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貨幣乗数の公式について-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

第65巻 第 3号 1992年 12月 215-235

貨幣乗数の公式について

は じ め に 「乗数」概念をイ吏った公式は経済学の分野にしばしば登場する。なかでも, 貨幣乗数の公式は,式の単純さと頑健さ

(

r

o

b

u

s

t

n

e

s

s

)

ゆえに,金融論やマクロ 経済学の標準的なテキストでは必ずと言ってよいほど解説がされる重要な公式 の一つである。 この公式からだけでは,直感的に乗数値の経済学的な意味や,公 式の成立メカニズムを理解することはできない。そこで,通常は,便宜的に貨 幣乗数が一定であると仮定して,証明ぬきにこの公式の背後にある調整メカニ ズムとして信用創造過程を解説することになる。そして,ハイパワード・マネー ところが, の増加によって生じる過剰準備を基礎に個別銀行が行う信用創造過程を無限等 比級数の形式で示した後,初期過剰準備の乗数倍だけ通貨が供給されることが ほとんどの場合,個別銀行の貸 この信用創造過程では, ところカむ 示される。 出に預金歩留りがないことが前提になっており,個別銀行に預金歩留りがある 一般的なケースについては取扱われていない。 そこで小論では,はじめに,固定係数型の貨幣乗数公式が成立するためには, その上で個別銀行ごとに異 必ず貸出の調整が必要なことを証明する。そして, この信用創造過 なる預金歩留り率を仮定した一般的な信用創造過程を検討し, 中小論は, 1991年 6月29日(土)開催の金融経済研究会での報告をもとに,その後大幅に加 筆修正を加えたものです。出席者各位から有益なコメントを頂いたことに感謝いたします。 なお,ありうべき誤謬がすべて筆者の賀任であることは言うまでもありません。

(2)

-216 香川大学経済論叢 372 程の一般化を基礎にして貨幣乗数公式の調整メカニズムを検討する。あわせて, 貨幣乗数公式の成立メカニズムの図式化を通じて信用創造の役割を視覚化する ことにする。このように小論の目的は,貨幣乗数公式の成立メカニズムについ て,日頃,見のがされがちで暖昧な点を整理・検討することにあるが,最後に, 近年の金融自由化の進展が貨幣乗数に及ぽす影響について簡単な実証分析を試 みることにする。 II 貨幣乗数の公式と貸出 貨幣乗数の公式の成立メカニズムが,過剰準備を基にした銀行部門の信用創 造活動であるという点については,誰も異論がないように思える。しかし,公 式の導出手続きからそれを読みとることはできない。そこで,銀行部門の貸出 との関係が分かるようにこの公式を導出し,公式が成立する背後に通常考えら れているような民間銀行の貸出調整があることを示そう。 変数の記号を ,

R:

現金準備,

C:

公衆保有現金,

D

:

:

預金,

M

:

:

貨幣量,

H

:

:

ハイパワード・マネー,

k:

必要準備率,

α

:

現金・貨幣比とおくと,公式を導 出する場合に使われる式は以下の 4つである。

R=kD

C=α

M

M=C+D

H=C+R

これらに,民間銀行の貸借対照表を表した式,

R+L=D

を加える。そこで, (1),,-,(3)式を考慮すると,この貸出 L は,

L=(l-k)(l

一α

)M

(1) (2) (3) (4)

(

5

)

(

6

)

(1) 小論は,いわゆる「貨幣乗数論」と「信用乗数論」の異同の問題を取り扱つてはいない。 この点については,古川 (19),安居 (20),ご木 (18)が詳しい。 (2 ) 民間銀行の貸借対照表をこのように単純化した場合の貸出Lは,単なる公衆に対する 貸出というのではなし民間銀行が保有する他部門に対する純依権額を表していること に注意されたい。

(3)

373 貨幣乗数の公式について -217-と表せる。一方,中央銀行と民間銀行の貸借対照表を示す(4)(5)式を統合して(3) 式を考慮すれば

M = L + H

(7) と書ける。この式は,貨幣が単に民間銀行の貨出行動だけでなく,中央銀行の 資産購入(ハイパワード・マネー)によっても供給されることを表す。 (6)式に (7)式を代入して,貸出Lを求めると, L

=

(m-1)H (8) となる。ただし ,

m

は貨幣乗数で

m

=

1/(α

+k(l

α))。この(8)式を (7)式に代入 すれば,周知の貨幣乗数の公式が求まる。 M = m H

(

9

)

そして,上記

(

8

)

式はこの貨幣乗数の公式が成立しているとき,同時に貸出に ついて成立する乗数公式である。ここで重要な点は,いずれの公式も,準備の 過不足を解消するように貸出が調整されることによって達成されるという点で ある。というのも,過剰準備

R

exは(2)(5)(7)式を考慮すると,

R

ex

=

R-kD

=

(l-k)D-L

=

(

l

-

k

)

(

l

α

)(L+H)-L

(1

0

)

と表せ,この式で,

R

ex = 0となるように調整可能な変数は貸出Lのみだから である。この貸出による過剰準備の調整プロセスを以下では信用創造過程と呼 ~。 III 預金歩留りと信用創造過程 次に,この信用創造過程を,個別銀行の貸出に預金歩留りがある場合を含む よう一般化することにする。ところが,周知のように通常のテキストの多くは 預金歩留りがない場合を対象にしている。その理由が単純化である場合は問題 はないのだが,問題なのは頭から個別銀行における信用創造機能を否定してい る場合であ弘もしそれが正しければ,これから行おうとする預金歩留りがあ る場合の分析は無意味である。そこで初めに,個別銀行の信用創造ができない とする見方について検討しておかなければならない。 (3 ) 例えば, Samuelson

