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アジア経済の現状と展望(<特集>世界経済 : 危機の構図)

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Academic year: 2021

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(1)

アジア経済の現状 と展望

蛇名

保 彦 (

新潟経営大学経営情報学部教授)

予 め二つの ことをお断 りしてお きたい。一つ は、金融 ・通貨危機 問題 との関連性 をどう考 え るのか ということ、いま一つは、アジアの範囲を どうす るのか とい うこと、であ る。与 え られた テーマ を考 える上で、今 回の アジア金融 ・通貨 危機問題 を避 けて通 ることはで きない。この間 題 に対 す る評価や判断 を確定 しない限 り、アジ ア経済 の現状 と展望 を語 ることがで きないか ら だ。だが筆者 に与 え られたテーマの主眼 は、そ れを論 じることではな く、む しろアジア経済の展 望 を明 らかにすることにあるようだ。そこで本稿 は、この間題 を一つの分岐点 と位置づ けて 「ア ジア経済 の現状 と展望」を語 ることにしよう。次 に 「アジア」 とい う用語 についてであるが、ここ では 「アジア」とは東 アジアつ まり東北 アジア、 東南 アジアそれに中国か らなる地域 を指 してい る、とい うことに しておこう。本稿 で論 じる問題 の対象 は専 らこれ らの地域 に係 わるものだか ら である。

成長屈折の予兆

まず、金融 ・通貨危機 に至 る前 にアジアはそ もそ も経 済成長の変調 に直面 していた とい うこ とを指摘 しておかなければならない。すなわち、 1997年 に発生 した危機以前 の段階で、一ァジア 経 済 は既 に成長屈折 の予兆 を示 していた とい う ことが重 要である。 輸 出の鈍化 ・減少 最初 に、どの ような意味で成長路線 に変調が 生 じていたのかとうことを明 らかにしておこう。 6 アジア諸 国の最近の経済成長の推移 をみれば明 らか な ように、経 済 成長 は危機 の年 す なわち 1997年 に大幅に減速 している。 しか しなが ら この成長屈折 は必ず しも危機のせいばか りとは 言えない ということに留意 しなければならない。 問題は既 に96年経済 にあったのである。 そこでわれわれは、97年の危機 とともに96 年経済 を吟味 しておかなければならない。では

96

年 に何 が起 こっ.たのか。それは経済成長の 推移か らは伺い知ることがで きない。96年には 各 国 ともそ れ な りの成 長 を達成 して い るか ら だ。従 って成長構造すなわちその内部 に変化が 起 こったということだ。それは、輸出において重 大 な変化が生 じたということである。要するにア ジア諸 国の輸 出拡大 テンポが急速 に低 下 し、場 合 によれば減少 に転 じるとい うような事態 に落 ち込んだのだ。やや詳 しくこの点 をみておこう。 危機 と成長屈折 との関係 を明 らかにす るため に、97年 には危機 に何 らかの形 で関 わった諸 国の96年 における輸 出動向 を取 り上 げてみる と、次の通 りである。まず最大の輸出規模 と最高 度 の増加率 を誇 る中国の輸 出拡大率 は95年の 22.9%か ら (また90年か ら96年 にかけての 年平均増加率16.0%か ら)96年 にはわずか 1.5% (もっとも97年 には20.9% に回復 し てはいるが)へ と大 きく落ち込んでいる。韓国に おいて も同時期 に30.3% (同11.0%)か ら 3.7% (同5.8%)へ と急落 している。香港 も 同 じく14.8% (同9.2%)か ら4.0%(同 4.0%)にまで低下 している。イン ドネシアも

(2)

同 じく

13.

4%

(同

12.

2

%)か ら

9.

7%

(同

7.

4

%)に低下 している。最後 にタイの場合 に はマイナスに転落 している。す なわち、同 じく

25.1%

(同

15.7%)

か らマ イナス

1.

3%

(尤 も

97

年 にはプラス

3.

4

%に回復 してはい るが)へ と転落 しているのである. 鈍化 ・減少の要因 ではどうして

96

年にこのような大幅な輸出停 滞が生 じたのか。その主要な理 由の一つ に日本 の輸入鈍化が挙 げ られ よう (日本 の輸入 [ドル 建て]は、

95

年 には

22.

3

%という高い増加率 を達成 しているが、

96

年 にはそれは

3.

