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走査電子顕微鏡の原理と応用 ( 観察, 分析 ) Principle and Application of Scanning Electron Microscope/Syunya WATANABE 日立ハイテクノロジーズグローバルアプリケーションセンタ渡邉俊哉 1. はじめに走査電子顕微鏡 (Sca

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Academic year: 2021

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(観察,分析)

Principle and Application of Scanning Electron Microscope/Syunya WATANABE

日立ハイテクノロジーズ グローバルアプリケーションセンタ

渡邉俊哉

1.は じ め に

走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope : SEM) はナノテクノロジーからバイオテクノロジーまで幅広い分 野で活用されている.これは,サブナノメータに迫る分解 能が実現されたことに加え,測定ニーズの多様化に対応し てさまざまな信号を利用した観察手法が確立されつつある ことによる.本稿では,SEM の原理,SEM 観察の注意点 と最近の SEM を用いた応用例を紹介する. 2.走査電子顕微鏡の原理と構造 2.1 SEM の原理 SEM は,電子源から発生した電子線を試料上に二次元 走査して,そこから発生した信号を結像して画像を取得す る(図 1).このとき,試料からは二次電子(Secondary Electron : SE),後 方 散 乱 電 子(Backscattered Electron : BSE),X 線,蛍光,吸収電子などの信号が発生する(図 2).SEM では主に表面情報を有する SE や組成情報を有 する BSE を像情報形成に用いる. SE は入射電子によって試料内部の電子が励起されたも のであり,その保有エネルギーは入射電子のエネルギーに 関係なく数十 eV 以下と低い.そのため SE の発生深さは 10 nm 程度と浅く,したがって SE は試料表面情報をもた らす.さらに図 3 に示すように SE 放出効率は試料の傾斜 角度に依存するため,試料の表面凹凸が SE 像のコントラ ストを決める主な要因となる. BSE は,入射電子が試料内部で相互作用を起したあと に後方散乱して真空中に放出された電子であり,主に組成 情報を有する.その保有エネルギーおよび放出領域は入射 電子エネルギーに比例し,高加速電圧ほどより深い領域の 情報を有する.従来は検出器の特性からある程度高い加速 電圧(数 kV 以上)が必要であったため,SE に比べて表 面情報を得ることは困難であった.しかし,近年では新し 偏向コイル 試料室 電子線 電子源 真空ポンプ 試料 SE 電子銃 ディスプレイ コンデンサ レンズ 対物 レンズ 真空ポンプ SE 検出器 第 1 アノード 第 2 アノード 図 1 SEM の構造図 電子散乱領域 試料 X線(元素情報) 試料吸収電流 電子ビーム(∼30 kV) BSE(組成情報) 蛍光(化学結合状態情報) 10 nm 以内 (二次電子発生領域) SE(試料表面情報) 図 2 電子線照射により試料から発生する信号 0 20 40 60 80 二次電子 電子線 試料 10 nm 以内 (二次電子 発生深さ) 電子散乱 領域 → 二次電子放出効率 δ( θ ) δ0 θ δ(θ)=δ0 sec θ → 試料傾斜角度(deg) 図 3 電子線の入射角度と二次電子放出効率