=

N ordhaus (7),古川 (19)等。

(4)

218 香川大学経済論叢 374 個別銀行では信用創造ができないという場合,理論的にできないのか,現実 的に難しいのかの区別が必要である。理論上は,個別銀行に関する Phillipsの公 式が示す通り,個別銀行でも信用創造は可能である。問題はその実行可能性で ある。通常は,多数の銀行からなる銀行組織は,個別銀行の貸出によって生み 出された派生的預金のほとんどが借り手の支払が進行するにつれ他行に再預金 されるので,個別銀行は事実上信用創造の能力を発揮できないとされる。 確かに,銀行組織における銀行の数が大きいほど,個別銀行の平均的な預金 歩留り率は小さくなるので,現実をその極限(預金歩留り率二 0) で近似する ことはできる。しかし,銀行数が有限である以上,厳密には個別銀行の平均的 な預金歩留り率がOになることはないし,銀行組織がどのくらいの数の銀行か ら構成されていればそのような単純化が許されるのかも明らかではない。それ ゆえ,この取扱いの適否は,現状がどうであるかにかかっている。 現状では,証券形態での資金調達の比重の高まりや預金金利の自由化の進展 により,歩留り預金の象徴であった拘束性預金のウェイトが低下しつつあると 言われているが,最近の公取委の調査(1991年5月)によれば,依然として貸 出件数の約四分のーは拘束性預金を伴っている。おまけに,最近の子会社経由 による融資の活発化は,個別銀行の預金歩留りの可能性を一層高めており,現 実的にみても個別銀行の信用創造を否定することはできないように思える。 [ 1 ] 仮定と定義 個別銀行に預金歩留りがある一般的な信用創造過程を検討する前に,モデル の仮定をあげておく。 (A-l) 個別銀行は,派生的預金の歩留り率を既知とし,期首の過剰準備 を解消するように貸出額を決定する。 (4) r日本経済新聞J1992年l月20日付け第5面。 (5 ) 通常,親銀行から融資を受けた子会社が親銀行に開設する当座勘定は,親銀行にとって 確実な歩留り預金となる。 (6 ) 一部では,一方で個別銀行の信用創造を否定し,銀行組織全体‘でのみ信用創造が可能と しながら,他方で個別銀行の窓志決定分析を預金歩留りを仮定して行うといった矛盾し た取扱いがなされている。例えば,古川 (19)。

(5)

375 貨幣乗数の公式について 219-(A-2) 個別銀行の必要準備率は全て共通でこれを kとおく。 (A-3) 公衆は保有貨幣のうち αの割合を現金で,残りを預金で保有す る。 個別銀行と銀行組織については,次のような単純化した貸借対照表を考える。 {固別室艮1'':f::

R

+L

=

D

, 銀行組織

::R+L=D

ただし ,R

=

~ R" L

=

~ L" D

=

~ Diである。なお,モデノレは通常のテキ ストで行われているように離散期間を前提に定式化するため,上記の貸借対照 表の資産・負債項目の後に期間を表す記号

(

t

)

を付し,それを t期首の残高と考 える。 さて,これから検討する銀行組織の信用創造過程は,初期に銀行組織内に発 生した過剰準備が貸出による派生的預金が他行へ再預金されることを通じて銀 行聞に移転されてゆくプロセスである。この過程を定式化するにはこ通りのや り方がある。一つは,貸出 預金の連鎖が一行ずつ順番に進行すると考える方 法であり,もう一つは,初期の過剰準備が複数の銀行で発生し,その後の過剰 準備の移転も複数の銀行間で生じると考える方法である。前者は,標準的な接 近方法で,以下ではこれを「単線的信用創造過程J,後者を「複線的信用創造過 干呈」と呼ぶことにする。 [2 ] 単線的信用創造過程 預金→貸出→預金の連鎖が一行ずつ順番に進行する単線的信用創造過程の場 合には,個別銀行の貸借対照表の変化がそのまま銀行組織のそれになる。それ ゆえ,この場合はあえて個別銀行を添え字記号 zで識別する必要がないので,期 間の記号 tで個別銀行を表すことにする。 そこで,

t

期(もしくは

t

銀行)の貸出増加額をム

L

(

t

)

?

預金歩留り率を (7) 例えば,川口

(

l

l

)

,則武・三木谷編

(

1

5

)

,石川・花輪編

(

8

)等。 (8 ) 例えば, Tsiang (7),鴨池(10),根津(14JoTsiangは,異質な複数銀行がある場合 の信用創造過程を MarkovChain分析により安定性を調べている。鴨池は,資金遍在が 起こる条件を明らかにしている。 (9 ) 変数の前の記号ムは,当該変数xの増分を表し,ムx(t)= x(t

+

1) -x(t)とする。

(6)

220 香川大学経済論議ー 376

y

(

t

)

(

0豆

y

(

t

)

孟1)とすると,貸出によって創造される派生的預金の一部が歩 留まる場合の個別銀行の貸出増加額は次のようにして導出される。 t銀行が期 首に存在する過剰準備

R

t)を基礎に貸出をム

L

(

t

)

としたとすれば,それと 同額の派生的預金が創造される。しかし,その一部(1-γ

(

t

)

)

L

(

t

)

は引き出さ れるため,過剰準備は ,

R

e

x

(

t

)

