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Measuring Effects of Competition on Retail Power Charges in Public Procurement Bidding (Japanese)

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RIETI Discussion Paper Series 08-J-004

小売電力入札における応札意思決定と自由化の競争促進効果

高木 真吾

北海道大学

細江 宣裕

政策研究大学院大学

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RIETI Discussion Paper Series 08-J -004

小売電力入札における応札意思決定と自由化の競争促進効果

∗ 2008 年 2 月 13 日 高木真吾・北海道大学† 細江宣裕・政策研究大学院大学‡ 概要 電力自由化は,規制緩和によって競争を引き起こし,これを通じて電力産業を効率化させることを目 指してきた.一連の自由化施策のうち,本稿では小売部門の自由化が電気料金に与えた影響を,官公 庁の入札データを用いて計測する.その際,電力会社が応札するか否かについて内生的に意思決定 を行っている可能性に注目しながら検証する.その結果,入札において競争があった場合には,平均 的に0.46 円/kWh 程度,電気料金が低下することがわかった.

JEL Classification No.: Q48, L94, C31

キーワード: 小売電力自由化, 入札データ, 標本選別 ∗本研究にあたり、日本経済学会、および、経済産業研究所、電力中央研究所におけるセミナーにおいて、根本二 郎氏、八田達夫氏をはじめとして数多くの方に有益なコメントをいただいた。また本研究は、経済産業研究所による 研究支援を受けた。これらに対して深く感謝したい。もちろん、本稿におけるあり得べき誤りは、ひとえに筆者2 名の みに帰せられるべきものである。 † 060-0809 札幌市北区北 9 条西 7 丁目, e-mail: stakagi@econ.hokudai.ac.jp. 106-8677 東京都港区六本木 7-22-1, e-mail: nhosoe@grips.ac.jp.

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1.

導入

電力自由化の成果の計測は,過去の規制改革の不備を省み,将来に向けた建設的な自由化論議に とって必要不可欠である.この計測に際して,誰の目にも明らかで,かつ,もっとも重要な自由化の成果 指標は電気料金の低下度合いである.本稿では,小売部門の自由化によって促進された競争が電気 料金に対してどのような影響を与えたのかを明らかにする.そのために,官公庁による電力調達入札デ ータを用いて,新規参入電力会社による応札に関する内生的な意思決定に注意を払いながら計量経 済分析を行う.

1.1

電力自由化とその範囲の拡大

発電部門への独立電気事業者(Independent Power Producer, IPP)の新規参入を許す電気事業

法の改正が 1995 年に行われることで,日本における電力自由化は開始された.その後,送電ネットワ

ークの公平で効率的な利用に関する制度を整備しながら,これまで各地域で独占的に電気事業を行っ

てきた一般電気事業以外に特定規模電気事業者(Power Producer and Supplier, PPS)が小売分野

に参入することも認められるようになった.小売分野の市場開放は,2000 年に 2,000kW 以上の特別高

圧で受電する大口需要家から始まり,2004 年には 500kW 以上,2005 年には 50kW 以上の高圧で受

電する需要家にまで拡大された.資源エネルギー庁は,長期的にはこの自由化対象範囲をより小口の

低圧や家庭用電力にまで拡大することを視野に入れているが,現時点では,PPS による既存自由化範

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発電費の高騰もあり,自由化範囲をすべての需要家にまで拡大することの是非については 5 年後に再 度検討されることとなった. これまで3 度にわたる電気事業法の改正がどれだけ競争促進に貢献したのかを検証することは,今後 の自由化範囲の拡大やすでに自由化された範囲における競争促進策について議論を行う上で,政策 的に重要な意味を持つ.実際,資源エネルギー庁(2006)は,「制度改革評価小委員会報告書」のなか で小売市場と卸市場それぞれについて,規制緩和の効果をマクロ的に定量化しようとしている.しかし ながら,卸売と小売のどちらの市場においても,新規参入の規模は全体の電力需給に占める割合で見 ると未だ無視できるほどに小さい.また,既存事業者の分割を行わずに新規参入者を市場に受け入れ 始めた現段階では,ハーフィンダール指数によって外形的に市場占有率を測ったとしても,まだほぼ完 全に独占状態にあり,自由化が市場構造に与えた効果も目に見えない.このように,現時点で,電力自 由化によるこれまでの成果を市場全体でとらえようとすると,その計測はほとんど意味をなさない.

1.2

規制と自由化の効果の検証

電力産業は,非常に大きな装置産業であるために,自然独占性を有する.そのため,電力会社には 伝統的に公正報酬率規制が課される一方で,当該産業における参入が規制されてきた.これが非効率 を生みだすことはしばしば指摘されてきており,日本においても,その非効率性の程度や,それと関連 して,そもそも自然独占性の根拠となっている規模の経済性の有無を計測する試みが行われてきた.と くに,発電部門に関しては情報開示が進んでいるために研究が多い.たとえば,Nemoto et al. (1993)

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は,トランスログ費用関数を推定することで,日本の電力産業が公正報酬率規制によってもたらされる資 本過剰状態にあること(Averch=Johnson(1962)効果)を示した.同様の枠組みを利用して規制緩和の 効果を直接に計測しようとしたものとして,伊藤ほか(2004)があげられる.あるいは,北村・筒井(1998) による包絡線分析によるものや,総要素生産性アプローチを用いた内閣府(2001a)による分析などがあ る. このように,発電部門の研究蓄積が多い一方で,小売部門で需要家が直面する価格に関する研究は 少ない.もっとも直感的な手法は,自由化の進んだアメリカやイギリスといった諸外国と日本の間で,ま たは,自由化の開始以前と以後における,実際の電気料金支払額や類似した料金メニューの間の国際 比較や地域比較をすることである.国際比較の際の通貨の換算率をどのようにするべきかについては 議論の残るところであるが,購買力平価を用いて簡単な比較を行うと,2003 年時点でヨーロッパと日本 の家庭用電気料金はほぼ同程度かヨーロッパの方が少し安い程度である一方で,それ以外の,欧米の 産業用やアメリカの家庭用はおおむね日本の半額になっている1.もちろん,このような簡単な比較だけ では,国ごとに異なる規制制度や,それ以外の経済・社会的要因を十分に取り除くことはできないので, 自由化の効果を正しく測定するためにはより詳しい分析が必要である. 日本では小売部門における自由化がごく最近に始まったこともあり,また,現時点でもその自由化対 象範囲が特別高圧や高圧で受電するような大口需要家に限られているため,自由化がどの程度電気

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料金を引き下げたのかを明らかにしようとする分析は様々な制約に直面する.たとえば,内閣府(2001b) では,1995 年から 2000 年までの電気料金の低下幅のうち,一般電気事業者間の相対的な費用効率 性を評価尺度とするヤードスティック査定方式の導入という制度改革に帰着できる部分のみを,規制改 革の効果と見なしてその消費者余剰への影響分析を行っている.戒能(2007)は,一般電気事業者の 財務データを用いて,投資的経費と経常的経費のそれぞれが規制改革のショックに対してどのような反 応を見せたかを分析し,この結果と 1990 年代における平均費用と平均電力料金の引き下げ幅がほぼ 等しいという観察事実と重ね合わせることで,最終的に規制改革そのものによってもたらされた電気料 金の低下の程度を定量化している. 小売分野へのPPS の参入という規制改革の影響は,とくにその自由化対象となった需要家の電気料 金に強く影響するはずであるが,上記のような集計されたデータを用いた分析では,その効果を明らか にすることは困難である.必要な接近方法は,個別の契約に注目したミクロ的なものでなければならな い.資源エネルギー庁(2004)は,「電力需要調査」における特別高圧需要家に対する悉皆調査と高圧 需要家に対する標本調査によって得られた約6,000 件のデータをもとに,自由化によって促進された競 争が電気料金に与えた影響を分析した.全体としては,電力会社の供給区域ごとに算出した(自由化が もたらした競争の程度を代理すると考えられる)総供給件数に占める PPS の供給件数の割合と,2000 年から 2003 年にかけての電気料金の低下幅との間には明確な相関がないとしている.ただし,この分 析においては,法令で定義された自由化対象範囲ではあっても実際には PPS にとっては収益性に乏 しい性質を持つ需要家のデータも含まれているために,PPS の参入割合という競争の程度を表す指標

