつながる。例えば,事柄や心 情が相手に伝わるように,描写を工夫して書く などの指導に効果的である。」とその意義が記 述されている。  ここで示されている意義として「構成」「も のの見方や考え方」とあるが,実際にどのよう に学習を進めていくのか,どう評価していくの かの記述は少なく,曖昧であり,定かではな い。これまでの授業でも,小説を読んだ後に続 き物語を書く実践や,視点を換えて物語を書き 直すといった実践はあった。しかし,これらの 創作活動も多くは,「読むこと」の学習の発展 的学習として興味・関心を高めるものがほとん どであった。また,俳句,短歌,詩といった, 手軽に行える実践は比較的多く行われているも のの,時間を要する小説や物語は少ない。中学 校では物語創作の実践は,ほとんど例がないの が実情である。  こうした現状の中で創作が行われても,一部 の本好きの生徒を除いて,活動は容易ではない だろう。どのような方法で,どのように書けば よいのか,どう評価すればよいのか,教師側も 生徒側も分からないからである。 (2)日本の授業における創作活動  日本の作文教育における主流は,あくまで生 活文の指導であった。「書く」ということは, 芦田恵之助の「随意選題」に代表されるように, 見たこと,感じたことといった「実感を綴らせ る」1ものであり,「『先生うそを書いてもよろし いか。』といふやうな綴り方教授は,余の主張

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て,大村はまの「クリちゃん」の実践7などが ある。  また,佐藤明宏は,松崎の分類に入らないも のとして「④ 教師の状況設定を受けた創作を 書く」とし,野口芳宏「なりきり作文」8や鈴木 清隆「『尻取り』物語」9を挙げた上で、「文学的 文章創作」の成果として次の7点を挙げてい る10 ア 自ら表現しようとする意欲を育てる。 イ 表現することの喜びを知る。 ウ 文章表現力(取材力,構想力,構成力, レトリックを使う力など)を伸ばす。 エ 想像(創造)力を伸ばす。 オ 思考力を伸ばす。 カ 多角的なものの見方や考え方,客観的視 点を身に付ける。 キ 省察力を伸ばす。  創作の意義として,大村はまは次のように述 べる。   そういうもの(創作のこと―筆者注)が, そんなに簡単に,だれにでもできるはずがな いと思いました。そして,そういう作品がで きることにではなくて,創作の「力」という ところに力を置きたい。創作の力をつけると いうことなので,みんなが小説家になるわけ でもなんでもない,けれども,ことばの教科 のなかでも,創作力といった「力」そのもの は,どうしてもそれをつけなければならない だろう。それを,その人があとで文学作品の なかに生かそうと,いろんな仕事の中に生か そうと,それはもういろいろさまざまで,お そらく小説を書く人なんかは,めったにいる はずがないし,いなくてもいいのではない か。だけど,どんな仕事についても,新しい ものを生み出すエネルギーみたいなもの,そ の力と喜び,そういうようなものを知らな かったら,どんな仕事をしたってつまらない し,生きがいがないと思いました。ですか ら,私は作品はねらわないけれど,その力そ のものをつけようと思ったのです11(傍線― 筆者)。  下線部にあるように大村の創作活動の第一義 は「創作する力」である。先の佐藤の7点の成 果の内の「ア」「イ」の意欲に関わる部分であ ると言える。そして創作活動の過程で,「ウ∼ キ」の力を付けようとしているのである12  また,大村は,創作力のいちばん大事なこと を「取材」であるとし,「創作の力そのものの 指導は,ことに,中学生の場合,取材を肩代わ りし,取材の次の段階から置くのがよいのでは ないか」13と,題材を探す力がない生徒の実態を 念頭に置いて,題材を示したり,手引きでヒン トを与えたりしている。実際,大村の創作実践 のほとんどは,松崎,佐藤の示した②,③,④ によるものである14  以上代表的な創作例を見てきたが,日本にお いて,物語創作を本格的に取り上げた実践はあ まりなされていない。特に「① 全くオリジナ ルな作品を書いていく」の実践については,ほ とんど例がない。また,先行実践のような単発 的な例はあるものの,系統だった指導法や評価 法は十分に確立されていないというのが現状で ある。 (3)外国の授業における創作活動  一方,外国の国語の授業における創作活動を みてみると,日本とは異なることが伺える。  PISA調査で学力上位国として話題となった フィンランドの「国語教科書小学4年生」を例 に取ると,次のような記述がみられる15  自分で物語を書きましょう。  次の二つの問題から,一つを選んで答えな さい。  A 「カラスのチーズ」の「登場人物」「場面」 「できごとの順番」などを変えて,物語 を書きましょう。  B 「カラスのチーズ」をお手本にして, 自分で新しい物語を書きなさい。  ここでは,「カラスのチーズ」という物語を 読んで,設定を変えたり,手本にして創作した りすることが求められている。これは,その前 の発問で「登場人物」「場面」「できごと」を問