(

l

-

y

(

t

)

)

L

(

t

)

に減少する。これが,当該銀 行に歩留まった派生的預金γ

(

t

)

L

(

t

)

に対する必要準備財

(

t

)

L

(

t

)

に等しく なるところまで当該銀行の貸出は可能である。よって,貸出増加額は,

ムL ( t ) = I R

t) (t注 1 ) ω

1-y

(

t

)

(

1

-

k

)

一 となる。この公式は,個別銀行において,もし貸出によってできる派生的預金 の一部が歩留まれば,過剰準備の乗数倍の貸出が可能であることを示している。 以下ではこの乗数を「信用拡張係数」と呼び,記号

e(

t

)

で表すことにする。

e ( t ) I G 2 )

- 1

-

y

(

t

)

(

1

-

k

)

次に,貸出による派生的預金のうち銀行外に流出する現金

(1-

y

(

t

)

)

L

(

t

)

の一部は,公衆が現金として保有して銀行組織に還流しないが,残りは他行へ の再預金という形で銀行組織に還流する。仮定 (A-3) より,派生的預金の うちで銀行組織に還流しない部分の比率(現金漏出率)は公衆の現金・貨幣比 αに等しくなると考えられるから,銀行組織に還流する額(いわゆる本源的預 金)は(1-

y

(

t

)

α

)

L

(

けとなる。それゆえ,次の銀行の過剰準備は,

R

e

X

(

t

+

1)= (1-

k

)

(

l

-y

(

t

) α

)

L

(

t

)

ω

となる。 このように, (lU(13)式で示される単線的信用創造過程を通じて生み出される貸 出の系列の総和が銀行組織全体の貸出増加額となるからムLは,

L=

2

:

:

L

(

t

)

である。計算の便宜のために,

ω

式を

ω

式に代入して貸出のみの運動方程式に 変換すると以下のようになる。

L

(

t

)=

ρ

(

t

)

L

(

t

-1)

(

t

1) (14) (10) 通常のテキストでは預金の歩留りを考えていないから,r(t)= 0より e(t)= 1であ る。

(7)

377 貨幣乗数の公式について -221-ただし ,p(t)は,

ρ

(t)=

企二盈

(1

-y

(t

-

1

)

一α) 1-y(t)(l-k) とし,初期条件を示す初期の貸出増加分ムL(O)は,

L(O)= e(O)R

0) である。 まず簡単なケースとして,預金歩留り率が全て同じ場合の銀行組織全体の貸 出増加額を計算してみる。そこで y(t)

=

yとおくと,ムLは,初項ムL(O),公 比(1-k)(l-y-α)/(l-y(l-k))の無限等比級数となる。そこで,公比を

ρ

, 第 T項までの部分和を S(T)とすると ,S(T)は, 1-1/ 1 S( T) =

4

-

-

?

-

.

1

.

.

r

¥

z.¥R叫

(

0

)

1-

y(1

-k)

となる。公比

ρ

は, 1一(1-α)(1-k)

1-y(1-k)

>0

となって 1より小さい正の値。よって部分和S(T)は収束し,銀行組織の貸 )

5

1 ( 出増加額ムLは以下のようになる。

L= lim S(T)

=,

(

~.\f1

'.¥R町(0) 仰 T ∞ 1一(1-α)(1-k) したがって,個別銀行の預金歩留り率が同じ場合には,預金歩留り率は銀行 組織全体の貸出増加額の場合には影響しないことがわかる。で'f;J:,預金歩留り 率が個別銀行ごとに異なる場合も同じことが成立するのだろうか。 この場合,銀行組織の貸出増加額ムLは,

L= (1十

ρ

1

+

ρ1

P

2

+ρ1

P

d

J

3

1

P

2

P

3

P

4

+

)

L(O) となって,無限等比級数にならないので,少し工夫を必要とする。そこで,

ω

ω

式から

ρ

(t)と信用拡張係数

e

(t)の関係式を求めると次式がえられる。

ρ

(t)= e(t)(1/e(t-1)-1/m) (t孟 1) (1ゆ すると帥式は, ムL(t)= e(t)(1/e(t-1)-1/m)ムL(t-1) (t孟1) と書けるから,初期条件を考慮して t期の貸出増加額の一般式を表せば, (ll) これは,既に根津(14),安居 (20)などにより証明されている。 (12) 論者によれば,成立しないと考えている人もいる。例えば,根津 (14) PP 99-101。

(8)

222 香川大学経済論叢 378

L

(

t

)

ニ e(t)(l-e( t -1) /m)(l -e

(

t

-

2)/m)

(1-e(l)/m)(l-e(O)/m)R

0) となる。ここでさらに,乙 =l-e(t)/mとおけば,

L(t)= (l-ct)

-ICt-Z

CZCl

:omReχ (0) と表せるから,銀行組織の貸出増加額の部分和S(T)は,結局以下のように書 ける。

S

(

T) =

m W

χ(0)((1

0)

+(1一己)ふ

+(1ーら)C1CO+

+(1

-C1)ξ1-16-2…Cl

ふ)

= m Rex(0)

(

1

-CTCT_ICT_Z"C1CO) (19) ここで, 0 孟 γ(t)壬1 αだから,信用拡張係数 e(t)は 1話 e(t)孟m 内) u u u o y b ( となって貨幣乗数以下であるから, 0

<

Ct

<

1 (0~玉 t く∞)。 よって,部分和S(T)は収束し,

L

=

lim S(T)

=

m R引(0) )

-白 7 ' u ( となるから,銀行ごとに預金歩留り率が異なる場合でも,銀行組織の貸出増加 額ムLは初期過剰準備の乗数倍の額 mRex(O)に収束する。 [ 3 ] 複線的信用創造過程 この場合には,初期に複数の銀行に過剰準備が発生し,個別の銀行はこの過 剰準備を解消すべく貸出を行う。そして,それによって生みだされる各銀行の 派生的預金の一部が相互に本源的預金の形で再預金される。 そこで,y

.

