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商学 63‐1・2☆/5.冨田

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医療の質とサービスの質

Ⅰ はじめに Ⅱ 医療の質の定義 Ⅲ サービスの質の定義 Ⅳ 医療の質とサービスの質との比較 Ⅴ マーケティング研究において医療の質を捉える際のアプローチ Ⅵ むすびにかえて

Ⅰ は じ め に

近年,マーケティング領域において医療機関を対象とした研究は増加しており,その 多くは,サービス・マーケティングのフレームワークから議論している。焦点となるの は,医師の診療や看護師の看護であったり,医療機関のアメニティである。診療や看護 の場合,診療や看護の技術そのものではなく,医師や看護師との対人関係や彼らの仕事 ぶりであり,それらを「サービス」と捉え,その質に関する議論が展開される。 一方,病院管理(病院マネジメント)と呼ばれる研究領域では,マーケティング理論 が導入され,サービス・マーケティングの考え方も少しずつ理解されつつあ 1 る。しか し,この分野の研究者は大半が医師であるため,医療の質として,診療の質や方法に焦 点を当てた研究が圧倒的に多い。 つまり,マーケティング研究における「サービスの質」と病院管理研究における「医 療の質」とは異なったものを想定していることになるが,両者を明確に区別せず,議論 されることも多く,混乱を招く原因となっている。特にマーケティング研究において, この問題は顕著である。そこで,本稿では医療の質とサービスの質に関する議論をそれ ぞれ整理し,相違点について考察していく。 本稿の構成は次のようになる。まず,第Ⅱ節で医療の質に関する先行研究をレビュー する。代表的な Donabedian(1980)がその中心となる。続いて,第Ⅲ節ではマーケテ ィング研究におけるサービスの質(サービス・クオリティ)に関する先行研究を, Parasuraman, Berry, and Zeithaml(1988)を中心にレビューする。その後,第Ⅳ節で両者 を比較し,相違点を明確にする。そして,第Ⅴ節でマーケティング研究において医療の 質を捉える際のアプローチを提示していく。

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1 その反対に,医療をサービスの視点から議論することに強い抵抗感を示す医師も多い。 70( 70 )

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Ⅱ 医療の質の定義

1.Donabedian による定義 病院管理研究において Donabedian(1980)が引用されることはきわめて多 2 い。 まず,彼は,1 つの疾病に対して 1 人の医師あるいは他の医療者が提供する「最も単 純かつ完結した医療」を技術的医療と対人関係という 2 つの側面に分離している。技術 的医療とは,医学および他の健康科学における科学技術を個人の健康問題の対策へ応用 することであり,対人関係とは,技術的医療に伴い,顧客である患者と医療者との間に 発生する社会的,心理的交流のことである。これら 2 つの側面はお互いに関連してお り,時に区別するのが難しい。 また,彼は対人関係の質を医療の質から分けて考えるべきとする議論には否定的であ る。それは,慢性疾患に対する診療は患者が障害とうまくやっていくことを助けること にあるため,対人関係の範疇に入る要素は大変重要になってくるからである。しかし, その一方で,命に関わる急性疾患に対する診療では,患者は人格を尊重した医療の多く を受けることを諦めているとも述べている。つまり,慢性疾患の診療において,対人関 係の質が意味をなしてくる。 さらに,彼はアメニティを取り上げるものの,対人関係的要素の一部分またはそれに 寄与するものとして整理している。アメニティとは医療機関の建物や建物内のさまざま な備品のことであり,例えば入院患者であればベッドなど病室内のすべてのものや食事 なども該当する。医療機関がマーケティングを考える際には,これらのサービスの改善 を指すことが多い。 マーケティング研究との比較でいえば,Donabedian(1980)は,患者の満足を医療の 質の重要な構成要素として捉えている。満足した患者は,医療者に協力的な態度をと り,医療者のアドバイスに従う確率が高いため,結果として医療の質も高まるというロ ジックである。一方,マーケティング研究でも同様のロジックが言えなくもないが,サ ービスの質が高まると,患者満足が高まるという因果関係の方が中心的である。 さて,多くの病院管理研究で引用されるのが,Donabedian(1980)が医療の質を「構 造」「過程」「結果」といった 3 つの枠組みから論じる点であ 3 る。1 つ目の「構造」と は,医療を提供するのに必要なヒト,モノ,カネといった資源であり,具体的には医療 者が従事する施設や使用する医療機器のことである。さらに,医療者の種類・数や,医 ──────────── 2 Donabedian(1980)で残された課題は,Donabedian(1982)と Donabedian(1985)で議論されている。 3 彼がこのコンセプトを最初に示したのは Donabedian(1966)であり,以降の論文において何度か補足 を行っている。 医療の質とサービスの質(冨田) ( 71 )71

