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日本基礎心理学会第37回大会(2018年11月30日~12月2日 専修大学生田校舎)

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日本基礎心理学会第37回大会

(2018年11月30日∼12月2日 専修大学生田校舎)

口頭発表 神経引き込みを用いた,時間長の記憶表象の検証 東京大学 四本裕子 東京大学 範 志偉 視覚や聴覚などの感覚刺激の時間長知覚には,複数の 領域にまたがる大域的な脳内情報処理が関与している。ま た,その情報の統合の過程で,特定の周波数の同期的神経 活動が時間長の知覚に影響を及ぼすことが知られている。 本研究では,時間長弁別課題や時間長再生課題において, 時間長が短期記憶で表象される様子を心理物理学的手法 を用いて検証した。結果,複数の時間長知覚において,系 列位置効果,記憶負荷の効果,アイテム間の類似性の効果 があることを確認した。さらに,経頭蓋交流電気刺激 (tACS)を用いて,時間長刺激を記憶させる際にさまざま な周波数で視覚皮質近傍を刺激し,神経引き込みが時間 長の知覚に及ぼす効果を検証した。その結果,ある特定の 周波数を用いた場合に,時間長知覚の成績に影響が出るこ とを明らかにした。この実験の結果は,神経引き込みが時 間長の記憶表象に影響したものだと考えられる。 歩行時の歩幅操作が自身の性役割評定に与える影響 立命館大学  金谷英俊 筑波大学  藤  桂 立命館大学  森 知晴 京都工芸繊維大学 西崎友規子 立命館大学  永井聖剛 歩行時の動作の諸特性が歩行者自身の心理状態にどの ような効果をもたらすかについて,本研究では歩行時の 歩幅の大きさと性役割評定との関係に着目し実験的に検 討した。実験参加者は直線廊下にて,往路では参加者が 日常歩いているように,復路では往路の場合よりも大き な歩幅,もしくは小さな歩幅で,いずれも真っ直ぐ 30 m 歩行するように求められた。往路・復路それぞれ で参加者の歩数と歩行時間を測定した。歩行終了後,参 加者は,男性役割概念を示す項目が提示された質問紙を 読み,各項目がどれだけ自身に当てはまるかを7段階で 評定した。得られたデータから,群間の性役割評価の差 などを解析し,歩幅との関係を考察する。 身体錯覚実験における視点と身体動作の同期が自己感に 与える影響 お茶の水女子大学/日本学術振興会 東井千春 お茶の水女子大学 石口 彰 自分が自分の身体の中にいるという感覚=身体的自己 意識の生起メカニズムについて,ラバーハンド錯覚を始め とする,身体錯覚実験を用いた研究によって検討されてき た。これまでは,多感覚統合が最も重要な役割を果たす と言われてきたが,特に全身を対象とする身体錯覚実験 においては,一人称視点もまた重要な要素となりうると考 えられる。そこで,今回は一人称視点に着目し,一人称視 点に付随する身体動作=頭部の動きを操作することで実 験を行った。VR-HMDを用いた全身錯覚実験において, ヘッドトラッキング機能の操作により,身体動作と感覚情 報のずれを作り出して実験を行ったところ,自己定位感覚 に大きな影響がみられた。このことから,多感覚統合だけ ではなく,一人称視点もまた,自己感に影響を及ぼす重要 な要素であること,そして,視覚–触覚情報の同期だけで はなく,感覚–運動協調もまた,身体的自己意識の獲得に 影響を与える可能性が示唆された。 共感覚: なぜドレミファソラシは虹の七色か? 新潟大学 伊藤浩介 ドレミファソラシに色を感じる 33名の共感覚者を調 べたところ,①この感覚は長期間安定している,②色と 結びつくのは音ではなく「ド」などの音名である,③音 名と色の間にストループ様の効果を認める,④絶対音感 とは無関係である,⑤ドレミファソラシに対応する色 は,全員の平均をとると虹色のようなグラデーションを 示す,ことがわかった。ドレミファソラシが虹の七色の ようになる理由が謎である。小さい頃の音楽教材や楽器 玩具,ドレミの歌などの複合的原因が考えられるが,こ こでは別の可能性として「序列仮説」を検討する。音階 音はそれぞれ固有の音楽的機能を持ち,例えばドはミよ り主役であるといった序列がある。一方,色にも色名の 進 化(Berlin & Kay, 1969) や 学 習(Wagner et al., 2013) に現れる序列がある。序列1位同士の「ド」が赤である など,音名と色は,序列という属性を介して共感覚で結 びつくのかもしれない。

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食べ物の選好と食感オノマトペの音韻との関係の分析 公立はこだて未来大学 花田光彦 食べ物の選好と食べ物の食感を表現するオノマトペの 音韻との関係を調べた。被験者は食べ物の写真画像を見 て。その食べ物の食感に相応しいオノマトペを思いつく だけ回答した。その後,食べ物がどれくらい好きかなど の質問に回答した。好きな程度を説明変数を,第一子 音,第一母音,第二子音,第二母音をそれぞれ従属変数 にした多項ロジスティック回帰分析を行い,選好度の平 均部分効果を求めた。結果,食べ物の好きな程度が上が るにつれて,第一子音の/z, t, h/,第二子音の/z, h, y/,第 一母音の/i/,第二母音の/u/が増加し,第一子音の/n, b, p/,第二子音の/s, n, b/,第一母音の/e/,第二母音の/i, o/ が減少する傾向が見られた。食べ物が好きなほど有声子 音の/z/が使われるというように,食感のオノマトペに 特有な音韻と選好度の関係があることが示唆された。 ラットは腹具合が悪いと土を喰うか―乳糖不耐症の場合― 関西学院大学 中島定彦 ラットは神経的・筋肉的理由により嘔吐できないが, 催吐剤投与や放射線照射といった,ヒトに悪心(吐き 気)を引き起こす処置をラットに施すと,粘土を食べる 異食行動を示す。すべての腹部不快感が粘土食を引き起 こすわけではない。高張食塩水の腹部への注射は急激な 痛みをもたらすが,粘土食は生じない。つまり,腹部不 快感であっても疝痛は粘土食を引き起こさない。本研究 では,乳糖溶液を自由摂取したラットが粘土を食べるか どうか検討した。多くの哺乳類と同じく,ラットは離乳 期を境に小腸のラクターゼが激減して乳糖不耐になる。 このため,乳糖溶液を摂取すると下腹部膨満感や下痢を 生じる。実施した 3つの実験のうち1つで,わずかに粘 土食を確認した。このことは,粘土食が悪心以外の内臓 不快感を反映する可能性を示唆するが,ヒトの乳糖不耐 症では悪心を伴うこともあるため,ラットにおいても悪 心が生じて粘土食を生んだのかもしれない。 嫌なやつと握手した人は嫌なやつ?―ヒトを介した道徳 的嫌悪の二次感染― 九州大学 池田鮎美 九州大学 山田祐樹 殺人犯のような道徳的に嫌悪される人物と物理的に接 触したモノは,一度の接触であってもその人物の特性に 感染したとして同じく嫌悪される。これまで衣類等を用 いてこの感染は検討されてきたが,人から人への感染が 生じるかは未だ検討されていない。本研究では,悪人へ の道徳的嫌悪が,悪人と物理的接触を持った第三者に感 染するのかを検討した。実験では,実験参加者に対し実 験者をカウンセラーであると教示し,実験者が男性と握 手・会話をしている動画を見せた。その後,実験参加者 に実験者と握手・会話をすることを求めた。握手への応 答の可否と応答時間を記録し,セッションの終了後カウ ンセラーの印象評定を求めた。また事前に日本語版嫌悪 尺度(DS-R-J)に回答を求めた。その結果,動画におけ る握手・会話の相手が会社員と教示された統制群に比 べ,殺人犯と教示された実験群はカウンセラーへの好感, 握手・対面への快さが低下する可能性が示唆された。 リカート型と異なるデザインの回答形式が持つ効果 慶應義塾大学 坂上貴之 慶應義塾大学 森井真広 慶應義塾大学 増田真也 リスク関連の質問項目で構成されたウェッブ調査の最 終部分に不安全行動測定尺度(山下,2002)から選んだ 20項目を設定し,デザインの異なる4つの回答形式パタ ン,(A)ラジオボタンによるリカート型,(B)数字が 大きくなると選択肢の円ボタンの直径が大きくなる順ダ イヤル型,(C)逆に数字が大きくなると直径が小さく なる逆ダイヤル型,(D)正5角形を構成する5つの正三 角形に数字を付したルーレット型,のいずれか1つのパ タンで回答を求めた。リカート型を除く3パタンで数字 はランダムに提示された。項目の提示は回答者毎にラン ダム,各パタンに400名ずつが割り当てられた。その結 果,(1)逆ダイヤル型,ルーレット型,順ダイヤル型の 順で回答値が低くなり,(2)順ダイヤル型を筆頭に回答 順に従って10項目まで値が減少し,(3) 中間カテゴリの 選択頻度はリカート型で多くルーレット型で少なく, (4)位置による回答バイアスはリカート型を除く3パタ ンでは見られなかった。

