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166 日本金属学会誌 (016) 第 80 巻 増殖する過程において,H S の産生が顕著なことが挙げられる. サルモネラ菌から産生された H S は菌の培養培地に鉄 (Fe) 源が含まれていると, それと反応して黒色の硫化鉄 (FeS) を形成する. したがって, クエン酸鉄などの鉄 (Fe)

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J-STAGE Advance Publication date : January 15, 2016

サルモネラ菌の硫化水素産生能を用いた銅の抗菌性評価

翠 川

1

仲 井 正 昭

2

翠 川

3

新 家 光 雄

2 1鈴鹿医療科学大学保健衛生学部 2東北大学金属材料研究所 3三重大学大学院医学系研究科

J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 80, No. 3(2016), pp. 165170  2016 The Japan Institute of Metals and Materials

Evaluation of Antibacterial Activity of Copper by Hydrogen SulfideProducingSalmonella Yutaka Midorikawa1, Masaaki Nakai2, Kaoru Midorikawa3and Mitsuo Niinomi2

1Faculty of Health, Suzuka University of Medical Science, Suzuka 5100293 2Institute for Materials Research, Tohoku University, Sendai 9808577 3Graduate School of Medicine, Mie University, Tsu 5148507

A novel method for detecting antimicrobial activity using an innate property of the Salmonella bacteria, namely, the ability of Salmonellato produce hydrogen sulfide (H2S) was developed in this study. The effectiveness of the method was evaluated by

comparing the antibacterial activity of copper to that of aluminum. Salmonella was inoculated over the entire surface of deoxycho-late hydrogen sulfide lactose (DHL) agar pdeoxycho-lates that included Ammonium ferric citrate (C6H8FeN). Approximately 25 mL of

cupric chloride (CuCl2, 1 weight ratio) solution or aluminum chloride (AlCl3, 1 weight ratio) solution was added to the center

of the medium. The surface of the medium was covered with plastic PET (polyethylene terephthalate) material to induce an anaerobic state. Salmonella was cultured under anaerobic conditions at 310 K (37°C) for 86.4 ks (24 h). The antibacterial activity of copper was determined by observing the medium surface color change due to iron sulfide (FeS) formation, which was caused by the production of H2S by Salmonella; blackness indicated presence of newly formed FeS. A quantitative evaluation of copper's

antimicrobial activity was performed using a gradient of CuCl2concentrations; results were compared with those of the present

standard method, KirbyBauer disk diffusion method on the Mueller Hinton medium. Finally, in order to evaluate the antibacteri-al activity of metantibacteri-als, Santibacteri-almonella was inoculated on DHL agar plates. Subsequently, Japanese coins (1 yen, 5 yen, 10 yen, 50 yen, 100 yen and 500 yen coins) were placed on the agar and cultured at 310 K for 86 ks. Salmonella cultured in the presence of AlCl3

produces black color, while no blackening is observed with CuCl2, suggesting that copper possesses an antibacterial property

against Salmonella. CuCl2suppresses H2S production by Salmonella, as Cu2+forms a transparent circle or ellipse (new halo)

around the point at which CuCl2had has been plated. The size of the new halo increases in direct proportion to the concentration

of CuCl2. The halo is no longer visible at 0.034 mg of CuCl2in our method, while the halo disappears with 4.34 mg of CuCl2in the

KirbyBauer method. Therefore, the present method is 129 times more sensitive than the standard method, suggesting increased usefulness and effectiveness in testing antibacterial activity. No FeSdependent black circle is formed under any of the coins, with the exception of the 1yen coin, which contains aluminum and no copper. Therefore, the coppercontaining coins have an antibac-terial effect. [doi:10.2320/jinstmet.J2015049]

(Received August 5, 2015; Accepted November 5, 2015; Published January 15, 2016) Keywords: salmonella, copper, antimicrobial, hydrogen sulfide, iron sulfide

