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博士論文第7章図入り.doc

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第7章

産業政策、企業家支援等に関する諸理論

本章においては、7.1項にて産業政策、中小・ベンチャー企業政策に関する先行研究、 7.2項にて企業家支援、金融等に関する先行研究、7.3項にて産業政策、企業家支援 等に関連するその他先行研究について、それぞれ論じることとする。

7.1

産業政策、中小・ベンチャー企業政策に関する先行研究

産業政策については、伊藤元重ら(1988)の体系的な論が参考となる。 伊藤は、産業政策を、「一国の産業間の資源配分、または特定産業内の産業組織に介入す ることにより、その国の経済厚生に影響を与えようとする政策」としている。 伊藤らのより具体的な定義は下記の4点にまとめられている。 1) 一国の産業構造に影響を与えようとする政策、すなわち、貿易・直接投資等、海外諸 国との取引に介入したり、補助金・税制等の金銭的誘因を使うことによって、発展産 業を育成・保護したり、衰退産業からの資源の移転を調整・援助する政策 2) 技術開発や情報の不完全性等に伴う市場の失敗を是正する諸政策、すなわち的確な情 報を提供したり、補助金や税制による政策手段を用いることにより、様々な形の市場 の失敗を是正し、資源配分を好ましい方向に誘導する政策 3) 個別の産業組織に行政的に介入し、経済厚生を高めようとする政策、具体的には、不 況カルテル・設備投資カルテル等を通じて産業内の競争構造や資源配分に直接介入し ようとする政策 4) 経済的根拠というよりはむしろ、主として政治的要請に基づいて採られる政策、つま り、貿易摩擦等に対処するための、輸出自主規制や多国間協定等の政策 産業政策とは通産省が行う政策であるという意見もあるように、厳密な議論がなされて こなかったのが我が国の実状である。 伊藤は、「競争的な市場機構の持つ欠陥−市場の失敗−のために、自由競争によっては資 源配分あるいは所得配分上なんらかの問題が発生するときに、当該経済の厚生水準を高め るために実施する政策である。しかもそのような政策目的を、産業ないし部門間の資源配 分または個別産業の産業組織に介入することによって達成しようとする政策の総体」であ ると定義している。政策の総体とは、政策目標と政策手段を含めた全てを指している。 小宮隆太郎(1984)は、産業政策の産業とは製造業を指すとしているが、通産省の業務範囲 と産業政策の密接な関連を重視している傾向がある。 小宮のいうところの産業政策の内容は、1)産業一般のインフラストラクチャに関わる政策、 2)産業間の資源配分に関わる政策、3)分野毎の内部組織に関連する政策、4)横断的な産業組 織政策としての中小企業政策、の4つである。 産業間の資源配分という観点では、市場の失敗に対処するための政策的介入であると解 される。小宮によれば、ここで問題となるのは、a)どの様な状況を市場の失敗と認めるか、 b)市場の失敗の様々な類型に対してどの様な政策措置が要請されるか、c)政策当局も失敗す

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る可能性があるので、その点についてどの様に判断するか、d)政策のメリットと各種のコス トの秤量についてどう考えるか、という4つの問題である。 小宮は、市場機構の欠陥を補うことが、産業政策の基本的役割であるという認識である。 また、産業政策の意思決定プロセスに影響力を持つ主体は、1)政府の原局と呼ばれる部局、 2)調整に当たる部局、3)業界団体、4)審議会・調査会、5)財界、6)銀行等であり、これらプ レイヤー達が、相互説得、調整、時には脅迫を通じて政策決定につなげるのである。 今井賢一は、小宮の市場の失敗に関する見解に対し、下記のコメントを寄せている。 市場が失敗する場合に政府の出番となるが、資源配分の方法は計画ということになる。 市場か計画かという古典的な問題となり、両者の失敗の程度を比較することとなるが、 戦後の経験からすると、計画の失敗は市場の失敗を遙かに越えるものである。 また、市場の失敗に対処するための代替的方法がどの程度成功しうるのかは全く未知数 であるとしている。 橋本寿朗(1991)は、高度成長期の産業政策について、特に1950年代に業種別の振興政 策が採用されていた点に注目している。橋本によれば、我が国では、1950年代に製造 業に大企業化するチャンスがあり、1960年代に小売業に同様のチャンスがあったと分 析している。特に1950年代に製造業の育成政策が花盛りであった。 1956年に施行された機械工業振興臨時措置法について、共通部品、基礎機械を振興 対象としながら、実際には自動車部品、自動車向け需要が大きい工作機械、リーディング インダストリーである自動車産業の育成政策であったと例示している。 橋本は、日本の産業集積に関する政策は、社会政策(衰退産業分野・地域問題解決)、と 地域産業振興政策に分かれると指摘している。1978年の旧城下町法、1983年の新 城下町法、1986年の特定地域法は、石油ショックや円高から一定のタイムラグの後成 立している。橋本は、地域産業振興政策について、歴史ある産業集積を現代風に洗練させ、 既存企業や新規企業の革新的展開により創業や再創業を誘い、産業集積を再構築すること が課題とする。その他、橋本は、公設試験場を活用し、産学官の地域内外のネットワーク を構築すべきだという提案を行っている。