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運動主体感の生起における予測誤差とregularity detection の役割

東京大学    温  文 University College London Patrick Haggard 運動主体感とは自分の意識によって自分の行動をコン トロールし,さらに外界の変化を引き起こしたという主 観的な感覚を指す。その生起メカニズムにおいて,運動 指令に基づく予測と感覚フィードバックを比較する際に 生じる予測誤差が重要であると考えられる。そこで,本 研究では,予測誤差のほかに,連続なサンプリングと バッファーが条件となる regularity detection も運動主体 感の生起に重要な役割を果たしていると提案した。実験 では,指の運動と画面上に提示されるドットの運動方向 の間の相関を,角度バイアス及び他人の運動の混合の2 種類の方法を用いて操作した。前者では予測誤差を生じ させるものの,regularity detectionを妨害しない。実験の 結果,90 度の角度バイアスと60%の他人の運動は,運 動制御低下に対する効果が同じ程度であったが,前者よ りも後者における運動主体感が大幅に低下した。予測誤 差のほかに,regularity detectionは運動主体感の生起にお ける重要な入力であることを明らかにした。 人は待つことを不当に回避する: メタ認知的予測が行動 選択に及ぼす影響 高知工科大学/日本学術振興会 波多野 文 高知工科大学  繁桝博昭 University of Reading/高知工科大学  村山 航 先行研究より,人間は何もせず待つことを苦痛に感じ 回避する傾向があることが示されている。しかし他方で は自己の内発的動機づけに対するメタ認知は不正確で, 待つことに対する動機づけが過剰に低く評価されること も示されている。本研究ではメタ認知的予測の不正確さ が行動選択に及ぼす影響を検討するために,参加者に待 つだけの課題とインターネットを閲覧する課題を呈示し, 課題の選択,課題に対する動機づけ予測,実際の動機づ け評価を比較した。参加者はそれぞれの課題が当たりや すく設定されたくじを引いて課題を選択した(実際には どちらを選んでも条件に合わせた結果が表示された)。そ の結果,インターネット課題が選択されやすく動機づけ 予測も待つだけ課題より高く評価されたが,実際の動機 づけ評価には差がなかった。これらの結果から,実際の 楽しさに差がなくても,待つだけに対する動機づけは過 剰に低く評価され,回避されやすいことが示された。 長短線分の探索非対称性の文化差: 日米加台における比較 京都大学 上田祥行 National Taiwan University 蔡 佳君 National Taiwan University 簡 頌恩 National Taiwan University 葉 素玲 京都大学 齋木 潤 A. Treismanの特徴統合理論からは,短い線分の中から 長い線分を探すほうがその逆よりも効率良くできるとい う探索非対称性が予測されており,実際に Treisman & Gormican (1988) では,その傾向を持つデータが示され た。しかしながら,同じ実験を日本人参加者が行った場 合には,探索非対称性は見られない (Ueda et al., 2018)。 この結果が文化によるものか,日本人参加者に特異的に 見られるものかを検討するために,Ueda et al. (2018)と 同様の課題を日本と同じ東アジア文化圏である台湾で 行った。その結果,台湾人参加者でも日本人参加者と同 様に,長短線分を用いた探索課題において探索非対称性 が見られなかった。このことは,長短線分探索の探索非 対称性が生起しないのは日本人に特有ではなく,東アジ ア文化圏に共通の現象である可能性を示唆している。こ れまで,日本・アメリカ・カナダで取得したデータと比 較し,探索非対称性の生起に文化基盤が与える影響につ いて議論する。 ヒト乳児の運動視における受容野構造の発達過程 中央大学 中島悠介 中央大学 山口真美 日本女子大学 金沢 創 高コントラストの視覚運動刺激を知覚する際,刺激サ イズが大きくなるほど,運動方向の弁別が困難になる。 これはMT野神経細胞における周辺抑制のメカニズムを 反映した現象だと考えられている(Tadin et al., 2003)。 本研究はこの現象を利用して,ヒト乳児における受容野 構造の発達過程を検討した。周辺抑制が生後いつ頃獲得 されるかを検討するため,生後3–8カ月の乳児を対象に, 大小の刺激のどちらで運動方向をよく弁別できるかを調 べた。3–5カ月児は大きい刺激の方が運動方向をよく弁 別できた一方,6–8カ月児は小さい刺激の方がよく弁別 できた。この結果は生後6カ月頃に周辺抑制が獲得され ることを示唆する。さらに,受容野サイズの発達的変化 を検討するため,同様の方法を用いて受容野のサイズを 推定した。その結果,低月齢では高月齢より受容野が大 きく,月齢が進むに従い受容野が縮小していくことが示 唆された。