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う発問を受け,そこで学んだことを創作に生か そうとしているのである。  さらに,「物語に『おどろき』を入れよう」「セ リフを考えよう」「質問から物語を書こう」と, 物語を書く手順と方法が具体的に示されてい る16  また,アメリカの中学校国語教科書では,次 のような基本的な物語の仕組みに基づく創作過 程・方法が示されていると,鶴田清司は指摘し ている17 ①目的・読者・作調について考える。 ②視点を選ぶ。(一人称視点と三人称視点) ③人物と設定を考える。 ・登場人物,季節,時間,場所などを決め る。 ④筋を発展させる。 ・基本的な,問題状況,事件,結果は何かを 考える。 ・自分がどんな葛藤や困難に直面するか。  (内的葛藤と外的葛藤の二つのタイプ) ・事件後の人物はどうなったか,クライマッ クスは何かなどを考える。 ⑤ストーリーマップを作る。  これら二つの例のように,外国の教科書にお ける物語の創作活動では,構成や表現の仕組み といった形式について具体的に書き方を明示す る傾向にある。創作文においても,「型」を活 用して書くことを系統立てて指導しようとして いる。さらに,「読みで学んだ形式や技法を創 作に生かす」という観点で,指導が行われてい る。すなわち,外国において創作活動は,創作 にとどまらず,読みと関連させたスキルを学ぶ ための表現活動の一つととらえられているので ある。  山本茂喜はフィンランドの国語教科書や米国 におけるストーリーマップが,認知心理学にお ける物語文法の基本形やスキーマ理論に基づい ていることを踏まえた上で,型を教える「トッ プダウン型処理による文章理解」が日本ではほ とんど行われておらず,「文章理解のためには, ボトムアップ処理とともに,トップダウン型の 処理が必要である。ことに,発達段階をふまえ るならば,読みの能力の未発達な子どもにとっ て,トップダウン型の読みの重要性は高い」18 指摘している。日本においても,物語の型をふ まえた創作活動を積極的にすすめることによ り,「トップダウン型の読みによる文章理解」 のための基盤を形成することが期待される。

2 ライティング・ワークショップの指

導法

 ライティング・ワークショップは,ラルフ・ フレッシャーとジョアン・ポータルピの提案に よるもので,「筋道を立てて話を展開する,単 語が正しい綴りで書ける,読み直す,具体例を 挙げて説得力を増す,などの複数のスキル」を 「学びながらスラスラと自信をもって書けるよ うにして,子どもたちが書き手となりたいと思 えるような学習環境を提供していく」19指導法で ある。  以下,『ライティング・ワークショップ「書く」 ことが好きになる教え方・学び方』20および『作 家の時間―「書く」ことが好きになる教え方・ 学び方【実践編】―』21より,その意義について 整理する。 (1)「書く」ための時間確保  ライティング・ワークショップは,何より, 子どもたちが書くことを好きになり,豊かな 書き手となることを目的としている。「ワーク ショップ」とあるように,教師が教えることを 最小限度にし,「実際に行い,創造する時間, つまり主体的に文を創作している時間」,何よ り子どもたちが実際に「書く」ということを重 視している。下図のように,60分間のワーク ショップであれば,授業前後の「ミニ・レッス ン」と「共有する時間」を除き,35∼40分間を 子どもたちが書く時間に充てている。 ミニ・レッスン 5∼10分 (教師がクラス全体に教える) 書く時間    35∼45分