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構 造 過 程 結 果 療者が仕事を行う仕組み,報酬形態も含まれる。 2つ目の「過程」とは,医療者が患者に行う一連の診療や看護のプロセスのことであ り,3 つ目の「結果」とは,診療や看護の後に得られる患者の健康変化と満足のことで ある。この満足とは患者の満足だけでなく,医療者の満足も考慮している点が特徴的で ある。 具体的な「構造」「過程」「結果」の項目は第 1 表にまとめられる。 そして,3 つは第 1 図のような因果関係にある。医療が実践される構造的特徴が医療 の過程に影響を与え,過程の変化が患者の健康状態に対する効果に影響を与えるという 関係である。 こうした Donabedian の定義はアメリカ国内だけでなく,日本にもおいても大変多く の先行研究で引用され続けている。そして,この定義をもとに,医療の質を測るさまざ まな指標が作成されている。 2.医療の質を測る評価指標 医療の質は従来,主に「構造」に目が向けられており,診療報酬においても人員配置 や施設などの構造が重視されてきた。しかし,「過程」や「結果」にも目を向けるべき だという指摘が強まり,日本の医療機関を客観的に審査・評価するために日本病院機能 評価機構が 1995 年(平成 7)年に設立された。しかし,ここでの審査・評価とは「総 第 1 表 「構造」「過程」「結果」の項目 構造 ・物理的な構造・施設・設備 ・総合的な組織特性(運営母体や臨床研修指定の状況など) ・管理組織(理事会状況や管理者の特性など) ・スタッフ組織(資格・医療者数・教育機能など) ・財政と関連事項(宿泊施設・料金の支払い源など) ・地理的要素(距離・周辺状況など) 過程 ・スクリーニングと疾病発見行動(典型的な処置など) ・診断(診断精査・妥当性確認など) ・治療(予防管理と監視・手術など) ・患者紹介 ・医療の整合性と継続性 結果 ・健康上の結果 ・満足(患者の満足・医療者の満足) 出所:Donabedian(1968, 1980) 第 1 図 「構造」「過程」「結果」の関係 出所:Donabedian(1980) 同志社商学 第63巻 第1・2号(2011年7月) 72( 72 )