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空間周波数による視聴覚間の時間ずれの急速再較正への 影響 同志社大学 竹島康博 視聴覚情報の統合処理では,2つの感覚刺激の提示が 時間的に同期していることが重要な要因の1つと考えら れる。一方,2つの感覚刺激の同期判断を行っていく過 程で,前の試行の提示タイミングによって主観的同期点 が変化していく急速再較正という現象が報告されてい る。これまでの実験で,視覚刺激の空間周波数によって 急速再較正の過程が異なることが示唆されている。本実 験では,空間周波数の影響についてさらなる検討を行う ため,先行実験のように空間周波数ごとブロックに分け るのではなく,異なる空間周波数の刺激をランダムな順 序で提示して視聴覚間の同期判断課題を行った。一試行 前の提示タイミング別の主観的等価点の変化をみたとこ ろ,低空間周波数刺激では聴覚先行と視覚先行で対称的 な変化であったのに対して,高空間周波数刺激では非対 称的な変化となっていた。本実験より,空間周波数によ る急速再較正過程の違いを示す新たなデータが得られ た。 前景オブジェクトと不整合な背景の符号化は抑制される ―オブジェクト認知におけるシーン整合性効果の要因― 東京大学 中島亮一 東京大学 横澤一彦 オブジェクトと背景が整合する場合,不整合の場合と 比べ,オブジェクト認知が促進される(整合性効果)。 これは,オブジェクトと背景の情報処理の相互作用を示 しているが,どのような相互作用かは明らかではない。 本研究では,オブジェクト認知におけるオブジェクト・ 背景の符号化処理に着目して,整合性効果を検討した。 実験では,事前に指定されたカテゴリとオブジェクト画 像が一致するかの判断を求めた(オブジェクト判断課 題)。その際,オブジェクトと背景の整合・不整合の条 件を操作した。その後,オブジェクト判断課題の呈示画 像について再認課題(オブジェクト・背景)を行った。 オブジェクト判断課題では整合性効果が見られた。ま た,オブジェクトの再認成績は条件間で差がなかった が,背景の再認成績は不整合条件で悪くなった。よっ て,オブジェクト認知における整合性効果は,整合時の 促進ではなく,不整合時の抑制によって生起すると考え られる。 ポスター発表 強化スケジュールのWEB実験プラットフォーム構築の試み 慶應義塾大学 藤巻 峻 明星大学 丹野貴行 流通経済大学 井垣竹晴 慶應義塾大学 坂上貴之 学習現象を扱うにはある程度長い期間にわたる実験実 施が必要である。この理由から,学習心理学・行動分析 学の基礎研究では動物を主な実験対象としてきた。しか しながら,動物実験で明らかにされた学習原理のヒトへの 一般性の確認は必須の課題である。本研究では,ヒトを 対象とした学習実験を容易に行える実験プラットフォーム の構築を試みた。変動比率スケジュール,変動時隔スケ ジュール,固定時隔スケジュールに基づき得点を提示す るWEBゲームを作成した。実験対象者となる大学生に簡 単な説明をした後,iPadを貸与し,1日1回,30分程度の ゲームを数日間にわたりプレイさせた。ゲームをプレイす るにあたってwifi接続は必要としたが,場所や時間は特に 指定しなかった。実験の結果,スケジュール間での反応 率の差など動物実験で頑健に見られている現象が,幾人 かの参加者において再現された。こうしたWEB実験プ ラットフォームを成功させる要因について考察する。 行為結果の予測性が曖昧な報酬手がかりの処理に与える 影響の検討 慶應義塾大学 田中拓海 慶應義塾大学 川畑秀明 ヒトはある行為が外界にもたらす変化を予測し,それに 基づいて行動の選択・学習を行っている。近年,課題に無 関連な行為結果であっても,その予測可能性が潜在的に動 機づけやパフォーマンスを向上させることが明らかにされ て い る(e.g., Eitam & Higgins, 2013; Karsh & Eitam, 2015a, 2015b) 。一方,それらの現象の根底にあると考えられる行 為結果の予測と報酬処理および行為選択の直接的関係は未 検討である。本研究では,曖昧性を含むランダムドット モーション刺激を用いた知覚的意思決定課題において,行 為–結果間の連合学習によって成立した予測に反する課題 非関連なフィードバックが報酬認知にどのような影響を与 えるかについて検討した。本実験の手続きにより,先行研 究において厳密な統制がなされていなかった,予測不一致 刺激の呈示による注意等への副次的影響を定量化しなが ら,知覚処理の正確性と報酬認知のバイアスに対する予測 性の効果をそれぞれ分離して評価することが可能となった。

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ヒトを対象とした反応復活の制御要因の検討 流通経済大学 井垣竹晴 流通経済大学 山岸直基 明星大学 丹野貴行 慶應義塾大学 藤巻 峻 慶應義塾大学 坂上貴之 以前に訓練され消去された反応(標的反応)が,それ 以外の反応(代替反応)の訓練と消去によって復活する 現象を反応復活と呼ぶ。本研究では,ヒトを参加者とし た反応復活の基礎研究において,これまで用いられるこ とのなかった多元スケジュールを用いて,負の強化で維 持された反応復活の制御要因の検討を行う。結果とし て,両強化スケジュール成分で,明確な反応復活が見ら れること,さらに強化率の高い標的反応の成分でその程 度が強く,先行研究の結果と同じ傾向が見られることを 確認した。本研究結果から,ボタン押しといったヒトを 用いたコンピュータ実験で典型的に用いられる手続きに おいても,多元スケジュールで負の強化の反応復活が確 認できることが示された。今後は,正および負の強化が 反応復活に及ぼす効果の比較や,実験プログラムを WEB 上で実施可能なゲームとした場合の効果などを検 討する。 マウスにおける相対的数量の弁別 相模女子大学 後藤和宏 相模女子大学 木村みく マウスを研究の対象として,相対的数量弁別を検討し た。C57BL/6N のオス 6 個体をタッチモニターを取り付 けたスキナー箱で訓練した。餌箱の LED が点滅したあ と,餌箱内に頭を入れると,画面上に左右2つの異なる 数量を示す刺激が提示された。ドットの数が8個を正解 とし,4個を不正解とした。正解反応は20 mgのペレッ トで強化され,不正解反応は5秒間のタイムアウトで弱 化された。学習が成立した後,様々な新奇のドット数か らなる刺激対を用いてテストしたところ,8対7以外の 新奇刺激対に対して般化した。また,数量弁別は,数量 差の比率に関してウェーバーの法則にしたがっていた。 さらに,輝度を下げた刺激を用いた刺激対に対しても般 化し,輝度のみを残し画像情報を破壊したスクランブリ ング刺激では,正答率が低下してしまったことから,マ ウスは相対的な輝度差ではなく,数量差を手がかりに弁 別していると考えられる。 ハトにおけるオブジェクトベースの注意は記憶を促進 するか? 千葉大学 藤井香月 千葉大学 牛谷智一 これまでの研究において,先行手がかり(cue)の呈 示されたオブジェクト全体に注意が向くオブジェクト ベースの注意過程を,ハトも有している可能性が示され た。本研究では,オブジェクトベースの注意がオブジェ クト上に呈示された図形の記憶に与える影響を調べた。 まず,異なる色の 2本の長方形上に呈示したcueにハト が反応した後,長方形上 2か所に同じ見本図形を1つず つ一定時間呈示した。その後,見本と同じ図形と呈示さ れなかった図形のうち,前者を選ぶことをハトに訓練し た。見本の 2つの図形を互いに異なるものにしたとき, cue と同じ長方形上に正答となる図形が出現する Within 条件と,異なる長方形上に出現するBetween条件とで正 答率を比較した。両条件の正答率に差はなかったが,見 本 2 図形のうち,最初に反応する図形は,cueと同じオ ブジェクト上の図形の方が多かった。オブジェクトベー スの注意は働いているものの,それが記憶を促進する証 拠は得られなかった。 ハト(Columba livia)の視運動知覚における1次運動の 優位性 京都大学 幡地祐哉 京都大学 黒島妃香 京都大学 藤田和生 ヒトの視運動処理は,輝度の変化を捉える1次運動か ら,より複雑な高次運動まで,多階層の検出機構から 成っている。これは生物一般にみられる,視運動を検出 するための最適なかたちなのだろうか。本研究は,2種 類の階層的な運動刺激に関し,ハトがヒトとは異なる方 向に運動を知覚することを示した。タッチモニタ上にラ ンダムドット運動とそれを取り囲む反応ドットを提示 し,ハトに対し目標刺激と同方向の反応ドットをつつく ことを訓練した。訓練完了後,楕円窓内の正弦波刺激 (床屋のポール錯視),もしくは異なる方向の正弦波を 2 つ重ねた刺激(プラッド運動)を提示し,ハトの反応方 向を調べた。ヒトは通常これらの刺激に対し高次運動に 基づく方向に運動を知覚するが,ハトは1次運動または 1次運動のベクトル平均の方向に反応した。この結果は 脊椎動物内での視運動処理様式の多様性を示唆する。こ うした種差を規定する系統的,環境的要因について考察 する。