1. 緒 言 抗菌性を示す金属があるが,そのような金属の中でも,微 生物には有害であるが,人体には比較的害の少ない金属とし て銀および銅などが古くから知られている.インプラントな どに用いられる医療材料として注目されているチタンや最も 身近な鉄やアルミニウムなど自体には抗菌性が認められてい ない13).なお,一般的には,金属材料の抗菌性は,金属単 体ではなく,それから溶出される金属イオンの対菌毒性によ り発現する.現在,食品衛生対策としての台所用品,肌着や 靴下等の衣料品およびバス・トイレ用品など,様々な抗菌加 工製品が市場に多く出回っている.抗菌加工が施されたプラ スチック製品,金属製品やセラミックス製品など(中間製品 を含む)の表面における細菌に対する抗菌性評価法および抗 菌効果は,JIS Z280120104)により規定されている.この 方法では,素材の抗菌性を調べる場合,試験片をグラム陰性 菌である大腸菌または同陽性菌である黄色ブドウ球菌を含む 水溶液と接触させ,通常その水溶液 1 mL 中に含まれる生菌 数 を , 普 通 寒 天 培 地 な ど 市 販 さ れ て い る 培 地 等 で 310 K (37°C)で 86.4 ks(24 h)培養後に計測し,試験片と接触させ なかった対照群の菌液中の菌数との有意差を検定し評価す る.しかし,この方法では菌液を調整し,コロニーをカウン トすることで,労力がかかるため検査費用も高額となる欠点 がある.そこで,著者らは,この欠点を克服するため,従来 の大腸菌の代わりに,サルモネラ菌の硫化水素(H2S)産生能 を利用する方法を考案した. 食中毒の原因菌の一種であるサルモネラ菌の特徴として,

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増殖する過程において,H2S の産生が顕著なことが挙げら れる.サルモネラ菌から産生された H2S は菌の培養培地に 鉄(Fe)源が含まれていると,それと反応して黒色の硫化鉄 (FeS)を形成する.したがって,クエン酸鉄などの鉄(Fe)源 を含む寒天培地では,サルモネラ菌が産生した H2S により FeS が形成されることで培地が黒色に変化するため,目視 に よる判定 が可能とな る.FeS は,弱酸 性で形成 される が,強酸や強アルカリでは解離する5).この性質を利用すれ ば,菌数を数え,有意差を求めなくても,サルモネラ菌など の H2S産生菌を培養し,黒色の FeS 形成の有無のみによる 抗菌性の判定が可能となるため,抗菌性判定への費用および 労力を低減することが期待される. 以上より,本研究では,サルモネラ菌の H2S 産生能を利 用して銅イオンの抗菌性を評価し,新たな抗菌性評価法の可 能性について検討した.本法の有効性を評価するため,薬剤 感受性試験の現行法である KirbyBauer 法6)を対照として用 いることにした.JIS の抗菌性評価法(JIS Z280120104)) は,大腸菌または黄色ブドウ球菌のみを用いることと規定さ れている.そのため使用菌株の規定のない KirbyBauer 法 を対照として使用することで,サルモネラ菌を被検菌として 用いることができ,同じ被検菌による直接的な比較が可能と なるからである. 2. 実 験 方 法 2.1 使用菌株および培地 使用菌株として,多量の H2S を産生する非チフス性サル

モネラ菌株(Salmonella enterica subsp.)血清型 Virchow7)

用いた.

培 地 に は , Desoxycholate hydrogen sulfide lactose (DHL)培地(栄研化学)を使用した.本培地は,滅菌不要な ので精製水 200 mL に対して 12.7 g を溶解した.本培地の 特徴は,鉄源としてクエン酸鉄(C6H5FeO7),硫黄源として チオ硫酸ナトリウム(Na2O3S2)が含まれていることである. すなわち,この培地中では,サルモネラ菌の代謝により,硫 黄源から取り込まれた硫黄が H2S となって産生され,それ が培地中の鉄源に含まれる鉄と反応することにより黒色の FeS が形成される.本法では,この現象を利用し,培地の 色の変化で菌を検出する.同培地粉末 63 g を 373 K に保持 した 1000 mL の蒸留水に溶解後,20 mL ずつを直径 80 mm のペトリ皿に分注し,室温で固化させた.さらに,比較とし て,現行の薬剤感受性試験である KirbyBauer 法に用いら れているミュラーヒントン培地粉末(栄研化学)38 g を 373 Kに保持した 500 mL の蒸留水に溶解後,394 K で 1.2 ks 間 高温高圧滅菌し,直径 80 mm のペトリ皿に 20 mL ずつ分注 し室温で固化させた. 2.2 抗菌性評価の対象とする金属 本研究では,抗菌性の有無を定性的および定量的に検査す る対象物質として,銅イオンおよびアルミニウムイオン水溶 液を採用した.それらの詳細は,次のようである. 定性試験抗菌性を示す銅イオンの化合物である塩化第 2