(

t

)

を,

t

期に第1銀行が貸出した資金が第 j銀行へ再預金される 比率(再預金率)と定義すると,一単位の貸出の増加により創造された派生的 預金のうち,公衆が最終的に現金で保有するために引き出す部分αを除けば, 自行を含めいずれかの銀行に再預金されることになるから, 1=α+~ 九 (t) (22) (13) (湖式より,信用創造論で主張される「個別銀行は預金歩留まりがないので信用創造が不 可能だが,銀行車邸哉は可能である」という命題は個別銀行に預金歩留りがあったとし ても,個別銀行の信用創造の程度は銀行組織全体のそれを上回ることはない」と表現した 方がより正確であることが分かる。

(9)

379 貨幣乗数の公式について -223ー である。 すると,第 1銀行の t期の預金歩留り率は Yii(t)となるから,期首の過剰準備 をReX,(t)とすると ,t期の貸出増加額は以下のように表せる。 ムL(t)= (1-k)y,,(t)ムL(t)+R

(t) 邸) そして,期首の過剰準備は前期の他行の貸出増による派生的預金の獲得分(本 源的預金)から発生するから,

R

出 i(t)= (l-k) ~ Y;i(t-

1

)

ムL;(t-1) (24) と書ける。 これら (23)(24)式 を 集 計 す れ ば , 銀 行 組 織 の 貸 出 増 加 分 ム

L(

t

)

と 過 剰 準 備 ムWX(t)が求まる。そこで, ~ y,,(t)

L(t)= y

(

t

)

Ut) ~ となるように y(t)を定義すると貸出増加分は以下のようになる。 ムL(t)= (l-k)γ(t)ムL

(

t

)

+

Rex( t) (26) ここで,y(t)は,定義式(25)より銀行組織の平均的な預金歩留り率を表し, γ

(

t

)

l

α

(

2

7

)

である。 次に,過剰準備は,

R

t)= (1-k) ~

(1α-

y;;(t

-

1

)

)

ムL;(t-

1

)

と変形できるから,定義式仰より,結局 Rex(t)= (1-k)(l-α-y(t-

1

)

)

ムL(t-1) (28) と表せる。 以上の伽(28)式は,単線的信用創造過程を表す動学方程式(1l)(l3)と全く同じもの である。それゆえ,複線的信用創造の場合も,銀行間で過剰準備の再配分を繰 (14) y(t)ムL(t)= ~ y,, (t)ムLμ) 壬~(1一α)ムL,(t)= (1一α)ムL(t) なお,ここでの y(t)は単線的信用創造過程の預金歩留り率と同じものである。 (15) R町(t)= ~ (l-k) ~ r;;Ct-1)ムL μ -1) エ (l-k)~~ ημ-1)ムLμ-1) =(l -k)~(l- α -yjlt- 1))ムL/t-1) ((22)式より)

(10)

-224- 香川大学経済論叢 380 り返しながらも,銀行組織全体の貸出増加額は初期の過剰準備総額の乗数倍に 収束することが分かる。

I

V

貨幣乗数と調整過程 [ 1 ] モデルの定式化 前節の信用創造過程の分析では,初期の過剰準備を所与として取り扱い,個々 の銀行と公衆との間で行われる貸出→預金の連鎖によってそれが解消される過 程を通貨供給のプロセスとみなしてきた。そのため過剰準備がどのようにして 発生するか,民間の保有現金に相当するハイパワード・マネーといかなる関係 にあるかは依然として不明確で、ある。その意味では,部分的な分析にとどまっ ている。 通貨供給過程の全体像を表すのが,貨幣乗数公式の調整モデルである。以下 では,前節までの一般化された信用創造過程の分析をもとに貨幣乗数公式の調 整モデ/レを定式化し,信用創造過程の果たす役割を考えることにする。そのた めには, II節の体系において,まず(1)式を過剰準備を許容するようにかえて, Reχ (t)= R(t)-kD(t) 仰 とする。そして,前節の分析から得られた銀行部門全体の貸出行動を追加する。

R

同(t)

L(t)= 1 :.) "\>~/ 1_¥ (30) 1-y(t)(1-k) 最後に,残りの(2)"-"(5)式を離散的に表せば,貨幣乗数公式の調整モデノレが完成 する。

C(

t)=α

M

(

t

)

(31) M

(

t

)

=

C(

t

)

+

D(t) (32) H

=

C

(

t

)+R

(

t

)

(33) R(t)+ L(t)

=

D(t) (34) 以上 ω1)"-"例式より, C, D, R, R

L,M の6個の内生変数の動きが定 まる。はじめに信用創造過程の分析で不問にしていた初期過剰準備がどのよう な要因によって生まれるかを明らかにしておこう。 まず過剰準備

R

e

x

(

t

)

は, (29)(33)式より

(11)

381 貨幣乗数の公式について -225 R

(

t

)

= H-C(t)-kD

(

t

)

