• 検索結果がありません。

25 (2), Available online at 原著論文 サトウキビ育種のための系譜情報管理システムの開発 * 要旨 Web キーワード はじめに * Correspon

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "25 (2), Available online at 原著論文 サトウキビ育種のための系譜情報管理システムの開発 * 要旨 Web キーワード はじめに * Correspon"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

原 著 論 文

サトウキビ育種のための系譜情報管理システムの開発

樽本祐助 *・服部太一朗・田中 穣・境垣内岳雄・早野美智子

農研機構 九州沖縄農業研究センター 作物開発・利用研究領域 さとうきび育種グループ 〒 891-3102 鹿児島県西之表市安納 1742-1

要旨

育種において交配親をたどる系譜情報は,交配及び選抜において重要である.しかしながら,わが国のサトウ キビ育種では,こうした情報が共有されず,育種に関わる機関がそれぞれに管理してきた.そこでサトウキビ育 種に関わる機関で情報共有が可能な Web ベースのデータベースを開発した.このシステムによって,系譜情報 や形質特性を簡易に閲覧することができる.また交配親だけでなく,兄弟や後代の情報も得られる.こうした系 譜情報は,交配や選抜における育種担当者の意思決定を支援することができる.さらに,交配においては,その 遺伝的な近親性も考慮する必要がある.このシステムには,その指標となる近交係数の計算機能がある.サトウ キビでは系譜の欠損値が多いため近交係数の適用には限界があるが,祖父母まで把握できるものでは,系譜上に 同一の系統がある割合(重複率)と近交係数を活用することで,近親性が簡便に評価できる可能性が示唆された.

キーワード

サトウキビ,データベース,系譜,近交係数,育種

はじめに

わが国のサトウキビ育種は,九州沖縄農業研究センター, 鹿児島県農業開発総合センター,沖縄県農業研究センター, 国際農林水産業研究センターが行っている.それぞれの主 たる育種目標は,鹿児県や沖縄県では現在のサトウキビ産 業に貢献する品種開発を,九州沖縄農業研究センターでは 現 在 だ け で な く, 将 来 を 見 据 え た 品 種 開 発 を( 松 岡 2009),国際農林水産業研究センターでは不良環境適性を もつ新たな育種素材の開発を目的とし,それぞれの機関が 連携して品種改良を行っている. 育種における変異の作出は,(1)品種間の交配,(2)品 種や種子の海外からの導入,(3)サトウキビの種間や近縁 属との交配,に大きく分けられる.国内育種が開始された 当初は,海外からの導入が多くを占めたが,現在は国内で の交配が増えている.また近年,収量性や低温伸長性,耐 干性,株出し性,病害抵抗性を抜本的に改良するため,サ トウキビ野生種やエリアンサスやススキ等の近縁属との交 配により,これまでの品種間の交配を超えた変異を作出す る新たな取り組みも進んでいる(寺島ら 2004,境垣内ら 2014). このような交配に取り組んでいる一方で,現在活用され ている品種の遺伝的な幅は広いとは言えない.これにはサ トウキビの育種自体の歴史が浅いことが影響している. 例えば,世界ではインドネシアにおいて 1887 年に初め ての人工交配が成功し,国内では沖縄県が 1963 年に交配 を開始したにすぎない(宮里 1986).また,こうした育種 の実績が浅いだけでなく,サトウキビは染色体数が多く, 高次倍数性の作物である(永冨 2010).こうした遺伝様式 の複雑さから,遺伝解析手法を用いた育種への取り組みは 遅れている.そのため実績ある交配組合せを中心とした品 種育成となっており,作物としても改良スピートが遅い. FAO の統計を用いて主要作物の単収の推移を見た(図 1). サトウキビは植物体が大きいだけでなく,茎全体が収穫物 になるため単収水準は高い.図 1 における各作物の単収は, 右上りで増加している.そこで線形回帰式を適用し,傾き を切片で除したものを単収の増加率とすると,主要作物の 収量の伸びの中で,小麦の年増加率が 3.6%と最も高く, 次にトウモロコシの 3.5%,米の 2.9%となり,サトウキビ は 0.9%と低い. わが国においては,現在のサトウキビ生産の状況は厳し * Corresponding Author E-mail: yusuke@affrc.go.jp