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ハトによるランドマークベースのゴール探索: アリーナ 実験の写真刺激を用いて 千葉大学  牛谷智一 千葉大学 森下理桜子 千葉大学  関口勝夫 京都大学/千葉大学  國府 文 千葉大学 渡辺安里依 現実空間を撮影した写真をモニタ上に呈示し,その空 間内の特定の場所に対応する位置をゴールとする探索課 題をハトに訓練することで,彼らのランドマーク使用方 略を検討した。手がかりの多い複雑な屋外風景写真を 使った先行研究はあるが,個々のランドマークのどのよ うな性質が使用されたか十分には検討されなかった。本 研究では,手がかりの統制しやすい屋内のゴール探索実 験のセッティング写真を使用した。アリーナ内に小さな カップを5行5列に配置し,互いに色・形の異なる2個の ランドマークと特定の3角形をなす位置のカップをゴー ルとした。このセッティングを8方向から撮影した8写真 のいずれかがタッチモニタ上に呈示され,ゴールを選択 すると,餌が与えられた。ハトは,正しいゴールの選択 を学習した。新奇角度からの写真を用いた転移テストで は,ゴールへの反応確率が大きく減少した。エラーの分 布からハトが用いたランドマーク使用方略を考察する。 ハトの視覚探索における文脈手がかり効果 千葉大学 関口勝夫 千葉大学 今岡尚子 千葉大学 牛谷智一 千葉大学 一川 誠 視覚探索において,標的刺激と妨害刺激の同一配置(文 脈)を繰り返し経験することで,文脈が潜在的に学習されて 探索が促進される。こうした文脈手がかり効果はヒト特有 なものか検討した。外枠の形(四角形/円),中心線の方向 (水平/垂直),大きさ(大/小)の3特徴次元で構成される8 図形の1つを標的刺激,その他の図形のうち標的刺激と2特 徴を共有する3つを妨害刺激とする結合探索を,ハト4個体 に訓練した。Old条件では標的刺激に対して妨害刺激位置 を固定し,New条件ではランダムにした。条件間で探索時 間を比較したところ,個体差が認められた。すなわち,1個 体でOld条件のほうがNew条件よりも短くなり,文脈手が かり効果が見られた。Old条件内で標的刺激の位置を入れ 替え,探索時間が長くなるか調べたが,個体間で一貫した 傾向は見られなかった。視覚探索における妨害刺激の情報 処理の,ヒトとハト間の共通点・相違点について考察する。 時間情報に基づく規則性の学習 同志社大学 大塚幸生 これまでの統計学習の研究より,人はオブジェクト刺 激の特徴情報や意味情報に基づいて統計的規則性(系列 順序など)を学習できることが示されている。本研究で は,人が時間情報の規則性を学習できるかどうかを検討 した。実験では,無意味なオブジェクトがランダムな順 序で呈示されるが,3つのオブジェクトの呈示時間が常 に一定になるトリプレット刺激列を作成した。学習フェ イズでは,実験参加者はこの刺激列を観察した。後のテ ストフェイズでは,学習フェイズで観察した呈示時間の 順序情報を持つトリプレット,学習フェイズでは順序と しては観察しなかったフォイルが呈示された。参加者 は,学習フェイズを参考に強制選択による familiarity判 断課題を行った。実験の結果,時間情報の規則性を持た ないフォイルよりも規則性を持つトリプレットを選択す る割合が高いことが示された。この結果から,人は時間 情報の規則性を学習するメカニズムを有することが示唆 された。 知覚学習された視聴覚特徴連合による反応促進効果の検討 東京大学 林 明日美 東京大学  横澤一彦 感覚モダリティを超えた刺激の非恣意的な特徴連合は 「感覚間協応」と呼ばれ,刺激に対する反応促進の効果 があることが知られている。本研究では,新たに学習さ れた特徴連合についても同様の促進効果が見られるのか を調べた。始めに,人工規則に従って移動する円を提示 しながら,視覚連合群には「下の方が明るく,左の方が 鮮やかな色」という対応関係を,聴覚連合群には「下の 方が大きく,左の方が高い音」という対応関係を,視聴 覚連合群にはその両方を暗黙的に学習させた。その後, 円の移動規則,色,音によって手がかりが提示される図 形判断の課題を行った。結果,学習した手がかりが利用 できる時に反応が速くなる傾向が見られ,視聴覚連合群 は移動規則の手がかりしか利用できない時にも反応が速 かったことから,新たに学習した特徴連合にも反応促進 効果があり,特徴連合の存在によって別の学習も促進さ れることが示唆された。

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エビングハウス錯視は周辺と標的の物理的同時性に依存する 早稲田大学   高尾沙希 University of New South Wales, Sydney Colin Clifford 早稲田大学   渡邊克巳 本研究では,フラッシュラグを利用して網膜上の大きさ と知覚される大きさを乖離することで,エビングハウス錯 視がどちらの大きさによって起きているのかを調べた。画 面の左右に提示される周辺の円の大きさを徐々に逆方向に 変化させ,さまざまなタイミングで周辺の円の中心にター ゲットとなる円を瞬間提示した。その結果,周辺の円の大 きさが同じであると知覚されたタイミングは,網膜上で同 じであるタイミングから200 ms程度ずれていることがわかっ た(フラッシュラグ)。それぞれのタイミングでのエビング ハウス錯視を調べると,網膜上での大きさが同じで知覚的 に違う大きさであると判断されているタイミングでは錯視 が確認されなかった。一方,網膜上での大きさが異なって いて知覚的に同じ大きさであると判断されているタイミン グでは有意な錯視が確認された。つまり,エビングハウス 錯視は周辺の円の網膜上の大きさによって生じている。 グレア錯視の まぶしさ : 心理物理学的検証 静岡大学 上田誠也 静岡大学 宮城拓弥 静岡大学 吉岡大貴 スズキ株式会社 赤池早紀 スズキ株式会社 堀田英則 スズキ株式会社 石澤 恵 九州大学 山田祐樹 静岡大学 宮崎 真 散乱光を模した輝度勾配を周辺領域に施すと,その中心 領域がより明るく感じられる(グレア錯視; Zavagno, 1999)。 Tamura et al. (2016) は,そのグレア錯視の効果を心理物理学 的に定量化し,主観的な輝度が約40%上昇することを報告 した。しかし,そこで実験参加者が評価したのは“明るさ”で あり,“グレア(まぶしさ)”ではなかった。アメリカ照明学会 (IES) によると,“グレア”とは「強い光にともなって生じる 煩わしさ,不快感または視覚性能や視認性の喪失を引き起 こす感覚」である。本研究では,グレア錯視による主観的 な“まぶしさ”を心理物理学的実験により定量化した。その結 果,“まぶしさ”が主観的に等価となる輝度は,グレア錯覚条 件と統制条件の間で差がなかった。すなわち,グレア錯視 は,主観的な“まぶしさ”を上昇させないことが示された。グ レア錯視を利用することにより,“まぶしさ”を与えることな く,実際より強い明るさを表現できることが示唆される。 きらめき格子錯視の知覚強度と知覚サイズの測定 法政大学 松野 響 法政大学 佐藤優香 きらめき格子錯視とは,グリッド状の線分の交差点上 に配置された円形パッチの上に円形の錯視スポットがま たたくように知覚される現象を指す。本研究は,きらめ き格子錯視の生起メカニズムの一端を明らかにするた め,従来の研究で測定指標とされてきた錯視の知覚強度 に加えて,錯視スポットの知覚サイズを測定し,両測定 指標の刺激要素に対する依存性を比較した。錯視の知覚 強度は,先行研究の結果の通り,グリッド線分の幅や円 形パッチサイズの変化に対して単峰性の変化を示した。 一方,錯視スポットの知覚サイズは,グリッド線分の幅 の変化に対しては大きな変化を示さず,円形パッチのサ イズに対して線形な変化を示した。この結果は,きらめ き格子錯視の生起過程を考える際に,グリッド線分の方 位情報だけでなく円形パッチのエッジの情報を加味した 輪郭の制約に関わる過程を考える必要があることを示し ている。 中村錯視は網膜神経節parasol細胞の一過性反応に起因 するのか 北星学園大学短期大学部 中村 浩 中村錯視(Ashida & Scott-Samuel, 2014)に関する説明 原理として Cavanagh & Anstis (1986) の輝度変化勾配に よる網膜神経節細胞y細胞(Parasol細胞)の一過性反応 の関与が指摘されている(Mather, personal communica-tion)。すなわち,急な輝度変化に対して Parasol 細胞の 一過性反応は早めに飽和状態に達するために実際とは異 なって明るさが知覚されるというものである。本報告で はこの考えの妥当性を検討することを目的として,中村 錯視における明るさ残効,ならびに背景を黒とした時の 中村錯視について調べた。すなわち,網膜神経節細胞の 反応が関与しているのであれば通常の明るさ残効が生じ ることが期待されるし,輝度変化に対するParasol cellの 一過性反応が主要な要因であるのならば,背景だけでは なく輝度勾配を持つ運動図形そのものの明るさも異なっ て知覚されることが予測される。このような考えのもと に作成した現象に対する観察の結果,Cavanagh & Anstis (1986)の説明原理の妥当性が示唆された。

