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イネは日の長さを測るための正確な体内時計を持っていた! - イネの精密な開花制御につながる成果 -

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Academic year: 2021

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参考資料

研究の背景 作物の開花期が早いか遅いかは、収量性に大きな影響を与える農業形質のひとつで す。多くの植物は、季節変化に応じて変化する日の長さを認識することで、適切な時 期に開花することが百年ほど前に発見されています。中には、日の出から日の入りま での日の時間が特定の長さを超えると花が咲く(もしくは特定の長さより短いと咲 く)といった日の長さの認識が非常に正確な植物も存在します。(この特定の日の長 さを限界日長*1と呼びます。 植物が持つ限界日長をうまく利用した技術がいわゆる“電照菊”で、菊の開花期の人 工調節技術です。菊の栽培農家が、お正月や春のお彼岸に合わせて出荷できるのも、 この技術のおかげです。菊の栽培地域を拡大するために、現在でも、限界日長が異な る新しい菊品種の開発が盛んに行われています。イネのような作物も、開花期特性の 違いで栽培に適した地域が大きく影響を受けます。 この 10 年間にわたる植物の遺伝子研究で、植物が開花する時期を決めるしくみが、 遺伝子レベルでかなりわかってきています。しかし、この限界日長がどのように決ま るのかはほとんどわかっていませんでした。 イネは世界の主要穀物であり、日本を中心としたゲノム研究プロジェクト等の成果 によって、研究基盤が非常に整っています。そこで、これまでのイネの開花のしくみ に関する知見を踏まえた上で、イネの開花期を決めるしくみが、限界日長によって制 御されているかどうか、もし制御されているなら、そのしくみがどのようなものかを 明らかにすることを目的に研究に取り組みました。 研究の内容・意義 イネは、日の長さが短くなると花が咲く植物(短日植物)で、花をつけるホルモン であるフロリゲンを合成するための遺伝子(Hd3a)は、10 時間日長(短日条件)栽 培では働いて花芽をつけますが、14 時間日長(長日条件)栽培では働かないことがわ かっています。また、フロリゲンの生産を増やす開花促進遺伝子(Ehd1)の働きは、 太陽からの光シグナルやイネの体内時計の状態によって影響を受けることもわかっ ています。 今回の研究では、イネのフロリゲン生産のオン・オフが、日の長さのわずか 30 分 の違いを認識して起こっていることを明らかにしました。そして、体内時計による情 報の流れを制御する“門(Gate)”の開け閉め(Gate 効果)により、日の長さを正確に 知ることができることも見出しました。ここで言う“門”というのは、光情報の流れを 調節している門のことで、体内時計の働きで、一日の中の決まった時間にだけ開きま す。例えば、夜明け頃から午前中の数時間だけ門が開き、門が開いている間に、太陽 の光がやってくると、その光情報を植物が感じて、開花を早める遺伝子が働いたり、 開花を遅らせる遺伝子が働いたりします。逆に、門が閉じているときに、いくら太陽 の光を受けても植物は反応しません。 また、イネはこの体内時計を制御する門を 2 つ持っていることがわかりました。ひ とつは、開花を早めるための門であり、もうひとつは、開花を遅らせるための門です。 そして、日の長さによって、門の開く時刻が変わり、正確に日の長さを測定すること ができると考えられます。以下に研究の具体的な内容を示します。

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1. イネを普通に 10 日間ほど育苗した後、10 時間から 16 時間までのいろいろな日 の長さで4日間栽培し、次の日の朝に Hd3a と Ehd1 の mRNA 量*2を測定しまし

た(図 1)。通常、mRNA 量が多いと、遺伝子が強く働いていると考えます。そ の結果、13 時間日長では、強く働いていた Hd3a の働きは、13 時間 30 分の日長 では大きく落ち込み、Ehd1 はほとんど働いていないことを示す結果が得られま した。この結果から、イネも限界日長を持っていて、フロリゲンの生産が日の長 さの制御を受けていることがわかりました。 2. いろいろな突然変異体(特定の遺伝子の機能が壊れた系統)を調べて、開花抑制 遺伝子(Ghd7)が Hd3a の限界日長反応に重要な働きをしていることを発見しま した。 3. いろいろな時刻に照射した赤色光や青色光の影響を知るために、Ehd1 と Ghd7 の mRNA 量を測定する実験を行いました。その結果、朝に照射した青色光によ り Ehd1 mRNA 量が増え、その傾向は、短日条件でも長日条件でも変わりません でした。また、赤色光照射で Ghd7 mRNA 量が増え、長日条件では朝、短日条件 では夜中に、光に対する反応性が高くなりました。このように、光に反応できる 時間帯が Ehd1 では変化しないのに対し、Ghd7 では日の長さで大きく変わること がわかりました。 4. 以上の結果に基づき、イネの日の長さを正確に測るしくみを説明する 2 つの異な る門を持つモデルを作りました(図 2)。 第1の門は、Ehd1 の働きを決めています。この門は、栽培環境の日の長さに よらず、朝に門が開きます(図 2 上段、青色破線)。つまり、太陽の朝の光を受 けると、門は開いているので、Ehd1 が働き、その結果、Hd3a が働いて花芽をつ けます(図 2 中段左)。しかし、午後や夜中に光があたっても門が閉じているた め、Ehd1 が働くことはありません。Ehd1 は、前の日の Ghd7 mRNA 量に応じて、 その働きが抑制を受けます。つまり、前の日に Ghd7 mRNA が多く存在すると mRNA から作られた開花抑制タンパク質の働きで、Ehd1 mRNA ができなくなり ます(図 2 下段)。 前の日の Ghd7 mRNA の生産量は、第 2 の門の効果により制御を受けています。 この門は日長により開く時刻が異なり、長日条件で成長しているイネは朝方に、 短日条件で成長しているイネは夜中に門が開きます(図 2 上段、赤色破線)。 従って、長日条件で育っているイネは、朝の光で Ghd7 が働き、大量の開花抑 制タンパク質を生産して次の日の Ehd1 の働きを抑えるため、Hd3a は働くことが できず開花が抑えられます。しかし、季節変化により日長が短くなると、Ghd7 の門が開く時刻が夜にシフトし、その効果で朝の光による Ghd7 の働きが弱くな り、次の日に Ehd1 が働きはじめます。その効果により Hd3a が働きます。 また、短日条件で成長しているイネは、夜中の赤い光に敏感で、開花抑制を 受けることが予想されますが、このことは、イネの光中断実験*3により、既に報 告されています(図 2 中段右)。電照菊で使われている「光中断」効果のしくみも、