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合受付はあるか」「車いす用のトイレはあるか」「図書室はあるか」「職員は名札を付け ているか」といった医療行為の結果に直結しない項目がほとんどであり,医療行為の結 果として患者の健康状態にどのように変化したのかについては一切触れられていない (北原,2011)。 また,北原(2011)は,国民皆保険は「全国すべての医療機関が同等レベルの医療サ ービスを提供している」という前提があってこそ成立する仕組みである(医師の技量に 差があることを認めていない)ため,厚生労働省は医療機関の結果(アウトカム)を公 表しないし,できないと主張している。しかし,厚生労働省は医療機関から診療報酬点 数の申請を受けているため,正確な手術件数を把握できるうえ,その後の合併症率も分 かる。現在出版社などで行われている病院ランキングの調査は,病院の手術数を比較し ているだけで,成功率や生存率の比較ではない。また,これらの数値は,大半が医療機 関の自己申告によるものである。 さらに,福井(2010)は,「結果」のみでは医療の質を知ることができないと指摘し ている。それは,遺伝や再生医学分野の発展が目覚ましいとは言いつつも,人の体の仕 組みについては解明されていない点が多く,有効だと思われる治療を行ったとしても有 効でない場合もあるからである。そのため,医療の質を測るには「過程」の評価が最も 望ましいとしている。そこで,EBM(Evidence-based Medicine:根拠に基づいた医療) に則った医療をどのくらい行っているかが,有益な指標となる。 医療の「過程」や「結果」を測ったものがクリニカル・インディケーター(臨床評価 指標)と呼ばれるものであり,これが各医療機関の医療の質を評価する指標となる。ア メリカの評価機構 JCAHO(保健医療機関認可合同委員会)が開発したクリニカル・イ 第 2 表 クリニカル・インディケーターの評価指標 「構造」に関する指標(53 項目) −1 職員数に関する指標(7) −2 症例数,論文数など間接的に職員の能力を表す指標(18) −3 施設基準,病床数など設備に関する指標(3) −4 検査可能項目数など機能に関する指標(4) −5 事故予防など安全に関する指標(4) −6 痺例検討会開催回数など質確保の体制に関する指標(15) −7 選択メニューの実施など患者アメニティに関する指標(2) 「過程」に関する指標(45 項目) −1 救急における即応性に関する指標(5) −2 診断のための情報収集と記録の適切性に関する指標(9) −3 治療手技選択・治療過程の適切性に関する指標(24) −4 インフォームド・コンセント等患者の尊重に関する指標(7) 「結果」に関する指標(95 項目) −1 診断の精度,迅速性に関する指標(21) −2 予後から判定する治療の適切性に関する指標(67) −3 予後以外から間接的に治療の適切性を測る指標(7) 医療の質とサービスの質(冨田) ( 73 )73

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ンディケーターをもとに,日本病院機能評価機構が臨床系の 22 学会(調査依頼は 50 学 会)へ調査を行い,評価項目を定めた。その概要は第 2 表に示される。 これをもとに,大規模病院を中心に,それぞれが独自に評価指標を設定し,評価を行 っている。たとえば,「過程」ではクリニカルパス(標準化された治療や検査のスケジ ュール表)に沿っているかどうか,「結果」としては症例数や 5 年生存率に加え,患者 満足度などの項目が考えられる。しかし,これには 3 つの問題点がある。それは,評価 指標の設定が難しいこと(各医療機関で独自に評価指標を設定していること),測定や 評価が難しいこと(各指標が良いのかどうかを判断するためには標準値が必要になるこ と),そして医療の質を診療評価で測定していることである。 本稿で問題となるのは 3 つ目の「医療の質を診療評価で測定していること」である。 日本病院機能評価機構が行った質問票調査の対象は臨床系の学会であったため,医師に よる回答であったこと,さらに各医療機関で具体的な評価指標を定める際に設定された 委員会の中心メンバーが医師であることにより,評価指標が診療に偏ってしまってい 4 る。 3.「医療の質」への関心の高まり 矢野・武久(2011)によると,医療の役割は全世界共通に,まず病気を治すこと,救 命することにあるため,1990 年代に各国で開発されたクリニカル・インディケーター は救命率や生存率(反対に視点を向ければ死亡率)で評価される急性期医療に重点が置 かれてきた。しかし,慢性期医療においても医療の質が問われるようになり,2010(平 成 22)年に日本慢性期医療協会は「慢性期医療のクリニカル・インディケーター」を 作成した。 慢性期医療においては急性期医療と異なり,経営の質が高いことと診療機能のレベル とは必ずしも相関しないと考え,この「慢性期医療のクリニカル・インディケーター」 では経営に関する指標は項目から外されてい 5 る。具体的には,医療,薬剤,看護・介 護,リハビリテーション,検査,栄養,医療安全・院内感染防止対策,終末期医療,チ ーム医療,地域連携といった 10 領域 62 項目からなっている。 さて,堀田(2010)も指摘するように,従来の診療報酬制度では量的なコントロール が中心的であったが,2010 年度の診療報酬改定では医療の質に焦点が向けられた。具 体的には DPC 制度において機能評価係数が一部導入されたことである。これにより, 在院日数の長さや,複雑な,あるいは多様な疾患を扱っているかどうかが問われること ──────────── 4 技術偏重であったが,近年は患者の QOL や患者満足にも視点が向けられている。さらに,そのために は医療者のモラル向上や職務満足の必要性にも視点が拡張されつつある(冨田,2010)。 5 慢性期医療に限らず,医療の質を経営の質と分けるべきという考え方は深く根付いている。 同志社商学 第63巻 第1・2号(2011年7月) 74( 74 )

