研修コーナーについてご意見募集
現在本会機関誌に掲載中の研修コーナーは第61巻12号掲載分までを再度見直しの うえ,学会のコンセンサスを得たものとして「産婦人科研修の必修知識2011」とし て,発刊の予定です. 会員の皆様には研修コーナーをお読みいただいて,お気づきの点がございましたら, 忌憚のないご意見を学会事務局・研修コーナー編集宛お寄せ下さい. 「産婦人科研修の必修知識2011」をより一層,研修医ならびに会員の皆様のお役 にたてる書籍と致したく,会員皆様のご協力をお願い申し上げます. 日本産科婦人科学会教育委員会 研修コーナーのブラッシュアップと産婦人科研修の必修知識編纂委員会 送付先:〒113―0033 東京都文京区本郷2―3―9 ツインビュー御茶の水 3 階 (社)日本産科婦人科学会・研修コーナー編集係 FAX 03―5842―5470 E-mail: [email protected]日本産科婦人科学会
研修コーナー
61巻
1
号
2009
D.産科疾患の診断・治療・管理 10.異常分娩の管理と処置 14)産科ショックおよび産科ショックの対応 ………(3) 15)DIC および DIC の処置 ………(6) 特定医療法人社団御上会野洲病院顧問 野田 洋一 19.新生児の管理と治療 14)先天異常児 ………(11) 横浜市立大学教授 平原 史樹 E.婦人科診断の診断・治療・管理 3.内分泌疾患 2)月経異常を伴う内分泌疾患 (2)乳汁漏出性無月経 ………(15) 旭川医科大学教授 千石 一雄 6.性器の形態異常:位置異常 1)形態の異常 ………(22) 久留米大学講師 藤吉 啓造 久留米大学教授 嘉村 敏治 2)位置の異常 ………(27) 田附興風会医学研究所北野病院部長 古山 将康 7.外陰および腟の感染症 ………(47) 帝京大学溝口病院客員教授 川名 尚 訂正 ………(54) 3月号(予告) D.産科疾患の診断・治療・管理 10.異常分娩の管理と処置 7)臍帯巻絡・下垂・脱出,8)前期破水 …小川 正樹他 9)癒着胎盤………板倉 敦夫 E.婦人科診断の診断・治療・管理 4.不妊症 1)女性不妊症 (2)卵管性不妊症,(3)子宮性不妊, (4)子宮内膜症による不妊………辻 勲他 7.婦人科感染症 2)子宮の感染症,3)付属器の感染症, 4)骨盤内の感染症………下屋浩一郎 8.腫瘍と類腫瘍 1)外陰の腫瘍・類腫瘍, 2)腟の腫瘍・類腫瘍………新倉 仁他
D.産科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Therapy and Management of Obstetrics Disease
10.異常分娩の管理と処置
Management and Treatment of Abnormal Labor and Delivery
14)産科ショックおよび産科ショックの対応
(1)概念 産科ショックとは,広義には偶発合併症によるものを含め妊産褥婦がショック状態に 陥った場合すべてをいうが,一般的には妊娠もしくは分娩に伴って発生した病的状態に起 因するショックをいう(日本産科婦人科学会). (2)特徴 ①出血性ショックが多い. 出血性ショックが産科ショックの約90%を占める.妊娠中には,出血性ショックの原 因となる特有の疾患(子宮外妊娠,前置胎盤,常位胎盤早期剝離など)が存在し,また,分 娩周辺期には帝王切開時も含めて突発的な多量出血が起こり得る.② 播 種 性 血 管 内 凝 固 症 候 群(disseminated intravascular coagulation syndrome: DIC)を併発しやすい. 妊娠中は非妊娠時に比べて凝固亢進,線溶抑制の状態にあり,種々の疾患でいったん凝 固線溶のバランスが崩れると DIC に移行しやすい. ③タイミングを失することなく対応することが肝要で,予後に影響を及ぼす. ショックの治療に際して大切なことは初期治療であり,短時間のうちに適切に対応しな ければならない. (3)臨床所見と診断 ショックの症状は,古典的にショックの5徴(five P sign)と呼ばれる蒼白(Pallor),虚 脱(Prostration),冷汗(Perspiration),脈拍触知不能(Pulselessness),呼吸不全(Pulmo-nary insufficiency)に代表される.しかし,これらの諸症状が揃ってから診断するので は,その後の治療や処置が後手に回りやすい.したがって,ショックを疑った場合,素早 くバイタルサインのチェックを行い,血圧の低下傾向,頻脈傾向,呼吸促迫,尿量減少な どの症状から病態を把握し,ショックと診断された場合は,原因の検索を行い,並行して 治療を開始する.産科ショックに遭遇した場合の診断フローチャートを図 D-10-14)-1に 示す. (4)治療 ショックの原因となる疾患に対する治療と全身管理を併せて行う.各疾患に対するおの おのの対応については本稿では述べないが,最もよく遭遇する分娩時異常出血に対する止 血手順を表 D-10-14)-1にまとめた.この止血操作(内診および腟鏡診)は,迅速かつ正確 に行う必要があるため,手順に従って行うようにするとよい.全身管理は,救急処置 ABC (A:airway,B:breathing,C:circulation)に則り行う. ①気道の確保,酸素投与 心停止,呼吸停止の場合,CPR(cardiopulmonary resuscitation)蘇生術を行う.気道 確保は舌根の沈下を防ぎ,場合によってはエアウェイや気管内挿管が必要である.酸素投
(図 D-10-14)-1) 産科ショックの診断フローチャート (表 D-10-14)-1) 分娩第 3期とその直後の異常出血に対する止血手順 与もあわせて行うが,パルスオキシメーターが酸素化の把握に有用である. ②血管の確保,輸液 血管確保は,輸液・輸血を円滑に行うため極めて重要である.血管が虚脱してからのルー ト確保は困難なことが多く,あらかじめ確実に実施しておく.出血性ショックでは血液な らびに細胞外液が喪失するので,輸液製剤としては乳酸(酢酸)加リンゲル液を用いる.十
分な昇圧が得られなければ,膠質(コロイド)輸液を併用するが,投与量は500∼1,000ml に留める.アナフィラキシーショックでも循環血液量の維持のため,生理食塩水あるいは 乳酸(酢酸)加リンゲル液の急速輸液を行う. ③輸血 分娩時の異常出血では,一般に800∼1,000mlを超えてなお出血が多めに持続すると きは,輸血用血液を注文するべきである.同時に血液型の再確認,クロスマッチ用血液の 採血を行う. 現在,全血製剤(新鮮血および保存血)の入手は困難であるため,成分輸血療法を行う. 血液製剤調査機構編集の『血液製剤の使用にあたって』(平成11年9月発行)によると,出 血患者における輸液・成分輸血の適応について, a.循環血液量の15∼20%の出血:乳酸(酢酸)加リンゲル液(出血量の2∼3倍量) b.循環血液量の20∼50%の出血:乳酸(酢酸)加リンゲル液とともに赤血球濃厚液 c.循環血液量の50∼100%の出血:赤血球濃厚液および膠質輸液・アルブミン製剤 d.循環血液量の100%∼の出血:新鮮凍結血漿(FFP),濃厚血小板の併用 が勧められておりこれに準ずる. 非妊娠時の成人の循環血液量は体重(kg)×70mlで求められるが,妊娠中は血液量が 35%増加するため非妊娠時の循環血液量とは相違がある.また,分娩時の出血量測定の 際には羊水が混入し不正確となる可能性がある.したがって,産科の出血性ショックに対 する輸血療法は,単に出血量だけで判定するのではなく,臨床上の症状や血圧,脈拍数, 尿量,血算,血液ガスなどの所見を含めて総合的に勘案し,必要な血液成分を補充する. ④血圧の監視 収縮期血圧100mmHg 以上,心拍数100回"分以下を目標とする.循環血液量が十分に 保たれているにもかかわらず,血圧が回復しない場合には昇圧剤を用いる.腎血流量増加 作用のある塩酸ドパミンがよく使用される. ⑤尿量の監視 膀胱留置カテーテルを用いて尿量を測定し,尿量0.5ml"kg"時(時間尿30ml)以上を確 保する.循環血液量が改善されても,尿量が確保されない場合には慎重に利尿剤を用いる. ⑥薬物療法 副腎皮質ホルモンの大量投与(ソルコーテフ® ,ソルメドロール® :500∼1,000mg の 静注)やウリナスタチン(ミラクリッド® :10万単位静注,点滴静注)が,急性循環不全に 対して有効である.血圧の維持にはカテコールアミン製剤が必要なこともあるが,特にド パミン(1∼5µg"kg"分点滴静注)が用いられることが多い.出血性ショックと敗血症性 ショックの場合は DIC を併発することが多く,DIC と診断されたなら抗凝固療法を開始 する. 《参考文献》 1.高木健次郎,永石匡司,佐藤和雄.産科ショックの対応.日産婦誌 1999;51: N123―N126 2.寺尾俊彦.産科ショックと DIC.救急医学 2000;24:57―63 3.大久保光夫,金山尚弘,木下勝之,小林浩一,関 弘之,竹田 省,堤 晴彦,照 井克生,福家伸夫,前田平生.母体救急∼こんな時どうする∼.研修ノート No. 62. 日本母性保護産婦人科医会,1999;45―66
(表 D-10-15)-1) 産科 DICの基礎疾患
15)DIC および DIC の処置
