Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO
熱中症∼予防と対策
伊藤重彦
北九州市立八幡病院 救命救急センター長 災害医療研修センター長梅雨明けからが要注意?
北九州市 熱中症予防対策キャンペーンKitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO キャンペーンおよび熱中症ビデオ制作 (共催)教育委員会・消防局・保健福祉局 病院局・市立八幡病院・環境局(ていたん) (2014.6.30 毎日新聞) 学校における熱中症予防対策キャンペーン 〇〇中学校講習風景
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO 今日、みなさんに覚えてほしいこと ・熱中症と症状 ・熱中症になりやすい場所や環境、体調 ・水分補給のコツ(水分+塩分+糖分) ・熱中症指数モニター(湿球黒球温度)
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature) ・応急処置と救急車を呼ぶタイミング
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ・夏の暑い日、蒸し暑い講堂で校長先生の長い 話を聞いていたら、急に目の前が暗くなった。 (ついに、バタッと倒れてしまう女子・・) ・クーラーの効いた部屋から暑い所に出たとき、 ふらっとする、頭がボーッとなる。 熱中症の一例(軽症 いわゆる日射病) 原因:末梢血管が拡張して、拡張血圧低下 冷汗、頻脈、めまいなどが起きる
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ・夏の暑い日、運動場でサッカーしていたら、 頭痛がしてきて、気分が悪くなった。 ・熱中症になりそうにない頑強なひとが、肉体 労働、激しい運動中に足の筋肉けいれんや頭痛、 めまいを起こした(こむらがえり) 原因:玉のような汗が出るなか、水ばかり 飲んでいると、急速な塩分不足に陥る 熱中症の一例(軽症)
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熱中症とは
熱中症はおもに、高温多湿の環境下で起こる (1)塩分欠乏と脱水 多量の発汗に伴い、体から塩分と水分が急速 に失われ、塩分欠乏と脱水を起こした状態 (2)体温調節機能の障害 脱水により体温を下げる機能(放熱)が崩れ、 体温が異常に上昇(蓄熱、うつ熱)した状態Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO 重症度 おもな症状 病院搬送 対処治療 1度 (軽症) めまい・頭痛・吐き気 様子観察 冷却・安静 四肢の局所の筋肉けいれん 水分・塩分補給 体温正常∼軽度上昇 意識状態確認 Ⅱ度 (中等症) 頭痛・嘔吐 医療機関 受診または 救急要請 外来での 点滴治療 見当識障害 体温上昇(38∼40℃程度) 安静 Ⅲ度 (重症) 全身けいれん・嘔吐 直ちに 救急搬送 救急病院搬送 高度の意識障害・昏睡 呼吸・循環管理 体温異常上昇(40℃以上) 死亡率高い 熱中症の重症度とおもな症状
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO なぜ暑い日の屋外活動で、熱中症にならないのか 夏の暑い日 体温の調節(下げる) 体外へ水分排出 体から水分の消失 汗から塩分の消失 ・常に見えない水分喪失がある ことを忘れている ・小児、高齢者は、脱水を起こ しやすい ・急に水と塩分を補給しても、 補水効果は直ぐにはでない ほどよい水分の補給 ほどよい塩分の補給 ほどよい糖分の補給 ◎なぜ気をつけているのに、熱中症になるのか
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・なぜ、汗をかくと塩分が不足するのか?
・なぜ、小児や高齢者は熱中症になりやすい?
・熱中症になりやすい場所・環境・体調は?
熱中症はどうして起こるのか
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO 生理的摂取 生理的喪失 食事 700 肺(換気) 300ml 皮膚 600ml 飲水 1600ml ※皮膚表面の不感蒸泄 代謝水 200ml 便 100ml (体の中でできる水) 尿 1500ml 合計 2500ml 合計 2500ml ▲ 日常生活での水分バランス 睡眠・入浴中の水分喪失 ・睡眠中 300ml ・入浴後 500ml 運動による水分喪失 ・軽い運動 200ml ・激しい運動 500ml ※水分バランスがマイナスになると、脱水
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ◎汗をかくと、どうして塩分不足になるのか 体温調節のために、汗腺から汗が分泌され、その結果 体内の水分と塩分を失っている ◎汗の成分 ・99%以上は水、塩化ナトリウム(塩分)0.6% 微量の尿素、塩素、カルシウム、マグネシウム ・大量の発汗で失う塩分は体液と同じ濃度(0.9%) ・汗腺からのナトリウム再吸収は少なく、大量の発汗 で体内の塩分は急激に減少する ・急な飲水と塩分補給では間に合わない
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ◎高齢者の脱水症 ・体重当たりの水分量が少ない ・普段から水分摂取が少なく、常に脱水傾向 ・汗腺の萎縮で発汗作用が低下し、うつ熱傾向 ・口渇や発熱の自覚に乏しい ◎子供の脱水症 ・体重当たりの水分量が多い ・皮膚面積当たりの不感蒸泄量・発汗量が多い ・体温調節機能(蓄熱・放熱)が未熟 ・(指導しないと)こまめな水分補給をしない
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO WBGT(湿球黒球温度)
熱中症のなりやすさを表す指標はありますか?