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サービス 設備ベース 人ベース 自動化 相対的に 非熟練 オペレーター による操作 熟練 オペレーター による操作 非熟練労働者 熟練労働者 専門家 となった。 これまでの診療報酬制度において,算定基準や施設基準などで多数見られたのは「構 造」としての側面が中心であった。それは,不確実性や情報の非対称性といった医療の 特性ゆえに,「過程」や「結果」の側面から患者が質を評価することは困難であること に起因する。しかし,この 2010 年度改定より「構造」に加え診療実績,つまり「結果」 が問われているため,医療の質が高い医療機関にとって有益な改定となった。 ここでは,慢性期医療においても,また診療報酬制度においても医療の質への関心が 高まっていること,そして「構造」が中心的であるものの,徐々に「過程」や「結果」 の比重が高まっていることを確認したい。

Ⅲ サービスの質の定義

1.サービス・クオリティの定 6 義 サービス・マーケティングの研究は Regan(1963)に端を発する。サービス財とは物 財と異なる特徴が幾つか存在するため,物財を前提としたマーケティングとは異なるサ ービス・マーケティングの議論が展開されている。しかし,サービスといっても多様で あるため,恩蔵(2000)は Thomas(1978)をもとに提供者の特徴によりサービスを分 類している(第 2 図)。さらに,受け手と行為の本質によるサービスの分類も行ってい る(第 3 図)。医療を第 2 図に当てはめると「人ベース」の「専門家」によるサービス として捉えられ,第 3 図に当てはめるとマトリクス左上の「人の身体に向けられるサー ──────────── 6 マーケティング研究において,サービスの質は「サービス・クオリティ」や「サービス品質」と呼ばれ ている。 第 2 図 提供者の特徴によるサービスの分類 出所:恩蔵(2000)より作成 医療の質とサービスの質(冨田) ( 75 )75

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ビス」として捉えられる。サービスといっても多様であるため,恩蔵(2000)のような 分類により医療のサービスとしての特徴を確認していく必要がある。

さて,サービス・クオリティの定義として代表的なのは Grönroos(1983),Lewis and Booms(1983),さらには Parasuraman, Zeithaml, and Berry(1985)などによるものであ り,彼らはサービス・クオリティを「実際に顧客が受けたサービスから顧客の事前の期 待を引いたもの」と定義している。そして,それを知覚するのは顧客であり,そのサー ビスとは最終的なサービスだけではなく,サービスが提供される過程もまた評価される と論じている。

2.サービス・クオリティの評価指標

サービス・クオリティの評価指標(測定尺度)については,Parasuraman, Berry, and Zeithaml(1988)による SERVQUAL が代表的である。SERVQUAL は第 3 表に示され るように,有形性,信頼性,反応性,確実性,共感性といった 5 つの次元,22 項目か らなっている。

SERVQUALには多くの批判が展開されている。まず,Carman(1990)や Babakus and Boller(1991)はこの 5 つの次元が適切ではないと批判してい