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と,電気料金の低下幅との間の相関は明らかになりにくい.そこで,一般電気事業者とPPS との間の競 争の有無を陽表的に考慮するために,応札者数についてのデータが入手可能な官公庁による電力調 達入札案件に対象を絞った分析も行っている.その分析では標本をPPS の応札があった標本となかっ た標本の2 群に分けたうえで,負荷率の影響を取り除いた落札電気料金を両群の間で比較したところ, 負荷率 50%以下の案件に関して前者の落札価格が後者のそれを下回る,すなわち,競争が料金低下 に結びついていることを示した2.負荷率に依存して両群の間の価格差は異なるが,たとえば,負荷率 30%の需要家の場合で平均的に 4%程度価格が低下することになる3 ただし,この資源エネルギー庁(2004)による分析では,各入札案件に対して応札するかどうかの PPS 自身による意思決定についての考慮がない.すなわち,特別な事情がない限り一般電気事業者はすべ ての案件に対して応札すると考えられる一方で, PPS が応札するためには,その応札コストの存在を 考えると,不確実ながらもある程度の勝算があり,かつ,一定の収益性のある案件でなければならない. したがって,応札の有無は内生変数として考慮されなければならない.実際,資源エネルギー庁(2004) が指摘するように,個々の入札案件の内容まで精査すると,一般電気事業者はほとんどすべての案件 2 負荷率(%)は,契約電力(kW)と予定電力使用量(kWh)を用いて以下のように定義される. 負荷率(%)=予定電力使用量(kWh)/(契約電力(kW)*365(日)*24(時間)*契約期間(年))*100(%). 3 この価格差は,資源エネルギー庁(2004)によって推定された電気料金モデルを用いて筆者が計算したものであ る.

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に応札するが,PPS が多く応札する案件の範囲はその一部である(たとえば負荷率でみて,30–50%の 範囲).これは,自由化の範囲は規制によって外生的に決定されている一方で,競争の範囲は(PPS に よる)応札の有無に関する意思決定によって内生的に決定されていることを示唆する4.ゆえに,自由化 範囲に含まれるすべての標本を,入札結果に表れる応札者数という事後的情報を利用して標本を単純 に分割しても,自由化によって促進された競争がどれだけ電気料金に影響を与えたのかを正確に計測 することはできない.その意味で,応札の有無を内生的に説明することは,分析の中できわめて重要な 要素となる. 服部(2007)は,この応札行動そのものに関して一般電気事業者以外の応札者数がどの程度になるか を入札案件の内容によって説明しようとしている.観測されるデータでは,一般電気事業者のみが応札 するケースが多く,一般電気事業者以外の応札者数はゼロに偏りを持つという特徴を有しているため,

Mullahy (1986)のハードル・モデルや Lambert(1992)の zero-inflated Poisson 回帰モデルを用い

て,一般電気事業者以外の応札者数がどのような要因に規定されているかを調べた. 2004 年度から 2005 年度に供給開始される電力の競争入札データ(標本数約 600)を用いて推定した結果,負荷率が 高いほど,また,契約期間が複数年である場合に入札者数が減り,契約電力が大きいほど,あるいは, 4 厳密には,官公庁による電力調達の場合は,公共調達における透明性を確保する目的から,契約規模等による 自由化対象範囲以外であっても,制度上は,一般電気事業者以外から調達することができる.ただし実際には,入 札自体に手間がかかるために,少額案件ほど一般電気事業者との随意契約になる傾向は強い.

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特別高圧による供給である場合に入札者数が増えることが示された.ただし,入札者数(の増加)がどれ だけ電気料金を引き下げる効果を持つかということまでは,服部(2007)では分析されていない.

1.3

研究の概要と本稿の構成

そこで本稿では,2005 年に供給開始を予定している官公庁による電力調達入札の落札結果のうち, 新規参入が観察された東京・中部・関西・四国・九州の5 電力管内における約 500 件のデータを用いて 小売市場における競争が電気料金に与えた影響を明らかにする.民間企業による受電契約の方が,官 公庁によるそれよりもはるかに件数は多く,また全体の規模も大きいが,そこでの電気料金は公開され ていないし,何より,電力会社の何社がその案件を巡って営業活動を行ったかという競争の有無につい ての情報は取得しようもない.競争の有無が電気料金に与える影響を定量的に計測するため,すでに 指摘したような応札の有無に関する内生性の問題を明示的に考慮したうえで,電気料金の落札単価が どのように決定されるのかを推定する.ある入札案件に関して,一般電気事業者とPPS が競合して複数 の応札があった時に観察される実際の電気料金と,もしその入札案件が一般電気事業者単独で応札さ れていたならば決まっていたと予想される仮想的な電気料金それぞれを,この電気料金決定モデルを 用いて推定し,両者を比較することで,電気料金への入札制度を通じた競争の効果を計測できる.この 推定の結果,複数の応札があった場合には,単独の応札であったならば成立していたと予想される電 気料金よりも,平均的には0.46 円/kWh ほど統計的に有意に低い電力料金で落札されることが明らか になった.

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本稿の構成は以下の通りである.つづく第2 節において,推定に用いたデータについて概括し,PPS による応札の有無を明示的に考慮した電気料金決定式の推定方法,および入札制度を通じて競争が もたらした電気料金への影響を計測する方法について述べる.第3 節では推定結果について検討する. 第4 節でまとめをおこなう.

2.

電力調達入札データと計量経済学的課題

2.1

電力調達入札の規模と構成

2005 年度における日本の電力市場の大きさは,自家発自家消費電力をのぞく総需要量が 9,183 億 kWh であり,そのうち小売自由化の対象となっている特定規模需要は 5,596 億 kWh(全体の 61%)を 占める.さらに,このうちの110 億 kWh(全体の 1.2%,自由化対象範囲の 2.0%)を PPS が供給してい る.本研究で利用する標本は,政府公共調達データベースで公開された 2005 年度に供給開始される 入札案件のうち,PPS が参入している東京・中部・関西・中国・九州電力管内で,かつ,落札結果(とくに, 単独応札か否かについて)が公開されているものを用いた.ただし,すべての入札案件の負荷率と落札 平均単価の関係を示した図 1 に見られるように,負荷率が非常に低い水準となる案件に関しては落札 平均単価が非常に上昇してしまう傾向がある.とくに負荷率が 10%を下回る案件は,少数であるにもか かわらず他とは落札平均単価水準が著しく異なるため,分析結果に与える影響が大きい.そのため,負 荷率が10%に満たない案件は推定に用いる標本から除外した.その他第 3 節で詳述する標本選別の 結果,本稿の考察の対象となる入札案件は,件数にして489 件,予定電力使用量約 49 億 kWh(自由

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化対象範囲の総供給量の0.9%),合計落札金額約 573 億円である.標本選別を行った後のデータセッ トにおける主要変数に関する記述統計値を,各地域別に表1, 表 2 にまとめる. 図1 負荷率別平均落札単価 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 0 20 40 60 80 100 負荷率(%) 平均単 価 ( 円/k W h ) 単独応札 複数応札