(2)

く,生産の不安定さが顕著であり,さらに単収も低下傾向 にある(図 2).こうした要因には,台風や干ばつといっ た南西諸島特有の厳しい生産環境もあるが,一方で高齢化 や急速な機械化が進むなかで生産技術が対応できていない 点も影響していると考えられる.育種という点では,こう した生産条件および社会条件に対応した品種育成の加速化 が求められている.しかしサトウキビの育種には 10 年以 上を要するため,交配や選抜プロセスの高度化が不可欠で

1 主要作物の単収の推移

2 わが国のサトウキビ単収の推移

(3)

ある. こうしたプロセスの高度化には,交配親からの優良形質 を継承し,その改良を図る必要がある.したがって親に関 する情報,つまり系譜が重要となる.また一方で,優秀な 親ばかりを交配に使うと作出される変異の幅は狭くなるこ とが懸念される.例えば,サトウキビと同じく栄養繁殖性 作物であるカンショ,バレイショ,イチゴなどでは近親交 配により近交弱勢がおきるとされている(吉田 2003).サ トウキビでは,交配によって得られる後代の変異が非常に 大きい(服部ら 2011)ため,交配親の近親性と近交弱勢 に関して検証することが難しい.しかしサトウキビの育種 でも,集積的な交配と共に,より変異の幅を広げて,収量 性や低温伸長性,耐干性,株出し性,病害抵抗性などを改 良した育種素材の開発を同時に進めていく必要がある. しかし,こうした分析の前提となるサトウキビの系譜に 関するデータベース化の取り組みは十分ではない.その背 景には,サトウキビの開花を制御し,戦略的に交配するこ とが難しかったため,結果的に限られた母本と父本しか交 配に利用できなかったことが影響している.しかし近年, 沖縄県農業研究センターが中心となって,日長処理による 開花制御技術が進んでおり,多様な交配が可能になってい る(寺島 2012).こうした技術進歩によって,これまで出 穂しなかったものが利用可能になったり,出穂の同期化が 図られたりしており,交配の幅が広がっている.こうした ことから,サトウキビの育種に関わる機関がそれぞれに管 理してきた系譜情報を共有化し,データベースにすること が重要となっている. こうした系譜情報に関する先駆的な取り組みとしては, 沖縄県の品種や育成系統を対象に系譜データを整理し,遺 伝的な近親性を示す近交係数が計算されている(宮城ら 2003).しかし,その対象となった系統は主要なものに限 定され,その後のデータ蓄積や解析は継続されていない. そこで育成地が情報を共有し,育種情報として活用でき るサトウキビ系譜データのデータベース化と近親性評価の ためのシステム開発を行った.

系譜情報管理システム

系譜データの活用は家畜やペットなどで進んでおり,多 様なシステムがすでに開発されている.商用のものでは, Breed Mate 社や Tenset 社,Kintraks 社などがシステムを開 発している.またオープンソースの R 環境のもとで,系 譜図や近親性を評価できるシステム(Jason 2014)なども ある. サトウキビ系譜情報を管理するために,こうした既存の システムを参考にし,(1)複数の研究機関で情報を共有す るため Web ベースのシステムであること,(2)研究目的 であれば利用やコードの修正に制限がないことを基準に選 定した.その結果,Pedigree Point(Breed Mate 社)<http:// www.pedigreepoint.com/> を採択した.Pedigree Point を稼働