銅 2 水和物(copper () chloride dehydrate: CuCl2・2H2O) 1 g を 100 mL の蒸留水に溶解し 1溶液とした.一方,抗 菌性を示さないアルミニウムイオンの化合物である塩化アル ミニウム(AlCl3)1 g を 100 mL の蒸留水に溶解し 1溶液と し,対照とした. 定量試験銅イオンの抗菌性を定量するために,10 mL の蒸留水に 7 g の CuCl2・2H2O を溶解した水容液(ほぼ飽和 溶液)を原液とし,順次 2 倍希釈していき 0.6836, 1.367, 2.734, 5.469, 10.94, 21.88, 43.75, 87.50, 175.0, 350.0, 700.0 mg/mL の水溶液を用意した. 2.3 嫌気条件での培養方法 嫌気状態の確立は,394 K で 1.2 ks 間高温高圧滅菌した ポリエチレンテレフタレート(PET)製 OHP シート(透明プ ラスチック)を用いた.この透明プラスチックを面積 20 mm ×20 mm で厚さ 0.2 mm および面積 50 mm×50 mm で厚さ 0.2 mmの 2 サイズの正方形に切断後,その切片を培地表面 に密着させて,空気を遮断することにより,嫌気状態を確立 した. 2.4 抗菌性の定性および定量実験手順 抗菌性の定性および定量実験手順を次のからへと順を 追って示す.  嫌気条件下におけるサルモネラ菌培養サルモネラ菌 をニクロム耳にて DHL 培地に接種し,310 K で 86.4 ks 間 培養しサルモネラ菌の単独コロニーを形成させた.得られた サルモネラ菌の単独コロニーを綿棒の先に付着させ,DHL 培地上に全面塗布し,20 mm×20 mm×0.2 mm の正方形透 明プラスチック片で覆い,同培地表面を嫌気状態にして, 310 K で 86.4 ks 間培養したものをコントロールとした.  定性実験銅イオンとアルミニウムイオンとの抗菌性 の差を確認するため,1CuCl2水溶液および 1 AlCl3水 溶液に 20 mm×20 mm×0.2 mm の正方形透明プラスチック 片を浸潤し,乾燥させた.乾燥後,サルモネラ菌を全面接種 した DHL 培地表面に透明プラスチック片を密着させ嫌気状 態にし,310 K で 86.4 ks 間培養した.  定量実験サルモネラ菌を全面塗布した DHL 培地の 中心に,0.6836 mg/mL から 700.0 mg/mL までの各濃度ま で希釈した CuCl2水溶液を 25 mL ずつ滴下し,滴下場所を 50 mm×50 mm×0.2 mm の正方形の透明プラスチック片で 覆い嫌気状態にして,310 K で 86.4 ks 間培養した. 比較・対照として以下の要領で Kirby Bauer 法を用いた8) 上記の各濃度まで希釈した CuCl2水溶液を 25 mL ずつデ ィスク(東洋ろ紙,枝肉の抗菌物質検査用 10 mm)に滴下 し,浸潤後,同ディスクをサルモネラ菌が全面接種されたミ ュラーヒントン培地の上に置いて 310 K で 86.4 ks 間培養し た.KirbyBauer 法では培地表面における嫌気条件は不要で プラスチック片は用いない.  抗菌性の判定および評価サルモネラ菌を培養した DHL 培地は,嫌気状態にした部分が FeS の形成により黒色 変化するが,抗菌性の金属イオンを含む水溶液を滴下した場 所は,H2S が産生されないため黒色変化しない.この黒色

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Fig. 1 Iron sulfide formation by hydrogen sulfide produced by Salmonellaunder anaerobic conditions.

Fig. 2 Effects of copper chloride and aluminum chloride on FeS formation by Salmonella.