(35) と表せる。ここで,C(t)とkD(t)は,それぞれ公衆と銀行の現金需要であるか ら,過剰準備がハイパワード・マネーの超過供給を反映することを示している0 (31)(32)式より,最終的に以下のように変形できる。 Reχ (t)

=

H一

α

(

十k(l一

α

))M(t)

=

H一(l/m)M(t) (36) これより,貨幣乗数の公式が成立するときには,ハイパワード・マネーの需給 が均衡していることが分かるO 次に,貨幣供給量と銀行の貸出との聞にはII節の(7)式の関係が成立するから, M(t) = L(t)+H (37) この式を (36)式に代入すれば,

Rぺt)

= H -(l/m)(L(t)+ H) (38) となる。よって,内生変数である貸出を除いて考えると,初期過剰準備は,ハ イパワード・マネーの供給 H が増加するか,もしくは乗数の構成因が変化して 乗数mが上昇し,ハイパワード・マネーの需要が減少する場合に発生するので ある。 こうして,過剰準備として現れたハイパワード・マネーの超過供給が,銀行 の信用創造によって解消されてゆくことになる。 すなわち,側式で示される形で貸出が増加すると, (37)式より同額の貨幣の増 加(ムM(t)=ム

L(

t

)

)

が発生する。 (31)式より,公衆はこのうち

α

L(

t

)

を現金で 引き出し残り

(1-α)

ムL

(

t

)

を預金するが,このうち一定部分y(t)ムL(t)は借入 先の銀行に歩留り預金として,残りを他行に本源的預金として預金する。いま 本源的預金をd(t)とおくと,本源的預金は d(t) =ムD(

t

)

一γ(t)ムL(t)= (1一

α

一γ(t))ムL(t) と表せる。そうすると,過剰準備の定義式仰)の増分を考えて(30)式を考慮すれば, R制 (t

+

1)= (1-k)d(t)= (1-k)(l一α-y(t))

L

(

t

)

(16) 銀行の過剰準備(過剰現金)が直接ハイパワード・マネーの超過供給を反映するのは, 公衆が常に最適な現金保有を行うという仮定 (A-3) からである。一般的には, ハイパワードマネーの超過供給=銀行の過剰準備+公衆の過剰現金 である。

(12)

-226 香川大学経済論叢 382 と変形できるから,次期の過剰準備R

t+

1)が前期の本源的預金から生じる ことになる。 したがって,貨幣乗数公式の調整過程は信用創造過程を示す運動方程式(捌

2

8

)

と同じとなる。そして,かならず収束する。均衡では,

R

間(t)=

0

より,

I

I

節 の

(

8

)

(

9

)

式で示される貨幣と貸出の乗数公式が成立する。 [2] 調整過程の図解 以下では,この体系が示す貨幣乗数公式の調整過程を図解してみよう。 図

1

は,横軸に貨幣供給量

M

,縦軸にハイパワード・マネーをとり,ハイパ ワード・マネーの需給線を描いている。ハイパワード・マネーの需要を示すHD の傾きは,(α+k(l-α))であるから,貨幣乗数mの大きさは,縦軸からとった HD直線の傾きの大きさで表される。以下では,これを「貨幣乗数線」と呼ぶ。 (35)式より,銀行組織の過剰準備はハイパワード・マネーの超過供給(H-HD ) に等しいから,その大きさは,水平線H と

H

D 直線の距離,例えば,貨幣供給 量が

M

(

O

)

の場合には,直線

AE

で示される。 これは,次のように考えてもよい。まず,ハイパワード・マネーの需要構成 因である公衆の現金需要を示す補助線 CDを号│く。公衆の現金需要は貨幣供給 量の一定割合

α

だから,補助線CDは傾き

α

の直線となる。そうすれば,ハイ パワード・マネー存在高Hからこの現金需要を差し引いた残りが,銀行組織が 利用可能な支払準備になる(図では直線

EY)

。このうち,必要準備を号│いた残 りが過剰準備となる。必要準備はハイパワード・マネーの需要構成因であるか ら,図では直線

AY

。よって貨幣供給量が

M

(

O

)

のとき,過剰準備の大きさは直 線

AE

で示される。 (17) 貨幣供給量の決定メカニズムを図解した試みは多くはない。数少ない例としては,Col -lery, A P (3.1,横山 (21), Dornbusch=Fischer (4)がある。本文中の図1は,基本 的にDornbusch= F悶 her (4)に負っている。 (18) 図中,貸出は(37)式から貨幣供給量とハイパワード・マネーの差に等しいから 45度線か らハイパワード・マネー存在高を示す直線QZまでの距雌(直線EX)に相当する。預金 は,貨幣供給量から公衆の現金保有高を引いた差になるから, 45度線から現金需要CD での距離,直線YX)に相当する。

(13)

383 貨幣乗数の公式について 227ー 図1 H F h d a A τ / / / X

1

'

tIJ¥L (0) 守r 金 D ( ハ リ E E

f

/ 〆 / / / / m

〆 合 、 / 、 ノ / P

;え}L、準備R(O) / 、 、 '、 ノ メ、 / 司 、 Z 恥f /過剰

l

準備R"(0) / / / 日Il H Q / / / / / ノ / / / / ノ ノ

'