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る。続いて,Cronin and Tay-lor(1992)は,SERVQUAL(顧客が知覚したパフォーマンスから顧客の事前の期待を 引いたもの)のではなく,SERVPERF(パフォーマンス)の方が測定指標として望まし いと指摘してい 8 る。しかし,彼らが調査対象とした産業は,害虫駆除,クリーニング, ファーストフード,銀行の 4 つであり,この産業を調査対象とすることの妥当性が問わ ────────────

7 この批判に対して,Parasuraman, Berry, and Zeithaml(1991)が反論している。

8 この批判に対して,Parasuraman, Zeithaml, and Berry(1994)が反論し,さらに同じジャーナルの同じ号 で,これに続くページで Cronin and Taylor(1994)が再び反論している。

第 3 図 受け手と行為の本質によるサービスの分類 (サービスの直接的な受け手) 人 物財 ︵ サ ー ビ ス 行 為 の 本 質 ︶ 有 形 行 為 人の身体に向けられるサービス ・理髪 ・レストラン ・交通機関 ・エクササイズ 財や他の有形資産に向けられるサービス ・荷の輸送 ・造園と庭の手入れ ・修理サービス ・獣医 無 形 行 為 人の精神に向けられるサービス ・教育 ・放送 ・映画 ・美術館 無形資産に向けられるサービス ・銀行 ・法律相談 ・会計処理 出所:恩蔵(2000)より作成 同志社商学 第63巻 第1・2号(2011年7月) 76( 76 )

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れるところである。 日本では,松尾・奥瀬・プラート(2001)が,SERVQUAL 研究は「有形性」を単一 の次元として捉えてきたことについて問題視し,サービスの有形的側面をより拡張して 測定すべきとし,「経験的有形性」と「探索的有形性」とに分けたモデルを作成してい る。また,山本(2010)はこれらの SERVQUAL に関する研究を体系的にレビューして いる。 さまざまな批判があるものの,サービス・クオリティの評価指標を研究する際には Parasuraman, Berry, and Zeithaml(1988)が必ず議論の的となっており,彼らの研究は具 体的な評価指標を開発したことに意義があるといえよう。 SERVQUALを用いて医療を対象とした研究も行われている。先述の Carman(1990) は救急病院と歯科医院とを対象としたが,モデルの当てはまりがあまり良くなかったた め,サービス特性を考慮して評価指標を変更する必要性を指摘してい 9 る。

また,SERVQUAL ではないが,Smith Gooding(1995)は患者が医療機関を選択する 際には医療の質が重要となることを示している。医療機関の決定要因として距離は重要 であるが,だからといって近隣医療機関の診療の質が低い場合には,遠くの医療機関を ────────────

9 ほかにも,Singh(1991)や Babakus and Mangold(1992),冨田(2003)が医療を対象としている。 第 3 表 サービス・クオリティの評価指標 有形性 最新設備である 施設は魅力的である 従業員は清潔である 施設はサービスのタイプに適している 信頼性 約束ごとを約束の時までに行ってくれる あなたに問題が生じた際には味方になってくれる 頼りになる 時間を守ってサービスを提供してくれる 正確に記録を残している 反応性 サービスを提供する際には内容を正確に話してくれる サービスは迅速である 従業員には顧客を助けようという姿勢が常にある 従業員は大変忙しいが顧客の要求にすぐに応えてくれる 確実性 従業員を信頼できる 従業員と安心して接触できる 従業員は礼儀正しい 従業員が仕事し易いよう会社は適切なサポートを行っている 共感性 個客対応をしてくれる あなたの個別な要求を満たしてくれる あなたのニーズを理解してくれる あなたの関心ごとを知っている 営業時間はすべての顧客にとって便利である 出所:Parasuraman, Berry, and Zeithaml(1988)をもとに作成

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選択する。さらに,Smith Gooding(1995)では医療の質の価値の知覚と,それが医療 機関の選択に与える影響を,地方と郊外とのサンプル・データで比較した。この研究で は,医療機関にとって操作不可能な変数であるが,地理的属性が考慮されている点が興 味深い。同様の研究として,Lo and McKechnie(2007)は,患者が救急病院を意思決定 する際,サービス・クオリティの知覚は重要である半面,金銭や距離など非金銭的な要 因は重要でないことを実証してい 10 る。