変化しない部分は,滴下された金属イオン水溶液が DHL 培 地中を放射上に拡散するため,円あるいは楕円形状となる. 本法では,この円または楕円の面積を測定し,その大きさで 抗菌性の強さを評価した.一方,ミュラーヒントン培地を用 いた現行法の場合は,培養後,ディスクの周りに菌が発育し ない阻止円が形成される.そこで,この阻止円の大きさ,そ の直径を測定した(現行法). 2.5 金属素材の抗菌検査への応用 アルミニウムからなる 1 円硬貨,銅とスズとの合金であ る青銅からなる 10 円硬貨,銅と亜鉛との合金である真鍮か らなる 5 円硬貨,ニッケルと銅との合金からなる 50,100 および 500 円硬貨をサルモネラ菌が全面塗布された DHL 培 地上に配置した.対照として,無処理の 20 mm×20 mm× 0.2 mm の透明プラスチック片を用いた.その後 310 K で 86.4 ks 間培養し,培養後に硬貨を取り除き硬貨下の培地色 の変化を比較した. 3. 結果および考察 3.1 サルモネラ菌の硫化鉄形成に及ぼす嫌気条件の影響 Fig. 1 に,サルモネラ菌を全面塗布後,透明プラスチック 片で覆い 310 K で 86.4 ks 培養後の DHL 培地を示す.サル モネラ菌は,透明プラスチック片で覆われた嫌気条件下で は,黒色を呈することで鑑別される.一般に,非チフス性サ ルモネラ菌の特徴は,培地に含まれるチオ硫酸などの硫黄源 を利用して多量の H2S を産生することにある5).サルモネラ 菌 が 産 生 し た H2S が DHL 培 地 等 に 存 在 す る ク エ ン 酸 鉄 ()と反応して FeS を形成し,黒色変化を呈することでサ ルモネラ菌の活発な増殖を判断することができる.したがっ て,透明プラスチック片素材自体には抗菌性はなく,サルモ ネラ菌がその下部で活発に増殖したと判定できる.ただし, 透明プラスチック片で覆わない部分ではサルモネラ菌は増殖 しているが,黒色は認められない.これは,好気条件下では FeS が形成されても,大気中からの酸素の供給により再び FeS が酸化されるために,黒色は消滅するからであると考 えられる.一方,透明プラスチック片に覆われた嫌気条件下 で顕著な FeS の形成を認めたのは,透明プラスチック片に より大気中からの酸素の供給が遮断されるため H2S によっ て形成された FeS が再び酸化されないことが原因であると 考えられる. 3.2 銅イオンとアルミニウムイオンの抗菌性 Fig. 2 に,サルモネラ菌を接種後,銅イオンおよびアルミ ニウムイオンが付着した透明プラスチック片で覆い嫌気状態 にし,310 K で 86.4 ks 培養後の DHL 培地を示す.アルミ ニウムイオンが付着した透明プラスチック片の下では黒色変 化が認められるが,銅イオンが付着した透明プラスチック片 の下では,黒色変化が認められない.これらの色の変化は, アルミニウムイオン存在下では,サルモネラ菌の H2S 産生 が阻害されないため FeS が形成されるが,銅イオン存在下 では,サルモネラ菌の H2S産生が阻害されるため FeS が形 成されないことを示しており,銅イオンは抗菌性を有する が,アルミニウムイオンは銅イオンのような抗菌性を有して いないことが示唆される. したがって,銅は抗菌性を示し,アルミニウムは抗菌性を 示さないことはすでに周知の事実13)であるが,サルモネラ 菌の H2S 産生で形成される FeS の有無で抗菌性を判定でき ることが本研究で初めて明らかとなった. 3.3 銅イオンの抗菌性の定量と現行法との比較 Fig. 3 に本法(上段)による銅イオンのサルモネラ菌に対す る抗菌性試験結果を薬剤感受性試験の現行法である Kirby Bauer 法(下段)による試験結果とともに示す.ミュラーヒン トン培地を用いた現行法では,抗菌性を有する銅イオンが 4.37 mg 以上で,菌の増殖率が 0 となる発育阻止円が認めら れる.一方,DHL 培地を用いた本法の場合,FeS が形成さ れない無色の円または楕円(本法では,これが現行法におけ る 発 育 阻 止 円 に 該 当) が 0.034 mg 以 上 で 認 め ら れ る . 以 下,本法において,透明プラスチック片下で黒色の FeS が

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Fig. 3 Comparison of sensitivity of New method with KiebyBauer method under CuCl2treatment.