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表1 記述統計値 落札平均 単価 特別高 圧割合 平均負 荷率 平均契 約電力 観測数 (円/kWh) (%) (%) (kW) 東京 単独応札 12.88 0.22 52.81 2,177 123.46 [1.260]10.67 [0.109] 98 複数応札 13.25 0.58 42.96 3,002 177.45 [1.740]15.32 [0.150] 102 地域計 13.07 0.41 47.78 2,598 300.91 [1.505]25.99 [0.130] 200 中部 単独応札 14.43 0.20 41.07 1,305 75.82 [0.842] 6.24 [0.069] 90 複数応札 13.91 0.80 35.47 2,268 18.69 [0.935] 1.48 [0.074] 20 地域計 14.33 0.31 40.05 1,480 94.52 [0.859] 7.72 [0.070] 110 関西 単独応札 13.75 0.32 44.12 2,057 31.13 [1.112] 2.71 [0.097] 28 複数応札 13.10 0.84 45.27 3,780 79.80 [1.856] 7.10 [0.165] 43 地域計 13.36 0.63 44.82 3,101 110.92 [1.562] 9.81 [0.138] 71 中国 単独応札 14.79 0.18 41.70 1,212 32.84 [0.644] 2.74 [0.054] 51 複数応札 14.37 0.56 36.48 2,079 7.97 [0.886] 0.64 [0.071] 9 地域計 14.72 0.23 40.92 1,342 40.81 [0.680] 3.38 [0.056] 60 九州 単独応札 15.55 0.06 34.60 776 12.81 [0.356] 0.91 [0.025] 36 複数応札 13.78 0.50 39.94 2,345 13.46 [1.121] 1.07 [0.089] 12 地域計 15.11 0.17 35.93 1,168 26.27 [0.547] 1.97 [0.041] 48 全体 単独応札 14.06 0.20 44.48 1,578 276.06 [0.911]23.26 [0.077] 303 複数応札 13.37 0.66 42.18 3,016 297.37 [1.599]25.61 [0.138] 186 総計 13.80 0.37 43.61 2,125 573.43 [1.173]48.87 [0.100] 489 合計[平均]落札 額 合計[平均]予 定使用量 (億円) (億kWh) 表2 負荷率および応札形態別の落札平均単価 負荷率 落札平均 単価 (円/kWh) データ点 落札平均 単価 (円/kWh) データ点 落札平均 単価 (円/kWh) データ点 10~20% 20.89 21 20.99 10 0.10 32.26 20.92 31 20~40% 15.98 112 14.61 77 -1.37 40.74 15.42 189 40~60% 12.77 105 12.04 74 -0.73 41.34 12.47 179 60~80% 10.66 56 10.50 22 -0.16 28.21 10.62 78 80%~ 10.30 9 10.09 3 -0.21 25.00 10.25 12 総計 14.06 303 13.37 186 -0.69 38.04 13.80 489 総計 単独応札 複数応札 平均の差 (円/kWh) 複数応札 の割合 (%) 表1 を見ると,PPS による応札のある標本は 5 地域の合計で 186 件(全体の 38%)であり,一般電気

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事業者とPPS との間の競争が珍しい現象ではないことがわかる55 地域全体としては,複数応札案件 (そのすべてにおいて PPS による応札がある)における落札平均単価のほうが,単独応札案件の落札平 均単価よりも0.7 円/kWh 程度低くなっている.表 2 において,落札平均単価をより詳細に負荷率別に 見ると,負荷率が 20%以下の区分以外では,複数応札の場合の落札平均単価が,単独応札の場合の それよりも高い.一方,特に複数応札割合の高い負荷率 20%から 60%までの区分では,複数応札の 場合の単価は単独応札の場合のそれよりも低い. 落札者に関していえば,単独応札の場合であれ複数応札の場合であれ,PPS が応札した案件のほと んどで PPS が落札に成功している.ただし,資源エネルギー庁(2004)が指摘するように,負荷率が中 程度,表2 であれば,20%から 60%の範囲に,PPS による応札のある総案件数の 75%が収まる.この 理由として考えられることは,負荷率が非常に高い需要家は既存の電力会社(一般電気事業者)にとっ て収益性が高い顧客であるために,自由化以前からすでに十分よい価格を提示されているということで ある.PPS は,燃料単価が相対的に高い石油系のミドルないしピーク電源を中心とする.高い負荷率の 市場に参入するということは,昼夜を通して電気を供給しなければないことを意味する.こうした電源ポ ートフォリオを持つPPS にとっては,とくに夜間においては石炭火力や原子力といった低廉な発電単価 5 なお,応札する一般電気事業者は,あったとしても必ず 1 社であり,一般電気事業者間の競争は観察されなかっ た.

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の電源を保有する一般電気事業者と直接に渡り合うことは難しい6.これと反対の理由で,すなわち,負 荷率が低い需要家が自由化前までに直面してきた電気料金は比較的高かったために,PPS が一般電 気事業者よりも有利な価格を提示することが可能である. さらに詳しく,電源種別ごとの技術的特性(とくに負荷追従能力)と現行の小売分野における規制制度 をあわせて考えると,しかし,そうかといって,あまりに負荷率が低い(すなわち,負荷変動が大きい)需要 家に対しても,既存事業者と比べて十分な競争力のある価格を提示することができない可能性がある. なぜなら,PPS には,一般電気事業者が持つような天然ガス・コンバインド・サイクル発電所や貯水池 式・揚水式水力発電所といった調整の自由度が高い電源が少ないために,発電所が系統に注入する 電力量と需要家が系統から引き出す電力量との間の「30 分同時同量」という厳しい需給均衡制約を満 たすことは難しいからである7.万一,この供給制約を満たせない場合には,PPS は,需要家に自らの代 6 1 日のうちに電力需要は変化する.明け方から電力需要が高まり始めて,昼頃にそのピークを迎える.そのあとは, 深夜にかけて緩やかに減少していく.ミドルないしピーク電源とは,こうした電力需要のパターンがあるなかで,昼間 の時間帯の需要向けに柔軟に出力を調整する電源のことである.負荷追従特性と燃料費,設備費の兼ね合いから, こうした電源は,石油や天然ガスによる火力発電や,貯水池式・揚水式の水力発電であることが多い. 7 PPS は,自らは送配電設備を持たず,既存電力会社の送電網を利用して自らの発電所から顧客に電気を送る (託送).このとき,発電所から送電網に注入する電力量と,顧客が送電網から引き出す量は,30 分単位で均衡して いなければならない.これが,託送契約における「30 分同時同量」制約の意味である.

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わりに電気を供給する一般電気事業者に対して高額なインバランス料金を支払わなければならない.た だし,このインバランス料金はステップ状に設定されており,10%の変動許容幅を超えたとき kWh あたり の単価は一定になる8.このため,極端に低い負荷率の案件から得られる料金収入よりも,インバランス 料金の支払いの方が安く済む場合も考えられる.よって,極端に低い負荷率の案件に対して,負荷追 従能力の劣る電源しかもたないPPS が応札することは(インバランス料金制度の不備を突いた一種のモ ラルハザードではあるものの),条件次第では PPS の主体的行動としては合理的である.こうした理由か ら,PPS による応札は一般に負荷率が比較的低い案件に対して行われているものと考えられる. 供給電圧区分ごとに標本を確認すると,自由化が最初に行われた分野である(20,000V 以上で受電 する)特別高圧の案件の割合が多いほど,PPS の応札が起こりやすいことがわかる(表 1).5 地域全体で は,特別高圧供給案件が複数応札案件全体に占める割合は,単独応札案件に占めるそれの3 倍以上 になる.これは,小売供給のために利用する送電網の使用料金(託送料金)が,高圧供給の場合は,特 別高圧供給の場合に比べて割高に設定されているために,高圧供給案件よりも,特別高圧供給案件に 対して応札しやすいという事情が反映されている. 供給電圧区分と多分に相関するものとして契約電力(kW)がある.これに関しても,5 地域全体で,複 数応札案件の契約電力は単独応札案件のそれの約2 倍になっている.案件ごとの応札費用が案件の 8 東京電力の場合(平成 17 年改訂託送供給約款),このインバランス料金は,昼間夏季 76.49 円/kWh,昼間その 他季49.08 円/kWh,夜間(通年)38.12 円/kWh である.

