腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 1
さびは世につれ(3)
田尻 勝紀
あの頃は外貨獲得,工業優先,欧米に追いつき追い越せ! 1 ドル 360 円の時代. 防錆協会では昭和37 年 11 月 27~30 日にロンドンで開催される Corrosion & Metal Finishing Exhibition の見学を兼ねて,第 1 次海外防錆技術調査団(団長 山本洋一 他 14 名)を派遣した(11 月 13 日~12 月 13 日).団員の所属する業種は鉄鋼・プラント・ 電気防食・試験機・ミシン・カメラ・めっき等で展示会の他に欧米の主要研究所の訪問 が目的であった. 上記「腐食と表面処理展示会」は 130 コマ・1200 点の展示があり,技術的な収穫は 大きなものがあった. その後の主な訪問先はスイス連邦材料試験研究所(チューリッヒ),マックス・プラ ンク鉄鋼研究所(デュッセルドルフ),フォルクスワーゲン社(ハンブルグ),国際中央 冶金研究所(ブラッセル),英国鉄鋼協会(ロンドン),国立標準局(ワシントン),INCO 社(ワシントン,ウィルミントン),ユージライト社,ミシガンクロム化学社(デトロ イト). マックス・プランク鉄鋼研究所では W. OELSEN 所長らと面会し,化学関係の Dr. KUDIELKA が研究所(1917 年設立)の現状(所員 270 名)と自らの研究について説明. 日本から遅沢浩一郎氏(日本冶金)が留学されていて,オーステナイトステンレス鋼の 粒界腐食機構を解明するため90℃の 2N 硫酸中で Cr 量の異なる Fe-10Ni-xCr 鋼のア ノード分極曲線を求め,一方,鋭敏化した 18Cr-10Ni 鋼の定電位腐食による溶解 Cr 量の分析を行い,溶解成分の中のCr 量が地よりも少なくなっていることを確認し,Cr 欠乏説を実証された.腐食についてはDr. ENGELL から案内頂いた後,山本先生は持論 の電離説否定の発錆理論 Fe+2HOH=H2+Fe(OH)2 を黒板に書き意見を求めたところ “Oh Yes“と同意(?)されたといって,帰国後大変な感激ようであった.(蛇足:母 国日本では誰も賛同してくれなかっただけに!?) INCO 社では副社長の F. LaQue はじめ主要スタッフから研究内容の説明を受け暴露試 験場の見学で感動し,帰国後早速犬吠碕灯台の下に200 坪の用地を確保したメンバー(め っき)もいた. わが国にも大気暴露試験場設置の必要性を協会として関係機関に提唱し,これを機に 防錆協会でも附属試験場設置の準備活動が始動した.腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 2 第2 次は昭和 39 年に米国マリンコロージョン調査団(団長 尾間一彦),第 3 次は昭 和42 年に欧米の長大橋梁防錆調査団(団長 江田福次)が派遣され,昭和 44 年には調 査目標を大気暴露試験場に絞って第4~5 次の海外調査団 3 チーム(団長:柏木 隆, 桜井善三郎 及び 篠原貫寿)が派遣された. 第3 次調査団のテーマが長大橋梁防錆調査団となったのは,本州四国連絡橋の計画が 現実味を増し,その防錆塗装仕様や維持管理,塗膜劣化度の判定,高所作業の安全対策, 技能労働者の確保,機械化の導入等未知の技術的課題を学ぶ為であった. 団員は塗装会社社長の5 名,鍍金会社社長 1 名,防錆技術学校講師(塗料会社技術者) 2 名,通訳兼ガイド 1 名と私の 10 名で平均年齢は還暦を優に超えていたと思う.羽田 空港で盛大な見送りを受けたが,「調査の成果についてはトヤカク言わん,兎も角4 週 間後にこの顔触れで全員に無事戻って来てくれ!」と菅野専務理事から言われ,改めて 重圧を感じる.昨夕「虎は一日に千里を行って帰る」という験(ゲン)を担ぎ,玩具の 虎を届けてくれた人を改めて想い浮かべた. 欧米の著名な長大橋梁を見学でき,訪問先では連発する団員からの技術面・経営面の 質問に丁寧に応対してくれた. サンフランシスコのゴールデンブリッジ(主径間:1280m)では管理所にアルター・ シー・ジェンキンス氏,ロバート・エル・ダビットソン氏を訪問し,塗装仕様・塗り替 え周期などを尋ねた.塗装は1936 年完工以来 4 年毎に繰り返し行なわれ,実験結果に 基づき従来の鉛丹油性ペイントから,長期防錆仕様の無機ジンクリッチペイント~ビニ ル樹脂塗料に現在塗り替え作業中の最中であった.素地調整のためのサンドブラスト作 業は「塗装作業中につき窓を締めよ」の注意看板があるだけで,粉塵を舞い上がらせな がら交通を中断せずに行なわれていた.橋の下に設けられた暴露台には各種の塗装試験 片が取り付けられ,周辺には塗替え中の橋から剥ぎ落とされた堆朱状に塗り重ねられ蜜 柑の皮ほどの旧塗膜(約30 年の年輪)が散乱していた. オークランドベイブリッジも完成は1933 年で 487+701+701+487=2376mの 4 橋が連 続していてその大きさに驚く. 塗料製造会社のフラー社,セム社を見学し,製品の特化など日本との違いを知った. 幸運にも建造中のサンマテオヘイワード橋をボッブ・バゼロ氏,ジム・ドラックス氏 の案内で大きな箱桁の中の歩廊を開口部まで歩いて見学できた.箱桁外部には全長を移 動可能な移動足場が設置されており,点検・補修塗装に便利で安全である. ニューヨークでは当時世界一のベラザノナローズ橋(主径間:1298m),歴史的にも 名高いジョージワシントン橋,ブルックリン橋等マンハッタン島周辺の橋を見学し,市 橋梁課のジョン・エッチ・ドーリー氏を訪問し,担当する52 橋の診断・塗替え塗装計 画や限られた予算で有効に維持管理する悩みも聞くことが出来た. イギリスでは完成間もない優雅なセバン橋(主径間:983m)とフォースロード橋(主 径間:1006m)そして 78 年も供用している巨大なフォースレールブリッジ(1889 年竣