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(子どもたちが書く) 共有する時間  10∼20分 (クラス全体あるいは小グループで書いたも のを共有する)  さらには,単発的ではなく,年間を通して週 3回程度,決まった時間にワークショップを行 う。「書けるようになるためにはまず書くこと」 が徹底されているのである。 (2)「学び」としての「書く」活動  ライティング・ワークショップでは,子ども たちが「書く」行為について,子どもの主体性 を尊重している。教師が課題や目標を設定する ことはしない。同時間の中でも,計画を立てた り,下書きをしたり,読み直しをしたり,校正 をしたり,絵を書いたり,他の子どもと相談を したりと,子どもたちは様々な活動を行い,教 師もそれを認めている。また,書く内容につい ても子どもたちが自ら選んだ目的と題材で選 び,完成までにどのくらいの時間をかけるの か,何をどのようなペースで書き進めていくの かを決めるのも子どもたちに任せている。これ は,一人ひとりの書き手はそれぞれ異なり,教 師が全ての子どもたちに一つの書くプロセスを 押しつけることは間違いだという考えの上に 立っている。書かれた作文の結果よりも書く過 程を学ぶことを大切にしており,子どもたちが 自分のペースで学び,時間の過ぎるのを忘れて 学習に没頭する学びの環境を作ることが「書く」 力を引き出すためには,最適だと考えているか らである。 (3)教師の支援  (2)でも述べたが,ライティング・ワーク ショップの主役はあくまで子どもたちである。 よって教師は基本的に支援という立場に徹す る。その中心となるのがカンファランスであ る。カンファランスは主に「書く」活動の中で, 教師が子どもたち一人ひとりと行う「対話」で ある。一緒に作品をよくしていくための話し合 いを一人2∼4分程度,1時間に7∼8人くら いと行う。教師は「教える」のではなく,子ど もと作品に寄り添い,対話の中から意欲とスキ ルを生み出していく。その基本は子どもの話を しっかり「聞く」ことから始まり,「聞き手を 理解する」「子どもの状態に敏感に反応する」「う まく書けているところをほめて書き手を育て る」「一つのことだけを教える」である。教師 が提案したことを選択したり決定したりするこ とも,あくまで子どもたちに任されているので ある。 (4)書くスキルの習得  ライティング・ワークショップでは,従来型 の教師が教える授業に近い活動として,ワーク ショップの冒頭に行われる「ミニ・レッスン」 が設定されている。ミニ・レッスンは,「子ど もたちの現状を鑑みてその時期に子どもたちが 必要としている情報,スキル,効果的な書き方 などから一つを選んで教える」時間である。内 容は「ワークショップの進め方に関すること」 「書くプロセスに関すること」「質の高い文に関 すること」「校正のスキルに関すること」である。 その設定時間は5∼10分間であり,次の「書く」 活動に影響を及ぼすものではない。子どもたち がすぐに使うかどうか分からないスキルや効果 的な書き方をミニ・レッスンで教えるのだが, こうしたスキルの教え方が,子どもたちが書い た作品と直接に結びつき,ミニ・レッスンでの 学びが書き手としての子どもたちの視野を広げ て,それが子どもたちの作品に生きてくること をねらいとしているのである。  また,子どもたちが自らの書き手としてのス キルを伸ばしていくために「作家ノート」を使 用する。作家ノートに書くためのアイデア,気 付いたこと,新しく学んだスキル等を書き込ん でいくのである。 (5)コミュニケーション活動  ライティング・ワークショップでは「書く」 活動の中でのコミュニケーションを重視してい る。  その一つが「ピア・カンファレンス」である。