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内容に依存することは少ないであろうから,大規模案件の方がそのような応札の固定費用を賄いやすく, PPS がそこに集中的に応札することは自然なことである9 さて,本研究で明らかにすべき問題は,自由化によって電気料金がどれだけ低下したかということであ る.ただし,これまで議論してきたようにその効果は一律ではないであろう.すなわち,PPS の応札があ る案件の場合には電気料金の低下が期待される.その一方で,PPS の応札がない案件の場合には, 外形的には自由化範囲内となったためにこれまであった公正報酬率規制が撤廃されて,結果的に(一 般電気事業者による)売手独占に直面する可能性がある.このような需要家にとっては,電気料金が上 昇する可能性すら考えられる.この問題を分析するに当たって考慮すべき内生的応札行動について, 以下で検討する.

2.2

計量経済モデルと内生的応札決定問題

2.2.1 応札行動の内生性がもたらす推定上の問題 ある入札案件について,一般電気事業者とPPS が競争入札を行い,一般電気事業者の独占状態で ある単独応札の場合に成立する電気料金と,PPS が応札して競争が発生する複数応札の場合に成立 9 応札のための直接的な費用以外にも,各案件に配賦される一般管理費や,当該案件に応札したために供給余 力を費やしてしまって他の案件に応札できなくなるという応札の機会費用といったものも,同様にここに含まれると 考えてよい.

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する電気料金がどの程度異なるか,という点に焦点を当てる.本稿では電気料金として,落札価格を予 定電力使用量で除した落札平均単価を用い,複数応札の下でこの落札平均単価が,同じ案件で仮想 的に単独応札であったならば落札されると予想される平均単価と比べることで,自由化による電気料金 低減効果を計測する(図 2).以下では,この効果を平均単価に対する複数応札効果とよぶことにする. 通常,負荷率の上昇とともに平均単価は下落する.2.1 で議論したように,一般電気事業者は高負荷 率の案件において比較優位を持ち,対して,PPS は低負荷率の案件に比較優位を持つ.ゆえに,両者 の提示可能な料金とその負荷率の間の関係を描くと,一般電気事業者の提示可能な価格の曲線は, PPS のそれよりも急な傾きを落ち,両者はある点で交わる.入札においては,平均単価の低い応札者 が落札するので,観察される落札平均単価はこれら2 つの曲線の包絡線となる.その一方で,落札に失 敗した場合の応札単価や,そもそも応札を諦めたときの提示可能な単価は明らかにはならない.すなわ ち,1 つの入札案件については単独あるいは複数のどちらかの応札状態のみが観測されるため,原理 的に,個々の案件に関して,単独応札の場合の電気料金と複数応札の場合の電気料金の両方を観測 することはできない.そのため,何らかの仮定の下でこれら 2 つの異なる状態下での電気料金を推定し 比較するという方法を取らなければならない.

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図2 観察される応札単価と観察されない応札単価 PPS が提示可能な料金 一般電気事業者が提示可能な料金 PPS は応札しない PPS は応札する 落札・応札 平均単価 負荷率

複数応札効果

観察される落札平均単価 観察されない応札平均単価 注: 一般電気事業者と PPS の応札スケジュールの間の相対的な位置関係が,図 2 のようなものになる とは,もちろん,一般的には言えない.ここでは,第3 節で示す推定結果を先取りして図を描いている. 一般電気事業者はつねに応札するとして,もし仮に,PPS がその案件に対して応札するかどうかが入 札案件の内容等に依存せず完全にランダムに決められているとすれば,単独応札,複数応札の場合そ れぞれの電気料金の平均値を求め,その比較を行うことで平均的な電気料金の差を計測することでき る10.しかしながら,少なくとも表2 を見る限り,PPS の応札割合は負荷率区分とは独立になっていない. 10 例えば Wooldridge (2001)参照.

(19)

すなわち,応札するかどうかの意志決定は,何らかの入札案件の内容(とくに負荷率)に依存して内生的 に決定されているように見受けられる.このとき,単純な平均の比較では競争状況が落札価格に与える 影響を正しく測ることはできない. 入札案件の内容に依存して PPS の応札が決定されているとしても,もし仮に,ある特定の項目(例え ば負荷率や施設の種類など)によって PPS の応札行動が説明され,その行動が落札価格の決定とは独 立になっていると考えられるとすると,単独応札・複数応札それぞれの場合の電気料金に対して適切な 傾向スコアを重みとして用いた加重平均値を計算し,それらを比較することで複数応札効果を計測する ことができる11.しかしながら案件の内容等によってPPS が応札を行うかどうかを考える時点で,たとえば, 個々のPPS が他のどのような施設に対して電力供給を行い,また同時に,どの程度の供給余力を持つ のかといった当該入札案件の内容以外の情報で,分析者には観測できない情報が応札意思決定に重 要な役割を果たす場合,この試みは成功しない.たとえば,第 3 章でその結果を示す本研究の分析で は,供給余力に関する代理変数を作成して分析に含めているが,この代理変数が十分なものでない時, 供給余力に関する情報は観測されない応札意思決定要因となり,かつ落札価格を決めるうえでも無関 係となる保証はない.つまり,供給余力に代表されるようなPPS 自身の要因のいくつかが応札意思決定 だけでなく電気料金決定に対しても影響し,また観測されない要因となっているなら,観測可能な要因 (説明変数)でいくらコントロールしても応札の意思決定と落札価格の決定は独立となっていない可能性

(20)

がある.したがって,傾向スコアを用いた加重平均値の比較もまた,程度の差こそあれ単純に標本を 2 群に分けた場合と同様の標本選別によるバイアスを持つことになる. 以上のような考察から,単純な平均,あるいは傾向スコアを用いた加重平均値の比較のみでは,単独 応札と複数応札の競争状態の違いが電気料金に与える影響を偏りなく計測することができない可能性 が高い.そのため以下では,入札案件内容等によって PPS が応札するかどうかに関する意思決定と, 応札する電気料金の水準に関する決定との間の相互依存関係を明示的にモデル化することによって, 上記の単独応札と複数応札の間の競争状態の差異が電気料金に与える影響を計測する. 2.2.2 内生的応札行動モデル 単独応札された場合に成立する電気料金を

Y

0と表記する.PPS は案件内容や自分たちの供給能力 等を考慮し,応札するかしないかの意思決定を行う.応札するという決定を下し,複数応札となった状況 の下で成立する電気料金を

Y

1とする.PPS が応札するかどうかという意思決定をダミー変数

D

iによっ て表し,この変数が1 をとるときは応札,0 の場合は応札しないという意思決定を行ったものとする. PPS にとっては,応札段階で一般管理費や応札の機会費用等の諸費用を負担することになるので, 落札した場合に自分たちにとってメリットがあり,十分に入札に勝つ可能性があると考えたときのみ応札 すると考えられる.したがって,一般電気事業者が提示すると予測される電気料金 * , 0 i

Y

に対して,PPS は自分たちの提供可能な電気料金 * , 1 i

Y

と(kWh 当たりに換算した)諸費用

C

i*などを考慮して,応札の 有無に関する意思決定を行う.これは,

(21)