地域経済政策については、イギリスの事例をベースに Armstrong,H. & Taylor,J.(1985) が論じている。Armstrong らは、失業率に関する地域間格差が政策の根幹にあるという視 点から、分析を行っている。 イギリスの地域経済政策は、1920年代の後半に輸出産業が競争力を失い、そうした 産業の立地する地域に溢れた失業者を他地域に移動させようとする政策に起源を持つ。 しかし300万人の失業者のうち2万人を移動させようとする政策は必ずしも解決策と はならなかった。その後、軽視の時期を経て、1960年代に全国的成長を高めるという ロジックで再びイギリスの地域経済政策に力が入っていった。また大ロンドン都市圏への 過度の集中が懸念されたので、再配置のロジックも加わったものとなった。その後も軽視 されたり重視されたりを繰り返しているとArmstrong らは指摘している。

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イギリスの地域経済政策は、地域の失業率緩和に加えて、ロンドン地区の過密緩和、バ ランスのとれた産業の地理的分布、防衛等の目的の産業分散というロジックで推進された。 Armstrong らは、地域経済政策の目標が漠然として明確さを書いているため、分析も曖 昧さを含んでいると指摘している。また、失業等は国全体や世界全体の経済情勢にも依存 している。政策立案者が目標未達成の責任を負わされるリスクがある上、成果の測定も厳 密にすることは難しい。 また、後進国では重点投資地域を優先するため、失業率が高い地域を重視する政策は採 用されにくい。Armstrong らは、地域経済政策のメニューとして、1)労働の再配置、2)資 本の再配置、3)税、規制緩和、その他優遇措置等の中央との調整を挙げている。 労働再配置政策には、教育訓練、移動等が含まれ、資本再配置政策には、投資や技術支 援、輸出支援、債務保証やVC供給等が含まれる。 長谷川秀男(1998)は、地域経済政策に関して、国土の均衡な発展に限定すると、政策の主 体を政府に求めざるを得なくなると述べている。 橋本徹/大森彌(1994)は、過疎地域の振興政策について論じている。 本研究では、過疎地域については研究対象外となるが、地方の問題を考える上で、我が 国の国土の半分近くを占める過疎地域に関する振興の視点は参考となる部分を含んでいる。 従来の過疎対策は、過疎地域での定住を可能とするナショナルミニマムを求めた条件整 備であり、大都市への人口集中の対策ではなかった。 橋本らは過疎対策について、公共型、外来型、地場型、交流型、住民型という5つの類 型を示している。公共型は公共工事主導型でもある。外来型は企業誘致によるものだが、 リゾート開発で痛手を被った過疎地域もある。地場型は1村1品運動、1.5次産業化と いった手法によるものであり、企業家や農協・森林組合等が活躍する。交流型は、観光農 園、森林オーナー制度等の取り組みである。住民型は、スポーツ・文化を楽しむ住民運動 によるものである。 橋本らは、高付加価値農業、グリーンツーリズム、テレワーク、農村型コミュニティビ ジネス等を新しい過疎地域産業として挙げている。 伊藤正昭(1997)は、地域比較優位産業を移出産業に育てて、比較劣位産業を補完する域際 バランスに着目している。 Porter,M.E.(1990)は、国の優位を作り出す際に政府の役割は大きいが部分的であると述 べている。国の経済目標は長期の生産性向上以外で規定するのは誤りであると指摘してい る。平価切り下げ、規制緩和、民営化、製品と環境の基準緩和、企業間の協調や協力の推 進、合併奨励、税制改革、地域開発、自主規制や秩序あるマーケティング協定、全般的な 教育システムの改善努力、政府の研究投資拡大、新しい企業に融資する政府の計画、防衛 やその他の政府調達が主たる役割となる。政府による要素創造のメカニズムについては、 教育訓練、専門技能を持つ人材の流入の分野では重要であるとの認識を示している。 その他、科学技術、インフラストラクチャ、通貨市場、需要政策についても政府の関与