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不可能図形における明るさ知覚(2) 文教大学/神奈川大学 新井哲也 文教大学 鎌田晶子 文教大学 増田知尋 マッハの本やネッカーキューブにおいて観察されるよ うに,同一網膜像であっても対象の構造が大きく変化し て知覚されることがある。また,それと同時に面の大き さや明るさなど,他の知覚次元においても変化が生じる ことも知られている。Arai et al. (2016)では,独自の奥 行反転模型を用いて,知覚される立体構造の変化に伴 い,面の明るさも変化することを示している。また,増 田ら (2017)では,ペンローズの三角形の立体模型を作 成し,三角形としてのまとまりの成立・不成立により, 面の明るさも変化したことを報告している。しかしなが ら,一般的に面の明るさは隣接領域の影響を受け同化や 対比が生じるが,増田らの研究では,観察結果がそのよ うな効果によるものか,面の体制化によるものか明確に 区別されていない。そこで本研究では,模型の構成面の 反射率を操作することにより,同化・対比とは別に面の 体制化に伴う明るさ変化が生じるかどうかを検討した。 充血錯視画像を用いた視線残効の検討 愛媛大学  大塚由美子 University of New South Wales, Sydney  Colin Palmer University of New South Wales, Sydney Colin Clifford 早稲田大学    渡邊克巳 本研究では,視線残効が知覚上の視線方向に応じて生 じる可能性を検討するため,充血錯視画像に順応後に生 じる視線残効のパターンと個人の充血錯視(Ando, 2002, 2004; 安藤,2003)の錯覚強度の関連を検討した。充血 錯視とは,瞳の片側の強膜を人工的に暗くされた画像に おいて,視線方向が暗い強膜側へ偏って知覚される現象 であるが,錯覚強度には個人差も大きいと指摘されてい る。そこで,視線残効が知覚上の視線方向に依存して生 じるならば,同一の充血錯視画像への順応後,個人が知 覚した視線方向に応じて異なる残効パターンが生じると 予測された。カテゴリ分類法を用いて得られた予備実験 (n=6)においては,充血錯視の錯覚強度と視線残効パ ターンに明確な関係は見られなかった。本発表において は,個人における充血錯視強度とそこから生じる視線残 効パターンに加えて視線残効の生じやすさも加味した実 験結果の報告を行う。 運動捕捉成立における共通運命要因の一般性に関する検討 千葉大学 一川 誠 愛知淑徳大学 政倉祐子 傾斜線分を連ねた同心円配列からなるPinna錯視(Pin-na & Brelstaff, 2001)の誘導図形にドットを重ねて提示す ると,ドットが誘導図形と同方向に運動して見える運動 捕捉が高頻度で生じる。他方,誘導図形が仮現運動によ り動いた場合,ドットが誘導図形と逆方向に回転して見 える誘導運動が高頻度で生じる。また,誘導図形が仮現 運動する刺激でも,刺激全体を拡大縮小もしくは水平方 向に往復移動させた場合,運動捕捉が高頻度で生じる (Ichikawa & Masakura, 2018)。これらの結果は,要素間 に共通運命要因があれば運動捕捉が,そうでなければ誘 導運動が生じることを示唆する。今回,刺激全体に明る さ変化による共通運命要因を導入し。誘導運動が高頻度 で生じることを見出した。運動捕捉を成立させるのは, 要素間の共通運命要因一般ではなく,運動に関わる共通 運命要因に限定されると考えられる。 反転運動の見えを決めるのは行きか帰りか? 千葉大学 柳 淳二 千葉大学 一川 誠 並進する2つのオブジェクトが反転する際,両者が反 転する位置・タイミングにずれを加える。すると,後か ら反転したオブジェクトの反転位置が,反転前の運動方 向の前方にずれて知覚される。この現象において,反転 した位置の知覚がずれる要因は,反転する前の「行き」 の運動なのか,あるいは反転した後の「帰り」の運動な のかを検討するため,「行き」に相当する運動の「消滅」 と,「帰り」に相当する運動の「出現」について,その 位置とタイミングを反転運動と比較したときに,どのよ うに知覚的なずれが生じるかを検討した。その結果,反 転運動同士を比較したときの見えのずれ方に共通する知 覚的なずれのパターンを示したのは「行き(消滅)」よ りも「帰り(出現)」の方であった。これは,運動が反 転した際,その位置の知覚には,反転後の運動の処理が 主たる役割を果たしていることを示唆している。

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遅延聴覚フィードバックへの順応に伴う行為主体感の 変化

九州産業大学 菅野禎盛 自発的な動作に随伴する感覚フィードバックに遅延が あると行為主体感(sense of agency: SoA)が大きく阻害 される。その一方,遅延をしばらく体験すると順応が生 じ,遅延が知覚されにくくなることが知られている(時 間的再較正,temporal recalibration: TR)。しかし意外な ことにTR によって SoA がどのように変化するかについ てはあまり検討されていない。本研究ではタッピング課 題と信号検出理論を利用した実験パラダイムを導入する ことで,TRによるSoAの変化が自他の行為の知覚的な 識別感度(d')の変化によるものなのか,それとも判断 バイアス(c)の変化に過ぎないものなのかを検証した。 実験の結果,TR による SoA の変化は判断バイアス(c) の変化によることが明らかにされた。しかしながら, TR が強く生じていた群では自他の行為の知覚的な識別 感度(d')が変化する傾向も見られた。 組み合わせ図形の触運動知覚に触覚は必要か ―指の接触条件と非接触条件の比較― 弘前大学 葛西崇文 弘前大学 増田貴人 正円,正三角形,正方形などの形を 2つ組み合わせ, 点字用紙や立体コピーを用いて台紙上から浮き上がらせ た組み合わせ図形を,触運動により知覚すると,視覚に より知覚した場合とは異なる結果が得られる。このと き,目で見た場合と同様に知覚するとα型分節,それ以 外は非α型分節とそれぞれ呼ばれてきた。ところで,こ れまで行われてきた触運動知覚の実験では,手指が用い られてきたが,そもそも手指を用いず,皮膚を組み合わ せ図形に接触させないで触運動知覚した場合にどのよう な結果が得られるのかについては,十分な検討が行われ ていない。そこで本研究では,指の接触条件と非接触条 件を設定し,α型分節発生率の差異やその理由について 検討を行ったので,ここで報告する。 触覚二者択一課題における腕の動かし方の違いが選好決 定に与える影響 立命館大学 満田 隆 立命館大学 羅 家偉 画像を用いた二者択一選好課題では,2枚の画像を画 面中央に交互に表示させたときよりも,画面の左右の異 なる位置に表示させて視線を動かしたほうが,単純接触 効果が強く生じることが報告されている。本研究ではハ ンカチの触り心地による二者択一選好課題において,視 線の動きを腕の動きに置き換えて同じ傾向が見られるか を調べた。固定された順序で腕を左右に動かして触り比 べた場合と,腕を動かさずに2枚のハンカチを同じ順序 で触り比べた場合を比較した。両条件とも手指は自由に 動かして触ってもらい,ハンカチと指の接触状態は同じ となるようにした。実験の結果,両条件とも最後に触り 接触回数が多かったハンカチがチャンスレベル(p=.5) よりも有意に高い確率で選ばれ,前者の確率(p=.63) は後者の確率(p=.56)よりも有意に大きかった。つま り,対象に触るために腕を動かす動作が,単純接触効果 または最後に触れたものを選ぶ傾向(最終サンプリング バイアス)を増大させた。 報酬に基づく注意は目標に基づく注意をモデュレート する 京都大学 峯 知里 京都大学 齋木 潤 近年の研究では,報酬を伴う過去の経験(履歴)が, 観察者の目標や刺激の顕著性とは異なる第三のメカニズ ムで,注意制御に影響を及ぼすことが明らかにされてき た。目標と刺激の顕著性に基づく注意制御には相互作用 が示されているが,報酬に基づく制御がこれら二つの制 御とどのように関連しているのかについては未解明な点 が多い。そこで本研究では,報酬に基づく注意制御が目 標に基づく内発的な注意制御に及ぼす影響を検討した。 実験では,空間手がかり課題を用いて,手がかりの有効 性と報酬の大きさの連合を操作した。その結果,空間手 がかり効果は,手がかりの有効性と連合される報酬の大 きさによってモデュレートされた。このことは,報酬に 基づく制御と目標に基づく制御は,独立的に注意の選択 に影響を及ぼしているのではなく,両者は相互に作用し ていることを示唆する。