させたサーバーは OS が CloudLinux 6.2 で,サーバー環境 は表 1 の通りである.本サーバーは,開発のための試作に 用いたが,今後は研究所のサーバーへと移行する予定で ある. システムの改良点 Pedigree Point は系譜情報システムとして以下の機能を備 えている.(1)インターネットに接続していれば,ブラウ ザによって利用できる.(2)親となる系譜を閲覧するだけ でなく,兄弟や後代,子孫が表示できる.(3)表示されて いる名称にはリンクが設定されており,ハイパーリンクの 機能を活用して効率的に情報が閲覧できる.(4)系譜の深 さ,つまり表示させる世代数が設定できる.(5)系譜中に 共通する親が存在すると,背景が同色に着色され,近親性 を視覚的に把握できる. わが国のサトウキビ育種で用いられる参考資料では,有 望系統の両親が示されるにとどまる.系譜を遡って把握し, その中に共通の祖先があることが示されることは,育種担 当者にとって重要な情報となる.また育種過程において有 用な形質を持つ系統が得られた場合に,同じ交配組み合わ せのものを探したり,その後代にも有用形質が引き継がれ ているかを確認したりするのにも活用できる. このような基本的な機能を持つ Pedigree Point のソース コードに対して,以下の改良を行った.(1)サトウキビで は,母本を先に記載し,父本を次に記載することになって いる.そこで表示順として母本が上に,父本が下に配置さ れるようにした.(2)表示される言語を日本語化した.(3) サトウキビ育種情報として重要な項目であり,入手が容易 なものを設定し,データベースを作成した.(4)近親性を 評価するために近交係数が計算できるようにした.近交係 数は,両親の遺伝子の 50%ずつを子が持つとした時の近 親性の評価指標である. 特に近交係数の計算機能は,新たに追加されたものであ り,系譜情報が追加された際には再計算される. データベースの設計 サトウキビの系譜管理に必要なデータベースを表 2 のよ うに設計した. サトウキビでは農林認定品種になった際に,認定番号(例 えばさとうきび農林 8 号)が与えられ,品種名は NiF8 と いった認定番号に対応した命名が実施されていた.しかし 平成 23 年からは系統名が品種名になる仕組みとなってい る.したがって平成 25 年度に認定をうけた農林 32 号の品

1 システム稼働環境

Web サーバー Apache 2.4.10 データベース MySQL 5.1.61 言語 PHP 5.3

(4)

種名は系統名であった KTn03-54 となっている.こうした 品種・系統名を変数 Name に入力する.この品種・系統名 には固有の ID(識別番号)を与える.加えて,その両親 のデータを変数 Female と Male に ID として入力する.こ れらの変数 Name,ID,Female,Male が必須項目である. 品種登録の有無を判断するための変数は Reg とした. 変数 Sex には,交配実績があった場合に,それが交配母本 として使われたのか,それとも父本として使われたのかと いう情報を入力する.したがって交配実績の有無もここか ら得られる.また交配の元になった原種については,変数 Species に種名を記載する.サトウキビは 6 つの種で構成 されている(永冨 2010).これらに加えてサトウキビの近 縁属もここで管理する方針である. またサトウキビの形質特性として,重要病害である黒穂 病への抵抗性,形態的な特徴として長さや太さ,品質面で の糖度や早熟性,さらには風折抵抗性を設定した.これら の特性は,5 段階評価とした.例えばサトウキビでの重要 病害である黒穂病についての抵抗性は,極強を RR,強を R, 中を RS,弱を S,極弱を SS としている. 以上の項目は基礎的なものであり,データベースとして 蓄積していくべき項目が増えれば,データベースに項目(カ ラム)を追加することで対応できる. データベース内のデータについて,日本語を入れること も可能であったが,今後海外との遺伝資源交換で活用する ことも考慮して半角英数でのデータベース化を図った.さ らにデータベースにおいて画像を表示することが可能であ るので,例えば識別形質などの画像を表示できる. データの作成と管理 データベース化したデータは,品種となったサトウキビ を中心に整理した.サトウキビでは,品種を登録する際に, その育成経過を参考成績書という内部資料に取りまとめ る.データの作成では主にこの資料を用いた.しかし系譜 をさかのぼって整理するために,国内・海外の文献や Web 検索によって得られたデータも活用し,約 600 件の系譜情 報を整理した. データの作成や更新には 2 つの方法がある.1 つは,デー タベース構造に対応した入力データを表計算ソフトで作成 し,CSV ファイルとしてデータベースに読み込む方法で ある.2 つは,Pedigree Point の開発元でもある Breed Mate 社の Pedigree Explore というソフトウェアを利用する方法 である.この Pedigree Explore は表形式で系譜情報を管理 することが可能であり,さらにデータをサーバーに送る機 能を持っている.後者の方が容易にデータ作成と更新が行 える.

