筋力低下に対するアプローチ
中道 哲朗
1)渡邊 裕文
2)Approach for Muscle Weakness
Tetsuro NAKAMICHI, RPT
1), Hirofumi WATANABE, RPT
2)Abstract
It is essential for physical therapists, whose main role is to help people to improve their activities of daily living, to have an ability to solve muscle weakness and muscle tonus abnormality. This article describes the mechanisms of muscle power increase from the perspective of absolute muscle power and cross-sectional area of a muscle. In addition, two examples of the most commonly used exercises in clinical practice are used to show how the authors developed a way to enhance the activities of weak muscles by showing EMG wave patterns. We hope this article will help physical therapists to review their basic knowledge of muscle strengthening exercises.
Key words: muscle weakness, mechanisms, approach
J. Kansai Phys. Ther. 14: 11–15, 2014
はじめに われわれ理学療法士は、日々の臨床において患者の機 能障害に対し、理学療法を実施する。機能障害レベルの 問題には、関節可動域制限、感覚障害、筋力低下、そして 中枢神経疾患である場合には筋緊張異常などが挙げられ る1)。とくに、基本動作の改善が主な役割である理学療法 士は、筋力低下、筋緊張異常を解決する能力を有するこ とが必須である。筋力トレーニングでは、過負荷の法則 をはじめとした原理原則や、筋力強化のメカニズムを理 解したうえで、各患者の年齢や疾患および病期などを考 慮して、適宜トレーニング内容を変更しながら実施する 必要があり、そうすることで期待した効果が得られるこ ととなる。しかしながら、すべての理学療法士が、筋力ト レーニングの原理原則、メカニズムを理解しているであ ろうか。患者に対し、筋力トレーニングに関する的確な 説明と、自主トレーニング指導ができているであろうか。 また、理学療法評価において機能障害として挙げられた 筋肉に対して、的確にその筋肉が収縮するような筋力ト レーニングの肢位や抵抗部位を工夫しているであろうか。 著者らが、比較的経験年数の浅い理学療法士の臨床場面 をみると、このように感じることがある。そこで本稿で は、まず筋力強化のメカニズムについて述べ、加えて筋 力トレーニングの工夫について表面筋電図波形を提示し ながら、その肢位や抵抗部位について解説していくこと とする。 筋力強化のメカニズム 最大筋力は、筋興奮水準を決定する神経的要因に起因 する絶対筋力と、筋断面積の積で表される。まず、絶対筋 力は筋断面積1 m2あたりの筋出力を差す。絶対筋力の増 加は、α 運動ニューロンのインパルス発射頻度の増加に ともなう、筋収縮活動に参加する運動単位(1つのα運動 ニューロンが支配する筋線維数)の増加や、各運動単位 における活動のタイミングの一致(同期化)によりもた らされる。一方、筋断面積については、筋力トレーニング により、まず筋原線維が肥大する。幸田2)の報告によると、 筋原線維の肥大は直径1.1 µmにはならず、ある一定の太 さを超えると筋原線維は分裂を起こし増加するとしてい 1)ポートアイランド病院 リハビリテーション科