(1)概念播種性血管内 凝 固 症 候 群(disseminated intravascular coagulation syndrome : DIC)とは,本来,血液凝固が起こらないは ずの血管内において,種々の原因により凝固 機転の亢進が起こり,血管内で広範に血液が 凝固し全身の細小血管内に多数の微小血栓が 形成される症候群である.血管内に生じた血 栓が,主に肺,腎臓,肝臓などの臓器血管で 塞栓となり循環障害に起因する臓器障害を引 き起こす.一方,血栓形成により凝固因子と 血小板が消費され欠乏することによって消費 性凝固障害が起き,さらには血栓形成に反応 して線溶系の活性化が加わって出血傾向が助 長される. (2)産科 DIC の特徴 ①基礎疾患と密接な関係がある. 産科 DIC の基 礎 疾 患 を 表 D-10-15)-1に 挙げた.基礎疾患のなかで,常位胎盤早期剝 離が最も多く50∼60%に及ぶ. ②急性で突発的に発生する. 子宮内に存在する血液凝固物質が血管に流入するために DIC とショックがほぼ同時に 発生するタイプと多量出血による出血性ショックに続発して DIC が起こるタイプが存在 する.前者は,常位胎盤早期剝離,羊水塞栓症であり,後者には,前置胎盤,弛緩出血, 産道裂傷などの分娩時の多量出血があたる. ③急性腎不全を合併することが多い. 乏尿(5∼20ml"時),無尿(<5ml"時)の急性腎不全が併発することが多い.膀胱留置カ テーテルを挿入して尿量の測定や血尿の有無に留意する. ④線溶優位の DIC を呈することが多い. 凝血学的特徴としては,著しい消費性凝固障害と線溶亢進である.すなわち,フィブリ ノーゲンの激減と二次線溶亢進に伴う FDP または FDP D-dimer の著増を呈する.血小 板は極端に低下しないものが多い. ⑤基礎疾患の診断が確定したら治療を開始することが肝要である. 産科 DIC は急性の経過をたどることが多いため,すべての検査結果を確認してから DIC を診断し,治療を開始するのでは手遅れとなる可能性がある. (3)DIC の診断 ①厚生省 DIC 診断基準 厚生省 DIC 診断基準(表 D-10-15)-2)は, 基礎疾患の有無, 臨床症状として出血症状, 臓器症状の有無に加えて,血液凝固学的検査成績(血清 FDP,血小板数,血漿フィブリノー ゲン,プロトロンビン時間)によりスコア化している.診断基準に照らし合わせるために は,血液検査の結果が必要である.内科,外科領域で繁用されており,優れた診断スコア である.産科領域においても,時間的余裕があり,また DIC の診断に迷うような症例で は確診のため,必要な検査を行いスコア化するとよい.
(表 D-10-15)-2) 厚生省 DIC診断基準 ②産科 DIC 診断スコア 産科 DIC では突発的に発生し経過が急性であり,診断に時間的な余裕がないことが多 いため,基礎疾患の重篤性と臨床症状に重点を置いてスコア化し,早期に治療にふみきる ための産科 DIC 診断スコア(表 D-10-15)-3)がある.産科にみられる DIC は,特定の基 礎疾患に併発することが多く,臨床症状と併せて DIC の発生を予知,診断できる.ただ し,検査成績もスコアに含まれており,DIC 確診のためには血液凝固学的検査は必須で ある.急性の場合でも採血しておき後日検査に提出することも意味がある. (4)治療 ①基礎疾患の除去 DIC の原因となった基礎疾患の可及的速やかな除去が治療の原則である.出血性ショッ クを併発することが多いため,迅速かつ適切に抗ショック療法を行う.産科 DIC の治療 フローチャートを図 D-10-15)-1に示す.外科的治療によって DIC の原因を除去する場 合,DIC は手術操作によって悪化し致死的大出血をきたすことがあるので,必要に応じ て補充療法と酵素阻害療法を行い止血機構の改善を図りながら基礎疾患の除去を行う. ②補充療法 出血性ショックを呈していれば,輸液と輸血を行う.輸血はヘモグロビン低下に対して 濃厚赤血球を用い,膠質浸透圧を維持し循環血液量を保つためにアルブミン製剤や膠質輸 液を投与する.新鮮凍結血漿(FFP)は凝固因子の補充とともに不足した生理的凝固線溶阻 害因子(アンチトロンビン,プロテイン C,α2-プラスミンインヒビターなど)の補充を目 的として輸血する.通常,フィブリノーゲン100mg"dl以下,凝固因子活性30%以下, アンチトロンビン活性70%以下の場合,新鮮凍結血漿(FFP)の適応となる.血小板数が 低下(5 104 "mm3 以下)し,出血傾向が存在する場合は,血小板濃厚液の輸血が必要とな る. ③酵素阻害療法 産科 DIC では,凝固系ならびに線溶系が亢進していることが多く,凝固線溶系の抑制 を目的として,セリンプロテアーゼ阻害薬による酵素阻害療法が有効である.セリンプロ テアーゼ阻害薬 の 作 用 と 用 法 を 表 D-10-15)-4に ま と め た.メ シ ル 酸 ガ ベ キ サ ー ト
(表 D-10-15)-3) 産科 DICスコア (FOY® )とメシル酸ナファモスタット(フサン® )はともに,抗凝固作用と抗線溶作用を併 せもち持続点滴で投与する.また,血中アンチトロンビンが凝固亢進により消費され低下 (活性70%)すれば,アンチトロンビン製剤により補充する.アンチトロンビンは,生体 内に存在し,このような意味では,補充療法の範疇の治療と考える.しかしながら,アン チトロンビンは,凝固反応に関わる Xa やトロンビンなどのセリンプロテアーゼと反応し 凝固反応を制御する重要な生理的セリンプロテアーゼインヒビターであり,DIC 治療時 にはこの効果を期待しアンチトロンビンの活性値に関係なく使用することから酵素阻害療 法と考えられる.線溶系の異常亢進による出血傾向に対してアプロチニン製剤(トラジロー ル® )やトラネキサム酸(トランサミン® )は有効であるが,線溶は微小血栓を溶かして臓器 障害を防ぐ合目的的な生体反応もあるので,止血したなら早期に切り上げるべきである.
(図 D-10-15)-1) 産科 DICの治療フローチャート
抗トリプシン作用をもつウリナスタチン(ミラクリッド® )は,抗ショック作用が強く急性 循環不全に対して有効である.産科 DIC におけるヘパリン療法は,出血を助長させる可 能性があるため,限られた適応となる.羊水塞栓症の発症直後は速効性のあるヘパリンを 投与し,その効果を試すべきである.また,重症感染症による DIC や他の治療によって も寛解しない難治性の DIC などが適応となる.低分子量ヘパリン(フラグミン® )はヘパリ ンナトリウムに比べて APTT 延長作用が弱く,出血増加の副作用が少ない.その他の DIC の治療薬として,活性化プロテイン C,トロンボモジュリン,血小板活性化因子(PAF) 拮抗薬などが臨床治験されており今後の臨床展開が期待される. 《参考文献》 1.真木正博,寺尾俊彦,池ノ上克.産科 DIC スコア.産婦治療 1985;50:119 2.雨宮 章.産科 DIC の管理.日産婦誌 1996;48:N201―N204 〈野田 洋一* 〉 *Yoichi N ODA
*Yasu Hospital, Shiga
Key words : disseminated intravascular coagulation・abruptio placentae・anticoagula-tion and delivery
(表 D-6-14)-1) 先天異常の原因(内訳) 15~ 20% ・遺伝性(メンデル遺伝 多因子遺伝等) 5~ 6% ・染色体性 5~ 6% ・外的因子 母体感染疾患(2~ 3%) 薬剤化学.環境物質(2~ 3%) 60~ 70% ・原因不明 その他
D.産科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Obstetrics Disease
19.新生児の管理と治療
Management and Therapy of Neonatal Disease
14)先天異常児
<先天異常の頻度> 先天異常とは,もって生まれた形態的・機能的異常であり,新生児の約5%に存在する といわれている.うち生命保持,生活に支障の生じる可能性のある重篤な先天異常(大奇 形)は約1∼2%にみられる. <先天異常の原因> 先天異常の原因にはさまざまなものがあるが,その多くは原因不明で,薬剤等の催奇形 因子のかかわる異常はむしろまれである(表 D-6-14)-1). <先天異常の分類> 先天異常は発生時期,発生機転から次のように分類される 1.遺伝子・配偶子病(genopathy,gametopathy) 遺伝子の異常,配偶子形成時の先天異常(染色体異常) 2.胎芽病(embryopathy) 環境要因,病原体などの外的因子により発生分化・臓器形成の過程で起こる異常で多く のものが含まれる. 3.胎児病(fetopathy) 妊娠中の母体の異常から胎児が罹患し,発生する先天異常. 感染症(風疹,梅毒,HIV など),胎児アルコール症候群など. <先天異常の分類とその頻度> 疾病および関連保健問題の国際統計分類第10回修正(国際疾病分類)(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems, 10thRevision= ICD 10)による分類が現在,使われている.また,日本産婦人会医会による先天異常モニ タリング調査では,本邦の先天異常発生頻度は表 D-6-14)-2に示すとおりである.