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が有効となりうる分野である。 Porter は、企業が競争する場は国ではなく産業であると主張する。競争力ある産業を作 り出すのは企業であり、政府の適切な役割はダイヤモンドの中にある力を解き放ちさらに その力を強めることとしている。 Porter の認識は、政府の政策はシリコンバレーやイタリアのモデナを中心とする機械企 業の集中にはほとんど関係がないが、専用のインフラを創造する投資などは役立つという ものである。政府の政策は、全く新しい産業クラスターの促進に努力するより、既にでき あがっているか、今まさに生まれようとしているものを強化する場合の方が成功の可能性 が高く、国の中にクラスターがあればそれが自己強化の発端となると論じている。 日本政府のよい点は、共同プロジェクトを組み産業を先端技術に直面させ、賞を設け品 質に目を向けさせ、ライバル間の競争を奨励しているところであるとしている。これらは イノベーションとグレードアップの歩みを早めていると評価しているが、日本政府の支援 により保護した産業が弱体化している点は問題視している。 Porter は、政府の政策の役割は自国の産業に競争優位をグレードアップする基礎を築く ことであるとしている。地理的に集中している産業が多いため、地方自治体の役割も重視 している。また、一国の産業で競争優位が作り出される期間は10年ないしそれ以上必要 とするので、人の技能を高め、製品と工程に投資をし、クラスターを築き、外国市場に浸 透するなど長い過程を踏む必要があると主張している。 一方、政治上、10年は永遠を意味するので、国の政策も短期の経済変動に影響される。 他国の競争優位モデルを見習っても、ある程度の発展段階までしか到達できない。 また、産業分類が多くの場合適切ではないため、どの国も、政府の別々の部門が産業政 策で権限が重複し、政策に一貫性がないとも指摘している。 Porter は、支援して発展させるべき特定の産業を選び出すターゲティングを重視してい る。全般的にポーターの思想は、ポイントを的確についているものの、具体的な行動プロ グラムにつなげるには各国、各地域の個別の努力が必要となる。 清成忠男(1997)は、中小企業政策の対象となる中小企業の範囲について、上限は時代と 共に変化すると考えている。下限は企業であるかどうかにより決まる。 旧中小企業基本法では、製造業は従業員300人以下または資本金1億円以下、卸売業 は従業員100人以下または資本金3000万円以下、小売業・サービス業は従業員50 人以下または資本金1000万円以下となっていた。小規模企業は製造業等従業員20人 以下、商業・サービス業は従業員5人以下となっていた。清成は、この基準では株式公開 企業でも中小企業に分類される場合があると指摘している。 アメリカの中小企業法では、独立性があり市場支配的でないという条件がある。 産業毎、政策目標毎に中小企業の上限が決められている。 製造業の場合、相対的に中小企業の規模が大きい。小売業では従業員数ではなく売上高 が採用されている。官公需の受注の配慮を受ける中小企業の上限は、また異なる基準があ

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るなどきめ細かいのがアメリカの特徴であると清成は指摘している。 清成(1997)による中小企業の類型化は、企業性基準、立地基準、独立性基準により行われ る。企業性基準によると、1)本来の企業、2)企業的家族経営、3)生業的家族経営、4)副業的・ 内職的家族経営、に分類される。立地基準によると、1)需要指向立地型、2)供給指向立地型、 に分類される。独立性基準によると、1)独立性中小企業、2)従属型中小企業、に分類される。 中小企業という語句は、相対的に小さい企業を示す際に使用され、多くの場合定義は漠 然として用いられているのが実状と言えるだろう。

Rothwell,R. & Zegveld,W.(1982)は、中小企業支援の政策上の根拠は、1)中小企業体制に よる経済力の分散化は社会的権力の分散化に寄与する、2)高度の市場集中は経済的非効率を 招く、3)中小企業は大企業にとり不可欠な補完者である、4)中小企業の多様性が多くの消費 者の個人的嗜好を満たしうる、5)中小企業は雇用の激しい変動に対するバッファーとなって いる、といったところにあると述べている。そして、技術革新の源泉としての中小企業の 役割については下記の通りに整理している。 1) 技術変化が最も促進されるのは、中小企業と大企業間の潜在的な共生関係が有効に利用 される体制においてである。それは、中小企業が根本的革新に巧みであり、大企業が大 規模な開発を成功させるだけの資源を有していることによる。 2) 中小企業は根本的革新の中で大きな割合を占めている。 3) 流動的かつ急速に発展している分野では、小規模でフレキシブルな組織、熟練労働によ る汎用的生産技術が利用される。 4) 中小企業は研究開発費を規模が小さい割に支出している。 日本の中小企業について Rothwell らは、企業への忠誠心、コミュニケーションの良さ、 高い教育水準、国家的団結心が技術革新にとり貴重な力となったと述べている。 1960年代から1970年代にかけて、日本は製造業における中小企業の産出比率が 向上したが、フランス、オランダ、イギリス等は中小企業の比率が低下した。 西ドイツでは中小企業が大きな役割を果たしている。1950−1960年代のシリコ ンバレーにおいても、半導体分野の大企業優位にも関わらず、中小企業が大きな役割を果 たした。価格の重要性が増すにつれ少数の多国籍企業に支配されていった。 Zegveld らは1970年代から、ルート128とシリコンバレーについて産官学の転職を 通じた良好なコミュニケーション、VCの存在等を指摘していた。