Ⅳ 医療の質とサービスの質との比較

第Ⅱ節で述べたように,医療の質を測る評価指標である「構造」「過程」「結果」のう ち,従来,比重が高かった「構造」においては,アメニティなどの項目もあるが,それ より医師が診療をするうえでの設備や院内の体制に関する項目が中心である。 また,近年は結果への比重が大きくなっているが,これは医療の質を研究する主体者 の多くが医師であることに起因する。さらにいえば,彼らの大部分が大学や大きな病院 に勤務する医師であり,疾病の重い患者を治療する人たちであるため,その疾患が治っ たか否かが当該の医師にとっても患者にとっても重要である。そのため,暗黙的に急性 疾患を想定することとなる。 このように,病院管理研究などで議論される医療の質では,医師の視点から診療の質 を捉えている。 一方,マーケティング研究においてサービスの質が議論される時には,絶対的な評価 指標が存在しないものの,第Ⅲ節で取り上げた SERVQUAL では有形性,信頼性,反応 性,確実性,共感性といったように顧客の視点から議論されている。そのため,Parasura-man, Zeithaml, and Berry(1994)などのように,サービス・クオリティは顧客満足との 関係で議論されることも多いが,山本(2010)が指摘するように,サービス・クオリテ ィの知覚と顧客満足とが曖昧のまま,議論されることもある。 また,マーケティング(主にサービス・マーケティング)研究で医療が研究対象とな る際には,アメニティや医療者との対人関係に目が向けられている。つまり,医療の質 において中核的な診療の質には目が向けられていない。そして,質問票調査のサンプル に関していえば,急性期の患者か慢性期の患者かなど,どのような疾病の患者なのか明 らかにされていないことが多い。同時に,どのような形態の医療機関に通う患者なの か,どの診療科に通っているのかといった属性項目も明示されていないことが多い。 以上は,第 4 表にまとめられる。また,それぞれの研究者が考える医療の質の構成要 ──────────── 10 この研究では「サービス・クオリティ」の用語が用いられている。医学系の論文では「医療の質」を用 いることが多いため,その意味で注目すべき研究であるといえよう。 同志社商学 第63巻 第1・2号(2011年7月) 78( 78 )

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対人関係 アメニティ 医師が考える医療の質 マーケティング研究者 が考える医療の質 診療の質 診療の質 対人関係 アメニティ 素については第 5 表に示される。

Ⅴ マーケティング研究において医療の質を捉える際のアプローチ

マーケティング研究において医療の質を捉える際には,マーケティング研究の特徴で ある患者視点に沿いつつ,2 つのことに注意すべきである。1 つは医療の質の捉え方そ のものであり,もう 1 つは患者の分類である。 まず 1 つ目では,マーケティング研究ではサービスを本質機能と付随機能とに分けて 考えていく 11 が,マーケティング研究者が医療を研究対象とする際には,診療に関して専 門的でないため,診療を考慮しないことが多い(第 5 表)と指摘できる。つまり,本質 機能に触れず,付随機能だけしか触れていない。しかし,患者が受診する際には,本質 機能である診療そのものへの期待や関心が高い。診療技術に関する評価はマーケティン グ研究者では困難であるが,診療の質を捉える必要があ 12 る。 次に 2 つ目では,診療に関する期待や関心は,患者の疾患状況によって異なると指摘 できる。急性疾患と慢性疾患とでは異なるであろうし(Donabedian, 1980;矢野・武 久,2011),入院時か通院時かによっても異なっていく。この 2 つの次元により患者を ──────────── 11 もともとは,製品(物財)において用いられてきた考え方である。 12 これは,第Ⅱ節でレビューしたように,Donabedian(1980)が医療を技術的医療と対人関係という 2 つ の側面に分離していることと結びつく。彼のいう技術的医療は診療の質に該当する。 第 5 表 それぞれの研究者が考える医療の質 第 4 表 医療の質とサービスの質との比較 医療の質 サービスの質 研 究 領 域 病院管理研究 マーケティング研究 研究主体者 医師 (主に急性疾患を扱う医師) マーケティング研究者 関 心 事 診療の質 顧客満足 アメニティ,対人関係 医療の質とサービスの質(冨田) ( 79 )79