<主な先天異常について> <中枢神経系>
<神経管閉鎖障 害(Neural tube defect= NTD)> 中枢神経系の原基となる神経管は,胎生20 日に神経板(Neural plate)の両側縁の隆起, 癒合により形成されるが,胎生23日には閉 鎖するが,この形成期の障害が神経管閉鎖障 害(NTD)である. (1)無脳症 神経管の頭側(前神経孔)の閉鎖不全により 起こり,皮膚と頭蓋冠が欠損し,脳神経組織
(表 D-6-14)-2) 本邦において 高頻度に見られる先天異常 心室中隔欠損 1. 口唇・口蓋裂 2. ダウン症 3. 水頭症 4. 動脈管開存 5. 耳介低位 6. 多指症(拇指) 7. 多趾症(小趾) 7. 横隔膜ヘルニア 7. 十二指・小腸 7. 閉鎖 口蓋裂 11. 口唇裂 12. 臍帯ヘルニア 13. 心房中隔欠損 13. 【日本産婦人科医会―横浜市大国際 先天異常モニタリングセンター調 査(2000以降のデータによる)】 は露出し,変性しているのが通常である.胎 内死亡を起こすことも多く,致死性である. (2)脳瘤 頭蓋冠の頭蓋骨欠損部から脳実質が脱出 し,腫瘤を形成しているもの. (3)二分脊椎 脊椎の椎弓欠損を二分脊椎と呼ぶが次のよ うに分類される 囊胞性二分脊椎 髄膜瘤 脊髄髄膜瘤 開放性二分脊椎 潜在性二分脊椎 潜在性二分脊椎は無症状のことが多い.開 放性二分脊椎は腫瘤表面の皮膚欠損を伴い, 大部分脊髄髄膜瘤である.この場合,披裂部 以下の神経症状として,運動,知覚障害,排 尿,排便障害等が生じることがある. 出生後は,急ぎ手術適応となるものがある ため,正確な診断を要する. また,妊娠前1カ月から妊娠後3カ月までの葉酸の補充摂取(1日400µg)が NTD の発生 リスクを低減化させることが報告され妊娠を計画している女性に推奨されている. <顔面の先天異常> (1)<口の先天異常> 口唇裂,口蓋裂 胎生8週までの顔面突起の癒合過程の障害により生ずる.出産直後の哺乳には注意を要 するが,近年の形成外科的技術の発達により障害の修復法は著しく進歩した. (2)<耳の先天異常> 無耳,小耳,耳介欠損,外耳道閉鎖などがある. (3)<眼の先天異常> 無眼球,小眼球,眼瞼欠損などがみられる. <四肢の先天異常> 四肢は妊娠4∼7週において形成されるが,多様な形態異常発生が知られている.多指 (趾),合指(趾),欠指(趾),裂手(足)などに分類される.四肢短縮症は致死性のものから 生命予後が良好なものまで多岐にわたる. <多指(趾)症> 指(趾)が重複して過剰な配置となっているもので本邦では最も頻度の高い四肢先天異常 である. <合指(趾)症> 隣接した指(趾)が癒合するもので,皮膚性合指から骨性合指まで程度はさまざまである. 指(趾)の分離が行われる胎生6∼7週での障害が原因. <減数形態異常(欠損)> 上・下肢の欠損の総称である.肢の欠損には横断型(transverse,遠位∼近位の間のい ずれかの部位より遠位が失われるもの)と縦断型(longitudinal―尺側のみ,あるいは橈側
のみの様に縦方向にて欠損部位が分れるもの),ならびに中間型―関節間型―(interca-lary―中間部にのみ欠損がみられるもの)等のタイプにわける. <先天性絞扼輪症候群> 羊膜索の絞扼により指趾に切断(横断的)や絞扼輪が生じるもので,局所阻血,壊死等に より生じるとされている. <泌尿器先天異常> <半陰陽> 外性器の特徴から男女の区別の困難な状態を性不確定(ambiguous genitalia)と呼ぶ. <真性半陰陽>精巣,卵巣を同一個体がもちあわせている状態.外性器の性状は多彩で, 男性型を示すものが多く尿道下裂を示すものが多い.46,XX,46,XY,46,XX"46,XY, 45,X"46XY 等,染色体の核型にはさまざまなパターンがある. <仮性半陰陽>内外性器の不一致したもの (1)男性仮性半陰陽 染色体男性型,外性器女性様∼不確定 尿道下裂合併もみられる場合もある. アンドロゲン抵抗性症候群【AIS】(精巣性女性化症),性腺形成不全 (2)女性仮性半陰陽 染色体:女性型,外性器陰核肥大にて男性様を呈す 先天性副腎過形成(21-hydroxylase 欠損,副腎腫瘍等) <尿道下裂> 胎生8∼11週における尿道襞の癒合不全により生じる.外尿道口は正常な陰茎先端部に は開口せず後面の裂隙部に開く. <消化管先天異常> <食道閉鎖> 食道が閉鎖し通過不能な先天異常.気管との間に交通する瘻孔を伴うことが多い.他の 内臓形態異常を合併することも多い.妊娠中に羊水過多などの所見から疑われることもあ るが,新生児期に発見されることが多い. <臍帯ヘルニア> 腹壁の欠損でヘルニア状に突出したヘルニア囊の中には,通常,脱出した腹腔内臓器が 含まれるが,時に破裂して体外に脱出するものもある.腹壁形成時の4方向からの皺襞癒 合の不全から生じ,正中線上に起こる.腸回転異常を伴うことも多い. <鎖肛,直腸肛門閉鎖> 肛門もしくは直腸が閉鎖し,通過障害の生じているものであるが,程度にはさまざまな ものがある.男児では尿路との瘻孔形成,女児では腟瘻形成を伴うものもある.胎生5∼ 8週における後腸の遠位端である排泄腟が分離して膀胱,直腸・肛門管が形成されるが, このプロセスの障害により生ずる.約半数には尿路,腰仙椎等の先天異常が合併する.生 後24時間を過ぎると穿孔の可能性がある. <21トリソミー症―ダウン症―> 21番染色体のトリソミーにより起こる.頻度は約1,000出生に1例であり顔貌の特徴(や や 平な鼻,内眼角贅皮,眼裂斜上,短頭など)がみられる他,新生児期の筋緊張低下な どが認められる症例もあり,内臓先天異常として,心血管異常,消化管異常(十二指腸閉 鎖,鎖肛,巨大結腸等)等がみられる.生命予後は,合併した先天異常の程度にもよるが 一般的にはよく精神・運動発達遅延の程度には個人差がある. <先天代謝・内分泌異常症> さまざまな代謝酵素の障害,異常等の原因により,全身性疾患として認識される. 新生児マススクリーニング制度により, フェニールケトン尿症(PKU)頻度1:8万出生, メープルシロップ尿症(楓尿症)1:50万,ホモシスチン尿症1:100万,ガラクトース血
症1:100万,先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)1:3,500,先天性副腎過形成症1:2 万,が新生児期に発見され,早期より治療を受けている.【ヒスチジン血症は現在対象から 除外されている】.近年は20∼30種類の先天代謝異常症を少量の検体でスクリーニング できるタンデムマススクリーニングシステムが欧米では一般化している <遺伝子解析と先天異常> 現在,精力的に各先天異常の責任遺伝子の解析研究がすすんでおり,約70%以上が明 ら か に さ れ て き て お り,OMIM ― On line mendelian inheritance in man ― http:"" www.ncbi.nlm.nih.gov"sites"entrez?db=omim でその詳細が参照できる.