9

%に まで急落 し、

97

年 には遂 に減少 に転 じマイナス

3.

1

% を記録す るに至 っている)。 その原 因は 日本 国内の不況 にあったが、それだけではな く 円安がそれに追い打 ちをかけている。アジア諸 国の輸 出はその依存率 を低下 させているとはい え、今 なお 日本へ大 きく依存 している

。95

年で み て も、主 要 アジア諸 国の対 日輸 出依 存率 は

18.

1

%に達 している。 しか もこうした高い対 日輸出依存度 は、単 に一時的 な ものではな く、 日本 とアジア諸 国との分業関係深化 すなわち相 互依存性 を伴 ってお り、その意味 で高度かつ構 造 的な性格 を帯 びている、とい う点が重要であ る。 すなわち、 日本 の地域別輸入動 向 をみると、

90

年以降一貫 してアジアの シェアが上昇 して お り、

97

年 には総輸入の凡そ

3

分の 1と圧倒的 なシェアを占めるに至 っている (その シェアは

90

年には

26.

6%

であったが

97

年には

34.

7%

へ と大幅に上昇 している)。因みに

97

年におけ るアメリカのシェアは

22.

3%

E

Uのシェアは 1

3.

3

%に止 まっている。そ してシェア上昇 は 資本財輸入お よび機械類部品輸入が飛躍的に拡 大 した ことに因 って-いる。資本財 ・機械類部品 輸入の地域別シェアをみると、

80

年代後半にお いては、

50%

以上をアメリカか ら輸入 していた が 、そ の後 、同 国の シェアが低 下 しアジアの シェアが急増 した結果、

97

年 には、アメリカ、 アジ アか らそ れ ぞ れ

4

割 程 度 とほぼ同水 準 と なっている。その場合 とりわけ注 目されるのは、 機械類部 品 に関 しては同水準 とはいえアジアか らの輸入が アメリカか らのそれ を上 回る水準 に まで達 していることである

(90

年か ら

97

年 に かけての アジアの財別輸入 シェアの推 移 は、資 本財が

18.

9

%か ら

39.

7%

へ 、機械類部品が

26.

7%

か ら

43.

5%

へ とそれぞれ急増 してい る)0 しか もこうした資本財 ・機械類部 品 を中心 と す る 日本 の対 アジア輸入 の増加 は、 日本 の直接 投資 を軸 とす る対 アジア国際分業関係 の深化 を 反映 している。す なわち、 日本 の アジアへ の直 接投資 を通 じた現地生産の拡大 を通 じてのアジ アと日本 との分業の進展である。そのことは、日 本 の対 アジア製造業直接投資の累計額 と同地域 か らの製品 ・機械類部 品の輸入 との関係 をみた 場合、ともに

80

年代後半以降一貫 して増加 して いるということか らも裏付 け られ よう。 とりわけ コンピュータな ど一般機械 を基軸 と す る分業 関係 の緊密ぶ りが注 目され る。 日本 の アジアか らの資本 財 輸 入 は数 量 ベ ー スで み て も、やは り一貫 して伸 びてい るが、中で もコン ピュー タを含 む一般 機械 の趨 勢 的 な上 昇 が 目 立 っている。機械類部品 も同様 に増加 してお り、 その うち特 にコンピュータ等部 品の増加 が顕著 である。他方 日本 のアジア向け直接投 資 累計額 の推移 をみ ると、電機機械部 品が圧倒 的 に増加 してお り、両 者 の 間 には深 い相 関 関 係 が横 た わ っているとい うことを窺 わせ ている。 この ように、アジア諸 国の対 日輸 出依存度 は 機械類 を基軸 とす る 日本 とアジア諸 国 との間の 強 くかつ高度 な相互依存関係 (因み に 日本 の対 アジア諸国向け輸 出 もその重要度 を次 第 に高め ている)によって支えられているのであるが、こ うした高 くかつ強い依存 関係 にあるに も係 わ ら ず、日本 の不況深刻化 お よび円安 によって対 日 7

(3)

輸 出が急激かつ大幅 に減少 した とい うことが ア ジア諸 国の上記 の輸 出鈍化 ・減少 に繋が った と い うことを確認 してお く必要があろう。 か くして、アジア諸 国の輸 出鈍化 ・減少 は後 述 するように今 日もなお輸 出主導型成長路線 を 採 り続 けるこれ ら諸国の経済成長 を潜在 的 に屈 折 させ る とい う役割 を果 た したのであ り、その 意味で、た とえ表面的 には成長 を維持 していた とはいえ、アジア諸国の経済成長 は