→ はい
人体の熱収支に影響の大きい 3つの指標で暑さの負担を評価 ①湿度 ←影響7割 ②輻射熱←影響2割 ③気温 ←影響1割Wet Bulb Globe Temperature
熱中症には湿度 が最も影響する
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO 気象庁 (乾)気温 猛暑日 (35℃以上) 35℃以上 真夏日 (30℃以上) 31∼35℃ 夏日 (25℃以上) 28∼31℃ 熱帯夜(夕方∼ 翌朝25℃以上) 24∼28℃ 24℃以下 WBGT[28度]以上での運動は控える 31度以上 原則中止 運動は 28∼31度 厳重警戒 25∼28度 警戒 21∼25度 注意 21度まで ほぼ安全 WBGTは気温より2∼5度 数値が低い
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ◎場所 ・湿度が高く風通しの悪い場所 ・高温多湿の閉鎖空間(体育館、車内) ・エアコンのない、風通しの悪い室内 ・湿度が高い真夏日 ◎気候 ・体が高温多湿に慣れていない時期 ・前日より急に気温が上がった日 ・暑さに慣れていない梅雨明けの時期 ◎体調 ・睡眠不足、二日酔、朝食なし 熱中症になりやすい環境∼湿度と輻射熱
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO 朝食は、塩分・炭水化物・水分バランスが絶妙 ◎食塩1∼1.5g相当 ・塩(梅)おにぎり1個、目玉焼きにソース、 ・味噌汁1杯 (※具でカリウム補給) ◎梅干し1個(食塩1∼2g、塩分濃度8∼20%) ・リンゴ、バナナで糖分・カリウム補給 ・こまめに飲水(お茶)トータル500ml 朝ご飯を食べる習慣が、熱中症を予防する
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ◎夏場の普段の生活 ・夏場は規則正しい生活と十分な睡眠 ・朝食をとり、朝から水分と塩分と糖分の補給 ◎暑さへの慣らし ・普段から、発汗が少ない軽い運動 ・運動・行事の数時間前からこまめな水分補給 ・塩分補給にはこだわらない ・アイソトニックドリンク(糖分5∼8%とエネルギー確保) ◎発汗が確実、屋外の高湿度下での激しいスポーツ ・数時間前から塩分を含む経口補液 ・ハイポトニックドリンク(糖分2∼3%に控えめ) ※運動中、運動後は腸管の水分吸収機能低下しているため 熱中症予防のための生活リズムと経口補液
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ・消化管内約10㍑の水分や消化液は、小腸で約90%、 大腸で約10%が再吸収される。 ・バランスのよい塩分と糖分の存在で、小腸から水分 が再吸収される。 ・腸の機能は低下している運動後は、糖分濃度が低い (浸透圧が低い)ほうが、水が再吸収されやすい。 ※感染性胃腸炎(腸が弱った状態)では、腸管からの 水分再吸収が低下し、下痢と嘔吐により脱水となる 消化管から効率よく水分を吸収するには、糖分が必要 熱中症予防には、塩分多め、糖分控えめがベスト
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO 組成/100ml ドリンク(案) ポカリスエット OS1 水分 100ml 100ml 100ml 砂糖(炭水化物) 2∼4g 炭水化物 6.7g 炭水化物 2.5g (ブドウ糖1.8g) 糖分濃度 2∼4% 6.70% 2.50% 食塩 0.1∼0.2g 食塩相当 0.12g(Na49mg) (Na115mg) 食塩 0.29g 塩分濃度 0.1∼0.2% 0.12% 0.29% ・水200ml ・食塩:0.2∼0.4g(0.1∼0.2%) ・砂糖:4∼8g(2∼4%) ・水200ml ・食塩:0.6g(0.3%) ・砂糖:4g(2%) ●発汗の多い運動・行事の後 ●運動・行事の前 自家製スポーツドリンクの塩分・糖分の目安
中身は、塩分多め、糖分控えめ
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO スポーツドリンクの味を残した補水液なら・・ ・スポーツドリンクを小分けする ・ミネラルウォーターで2倍に薄める(糖分1/2) ・塩をパラパラっと混ぜる(塩分増量) 水 500ml 塩 1∼1.5g (小さじ半分前後) 砂糖 10∼20g (大さじ1∼2杯) 経口補水液組成の目安 ※レモンを加えると、飲みやすくなります