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これは,子どもたち同士でカンファレンスを行 うものである。子ども同士が作品を読み合い, 話し合う中で,一緒に高め合っているという学 びの気持ちが生まれるのである。  また,「共有する時間」がある。これは,授 業の最後に何名かの子どもたちにその作品を発 表してもらい,クラス全体や小グループで共有 する時間を設けるものである。教師が発表する 子どもを選択し,発表者は「作家の椅子」に座 り,聞き手に作品を読み上げ,聞き手の子ども たちから質問やコメントを受ける。「共有する 時間」において,発表する子どもは「作家」に なり,発表を聞く子どもは「読者」となるので ある。教師は子ども同士で話し合いや相談する 際にどのように助け合っていけばよいかを教え る。この「共有する時間」を,今後の作品作り に生かしていくのである。 (6)「読むこと」と「書くこと」の関連  ライティング・ワークショップでは,読むこ とと書くことをつなげるために,ワークショッ プ外の時間で「読み聞かせ」「読書の時間」「本 についてのディスカッション」等の学習活動を 行う。その上でライティング・ワークショップ のミニ・レッスンで「作家の技」を使ったり, 子どもたちとのカンファランスで本を使ったり する。子どもたちが書き手として成長するため に,教師は子どもたちの読者としての経験を活 用するよう心がける。 (7)評価  ライティング・ワークショップにおける評価 は,子どもたちの学習の進行状況を確認する手 段である。教師はカンファランスの状況を記録 したり観察したりする。そこで得られた情報 は,教師が何をどのように教えていくかを決め るために使われる。また,完成した作品は,教 師だけが評価するものではなく,子ども自身が 評価することで,書き手としての成長を促す。  成績(いわゆる評定)については「作文の 質」「言語事項」「文の組み立てと文を修正する 様々な効果的な方法」「ワークショップへの参 加」といった点を複合的に検討し,判断する。 また,教師の評定の過程にも子どもたちを積極 的に参加させる。 (8)「書く」ための環境作り  ライティング・ワークショップでは,それぞ れの書き手の要求に応えられる空間にするため に,教室のレイアウトに十分に配慮する。ミ ニ・レッスンや共有する時間に全員が集まるス ペース,書く時間に静かに書いたり寝転がって 書いたりするためのスペース,参考となる本や 文房具,完成した作品を置いておく場所など, 子どもたちが快適に書くことのできる執筆場所 になるよう,十分な配慮を行う。

3 日本の指導法と比較しての意義

 「2」で述べたライティング・ワークショッ プの手法と日本の作文教育や創作指導とを比較 しての意義を6点述べる。 (1)「書く」ための時間確保  日本では,年間を通して決まった時に「書く」 時間を設定するという事例は少ない。中学校学 習指導要領中学校国語科では,「B書くこと」 の指導に配当する時間を,第1学年及び第2学 年で30∼40時間,第3学年で20∼30時間と定め ている。しかし,一つの単元で,あるいは「読 むこと」など他領域と関連づけながら散発的に 行われているのが多くの現状である。また,こ れは教師の指導の時間も含んだものであり,子 どもたちが実際に「書く」時間は十分とは言え ないことも多い。「書く」学習の新しいカリキュ ラム提案として意義のあるものである。 (2)「学び」としての「書く」活動  ライティング・ワークショップは,まず子ど もたちが書きたい題材を自ら選んでそれに取り 組みませる。また書く題材(ジャンル),長さ, 想定する読者,その作品にかける時間も選択さ せ,生徒にゆだねる。「子どもが自ら選択する ことによって,自分の言葉で自分の気持ちを書