+

=

otherwise

0

if

1

0*,i 1*,i i* i

C

Y

Y

D

と書くことができる.ここでそれぞれ * , 0 i

Y

, * , 1 i

Y

, * i

C

について,

1

,

0

,

, , * ,

=

+

U

j

=

Y

ji

K

ji

ξ

j ji i i i

V

C

*

=

W

π

+

という特定化を施すと,入札に関しては以下のような二項選択モデルに帰着させることができる12

}

0

{

1

+

=

i i i

D

Z

γ

ε

(1) ただし,

1

{

}

はカッコ内の条件式が真ならば 1,そうでなければ 0 という値を返す指示関数である.ま た

Z

iは,上の * , 0 i

Y

Y

1 i*, , * i

C

に関する定式化に含まれている観測可能な要因群からなっており,

ε

i は分析者にとって観測不可能な要因群

U

1,i

,

U

0,i

,

V

iがまとめられたものである.これらは PPS が他の どのような施設へ電力供給を行っているか,あるいはどのような電力調達計画を持っているかといった, 供給行動計画に影響を与える要因ではあるものの,分析者には明示的に観測できない要因群を反映し 12 ここでは PPS をあたかも 1 つの主体のように扱っているが,実際には個々の PPS がそれぞれの意思決定を行っ ている.この点を考慮すると何社の PPS が応札するのかによって競争圧力が変わってくると考えられるので,服部 (2007)のように何社が応札するのかを明示的に分析に取り入れることが望ましい.しかしながら現在利用可能なデ ータセットにおいて,どのPPS が入札を行い,どこが落札したのか,という点に関して秘匿処置がとられているものも 多く存在し,こうした標本を取り除くと標本数が小さくなってしまう.したがって本稿ではPPS 応札しているかどうかと いう点にのみ焦点を当てた.

(22)

ているものと考える.推定に当たり,応札するか否かに影響を与えている変数

Z

iとして具体的に用いた ものは,まず服部(2007)や資源エネルギー庁(2004)でも重要性が指摘されている負荷率(%)である.た だし,複数応札になるケースが負荷率とともにどう変化するかは表2 などでも明らかなように,はじめは負 荷率の上昇とともに複数応札になる割合が高まるが,負荷率が 60%を超えてくると再び減少するという 非線形的な関係をもっているため,負荷率については1 次項のみならず 2 次項も含める.表 1 を見る 限り,電圧区分ダミー(特別高圧=1,高圧=0),契約電力(kW)と地域ダミー(東京,中部,関西それぞれ のダミーを用い,それ以外の地域を基準とした)も異なる影響を応札行動に与えている可能性があるた め説明変数として含める. 表3 施設の種類と負荷率 平均負 荷率 (%)標準偏差 データ点 平均負 荷率 (%)標準偏差 データ点 平均負 荷率 (%)標準偏差 データ点 水道施設 59.52 18.01 97 51.60 16.18 10 58.78 17.99 107 道路施設 48.27 9.50 3 41.88 17.09 11 43.25 15.99 14 ゴミ処理施設 40.50 20.30 11 69.56 0.00 1 42.92 21.03 12 学校 40.75 12.37 11 41.80 11.20 15 41.36 11.72 26 病院 46.59 9.31 35 49.32 8.20 30 47.85 8.92 65 市場 34.19 5.81 4 45.69 0.80 3 39.12 7.21 7 オフィス等 34.50 13.19 142 39.27 15.01 116 36.64 14.23 258 全施設区分 44.48 18.42 303 42.18 14.68 186 43.61 17.13 489 単独応札 複数応札 総計 また施設の種類から得られる情報が応札行動に影響を与えている可能性を考慮して,入札案件とな っている施設を「オフィス等」,「水道施設」,「道路施設」,「ごみ処理施設」,「学校」,「病院」,「市場」に

(23)

分類した(表 3)13.ただし,「ごみ処理施設」については,複数応札となる案件が1 件のみで,残りは単独 応札となっている.そこで,推定を行う際には多重共線性を避けるために「ゴミ処理施設」は「オフィス 等」に併合した.以上の分類によって,「オフィス等」というダミー変数を基準とした5 つのダミー変数を施 設に関する説明変数として推定式に加えた.最後に,当該年度内での供給余力を表す変数として,契 約電力(kW)を,前年同月の送電端供給力(kW)の PPS 上位 9 社平均値で除したものを説明変数とし て加えた14 2.2.3 電気料金推定モデル 応札状況を

j

という添え字で表し,実際に単独応札の状況下(

j

=

0

)で成立する価格,つまり一般電 気事業者のみが応札した場合に成立する電気料金を

Y

0,i,複数応札の状況下(

j

=

1

)で成立する電 気料金を

Y

1,i,そして入札案件

i

について実際に観測される電気料金を

Y

i

=

D

i

Y

1,i

+

(

1

D

i

)

Y

0,i とし,電気料金の落札平均単価モデルを,

1

,

0

, , ,

=

+

j

=

Y

ji

X

ji

β

j

η

ji (2) i i i i i

D

Y

D

Y

Y

=

1,

+

(

1

)

0, (3) と定式化する.この定式化のもとでは,単独応札・複数応札の各状態において,電気料金決定に影響 13 オフィス等には,通常のオフィス以外に,上記の水道施設から市場までの施設区分に入らないものも含む. 14 データ出典: 資源エネルギー庁 「電力調査統計月報」.

(24)

を与える要因として,分析者にとって観測可能な説明要因

X

1,i

, X

0,iと観測不可能な要因

η

0,i

,

η

1,iの 2 種類を考慮している.この観測可能な説明要因としてデータセットに含まれるものは,負荷率(%),特 別高圧であるかどうかを示すダミー変数,地域ダミー,施設の種類ダミー,契約期間(年),および,契約 電力(kW)の対数値を用いた.ただしこの場合も負荷率については図 1 によると,負荷率が低いときは, 負荷率の上昇にともなって急速に落札平均単価が下落するが,負荷率が 40%程度を超えると落札平 均単価が10 円/kWh ないしそれより少し低い値へ漸近していく傾向を示している.こうした非線形的傾 向が存在する中においても(2)式のパラメータに関する線形性を保つため,以下の分析では負荷率の 1 次項,2 次項および逆数項を加える. (1),(2)式に含まれる未知パラメータの推定を行うためには,いくつかの追加的な特定化を施す必要 がある.まず(1),(2)式に含まれる観測不可能な要因

ε

i,

η

0,i

,

η

1,iについて以下のような多変量正規 分布に従うと仮定する15

15 Andrews and Schafgans (1998)などが開発したセミパラメトリック法を用いて(1)–(3)式で構成されるようなモデ ル体系を推定した場合には,(4)式のような正規分布の仮定は必ずしも必要ないものの,その推定方法の有効性は 非常に大きな標本の下でしか確認されていない.一方で,Heckman et al. (2003)は正規分布を仮定して推定を 行う場合の推定結果の頑健性に関するシミュレーション実験を行って,極端に歪みをもった分布でない限り,本稿 で行う複数応札効果の推定と同様の推定を行ったときでもそのバイアスが大きくないことを確認している.

(25)

n

i

IIN

i i i

K

,

2

,

1

1

,

0

0

0

~

0 0 1 1 0 0 2 0 0 1 10 1 1 0 1 10 2 1 , 0 , 1

=

σ

ρ

σ

ρ

σ

ρ

σ

σ

σ

ρ

σ

ρ

σ

σ

ρ

σ

ε

η

η

(4)

このとき,(1)–(4)式の体系は,内生的スイッチング回帰(endogenous regime-switching regression)

モデルと呼ばれる(例えば Maddala (1983)など).このモデルは以下のような対数尤度関数を最大化す ることでその未知母数の推定を行うことができる(ただし

ρ

10は識別されない).