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 3 工)を見学し,ブラウン氏,ウイルソン所長の好意により,ロードブリッヂの橋搭に登 らせて貰った.70 年以上も歳の差がある新旧の長大橋を白鷺と恐竜を真近に対比して 見ているような感じで一同しばし立ち尽くしていた. 新橋の防錆は 75μmの亜鉛溶射~エッチングプライマー~ジンククロメートプライ マー~MIO(雲母状酸化鉄)塗料で,やはり防錆には鋼材に亜鉛皮膜を接触させること が不可欠と思われた.亜鉛溶射~MIO 塗料の仕様は神戸大橋や関門橋に採用された. ブリストル郊外の渓谷に架かるクリフトン橋は径間 214mではあるが 1864 年に建設 された帯鋼チェーンの吊り橋で橋搭は古城の望楼に似ており,高さ 80mの渓谷に架か る景観美と共に当初から点検や保守のため移動足場が設置されていることに感銘した. ケルンではポールマン氏よりライン河に架かる橋について移動足場や塗装仕様の説 明を受けた.斬新なA型の主搭をもつゼベリン橋は,湾曲して流れるライン河を上り下 りする船から見て,歴史的に名高い教会ケルンドームの尖塔と重なるので,景観を考慮 して当初の位置から主搭の位置をずらして建設された. 現在ではわが国でも点検や塗替え塗装の事も配慮され,移動足場が長大橋には併設さ れているのが普通になった.また,景観についても配慮されているのは喜ばしい. ルッツェン市(スイス)内を流れるロイス河に架かるカーペル橋は1333 年建造の世 界最古の被覆木橋で河を鍵形に斜めに横断しており,板葺きの屋根があるのが珍しい. 橋以外では,開催を翌年に控えたメキシコオリンピックスタジアムの建設現場で「来 年までに準備が間に合うかなー?」と心配し,開催中のモントリオール万博会場では3 年後に開かれる大阪万博の期待を膨らませ成功を祈った. ランス(仏)潮汐発電所を見学し,クール・カンベック氏より説明を受けた.最大 13.5mの干満差のある入り江にダムを構築し,24 基の玉葱型の水車タービンにより 24 万キロワット発電が出来る.水車その他の金属の選定には,長期回転水中試験をはじめ 各種の試験結果を参考にしており,プロペラ部分にはアルミブロンズと17Ni ステンレ ス鋼を考えていた.
マイアミではSouth Florida Test Service Incorporated を訪問しスミス所長以下 35 名の職
員がフロリダ,キーウエスト等4 暴露試験場で活躍しているとのこと.日本に暴露試験 場を設置することを念頭に見学・質問したところ,設置環境,試験片の暴露方法,腐食 や皮膜劣化の評価方法,記録や解析など様々な質問に答えてくれた.ハリケーンの通り 道なので暴露架台をホークリフトで避難させることなど予想もしない体験も聞けた.日 本から13 社より暴露試験の依頼を受けているが,社名は守秘義務で公表できないとの こと.でも判りますよ!試験片に会社の自動車メーカー,製鉄会社,塗料会社のロゴマ ークが印されていたので....。 (次号に続く)
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 4 図1 中性化速度と環境の相対湿度の関係1) コンクリート構造物の環境劣化(1)~(4) (『腐食センターニュース』 No. 039-042) に関する質問 Q: 「腐食センターニュースNo.039,p.6下から4行以降」 に記述されている中性化による鉄筋 腐食に起因するコンクリート構造物の劣化のヨーロッパにおける地域差の由来が理解できません. 説明して下さい. A: コンクリートの中性化による鉄筋腐食の発生とそれに起因する鉄筋コンクリート構造物の劣化 は以下の過程を経て発生し進行する. コンクリートの中性化 → 鉄筋の脱不動態化 → 鉄筋の腐食 → 腐食生成物の膨張応力によるコンクリートの破壊 この過程の中でコンクリートの中性化速度と鉄筋の腐食速度がコンクリート構造物の劣化(破壊)の 律速過程になる.従って,問題の回答はこれら二つの過程がヨーロッパにおける気候の地域差とど のように対応しているかを示すことである. 図1はコンクリートの中性化 速度と環境の相対湿度の 関係を示している1).相対 湿度が60%-80%の環 境で中性化速度は極大に なる.また,相対湿度65% の実験室環境で測定した 中性化速度はdry-wetサ イクルのdry,wetそれぞれ の期間の長いほど速い. 例えば,1週間/dry-1週 間/wet,1月間/dry-1月 間/wetと半年間/dry-半 年間/wetではこの順で中性化の進行が早く,1週サイクルと半年サイクルでは後者が3倍(50年経 過後の時点)の中性化深さを示す1). 