系譜システムの利用

利用方法 1.系譜システムのサーバーにアクセスし,検索画面を表 示する. 2.検索方法には,(1)品種・系統名での検索,(2)品種 登録されたものの一覧表示,がある. 3.一覧表示される品種・系統の[系譜]をクリックする (図 3). 4.その系譜が表示される(図 4).NiTn20 の母本が左上 の NiF4,父本が左下の NiF5 となる.表示させる祖先 の深さは,世代数により変更できる.セルの背景が着 色されているものは,表示されているなかに同じ品 種・系統があるものである.なお空白のものは欠損値 である. 5.[兄弟]では,親が同じ品種・系統が表示される(図 5). 6.[後代]や[子孫]では,その品種・系統の交配によっ て得られたものが表示される. 7.[近交]では,その品種・系統との交配によって得られ た子の近交係数が求められる.その際,全祖先を遡っ て,その都度計算しているため,表示に時間を要する. また近交係数が高いものから表示されるため,両親や 兄弟との交配が上位に表示される(図 6). 近交係数の計算方法 近交係数は,両親の遺伝子の半分を子が持つと仮定した 計算値である.その計算には,両親の祖先のなかから共通 祖先を探し出し,その共通祖先にたどる世代数をかぞえて (1 + FA) × (1/2)(n+1)を計算する.このとき FAは共通祖先の

2 データベース構造

変数名 内容 値 ID 識別番号 Name 品種名・系統名 例:NiF8 Femal 母本 ID Male 父本 ID

Reg 品種登録 Regist or Not Sex 交配実績 Male or Female Species 種・属 例:Spontanium Reg No. 旧系統名,認定番号 例 :KF81-11,No.30 Smut 黒穂病抵抗性 強(R)<–> 弱(S) Num 茎数 多(M)<–> 少(F) Leng 茎長 長(L)<–> 短(S) Diam 茎径 太(W)<–> 細(T) Suc 糖度 高(H)<–> 低(L) Mature 早熟性 早(E)<–> 遅(L) Break 風折抵抗性 抵(R)<–> 易(S) photo ファイル名

(5)

3 一覧表示

(6)

近交係数,n は共通祖先から両親へたどる世代数となって いる(吉田 2003).共通祖先ごとに得られた値を合計した ものが近交係数となる. 図 7 は,農林 20 号の全系譜を示している.その中で両 親の共通祖先は同色で着色されている.農林 20 号の母本 である NiF4 の 2 世代先に NCo310 があり,父本の 2 世代 先にも NCo310 がある.この NCo310 を共通祖先とする経 路を図 7 では A とし,その世代数は 2 + 2 = 4 となる.こ うした方法で,A から S までの 19 の共通祖先に至る世代 数を求めている(表 3). さらにこれらの共通祖先のなかで,唯一 NCo310 が共通 祖先を持つ.Black Cheribon である.NCo310 の両親から Black Cheribon への世代数は 4 + 3 = 7 のものが 2 つある. したがって (1/2)(7+1) × 2 を計算すると,0.00781 が得られる. これが NCo310 の FAとなる. 以上の計算方法によって,共通祖先への経路ごとに値を 求めて,それらを合計したものが近交係数となる.