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視覚的印付けに伴う抑制が光点検出に及ぼす影響 山形大学 大杉尚之 非効率的な視覚探索が起こるはずの刺激の半数を先行 呈示し,半数を追加呈示すると,探索は先行刺激数に依 存せず効率的になる(先見効果)。この効果は先行位置 に お け る抑 制(視 覚 的 印 付 け: Watson & Humphreys, 1997)により生起すると考えられている。これまでの研 究では,刺激位置に光点を呈示した際の検出成績から抑 制の有無が検討されてきた。しかし,光点刺激の大きさ を検出閾値付近で固定しており,パラメトリックに操作 していない。本研究では光点の大きさを操作して抑制効 果を検討した。視覚探索課題と光点検出課題を行わせ, 視覚的印付けが生起する事態での光点検出成績を検討し た。その結果,小さな光点を用いた場合は先行刺激位置 での検出成績が他の位置よりも悪くなったが,大きな光 点を用いた場合はこの効果は生起しなかった。この結果 から,視覚的印付けに伴う抑制は小さな刺激の見落とし を引き起こすが,大きな刺激の検出には影響しないこと が示された。 周辺視野での共同注意現象 産業技術総合研究所 横山武昌 産業技術総合研究所 武田裕司 対面する人がある方向を向いていた時,それを知覚し ている者の注意はそちらへ誘導される。これは共同注意 現象とよばれている。これまでの共同注意現象を扱った 先行研究は中心視野での検討のみであり,共同注意現象 が周辺視野でも生じるかはわかっていなかった。そこで 本研究は共同注意現象が周辺視野でも生じるかを検討し た。 顔 画 像 を 画 面 の 中 心 と, 中 心 か ら 上 下±2.5°, ±5.0°,±7.5°離れた場所に提示し,標的は画面の中心 から左右5.6°離れた場所に提示した。標的の出現位置は 左右ランダムとし,視線方向と標的位置との関連は持た せなかった。結果として,±5.0°まで共同注意現象が観 察された。実験 2では倒立顔を用いて実験を行ったが, 実験 1でみられたような結果は観察されなかったため, 実験1の結果は顔知覚および視線知覚により生じる結果 だと考えられる。本研究から,共同注意現象は周辺視野 でも生じることがわかり,それは上下±5.0°まで効果が あることがわかった。 視覚刺激に対して活性化する視細胞と関連する脳電位 広島大学 本多千紗 理化学研究所 仲泊 聡 情報通信研究機構 宮内 哲 前田眼科 古田 歩 広島大学 小川景子 ある刺激対象から別の刺激対象へ目を動かす際の非常 に速い眼球の動きをサッケードという。サッケードの終 了時点で脳波を加算平均すると,スパイク上の脳電位で あるラムダ反応(P1, P2)が後頭部視覚野優勢に出現す る (Ogawa et al., 2005)。2峰性のラムダ反応P1およびP2 それぞれの発生起序について,視細胞の働きに着目し, 視覚刺激の色と輝度を操作し,有彩色かつ高輝度な刺激 (推定輝度水色152 cd/m2,黄緑色162 cd/m2) と無彩色かつ 低輝度な刺激 (推定輝度黒色0.57 cd/m2, 灰色1.30 cd/m2) を 用いた結果,P1は錐体細胞,P2は杆体細胞の反応を反 映することが示唆された (本多,2018)。先行研究 (本 多,2018) では,用いた視覚刺激の推定輝度は明らかに なっているが,眼球への光量が明らかになっていない。 本研究では,視覚刺激に対する瞳孔径を測定すること で,眼球へ入る光量を推定し,刺激に対して活性化する 視細胞(錐体細胞,杆体細胞)を推定し,ラムダ反応と の対応を検討する。 共感覚色が明るさ知覚に与える影響 東京大学 宇野究人 東京大学 横澤一彦 色字共感覚とは文字を見たときに特定の色(共感覚 色)が喚起される現象である。共感覚色は物理的な明る さの変化に依らず不変であることが示されてきたが,明 るさの処理が共感覚色から受ける影響については未検討 であった。本研究ではグレースケールの文字刺激を用い て物理的な明るさの比較課題を行い,上記の可能性につ いて検討した。高明度の共感覚色を励起する文字,低明 度の共感覚色を励起する文字を共感覚者ごとに選出し, 標準刺激に対する明るさの主観的等価点を恒常法により それぞれ測定した。その結果,各共感覚者と同じ文字刺 激を用いて課題を行った非共感覚者と比べ,共感覚者は 2条件間の主観的等価点の差が有意に大きく,共感覚色 の明度が高い文字の方がより明るいと判断された。共感 覚色の励起には初期視覚野の活動は影響しないと考えら れてきたが,本研究では新たに,励起した共感覚色によ り低次の視覚情報処理が変容する可能性が示された。