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けるようになる」「自分の書いてあるものが『自 分のものである』と感じられるとき,そしてそ こに『自分の力を注ぎたい』と思うときに,そ の力を最大限に発揮」22すると考えているからで ある。教師は基本的に支援に徹する。従来の日 本の作文教育では,教師は「教える」立場,子 どもたちは「教えられる」立場として展開され てきた。教師による作文の添削や評価はその典 型である。ライティング・ワークショップでは, 書くことが好きになるために,「書く」ことを 教師が「教える」という従来の指導観から「学 び」に転換している23点で注目できる。 (3)「学び」の学習環境作り  日本では「書く」ための題材として,実物を 見せたり,体験させたりすることはあっても, 「書く」時の学習環境にまで配慮することは少 なかった。ライティング・ワークショップで は,「書きたいと思わせる,気づきを生み出す」 空間作りに配慮している。書くことが好きにな るための学びの環境作りという視点は,日本で はあまり重視されていなかった部分であるだろ う。 (4)書くスキルの習得  日本において,スキルを教え,それを使って 作文する,あるいは推敲する(例えば文章構 成,比喩を使う,など)という指導法が一般的 に見られる。佐藤明宏は,子どもに物語を創作 する際にある程度の枠組みを与えたり,「人物 設定,話の一貫性,会話の量,情景描写,動作 の描写,気持ち,視点」といった項目について 例を示しながら物語を書き直させたりする実践 を行った結果,物語づくりで描写力を育成でき るという指導の方向性が見えた反面,「子ども らしい物語の書き方の良さが失われるという問 題点が残った」と指摘し,それがこれまでの物 語づくりの指導の限界であり,物語を書かせる 中で「子供たちが学び合うことによって個性的 表現を伸ばしながら描写力を育てていけるので はないか」24と述べている。  ライティング・ワークショップでは,スキ ルの習得を軽視しているわけではない。普段 の「読む」活動と関連づけて,ミニ・レッスン やカンファランスでスキルを提示し,教えてい る。しかし,「ミニ・レッスンでは,子どもた ちの現状を鑑みてその時期に子どもたちが必要 としている情報やスキル,効果的な書き方など から一つを選んで」25教える。またカンファラン スで教えたスキルも「必要なスキルは伝えます が,そこに強制はなく,選択をし,決定するの は子どもたち」26である。これはスキルというも のは,子どもたちが実際に使えて初めて身に付 いたと考えているからである。先に示した佐藤 の考えと共通する点が多い。新しい学習指導要 領では,「習得」「活用」「探究」が重要視され ているが,「習得」とはどういうことか,何の ための「活用」かといった意味で,スキル教育 の方向性を示すものである。 (5)読者を意識した「書く」こと  日本の作文教育では「読者を意識して書く」 ということはあまりなかった。完成した作文 を読み合うことはあっても,「書く」というこ とはあくまで自己表現の行為として行われてい た。しかし,ライティング・ワークショップで は,常に読者を想定して書くことが求められて いる。書く題材を選ぶ段階から「どのような読 者を想定して書くか」を子どもたちが選ぶ所か ら始まり,カンファレンスでの教師や他の子ど もたち,「共有する時間」での聞き手と,常に 読者を想定した「書く」活動サイクルなのであ る。そしてそこに真のコミュニケーションが成 立する。読者を意識することで,書き手が「書 く」ことを好きになったり,スキルが本当に自 分のものとして身に付いたりすることにつな がっていると言える。 (6)評価  ライティング・ワークショップの評価は,子 どもたちの学習の進行状況を確認する「形成的 評価」が基軸となっている。また,教師だけが 評価するものではなく,子ども自身が評価する ことで,書き手としての成長を促す。完成した

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作品のみで評価する日本の多くの評価法と異な り,「真正の評価」であるという点は重要であ る。  こうしたライティング・ワークショップを取 り入れた授業実践を行い,新たな学習指導法と して提案する。

4 ライティング・ワークショップの手

法を用いた物語創作の授業実践

(1)研究の対象  研究の対象は,平成23年度香川大学教育学部 附属坂出中学校(以下「本校」という)在籍3 学年の生徒である。本校では2006年から教科学 習と総合学習とをつなぐ異学年合同の探究学習 である「シャトル学習」を提案し実践してき た27。平成23年度,国語科は,「そうだ! 小説 を書こう!」というシャトル学習の講座を開講 した。この講座を選択した生徒38名(1年13名, 2年13名,3年12名)が対象生徒である。(尚, 講座選択に当たって本校は希望制をとっている ものの,人数調整の為,第一希望で必ずしも講 座が選択されるわけではない。よって,国語の 苦手な生徒も対象生徒には含まれている。) (2)授業実践の実際  ① 単元構想  授業はシャトル学習国語全20時間を使って 行った(資料1)。基礎編の7時間は創作のた めの練習単元であり,実際の創作活動を行った のは,基礎編の第8時から実践編の第12時まで の13時間である。ライティング・ワークショッ プの時数としては十分とは言えないが,週2時 間の集中開催での実践とした。また,本来のラ イティング・ワークショップでは生徒が書く ジャンルも選択するが,今回は創作を,先に示 した松崎正治の分類による「① 全くオリジナ ルな創作を書いていく」に限定しての実践を 行った。これは,中学校ではほとんど例のない 実践であるからである。  1時間(50分)の時間配分はおおよそ次のと おりである。 ミニ・レッスン 5∼10分 書く時間    25∼35分 共有する時間  10∼15分  ② 学ばせたスキル  今回は「物語,小説」に限定しての実践であ り,物語や小説として成立させるためにも,全 員に学ばせたかったスキルが,「物語の基本構 造」である。その基本形は,「問題(欠損)」と 「解決(補充)」である(資料2)。このスキルを, ストーリーマップを用いたトップダウン方式に より,学ばせた。  基礎編第8時では,ストーリーマップを用 い,物語の構想を練る学習を行った。ストー リーマップを用いた物語創作については,既に 山本茂喜・山村勝哉の提案と実践がある28  まず,昔話(「鉢かつぎ姫」)を例に,「問題(欠 損)」と「解決(補充)」の構造を学んだ(資料3)。 その上で,マップを用いて物語を構想した(資 料4)。  生徒Nのストーリーマップは,次のように記 入されていた。 生徒Nの記入 [中心人物の問題(欠損)]  人の前で自然に笑えないこと→みんなと いっしょにほんとうに笑い合いたい [出来事1]  主人公が夢の中的な何かの中に入る [出来事2]  その中でいろいろな人達に会う [クライマックス]  心の中の闇の自分と会う [解決(補充)]  もう一人の自分と会っていろいろなことに 気付かされる→もとにもどる  また,生徒の様子を見ながら,実践編の第2 時より,「書き出しの工夫」「気持ちを表現する には」「題名」といったスキルを,授業冒頭の ミニ・レッスンで取り上げた(資料1)。