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分類したマトリクスが第 6 表に示される。 左上の急性疾患・入院の患者の場合,急性疾患であるため,その疾病が完治するかど うかに最大の関心がある。よって医療の質を捉える際には診療の比重が大きい。しか し,入院するため,病棟では看護師との接触も多い。そのため,看護も重要な項目とな る。 左下の急性疾患・通院の患者の場合,上記の場合と比べて比較的疾患が軽症ではある が,それでも疾病が完治するかどうかに患者の関心があり,相対的に看護師と接触する 時間・回数が減るため,看護への関心は低下する。 右上の慢性疾患・入院の患者の場合,入院が必要とならば,慢性疾患の中では比較的 重度の疾患といえる。そのため,診療が重要項目となる。また,病棟での生活となるた め,看護も重要である。さらに,慢性疾患では急性疾患と比べると患者に肉体的・精神 的余裕があるため,病棟内で快適に入院生活を送りたいニーズが高まる。よって,利便 性にも関心を持つこととなる。 最後に,右下の慢性疾患・通院の患者の場合,何度も通院しなければならないため, 利便性が最重要項目となる。それに対して,疾患の大きな変化はあまりないことが多い ため,診療や看護への比重は低下する。場合によっては,看護より診療が軽視されるこ ともある。それより,医師や看護師との対人関係の方が重要となる。 疾患の重度とも関連するが,病院と診療所(かかりつけ医)とでも患者の知覚項目は 異なるし,完全治癒が可能か否かといった基準でも異なるであろう。そうした状況によ り患者のニーズや知覚項目は大きく変わってしまうため,疾患により患者を分けた議 論,あるいは医療機関の種類(急性期病院,亜急性期病院,慢性期病院)や診療科を特 定化させた議論を行っていかなければならな 13 い。 ──────────── 13 Donabedian(1980)は,患者の願望,期待,価値観そして財力を考慮に入れて質が判断される時,これ らの要素は患者によって大きく異なることから,このような定義は医療の質の「個別的」定義といえ, 質の基準は個々のケースで決定されるべきだと論じている。 第 6 表 患者の分類 疾患の状況 急性疾患 慢性疾患 入 院 の 有 無 入 院 診 療 看 護 診 療 看 護 利 便 性 通 院 診 療 利 便 性 対人関係 同志社商学 第63巻 第1・2号(2011年7月) 80( 80 )

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Ⅵ むすびにかえて

本稿では,これまで曖昧であったため,議論がかみ合わないことも多かった医療の質 とサービスの質との違いについて,先行研究をレビューすることにより,第 4 表にまと めることができた。医療の質研究とサービスの質研究とではそれぞれ研究目的が異なる が,マーケティング研究において医療の質を考える時には,診療の質の捉え方を考慮し た評価指標を作成していく必要がある。マーケティング研究では供給者ではなく需要 者,つまり患者の視点からの知覚に目を向けるが,その際,患者を疾病により分類して いく必要がある。なぜならば,疾病により患者のニーズは大きく異なるからである。 さ て,本 稿 で は,医 療 の 質 研 究 に お い て 被 引 用 件 数 の き わ め て 多 い Donabedian (1980)と,サービス・クオリティ研究において同様に被引用件数のきわめて多い Parasuraman, Berry, and Zeithaml(1988)を中心にレビューし,それらの関連する研究 をレビューしていった。しかし,議論をより精緻化させるには体系的なレビューを行っ ていく必要があり,今後の研究課題として残される。

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参照

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