積の増加はみられず、絶対筋力の増加にともなう最大筋 力の増加であるとしている。また、20日目以降60日目に は絶対筋力の増加率が減少し、筋断面積が増加すると述 べている。すなわち、筋力トレーニング開始初期の約20 日間では、絶対筋力の増加による最大筋力の増加であり、 20日目以降は、筋断面積の増加による最大筋力の増加が 大きいことがいえる。したがって、たとえば萎縮筋の肥 大を目的に筋力トレーニングを実施する場合、20日以内 のトレーニングでは筋肥大はおこらないため、20日以上 の継続的なトレーニングをおこなわなければならない。 理学療法場面においては、1 回の運動療法で終了する 患者は少なく、とくに入院している患者や介護保険分野 の利用者においては、数カ月から数年間に渡り理学療法 士が関与し、その多くの患者が何かしらの筋力トレーニ ングを実施している。このような患者に筋力トレーニン グを実施する際には、前記した絶対筋力と筋断面積のそ れぞれの増加時期について考慮し、トレーニング期間 を設定することが早期退院や自宅 ・ 施設内ADLの向上 を計画的に進めるうえで重要になると考えられる。また、 患者が筋力トレーニングを継続できるよう、理学療法士 がその目的や方法を明確に説明する能力を有することも 重要である。 筋力トレーニングの工夫 大工谷4)は、注意せず普通に筋力トレーニングをおこ なうと、弱い筋は使わず相対的に強い他の筋を使うよう になり、目的とする筋とは異なる筋が強化されるとして いる。すなわち、主動作筋の筋力低下が生じている場合 に、抵抗部位や肢位に配慮せず筋力トレーニングをおこ なうことで協働筋が運動に動員されやすくなる。実際、 理学療法評価において筋力低下が生じている筋が特定さ れ、その筋力強化を目的に筋力トレーニングを実施して も、充分な効果が得られないといった経験はないだろう か。この場合、ターゲットとする筋が活動する工夫がな されていないことが、その原因の一つとして挙げられる。 ここでは、著者らが臨床で用いている筋力トレーニング に歩行の立脚後期の蹴り出し時に筋力を発揮することが 必要となり、正常歩行においては腓腹筋とヒラメ筋により おこなわれる。しかし、腰部脊柱管狭窄症や腰椎椎間板ヘ ルニア、廃用症候群などにより、下腿三頭筋の筋力低下が 認められた場合、協働筋である長母趾屈筋や長趾屈筋を足 関節底屈運動に動員することが多い。この場合、足関節底 屈にともない足趾の屈曲が生じることとなり、前足部へ の荷重を阻害したり、足底腱膜が伸張されずにウィンド ラス機構が機能せず、立脚後期の蹴り出しが弱化するこ とで、歩行の安全性 ・ スピードの低下が引き起こされた りする。このような患者における足関節底屈の筋力トレー ニングでは、下腿三頭筋が足関節底屈運動に動員されるよ う工夫する必要がある。ここでは、足関節底屈筋力トレー ニングにおける抵抗部位の違いが足関節底屈筋の筋活動 パターンに及ぼす影響について述べる。大工谷4)は、母趾 球支持でのヒールレイズでは主に長腓骨筋が使われ、第2 趾と第3趾の間で支持した場合、長腓骨筋は母趾球支持ほ ど使われず、下腿三頭筋が動員されると報告している。今 回、著者が実施した表面筋電図測定においても、母趾球に 徒手抵抗を加えた場合(図1a)、腓腹筋の筋活動はあまり 認められず、腓骨筋群の筋活動が増加する筋活動パター ンを示した(図1b)。母趾球への徒手抵抗では、それに抗 するため足関節を底屈 ・ 外がえし方向に蹴り出す必要が あり、このとき腓骨筋群が活動することとなる。このため、 足関節底屈の主動作筋である下腿三頭筋の足関節底屈運 動への動員が乏しくなると考えられる。