= =

+

Φ

⎟⎟

⎜⎜

⎛ −

+

+

Φ

⎟⎟

⎜⎜

⎛ −

=

n i i i i i i i n i i i i i i i

Y

Y

D

Y

Y

D

L

1 0 0 , 0 0 2 0 0 0 , 0 0 1 1 1 , 1 1 2 1 1 1 , 1 1

1

1

1

ln

)

1

(

1

1

1

ln

ln

σ

ρ

ρ

σ

φ

σ

σ

ρ

ρ

σ

φ

σ

β

X

γ

Z

β

X

β

X

γ

Z

β

X

(5) ただし,

φ

は標準正規分布の密度関数,

Φ

は累積分布関数をあらわしている.Olsen (1982)などで指 摘されているように,この対数尤度関数は数多くの局所的最大値を持つため,最尤推定値を求めること は一般に困難であるとされている.この問題に対して,Heckman et al. (2003) など数多くの研究では, (1), (2)式の推定を行う際に Heckman (1976) の二段階推定法を用いている.しかしながら,有限標本 でのこうした二段階法の非効率性が多くの文献(例えば Nawata (1994))で指摘されていることを考える と,可能な限り最尤法によって推定する方が望ましいと考えられる.実際,補論で詳述するように,(5)式

の対数尤度関数の性質を考慮すると,Nawata (1994)の scanning method が利用できることがわかる

から,これにより尤度関数(5)の局所的最大値の問題を克服して安定的に最大化することが可能になる

(26)

2.3

複数応札効果の定義と推定量

以上の(1)–(3)式の表記の下で,この節の冒頭で述べたように,競争のない単独応札の場合と,競争 のある複数応札の場合との間で,成立する電気料金がどの程度異なるかという複数応札効果の計測を 行う.この目的のために,以下のような尺度を用いる.

]

1

|

[

1

0

=

=

E

Y

Y

D

T

(6) つまりこの複数応札効果

T

は,複数応札が行われたという条件のもとで,同じ案件に関して仮想的に単 独応札の状況であったとしたとき成立すると予想される平均的な電気料金(

E

[

Y

0

|

D

=

1

]

)と比べて, 複数応札のもとで成立した平均的な電気料金(

E

[

Y

1

|

D

=

1

]

)がどの程度の値なのかを計測するもの となっている.図2 に照らしていえば,2 曲線の交点より左側全般について,一般電気事業者と PPS と の間の応札単価を比較していることになる.自由化によって電気料金が低下しているとすれば,この

T

という尺度は負の値をとることになる.また,2.1 で議論したように,入札案件の内容,とくに負荷率や供 給電圧区分に依存して一般電気事業者とPPS の競合状態が異なっている.これに関しても,負荷率や 供給電圧区分ごとに複数応札効果を推定することで,競争圧力によって落札価格がどのように変化す るのかをより明確に計測することができる.そのために,負荷率を ( L)

X

と表し,

によって複数応札効 果を計測したい負荷率の区間をあらわしているものとすると,複数応札効果の尺度として以下のようなも のを考える.

]

,

1

|

[

)

(

=

E

Y

1

Y

0

D

=

X

(L)

T

(6)’ 以下の分析では,入札データを用いて(1), (2)式からなるという体系を推定し,そこで得られた結果を

(27)

用いて(6)および(6)’式の推定値を求めることになる.(6)および(6)’式の推定量として,次の推定量

T

nが 複数応札効果

T

の一致推定量となっていることが知られている(Heckman et al. (2003)).

= =

Φ

+

=

n i i i i i i n i i n

D

D

T

1 0 0 1 1 0 , 0 1 , 1 1

)

ˆ

(

)

ˆ

(

)

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

(

)

ˆ

ˆ

(

1

γ

Z

γ

Z

β

X

β

X

ρ

σ

ρ

σ

φ

(7)

= =

Φ

+

=

n i i i i i i i n i i i n

D

F

F

D

T

1 0 0 1 1 0 , 0 1 , 1 1

)

ˆ

(

)

ˆ

(

)

ˆ

ˆ

ˆ

ˆ

(

)

ˆ

ˆ

(

1

)

(

γ

Z

γ

Z

β

X

β

X

ρ

σ

ρ

σ

φ

(7)’ ただし,ハット(^)のついたパラメータは,(5)式の尤度関数から求められる最尤推定値を表している.また, i

F

はダミー変数で,標本点

i

の負荷率が区間

に含まれているときに1 をとり,それ以外の場合には 0 となる.(7)式および(7)’式の推定量は漸近的に正規分布に従い,その漸近分散については Heckman et al. (2003) と同様の方法で導出することができる(詳細については補論 A.2 参照).本稿では,負荷 率区分に関するものと同様の手法で,供給電圧区分(特別高圧と高圧)に関しても同様の尺度を定義し て複数応札効果を詳細に計測する. 上記の(1)–(4)式に含まれるパラメータについて(5)式によって最尤推定値を求め,(6),(6)’式で表され ている複数応札効果を(7),(7)’式によって計測することが本稿の実証分析の手順である.以下では,そ の推定結果について述べる.推定作業はすべて Ox version 4.00 (Doornik (2002)) で行った.

3.

推定結果

3.1

応札選択と落札価格決定式の推定結果

実際の推定に当たってあらかじめ以下のような標本選別を行った.まず,2.1 で指摘したように,負荷

(28)

率が非常に低いデータ点の単価が極端に高い.こうしたデータ点を推定に含めることで受けてしまう影 響を考慮して,負荷率 10%未満の標本を除外した.また,少数の案件(15 件)で一般電気事業者が入 札を行わず,PPS の単独応札となっているデータ点がある.PPS が入札に応じるか否かという選択のも とでの電気料金の分析のためには,こうした状況は例外と考えるべきものであるため,これらもまた除外 したうえでデータセットを作成した.表 4 にはこのデータセットを用いた最尤法による推定結果が示され ている16 PPS が応札するかどうかについての選択式(1)の推定結果は,表の 2 段目に示されている.服部 (2007)では負荷率の上昇によって単独応札となる確率が高まるという結果を得ていたが,表 4 の推定結 果では負荷率は有意な決定要因となってない.これは,服部(2007)の分析には含まれていなかった施 設ダミーを含めていることが原因と考えられる.すなわち,表 3 に示されているように,水道施設は負荷 率が高く,オフィスを含めた他の施設の負荷率はそれよりは低い水準にある.施設ダミー変数がこのよう な負荷率の差異を代理しているため,負荷率そのものが応札行動へ与える影響が表れにくくなっている と考えられる.実際,施設ダミー変数にかかっている係数の推定結果をみると,負荷率が最も高い水道 施設が負で有意な結果となり,その以外の負荷率の低い負荷率の施設に比べて応札確率が低くなる傾 向がある点は服部(2007)の結果と整合的である. 16 ここでは,被説明変数として平均単価の水準を用いているが,これを対数変換した平均単価に置き換えて推定 を行った場合でも,結果は本質的に変わらない.

(29)