系譜システムを用いた品種分析

本システムを使って,1990 年以降に農林認定をうけた 品種について系譜分析を行った.対象としたのは,さとう きび農林 8 号から 33 号までの 26 品種である. 系譜の深さは 6 世代として,そこに含まれる品種・系統 数をデータ数,着色された共通する品種・系統数を重複 数とした.また,品種の両親をつかって近交係数も求めた (表 4). まず注目すべき点は,データ数が少ない点である.n 世 代前には,2nが祖先となるため各世代を合計すると 6 世代 の間にはのべ126のデータ数が存在しうる.しかし最もデー タ数が多い農林 19 号であっても,データ数は 82 件で,最 大可能な祖先数の 47%にすぎない.なお,農林 19 号の 6 世代の系譜では,原種に到達して,それ以上は遡れないも のが存在しないことを確認している.こうした結果は,サ トウキビの系譜データに欠損値が多いことを示している.

5 兄弟画面

(7)

こうした欠損要因には次のことがある.(1)農林 9 号や 農林 20 号の系譜にあった NiF5(農林 5 号)は,複数の花 粉親を用いた多父交配で作出されており,父本が特定でき ないこと,(2)農林 12 号や 22 号は,自然受粉とされてお り,その父本が特定できないこと,(3)海外の品種・系統 は,系譜をたどるのが難しいことがあるためである.こう したサトウキビ特有の交配方法によって,完全な系譜の整 備が難しいのが現状である. また重複率の高さにも特徴がある.表 4 で示した 26 品 種の重複率の平均は 55%である.つまり 1990 年以降に育 成された品種の 6 世代の系譜では,限られた親が使われて いる割合が高い. 近交係数については,0%から 26%までの値となってい る.近交係数は両親の祖先を考慮したものであるため,欠 損値の影響を強く受ける.とりわけ両親が不明な場合は 0%になる.サトウキビの系譜には欠損が多いので,こう した近交係数を活用するには制限があると言わざるを得な い.そこで,その利用可能性を検討するため,表 4 に示し た品種のうち,祖父母に欠損値がない 16 品種を対象に, 重複率と近交係数の関係を見た(図 8). 図 8 からは,重複率が 70%程度までは,重複率と近交 係数には線形増加の傾向があることがわかる.しかし 70%を超えると,近交係数に差異が生じている.つまり祖 父母までは把握できる系統では,重複率が 70%以下であ れば共通する品種・系統が存在する度合いで近交係数と同 等の評価が可能であることを示している.一方で,70%を 超えた場合には近交係数を参考にすることで簡便に近親性 の評価が行える可能性が示唆された.

おわりに

サトウキビ育種において,系譜情報の整理と解析はこれ まで十分にはされてこなかった.宮城ら(2003)が先駆的 に実施した解析は,58 系統(品種も含む)にとどまり, 本稿で提案したデータベースはデータの拡充が図られてい る.解析面でも,系譜情報を探索的に操作可能なだけでな く,情報が共有可能で,さらに近交係数の計算機能をもた せた点に特徴がある. 本システムの育種への活用という点では,これまでのサ トウキビ育種は実績ある交配親を中心としたものであっ た.今後,育種を戦略的に実施するには,系譜情報を軸と して,優良形質を持つ遺伝子を集積していくことが必要で ある.これまでサトウキビは染色体数が多く,高次倍数性 であるため遺伝解析手法の適用が遅れていたので,こうし た育種が実施できなかった. しかし,サトウキビでもマーカー開発が進められており, その利用可能性が高まっている.例えばサトウキビ野生種 の分類に適用した境垣内ら(2015)や品種・系統を高精度 で識別するトヨタ自動車(2011)による技術開発がなされ ている.またこうした分類への利用にとどまらず,サトウ キビの重要病害である黒穂病抵抗性マーカーも開発されて いる(トヨタ自動車・独立行政法人農業・食品産業技術総 合研究機構 2012). こうした農業特性に関わるマーカーが得られることで,

6 近交係数画面

(8)

系譜情報と照らし合わせて,交配によって農業上有利な遺 伝子が継承されたかどうかを確認することができる.こう した有用遺伝子の集積により,サトウキビ育種の進歩が期 待できる. さらには,これまで多父交配であったため父本が不明で あったものが特定できる可能性もある.それによって系譜 情報の欠損値が減少すれば,近交係数の精度が高まること になる.サトウキビと同じ栄養繁殖性作物では近交弱勢が 生じるとされているので,サトウキビ育種でも近交係数と 後代の能力を評価することで,近親性を考慮したより効率 的な交配が実施できる可能性もあると考えている. このように系譜情報を核にして,遺伝解析手法と連携し てサトウキビ育種の高度化を進めていきたい.