図2は中性化したコンクリート内部の鉄筋の腐食速度と環境の相対湿度の関係を示している(図2 において“Quality of concrete”は,セメントの種類,水/セメント比,養生方法等によって影響 される鉄筋コンクリート構造物の質―特に,緻密さの程度―により腐食速度が影響されることを示し ている).中性化したコンクリート内部の鉄筋の腐食速度と相対湿度の関係はやや複雑であるが, 平均値では相対湿度が高いほど大きくなる(コンクリート内部の湿潤度が上昇し,比抵抗が低下す るために相対的にカソード面積が増加するため).腐食速度は90%-100%の範囲で極大になる. 表面が完全に水膜で覆われる状態(immersed状態と同じ)になると酸素浸入量が低下して腐食 速度は低下する. 図1と図2のデータを地中海沿海地域(Spain南部:Almeria)と北大西洋沿海地域(England南 部:Plymouth)の気象条件(降雨量と相対湿度の月間変化)と比較してみる.図32)は降雨量の月
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 5 間変化でSpainでは冬季と夏季の間に降雨のある/なしの明快な変動が認められるが,England では相対的な変化はあるものの冬季と夏季の間に降雨のある/なしの明快な差異は認められない. 図42)は相対湿度の月間平均の月別変化で,年間の相対湿度は両地域ともに月別変動は小さく, Spainではほぼ70%-75%,Englandではほぼ85%-90%である. また,比較している両地点,Spain:AlmeriaとEngland:Plymouthの間には年間を通して月間 平均気温に5-10℃の温度差が認められ(それぞれの地域にある近隣地点,例えば,Madridと 図2 中性化したコンクリート内部における鉄筋の腐食速度と環境の相対湿度の関係1) 0 20 40 60 80 100 120 140 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 降水量(m m ) 図3 England南部(Plymouth)とSpain南部(Almeria)における降水量の月間変化2) ◆:Plymouth(England) ■:Almeria(Spain) (文献2,pp.354-355,に表示されたデータに基づいて作図した)
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 6 Londonでもほぼ同じ差異がある),Spainが年間を通して温度が高い.温度は中性化速度,鉄筋 の腐食速度にも影響する. これらの気象条件を図1の中性化速度と相対湿度の関係と比較すると,Spainの相対湿度の変動 は中性化速度が極大となる相対湿度:60%-80%にある.また,図3の平均降雨量はSpainでは 夏季(7-8月)には降雨がほぼないと推定されるために,先に述べた乾湿繰り返し条件と中性化速 度の関係(乾湿が繰り返され,乾湿それぞれの期間が長いほど中性化速度は速くなる)を含めると 中性化する速度はSpainが相対的に速いと推定される. コンクリートの中性化も化学反応であるから,後に述べるように温度が高いほど中性化の進行は促 進される. 図2のコンクリートが中性化した状態における鉄筋の腐食速度と図4の相対湿度の月間変化とを比 較すると,図2において相対湿度が70%-90%の間では腐食速度の極大値には大差がないので, SpainとEnglandの間で相対湿度に基づく鉄筋の腐食速度の差異はないと推定される. しかし,月間平均気温は先に述べたようにSpainがEnglandに比較してほぼ5-10℃高い2).化 学反応において,温度差10℃に対して反応速度はほぼ2倍になることが経験的に知られているの で3)4)(Short Note 1),従って,鉄筋の腐食速度はSpainではEnglandの2倍近いと推定され る.日本国内においても九州南部は北海道南部より年間の月間平均気温がほぼ10℃高く2),九州 南部の鋼の腐食速度は北海道南部と比較して2倍である5). 以上に述べた種々の環境因子の地域差の影響により,鉄筋コンクリート構造物の中性化による鉄 筋の腐食に起因する劣化は北欧より南欧で発生しやすい. 50 55 60 65 70 75 80 85 90 95 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 相対湿度(%) 図4 England南部(Plymouth)とSpain南部(Almeria)における月間平均相対湿度の 変化2) ◆:Plymouth(England) ■:Almeria(Spain) (文献2,pp.332-333,に表示されたデータに基づいて作図した)
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 7 Short Note 1 : 鋼の腐食速度と平均気温の関係 鋼の腐食速度はArrheniusの式に従う(やや厳密な表現では腐食反応の速度定数はArrhenius の式に従う).鋼の腐食は一次反応で物質量(V)の減少の時間変化(腐食速度):(-dV/dt)は 反応速度係数をkとして次の一次反応式で表現できる.