〈平原 史樹* 〉
*Fumiki H
IRAHARA
*Department of Obstetrics and Gynecology, Yokohama City University School of Medicine,
Yoko-hama
Key words : Congenital abnormalities・Teratogen・Mass-screening 索引語:先天異常,催奇形因子,マススクリーニング,葉酸
(表 E-3-2)-(2)-1) PRL分泌調節に関与する主な因子
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
3.内分泌疾患
Endocrine Disease
2)月経異常を伴う内分泌疾患
(2)乳汁漏出性無月経 授乳期以外に乳汁の漏出を認め無月経を伴うものを乳汁漏出症性無月経という.乳汁漏 出性無月経の約90%に血中プロラクチン(PRL)値の上昇が認められる.血中 PRL の上昇 を伴う場合,高 PRL 血性無月経,排卵障害とよび,間脳―下垂体―卵巣系が抑制され月経 異常,黄体機能不全,不妊を引き起こす.また,高 PRL 血症の中,1976年の WHO の 分類では視床下部―下垂体に SOL が存在するものを GroupⅤ,存在しないものを Group Ⅵとしている. ① PRL の産生・分泌 PRL は下垂体前葉の PRL 産生細胞(ラクトトローフ:lactotroph)から産生・分泌され る.PRL の産生・分泌は視床下部からの PRL 放出抑制因子(PIF)と放出促進因子(PRF) により調節されている(表 E-3-2)-(2)-1).生理的条件下では主に抑制的に調節されてお り,何らかの原因または薬剤により PIF の主要な物質であるドーパミンの分泌が抑制さ れた場合や,PIF と PRF のバランスが破綻した場合,下垂体からの PRF の分泌が亢進し 高 PRL 血症が惹起され,乳汁分泌,月経異常などの多様な臨床症状が発現する. ②高 PRL 血症におけるゴナドトロピン分泌異常メカニズム 高 PRL 血症性無月経症例の血中 LH,FSH は正常婦人と差が認められないことより, 高 PRL 血症ではゴナドトロピン分泌の基礎分泌が保たれている.しかし,高 PRL 血症 下では視床下部におけるドーパミン代謝の亢進やβ エンドルフィン活性の上昇を介して 視床下部からの GnRH の分泌不全をきたす.このため,LH の律動的分泌の頻度・振幅 の減少・欠如,エストロゲンによる LH 分泌に対するポジティブフィードバック機構が障 害される.これらの中枢性の異常により卵胞発育,排卵が障害され月経異常をきたすもの と考えられている.また,卵巣にも PRL 受容体が存在し,高 PRL 血症下では卵胞にお ける性ステロイドホルモンの産生が抑制されることが報告されているが,排卵障害の主因(表 E-3-2)-(2)-2) PRLの上昇をもた らす諸因子 (表 E-3-2)-(2)-3) 高プロラクチン血症 の原因疾患と頻度 は中枢性機序によるものと考えられる. ③病因 血中 PRL を上昇させる因子 血中 PRL を上昇させる諸因子を表 E-3-2)-(2)-2に示す. (1)生理的因子 生理的因子による血中 PRL の上昇は一過 性,可逆的であるが,運動,ストレス,授乳 などが過度にかつ長期間持続する場合は月経 異常や乳汁漏出の原因となることもある. 血中 PRL 値は月経周期による変動は少な いものの,排卵期と黄体期中期で高値を示す. また,日内変動があり睡眠時で上昇するが, 夜間の PRL 値が正常範囲を超える場合は潜 在性高 PRL 血症として病的な意味がある. 食事,ストレスなどでも上昇する. (2)病的因子 高 PRL 血症をきたす病態・疾患は多彩で あり,厚生省の間脳下垂体機能障害調査研究 班が行った原因,疾患別頻度の調査結果を表 E-3-2)-(2)-3に示 す1) .PRL 産 生 下 垂 体 腫 瘍(プロラクチノーマ)が最も多く,次に視床下部機能障害で,分娩後無月経と乳汁分泌が 持続する Chiari-Frommel 症候群と,分娩とは関係の認められない Argonz-del Castillo 症候群を合わせると約30%にのぼる. 次いで薬剤服用, 原発性甲状腺機能低下症が多い.
プロラクチノーマでは腫瘍自体より PRL が持続的に産生・分泌され,視床下部機能障 害(Chiari-Frommel 症候群,Argonz-del Castillo 症候群)では視床下部の機能障害によ る PRL 放出抑制因子(PIF)の障害が PRL 上昇機序として考えられる.
高 PRL 血症をきたす主な薬剤を表 E-3-2)-(2)-4に示す.主要な PIF であるドーパミ ン産生を抑制する薬剤,ドーパミン受容体に作用しドーパミンの作用を抑制する薬剤は PRL 分泌を亢進する.胃腸薬,制吐剤,降圧剤などの頻度が高い.原発性甲状腺機能低
(表 E-3-2)-(2)-4) 高プロラクチン血 症を起こす薬剤 下では TRH の上昇を介して二次的に PRL の産生分泌が亢進し,胸壁疾患,乳癌手術後 では神経反射によりセロトニンニューロン, VIP,オキシトシンなどの作用により PRL 分泌が促進される.慢性腎不全では PRL の 代謝・排泄の遅延や PRF の蓄積が原因と考 えられる.
4)臨床症状
(1)月経異常(2)乳汁漏出(3)不妊が 主要症状である. (1)月経異常 高 PRL 血症の90%近くに無月経,稀発月 経,無排卵周期症,黄体機能不全などの月経 異常が認められ,無月経患者の約20%が高 PRL 血症に起因する. (2)乳汁漏出 乳汁漏出は本人が自覚する程度に漏出する ものから,搾るとにじむ程度のものまでさま ざまであるが,すべてを含めると高 PRL 血 症の約90%に乳汁漏出を認める.乳汁漏出と血中 PRL 濃度には相関が認められないとさ れており,また,乳汁漏出を認めても血中 PRL 濃度が正常である症例も認められる.非 妊時の乳汁分泌には PRL 以外の因子や乳房の感受性も関与している. (3)不妊 高 PRL 血症により排卵障害を認める場合は不妊の原因となることは当然であるが,原 因不明不妊とされる中に,潜在性高 PRL 血症による卵胞成熟障害,黄体機能不全などに よる不妊が含まれている可能性も考慮する必要がある.5)診断・鑑別診断
乳汁漏出性無月経,高 PRL 血症は種々の病因で発症するので,系統的検査により原因 を正確に診断することが,適切な治療方針の決定につながる.図 E-3-2)-(2)-1に鑑別診 断手順を示す. (1)問診・身体所見 ①月経異常の有無 ②妊娠・分娩歴 ③薬剤服用の有無 ④乳汁漏出の有無 ⑤脳神経症状(視力低下・視野狭窄・頭痛の有無) 特に,現在または最近までの薬剤服用の有無,生活習慣(睡眠・起床サイクル,運動の 状態)に関し詳細な問診を行う.乳汁漏出の自覚がない場合もあるので詳細な診察も重要 である.視野狭窄,頭痛などの脳神経症状を認める場合はプロラクチノーマが疑われる. ヘルペス感染,胸部手術瘢痕にも注意する. (2)内分泌検査 ①血中 PRL の基礎値 血中 PRL 値が15ng"ml以上の場合,高 PRL 血症と診断される.血中 PRL 値は日内(図 E-3-2)-(2)-1) 乳汁漏出性無月経の診断手順 変動があり睡眠時で上昇,また,食事,ストレスでも上昇する.また,排卵期と黄体期中 期で高値を示すことより,採血に当たっては,卵胞期初期で食後2時間以降の安静状態時 に行うことが推奨されており2) ,2∼3回繰り返し検査することが望ましい. PRL 値50ng"mlとくに100ng"ml以上ではプロラクチノーマが疑われる. TSH,free T3,free T4などの甲状腺機能検査も同時に行う.
(程塚 明博士より提供) (図 E-3-2)-(2)-2) ②負荷試験 血中 PRL 値の基礎値が正常の場合でも,TRH 負荷試験による潜在性高 PRL 血症の診 断が必要な場合がある. TRH 500µg"ml負荷後の PRL 値が70ng"ml以上の時は潜在性高 PRL 血症と診断で きる.プロラクチノーマでは基礎値は高値であるが反応は不良で基礎値の2倍以下の低反 応を示す. ③画像診断 プロラクチノーマは腫瘍の大きさによりミクロアデノーマ(腫瘍サイズ10mm 未満)と マクロアデノーマ(10mm 以上)に分類される. 血中 PRL 値が50ng"ml以上の場合はプロラクチノーマが原因である可能性があるの で,下垂体 MRI 検査や頭部単純 X 線写真あるいはトルコ鞍拡大写真撮影を行う.特に MRI は骨からのアーチファクトがなく下垂体前葉と後葉の識別が可能であり下垂体腺腫の検出 率が高い.マクロアデノーマではトルコ鞍拡大 X 線写真でトルコ案の拡大,変形,破壊 像が認められることがある(図 E-3-2)-(2)-2).