7 農林 20 号の全系譜

(9)

3 近交係数の計算元データ

NCo310 POJ2364 Co213 EK28 POJ100 POJ213 BlackCheribon 経路 世代 経路 世代 経路 世代 経路 世代 経路 世代 経路 世代 経路 世代 A 4 B 8 C 8 D 7 E 10 G 9 N 12 F 10 H 9 O 11 I 10 P 11 J 10 Q 10 K 9 R 13 L 10 S 13 M 10

4 近年品種の系譜構造

品種名 系統名 データ数 重複数 近交係数 件数 件数 % % さとうきび農林 8 号 NiF8 50 17 34 1.21 さとうきび農林 9 号 Ni9 31 13 42 0.00 さとうきび農林 10 号 NiTn10 65 31 48 2.54 さとうきび農林 11 号 Ni11 70 53 76 8.87 さとうきび農林 12 号 Ni12 58 39 67 0.00 さとうきび農林 13 号 Ni13 74 51 69 5.78 さとうきび農林 14 号 Ni14 51 32 63 0.00 さとうきび農林 15 号 Ni15 57 30 53 2.35 さとうきび農林 16 号 Ni16 49 26 53 7.41 さとうきび農林 17 号 Ni17 68 38 56 4.12 さとうきび農林 18 号 NiTn 18 66 48 73 6.80 さとうきび農林 19 号 NiTn19 82 61 74 14.13 さとうきび農林 20 号 NiTn20 67 49 73 4.64 さとうきび農林 21 号 Ni21 59 37 63 6.90 さとうきび農林 22 号 Ni22 28 16 57 0.00 さとうきび農林 23 号 Ni23 59 37 63 6.90 さとうきび農林 24 号 NiN24 40 8 20 0.59 さとうきび農林 25 号 NiH25 51 27 53 1.10 さとうきび農林 26 号 Ni26 78 43 55 5.32 さとうきび農林 27 号 Ni27 68 36 53 4.12 さとうきび農林 28 号 Ni28 70 52 74 26.28 さとうきび農林 29 号 Ni29 70 52 74 26.28 さとうきび農林 30 号 KN00-114 2 0 0 0.00 さとうきび農林 31 号 KY99-176 61 34 56 3.99 さとうきび農林 32 号 KTn03-54 28 2 7 0.00 さとうきび農林 33 号 RK97-14 68 43 63 5.43

(10)

引用文献

服部太一朗・寺内方克・石川葉子・境垣内岳雄・寺島義文・榎  宏征・木村達郎・島田武彦・都築祥子・西村 哲(2011)サ トウキビ品種 NiF8 と Ni9 の無選抜交配系統群における糖生 産性関連形質の変異と相関関係の解析,日本作物学会紀事, 80: 182–183.

Jason, P., T. Therneau and D. Schaid (2014) The kinship2 R Package for Pedigree Data, Hum Heredity, 78(2): 91–93.

