日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-10 140
-ACTの介入により、10年継続していた体験の回避の減少がみられた一例
○立石 七海1)、臼井 香2)、齋藤 順一1,3,4)、仁田 雄介1,3,4)、熊野 宏昭4,5) 1 )早稲田大学大学院人間科学研究科、 2 )飯田橋東口内科心療内科診療所、 3 )日本学術振興会特別研究員、 4 )綾瀬駅 前診療所、 5 )早稲田大学人間科学学術院 【目的】 ア ク セ プ タ ン ス & コ ミ ッ ト メ ン ト・ セ ラ ピ ー (Acceptance and Commitment Therapy; ACT) では、 認知的フュージョンや体験の回避が心理的問題を助長 させるとされている。認知的フュージョンとは、考え ていることを自動的に現実と混合し、思考と現実の区 別がつかなくなる行動的プロセスである。体験の回避 とは、嫌悪的な状況だけでなく、それに対する自分の 反応 (嫌悪的な私的出来事) も回避しようとする行動 的プロセスことである。 本事例では、自責思考や予期不安、他者評価懸念な ど、様々な思考に巻き込まれ、「頑張りすぎる」といっ た体験の回避を続けている患者に対しACTの介入を 行った。その結果、体験の回避が減少し、行動のセル フコントロールができるようになったため、報告す る。 【事例の概要】 クライエント (Cl.) : 44歳、女性。専業主婦。黒髪 をいつも一つにまとめており、毎回薄化粧で来院され る。真面目で堅い印象を受けるが、話し方は柔らか い。心療内科 B から、新幹線で片道 2 時間かかる場所 に住んでいる。 カウンセリング (Co.) : B心療内科において、最終著 者のスーパーバイズの下、第一著者が実施した。 1 回 の面接時間は50分であり、 2 週間に 1 回の間隔で実施 した。 主訴 : 出かけることへの不安や緊張が強すぎる。出 かけた後、疲れて長期間寝込んでしまう。 現症 : 外出している時、めまいや息苦しさがひどい。 外出した後は 2 週間から 2 ヶ月ほど寝込む。 現病歴 : X-14年 息子を出産後、産後うつの状態にな る。 A 心療内科を受診し、うつ病と診断され、薬物療 法を開始した。 X -10年 息子が幼稚園に入り行事が増 えると、外出時に緊張することが増え、不安による発 作 (めまい、息苦しさ) が起きるようになった。 X -2 年 外出することへの不安や緊張の増加に伴い、うつ 症状もひどくなる。 1 度出かけると1-2週間ほどベッ ドから動けなくなるほど疲れてしまう状態が続いた。 X 年 6 ・ 7 月 外出し、そのまま 2 ヶ月寝込む。 X 年 8 月 A心療内科に相談するも、不安症はつかないと言 われた。自分が本当は何の病気なのかわからなくな り、 X 年 9 月心療内科 B に来院し、Co.開始となった。 家族構成 : 夫 (年齢不明) 、息子 (14歳) 。Cl.は息 子の学校のPTA役員を担っている。 服薬 : アモキサン80mg、リーゼ、ジェイゾロフト 75mg、デパケン200mg 診断 : 広場恐怖症、反復性うつ病 (非定型の特徴を 伴う) 心理検査 : 毎回のCo. 後に以下の検査を実施した。 a ) 日本版Acceptance and Action Questionnaire-ll (AAQ-ll ; 嶋他, 2013) : 体験の回避を測定。b ) 日本版Cognitive Fusion Questionnaire (CFQ; 嶋他, 2016) : 認知的フュージョンを測定。 倫理的配慮 : Cl.から書面にて、治療経過の発表につ いて同意を得ている。 【結果】 1 .介入の経過 第 1 期 : 方針の共有 (インテーク、# 1 ) 主訴について、「外出する時にすごく緊張する。外 出している時、めまいや息苦しさがとても強い。そこ で迷惑をかけるのではないか、変な目で見られるので はないかと思う」との発言があった。