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視覚運動情報が触覚におけるテクスチャ知覚に及ぼす影響 立教大学 鈴石陽介 立教大学 日高聡太 我々の知覚は複数の感覚情報によって形成されるが, 物体の粗さ知覚については触覚が優位であり,視覚の粗 さ情報は触覚の粗さ知覚に影響を及ぼさないことが報告 されてきた。一方,物体を触る際,粗さの情報を持たな い手の運動を見ることで,触覚における粗さ知覚が促進 されることが示されている。本研究では,粗さの情報も 手の情報も持たない単純な視覚運動が,触覚の粗さ知覚 に及ぼす影響を検討した。視覚刺激として低空間周波数 情報をもつ縞刺激を,触覚刺激として紙やすりを用い た。参加者は手を動かしながら紙やすりを触り,粗さを 判断した。視覚刺激が運動する条件では,運動しない条 件に比べ,触覚の粗さ知覚が滑らかになった。また,視 覚運動刺激によって手の動きの速度は変化せず,縞刺激 の空間周波数が高い場合は粗さ知覚に影響を及ぼさな かった。以上の結果は,特に粗い情報を持つ場合に,視 覚運動刺激が触覚の粗さ知覚を変容させることを示唆す る。 聴覚への構えが聴覚刺激による視覚処理の妨害を緩和する 東京大学 小西慶治 東京大学 中島亮一 東京大学 横澤一彦 課題非関連な聴覚刺激は,視覚課題遂行を妨害する。 本研究では,聴覚刺激に対する構えがこの妨害効果を緩 和するかを弁別課題と再認課題を用いて検討した。弁別 課題では,顔画像を順次提示し,参加者には特定の性別 の顔のみにキー押し反応させた。実験1では顔画像と同 時に提示される音の有無を,実験2では音の強弱を操作 した。その結果,強い音と同時に提示された顔へのキー 押し反応時間は,無音の場合や弱い音の場合と比べ短 かった。続く再認課題では,顔画像二枚を対提示し,弁 別課題で提示された方を選ばせた。強い音と同時に提示 された顔の再認成績は無音と比べ悪かった一方,弱い音 と比べると悪くはならなかった。よって,顕著な聴覚刺 激は,視覚処理を妨害する一方,反応の実行時間を短縮 することで視覚刺激への反応を早めることが示された。 さらに,聴覚刺激の存在確率が高く,聴覚に対する構え が成立した状況では妨害効果が緩和されることも示され た。 印象の多感覚情報統合における重みと情報源の信頼性の関係 関西学院大学 谿 雄祐 関西学院大学 藤原大志 関西学院大学 竹本 敦 関西学院大学 飛谷謙介 関西学院大学 井村誠孝 関西学院大学 長田典子 知覚における多感覚情報の統合様式は重み付け平均であ り,各感覚の重みはそれぞれの信頼性に対応していると考え られている。我々は,知覚より高次な印象のレベルにおける 多感覚情報の統合も重み付け平均とみなすことができるか 検討するために,樹脂板の表面に施された微細な凹凸(テク スチャ)の印象を観察によって評価する視覚条件,見ずに 触って評価する触覚条件,見ながら触って評価する視触覚 条件の3つの条件による印象評価実験を行った。視覚条件と 触覚条件の結果の重み付け平均で視触覚条件の結果が近似 できるか検討したところ,評価内容と刺激の適合性にかかわ らず,回帰式の決定係数は大きくなったことから印象におけ る多感覚情報統合は重み付け平均と見なせることが示され た。また,視覚条件,触覚条件の重みは評価内容に対して信 頼できる場合にはそれぞれの信頼性に近く,評価内容に対し て信頼性が低い場合には視覚偏重となる傾向が確認できた。 既知文字の共感覚色は,文字の区別に役立つときに新奇 文字に転移する 立教大学 浅野倫子 東京大学 門脇花奈 東京大学 宇野究人 東京大学 横澤一彦 色字共感覚では一般的に,未知の文字(新奇文字)には色 を感じないが,「その新奇文字は既知文字のAに相当する」 のように既知文字に対応づけて学習させると,すぐに既知文 字の共感覚色が転移する形で新奇文字に色を感じるように なることが知られている。本研究では,色字共感覚の保持 者に6つの新奇文字(未知のタイ文字)を提示し,それぞれに 異なる既知文字(平仮名)を1文字ずつ(合計6文字)対応づけ て学習させた。実験の結果,既知文字6文字の共感覚色が 互いに異なる色であった場合に比べて,既知文字すべてが 似た共感覚色を持つ場合は転移が起こりにくかった。この 結果は,共感覚色が文字の学習時に文字の弁別に使われ, 学習を補助するという仮説と整合的である。後者の条件の ように,仮に共感覚色を転移させると新奇文字間の区別が つきにくくなる(すべてに似た共感覚色が結び付けられ,覚え にくくなる)場合は転移が起こりにくいものと考えられる。

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顔と音声の視聴覚統合における他人種効果の検討 中央大学 氏家悠太 日本女子大学 金沢 創 中央大学 山口真美 本研究では,日本語を母語とする8–9カ月児を対象に, 近赤外分光法(fNIRS)を用いて,顔と音声の視聴覚統 合の神経基盤が自人種顔に対して選択的に活動するかを 検討する。実験では,McGurk効果(McGurk & MacDon-ald, 1976)を使用し,乳児に親和性の高い自人種顔と親 和性の低い他人種顔のMcGurk刺激(音声/pa/,映像/ka/ の対乳児発話映像)を見ている際の,左右両側頭領域の 脳活動を測定した。その結果,自人種の顔刺激を見てい る際に,左側頭領域の脳血流量の有意な増加がみられた が,他人種の顔刺激では増加は見られず,視聴覚統合に 関与する左側頭領域が,乳児でも,自人種顔に対して選 択的に活動することが示された。 観察者効果による顔印象形成メカニズムの解明 千葉大学 徐 キョウ哲 国立国語研究所   川端良子 千葉大学   松香敏彦 これまでの顔の印象評定に関する多くの研究は,評定 の対象となる顔の各部位の形状や構成など,顔そのもの の特徴の効果に注目しており,印象評定をおこなう観察 者の効果についてはほとんど言及されていない。数少な い観察者の効果に注目した研究によると,顔の印象は, 観察者の特性も影響していることが示されている。ただ し,これらの研究が注目してきた観察者特性は,それぞ れ独立に議論されており,総合的な効果については検討 されていない。本研究は今まで個々に検討されてきた観 察者特性の効果を統括し,観察者の複数の特性が,顔の 印象評定にどのように影響を及ぼし合うかを解明してい くことを目的とした。具体的には,先行研究で有意な効 果が示された性格特性と観察行動に焦点をあて,それぞ れの関係性を検証した。その結果,観察者の性格特性が 顔の観察行動に影響し,その影響を受けて生じた異なる 観察行動が印象評定に影響することが示された。 顔幅の変化を指標としたモナリザ効果の検討 立命館大学/日本学術振興会 森田磨里絵 立命館大学  藤井芳孝 立命館大学  佐藤隆夫 人物の描かれた絵画に対し観察者が移動すると,絵画 中の人物の視線が観察者に追従してくる現象を,モナリ ザ効果と呼ぶ。この効果が生じている時,人物の顔や身 体も観察者の方向を向き,それらの幅が実際よりも細く 見える。本研究では,人物の顔幅を指標とし,モナリザ 効果の基本特性を検証した。実験では,CGで作成した 人物画像を±30 度の範囲で回転させた刺激と,楕円型 の参照刺激を呈示した。観察者には,人物の顔幅と楕円 のどちらが広く見えたかを回答させた。その結果,回転 角が大きくなるにつれて顔幅が細く知覚され,モナリザ 効果が生じることが確認された。さらに,この効果が人 物の顔に特化した現象か否かを検討するため,倒立顔の 画像を用いて同様の実験を行った。その結果,正立顔の 場合よりも顔幅が広く知覚され,モナリザ効果が弱まっ た。これらの結果を踏まえ,モナリザ効果の生起に形の 恒常性の働きが関連している可能性について考察を行っ た。 顔認識と注意シフト 専修大学  小山貴士 専修大学 大久保街亜 視線手がかりによる促進効果は反射的な注意シフトに よって生ずると考えられてきた。しかし,Green et al. (2013)は視線手がかりとターゲットを同時提示したと きのみ促進効果が生ずることから注意シフトではなく反 応一致性によって説明できると主張した。一方,Gayzur et al. (2014)は同時提示されていなくとも手がかりの効 果が生起することを示し,反射的な注意シフトであると 反論した。Green et al. (2013)が目のみの手がかり刺激 を使用したのに対し,Gayzur et al. (2014)は顔全体のも のであった。さらに,前者は手がかりの提示時間が極め て短かった。本研究では手がかりの提示時間を操作し, 目のみと顔全体の視線手がかりの効果を比較した。目の 手がかりでは提示時間が短いとき促進効果がなく,長い ときには促進効果があった。一方,顔全体手がかりでは 提示時間に関わらず促進効果があった。この結果は手が かり刺激をヒトの顔だと認識することが反射的な注意シ フトを生起させることを示唆する。