一方、第2・3趾間 に徒手抵抗を加えた場合(図2a)、腓腹筋の筋活動は母趾 球への徒手抵抗時より増加し、腓骨筋群の筋活動は大き く減少する傾向がみられ(図2b)、腓腹筋が足関節底屈運 動に動員されやすくなったと考えられた。以上より、足関 節底屈筋力トレーニングのなかで、下腿三頭筋の筋力強 化を目的とする際には、第2 ・ 3趾間に抵抗を加えること が良いと考えられる。ただ、第2・3趾間に抵抗を加えた場 合においても、足の外がえしや足趾の屈曲がみられる場 合には、抵抗負荷が強すぎることが考えられるため、抵抗 負荷を減少させながら、代償をともなわずに足関節底屈 運動が可能な負荷量を調整する必要がある。
2.ブリッジ動作による股関節伸展筋力トレーニング 背臥位でのブリッジ動作は、多裂筋による腰椎椎間 関節の安定性向上や、股関節伸展筋の筋力強化を目的に 用いられることが多い。川野5)はブリッジ動作において、 膝関節屈曲角度が深い場合は、ハムストリングスが弛緩 するため大殿筋がブリッジ動作の主体となり、膝関節屈 曲角度が浅い場合は、大殿筋と同時にハムストリングス が収縮すると述べている。また、藤本ら6)は立位におけ る側方体重移動において、大殿筋を上部線維と下部線維 に分けて検討している。そのなかで、大殿筋下部線維は 側方体重移動量60%時に比べて側方体重移動量95%時で 有意な増加を認めたとし、これは股関節伸展作用として 骨盤の前後方向への安定性に関与したとしている。一方、 大殿筋上部線維は側方体重移動量60%時に比べて側方体 重移動量80% ・ 90% ・ 95%時で有意に増加し、側方体重 移動量80%以上では股関節外転作用にて骨盤の左右方向 への安定性に関与し、側方体重移動量95%時には股関節 伸展作用として骨盤の前後方向への安定性にも関与した と報告したうえで、大殿筋は上部線維と下部線維を個別 に評価する必要性を述べている。著者らの理学療法場面 においては、歩行動作の立脚初期、立ち上がり動作の屈 曲相から殿部離床の切り換え時の働きとして重要である 大殿筋下部線維の筋活動を促す目的でブリッジ動作を用 いることが多い。しかしながら、その動作方法によって は大殿筋下部線維の筋活動が得られず、多裂筋や最長筋、 腸肋筋などの脊柱起立筋が主として活動することを経験 する。以下に、大殿筋下部線維の筋活動を促すことを目 的に、ブリッジ動作を実施する際の工夫について述べる。 患者にブリッジ動作をおこなわせる際、理学療法士か ら患者への声の掛け方により動作パターンが変化するこ とがある。とくに、殿部を高く挙げるよう指示した場合 には、腰椎伸展が動作初期にみられ、遅れて股関節が伸 展し、結果的に胸 ・ 腰椎伸展が強調された動作となりや すい(図3a)。またブリッジ動作では、上肢や頭部の使い 方にも注意が必要となる。上肢による支持の多くは、肘 頭部や手掌、前腕腹側であり、ブリッジ動作の開始をこ の上肢支持から実施する。そして肘頭部や手掌、前腕腹 側を支点として肩関節を伸展させ、これにともない肩甲 骨の内転・下方回旋、胸・腰椎伸展が強調されることで、 積極的な股関節伸展運動が得られにくい状況となってし 図 1 母趾球への徒手抵抗時の筋活動パターン 図 2 第2・3趾間への徒手抵抗時の筋活動パターン
まう。さらに、上肢支持を用いる場合、頸部伸展により頭 部を床面に押し付けることもあり、これにより胸 ・ 腰椎 伸展が増強する患者も多く認める。このように股関節伸 展が乏しく、胸腰椎伸展が強調されたブリッジ動作時の 筋活動パターンでは、大殿筋下部線維の筋活動はみられ ず、最長筋や腸肋筋および多裂筋の筋活動が増加する傾 向を示す(図3b)。このとき、多裂筋と腸肋筋は積極的な 腰椎伸展位保持に関与したと考えられる。また、最長筋 について鈴木ら7)は、全胸椎の横突起に停止し、また肋 骨角にも停止していることから胸椎伸展と胸郭の垂直位 保持に関与すると報告している。このことから胸腰椎伸 展が強調されたブリッジ動作において、最長筋は積極的 な胸椎伸展とその肢位保持に関与したと考えられる。