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 ③ 書く時間  ライティング・ワークショップの方法に従い, 生徒が自由に「書く」時間を十分に確保した。 書く環境としては,教室と,隣接した図書室の 2部屋を使用した。生徒たちは教室や図書室の 好きな場所へ行き,座ったり寝そべったりしな がら,作家ノートを使って自由に書いた。教師 は,生徒を巡回し,カンファランスを行った。  ④ 共有する時間  毎時終わりの「共有する時間」では,まず小 グループでの共有(ピア・カンファレンス)を 行った。それぞれが「書く時間」で書いた内容 を発表し,質問し合ったりアドバイスをし合っ たりした。例えば,実践編第2時「物語の基本 構造」の「共有の時間」では,Gの説明の後, Uとlの質問を通して次のようなやりとりが行 われていた。 U つきあって,ハッピーエンドですか? G はい。ハッピーエンドにしようと思いま す。 l 事件はあるんですか? G はい。ライバルが,ライバルの「麗」っ て言うんですが,「麗」はきれいで,お金 持ちで……女子の中心みたいな感じで, 「美琴」にとってはとても困難な人で,な ので「麗」も「修斗」の事が好きで,「麗」 がライバルであるということが事件かなと 思ってます。 l 最終的には「美琴」は「女」であること を受け入れるわけですね。 G はい。女子だから「修斗」からも愛され るわけだし。 l ああー。 U 性格はもともと男なんですか? G うん……。 U ちょっとイメージが違う? G うん。  まだ構想段階の中でのGの発表に対し,Uや lと質疑応答を行う中で,Gの人物像やストー リーのイメージが固まったり変化したりしてい る様子が伺えた。  また,毎時間の共有の時間として,「作家の 椅子」を行った。その時間の発表者を教師が指 名し,椅子に座って読み語りを行い,他の生徒 が質問したり意見を述べ合ったりした。  ⑤ 小説の完成  生徒が書いた小説は「白い絵本」に書いて完 成(発行)させた。  完成させた小説は,廊下に展示し,自由にコ メントを付箋紙に書いて貼れる(ファンレター) ようにした。  以上,ライティング・ワークショップを用い た創作の授業実践を行ったが,その結果分析等 については,別稿に譲ることとする。 書く時間 作家ノート ピア・カンファレンス 作家の椅子 完成した本 ファンレター

