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EC(電子商取引)拡大により模索が続く米国や日本の小
売り・物流企業
2018 年 2 月 28 日 ジェトロ海外調査部米州課 飯沼 里津子 物流企業は、顧客満足度を高めるために、全世界で試行錯誤を続けている。米国における 物流は日本に先行しているよう捉えられがちだが、実際のところ日本の物流から学ぶこと が多くあるのではないか。各企業へのヒアリングや、2017 年 11 月に米国ジョージア州ア トランタで開催された「JOC Inland Distribution Conference」にて共有された米国内の 物流企業、小売企業、コンサルタント、アナリストの見方と、日米の物流市場を比較しな がら、物流、小売市場の動向をひもとく。 <電子商取引(EC)は米国小売売上高の押し上げに寄与> 米国では、ロードサイド型や郊外の大型ショッピングモールなどでの過剰供給が大幅な修 正局面に入っている。一方、電子商取引(以下、EC)を通じて小売市場へ参入する企業が地域分析レポート
ジェトロセンサー 禁無断転載 COPYRIGHT (C) 2018 JETRO. ALL RIGHTS RESERVED. ビジネス規模を拡大しており、中には EC 参入後に店舗を開店するという逆の流れまで垣間 見られる。こうした動きが最近の米国内の小売売上高全体の押し上げに寄与している(図 参照)。 米国小売業のスタートアップ企業にインタビューしたところ、店舗ではなく EC から事業を 開始した理由として、ミレニアル世代が EC を通じて物を購入するようになったことや、店 舗と比較して初期投資にかかるコストが抑えられることを強調した。EC サイトを立ち上げ た当初は、ブランドのアイデアを知ってもらうことが目的だったため、EC サイトのデザイ ンには非常にこだわったという。その後実店舗をオープンしたことで、EC サイトでインス ピレーションを受けた顧客は、実店舗でも同体験を求め、足を運ぶ傾向にあると述べた。 <荷主の拡大、物流施設内から語られるその実情は> 物流業界は、オンライン、オフライン双方で拡大する小売市場と切っても切れない関係に ある。前述のカンファレンスにおいて、講演者は口をそろえて「リテール(小売り)」、 「EC」に言及したことは非常に印象的だった。事業用不動産サービスの CBRE でインダスト リアル調査部門を指揮するデイビッド・エーガン氏は、「米国の物流施設市場は、2017 年 第 3 四半期の空室率が 4.6%とリーマン・ショック以来最低値を更新し、賃料は前年比 6.3% 上昇した。非常にタイトなマーケットである」と述べた。最大の要因は、物流施設の年間 の新規供給が 1 億 4,350 万平方フィート(約 13.3 平方キロ)である一方、新規需要が 1 億 5,730 万平方フィート(約 14.6 平方キロ)と大きく上回ったことが挙げられる。加えて、
ジェトロセンサー 禁無断転載 COPYRIGHT (C) 2018 JETRO. ALL RIGHTS RESERVED. 物流施設需要の約 40%を占める EC 企業や、EC 企業を荷主として扱う 3PL(注 1)は、年間 で約 5,000 万平方フィート(約 4.6 平方キロ)の面積を新規で必要とする計算であるとし た。 こうした物流施設のキャパシティー不足の中で、「多層階」物流施設の導入が始まりつつ ある。物流不動産を開発・所有・運営する大手プロロジス(Prologis、本社:カリフォル ニア州)は、米国で初めての多層階物流施設を、ワシントン州シアトル郊外に 2018 年に完 成予定だ(注 2)。同タイプの物流施設はすでに倉庫・物流用地が限られているアジアで導 入済みであり、日本は米国よりも 15 年先行し、2003 年以降、土地の有効活用化を目的に 導入されてきた。多層階物流倉庫の強みは、(1)ランプウェイやスロープにより、トラッ クを各階に乗り入れ、直接荷降ろし作業ができること、(2)複数台のトラックが同時に作 業できること、(3)フロア単位や区画ごとに複数のテナントが利用できることだ(注 3)。 物流施設の需要が供給を上回る米国において、土地の有効活用と物流の効率を高める目的 を達成するために、多層階物流倉庫は今後さらに普及していくだろう。 また、物流プロセスの中でも顧客満足度の鍵を握ると言われる「ラストマイル(注 4)」は、 近年米国で注目を集め始めている。米国では特に EC の普及により配達個数が急激に増加す る一方、ラストマイルをつなぐ小規模倉庫やコンビニエンスストアなど、発送窓口の活用 がなかなか普及してこなかった。さらに、輸送会社によっては手渡し指定ができるところ もあるが、基本的にはドアの前に配送荷物が置かれるため、約 3 割もの米国人が盗難を経 験したことがあるという(「USA トゥデイ」紙 2017 年 12 月 21 日)。また、配送中に荷物が 破損するなど課題は多い。「ラストマイル」は自動化が進む物流施設内とは異なり、人手