kV
dt dV=
−
(1) kは反応の活性化エネルギーをEとして次式のArrheniusの式に従う温度依存性がある.A
k
RTEln
ln
=
−
+
(2) R:気体定数(8.3145J/mol・K),T:温度(K),A:定数 全ての反応(鋼の腐食に限らず,例えば有機物質の反応,コンクリートの中性化も含める)において, 種々の温度における反応速度定数:kと(1/T)の測定値の間には(2)式により直線関係が成立し, その勾配から活性化エネルギー:Eが求められる.Eの値はほぼ10,000-100,000cal/mol(42 -420kJ/mol)の間にあることが経験的に知られている3)4). 物質量の単位量(鋼の単位量)当りの減少速度(腐食速度)は(1)式から反応速度定数:kに比例 する.k
dt dV V=
−
1 (3) 温度T1およびT2に対応する反応速度定数をk1およびk2とすると,(2)式から,)
(
)
ln(
2 1 1 2 1 2 T T T T R E k k −=
(4) 環境の温度がT1:10℃(283K)とT2:20℃(293K)であるとすると温度差は10℃であるが,(4) 式からE=50(kJ/mol)に対して,それぞれの温度に対応する反応速度の比:(k1/k2)はほぼ2で ある. 換言すれば,先に述べた日本国内の鋼の腐食速度の地域差(九州南部と北海道南部)から,常温 付近の環境の温度で温度差:10℃に対して鋼の腐食速度が2倍5)であることはその活性化エネル ギーがほぼ50kJ/molであることを示している. 文献 1.L.Bertollini,B.Elsener,P.Pedeferri,and R.Polder:“Corrosion of Steel in Concrete“,Wiley-VCH,pp.79-89,(2004). 2.理科年表,気象部,丸善,pp.195-354,(2000). 3.池上雄作,岩泉正基,手老省三:“物理化学Ⅱ 熱力学・速度論”,丸善,p.170,(2001). 4.J.Wolff編:“材料科学入門Ⅱ 構造と熱力学”,岩波書店,p.70,(1970). 5.増子曻:“さびのおはなし”,日本規格協会,p.73,(1995).腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 8 3 2O Fe → 最近の問合わせから―Evans 先生の水滴実験 Q U. R. Evans 先生が 1926 年に発表された水滴実 験の結果を図1 に示した.基板は大気に接して水 平に置いた普通鋼であり,その上に0.1N NaCl 水 溶液の一滴を落とした.この水溶液には指示薬と していずれも少量の*フェノールフタレイン(a) とフェリシアン化合物イオン(b)とが添加されて いた1). (a)は pH 8.0~10.0 を境にしてアルカリ性側では 赤色に,中性側ではFe2+イオンの共存下に 青色2)に呈色する. (b)は,Fe2+ +Fe(CN)36-→ FeⅡ
[
FeⅢ(CN)6]
- の反応により青色を呈する. 図1 に示すように,水滴の周辺部(上図(―), 下図(C))では(a)によりピンク色に,同中心 部(上図 (黒塗り),下図 (A))では(b)により 青色に,なった.上記2 者の中間部(上図 (∧), 下図 (P))には腐食生成物(さび)が生成した. 1)A ではFe→Fe2+,C では - OH 2 O2 → , の反応が進んだ. 2)これは,持続して進行しうる腐食パターン である. A 1)当時すでに成立しつつあった電気化学説によって反応式をかくと, A では Fe→Fe2+ +2e (1A) C では 0.5O2+H2O+2e → 2OH- (1C) - 2 2 2 H O Fe 2OH 0.5O Fe+ + → + + (1A)+(1C) Kaesche 4)は図1 の下図中にイオンの流れを書き込んで A から Fe→ Fe2+ → Fe3+ C から →OH- としている.最後のところは次のように理解すればよい. 2FeOOH O H O Fe O 3H O Fe 2Fe(OH)3 2 3 2 2H2O 2 3 2 = ⋅ ⎯ ⎯ → ⎯ ⋅ = − なお,反応(1A)で放出される電子 2e は A から金属(基板の普通鋼)中を通って C に至り反 応(1C)に使われる. (1C)で表される,大気中から溶け込んだ酸素ガスO2の還元反応に関して,Evans は図 25) の結果を加えている.すなわち,図1 と同じ大気環境中(図 2 の左図)に対照して,環境ガス を窒素N2にかえ水滴中心にO2を吹込んで,中心が図1 の C(O2富),周辺(N2富 = O2貧) が図1 の A,に相当する結果をえて,O2の作用を確認した(図2 の右図). (P) (P) 図1 U. R. Evans の水滴実験の結果. 上から見た図(上)および側面 から見た図(下)3)腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 9 図 2 KCl 水溶液滴下の普通鋼上の腐食パターン.黒色部は腐食域.5) 2)図 1 の状況に落着しはじめるのは A 部でのO2が欠乏し始めてからで,それまでは同大の水滴 内に(A, C)が 10 超箇所に散在する腐食パターンであった.図 1 のパターンは,今日でも水 道水配管で広く経験するさびこぶ腐食からステンレス鋼ほかの耐食金属の局部腐食に及ぶ,ア ノード/カソード-分離形の腐食形態である. [A: 1)・2)とも正しい] 本問はセンターに寄せられた最近の照会を機に作成した.塩酸・硫酸を用いる作業雰囲気でプ リント基板に目玉模様(中心が“さびて”おらず周りが白く“さびて”いる)の腐食が発生し, 客先からその理由の説明を求められて探したホームページで図1 の下図を見つけたとのことであ った.銅基板であっても原理的には同じとしてよいであろう.A での酸性化,C でのアルカリ性 化は本センターニュースNo. 041 を参照されたい.