Upper: New method with DHL medium, Lower: KirbyBauer method with Mueller Hinton medium.

Fig. 4 Comparison of formed inhibition Zone between New method and KirbyBauer method. ■: New method,■: Kirby Bauer method. 形成されなかった部分を新ハローとし,現行法で認められる 発育阻止円を旧ハローと記す.新ハローの大きさは,銅イオ ン濃度と比例して増加している.透明プラスチック片で覆わ れた新ハローの外側は,FeS 形成を示す黒色を呈し,透明 プラスチック片で覆われなかった部分では黒色変化が認めら れない. 新ハローの形成される限界量は,前述のように本法のほう が 0.034 mg と低く,現行法の 4.37 mg と比較した際に,概 ね 1/129 であることがわかる.したがって,定量的に本法 と現行法を比較した結果から,本法は,H2S 産生能を指標 とした菌に対する抗菌性の有無を高感度で判定することが可 能であるといえる.現行法でハローが形成されている場合で は,ろ紙の下では菌は死滅している.ただし,目視してもろ 紙の下は,菌が増殖しているかいないのか判別不能である. しかしながら,新ハローは,FeS が形成され黒色を呈する 部分と形成されない部分とで白黒の色調対比が顕著なため, 現行法で形成される旧ハローよりも目視により明瞭に判定で きる.Fig. 4 に Fig. 3 に示した各銅イオン濃度における新 ハローおよび旧ハロー(円または楕円)の面積(mm2)を示 す.本法と現行法の違いは新旧ハローの大きさにも表れてお り,新ハローの面積は旧ハローと比較すると 3~10 倍程度 大きいことがわかる. 3.4 本法の優位性 過去に我々は,培地の塩分濃度が上がると,サルモネラは 増殖しても硫化水素産生が阻止される事実を解明した9).し たがって,サルモネラの硫化水素産生能が銅イオンの影響で 低下しただけで菌が死んだわけではないと考えられる.した がって,H2S 産生による FeS 形成の消滅は,サルモネラ菌 の増殖率の低下を反映していると考えられる. 物質の抗菌性を調べる際に,現行法では,普通寒天培地や ミュラーヒントン培地など,硫黄源や鉄源を含まない培地を 用いる.そのため,菌の H2S 産生および FeS 形成を確認す ることは不可能である.現行法で菌の増殖阻害の有無を判定 するためには,増殖率が 0 となった旧ハローの形成を目視

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Fig. 5 Effects of coins on Salmonella growth.

(\1: one yen coin, \ 5: 5 yen coin, \ 10: 10 yen coin, \ 50: 50 yen coin, \ 100: 100 yen coin, \ 500: 500 yen coin, PET: Plastic)