96

年 には翌 年表面化 す る成長屈折 に向けての予兆 を既 に内 包 していた、とい うことを指摘 しておか なけれ ばならないのである。

金融 ・通貨危機 と成長屈折

こうした成長路線 における変調 にいち早 く気 付 いたのが、国際的な短期資金運用 に従事す る ファン ド ・マネージャーや投機筋 である。 こうした成長屈折 の予兆が既 に

96

年 には顕 在 化 しつつ あ ったに もかかわ らず、多 くのアジ ア諸国は不幸 に も外資 とくに短期外 資 を大量 に 取 り入 れ成長路線 をただひたす ら走 り続 けてい た の で あ る。 しか しなが らフ ァン ド ・マ ネー ジ ャーや投 機筋 は決 してそ うした変調 を見逃 さ なか った。彼 らは、アジア諸 国の変調 を察知 し しか もその将来 の成長性 に疑念 を抱 くに至 るや いなや、たち どころに彼 らの巨額 な投 資 ・投機 資 金 を引 き上げたのである。アジア開発 銀行 に よれば、韓 国、タイ、イン ドネシアを含 む

5

カ国 だけで

97

年 における資金の純流出額 は

120

億 ドルに通 した とされる。

96

年 には

930

億 ドル の純流入額 を数 えた訳 だか ら、それが如何 に巨 額 なキャピタルフライ トであったかは想像 に難 く はないであろう。 か くして、アジア諸 国は 自国通貨 の大幅かつ 急 激な切 り下げ と深刻 な不況 に見舞 われ、今 日 に至 るもなおそ うした状況か ら脱却 す ることに 必 ず しも成 功 して はい ない。そ れが今 回の 金 8 融 ・通貨危機 と呼ばれるものである。そ してこう した危機 を通 じてアジア諸 国の経済成長 は現実 に大 きく屈折 し始めているのである。 最 も大 きな被害 を蒙ったタイ、韓国、インドネ シアを取 り上げてみると、タイは最 も早 くマイナ ス成長 に陥 り、経済成長率 (実質、以下同 じ)は

97

年 には早 くもマイナス

0.

4%

に落ち込み、 98年はさらに落ち込みマイナス3%前後 に達す るもの と想定 される.また韓国も、98年

1-3

月期 にはマイナス

3.

8

%に落ち込 み、

98

年 を 通 じてもマイナス1%前後 に止 まるものとみ られ る。さらにイン ドネシアは

98

1-3

月期 にマ イナス6.2%とい う大 幅 な減速 を記録 してお り、98年全体 としてもやは りマイナス 3%前後 を坊復 うもの と推定 される。この他の諸国も大 な り小 な り成長率低下に悩 まされている。 この ように、多 くのアジア諸 国が危機 を機 に 成長率の大幅 な低下やマイナス成長 に苦 しんで いるのであるが、それ を単 なる危機 による一時 的かつ突発 的 な 「成長減速」に過 ぎない とみる のは適切ではないであろう。というのは、前述 し た ように、これ ら諸 国は危機の前年 に既 に成長 路線の変調 を経験 していたのであって、そ うし た理由か らもそのことは明 らかであろう。従って それはあ くまで も輸出主導型成長の挫折 による 「成長屈折」とみるべ きであ り、危機はそれを増 幅 したに過 ぎない とも解釈 で きよう。

アジアの経済成長は終わったの か ?

ではアジア諸 国は既 に成長性 を喪失 した とみ るべ きなのだろうか。この点 を考察する上で、わ れわれはアジア諸 国の経済成長のパ ター ンにつ いて論 じておかなければならない。 成長のパ ターンとは成長主導部 門が何 か とい う問題 に係 わる。す なわち、それが輸 出部門で ある場合 と消費部 門である場合、さらにはその 複 合 に よる場 合 の三つ のパ ター ンに分 け られ る。最初の場合が輸 出主導型成長、三番 目が消

(4)

費主導型成長そ して最後が複線型成長である。 この場合、成長メカニズムの観点か ら捉えると、 輸 出主導型成長 においては投資 ・輸 出の好循環 メカニズ ム、消費主導型成長では投資 ・消費 の 好循環 メカニズム、最後 に複線型成長 において はその双 方のメカニズム-がそれぞれ作動 して いるとい うことになる。 従 って どの ようなメカニズムが働 いているの か ということが重要 なのであって、それが成長 パ ターンを決めるという訳 だ。この点をアジア諸 国の現実 に当てはめてみると次 の通 りである。 まず アジア諸 国の場合 には、輸 出が大幅 に伸 び ただけで はな く経済成長 をリー ドした とい う点 が重要である。例えば韓国の場合、輸出は

80

年 か ら

90

年 にかけて年平均 で

12.