1)U. R. EVANS : “THE CORROSION AND OXIDATION OF METALS : SCIENTIFIC PRINCIPLES AND PRACTICAL APPLICATIONS”, EDWARD ARNOLD LTD. p. 118 (1960).
2)H. Kaesche : “Metallic Corrosion”, NACE, p. 315 (1985). 3)U. R. EVANS : “METALLIC CORROSION/PASSIVITY AND PROTECTION” EDWARD ARNOLD & CO. p. 271 (1937). 4)文献 2)の p. 316. 5)文献 1)の p. 127.
* 100 cc の 0.1N NaCl 水溶液中に,(a)は 1%アルコール溶液を 0. 5 cc,(b)は 1%K3Fe(CN)6を 3 cc,を加えてつくった.
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 10 最近の問合わせから―Pilling-Bedworth 比 電子回路の腐食について面談中,Ag が硫化をうけた箇所では“さび”が盛り上がって見えるん ですとの観察を聞き,それにはこういう指標が昔からあるんですよと応えたのがきっかけである. 両氏の共著論文1)(以下でPB 論文とかく)の表Ⅱに,彼らが物理定数から計算した 23 金属の
(PB 比)が Critical Density Ratio としてまとめられている.その中で斜体文字で示されている 8 元素は,アルカリ金属(周期律表の第ⅠA 族)またはアルカリ土類金属(同第ⅡA 族)に属し, 同比が1 未満である.PB 論文の主内容は純金属の高温酸化実験報告であるから,これらと PB 比 との関係を表1 にまとめた.今日 PB 比はαFe/FeO 1.77,αFe/Fe3O4 2.1( 文献 2)p. 50 )の ように特定の酸化物と組合せて表示されるが,PB 論文の表Ⅱには酸化物の記載がない.本稿表 1 では,PB 論文中に分析されたもの(Cu,Fe,Ni)あるいは表外の本文中に記載されているもの(Al, Ca)を記入した. PB 比は 酸化物(OX)の体積/元の金属(M)の体積 で,それぞれの 1 モルあたりの体積で表すと ⅤOX/ⅤMである.さらに密度をdOX,dM;式量(分子量,原子量)をWOX,WMで表すと, ⅤOX/ⅤM=(WOX/dOX)/(WM/dM)となる.ここで用いる WOXは,Fe/FeO のとき WOX=WFe +WO でよいが,Fe/Fe3O4のときWFe×3+ WO×4 ではなく WOX=(WFe×3 +WO×4)/3 であり,この 意味ではFe/31Fe 3O4 あるいはFe/FeO4/3 と書くのがよい.「同数の金属」という意味が上記の「元 の金属」に含まれている.1 モル=6.02×1023ヶでも原子1 ヶでもよいが,対応する質量は 1 モル なら 式量,1 ヶなら 式量/6.02×1023,をあてる. 密着性・下地金属保護性に優れる酸化物層の生成に係わる因子は酸化物の熱膨張係数・融点・ 蒸気圧・延性など多いが,PB 比の影響を直接的に左右するものとして酸化物の成長機構が重要で ある( 文献 3),p. 34 ).この観点で PB 論文の実験結果ほかを表 2 に整理した.成長機構 (a) (b) の区別は元素記号の右肩に付した文献によった. 多くの金属がもつ「PB 比>1」の条件は基本的にち密な酸化物層をつくるものであるが,同時 に層内に圧縮応力を発生させる.この応力は成長機構 (a) の場合は解放されやすいが,同 (b) の 場合は極めて困難である( 文献 3),p. 36 ).これが要点である. さてAg/Ag2S の場合に戻る.PB 比は,酸化物では 1~2,硫化物では 2~3( 文献 2),p. 87 ) とされる一般傾向に従うとすると,とにかく2 以上であろう.また,成長機構は,220℃での Ag と溶融イオウとの反応でWagner が示した Ag+の(外方)拡散( 文献 4),p. 176 )と同じとする と,(a)である.すなわち Ag の外側に“さび”Ag2S が生成し,その“さび”は体積の大きい膨張 性であろう. 腐食生成物が元の金属より大きい体積をもつ特性は,ねじなどの可動部材の固着,波及部材の 変形,また鉄筋腐食によるコンクリートのひび割れ・はく落(センターニュースNo. 040,この場 合のFe/Fe(OH)2のPB 比は 3.7)をもたらす.