6)治療・管理
原因となる基礎疾患を正確に診断し,それに対する治療を行うことが基本である.治療 の目標はプロラクチンの正常化による性腺機能の回復,乳汁分泌の停止ならびにプロラク チノーマの場合には腫瘍の縮小による局所圧迫症状の除去,下垂体機能の正常化を目指す.7)薬剤性
原則として原因となる薬剤を中止あるいは変更する.しかし,主作用が副作用を上回る 場合など原疾患に対する治療が優先されるべきか否か検討を必要とする場合も多い.8)甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモン剤の補充療法により甲状腺機能が改善すると血中 TSH,PRL 値が正常化し,乳汁漏出,月経異常も改善する.
9)機能性
間脳機能障害による PIF の一つであるドーパミンの分泌不全が原因と考えられており, ドーパミンアゴニストによる薬物療法が主体となる.ドーパミン作動薬はドーパミンが結 合する下垂体プロラクチン産生細胞受容体と結合しプロラクチンの産生・分泌を抑制す る.現在,麦角アルカロイドのブロモクリプチン(パーロデル),テルグリド(テルロン), カベルゴリン(カバサール)の3種類がある.ブロモクリプチンの服用時には,嘔気,嘔吐 などの副作用を軽減するため,食事中ないし食直後に1日量1.5∼2.5mg より開始し PRL 値が正常化する維持量まで暫時増量する.テルグリドはドーパミン D2受容体に親和性が 高く,また,中枢のドーパミン神経系後 D2受容体に対しては部分作動薬として作用する ので嘔吐などの消化器症状が軽度である.1日0.5mg から開始し増量する.カベルゴリン は半減期が約65時間と長く,1週間に1回(0.25∼0.5mg)投与で良く,服薬コンプライア ンスに優れている.80%の症例で排卵周期が回復するが排卵にいたらない場合は排卵誘 発剤を併用する.10)潜在性高 PRL 血症
ドーパミンアゴニスト療法の適応となる.一般に少量の投与量で効果が得られる.11)プロラクチノーマ
ドーパミンアゴニストを用いた薬物療法,手術療法,放射線療法があるが,放射線療法 は下垂体機能低下症を高率に合併することが多く,手術療法が不可能な症例などに限られ る.治療法は腫瘍の大きさ,浸潤の程度・方向,年齢,挙児希望の有無などにより選択さ れる. ミクロアデノーマに対してはドーパミンアゴニストによる血中 PRL 値の正常化率は 80%以上で,腫瘍サイズの縮小も認められる.手術療法としては経蝶形骨洞下垂体腺腫 摘出術(Hardy 手術)が行われるが,PRL 値の正常化率は70%程度であり,薬物療法より 低率である.したがって,現在ではミクロアデノーマの治療法としてはドーパミンアゴニ ストが第一選択であり,手術療法は若年婦人ですぐに挙児を希望しない場合などに限られ る.マクロアデノーマに対してもドーパミンアゴニスト療法が第一選択であるが,視野・ 視力障害などの臨床症状を伴う症例や,挙児希望がある場合は,妊娠により腫瘍が増大す る場合があるので,妊娠前の手術療法が選択される.しかし,PRL 値の正常化率は30% 程度であり,ドーパミンアゴニストの追加投与が必要になる場合が多い.手術の絶対適応 は下垂体卒中,視力・視野障害をきたす巨大腫瘍,ドーパミンアゴニスト抵抗症例,副作 用による不耐容症例である.12)ドーパミン作動薬療法時の管理
高 PRL 血症治療時は血中 PRL が正常化しそれを持続することが目標となる.PRL 値 が正常化後も3カ月は投与を継続し,その後一旦中止する.中止1カ月後に PRL 値を測定 し正常値であれば治療を中止し経過観察とする. プロラクチノーマでは血中 PRL 値と画像診断による腫瘍の大きさを指標として治療の 継続,中止を判断する. 《参考文献》 1.青野敏博.女性性腺機能低下症.ブロモクリプチン―基礎と臨床―.東京:メディカルトリビューン,1983;72―102 2.日母研修ノート No.24.高プロラクチン血症の臨床.1984 〈千石 一雄* 〉 *Kazuo S ENGOKU
*Department of Obstetrics and Gynecology, Asahikawa Medical College, Hokkaido
Key words : galactorrhea ・ menstrual disturbance ・ hyperprolactinemia ・ latent hyper-prolactinoma・prolactinoma
索引語:乳汁漏出症,月経異常,高プロラクチン血症,潜在性高プロラクチン血症,プロラクチ ン産生下垂体腫瘍
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
6.性器の形態異常:位置異常
The Form Abnormality of the Genital Organs : Malposition
1)形態の異常
(1)外陰・腟の異常1)2) ①陰唇癒着 左右の小陰唇が癒着して前庭を被う状態で,新生児期から乳児期にかけて発見されるこ とが多く,外陰異常では比較的頻度の高いものである.多くは後天的な炎症などによる癒 着であり,用手的に剝離することができる.しかし,副腎性器症候群などのように先天性 疾患の一症状による場合もあり,全身的な診察が必要である. ②発育異常 若年期から卵巣の機能不全によってエストロゲンの分泌が持続的に低下している状態や Turner 症候群など先天的に性腺を欠如する症例の外陰は発育異常となり,小児様の状態 にとどまる.また,小児期の外性器発育異常が真性半陰陽の診断の契機となることもある. しかしこの場合,発育異常の形態は多彩であり視診,触診のみでの確定診断はきわめて困 難である. ③陰核肥大 陰核は,アンドロゲンにより発達が促進される.副腎性器症候群にみられる先天性アン ドロゲン過剰や妊娠初期に母親が流産予防的に服用したホルモン剤の影響などにより,陰 核の肥大がみられるが,単なる物理的刺激でも生じる. また,男性仮性半陰陽で,小さい陰茎を肥大した陰核と誤認する場合もある.陰核肥大 と陰唇の癒合などが合併して,女児を男児と見誤る可能性もあり,外陰の異常は常に全身 疾患を念頭において診療にあたる必要がある. ④処女膜閉鎖 尿生殖洞の発達異常により処女膜が完全に閉鎖している疾患で,月経期に相当して下腹 痛を認める,月経モリミナを主症状とする.第二次性徴以前に診断されることは希である が,初経後に腟留血症,子宮留血症,卵管留血症などを生じた場合は本疾患が考えられる. 処女膜の切開により症状は消失する. ⑤腟横中隔 尿生殖洞とミュラー管の癒合障害によって生じる.腟の上方1"3の場所に多いとされて いるがその他の部位にも発生する.処女膜閉鎖との違いは発生原基と閉鎖部位のみだけで, ほぼ同様に月経血流出障害による症状を呈する.粘膜を花弁のように開き交互に縫合する Granjon 手術により月経血の排出経路を確保する. ⑥腟縦中隔 左右のミュラー管の癒合不全によって生じる.同じミュラー管の癒合障害による中隔子 宮や双角子宮を伴うことも希ではない.日常生活に障害をきたすことは少なく,別の疾患 が原因で婦人科を受診した際や,妊娠出産を契機に偶然発見されることが多い. ⑦腟閉鎖(図 D-6-1)-1) 腟欠損の分類(牧野田ら,1996)2) 比較的長い距離にわたり腟が閉鎖する場合がある.通常は腟上部が存在し腟下部が閉鎖 する.子宮および卵巣の機能は温存されているため処女膜閉鎖症と同様の症状を呈する. ドレナージ術後は再閉鎖や狭窄を起こす可能性がある.Granjon 手術を行い開窓術後の 再狭窄を防止する. ⑧腟欠損症 ミュラー管の発育障害によって腟を欠く疾患であり,多くは子宮の欠損も伴う.臨床的 には原発性無月経であるが,正常子宮をもつため外性器の発育は正常である.腟欠損の程 度と機能性子宮の有無で分類した Makinoda et al.の分類(図 E-6-1)-1)が臨床上有用で ある. a.機能性子宮のある場合 ミュラー管下部の腟部分のみを欠損した症例なので,機能性子宮をもつ.そのため処女 膜閉鎖や腟横中隔と同様な症状を呈する. b.機能性子宮のない場合(Mayer-Rokitansky-Küuster 症候群)(図 E-6-1)-2) 卵管部分を除くミュラー管の発生異常によって生じた腟欠損症である.乳房・外陰など の二次性徴は正常であるが,子宮は痕跡的または完全に欠損するなど解剖学的に明瞭な異 常が存在する.卵巣は正常であるので内分泌学的検査では異常を認めない.染色体は46XX である.腎・尿管の奇形,骨格異常,合趾症などの先天奇形を伴うことが多い. c.造腟術 人工造腟術は腟欠損に対し,人工的に腟管を形成し,円滑な性生活を送れることを目的 とした形成手術であり,以下の要約を満たす必要がある.Ⅰ)患者および家族が手術を強 く希望している.Ⅱ)患者が自分のおかれている社会的立場や身体状況を十分理解できる 年齢に達している.Ⅲ)患者が治療内容を正しく理解し,医師が指示した処置を,長期間 忍耐強く続けていくことが期待できる. a)Frank 法:非観血的造腟法で,試験管などを用いて膀胱と直腸の間の組織を伸展さ せ,腟腔を形成する. b)S 状結腸利用法(Ruge 手術):栄養血管をつけたまま S 状結腸を切断し,口側断端 を腟入口部として固定する. c)直腸利用法(Schubert―中山法):直腸を腟管として用いる方法. d)腹膜利用法(Davydov 法):膀胱・直腸間の腹膜を腟入口部まで牽引し腟管を形成
(図 E-6-1)-2) Mayer-Rokitansky-Küster症候群の 開腹所見
する.