また、「外出時 気を張っているので疲れすぎ、寝込む。その間は何も できず、家族や友人にとても申し訳なくなり、余計に 落ち込んでしまう」との発言もあった。そのため、不 快な思考・感情に振り回されずに生活できるようにな ることを長期目標として共有した。 第 2 期 : 筋弛緩法の導入・脱フュージョンの導入 (#2-# 3 ) 外出時の身体的な緊張をやわらげるため、筋弛緩法 を導入した (# 2 ) 。また、日常生活場面で実際に 行った対処方略をその時に記録してもらった (# 2 ) 。 # 3 で対処法略を確認すると、「出かけた時に動悸を感 じると、落ち着くように言い聞かせる」や、「疲れて いないと自分に言い聞かせ、無理して外出する」など がみられた。 <見立て>インテーク-# 3 で、Cl.は「他者評価懸念」、 「外出時の予期不安」などの思考に巻き込まれ、過度 に緊張した状態で出かけ、疲弊し寝込んでしまうこと によって、“自分は情けない”と考え落ち込んでいた。 結果として出かけることに対する緊張がより強まると いう悪循環に陥っていると考えられた。また出かける
日本認知・行動療法学会 第44回大会 一般演題 P1-10 141 -際は、そうした思考について考えないようにして、過 度に頑張って外出している (体験の回避) 様子もうか がえた。また体験の回避の維持要因として、「いつも 寝込んでしまう自分が情けない」といった自責思考に も巻き込まれていると考えられた。 <介入方針>まずはCl.の思考に巻き込まれているこ とに対して、脱フュージョンを導入した。思考を「マ インドさん」と名づけ、思考にとらわれた時「マイン ドさんが言っているだけ」と気づいて、ありのままの 自分に戻ってくるように話した。さらに“過度に頑 張って”外出することに対しては、自分の余力を点数 化し、30点を切るようであれば休むように共有した。 第 3 期 : 体験の回避の減少、Cl. にとって望ましい 行動の増加 「余力点をつけて、行動をセーブできた」との報告 があった。ただ、その時「頑張らなくていいの?と聞 いてくるマインドさんがいたから頑張って出かけた」 とも話していた。そのため、マインドさんが言うこと が全てではないこと、自分の余力点と比べて無理だと 思ったらセーブすることを共有した (# 4 ) 。その結 果、# 5 では「マインドさんに気づき、仕方ない、私 はこういう波がある人なんだと思えるようになり、行 動をセーブすることができるようになった」との報告 があった。 # 5 をもってCl. が心療内科 B に継続して通うこと が難しくなったため、Co. を終了とした。 2 .各心理指標の結果 心理検査の結果をFigure 1に示す。脱フュージョン を導入した# 3 から、CFQ得点、AAQ-ll得点が減少して きている様子がみられた。 【考察】 様々な思考に巻き込まれ、体験の回避を続けている 患者に対しACTの介入を行った。その結果、行動のセ ルフコントロールができ、思考に巻き込まれることも 減少した。 体験の回避が減少した要因として、まずは自分の余 力を点数化し、可視化できたことが考えられる。それ と同時に、日常生活場面で脱フュージョンを実践でき たことも要因として考えられる。Cl.にとって、余力 点と併せて「マインドさん」を実践したことにより、 行動をコントロールすることに対する自責思考に巻き 込まれることを防ぐことができたと考えられる。 【本ケースの限界と展望】 本ケースの限界点として、# 5 で中断したことがあ げられる。検査の得点に減少傾向は見られるものの、 終結時も得点は高い数値であった。要因として、Cl. は毎回遠方から通ってきており、身体的・精神的な疲 労および経済的にも負担が大きく、継続して心療内科 B に通うことが困難になったと考えられる。今後の展 望として、Co. の頻度を減らし、自宅でできるHWを増 やすといった工夫が考えられる。