J. Inst. Met. 誌は英国金属学会の論文誌であった.同会長は PB 論文の末尾にある DISCUSSION の項で“今年の大会にアメリカから(PB 論文を含む)2 論文,フランスから 1 論文が提出された が,このようなことは過去にはなかったことである”とのべている.PB 論文の著者は,ⅰ)炉加 熱用電気抵抗材料,ⅱ)50~60℃の環境での電気接点材料,ⅲ)珪素鋼の変圧器効率改善のため の焼鈍にともなう,酸化による断面減少,に関心をもつ,在ピッツバーグの会社員であった.実 験に用いた試験片(線材)は自社研究室での線引きにより得ており,電気炉巻線にはChromel wire, 熱電対にはPt/Pt-Rh 線,純酸素には主に Linde の空気液化装置(1895 年 K.P.G. von Linde,ドイツ) によるもの,2,3 の実験には電解 O2を使っている.ⅲ)の珪素鋼は「変圧器のヒステリシス損 失を激減させる珪素鋼(Si 2~4%,1900 年ハドフィールド,英国)」であろうか.
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表1. Pilling & Bedworth 論文における金属の酸化と PB 比
金属/酸化物 PB 比 実験結果での特徴 Cu/98% Cu2O + 2% CuO 1. 70 800~1000℃で放物線則に従い,1000℃での速度は(4~6)×10 -4g cm-2h-1. 700℃から 400℃へ低下するほど同則を離脱する酸化速度が現れる. Fe/48% FeO + 52% Fe3O4 60% FeO + 40% Fe3O4 2. 06 1000℃での酸化速度は(2~4)×10-3g cm-2h-1.放物線則からの離脱は商用 アームコ鉄より電解鉄の方におこりやすい. Ni/90% NiO + 10% Ni3O4 1. 68 電解Ni は放物線則を十分に満たす.Mn・Fe・Si を合計 1%ほど多く含む 商用Ni は同則に従うとき電解 Ni の 2.5 倍の酸化速度をもつほか,とく に1000℃で大きいバラツキを現す. Al/Al2O3 1. 28 600℃,60-80h後皮膜厚が 0. 2μm ほどに達して以降成長停止 Cd 1. 32 300℃で上記 Al と同様の成長停止挙動を示した. Zn 1. 59 400℃-7 日間で放物線則に従った. Ca/CaO 0. 78 550℃酸素中では着火して激しく燃焼.300,400,500℃では直線則に従 って断面の1/2 まで酸化してのち残りは数分で完全酸化―ただし外形 の寸法は,μmオーダーで維持. Mg 0. 84 500℃で Ca と同じ挙動を示した.しかし,蒸気圧の高いこと・酸化物皮 膜に割れが多いためか,データの再現性がよくなかった. 表2.PB 比に酸化物成長機構を加えた観点での金属の酸化挙動 PB 比 酸化物の成長機構 PB 比<1 PB 比>1 (a) 金属イオンの外方拡散 酸化物は元の金属表面の外側 (外層)に形成される. Cu 5 '),Fe 2 '),Ni 2 ')3 ') 基本的には放物線則に従うが,これから の離脱も起こっている. 700℃以下 400℃まで皮膜にき裂が入り 400℃では 1 桁以上酸化速度が増大(Cu). 皮膜は中空で膨れ,しばしば突起をもつ グロテスクな表面形状を呈す(Fe). 1000℃での酸化速度の大きなバラツキは, 周方向応力の増大により皮膜が剥離し裸 金属表面が露出されることによる(Ni). Ni 線試片は完全酸化後中空円筒になる3 ''). (b) 酸素イオンの内方拡散 酸化物は元の金属表面の内側 (内層)に形成される. Ca 酸化は直線則に従ったのち急 速に進行.すなわち皮膜は保 護性をもたない. 線試片の完全酸化後の外形の 寸法は元の金属線のそれと μm レベルで一致し,内部に 34%の空洞を含む. Al 2 ') 0.2μmほどのごく薄い皮膜で優れた耐 酸化性を示した. Ti 4 ')5 '') 線試片は完全酸化後 元の形を保てず細 かいTiO2粒子に分散3'').
1)N.B. Pilling and R.E. Bedworth : J. Inst. Met., 29, 529-591 (1923).
2)(社)腐食防食協会編:金属材料の高温酸化と高温腐食,丸善(1982). 3)齋藤安俊・阿竹 徹・丸山俊夫 編訳:JME 材料科学 金属の高温酸化,内田老鶴圃(1986). 4)H.H. ユーリック著,岡本 剛 監修,松田誠吾・松島 巌 共訳:腐食反応とその制御(第 2 版), 産業図書(1974). 5)椙山正孝:金属材料の加熱と酸化,誠文堂新光社(1955). 2 ')文献 2)の p. 49, 3 ')文献 3)の p. 72, 3 '')文献 3)の p. 61, 4 ')文献 4)の p.177, 5 ')文献 5)の p.135, 5 '')文献 5)の p.164
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 12 Evans, Hoar: 腐食速度の電気化学的解析―内部分極曲線の確立まで 液滴モデルは水平においた普通鋼におけるア ノードAとカソードCとの場所的分離を明示し た.以下に紹介するのは液面に垂直に半浸漬し た電解鉄*1および炭素鋼*2において同様の分離 に成功し,内部分極曲線の実測まで進めて腐食 の電気化学的特性の解明に貢献した論文1(以降) 論文とかく)である. 対流・振動をなくしてゆくと0.001N~1.0Nの KCl 水溶液(20.0℃±0.05°)における鉄・鋼の 腐食状況の境界が鋭く水平に形成されるに至っ た*3.すなわち,図1 において最も酸素に近い箇 所にあるC域は侵食をうけない領域で,水線よ り上方にある濡れない部分との識別が困難なほど元の光沢を維持しつづける.腐食域Aは下方に でき,二つの深い腐食翼(W と W′)とともに,切断端面上の weak points に発生して下降する 腐食生成物にゆるくだが覆われて,酸素から遮断されているとした. *1 0.03~0.04%C でその他元素も 0.02%以下,厚さ 0. 28,または 0. 21mm. *2 H 28 は 0. 26%C で厚さ 0. 34mm,H 30 は 0. 34%C で前者にない Ni を 0.13% 含んで 厚さ 0. 31mm, このH 30 のみ再現性に劣った. *3 全部で 607 枚使ったという試験片のうち何枚をこの成功までにかけたのであろうか.以降は通常
3
=
n
で実験し,上記H 30 を除く 3 種の電解鉄と 1 種の炭素鋼 H 28 での重量減のばらつきは 3% 以下であった.French emery No. 1~No. 3 で 24hかけて研磨し,CCl4で2 回洗った,という.1) U. R. Evans and T. P. Hoar:Proc. Roy. Soc. London., A, 137, 343 (1932).