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顔魅力の知覚表象における系列依存性 京都工芸繊維大学 近藤あき 早稲田大学 中村航洋 早稲田大学 渡邊克巳 継時的に呈示される顔刺激に対し連続的に魅力判断を 行うと,現在の顔に対する魅力判断は直前試行の魅力判 断に近づくことが示されている(Kondo et al., 2012)。近 年の研究では,直前試行への同化効果は視覚刺激の知覚 表象レベルでも生じることが示唆されており,顔知覚に おいても,顔の見えは直前の試行の顔に同化するように 知覚される(Liberman et al., 2014)。そこで本研究は,顔 魅力が顔の知覚表象レベルにおいても直前試行に同化す るかを検討した。実験では同一人物の顔から魅力の異な る複数の顔画像を生成し(中村・渡邊,2017),顔画像 を短時間呈示した後,その顔を再生する課題を連続的に 行った。その結果,現在の試行で再生した顔が直前試行 で呈示した魅力度の異なる顔に同化することが示され た。このことから,顔の魅力は判断レベルだけでなく知 覚表象レベルにおいても直前試行へ同化することが示唆 された。 ヒトは自身の顔記憶能力に対する洞察を持つか: 相貌失認質問紙間の本質的等価性 早稲田大学/東京大学/(株)アラヤ 松吉大輔 早稲田大学/東京大学 渡邊克巳 質問紙により測定される自身の能力に関する洞察と, 客観的に測定される能力との間には平均で約 0.3の相関 しかないことが知られている。こと顔記憶に関しては相 関が高いとする報告と低いとする報告とが混在し,研究 間で合致していない。しかし,それらの研究はサンプル サイズが少ない,それぞれで異なる質問紙の使用,単一 項目に対する回答・単純な合計得点のみの使用など,情 報を有効に抽出できていないという問題を抱えている。 そこで本研究ではこれらの問題を克服するため,十分な サンプルサイズ,複数の質問紙,そして機械学習を用い ることで洞察から顔記憶の行動成績を高精度に予測する ことを試みた。その結果,重回帰モデルでは決定係数が 約0.2程度であったものを,機械学習によって約0.4にま で予測精度を向上させることに成功した。この結果は適 切なモデル構築により,自身の顔記憶に対する洞察から 高精度に行動成績を予測できる可能性を示している。 表情のアンサンブル平均が後続の表情認知に与える影響 ―単独表情との比較― 京都大学  嶺本和沙 京都大学  上田祥行 京都大学 吉川左紀子 複数の表情を同時に呈示した後に,単独で呈示した表 情の情動判断を求めると正答率が低下する現象がみられ る(嶺本他,2018)。この現象が,表情のアンサンブル 平均によるものかを検討した。先行呈示する刺激とし て,強度 20%と60%の喜び表情写真を2枚ずつ,計4枚 同時に呈示するアンサンブル条件,20%・40%・60%の 喜び表情写真を1枚呈示する条件,何も呈示しないベー ス条件を設定した。テスト刺激には,35 名の喜び表情 の平均画像を基に作成した,強度 10–60%の画像6枚を 用いた(各試行 14 回繰り返し,総試行数 420)。先行刺 激を 1秒間呈示した後,テスト刺激を400 ms間呈示し, 参加者はテスト刺激が喜びに見えるか否かを2択で判断 した。その結果,アンサンブル・40%・60%条件では ベース条件よりも後続の表情認知が困難になった。これ は,表情のアンサンブル平均が後続の表情認知を困難に することを示唆する。 表情の認識における微表情の情報の反映 九州大学 茶谷研吾 微表情は嘘を見破る手がかりになると考えられ検出の 成否を左右する要因が検討されてきたが (Ekman, 2003; Hurley, 2012),その認識についてはほとんど検討されて いない。本研究では微表情が後続の表情でマスクされる 時,これらの表情全体がどのように認識されるのか検討 した。実験では真顔から各基本表情へと 11段階で変化 するモーフィング画像を作成し,50 msずつ連続呈示し た。微表情条件として,刺激の呈示から 200 ms が経過 した時点でそれまでとは別の表情を呈示する条件を設け た。その後後続の表情と他の基本表情間で変化するモー フィング画像1枚を呈示し,その画像の表情が連続呈示 した画像の途中で現れたか否かを参加者に判断させた。 参加者の反応について階層ベイズモデルにて分析を行っ たが,微表情の影響は確認されなかった。今後の展望と して,刺激特性の統制を考慮したうえで他の微表情抑制 状況を想定し検討を行う必要があるだろう。

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形態測定学的アプローチによる表情表出の時空間的 パターン解析

早稲田大学       中村航洋 University of Fribourg   Ticcinelli Valentina University of Fribourg Richoz Anne-Raphaëlle University of Fribourg    Caldara Roberto 早稲田大学       渡邊克巳 社会的コミュニケーションにおいて,表情の表出は感 情を他者に伝達するための重要な手段である。他者の表 情を認識する上では,表情表出に伴う顔面形状の動的変 化が有効な手がかりとして利用されることが指摘されて いるが,基本 6 表情(喜び,怒り,恐れ,嫌悪,驚き, 悲しみ)がどのような顔面形状の時空間的変化のパター ンによって構成されるかについては明らかにされていな い。そこで本研究では,日本人成人男女20名が基本6表 情を表出する過程を映像として記録し,表情表出に伴う 顔面形状変化とその時系列パターンを幾何学的形態測定 学的手法によって解析した。その結果,口角挙筋や眼輪 筋をはじめとした複数の顔筋が異なる時系列パターンで 連動して活性化することで,基本6表情が表出されるこ とが明らかになり,基本6表情の表出に関わる顔面形状 の変化を定量化することが可能となった。 歩行する他者の好意度評定―動きの魅力による分類― 金沢工業大学 伊丸岡俊秀 歩行する他者に対する好意度評定において,静的な情 報と動的な情報がどのように用いられているのかを検討 するため,歩行中の動画刺激と関節点とそれらを結ぶ線 分のみで構成した biological motion刺激に対する好意度 評定を実施した。以前の研究(伊丸岡,2018, 日本心理 学会)では,事前に測定しておいた刺激の総合的魅力度 は動画刺激に対する好意度評定にのみ反映されるという 結果であった。本発表では,刺激の魅力度を社会的魅 力,美的魅力などの下位項目に分類し,それが好意度評 定に反映されるかどうかを確かめる。 4, 5歳児における表情のアンサンブル知覚 日本女子大学 伊村知子 京都大学こころの未来研究センター 上田祥行 京都大学霊長類研究所 友永雅己 新潟大学 白井 述 成人は,複数人物の表情から,その情動強度の平均を 瞬時に知覚する(表情のアンサンブル知覚)。本研究で は,4, 5歳児を対象に喜び表情のアンサンブル知覚を検 討した。表情刺激を画面の左右に1枚ずつ(シングル条 件)あるいは 4 枚ずつ(ヘテロ条件),1000 ミリ秒間呈 示し,より楽しそうな表情の方を選ぶよう教示した。表 情刺激は,成人男女 6名の中性と喜びの表情画像を0% から100%まで20%ごとの割合で合成したモーフィング 画像を用い,左右の刺激の情動強度の差が 40%となる ようにした。倒立顔を用いた倒立シングル条件,倒立ヘ テロ条件を加えた,全4条件で情動強度の高い刺激の選 択率(正答率)を比較した。4, 5歳児は,倒立顔2条件 よりも正立顔2条件で高い正答率を示したが,シングル, ヘテロ条件間の正答率には有意差がなかった。成人で同 様の実験を実施した結果との比較を通して,表情のアン サンブル知覚の発達過程を議論する。 注意の瞬きは1歳未満の乳児でも生じるか? 中央大学  鶴見周摩 日本女子大学  金沢 創 中央大学  山口真美 北海道大学 河原純一郎 高速で提示される画像系列から 2つの標的を検出する 時,2つの標的間隔が500 ms以下である場合,第1標的 は検出されるが,第2標的は検出されない(Raymond et al., 1992)。この現象は注意の瞬きとして知られており, 第 1標的の処理が第2標的の処理に干渉していることで 生じるとされているが,乳児では検討されていない。本 研究では7–8カ月児を対象に注意の瞬きが生じるかを調 べた。実験では,2名の女性顔(第1, 2標的)が含まれ る刺激系列を繰り返し提示し馴化させた。第 1と第2標 的の提示間隔として,成人で注意の瞬きが生じる200 ms と生じない800 msの2条件を用い,各条件において乳児 が第 2 標的を検出できるのかを調べた。実験の結果, 800 ms条件では第2標的を検出できたが,200 ms条件で は検出できなかった。この結果から,乳児でも注意の瞬 きが生じることが示され,作業記憶が十分発達していな いと考えられていた7–8カ月児でも,作業記憶への書き 込みと遅延が生じることが示唆された。

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