'

f J /

r f /

, ,

, ψ 引金1毛安心C(O)

c

ll M* これをもとに(30)(38)式で示される信用創造過程を図に描いてみる。次の図2は, この信用創造過程に焦点をあてるために,図

1

における点

A

を座標の原点とす る相対座標で表したものである。初期の過剰準備Rex(O)は直線 A Eとなるか ら 信 用 拡 張 額 ムL(O)は直線A Eから信用拡張係数 e(O)の角度で引いた点線 (これを「信用拡張線」と呼ぶ)の交点DとEの長さ,すなわち直線A Bで 表せる。もちろん,直線A Zは,直線A Eから貨幣乗数mの角度で号│いた貨幣 乗数線である。 次期の過剰準備は直線 CDで表される。なぜなら, 直線

BD

= (l/e(O))

L(O)= {l-y(O)(l-k)}

L(O) 直線

BC

= (1/m)

L(O)= {1一(1 α)(1-k)}

L(O) より, 直線 CD= (l-k)(l一

α-

y(O))

L(O)= Rぽ(1) であるからである。 同様にすれば,第

1

期の信用拡張額ムL(l)は点

C

から引いた信用拡張線が 水平線と交わった交点

H

と点

D

との距離,すなわち直線

CF

となり,次期の

(14)

228 香川大学経済論叢 図2 384 E D H Z 〆 / 〆 / 〆 / m ノ 一 / / / ノ ノ ノ / 〆

/

/

/

;

cl ノ /r...~ G 月 ノ ノ e(O) F A B l孟e(t)三五m 過剰準備は直線GHとなる。 このように,信用拡張線をヲ│いて当該期の信用拡張額と次期の過剰準備を求 める作業を繰り返せば,銀行組織全体の過剰準備がなくなる点

Z

に限りなく収 束してゆく。というのも,過剰準備線から号│いた信用拡張線の角度が貨幣乗数 線の角度より小さいため,かならず各期の信用拡張額が銀行組織の過剰準備を 解消させる量より少なくなるからである。もちろんここで,漸近的な収束を保 証しているのは,個別銀行の信用拡張係数が貨幣乗数以下であること

(

e

(

t

)

壬 ao) m)である。 (19) 図2は,個別銀行の預金歩留り率が異なる一般的な場合を描いている。預金歩留り率が 同じ場合(r(t)= "1)には,各期の信用拡張線は同じ傾きになる。それゆえ,預金歩留りが ない通常のテキストの場合(r(t)= "1= 0)には, 45度線となる。 (20) 銀行が預金歩隠り率を予想して貸出を行わざるをえないケースや,貸出限度を越えた 過剰融資を行うケースをも含んだ一般的な場合には,この条件は必ずしも成立しない。信 用拡張係数を

A

(

t

)

とおき,一般的な銀行組織全体の貸出増加額の決定式を表せば以下の ようになる。 ム

L

(

t

)

=

A

(

t

)

W

'

(

t

)

上述の貨幣乗数公式の調きをモデルで(30)式をこの式に入れ替えれば,簡単な計算から

A

(

t

)

孟mの場合は,図 2で示されるように漸近収束する。

A

(t)がmを常に越えれば過剰 準備と準備不足が交互に発生し ,2mより小さければ収束するが,2m ~玉 À(t) の場合には 準備の過不足の絶対額が拡大し均衡点Zには収束しない。

(15)

385 貨幣乗数の公式について 229 V 金融の自由化と貨幣乗数 これまでの分析で,派生預金の再分配ノ Tターンが貨幣乗数に影響を及ぼさな かったのは,民間銀行ならびに公衆が同質な行動をとるという仮定

(A-2

)

(A-3)に決定的に依存している。現実の経済では,いずれの仮定も成立し ていないから,派生預金の再分配パターンは貨幣乗数に影響を及ぽすことにな る。派生預金の再配分パターンを示すy吋は,第f銀行が第1銀行から獲得する 預金額を示しているから,その値は銀行組織における第y銀行の預金のシェア の大きさを反映する。預金シェアは,通常,銀行の預金獲得競争を通じて変化 するが,金融の自由化の進展による銀行間の預金獲得競争の強まりがこの預金 シェアの変化を通じて乗数にどの様な影響を及ぽしているかを検討してみよ

その前に銀行の必要準備率が異なる場合に,預金のシェアが乗数に及ぽす効 果を理論的に調べておく。以下ではただ一般的なn銀行のケースを対象にして も明確な結論を得ることが困難なので,銀行組織が大小二つの銀行グループか ら構成されている単純なケース(第1銀行:大銀行,第2銀行:小銀行)を考 える。各々の必要準備率をふ,k2とすると,過剰準備を解消すべく行動した場 合のバランス・シートの変化は次のように書ける。 ムLI= (1-k1)( /11ムLI十γ21ムL2)+ムAI ~ ムL2

=

(

1

-

k2)( /12ムLI+/22ムL2)+ムA2 制) ここで,ム

A

,は第1銀行の中央銀行からの借入増加額,もしくは中央銀行への 資産売却額である。 派生預金が各銀行に再分配される場合,実際には,特定の銀行の派生預金が どの程度他行に再預金されるか(/i;)を数量的に把握することが困難なので,銀 行組織が生みだした派生預金のうち,各銀行が獲得する比率(=預金シェア) ωi(O三五仙三五 1)を導入する。そうして, (3則的式を次のように再定式化する。 ムLI

=

(l-kl)ωIsムL+ムAI 制 ムL2= (1-k2)ω2sムL+ムA2 仰)

(16)

-230 香川大学経済論叢 386 ただし ,

s

=

1

一αであり, βム

L

は銀行組織の派生的預金で, ム

L

三ム

LI+

ムL2 ω1+ω2

=

=

1

である。ムA =ムAI+ムA2とおき仙倒式を加えると,貸出増加額ムLは, ム

L

ニ s(l-klωl-k2ω2)ムL +ム

A

ω

)