************************************************************************************** 呈色
溶存酸素濃度DO はウィンクラー法によって実測した.20. 0℃-760mmHg の空気と平衡するそ れCSは,純水で6. 13 cc/L,2. 0 g-eq./L 濃度液で 3. 41(KCl),3.19 (NaCl),2. 67 (Na2SO4) cc/L,と 報告している.たとえば,0.1N(g-eq./L,mol/L)KCl 中の腐食量ΔWは当初から試験した約90 hまで一定の勾配で増加して,カソードであったメニスカス近傍の酸素濃度は終始 飽和濃度CS に保たれていたであろう. ところで48h後の測定によると,液底部から採取した 17cc の液中の DO がゼロであったのはと もかく,空気/液-界面に近い上部から採取した 17cc の液中のそれも 3. 62%CSであった.驚くべ きこの低濃度値はFe(OH)2を生成した下部からの液塊の上昇によるものではなかろうか. 腐食の進行にともなうアルカリ(フェノールフタレイン着色部)の分布を示す図2 によると, 48h後時点においてアノード部上端から下方は全域 green で,この層中の DO は低く Fe2+を3 価に 酸化しえない―この液を採取し空気とかきまぜて30 分置くと brown になった.ただし,1~7hと 図 1.非分割試験片(幅 2.5cm,長さ 6.5cm) における「理想的な」分布.腐食域A, W, W′と侵食をうけない域 C.B は ときたま現われる薄い着色域.
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 13 図2.腐食の進行にともなうアルカリ(濁点で示す)の分布. H 30 鋼,0.1 mol/L KCl―少量のフェノールフタレインを添加. Q 1. 腐食量の決定は鉄試片の重量減により,初期重量から試験後重量*1をさし引いた値 (ΔW)を求めた.たとえばΔW/Δt=5mg/48hは平均電流密度ではいくらになるか. A ファラデーの法則 ⋅ΔW ⋅F=iSΔt M n ここに n: 鉄溶出の電子価, 2 eq/mol; M: Fe の式量, 55.85 g/mol; F: ファラデー定数, 0.965E5 C/eq;
i
: 電流密度; S: 表面積. 上式よりiS = I=0.100E-3Aをうる.反応量ΔW =5mgFe は0.895E-4molFeに相当する. 鉄試片の表面積S
Aを液中面積3.5cm×2.5cm×2 とすると電流密度i
は6μA/cm2(0.07mm/年), 図1 の A + W + W′の面積 3.3 cm2×2 とすると 15μA/cm2(0.17mm/年)となる.なお,一部の試 験では使われた(減少した)酸素O2,生成した鉄イオン(Fe2+,Fe3+)および発生した水素H2*2 を分析して,O2減少量の実測値と(Fe2+,Fe3+,H2)の生成・発生量のO2換算値とがよく一致す ることを確かめた*3. *1 12. 5 g/L のクエン酸中で一試片あたり 0. 02A のカソード電流を負荷することにより付着していた 腐食生成物を除去してのち測定. *2 反応に係わった O2/H2の分析量(cc)は 1.77/0. 00,1. 84/0. 07(0.1 N KCl 中で);0. 62/0. 03, 1. 26/0. 06(3. 0 N KCl 中で),のように H2量は検出されても少ない. *3 正味反応を Fe + 0. 5 O2 + 2H+ → Fe2+ + H2O とすると,ΔW = 5 mg Fe の腐食に使われた O2量は 0. 895 E-4×0. 5mol,0℃-1atm の標準状態で 1.00 cc,に相当する. ************************************************************************************** いう初期の色は無色~yellowish であって DO はさほど低くはなかったであろう. カソードで発生するアルカリは下降して1hで水平へ,2hで上方高くまで上昇し,7h以降試 片下端以上,48hには少し縮んで C 域以上,を占めている.アノードで発生し,比重の大きい FeCl2 の下降運動,水酸化物イオンを加えた量的蓄積,はこれに連動し,それ自体である上記液塊の上 昇にも至るのであろう. 1HR 2HR 7HR 48HRYellow Yellow Etched Green
腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 14 Q 2. 導電率の低い液中での電極電位の測定は真空管 式電位差計*1(valve electrometer)と絶縁性の向上 とにより可能とした.塩橋の先端役にそれぞれ3 本の細管(tubuli,そのときの試験液を吸引)を図 1 の C 部・A 部ヘ近接させ,電極電位EC・EAを 測定し,EC −EA(縦軸)とI/