8

% と大幅 に 伸 びてい るが 、そ れ だけで は な く輸 出依 存度 (輸出額/名 目GDP)が80年代 には3割前後 と極めて高かったが故 に、輸 出増が経済成長 を 主導 したのである。そ してこうした輸 出増 は同 国の高投 資 (韓国の投資率 [国内総投資対GD

P

比率]

91

年 には

39.

1

%に達 している)およ びそれによって支 え られた競争力強化 によって 可 能 となったが故 に、同国においては投資 ・輸 出 の好循 環 メカニズ ムが働 い た とい う訳 で あ る。従 って同国における成長主導部 門は輸出で あ り、その意味で同国の経済成長パ ター ンは輸 出主導型 であるが、それは投資 ・輸 出高循環 メ カニズ ムが働 くことに よって は じめ て可 能 に なった、という点が重要なのである。同様のこと は、台湾、香港、シンガポールなど他のアジア

N

IESについて も言えるし、タイ、マ レーシア、 ベ トナムなどのASEAN諸国さらには中国につ いても当てはまる。そ して、こうした輸出主導型 成長 を市場 として支 えたのが、前述 したアジア 諸 国 との分業関係深化 を背景 とする日本 の対 ア ジア諸 国輸入の拡大であった。 ところで消費 もまた経済成長 に大 きな影響 を 及ぼ し始 めている。例 えばや は り韓国では輸 出 依存度が

85

年 には

32.

6

%であったが

90

年 に は

26.

6

%にまで低 下 してお り、台湾の場合 も 同 じく

49.

4

%か ら

42.

7%

にまで低下 してい るが、それ にもかか わ らず両 国の-人当た り

G

DP水準が先進 国並 の水 準 に達す ることに よっ て国内市場 が形成 され、それが経済成長 を支 え た結果、両 国の経済成長率 は低 下 してはい ない のである。 この ようにアジアN IESにお いて は、国内消費市場が輸 出 と並 んで経済成長 を支 えるに至 ってい るが、この国内市場 の形成 もま た高投資 を背景 とす る所得増 によって もた らさ れた とい う点で、投資 ・消費 の好循環 メカニズ ムが既 に作動 し始 めているのである。その意味 で、アジア諸 国は一方で輸 出主導型成長 を続 け なが らも、他方 でそ こに新 たに投資 ・消費好循 環 メカニズ ムを作動 させ ることによって次 第 に 複線型成長へ とその経済成長パ ター ンを変容 さ せつつあった と考 えるべ きであろう。 従 って前述 した96年 における成長路線 の変 調 をもた らした 日本 の村 アジア諸 国輸入低 下 を 主因 とするアジア諸国の輸出減少 ・低下 も、こう した文脈す なわち経済成長パ ター ンの変化 とい う文脈 において捉 えるな らば、ある意味 では成 長パ ターン変容の一環であ りかつそれ`を一層促 進す る過程 で もあった、 と捉 えること- もで きよ う。無論 こうしたパ ター ンの変容 に伴 い経 済成 長が鈍化す るもの とみ られ、その意味 で成長減 速 は避けがたい と考 えられる。とくに金融 ・通貨 危機 による影響 さらには 日本 の不況長期化 によ る影響 によって当面 はデ フレ圧力 に悩 まされる 結果、停滞 か らの脱却 は容易 な ことで は ない と 考 えられる。それで もなお 中長期 的 にみ れば中 位成長の可能性 は十分持 っているもの と想定 さ れる。従 って危機 によって成長屈折が増 幅 され ているとはいえ、その ことを以 てアジ ア諸 国が 最早成長性 を喪失 した と速 断す る必要 は ないで あろう。 (えびな やす ひこ)

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