表4 推定結果 推定値 標準誤差 t値 p値 推定値 標準誤差 t値 p値 定数項 0.1834 0.0416 4.41 0.000 ** 0.1628 0.0151 10.76 0.000 ** 特高 -0.0145 0.0028 -5.16 0.000 ** -0.0062 0.0014 -4.32 0.000 ** 負荷率 -0.0731 0.0570 -1.28 0.200 -0.1258 0.0222 -5.66 0.000 ** 負荷率^2 0.0487 0.0464 1.05 0.293 0.0818 0.0172 4.75 0.000 ** 1/負荷率 0.0147 0.0023 6.24 0.000 ** 0.0131 0.0009 14.25 0.000 ** 東京 -0.0021 0.0026 -0.82 0.412 0.0000 0.0011 0.01 0.995 中部 -0.0015 0.0027 -0.56 0.578 0.0012 0.0009 1.37 0.172 関西 0.0026 0.0026 1.01 0.313 0.0031 0.0014 2.31 0.021 ** 契約電力 -0.0099 0.0085 -1.16 0.248 -0.0037 0.0037 -0.98 0.325 契約電力^2 0.0003 0.0006 0.59 0.557 0.0001 0.0003 0.42 0.673 契約期間 -0.0003 0.0025 -0.13 0.899 0.0012 0.0008 1.56 0.118 水道施設 -0.0014 0.0035 -0.39 0.697 -0.0063 0.0012 -5.46 0.000 ** 道路施設 -0.0116 0.0028 -4.09 0.000 ** -0.0084 0.0036 -2.29 0.022 ** 学校 -0.0006 0.0027 -0.22 0.829 0.0003 0.0019 0.15 0.882 病院 0.0036 0.0019 1.91 0.057 * 0.0029 0.0012 2.37 0.018 ** 市場 0.0057 0.0050 1.15 0.251 -0.0097 0.0030 -3.21 0.001 ** 定数項 -7.0286 23.0270 -0.31 0.760 特高 1.7050 0.2405 7.09 0.000 ** 負荷率 -2.3024 7.4477 -0.31 0.757 負荷率^2 -0.2801 4.7435 -0.06 0.953 東京 1.1628 0.2052 5.67 0.000 ** 中部 -0.1572 0.2437 -0.64 0.519 関西 0.7662 0.2536 3.02 0.003 ** 契約電力 2.0983 1.5635 1.34 0.180 契約電力^2 -0.1391 0.0531 -2.62 0.009 ** 供給余力 -0.3674 0.8249 -0.45 0.656 契約期間 0.0917 1.3612 0.07 0.946 水道施設 -1.4968 0.2493 -6.00 0.000 ** 道路施設 0.0160 0.4894 0.03 0.974 学校 0.5280 0.3450 1.53 0.126 病院 0.1785 0.2275 0.78 0.433 市場 0.1525 0.6317 0.24 0.809 σ1 0.0084 0.0007 12.64 0.000 ** σ0 0.0059 0.0002 24.57 0.000 ** ρ1 -0.4471 0.2590 -1.73 0.084 * ρ0 -0.0048 0.1931 -0.02 0.980 決定係数(括弧内は自由度調整済み決定係数,応札選択式の決定係数に関しては本文参照) 落札平均単価決定式(複数応札) 0.824 (0.808) 落札平均単価決定式(単独応札) 0.954 (0.952) 応札選択式 0.853 対数尤度 1514.6 標本数 489 うち複数応札の件数 186 PPSが応札するか否かの選択式(1) 複数応札の平均単価決定式(2) 単独応札の平均単価決定式(2) 注: **は 5%水準で有意,*は 10%水準で有意.

(30)

契約規模を表す(対数変換した)契約電力(kW)については,約 7.5 で最大値をとる 2 次関数の形状で あることが推定結果からわかり,契約電力の全体平均(約 7.2)をすこし超えるところまでは応札確率が高 まることが確認された.供給電圧が特別高圧であるかどうかに関しては,服部(2007)と同様に,特別高 圧の案件では複数応札される傾向が強い.地域ダミーを見ると,PPS の本支店が多く立地する東京と 関西地域ではPPS が応札してくる傾向が高まる.推定結果の全般的な傾向に関しては,応札確率の当 てはまりのよさは,その予測成功確率で見て80%を超えており,モデルとして十分に機能しているといえ る17 複数応札,単独応札それぞれの場合における平均単価決定式(2)の推定結果は,表 4 の 1 段目に示 されている.1 段目左側にある,複数応札の場合の落札平均単価決定式は,入札に応じるかどうかの決 定式の場合とは異なり,地域差,契約電力の大きさには有意な影響を受けない.施設種別では,同じ中 位程度の負荷率の病院と道路に関して,前者については価格引き上げ,後者については価格引き下 17 二項選択モデルにおける当てはまり度合いの尺度として,ここでは予測成功確率を用いている.個別の入札案 件についての応札の有無に関する選択式においては,その従属変数は1 と 0 しか値を持たない.そこでこの予測 値を求める際には,

Φ

(

Z

i

γ

ˆ

)

を推定結果から求めて,これが0.5 を超えている時には 1,そうでない時には 0 とす る.こうして計算された予測値と実際の観測値 i

D

と比較し,一致している時には正しい予測,そうでないときには 誤った予測と考える.全体的な当てはまり度合いは,上の手順で計算された正しい予測の案件が全標本に占める 割合とする.この種のモデルの当てはまり度合いの尺度に関する議論はEstrella (1998)にまとめられている.

(31)

げ要因になっている.負荷率の水準そのものの影響は以下で議論する負荷率に関する多項式の部分 で捉えられているので,これらは純粋に施設間の差異に起因すると考えられる.たとえば,道路におい ては,電力市場全体では需要が少ない夜間における需要が主体であるために,発電単価の低い電源 による供給とうまく需給が合致する.あるいは,病院では安定供給等の点でより高品質で高価な電力供 給を受けている可能性を示唆する.負荷率の上昇や特別高圧で供給を受けることは,強く有意な落札 平均単価の引き下げ要因となっている.ただし,負荷率に関しては,その影響の非線形性を考慮した多 項式の形状を特徴付ける係数のうち,逆数成分のみが有意に効果を持つ.この関数型を前提とすると, 負荷率が落札平均単価を引き下げる効果は負荷率の上昇に伴って急速に低下し,実際に効果を持つ 範囲はせいぜい負荷率 40%あたりまでである.右側の単独応札の場合の落札平均単価決定式におい ても,負荷率と特別高圧ダミーの影響に関しては複数応札の場合と同様か,より顕著な傾向を持つ. 推定結果を示した表4 の 3 段目に,応札選択式(1)に含まれる観測不可能な要因

ε

iと,それぞれの落 札平均単価決定式(2)の誤差項

η

1,i

,

η

0,iとの間の相関係数の推定結果が示されている.

ε

i

η

1,iの間 の相関係数

ρ

1が有意であることは,複数応札の下での価格決定と,PPS の入札に関する意思決定と が独立でないことを意味しており,2.2 で議論したように,この同時性を無視した推定結果は一般的には バイアスを持つことを示唆している.したがって,複数応札か単独応札かによって標本を単純に分離し てそれぞれの落札平均単価の単純な平均値を比較したり,負荷率や施設の種類といった外生的要因 だけを考慮した複数応札・単独応札それぞれの場合の平均単価の予測値を比較したりするだけでは, 自由化が引き起こす競争が落札平均単価に与えた影響を偏りなく計測することはできない.また,

ε

i

(32)

i , 0

η

の間の相関係数

ρ

0が有意ではないことは,PPS の応札の有無に関する決定は一般電気事業者 にとって,公表されている案件内容以上には入札価格決定に影響を持たないことを意味している.すな わち一般電気事業者はPPS の応札に対して戦略的な行動をとっていないともいうことができる.

3.2

複数応札効果の推定結果

複数応札の下で落札平均単価がどのように変化したかを(7),(7)’式を用いて計測する.実際に複数 応札された入札案件に関して,その落札価格

E

[

Y

1

|

D

=

1

]

と,仮想的に単独応札であった場合に成 立すると予想される落札価格

E

[

Y

0

|

D

=

1

]

を比較した複数応札効果

E

[

Y

1

Y

0

|

D

=

1

]

の推定結果が 表5 に示されている.(これは,典型的には図 2 における 2 曲線の交点の左側についてのみ,価格を比 較したものに相当する.)表 5 から,実際に複数応札された案件全体を見ると平均的に 0.46 円/kWh 程 度低下していることがわかる.負荷率区分別にみると,やはり PPS の応札の多い負荷率 20–60%の範 囲で0.44 円/kWh から 0.51 円/kWh と,その他の負荷率区分よりも大きな減少幅を見せており,その絶 対値としては小さいものの,複数応札による電気料金の引き下げ効果が確認される.これらの負荷率区 分に次いで60–80%の範囲で 0.41 円/kWh だけ低いものの,それ以外の負荷率の範囲では統計的に あまり有意な値をとっておらず,明確な変化があったと読み取ることはできない.