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今後の予定・期待 今回の研究成果を基にして、イネの食味や収量、成長特性を変えることなく、開花 期だけを変えるといった育種が可能になるとともに、品種の栽培に適した地域をこれ まで以上に拡大する育種が可能になると考えられます。 私達のこれまでの研究から、イネには開花を早める別の遺伝子が存在することもわ かっています。従って、まだ同定できていない遺伝子の働きと今回明らかとなった点 との関係も明らかにしていく必要があります。 また、今回明らかにしたイネの体内時計のしくみを、人工的に薬剤などで調節する ことにより、開花期を人工的に制御することが可能になると考えられます。 用語の解説 *1 限界日長 短日植物の多くは、わずかな日長の差で開花期が大きく影響を受けます。極端な反 応をするものでは、ある時間より長い日長で栽培すると全く花が咲きません。こうい った日長の差で植物の生理反応(ここでは花芽形成)を起こすか起こさないかの境目 の日長を、限界日長と呼びます。長日植物では、明確な限界日長をもつものはあまり 知られていません。 *2 mRNA 遺伝子は親から子に受け継がれる生物の特長を決める設計図のようなものです。染 色体を構成する DNA 分子の A,C,G,T といった塩基の配列情報がその設計図の本体で す。非常に長い DNA 配列から、遺伝子の部分だけをコピーするように作られるのが mRNA 分子で、この mRNA 分子の配列情報から、いろいろな機能を持つタンパク質 が作られます。 *3 光中断実験 1930 年代後半から 60 年代にかけて、短日条件で栽培した植物に、夜中に光を照射 して開花期への影響を調べる実験が盛んに行われました。このような実験を光中断実 験と呼びます。この実験により、植物が光の強さではなく光の長さに反応しているこ とが明らかとなりとともに、光中断に敏感に反応する植物は、昼の明期の長さではな く、夜の暗闇の長さを測定しているとの通説が生まれました。しかし、その詳細なし くみは明らかになっていません。春のお彼岸時期に正確に花を咲かせる必要がある菊 の開花制御等に、この光中断技術が利用されています。

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図 1 フロリゲンを合成するための遺伝子(Hd3a)、開花促進遺伝子(Ehd1)の mRNA 量の限界日長認識

4 日間の日長処理後の次の朝の mRNA 量。目盛は対数軸で、1目盛で mRNA 量は 10 倍異なります。13 時間と 13.5 時間で大きく変化していることがわかります。農林8 号は実験に用いた品種。

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図 2 イネの限界日長認識のモデル 黒いバーは暗期、白いバーは明期を示します。黄色の○は、光源(太陽等)。 上段:開花促進遺伝子(Ehd1)の門の状態(青い点線)と開花抑制遺伝子(Ghd7) の門の状態(赤い点線)。 中段:左;短日条件における Ehd1 mRNA 量の変化。朝の光に対し、Ghd7 の門は閉じ ていて、Ehd1 の門は開いています。右;光中断により、Ehd1 の働きが抑えられ ることを示します。夜中に Ghd7 の門は開いていますので、赤色光を当てると Ghd7 mRNA が多量に生産され、その結果生産された開花抑制タンパク質(赤丸 の Ghd7)によって Ehd1 の働きが抑えられます。 下段:長日条件での Ehd1 の働きを抑えるしくみ。長日条件では、Ghd7 の門は朝に開 いています。前の日(左)に開いた門により、朝の光を受けて Ghd7 mRNA が産 生され、開花抑制蛋白質(赤丸の Ghd7)が働き、次の日(右)の Ehd1 mRNA 産生を抑えます。

図 1  フロリゲンを合成するための遺伝子( Hd3a )、開花促進遺伝子( Ehd1 )の mRNA 量の限界日長認識
図 2  イネの限界日長認識のモデル  黒いバーは暗期、白いバーは明期を示します。黄色の○は、光源(太陽等)。  上段:開花促進遺伝子(Ehd1)の門の状態(青い点線)と開花抑制遺伝子(Ghd7) の門の状態(赤い点線) 。  中段:左;短日条件における Ehd1 mRNA 量の変化。朝の光に対し、 Ghd7 の門は閉じ ていて、Ehd1 の門は開いています。右;光中断により、Ehd1 の働きが抑えられ ることを示します。夜中に Ghd7 の門は開いていますので、赤色光を当てると Ghd7 mRNA が多量

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