こ のように最長筋、腸肋筋、多裂筋の筋活動による胸腰椎 伸展が強調された場合、大殿筋下部線維による股関節伸 展作用の必要性が乏しくなるため筋活動を認めなかった と考えられる。以上のことを考慮すると、ブリッジ動作 において大殿筋下部線維の筋活動を促すためには、開始 肢位と動作方法を工夫することが重要となる。まず開始 肢位である背臥位での膝立て位において、可能であれば 両上肢を頭部の後ろで組ませ、頭部を挙上させる。頭部 の挙上ができない場合は、枕を高くし、上肢は胸の前で 組ませると良い。このように開始肢位をセットすること で、頸部伸展による頭部の床面への押し付けを困難にす ると同時に、上肢支持もできなくなる。さらに胸椎が屈 曲することから、ブリッジ動作時における胸椎伸展も抑 制でき、それにともない腰椎伸展もある程度制御できる と考えられる。上記の方法で開始肢位のセットができれ ば、つぎに殿部を挙上する。殿部の挙上は、高く挙げる ことを目的とするのではなく、あくまでも股関節伸展を 促す必要がある(図4a)。開始肢位をセットしても、殿部 挙上時に胸腰椎伸展が強く生じる患者には、開始肢位に おいて、理学療法士の一方の手で大殿筋下部線維を把持 し、股関節伸展による骨盤後傾を促す。もう一方の手は、 殿部挙上にともなう腰椎伸展が生じないよう、患者の腹 直筋や内外腹斜筋を把持し収縮させる。このような方法 で実施したブリッジ動作時の筋活動パターンは、大殿筋 下部線維、内外腹斜筋および腹直筋の筋活動が認められ る一方で、最長筋や腸肋筋、多裂筋の積極的な活動はみ られなくなる(図4b)。すわなち、開始肢位において内 ・ 外腹斜筋と腹直筋による胸郭の引き下げにともなう胸椎 屈曲と、腹直筋による骨盤前部の引き上げによる骨盤後 傾をセットすることが重要であり、股関節伸展を用いな ければブリッジ動作をおこなえない状況をつくることが 図 3 腰椎伸展を強調したブリッジ動作と筋活動パターン
重要になる。 以上のように、抵抗部位や動作戦略の違いにより、筋 活動パターンは大きく異なることから、患者に筋力ト レーニングを実施、指導する際には、ターゲットとする 筋が活動する方法を分析したうえで実施する必要がある。 おわりに 現在、疾患別リハビリテーションでは日数制限、回復 期リハビリテーション病棟では入院の上限日数が定めら れている。さらに、平成26年の診療報酬改定では、療養 病棟の在宅復帰機能加算が新設された。このようにリハ ビリテーションには、早期治癒や早期在宅復帰が求めら れており、2025年の地域包括ケアシステムの構築に向け て、その方向性はさらに促進されると推察される。その ためにも、本稿で述べたような筋力強化に必要な要素や メカニズムおよびトレーニング期間について理解し、計 画的に筋力を強化することが重要となる。また、筋力低 下筋と協同筋の筋活動パターンを評価し、ターゲットと する筋が運動に動員されるよう抵抗部位や動作方法を工 夫することも必要である。本稿が、筋力トレーニングの 基礎的な復習として、また理学療法場面の一助になれば 幸いである。 文 献 1) 鈴木俊明:再考 理学療法基本技術.関西理学 10: 1–4, 2010. 2) 幸田利敬:筋力トレーニングについて.運動生理 9: 131– 138, 1994. 3) 福永哲夫:ヒトの絶対筋力.杏林書院,1978. 4) 大工谷新一:理学療法における筋力トレーニングの考え方. Sportsmedicine 135: 22–32, 2011. 5) 川野哲英:ファンクショナル・エクササイズ.pp80–81,ブッ クハウス・エイチディ,2004. 6) 藤本将志・他:立位における側方への体重移動の変化が 移動側大殿筋の筋電図積分値に及ぼす影響.関西理学 7: 71–74, 2007.
7) 鈴木俊明・他:The Center of the Body— 体幹機能の謎を探
る—,第 3 版.pp34–37,アイペック,2008.