と書けるから,ムM =ムLより,貨幣乗数m は次のようになる。

M

1 .d.A -

1

-

s

(l-

klω1 -k2uJ2} ここで,右辺が貨幣乗数mを示しており,平均的な準備率

h

h

三 klωl+k2ω2= (ム-k2)ωI十ん となって,大銀行と小銀行の準備率の加重平均で表せる。 白4)(4日式より,準備率が同じ (kl=ゐ)なら,銀行の預金のシェアは乗数値に影 (45) 4, y t -? f i a t s - t a 響を与えないが,大銀行の準備率が高ければ(kl

>

k2),大銀行の預金シェア ω1 が大きいほど平均的な必要準備率が高くなるので貨幣乗数は小さくなる。反対 に,大銀行の準備率が低ければ(kl

<

k2),貨幣乗数は大きくなる。 金融の自由化は,金融機関の競争規制の緩和と金利の自由化という二本の柱 のもとに押し進められ,銀行聞の預金獲得競争はかつてなく強まっている。通 常,市場における競争の激化は企業規模の格差を拡大する傾向をもっ。これを 銀行の預金獲得競争に当てはめれば,競争の激化が銀行の預金格差を拡大して いることが推測される。そこで,預金集中度の推移を観察することにより,預 金獲得競争が激化しているかどうかを調べてみよう。 この図は,

1

9

6

5

年度から

1

9

9

0

年度までの期間,全国銀行を対象に預金残高に ついての集中度の推移を示している。集中度の指標としては,代表的な「ハー フィンダール指数H.

L

J

を採用した。これより,確かに金融機関の競争が厳し く制限されていた

1

9

7

0

年代後半までは集中度が低下傾向を示しており,格差が 縮まっているのに対し,金融の自由化が本格化して金融機関の競争が激しく なった80年代以降は,一転して上昇傾向にあり,格差が広がっていることが分 (21) ハーフインダーノレ指数は集中度を表す代表的指標で,変数のシェアの自乗和で表され る。この指標の特徴については例えば,妹尾編 (13),pp..11-15を参照のこと。

(17)

387 440 .,一一一一一一一-430イ 420イ 410イ 400 390 380 貨幣乗数の公式について 図3 預 金 の 集 中 度 (ハーフインタール

m

数) 370L

^

/'・} 360 350 340 330 320 310 300十 一 一 十 ← ー 「 一 「 一→一一一「ー「一--"---,-一一一一「一一「一一'--•• -231-1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 年 度 末 (出所) 1965-1974年度の期間のデータは,全国銀行協会『全国銀行財務諸表分析101975 年度以降は日本経済新聞社 'NEEDSJの銀行本決算データ。 (注 1) 預金には譲渡性預金を含む。対象銀行は全国銀行(第二地方銀行を除く)。 (注2) 1971年度と1990年度の集中度の急激な上昇は,いずれも都市銀行内の大型合併 による。 かる。 わが国の法定準備率制度は預金規模に対して累進的になっているため,通常, 支払準備率は大銀行の方が小銀行より高い(表

1

参照)。それゆえ,この銀行聞 の競争の激化は平均的な支払準備率を上昇させることを通じて貨幣乗数を低下 させるように作用する。 しかし,平均的な準備率の動向を観察する限り,現実にはこのような作用を 確認することはできない(表2参照)。平均的な支払準備率に長期的な上昇傾向 はみられず,むしろ反対に70年代後半からは低下傾向にあると言ってよい。 一般に,預金残高は趨勢的に増加傾向にあるから,銀行聞の預金分布が変化 しなくとも,累進的な準備率制度のもとでは必ず平均的な準備率は上昇傾向を もっ。そのために,日銀当局がときおり実施する法定準備率体系の調整が,大

(18)

388 香川大学経済論叢 232 銀行規模と支払準備率 表1 支払準備率

o

245

o

237

o

113

o

057

o

053 (出所) 全銀協『全国銀行財務諸表分析』 (注) 対象は普通銀行。 銀行への預金集中による平均準備率の上昇圧力を打ち消していると思われる。 支払準備率と要求払預金の比重 打1 k DI/D

C

/D 1960-64年平均 7..98

o

029

o

343

o

111 1965-69年 9 03 0..022

o

335

o

100 1970-74年 8 62

o

026

o

347

o

103 1975-79年 8 84 引。025

o

325 0..099 1980-84年 9“85

o

022

o

258

o

086 1985-89年 10 68

o

017 0.210

o

083 1990-91年 10 75

o

021

o

185

o

080 (出所) 日本銀行『経済統計年報』のマネタリーサーベイ表。 (注)

c=

現金, D1

=

要求払預金, DニDI+定期性預金(譲渡性預金を 含む)。 おまけに,現行の準備率制度では,要求払預金の方が定期預金より法定準備 率が高く設定されるので,総預金に占める要求払預金の比重が低下傾向にあれ ω ば平均的な準備率も低下することになる。表

2

でみると,最近の数年間を除け ば,準備率と要求払預金の比重の推移がパラレルに対応していることが分かる。 70年代以降の準備率の低下傾向は,長期的な意味で金融緩和政策が取られてき 一部にこの要因が作用していることを (22) 紡)式において,kl. k2をそれぞれ要求払預金と定期性預金の法定準備率, ω1を要求払預 金のウェイトとみなせば,わ>ゐより明らか。 銀行数 ハh リ ρ h V O K U A H V P れ U ー ﹄ ム A A Y 表2 たことを反映しているかもしれないが, 40兆円以上 10兆以上40兆円未満 5兆以上10兆円未満 3兆以上5兆円未満 3兆円未満