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い検出方式が開発されてより低加速電圧での BSE 像観察 が実現し,試料表面の組成情報が得られるようになっ た1).図 4 は,自動車排気ガスの浄化装置や燃料電池の触 媒材料として利用されている白金触媒粒子を加速電圧 2 kV にて SE と BSE で観察した例である.(a)SE 像では, 保持材となる数十 nm の炭素粒子の形態とその上に分散し ている数 nm 以下の白金粒子が確認されている.(b)BSE 像では組成情報が強調されるため,炭素より原子番号の大 きい白金粒子がより鮮明に観察できており,分散状態の把 握も可能である. SEM 像の倍率 M は,試料表面での電子線走査幅を L2, 表示ディスプレイ上の幅を L1とすると L1/L2となる(図 5).よって SEM の分解能は,試料表面の走査幅を小さく するためにどれだけ細い電子線をつくれるかに依存す る1).さらに,この細く絞った電子線は,試料照射時の照 射角度が非常に小さく,光学顕微鏡に較べ深い焦点深度を もつ(図 6). SEM の到達分解能は,電子銃と対物レンズの組み合わ せによって異なる(電子銃とレンズについては後述).こ の分解能は,値が小さいほど高分解能で高倍率の測定が可 能となる.図 7 は主な SEM についてその到達分解能の算 出例である.熱電子放出型電子銃はアウトレンズ方式の対 物レンズと組み合わされて熱電子銃型 SEM と呼ばれ,ア ウトレンズ方式 FE-SEM とともにミクロンオーダの試料 観察に用いられる.一方,サブミクロンオーダ以下の観察 にはシュノーケルレンズ方式 FE-SEM やインレンズ方式 FE-SEM が適している.ここで,各方式の到達分解能に 対応する観察倍率で表すと,熱電子放出型 SEM は数万倍 程度まで,アウトレンズ方式 FE-SEM は 10 万倍程度ま で,シュノーケルレンズ方式 FE-SEM は 30 万倍程度ま で,インレンズ方式 FE-SEM は 50 万倍程度まで観察可 能である. 2.2 SEM の構造 一般的な SEM の構造は図 1 に示したとおりである.装 置内部は,電子線の通過を妨げないように,全体を真空ポ ンプにより排気され,高真空に保たれている.電子銃と対 物レンズは SEM の分解能を決定する重要な構成要素であ り,製品化以来さまざまな改良が加えられてきた2)∼5).次 章でこれらの技術的な内容を述べる. ① 電子銃 電子線は電子銃によりつくられる.SEM の電子銃は, 熱電子放出型と電界放出(Field Emission : FE)型に大別 される.その比較を表 1 に示す.熱電子放出型電子銃は, フィラメントに通電,加熱することにより,先端部から熱 電子を放出するタイプの電子銃である.コストパフォーマ 100 nm 100 nm (a)SE 像 (b)BSE 像 図 4 各種信号による観察(試料:白金触媒粒子,加速電圧:2 kV, 測定倍率:×250000) 試料 電子線 ディスプレイ 走査(Y 方向) 走査(X 方向) 2 1 SEM の倍率: = 2 1 図 5 電子線の走査幅と倍率 試料 試料 電子線 光 光顕像 50 μm 50 μm 試料:白熱電球のフィラメント 試料:白熱電球のフィラメント SEM 像 焦点深度 (浅い) 2α 光学顕微鏡(照射角度:2α≒1rad) 焦点深度 (深い) SME(照射角度:2α=10−2∼10−3rad)図 6 光学顕微鏡と SEM の焦点深度の違い 0.5 1.0 10 → 到達分解能(計算値)nm アウトレンズ方式 FE―SEM 熱電子銃型 SEM (アウトレンズ方式) シュノーケルレンズ (セミインレンズ)方式 FE―SEM インレンズ方式 FE―SEM 0.5 1.0 10 30 → 加速電圧 kV 図 7 一般的な SEM の到達分解能

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ンスに優れており,かつ大きなプローブ電流を得られるこ とから主として汎用形の SEM で利用されている.一方, FE 電子銃は,細く尖らせたチップの先端に強い電界を作 用させて,トンネル効果により電子を放出させる.この FE 電子銃は電子源の大きさが小さく,かつ高輝度でエネ ルギー幅も小さいことから高分解能観察に適している.こ の他にも FE 電子銃と熱電子銃の中間的な特徴をもつ Schottky Emission 型電子銃があり,組成や結晶方位解析 などの分析を主目的とする SEM に利用されている. ② レンズ系 電子顕微鏡に用いられるレンズには,通常の光学レンズ と異なり,電子線に対してレンズの作用をする,いわゆる 電子レンズが用いられている.一般的には磁界を用いたも のが主流で,コイルに電流を流してその磁場を集中させレ ンズ作用を発生させるものである.SEM では,このレン ズを複数用いており,特に対物レンズは電子線を試料上に 収束させる最終レンズとして重要な役割を担っている.代 表的な SEM の対物レンズを図 8 に示す.図中の仮想レン ズとは,磁場が集中したレンズ作用をする領域である. (a)は最も一般的な対物レンズでアウトレンズ方式と呼ば れる.試料はレンズの下方に置かれ,SE はレンズ下面と 試料の間にある検出器で捕集される.このレンズは大形試 料や磁性をもつ試料の観察に適する.(b)に示すインレ ンズ方式はインレンズ SEM6)に用いられる強励磁対物レ ンズである.このレンズは試料サイズが数 mm 角に制約 を受ける反面,高分解能観察に用いられる.また SE はレ ンズ磁場により巻き上げられ,レンズ上方に配置した SE 検出器で捕集される.(c)はシュノーケルレンズ(セミイ ンレンズ)方式7)で,仮想レンズを試料側に近づけること により,インレンズ並みの高分解能化とアウトレンズ並み の大形試料観察を両立させたものである.また,ここで取 り上げた対物レンズ方式以外にも,静電界レンズと磁界レ ンズを組み合わせた静電界磁界複合方式なども存在する. 3.SEM 観察における注意点 3.1 観察試料ついて SEM では,さまざまな試料の表面観察が可能だが,試 料状況に応じて観察装置/観察条件/前処理などの選択が必 要となる.ここでは配慮を要する試料に対する必要条件や 注意点について述べる. ① 絶縁性試料 絶縁性試料を SEM で観察すると,試料表面への帯電に よる異常コントラストや画像の乱れを生じる帯電現象が発 生する.特に SE 像は帯電の影響を受けやすい.図 9 に帯 電現象の発生メカニズムを示す.導電性試料の場合,試料 に入る電流(Iin)と試料から出る電流(Iout)は同じであ