e)皮膚弁移植法(McIndoe 法):大腿前面から採取した皮膚片をプロテーゼに覆い,剝 離した膀胱直腸間に挿入・固定する.人工真皮が用いられる場合もある.
f)腹腔鏡下造腟術:Frank 法,Ruge 法,Davydov 法などを腹腔鏡アシスト下で行い 手術侵襲の軽減が試みられている. (2)子宮の異常3) ①子宮奇形 a.分類 左右一対となって存在するミュラー管が胎生期に癒合して管腔を形成し,子宮および腟 の大部分を形成するが,癒合不全によって種々の奇形を惹起することになる.多くの分類 法が提唱されているが,ミュラー管の分化異常として分類されたアメリカ不妊学会の分類 法(図 E-6-1)-3)が現在,広く用いられている2) . b.症状 原発性無月経,周期的下腹痛,月経痛,性交障害,不妊症,習慣流産,反復早産などを 主訴として来院することが多い. c.診断 月経歴,月経随伴症状の有無,性交障害,既往妊娠分娩歴について十分な問診が必要で ある.超音波断層法,子宮卵管造影,X 線 CT,MRI などの画像診断が有用である.しば しば尿路系の奇形を合併するため,腎盂造影を施行することが勧められる.子宮鏡,腹腔 鏡が用いられる場合があるが必要があれば卵巣生検を行う. d.治療 子宮奇形が不妊症,習慣流産,反復早産など妊孕性の障害となっている場合には子宮形 成術の適応となる. ① Strassmann 手術(図 E-6-1)-4) 子宮底に横切開を入れ,これを縦方向に縫合する.おもに双角子宮の形成術として行わ れる.
② Jones & Jones 手術(図 E-6-1)-5)
左右の子宮接合部を V 字型に切除する方法. おもに中隔子宮の形成術として行われる. ③子宮奇形に対し子宮鏡下子宮腔形成術(中隔切除術など)が開腹術に代わり普及しつつ ある.
(図 E-6-1)-3) ミュラー管奇形の分類(アメリカ不妊学会,1988)2)
(図 E-6-1)-4) Strassmann手術4)
(図 E-6-1)-5) Jones & Jones手術4)
《参考文献》
婦人科学 東京:医学書院,1982;479―490 2.牧野田知,藤井亮太,今福紀章.内性器の奇形・位置異常.武谷雄二,青野敏博, 麻生武志,中野仁雄,野澤志朗編 新女性医学体系17 東京:中山書店,2002; 254―268 3.坂元正一,水野正彦,武谷雄二編 生殖器系の異常.プリンシプル産科婦人科学 婦人科編.東京:メジカルビュー社,2002;227―340 4.櫻木範明,岡本一平,藤本征一郎.性分化異常症の治療 B 外科的療法 i.婦人科 領域.武谷雄二,青野敏博,麻生武志,中野仁雄,野澤志朗編 新女性医学体系17 東京:中山書店,2002;319―328 5.坂元正一,水野正彦,武谷雄二編 中高年女性の好発疾患と健康管理.プリンシプ ル産科婦人科学 婦人科編.東京:メジカルビュー社,21002;683―755 〈藤吉 啓造* ,嘉村 敏治* 〉 *Keizo F UJIYOSHI,*Toshiharu K AMURA
*Department of Obstetrics and Gynecology, Kurume University Hospital, Fukuoka
Key words : Vaginal anomaly・Mullerian abnormality・Uterine anomaly・Prolapse of the uterus・Incontinence
E.婦人科疾患の診断・治療・管理
Diagnosis, Treatment and Management of Gynecologic Disease
6.性器の形態異常:位置異常
The Morphological Abnormality of the Genital Organs : Malposition
2)位置の異常
(1)子宮脱・子宮下垂 ①定義 子宮脱・子宮下垂は,正常子宮位置よりも下方に偏位した状態をいう.骨盤底臓器の支 持機構の破綻によって起こる.病理学的には後述の腟脱も同じ病変である.基本的に脱と 下垂は同一の病態であり,その違いは程度の差である.子宮下垂とは外子宮口が両坐骨棘 を結ぶ線より下降した場合をいい,子宮脱とは子宮の一部または全部が腟入口より外に下 垂するものをいう.しかし子宮のみ単独で下垂することは稀で,腟脱を合併することがほ とんどであり,下垂の評価は骨盤底臓器をすべて評価する必要がある. ②症状 子宮の下垂感,下腹部不快感などが初発症状で,排便・排尿もしくは入浴時に腟入口部 に子宮腟部や腟壁を触れ,気づくことが多い.子宮脱の状態になると脱出した腟や子宮腟 部の乾燥,刺激による出血,潰瘍形成,感染,分泌物の増加などの症状を呈する.また, 尿道過可動,膀胱瘤を合併すると尿意頻数,尿失禁,尿閉などの下部尿路症状も出現する. ③診断 高齢者が多いので神経・精神疾患(脳血管障害,パーキンソン病,脊髄損傷,二分脊椎, 多発性硬化症,糖尿病性神経障害など)や骨盤臓器の悪性腫瘍を除外診断しておく.理学 的所見をとるにあたって,Sim 型の片弁の腟鏡と腟壁アナライザー(胎盤鉗子などでも代 用可能)を用意する.骨盤底筋群の筋緊張を触知する.大腿部や外陰部の視診も大切で, 発赤や表皮の剝脱は尿失禁のために頻回にパッドを交換していることが推察される.腟入 口部や外尿道口の粘膜が薄く,萎縮していればエストロゲン欠乏を示唆する.腟内に腟鏡 を挿入する前に患者に腹圧をかけさせ,最初に下垂する部位を確認する.その部位の支持 が最も弱いと考えられる.腟鏡を後腟壁にあて前腟壁,子宮腟部(腟断端)を観察し,腟鏡 を前腟壁にあててダグラス窩,後腟壁を観察する.子宮脱出部位に対して腟中程に達しな い初期のものを第1度,それより下に下がるものを第2度,腟口に達するかそれより高度 のものを第3度に分類する.全子宮が腟外に脱出しているものは全子宮脱とも呼ぶ(図 E-6-2)-1).骨盤底臓器の下垂・脱出程度を客観的に評価するには Baden & Walker の提 唱する halfway system や,各部位の脱出をセンチで示す Pelvic organ prolapse quan-titative description system(POP-Q)などが優れている(図 E-6-2)-2)5). 下部尿路症状に対しては,腹圧性尿失禁症例の外科適応を判定するために,膀胱尿道生 理機能検査が必要である.尿意を感じる程度に蓄尿した状態で,患者に咳をさせて,腹圧 性尿失禁を診断する(咳ストレステスト).高度の骨盤臓器脱では尿道の強い屈曲や基靱帯 内での尿管の圧迫などにより上部尿路の拡張や腎後性腎不全を起こしている場合があるた めに,排泄性尿路造影の適応となる.尿道過可動の評価には外尿道口から膀胱尿道移行部 まで綿棒を挿入し,腹圧による綿棒の動きを角度で評価する(Q-tip 試験).30度以上の可
(図 E-6-2)-1) さまざまな性器脱4)5) a:子宮下垂,子宮脱 b :膀胱瘤,尿道下垂,子宮脱 c :直腸瘤 d :ダグラス窩瘤,子宮脱 動性を異常とする.膀胱頸部の形態評価には,経会陰的超音波が実時間で骨盤底臓器の動 きを捉えられるため有用である.チェーン膀胱尿道造影(逆行性に造影剤と金属の鎖を尿 道に挿入して X 線写真を撮る)で尿道の漏斗化や尿道過可動の描写に有用である.必要な 場合は膀胱鏡,MRI も撮影する. ④治療 a.保存的療法 腟内の挿入するリング状の腟内ペッサリーと骨盤底筋体操(Kegel 体操)が中心となる. 薬物療法としてはホルモン補充療法,漢方薬(補中益気湯)が使用される.腹圧性尿失禁を 合併する場合はβ 刺激剤(スピロペント)も有効である. b.手術療法
POP-Q 分類 stage 3以上で保存的療法によって改善しない,QOL 低下が認められる 症例には外科的療法が選択される.解剖学的子宮腟支持装置の破綻や弛緩部位を修復し, 再建することを目的とする.部位特異的な手術療法を表に示す.