(19)

389 貨幣乗数の公式について 233 否定できない。 このように現行の準備率制度のもとでは,預金獲得競争の激化は,大銀行へ の預金集中をもたらすことによって平均的な準備率を上昇させる効果をもっ一 方,競争手段として定期性預金の比重を高めることを通して逆にそれを低下さ せる効果をもっ。そして,現状てでは準備率を引き下げる効果が優勢であると言 えよう。 (m) 12 11 10 9 8 図4 貨 幣 乗 数 と 預 金 ・ 貨 幣 比 の 推 移 (Mz十CD) (β)

o

94

o

93

o

92

o

91

o

89 61,-.ー「一一千一一「ーァー---.---y---y---I一 寸 τ v ー「ー~-. LO 88 58 60 62 64 66 68 707274 76 78 80 82 84 86 88 90 暦 年 末

(

m

所)日本銀行『経済統計今2報』の7 ネタリー・サーベイ;衣より. 乗数の長期的な趨勢を決定する要因として準備率以上に重要なのが,預金・ 邸) 貨幣比 βの動向である。これを表したのが図4である。 金融の自由化が預金・貨幣比

3

に及ぽす効果について考えてみよう。預金・ 貨幣比の基本的な決定因は,現金に対して預金がもっている利便性であろう。 これには,要求払預金がもっ決済の容易さと,定期性預金がもっ収益性の二つ があるが,金融の自由化が影響を及ぽすのは収益性である。 80年代以降の預金 (23) 掘内・高橋(16)は,寄与度分析により貨幣乗数の変動要因として現金・貨幣比αの役 割が重要であることを示している。

(20)

-234- 香川大学経済論議 390 金利の自由化は,公衆の金利選好の高まりも手伝って,現金や要求払預金の決 済性に対して定期性預金の収益性の優位性を著しく向上させている。その結果, 表

2

からも分かるように要求払預金の比重を低下させるばかりでなく,現金・ 預金比を高めることによって預金・貨幣比 βを上昇させている。この時期,銀 行が定期性預金の拡大に力を入れてきた背景には,非銀行金融機関の金融商品 (郵便局の定額貯金や証券会社の公社債投資等)の急速な伸びがあったことも 忘れてはならない。 最後に,金融の自由化による預金獲得競争の激化が,乗数に及ぽす短期的な 効果について。二木

(

1

8

)

は,個別銀行の預金シェアの変動が乗数の短期的な 変動を強め,通貨管理を困難にする可能性があると指摘している。しかし,表 3の変動係数の数値で、みる限り, 80年代以降,乗数値の不安定性が高まってい るとは言えず,むしろ不安定度が低下気味であることは興味深い。ただし,貨 幣乗数の実際のデータは事後の値であるから事前の貨幣乗数値が安定化したと は必ずしも言えない。日本の場合,ハイパワード・マネーを操作目標にしてい ないので,事前の貨幣乗数の変動がハイパワード・マネーによって吸収され, 乗数の観察値が結果的として安定化する可能性もある。 表3 乗数の変動係数 (%) 歴 年 百1 ( 考) k β H M 1967-69年 3.90 9 42

o

42 15 71 13..39 1970-74年 7 42 27 27 0.83 32.92 26.85 1975-79年 6 23 18 02 0.65 13 35 16..54 1980一例年 5..95 14 97

o

52 9..01 11 44 1985-89年 3.58 9 23

o

29 15..43 14.07 1990-91年 4 33 13 22 0..32 5..23 2.71 (出所) 日本経済新聞社 fNEEDSJ総合経済ファイル。 (注) 月次データによる毎年の変動係数を5年平均で算出。 (24) 預金・貨幣比 β =1/(現金・預金比+1)

(21)

391 貨幣乗数の公式について -235

参 考 文 献

( 1) Angell, J M. and K F. Ficek,“The Expansion of Bank Credit

Journaloj Politi -ωl Econorny 41, I, pp 1-33, II, pp. 152-93, 1933

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(41 Dornbusch, R, and S. Fischer, Maa口氏onomic.s,4th巴d,McGraw-Hi11, 1987

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[ 9

J

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(11) 鴨池治「多数銀行の同時的信用創造と資金遍在」季刊理論経済学, VoL XXXI, No.2, 1980 (12) 川口慎二編『金融論入門第二版』春秋社, 1979 (131 妹尾明編『現代日本の産業集中 1971-19801日本経済新聞社, 1983 (14) 根津永ご『貨幣の需要と中立性』成文堂, 1984 (15) 則武保夫・三木谷良一編 (1984)I現代金融論』有斐閣ブックス (16) 堀内昭義・高橋俊治「マネーサプライ・コントローノレの『貨幣乗数アプローチ2J経済 研究,第32巻, 1981 (17) 樋口午郎「商業銀行の預金歩留りと信用創造」バンキング,第209号, 1965 (18) 二木雄策「信用乗数について」国民経済雑誌,第153巻第3号, 1986 (19) 古川顕『現代日本の金融分析』東洋経済新報社, 1985 (20) 安居洋「信用創造乗数に関する若干の覚書」神戸外大論叢,第36巻第1号, 1985 (21) 横山昭雄『現代の金融構造』日本経済新聞社, 1977

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