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注 1 芦田惠之助『綴り方教授』香芸館出版部,1913, 20∼25頁 2 注1に同じ。25頁 3 西尾実「文学教育の課題」『文学教育』1969,有 信堂,431頁 4 松崎正治「文学的文章創作の過程―制約の観点 から―」『国語教育の理論と実践 両輪 第19号』 両輪の会,1996 5 大阪教育大学附属平野小学校「自分らしさを発 揮する表現学習における評価と指導」『学習の個性 化を支える評価と指導』東洋館出版,1995 6 青木幹勇『第三の書く―読むために書く 書く ために読む―』国土社,1986 7 大村はま「単元 いきいきと話す」『大村はま国 語教室 第2巻』筑摩書房,1983,319∼337頁 8 野口芳宏『作文で鍛える(上)』明治図書,1988 9 鈴木清隆『ことば遊び 五十の授業』太郎次郎社, 1984,237∼239頁 10 佐藤明宏『自己表現を目指す国語学力の向上策』 明治図書,2004,54頁 11 大村はま「創作する力をつける」注7に同じ。 5∼6頁 12 例えば「楽しくつくる『白馬の馬』」の過程で「書 き出し・結び」などを取り上げて研究したりして いる。注7に同じ。102∼103頁 13 注11に同じ。73∼74頁 14 例えば,「楽しくつくる『白銀の馬』」の実践は ④に属するがその過程の実践「灯台とハマナデシ コ」「クリちゃん」は③,「空中ブランコのりのキキ」 は②にあたる。注11に同じ。73∼111頁 15 メルヴィ・バレ/マルック・トッリネン/リト バ・コスキパー,北川達夫 フィンランド・メソッ ド普及会訳・編『フィンランド国語教科書 小学 校4年生』経済界,2005,41頁 16 注15に同じ。89∼91頁 17 鶴田清司『対話・批評・活用の力を育てる国 語の授業―PISA型読解力を超えて―』明治図書, 2010,223∼224頁。また,原和久も,米国におけ る創作は,「そこで行われている表現の技術も教 え,その技術を使って自分自身の作品を創作させ るといういわば実践のトレーニングを行っている」 と指摘している。原和久『創作地下にトレーニン グ』岩波ジュニア新書,2005,V頁 18 山本茂喜「フィンランド国語教科書における『物 語構造』の学習について―その系譜と意義―」『香 川大学国文研究』第31号,1∼11頁 19 ラルフ・フレッシャー&ジョアン・ポータルピ著, 小坂敦子・古田新一郎訳『ライティング・ワーク ショップ−「書く」ことが好きになる教え方・学 び型』新評社,2007,13頁 20 注19に同じ。 21 プロジェクト・ワークショップ編『作家の時間 ―「書く」ことが好きになる教え方・学び方【実践編】 ―』新評社,2008 22 注19に同じ。39頁 23 著者自身も「ワークショップとは,見習い工が 腕のよい職人のそばで働きながら,それぞれの職 業に応じた技術を学んでいくという伝統のある制 度に基づいています」と述べているように,正統 的周辺参加の考え方に基づいた指導法である。(注 19に同じ。14頁) 24 注10に同じ。42頁 25 注19に同じ。24頁 26 注19に同じ。50頁 27 香川大学教育学部附属坂出中学校『平成20年度 教育研究発表会 研究紀要』2008,6 28 山本茂喜・山村勝哉「創作文の指導におけるス トーリーマップ活用の意義」『香川大学教育実践総 合研究 第20号』香川大学教育学部附属教育実践 総合センター,2010,3,135∼141頁

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資料1 シャトル学習「そうだ! 小説を書こう」単元構成

欠損

難題と

解決

補充

中心 人物 援助 者 願望 敵対 者 (1)基礎編 時数 主 な 学 習 内 容 ・ 活 動 1 目標設定し,小説についてのイメージマップを作る。 2・3 冒頭三文について,どのような書き出しが効果的か分析する。 4・5 小説を読んで,その話の続き物語を創作する。 6・7 小説をリレー作文で書き換える。 8 小説の基本構造を理解し,「ストーリーマップ」を書く。(「いちご同盟」配布) (2)実践編 時数 主 な 学 習 内 容 ・ 活 動 1 2 基礎編・特設講座のまとめをする。 「いちご同盟」の感想を記入する。 「作家の時間」の流れや,「作家ノート」の書き方を知る。 物語の基本構造を再確認し,「ストーリーマップ」に自分の小説のプロットを記入する。 3 ミニレッスン5分「読者を引きつける書き出しの工夫」         創作活動 4 ミニレッスン5分「気持ちを表現するには」 5 ミニレッスン5分「比喩・擬態語・擬声語の効果的な使い方」 6 ミニレッスン5分「結末をうまくするには」 7 ミニレッスン5分「題名」 8 ミニレッスン5分「挿絵」「みんなで助け合おう」アンケートに記入する。(5分) 9 ミニレッスン5分「表紙・本の帯」 10 得意な人にアドバイスをもらい,自分の創作に生かす。(10分) 11 12 清書・仕上げ シャトルアンケート イメージマップ 「いちご同盟」,本,ファイル回収 資料2 物語りの基本構造

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資料3 「鉢かつぎ姫」の基本構造

参照

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