(図 E-6-2)-2) POP-Qによる子宮脱の評価 Aa:処女膜瘢痕からから 3cm 近位の前腟壁中央部,Ba:Aa~ C間の部分で最も突出した部 位,C:最も突出した子宮頸部,D:後腟円蓋部(腟尖部),Ap:処女膜瘢痕から 3cm 近位の後 腟壁,Bp:Ap~ C間の部分で最も突出した部位,gh:外尿道口中心から後方処女膜正中部ま での長さ,pb:後方処女膜正中から肛門中心部までの長さ,tvl:全腟長 後腟円蓋部が完全に脱出し,腟壁の最も下降している部位が(腟長-2)cm以上 Stage Ⅳ 腟壁の最も下降している部位が処女膜輪より1cm以上下方にある StageⅢ 腟壁の最も下降している部位が処女膜輪より1cm上方と1cm下方の間にある StageⅡ 腟壁の最も下降している部位が処女膜輪より1cm以上上方にある 3cm Ba Bp gh pb Ap Aa D anterior wall Aa pasterior wall Ap posterior wall Bp posterior fornix D genital hiatus gh perineal body pb anterior wall Ba cervix or cuff C total vaginal length tvl C StageⅠ tvl 腟式に子宮を摘出し,上部腟管を仙骨子宮靱帯,仙棘靱帯,腸骨尾骨筋膜などを利用し て縫合固定し,新たな支持装置とする. (イ)前腟壁形成術 前腟壁を切開し,前腟壁における子宮支持装置の中枢である恥骨頸部筋膜の欠損部を同 定して再建する.膀胱瘤に対する基本術式である.膀胱尿道移行部の筋膜を正中で縫合す る Kelly 法,中部尿道を支持する恥骨尿道靱帯を縫合する Nichols 法などが有効である. (ウ)後腟壁形成術 後腟壁および会陰を切開し,前腟壁の恥骨頸部筋膜と同様に,直腸腟筋膜(Denonvillier 筋膜)の欠損部位を縫合する.会陰体の線維と結合させることが大切である.断裂が著し い場合は両側の肛門挙筋の縫合術も施行されるが,非解剖学的な状態となり,肛門狭窄, 性交障害を来すので注意が必要である. (エ)Manchester 手術 子宮頸部延長型の子宮脱で妊孕性の温存が必要な場合に,延長した子宮頸部を切断し, 頸部に付着していた仙骨子宮靱帯,基靱帯を残存頸部に再縫合し,新たな支持装置とする. (オ)腟閉鎖術 前後腟壁粘膜を尿道口下方約1cm のところより短冊状に剝離し,生じた創面を縫合し て腟を閉鎖する.腟管は閉鎖面の左右に残るため,頸管よりの分泌物の流出が可能である. 性交を必要としない者のみが適応となる.局所麻酔で行うことができ,手術侵襲も少ない ので高齢者やハイリスクの患者に行われる(Le Fort 手術).再発腟脱や難治性の脱出には 完全腟閉鎖術と施行する. 《参考文献》 1.谷澤 修,山地健二.性器の形態と位置の異常.坂元正一,倉智敬一編 総合産科
(E-6-2)-3) 腟式単純子宮全摘術2) 婦 人 科 学 東 京:医 学 書 院,1982; 479―490 2.牧野田知,藤井亮太,今福紀章.内性 器の奇形・位置異常.武谷雄二,青野 敏博,麻生武志,中野仁雄,野澤志朗 編 新女性医学体系17 東京:中山書 店,2002;254―268 3.坂元正一,水野正彦,武谷雄二編.生 殖器系の異常.プリンシプル産科婦人 科 学 婦 人 科 編 東 京:メ ジ カ ル ビュー社,2002;227―340 4.櫻木範明,岡本一平,藤本征一郎.性 分化異常症の治療 B 外科的療法 i.婦 人科領域.武谷雄二,青野敏博,麻生 武志,中野仁雄,野澤志朗編 新女性 医学体系17 東京:中山書店,2002; 319―328 5.古山将康.ウロギネコロジー 学際領 域 の 診 療.日 産 婦 誌 2005;57: N59―71 (2)腟脱(尿道過可動・膀胱瘤・直腸瘤・ 小腸瘤),会陰体損傷 ①総論
a.尿 道 過 可 動 urethral hypermobility, 膀胱瘤 cystocele,直 腸 瘤 rectocele,小 腸 瘤 enterocele 腟脱は脱垂部分の腟に隣接する骨盤臓器の 名称に“瘤”を付して膀胱瘤,直腸瘤,小腸 瘤と呼ばれる.同様に尿道は,以前は尿道瘤 urethrocele と表現されたが,尿道は瘤状に ならず,前腟壁遠位の弛緩に伴う外尿道口を支点とした回転性の動きをするので,尿道過 可動と表現する(図 E-6-2)-4). b.腟の支持構造 膀胱,尿道,子宮,直腸,会陰,肛門などの骨盤底臓器の支持機構を理解するうえで中 心となる腟の解剖学的支持構造が重要となる.腟の軸は下1"3と上2"3は傾きが異なって おり,また直腸と肛門の軸は直交している.尿道と腟管下部1"3は立位で垂直に近い軸で あるが,腟管上部2"3と直腸はほぼ水平となる(図 E-6-2)-5).また,尿道,腟管下部1"3, 直腸下部は挙筋裂孔を貫き,肛門挙筋の緊張によって恥骨の方向に強く閉鎖される.これ により,直腸,腟は骨盤底筋とほぼ平行に保たれ,腹圧を腟管上部2"3,直腸,骨盤底筋 で受け止めている.この折れ曲がり構造による羽蓋弁(flap-valve)効果が必要である.し たがって腟の支持機構は近位から3つのレベルに分類してことができる1) .レベルⅠは子 宮頸部,腟円蓋部の支持で,これらは仙骨子宮靱帯・基靱帯系によって仙骨の方向に強く 牽引支持される(図 E-6-2)-6)仙骨子宮靱帯部は基靭帯の中後方の筋膜と結合し,これら
(図 E-6-2)-4) 尿道瘤,膀胱瘤,直腸瘤,小腸瘤 A.尿道瘤,B.膀胱瘤,C.直腸瘤,D.小腸瘤 BL:膀胱,E:小腸,R:直腸,U:子宮 (図 E-6-2)-5) 立位における腟軸の方向 上方の腟は肛門挙筋板の上にほぼ水平にのっ ている. LM:肛門挙筋脚
(From Nichols DH, Randall CL. Pelvic anatomy ofthe living.In :Nichols DH, RandallCL,eds.VaginalSurgery 4thed.