σ
(I:Q1 の電流,σ
:試験液の導電率)との関係を求めた(図3).σ
/ 3 A C E k I E − = ⋅ のk3 =0.322cm−1は図3 中右上りの回帰直線の勾 配であるが,その意味は何か. A 同面積の二極が距離dを隔てて対向するモデル (センターニュースNo. 040)では次式が成り立つ. d i E EC − A =ρ
S この式にi=I/S,ρ
S =1/σ
を代入するとσ
σ
) ( / ) / / 1 ( ) / ( A C E I S d d S I E − = ⋅ = ⋅ すなわちk3 =d/Sをうる.論文ではk3はcell factor とよばれ,なるほど幾何学的要素d ,Sのみに依存 し,たとえばS=1cm2とするとd=0.322cmという 「対向距離」がえられる. 論文はこのdの実態を追求するため,試片をC 域 の境界に沿って分割し,A 域との間隔を約 1 mm に保 って0. 01 N KCl 液に図 4 のように浸漬して C 域/A 域―間の直流抵抗*2 をホイートストン・ブ リッジ法で測定した.この時点での抵抗はまだはるかに小さかったので*3,図4 中の破線で示す 水平線に沿う切断を下方から上方へと進め,水線下2 mm まで縮めて,はじめて上記の -1 cm 322 . 0 3 = k に達した.このとき,下方のアノード域の形状・位置の変更はk3値を大きくは変え ないのに対して,上方のC 域のそれはk3値を大きく変えることが判明した.すなわち,カソード 域は酸素の供給が容易なメニスカス近傍に事実上限定されているというわけである. *1 1906 年デーフォレスト(米)により三極管が発明されている.筆者の卒論研究の 1964 年頃も この真空管方式が正規手段であった. *2 (EC −EA)/I=k3ρ
S [Ω] *3 k3 =d/Sを大きくするのに,Sの低減を図る.そのため以降の切断を進めることにした. 図3.EC −EAとI/σ
との関係. 図4. C 域/(A + W + W′)域―の分割, さらに水平破線に沿ってのC 域 の継続的分割.腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 15 Q 3. 内部分極曲線の測定には図5 の分割試片を 用いた.この試片が図4 と異なるのは,上方の カソード側の切断端面をgutta percha(マレー 産ゴム状物質)とパラフィンとの28:72 の混 合物で保護したことである.図3 のEC,EAの 測定に用いたと同じ塩橋先端役の細管(tubuli) も使用したが図には示していない.この試片に おいては,2,3 の試行後「試片の下方では全 面にわたって腐食が進み,上方では全く侵食を うけない」という状況が実現できた*1として いる. 腐食試験と同様*148 時間経過後に,負荷起 電力e. m. f.の大きさを変えては流れる電流I, およびアノード・カソード部のそれぞれの電位 を同時に測定して図6 をえた. e. m. f. = 0 V(図中の交点)の電流がこれま での腐食試験で腐食した鉄量を与えること,ま たこの腐食量がこの分割試片と当初の非分割 試片(図1)とで変わらないとみなせること, を確認した. さて,図6 からえられる二直線の勾配 ) ( 3 E 34 . 2 C =− Ω I d E d ; A =+0.14E3(Ω) I d E d を用いて,Wagner 長さLWを求めよ. A Wagner 長さは次式で表される(センターニュース No. 036). S C P C W r /
ρ
L = , LAW =rAP /ρ
S ここに, C C C C C C P ( / ) d I S E d S I d E d i d E d r ⎟⎟ = = ⋅ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ = A A A A A A P ( / ) d I S E d S I d E d i d E d r ⎟⎟ = = ⋅ ⎠ ⎞ ⎜⎜ ⎝ ⎛ = まず,カソードがメニスカス部(水線から下方0. 2 cm までの裏表)に限られることより 2 C =2.5cm×0.2cm×2=1.0cm S ,また下方部では全面にわたって腐食されることより 2 2 A =3.3cm ×2=6.6cm S (Q1)とする.ついで,抵抗率ρ
Sはイオンの当量導電率(l∞,25℃) から算出する導電率の逆数として求めた2). *1 液中では分割されている,C 域と A 域とを,外部で電気的に接続した状態で. 2) (社)腐食防食協会編:金属の腐食・防食 Q&A,電気化学入門編,丸善,p. 296(2002). 図5.分割試片 図6.カソード C,アノード A-内部分極曲線. 電解鉄 E31,試験液は 0.05 mol/L KCl 水溶液.腐食センターニュース No. 043 2007 年 9 月 1 日 16 図7. 平衡溶存酸素濃度CS,平均腐食速度Δ /W Δt,カソード/アノード間電位差EC −EA, d S