することが必要である.旧ハローが初めて形成される銅イオ ンなど抗菌物質の最小濃度は,最小発育阻止濃度(MIC)と 呼ばれ,H2S の産生を阻害する最小濃度よりも高濃度であ ることが,本研究より明らかとなった. さらに,本法では,培地に硫黄源であるチオ硫酸と鉄源で あるクエン酸鉄を含むため,銅イオンによる発育阻害の影響 を FeS 形成能を利用した新ハローの出現により高感度に判 定できる.したがって,本法を用いれば,現行法における抗 菌性の指標とされる MIC よりも高感度であり,菌に対する 増殖阻害効果を明瞭に確認することが可能であるといえる. 3.5 硬貨を用いた金属の抗菌性試験の応用 Fig. 5 に本法による日本円硬貨の抗菌性評価結果を示す. 硬貨は寒天に密着しており,硬貨のすき間からの空気の侵入 は不可能である. コントロールの透明プラスチック片(PET)と 1 円硬貨の 下には FeS の形成による黒色変化が認められるが,それ以 外の硬貨では黒色変化が認められない.1 円硬貨以外でも黒 くなっているように見える個所は,金属の錆の色によるもの である. この結果は,1 円硬貨を構成するアルミニウムは抗菌性を 有さず,それ以外の銅を含む硬貨は抗菌性を有することを示 唆している.このように,本法では,対象物を培地に載せて 一定時間培養し,培地との接触面下に現れる黒色の FeS 形 成で簡単に抗菌性の有無を判定できるため,費用および労力 の軽減が期待される. 本研究では,サルモネラ菌による FeS の形成を目視する ために,既存の DHL 培地を用いたが,さらに検出感度の優 れた培地の開発・改良も可能であると考える.本法では,大 腸菌ではなく,サルモネラ菌を指標菌として用いることによ って現行法よりも簡便かつ高感度な抗菌性評価法を提案し た.本研究で用いた銅イオンは,ペニシリンなどの抗生物質 やその他有機抗菌材と比較して保存中に品質の劣化(力価の 低下)が考えられず,現在では過去に議論された人体への毒 性も否定されており10),安全性の面からも広く研究に用い るのに適している.本研究で提案する抗菌性評価法は,銅だ けでなく,他の金属や数多く存在する抗菌性を有する素材に 応用することが可能であると考えられる.現行法では見過ご されてきた抗菌物質がより感度の高い本法によって新たに見 つかる可能性も示唆される.具体的には,食器,洗浄剤,抗 生物質などの抗菌性を求められている多くの製品や試薬に応 用可能であると考えられるが,これらの応用については今後 の研究課題としたい. 4. 結 言 サルモネラ菌の H2S 産生による FeS 形成を利用した新し い抗菌性評価法を開発し,銅の抗菌性を実証した.さらに, 本法と現行の薬剤感受性試験法である KirbyBauer 法とを 比較し,以下の結論を得た.  硫黄源と鉄源とを含む DHL 培地にサルモネラ菌を全 面塗抹接種し,その上に透明プラスチック片を被せることで 嫌気状態を形成した後,310 K(37°C)で 86.4 ks(24 h)培養す ると,嫌気状態の部分においてサルモネラ菌が産生する H2S と DHL 培地に含まれる Fe とが反応して FeS が形成さ れ黒色変化を呈する.  銅を抗菌物質,アルミニウムを非抗菌物質のモデルと して用いた結果,アルミニウムイオンが付着した透明プラス チック片を被せた場合は黒色を呈するが,銅イオンが付着し た透明プラスチック片下では黒色を呈さないため,銅の抗菌 性を目視で判定できる.  銅イオンの濃度勾配を付けた条件下でサルモネラ菌を 培養すると,銅を滴下した部分を中心に発育阻止円が形成さ れ,その面積は銅イオン濃度に比例して増加する.本法と現 行の KirbyBauer 法とを比較したところ,本法は,現行法 に比べて 129 倍も高い感度の抗菌性評価が可能であること が示唆される.本法と現行法との違いは形成された発育阻止 円の大きさにも表れ,本法における発育阻止円は現行法にお けるそれと比較して 3~10 倍程度大きい.  サルモネラを全面塗布した DHL 培地上に日本で流通 している硬貨を置いて培養した結果,1 円硬貨の直下のみ FeS 形成による黒色変化が認められ,他の硬貨では認めら

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れなかった.1 円以外の硬貨はすべて銅を含んでいることか ら,1 円以外の硬貨はすべて抗菌性があると判断される.  本研究で提案するサルモネラ菌の FeS 形成能を指標 とした高感度で簡便な新しい抗菌評価法の開発により,これ を応用したさらに新しい抗菌検査法開発の道が開けると考え られる. 本研究は,東北大学金属材料研究所における共同研究(課 題番号 14K0005, 15K0018)および,JSPS 科研費 15K00894 により実施されており,感謝の意を表す. 文 献

1) H. E. M äuller: Zentralb lBakteriol Mikrobiol Hyg B.182(1985)

95101.

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Fig. 2 Effects of copper chloride and aluminum chloride on FeS formation by Salmonella.
Fig. 4 Comparison of formed inhibition Zone between New method and Kirby Bauer method
Fig. 5 Effects of coins on Salmonella growth.

参照

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