(33)

表5 複数応札効果の計測結果 推定値 標準誤差 t値 p値 -0.4585 0.1158 -3.96 0.000 10~20% -0.3154 0.3902 -0.81 0.419 20~40% -0.5065 0.1508 -3.36 0.001 40~60% -0.4432 0.1323 -3.35 0.001 60~80% -0.4149 0.1515 -2.74 0.006 80%~ -0.4033 0.3162 -1.28 0.202 特別高圧 -0.7175 0.1205 -5.96 0.000 高圧 0.0351 0.1655 0.21 0.832 標本全体 負荷率 電圧 注: 複数応札効果の推定値の単位は円/kWh. さて,競争の中心である20–40%,および 40–60%の負荷率区分について,表 2 に示された単独応札 の場合の平均単価と複数応札の場合の平均単価の間の差(それぞれ 1.37, 0.73 円/kWh)を見ると,表 5 に示された複数応札効果は小さい.これは,負荷率以外の入札案件内容に加えて,2.2 でも述べたよ うな応札意思決定の内生性が影響している.すなわち,表2 において,PPS の応札によって落札された 案件のうち,負荷率が 20–40%,および 40–60%のものについてみると,単独応札の場合の平均的な 単価がそれぞれ15.98,12.77 円/kWh,複数応札の場合が 14.61,12.04 円/kWh であり,記述統計上 は単独応札の場合の平均に比べて水準にして1.37,0.73 円/kWh,比率にして 8.6,5.7%だけ複数応 札の場合の電気料金が低い.これに対して,表5 が示す,入札行動の内生性や施設種別・地域性など を考慮した複数応札効果は,同じ負荷率区分で0.51, 0.44 円/kWh であり,記述統計が示唆する見か け上の複数応札効果の半分程度が真の複数応札効果であることがわかる. こうした複数応札効果の小ささの理由として,PPS と一般電気事業者との間にある経営資源や技術等 での格差が考えられる.すでに2.1 で指摘したとおり,供給量で見た自由化範囲における PPS の占有

(34)

率は,官民全体の市場の 2%程度,ここで推定に用いた官公庁を対象とした入札案件全体の中でも半 分程度である.このため,PPS が自由化対象となっているすべての案件に関して一般電気事業者と等 しく競争することは現時点においては困難である.そこで特定の案件に応札対象を絞り込んだ上で,一 般電気事業者を少しだけ下回る応札額を提示して落札することができたと推測できる. 電圧区分についても同様の複数応札効果の程度に関する議論が成り立つ.送電費用の低い特別高 圧の市場区分においては,複数応札によって0.72 円/kWh 程度の価格低下が実現されている.その一 方で,高圧の市場区分では有意な価格低下は認められない.これは,競争の中心が特別高圧の市場 区分に限定されていることを示唆する.

4.

まとめ

本稿では,官公庁による電力調達入札データを利用して,自由化が引き起こした既存の電力会社(一 般電気事業者)と新規参入者(PPS)との間の競争が,どの程度電気料金を引き下げたかを分析した.そ の結果,実際に複数応札があった,すなわち両電力会社間の競争があった入札案件に関しては,平均 的に0.46 円/kWh 程度の電気料金の低減効果があったことがわかった.しかしながら,現時点ではこう した電力会社間の競争が生じる分野はごく限られた分野である.すなわち,一般電気事業者に比べて PPS の規模は圧倒的に小さく,したがって,応札できる案件の数も限られて,一般電気事業者による単 独応札の案件が少なからず発生する.そのため,自由化対象範囲全体を検証対象としたときには統計 的に有意な競争の効果は発見されにくいことが容易に推測される.

(35)

最近10 年間に,工場やオフィスで利用される商業用・産業用の電力料金が,名目値で 1 年あたり約 1.8 円/kWh 下落してきた.もちろん,戒能(2007)が明らかにしたように,この下落には自由化の効果に 帰すべき部分と,そうでない部分がある.ここで明らかになった複数応札効果も,こうした時系列的な電 気料金の変化の原因のうちのごく一部であることがわかる. 本稿で分析対象としたのは 2005 年度に供給開始される入札案件のみであった.近年では,公共調 達における透明性の確保がより強く要請されているために,電力の入札案件の数も増加している.今後 の展開として,こうした新たな案件も加えながら,年度ごとの応札行動や複数応札効果の変化を計測す ることが考えられる.

(36)

参考文献

伊藤英一, 依田高典, 木下信 (2004) 「日本の電力自由化が技術的効率性に与えた効果の実証分 析」, 『公益事業研究』 56 (3), 53–59. 戒能一成 (2007) 「電力自由化はいかなる効果を持ったか—1990 年代から現在までの定量的政策評 価—」, 所収: 八田達夫, 田中誠 (編著)『規制改革の経済分析—電力自由化のケース・スタ ディ—』, 日本経済新聞出版社, 第 1 章, 1–74. 北村美香, 筒井美樹 (1998) 「日米電気事業の生産性総合評価—技術効率性及びコスト効率性—」, 『電力中央研究所報告』 Y97014, (財)電力中央研究所. 資源エネルギー庁 (2004) 「電力供給コスト等に関する調査—電力小売自由化制度導入における経 済効果等の分析調査—」, 3 月. 資源エネルギー庁 (2006) 「制度改革評価小委員会報告書」, 5 月 22 日. 内閣府 (2001a) 「近年の規制改革の経済効果—生産性の分析」, 4 月 13 日. 内閣府 (2001b) 「近年の規制改革の経済効果—利用者メリットの分析(改訂試算)」, 6 月 29 日. 服部徹 (2007) 「電力調達の競争入札における新規参入者の参加行動」, 未公刊論文.

Andrews, D. W. K., and M. M. A. Schafgans (1998) “Semiparametric estimation of the

intercept of a sample selection model,” Review of Economic Studies 65 (3), 497–517.

Averch, H., and L. L. Johnson (1962) “Behavior of the firm under regulatory constraint,”

表 1  記述統計値  落札平均 単価 特別高圧割合 平均負荷率 平均契約電力 観測数 (円/kWh) (%) (%) (kW) 東京 単独応札 12.88 0.22 52.81 2,177 123.46 [1.260]10.67 [0.109] 98 複数応札 13.25 0.58 42.96 3,002 177.45 [1.740]15.32 [0.150] 102 地域計 13.07 0.41 47.78 2,598 300.91 [1.505]25.99 [0.130] 200 中部 単独応札 14
図 2  観察される応札単価と観察されない応札単価 PPS が提示可能な料金 一般電気事業者が提示可能な料金 PPS は応札しない  PPS は応札する 落札・応札 平均単価  負荷率複数応札効果観察される落札平均単価観察されない応札平均単価  注 :  一般電気事業者と PPS の応札スケジュールの間の相対的な位置関係が,図 2 のようなものになる とは,もちろん,一般的には言えない.ここでは,第 3 節で示す推定結果を先取りして図を描いている.   一般電気事業者はつねに応札するとして,もし仮に, PP
表 4  推定結果 推定値 標準誤差 t値 p値 推定値 標準誤差 t値 p値 定数項 0.1834 0.0416 4.41 0.000 ** 0.1628 0.0151 10.76 0.000 ** 特高 -0.0145 0.0028 -5.16 0.000 ** -0.0062 0.0014 -4.32 0.000 ** 負荷率 -0.0731 0.0570 -1.28 0.200 -0.1258 0.0222 -5.66 0.000 ** 負荷率^2 0.0487 0.0464 1.05 0.293
表 5  複数応札効果の計測結果 推定値 標準誤差 t値 p値 -0.4585 0.1158 -3.96 0.000 10~20% -0.3154 0.3902 -0.81 0.419 20 ~ 40% -0.5065 0.1508 -3.36 0.001 40~60% -0.4432 0.1323 -3.35 0.001 60~80% -0.4149 0.1515 -2.74 0.006 80% ~ -0.4033 0.3162 -1.28 0.202 特別高圧 -0.7175 0.1205 -5.96

参照

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