り帯電現象は生じない.これは,SE 電流(Ise)と BSE 電

流(Ibse)の電流量の過不足を吸収電流(Iab)が導電性試

料を通じて平衡となるよう調整できるためである. 一方,絶縁性試料においては,Iabが流れないため,Iin と Ioutの平衡が崩れて帯電現象を生じる.その低減法とし て低加速電圧観察,低真空観察,試料表面の金属コーティ ングなどが挙げられる. 電子線 試料 対物レンズ 電子線 仮想レンズ 試料 対物レンズ コイル コイル SE 検出器 仮想 レンズ SE 検出器 (a)アウトレンズ方式 (b)インレンズ方式 仮想レンズ 試料 対物レンズ 電子線 コイル SE 検出器 (c)シュノーケルレンズ(セミインレンズ)方式 図 8 SEM の代表的な対物レンズ in:試料に入ってくる電流=p out:試料から出ていく電流 =se+bse+ab 導電性試料のとき:in=out(=se+ bse+ab) 絶縁性試料のとき:in≠ out(=se+bse)⇒ 帯電発生 BSE 電流(bse) プローブ電流(p) SE 電流(se) 試料 吸収電子流(ab) (導電性試料のとき のみ流れる) 図 9 帯電現象の発生メカニズム 表 1 電子銃の比較 電子銃の種類 熱電子放出型 電界放出型 構造 ウェーネルト 加熱電源 アノード タングステン フィラメント 加速 電源 バイアス 電源 FE チップ ∼100 nm ファースト アノード セカンド アノード フラッシング 電源 引出 電源 加速 電源 電子源の大きさ 30 mm 5 nm 輝度(A/cm3・sr) 106 109 エネルギー幅(eV) 2 0.3 陰極温度(℃) 2500 室温 使用圧力(Pa) 10−4 10−7以下 寿命 50 hr 1 年以上

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(1)低加速電圧観察

一般的な試料の観察では,Iin>Ioutとなる.さらに Ise

>Ibseであることから,Iseが増加することで Iinと Ioutの平

衡を保ち,帯電現象を軽減する結果となる.SE の発生効 率は低加速電圧(1 kV 付近)にピークをもつ試料が多く, そ の た め に,低 加 速 電 圧 観 察 す る こ と で SE 発 生 量 (=Ise)が増加し,帯電の軽減が可能となる. (2)低真空観察 通常,SEM の試料室は 10−3∼10−4Pa の高真空状態で あるが,これを数十∼数百 Pa の低真空状態にすることで 帯電を軽減することができる.図 10 は,低真空観察によ る帯電軽減効果の模式図である.低真空とは,残留ガス分 子が多く存在する状態であり,図のように入射電子や反射 電子がガス分子に衝突することでイオン化してプラスイオ ンと電子を発生させる.このとき,試料表面が負に帯電 (Iin>Iout)であれば,プラスイオンが帯電部に引き付けら