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ◎運動する朝は、朝食をとる ・朝食をとり、朝から水分・塩分・糖分補給 ◎軽い運動の前の準備 ・数時間前からこまめな水分補給 ・塩分補給にはこだわらない ◎屋外・高湿度下の激しい運動前の準備 ・数時間前から「塩分多め」「糖分少なめ」の 経口補液をこまめに補給 熱中症予防のためには、こまめな経口補液 運動直前の水分・塩分補給では間に合わない
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ◎体の冷却と安静 ・涼しい、日陰の場所へ移動し、安静 ・衣服をゆるめて、通気を施す ・39℃以下になるようにに冷やす:冷しすぎない ※体温より少し低めの微温湯を衣服の上から霧吹き ※うちわや扇風機で皮膚にかぜを送る (気化熱の利用) ・40℃以上の高熱では、氷嚢で腋窩、鼠径、頸部を クーリングして冷却 学校や自宅で熱中症になっとときの対処法1
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ◎水分・塩分・糖分補給 ・経口補水液を少量ずつ頻回に補給する ※急激に補給しても効果は少ない ※食塩と糖分を加えた水(1㍑に2∼3gの食塩) ◎体調が改善しない場合は、119番通報する (救急車を呼ぶ) 学校や自宅で熱中症になっとときの対処法2
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●見当識障害がある(JCS2以上は重症と判断)→
意識障害のレベル ジャパンコーマスケール(Japan coma scale:JCS)
1ケタ点数 1 ○意識清明だが、今ひとつはっきりしない程度 2 ◎見当識障害 ここはどこ?、なにをしていた?、今日は何日かな? 3 ○なまえ、誕生日、携帯番号が言えない 2ケタ点数 10∼30 ○刺激すると覚醒するが、またすぐ眠る 3ケタ点数 100∼300 ○刺激しても覚醒しない(昏睡) ●症状のキーワード ・嘔吐、全身けいれん・40℃以上の高熱 ・意識障害(見当識障害がある) 救急車を呼ぶタイミング ∼ over triageでよい 119番通報 救急搬送
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熱中症を起こしにくい生活習慣
・熱中症は湿度が高い環境で発症する
・十分な睡眠と規則正しい食生活
・通気性のよい衣服(白いラフな服装)
・通気性のよい部屋・適宜エアコン使用
・普段から軽い運動と発汗で、暑さ慣らし
・運動前のこまめな水分・塩分・糖分補給
・塩分多め・糖分控えめな経口補液
Kitakyushu City Yahata Hospital © SHIGEHIKO ITO ●熱中症予防と対策のポイント 発生時期 ○第1波:梅雨明け(7月中旬) ○第2波:8月の盆過ぎ 発生場所 ○屋外活動中が多い(子ども・一般成人)○90%以上が屋内発生(高齢者) 熱中症の原因 ○大量の発汗に伴う水分とナトリウムの喪失 ○体温調節機能の低下による体温上昇 危険な環境 ○夏日の長時間の屋外作業 ○風通しの少ない高湿度の屋内(とくに高齢者) ○アスファルト・砂場の上(輻射熱) ○気温が急に高くなった日 重症度 ○軽症が多い(小児・一般成人) ○重症化しやすい(高齢者) おもな症状 ○軽症:めまい、大量発汗、筋肉痛、嘔気 ○中等症∼重症:頭痛、嘔吐、けいれん、高熱、意識障害、臓器障害 発症時の処置 ○風通しの良い日陰で休む ○衣服をゆるめ通気性を保つ ○腋窩、頸部、鼡径部の冷却 ○水分補給(塩分多め・糖分少なめ、少量づつ頻回) 医療機関への受診 救急車要請の目安 ○休憩・冷却・飲水で様子を見てもあまり改善しない場合は、医療機関を受診する ○高熱(40℃以上)、頻回の嘔吐、意識障害、全身けいれんがあるときは救急車を呼ぶ 予防 ○運動数時間前からこまめな水分補給 ○屋外作業では定期的に休憩 ○水分と塩分・糖分を同時に補給 ○風通しのよい室内、エアコンで除湿