境垣内岳雄・寺内方克・寺島義文・服部育男・松岡 誠・杉本 明・ 服部太一朗・樽本祐助・田中 穣・石川葉子・伊禮 信・氏 原邦博・下田 聡(2014)黒穂病抵抗性に優れ多収の飼料用 サトウキビ品種「しまのうしえ」の育成,九州沖縄農業研究 センター報告,62: 41–51. 境垣内岳雄・岡田吉弘・田中 穣・樽本祐助・服部太一朗・早野 美智子(2015)SSR マーカーによる国内サトウキビ野生種の 分類,日本作物学会記事,239: 234. 松岡 誠・寺島義文(2009)サトウキビ産業の未来,熱帯農業, 2(1): 23–26. 宮城克浩・伊禮 信・謝花 治・崎山澄寿・杉本 明(2003)沖 縄のサトウキビ栽培品種及び育成系統の親縁関係の検討,熱 帯農業,47(2): 97–98. 宮里清松(1986)「サトウキビとその栽培」,日本分蜜糖工業会, 23–28. 永冨成紀(2010)「品種改良の世界史:作物編」,サトウキビ,悠 書館. 寺島義文・杉本 明・福原誠司・氏原邦博・伊禮 信(2004)種 属間交雑で作出した多収性サトウキビ系統の地上部,地下部 の特性,日本作物学会紀事,73(1): 140–141. 寺島義文(2011)近縁属植物を利用したサトウキビ改良の取り組 み,特産種苗,12: 90–93. トヨタ自動車株式会社(2011)サトウキビ属植物の品種・系統識 別マーカーとその利用,特開 2011-15615 号. トヨタ自動車株式会社・独立行政法人農業・食品産業技術総合研 究機構(2012)サトウキビ属植物の黒穂病抵抗性関連マーカー とその利用,特開 2012-235772 号. 吉田智彦(2003)数種の栄養繁殖作物で近年育成された品種の近 親交配の程度,日本作物学会紀事,72(3): 309–313. 受付日 2015 年 12 月 8 日 受理日 2016 年 2 月 18 日 担当分野 生命・生物学分野

8 祖父母が把握できる品種の重複率と近交係数

(11)

Agricultural Information Research 25(2) 2016. 68–78

Development of a Sugarcane Pedigree Database for Breeders

Yusuke Tarumoto*, Taiichiro Hattori, Minoru Tanaka, Takeo Sakaigaichi and Michiko Hayano

NARO Kyushu Okinawa Agricultural Research Center (NARO/KARC), Nishinoomote, Kagoshima 891-3102, Japan

Abstract

Pedigree information is important for crossing and selection in sugarcane breeding. We developed a sugarcane pedigree database that is a web-based application using PHP and MySQL, which allows breeders anywhere to share pedigree information. For each sugarcane line, it contains data on culm thickness and length, sugar content, maturity, and disease resistance. The database has information on more than 600 sugarcane lines in Japan, providing not only pedigree reports but also offspring and sibling reports. The genetic distance of each line is evaluated based on the inbreeding value calculated using the line’s pedigree information. Although ancestor information is lacking in many sugarcane pedigree data, thus limiting the application of inbreeding values, in those lines for which grandparents have been identified, the overlap rate in the pedigree line and inbreeding value provide an efficient way to evaluate the genetic distance.

Keywords

sugarcane, database, pedigree, inbreeding, breeding

* Corresponding Author E-mail: yusuke@affrc.go.jp

図 3 一覧表示
表 3 近交係数の計算元データ

参照

関連したドキュメント

外声の前述した譜諺的なパセージをより効果的 に表出せんがための考えによるものと解釈でき

議会」 「市の文化芸術振興」 「視聴覚教育」 「文化財の 保護啓発・管理」

When we consider using WEKO as a data repository, it is not easy for the users to search the data which they wish because metadata are not well standardized in many academic fields..

Seiler, Gauge Theories as a Problem of Constructive Quantum Field Theory and Sta- tistical Mechanics, Lecture Notes in Physics, 159(1982) Springer

しかし何かを不思議だと思うことは勉強をする最も良い動機だと思うので,興味を 持たれた方は以下の文献リストなどを参考に各自理解を深められたい.少しだけ案

7.法第 25 条第 10 項の規定により準用する第 24 条の2第4項に定めた施設設置管理

題が検出されると、トラブルシューティングを開始するために必要なシステム状態の情報が Dell に送 信されます。SupportAssist は、 Windows

「系統情報の公開」に関する留意事項