れ,中和することができ,逆に,正に帯電(Iin<Iout)で

あれば,電子が引き付けられ,中和することができる.ま た,低真空観察では残留ガスの影響を受けにくい BSE 信 号を使用するのが一般的である.この機能は,一部の SEM で実現可能であり,高真空と低真空を使い分けた測 定が可能である. (3)金属コーティング 金属コーティングは,試料表面に金属被膜を形成して導 電性を保持させ,帯電を防止するもので,最も一般的であ る.過度のコーティングは試料表面を覆い,構造を消失さ せてしまうことになるので注意が必要である.また,適度 な膜厚(1 nm∼数 nm)コーティングを実施した場合で も,金コーティングなら 2∼3 万倍,白金コーティングな ら 10 万倍を超えるとコーティング粒子が確認されるため, 表面構造解析では注意する必要がある. ② 含水試料 含水(油分含む)試料の観察は,高真空下で観察を行う SEM において水分蒸発による試料変形や真空度の低下を 伴うため観察が困難であるが,低真空下では,水分の蒸発 を抑えることができ SEM 観察が可能である.油分を含ん だ切削金属くずのような試料は,ろ紙上に保持してそのま ま観察や分析が可能である.生物試料の場合は,低真空で も観察するための前処理が必要であるが,最近は簡易卓上 SEM も活用されている. ③ 磁性試料 磁性試料の観察は,磁界レンズを用いる SEM では注意 が必要である.磁性試料が磁界強度の強い仮想レンズ部 (図 8 参照)に近いほど,試料が磁化され電子線の調整が 困難になる.また磁界の影響を受けやすいサイズの大きい 試料では,試料台から外れてレンズ部に吸い付いてしまう 可能性も生じる.これらを回避するためには,仮想レンズ 部と試料間の距離を遠ざける必要がある.それには,仮想 レンズの位置がもともと離れているアウトレンズ方式の SEM を用いるか,シュノーケルレンズ方式の SEM で作 動距離(WD/ワーキングディスタンス,レンズ下面と試 料表面との距離)を,試料交換位置かそれより長い状態で 使用すれば対応可能である.また,試料台から外れないよ う固定を強固にするために,機械的なねじ止めや瞬間接着 剤による固定なども必要である. 4.応 4.1 3 次元計測 3 次元計測は,試料表面の凹凸を立体的に把握する手法 で,4 分割型半導体 BSE 検出器を用いて行われている. この方法は,4 分割されたリング状の各素子で得られた信 号強度を計算や画像処理により 3 次元形状を構築するもの で,試料を傾斜させずに凹凸などの立体情報を取得でき る.図 11 は,ポリスチレンの破面を低真空 SEM で 3 次 − − −− M M 入射電子線 M 残留ガス 対物レンズ e + e + e e + + 帯電中和 + プラスイオン e 電子 反射電子検出器 M M 試料(絶縁物) 低真空雰囲気 (数十 Pa ∼数百 Pa) 図 10 低真空観察による帯電軽減効果 (a) (b) (c) (e) (d) (a)4 素子の信号を加算した SEM 像 (b)256 階調の等高線表示 (c)ラインプロファイル (d)3 次元構築像 (e)3 次元構築像((d)を 180 度回転) 図 11 3 次元計測例(試料:ポリスチレン破面,加速電圧:10 kV, 測定倍率:×200,試料室圧力:30 Pa)

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元計測した結果である.(a)は,4 素子の信号を加算した 画像,(b)は観察視野中の高さ情報を 256 階調の等高線 形式で表示した画像で,高さの情報分布を視覚的に把握で きる.(c)は,(a)の画像の任意位置でのラインプロファ イルで,試料表面の凹凸形状を反映しており,Z 方向の計 測も可能である.(d)は,3 次元構築した画像で,(e)は (d)を 180 度回転させた方向から見た 3 次元構築画像で ある.このように 3 次元計測を行うことで,任意方向から 試料の立体形状を把握することができる. 4.2 低真空観察および磁性材料の観察 図 12 は,砥石の観察例で,帯電軽減のために低真空観 察を行っている.図より,表面には数十 mm の粒子が存在 し,さらにその上に 1 mm 以下の微細な構造が存在してい るのがわかる. 図 13 は,鉄系金属鋼材のアウトレンズ FE-SEM によ る観察例である.これは,機械研磨後にイオンエッチング により処理を行った試料で,表面にはエッチングによって 図 12 低真空観察例(試料:砥石,加速電圧:10 kV,測定倍率: ×1000,試料室圧力:50 Pa,低真空 BSE 像) 図 13 磁性材料の観察例(試料:鉄系金属鋼材,加速電圧:10 kV, 測定倍率:×50000,高真空 SE 像,イオンエッチング加工 面) 表 2 SEM に装着される主な分析装置 主な検出器の種類 特長 エネルギー分散形 X 線検出器 (EDS) 発生した種々の X 線を検出素子でパルス信号 に変換し,エネルギーごとの発生回数を測定す ることで,多元素同時分析ができる.5B∼92U までの分析が可能である.分析速度が速く感度 が高い. 波長分散型 X 線 検出器(WDS) X 線の波長による回折条件の差を利用し,回 折格子を用いて目的の X 線を検出し,元素分 析を行う.4Be∼92U までの分析が可能である. エネルギー分解能が高く,微量元素の検出限界 が高い. 後方散乱電子回折 パターン(EBSP) 検出器 結晶面と回折を起こして散乱する電子を検出 し,結晶方位を同定する. カソードルミネッ センス(CL)検出器 発生した陰極光を検出する.物質の化学的な結合状態や結晶欠陥,不純物などを把握できる. 10 μm (a)低真空 BSE 像 (b)カーボン (c)酸素 (d)アルミニウム (e)シリコン (f)鉄 図 14 複合材料の EDS マッピング分析例(試料:樹脂,無機粒子複合材料,加速電圧:5 kV, 測定倍率:×3000,試料室圧力:10 Pa)