ジェトロセンサー 禁無断転載 COPYRIGHT (C) 2018 JETRO. ALL RIGHTS RESERVED. を介さず行うことが難しい領域であるが、日本では同分野に関しても技術進歩が早かった。 1976 年にヤマト運輸が宅配便サービスを開始したが、1980 年代にはすでに、当時拡大して いたコンビニエンスストアを発送窓口にし、集配路の拡大にイノベーションを起こした。 また、基本的に配達荷物は手渡しで行われ、ドライバー不足が問題になる中でも、宅配を 可能にしている物流モデルは、米国に先行し成熟していると言える。 <米国では大量の返品に対応するサービスが次々に登場> 一方、EC の普及とともに、日本の小売業や運送業が今後避けては通れないであろうと言わ れているのが「返品対応」だ。米国では従来から返品率が非常に高く、今に始まった問題 ではない。アプリス・リテールによると、2017 年の全米小売り売上額 3 兆 5,130 億ドルに 対し、その約 10%の 3,510 億ドル分の商品が返品されているという。また、UPS によると、 同社顧客の返品は、2018 年 1 月 3 日のたった 1 日だけで、前年同日比 8%増加の 140 万個 に達した。同社は、2017 年の年末商戦(注 5)の返品が 900 億ドル(約 9.8 兆円)にのぼ ると予測している。 EC の普及により配達量が増加すれば、返品率も上昇し、その影響は莫大(ばくだい)であ るが、米国において大量の返品を可能にしているのは何か。車社会の米国では、インスト ア・ドロップオフ(In store drop-off)という来店返品のほかに、複数のサービスが存在 する。例えば、スタートアップ企業のハッピー・リターンズは全米に 23 カ所の返品所を設 け、消費者と小売企業の仲介に入り、返送の手間を省くサービスを提供している。また、 物流大手 UPS はオプトロ(注 6)を買収。同社が開発したシステム「オプティトゥーン (Optiturn)」をもとに、(1)ストック返却、(2)ベンダー返却、(3)BlinQ.com 上で再販売、 (4)リサイクル、(5)寄付から選択し、小売企業に代わり返品された商品を最適処理するサ ービスを提供。物流大手 FedEx も GENCO ディストリビューション・システムを買収し、同 様のサービスを提供している。 もう 1 点、日本が配達のヒントにできそうな、再配達に関するイノベーションの動きがあ る。配送先の不在時の「再配達」への取り組みである、アマゾンの「アマゾン・キー (Amazon Key)」というサービスだ。これは、配達人が専用の鍵を使用し、自宅の中に荷物 を届けるもので、サービスはすでに開始済みだ。カンファレンスで、業界コンサルタント、 スペンド・マネジメント・エクスパーツのメリッサ・ランジ氏は「このサービスが浸透す れば、再配達に要する手間と時間が削減できるが、普及までにはまだまだ時間がかかるだ ろう」と述べた。その理由は、諸備品の設置費用が 249.99 ドル以上と高額であること、そ して何よりも第三者(宅配人)と自宅の鍵を共有するという面で、セキュリティーに関し 懸念が残るとしている。
ジェトロセンサー 禁無断転載 COPYRIGHT (C) 2018 JETRO. ALL RIGHTS RESERVED. EC の活用により、消費者は店舗に行かなくても商品が購入でき、各個人の理想の期間内に 手元に商品が届くことで小売市場は拡大し、顧客は購買の利便性を享受してきた。逆に言 えば、その「理想」に合致しない小売企業、物流企業、返品サービスプロバイダーは、購 買手段の選択からすぐさま除外されてしまう。米国、日本の物流市場を見ていくと、土地 の特性や、顧客の期待・要望の変化により、国を超えて物流モデルの妥当性を共有し、新 たなビジネスチャンスが見い出されている。顧客満足と自社の利益を常にてんびんにかけ ながら、日本、米国ともに、各企業の戦略は今後も試行錯誤が続きそうだ。
注 1: 「Third (3rd) Party Logistics (3PL)」とは、企業が、物流機能の全体もしくは一部を、第三の企業に委託することを指す。
注 2: 「ウォールストリート・ジャーナル」紙(2016 年 11 月 1 日) 注 3: CBRE「物流マーケットアウトルック 2015」(2015 年夏号) 注 4: 「物流の最終拠点」から「消費者の手元」までの「区間」を指す。 注 5: 米国では、11 月第 4 木曜日の感謝祭の翌日からクリスマスまでの約 1 カ月の間、クリスマスプレゼントの購入などで小売り販売が大きく伸びる。この 時期は各小売店もセールを行うことから年末商戦と呼ばれ、その動向が注目される。最近では、セール期間の前倒しやクリスマス後も年末までセール が続く、11~12 月を年末商戦期間とすることが多い。
注 6: 詳しいサービス内容は Optoro – Reverse Logistics Solutions を参照
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課 飯沼 里津子(いいぬま りつこ)
2017 年、ジェトロ入構。大手外資系不動産のリサーチ部アナリスト(調査担当)を経 て、2017 年 7 月より現職。
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