Baltimore :Williams & Wilkins,1996 ; 22) (図 E-6-2)-6) 腟の支持組織 前腟壁は恥骨頸部筋膜,後腟壁は直腸腟筋膜 で裏打ちされ,腟上端は子宮頸部を介して基 靭帯,仙骨子宮靭帯に吊り上げられている. CAL:基靭帯,LM:肛門挙筋,PCF:恥骨 頸部筋膜,RVF:直腸腟筋膜,USL:仙骨子 宮靭帯
(図 E-6-2)-7) 恥骨頸部筋膜,直腸腟筋膜, 骨盤筋膜腱弓,坐骨棘の位置関係 恥骨頸部筋膜は側方で骨盤筋膜腱弓に付着し ている. ATFP:骨盤筋膜腱弓,ATFRV:直腸腟筋膜 腱弓,B:膀胱,IS:坐骨棘,PCF:恥骨頸 部筋膜,RVF:直腸腟筋膜,U:子宮,V:腟 (Zimmerman CW. Pelvic organ
pro-lapse. In : Rock JA, Jones HWⅢ, eds. Te Linde’s Operative Gynecology. Philadelphia : Lippincott Williams & Wilkins,2003 ;932を改変) (図 E-6-2)-8) 腟のへこみの形状を保つ支 持機構 Aの状態に内圧が加わると,容易に Bのよう に反転してしまう.へこみの尖部が固定され る(C),へこみの角度を変化させて固定され る(D)と内圧に対して反転しなくなる.へ こみの出口が閉鎖される(E). A B E C D の線維は子宮頸部,上部腟管の筋膜と合流して,S2-S4の前仙骨筋膜へこれらの臓器を 強く懸垂する.その結果,子宮頸部,上部腟管を肛門挙筋板の上部に位置させることがで きる.レベルⅡの部分は腟管上部2"3の支持を示している.腟上部2"3の水平軸は坐骨棘 から恥骨の後方へのび,膀胱,直腸を側方に支持する.この支持は基靭帯・仙骨子宮靱帯 複合体の内骨盤筋膜(レベルⅠ)から連続し,強度のある帯状の線維で,恥骨頸部筋膜(恥 頸筋膜 pubocervical fascia(PCF)),直腸腟筋膜(rectovaginal fascia(RVF))とよばれ る(図 E-6-2)-7).これらは側方で骨盤筋膜腱弓(白線)に付着する.この付着によって腟 の上外腟溝が形成される.レベルⅢは腟管下部1"3の部分の支持で,この部分は肛門挙筋 群筋膜,尿道,会陰体に癒合して強度を保つ.この部位の支持軸は生殖三角,肛門三角に 垂直な軸である.これらの臓器の関係に異常が生じると失禁や脱出が起こる. 支持と脱出のメカニズムを単純な系で示すと図 E-6-2)-8のようになる.腟は骨盤内に 内向きにへこんだ形で維持されている臓器であり,このへこみに何の支持もなければ,腹 腔内圧の上昇によって裏返るように突出する.このへこみ構造を維持するには,①へこみ の最も奥の部位が固定される ②へこみが羽蓋弁構造のようにおれまがり,外壁と平行に なる ③へこみの出口がしっかり固定される,ことが必要となる.骨盤はまさにこの機構 をすべて用いて腟を支持している.分娩,加齢,低エストロゲン状態は挙筋裂孔の下降を 来し,挙筋裂孔の下降と開大に伴い腟の軸は縦方向に近づき,腹圧を受けて骨盤内臓器の 下垂を来す. c.腟脱の病因,発生機序 ①病因 最も大きな因子として分娩損傷がある.骨盤底の筋膜,筋肉,結合織に先天的もしくは
(図 E-6-2)-9) 腟脱の発生機序と修復法の 原理―従来の考え方― 腟の支持組織の脆弱化・弛緩・伸展→中央襞 状縫合 (図 E-6-2)-10) 腟脱の発生機序と修復法 の原理―現在の考え方― A.腟の支持組織の中央部の損傷→損傷部位 の縫合 B.腟の支持組織の側方付着剥離→剥離部を 腱弓に固定 後天的に異常があれば未産婦にも生じうる.軽度の腟脱はほとんどの経産婦にみられるが, 閉経前には進行せず,症状もでない.閉経後,エストロゲン環境が低下すると各組織が萎 縮・脆弱化し,病変が顕性化する.腹圧のかかる動作(長時間の立位,咳嗽,くしゃみ, 便秘時の排便)や肥満により悪化する. ②発生機序 a.従来の考え方 腟粘膜とそれを裏打ちする結合織性支持組織または骨盤内筋膜(PCF,RVF)が全体的 に脆弱化して弛緩,伸展する(図 E-6-2)-9上)2)∼4) . b.現在の考え方 まず PCF や RVF の一部が破損し欠損を生じる.直接的な断裂や神経損傷による緩徐 な損傷が原因となる.その後それを覆っている腟粘膜や腹膜が伸展・膨隆してくる(図 E-6-2)-10上)5) . d.腟脱の修復法の原理 ①従来の手法 弛緩,伸展した PCF または RVF を中央で襞状縫縮(plication)し,余剰の腟粘膜を切 除縫合する(図 E-6-2)-9下). ②現在の手法 PCF や RVF の破損部位を特定し,その部位を特異的に修復することで解剖学的支持構 造を復元する(site-specific defect repair)(図 E-6-2)-10下).
e.腟脱の症状
腟膨隆感(“脱出感”),腟の圧迫感,腫瘤脱出感,ボールに腰かけている感じ.これらは 膀胱瘤,直腸瘤,小腸瘤に共通の症状である.
f.腟脱の診察 前腟壁(または後腟壁)を診るには,Sim 型腟鏡など分離式腟鏡の片方で後腟壁および会 陰(または前腟壁)を押さえて腹圧をかけさせる.尿道瘤,膀胱瘤があれば前腟壁が,直腸 瘤,小腸瘤があれば後腟壁が膨隆してくる. g.画像検査 MRI,IVP(膀胱瘤),バリウム造影 X 線側面像(直腸瘤)などは病態の客観的把握に有用 であるが,治療上必須ではない.MRI は高位直腸瘤と小腸癌との鑑別に有用である. h.腟脱の手術適応 腟脱は所見があっても,症状がなければ原則的に手術の適応はない.症状の出現には個 人差が大きく,脱垂の所見とは相関しない. i.腟脱の予防および保存的治療 分娩周辺での骨盤底筋リハビリテーション,閉経期以降のエストロゲン補充療法(ERT) は腟脱の予防に有用である.生殖年齢の女性ではほとんど手術の対象にはならない.挙児 完了までは保存的治療で症状の軽減を図る.高齢者で手術のリスクの高い場合にはそれが 改善するまで保存的治療法を行う. ①骨盤底筋体操(Kegel 体操)6) 肛門挙筋と会陰筋を強化する体操で,妊娠中に開始して産褥期以後少なくとも6カ月続 けると骨盤支持の改善と保持に効果が期待できる. ②エストロゲン補充療法(ERT) 閉経後の症例で ERT は腟脱を予防し,出現を遅延させうる.また,手術操作を容易に する.腟脱,子宮脱の手術前後には ERT を行うことが望ましい7) . ③ペッサリー療法 腟内にリング状のペッサリーを挿入することで,腟脱を矯正できることが多い.肛門挙 筋の強度や外腟口の開大度によってペッサリー挿入の安定度が異なる.長期にわたって連 続的に着用すると,腟粘膜びらん,断裂を来たし,帯下,出血の原因となる.放置すると 腟内に埋没することがある.原則的には患者自身による脱着を指導する.困難な場合は定 期的管理(挿入後1∼2週間目,次いで2∼3カ月間隔)を行い,腟壁の圧迫壊死や潰瘍の発 生をチェックする. ④その他 肥満,慢性咳嗽,慢性便秘,腟・会陰の分娩損傷などは治療しておく. ②各論8) a.尿道過可動 膀胱瘤に合併することが多い.上記の腟支持機構のレベル3の異常による.外尿道口を 支点として回転性に下垂する. ①発生機序 尿道を支える PCF が下端で尿生殖隔膜から外れるか,側方で骨盤筋膜腱弓から外れる. PCF および腟粘膜の脆弱化も原因となる. ②症状
腹圧性尿失禁(stress urinary incontinence(SUI))の最も大きな原因である.同時に切 迫性尿失禁を合併することも多い.尿道過可動だけでは膨隆感等を訴えることは少ない.
③所見
前腟壁下方1"3が膨隆してくる(図 E-6-2)-4).腹圧時に砕石位で外尿道口が上を向く ようになる.
(図 E-6-2)-11) 腹圧性尿失禁の手術 A.従来の TVT(tension-free vaginaltape)法
B.新しい TVT法(trans-obturator vaginaltape,TVT-Oまたは TOT)
尿道過可動の評価には外尿道口から膀胱尿道移行部まで綿棒を挿入し,腹圧による綿棒 の動きを角度で評価する(Q-tip 試験).経会陰的に超音波で膀胱・尿道の動きを観察する. ⑤合併症 貯留した状態で咳をさせると尿道口から尿が漏れる(咳ストレス試験)SUI を合併する. SUI と他の尿失禁との鑑別には排尿日誌,問診,ウロダイナミックテスト,尿路造影,MRI などの画像診断を行う. ⑥治療 SUI を伴う場合,または他の部位の下垂・脱出を伴う場合,治療の対象となる. a.保存的治療法 Kegel 体操;3∼6カ月続けることで効果が期待できる.漫然と施行せずに,肛門挙筋 の収縮をうまく誘導できているかをチェックする.バイオフィードバック法も有用である. b.手術療法 尿道過可動の手術は SUI の手術である. (ア)経腟的手法―従来は前腟壁縫縮術(Kelly 法9) や Nichols 法10) )が施行される.膀胱 瘤の項参照(図 E-6-2)-12). (イ)経腹的手法(腹腔鏡的手法を含む)―(a)Burch 法,(b)傍腟形成術(paravaginal repair)(後述,膀胱瘤の項参照),(c)Marshall-Marchetti-Krantz 法.
(ウ)TVT(tension-free vaginal tape)法―(a)従来の TVT:プロリンメッシュのテー プを付けた針で腟から腹壁に誘導し,中部尿道に緊張を加えることなく支える(図 E-6-2)-11A).(b)TVT-O または TOT(transobturator TVT):同様のテープを専用の誘導器具 で腟から閉鎖孔を通して大腿根部の皮膚に抜く(図 E-6-2)-11B). b.膀胱瘤 ①発生機序 膀胱を支える PCF の局所的損傷によって生じる(図 E-6-2)-4B,図 E-6-2)-12). (ア)中央損傷 midline defect (イ)PCF が中央部付近で縦方向に損傷をきたし,前腟壁の中央部が隣接する膀胱を 伴って下垂し膨隆する.腟粘膜は薄くなり,皺壁が消失する.
(ウ)側方損傷 paravaginal defect または lateral defect