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現れた波状のラメラ構造が観察されている.この試料はほ ぼ純鉄に近い組成であるが,アウトレンズ方式を用いてい るため磁性の影響を受けずに数万倍レベルの観察が容易に できている. 4.3 複合材料の EDS 分析 SEM に装着する主な分析装置の種類と特長を表 2 に示 す.一般的な像観察では,加速電圧は 1∼15 kV 程度が利 用されるが,表の分析では特性信号の発生効率を上げるた めに,数 kV から 25 kV 程度の高めの加速電圧が必要とな る.ここでは EDS の分析例を紹介する.図 14 は,樹脂, 無機粒子複合材料の EDS マッピング例で帯電軽減のため に低真空観察を行っている.図のようにマッピングでは各 元素の分布を可視化することができ,BSE 像で見えたコ ントラストの差がアルミやカーボン,酸化シリコンや鉄に 由来していたことがわかり,その分布も把握することがで きる. 5.極表面構造観察例 最近の SEM では,減速電界法(リターディング法)や ブースティング法などの手法を用いて今まで困難であった 加速電圧 100∼300 V の極低加速電圧観察が可能となって いる.この手法を用いて,10 nm 以下の微細な表面凹凸も 容易に観察できる.図 15 は,有機薄膜トランジスタへの 応用が期待されているペンタセン薄膜の極低加速電圧 SEM 像である.下地の層は Si 基板であり,そこから 3∼6 層のペンタセンのステップ構造が明瞭に観察できている. この段差は,それぞれ 1.5 nm 程度であり,非常に微小な ステップが極低加速電圧観察にて確認できているのがわ かる. 6.お わ り に 本稿では,SEM の原理から観察上の注意点や応用例な どについて紹介した.SEM は,ミリメートルからナノメ ートルオーダでの観察や分析が可能であり,表面形態の評 価ツールとして広く応用されている.最近では,観察目的 や対象材料に応じた新たな解析手法も検討されており,今 後,ますます活用範囲の拡大が期待できる. 参 考 文 献 1) 澤畠他:LSI テスティングシンポジウム/2000 資料,pp. 157-162.

2) T.E. Everhtart and R.F.M. Thornley : J. Sci. Instru., 37, 246 (1960).

3) A.V. Crewe : Rev. Sci. Instr., 39, 576(1968).

4) O.C. Wells : SEM/1974(O.M. Johari ed.)IITRI, 1,(1974). 5) H. Tamura and H. Kimura : J. Electron Microsc., 17 106(1968). 6) T. Nagatani, S. Saito, M. Sato and M. Yamada : Scanning Microsc.,

1, 901(1987).

7) T. Murvey : Scanning Electron Microsc., 1, 43(1974).

走査顕微鏡の参考文献(入門書籍) ・日本顕微鏡学会関東支部編:新・走査顕微鏡,共立出版(2011) ペンタセン 試料断面模式図 1.5 nm 500 nm Si 基板 試料ご提供:日立製作所 基礎研究所 平家誠嗣 橋詰富博 両氏 図 15 極表面構造の観察例(試料:Si 基板上のペンタセン,加速電 圧:100 V,測定倍率:×30000)

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