アメリカにおけるNTBFs(New Technology Based Firms)は、1)非常に大きな国内市 場、2)個人資産が源となる seed capital、3)私的リスクキャピタル流入を助ける会計制度、 4)ベンチャー向けの証券市場、5)企業家精神を助長する社会、6)学術機関と私企業の人的交 流、7)アメリカの科学者の事業意欲、8)政府調達等の政府支出を通じた事業機会の提供、に より成長を助けられたということだが、これが20年以上も前の記述であることは驚きで ある。今我が国でなされているベンチャー育成政策は少なくとも20年以上前のアメリカ を後追いしていることは明白である。

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ただ、新規創業企業の雇用への浮揚効果について、イギリスの事例では、成長こそ速い ものの、既存企業の方が雇用水準に影響を与えていると述べている。 一方、アメリカの若いハイテク企業、NTBFsについては、売上高、雇用共に急速に 伸びている実態に着目している。 また、大企業の分工場より、独立した小企業の方が、技術革新政策の良き理解者となる と述べている。大企業の研究機能が局地的に集中する傾向があるためである。 ただし、小企業の技術革新は地方市場の技術的必要性に左右される場合がある。

Kirchhoff,B.A. & Phillips,B.D.(1988)は、アメリカにおける新規創業が雇用創出に与えて いる影響について論じている。 Kirchhoff らは、先進諸国の雇用の伸び悩み、特に製造業分野におけるマイナス成長を指 摘している。アメリカの統計を見ると、開業率と廃業率の差、正味変化が増えるとGDP 成長も高くなると言う明らかな相関関係が見られる。 また、雇用創出における100名規模以下の企業の比率は一貫して高い。大企業が人員 を削減している時期には、100%の雇用創出が小規模企業から生まれた年度もある。 Hall,C.(2000)は、アジア金融危機の中小企業に対する悪影響について分析しているが、 倒産数の増加、企業数の減少からくる雇用減少、急成長企業に加わるブレーキ等を挙げて いる。

Howard,D. & Hine,D.(2000)はSBAP(小企業支援プログラム)について、スキル増進、 外部との仲介増進という二つの方向性を重視している。コンサルティング、アドバイス、 トレーニング、外部資源紹介、それらの混合という形でSBAPは遂行される。

Howard らは、小企業の内部資源の強弱、外部資源の紹介の可否を縦横軸としたマトリッ クスで支援戦略立案を行うというアイデアを提示している。

Chrisman,J.J.,Hoy F. & Robinson,jr.,R.B.(1987)は、ジョージア州、サウスカロライナ 州のSBDC(Small Business Development Center)によるプレベンチャー支援プログラ ムの費用便益について論じている。 SBAによるSBDCは、1977年に実験的にはじまったものである。 Chrisman らは、コンサルティングした企業による収入と生み出された雇用、税収を、支 援に投じた費用と比較分析しようとしている。ただ、調査の回収率が低く、支援の寄与度 が不明確であり、やや課題を含んだ分析である。SBDCの支援した顧客は、期待以上に 創業、生存し、SBDCの生み出す便益は税収ベースで投入費用の 1.47 倍に達するという 試算が提示されている。Wood,W.C.(1999)は、こうした既存の小企業支援プログラムの評価 について、アドバイスの有効性にかかわらず支援した企業の成長をカウントしているとい う問題点を指摘している。

Miller,N.J. & Besser,T.L.(2000)は、Iowa 州の30のコミュニティ(人口500−100 00人)を調査し、コミュニティの価値に着目し、小企業のオーナー達、マネージャー達を 分析している。年齢、学歴、所得、居住歴、事業歴等が多い人ほど、コミュニティに対す

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る価値を認めている。結婚した男性のコミュニティに対する価値も高い。 コミュニティに高い価値、中程度の価値を認めている人は、それが低い人に対して企業 戦略の点で異なっている。1)カスタマイズ商品・サービスの提供、2)差別化商品・サービス の提供、3)地域における企業イメージの向上、4)新・先端技術の活用、5)コンサルタントの アドバイスの活用、6)より現代手金商品・サービスの提供、という6つの差別化戦略、さら には 1)地域コミュニティへの貢献、2)より広い選択肢の提供、3)地域の他社との連携、4) 自らの能力開発、5)地域外の企業とのネットワーキング、という5つの戦略で、コミュニテ ィに低い価値しか認めていない人はそれ以外と異なっている。 コミュニティに価値を見いだしている人ほどビジネスは上手くいっている。コミュニテ ィは貢献に対し見返りを与えているとMiller らは指摘している。 福島久一ら(2002)は、アジア諸国の中小企業政策について調査している。 ベトナムでは、国営企業と中小企業の環境格差の是正等が基本方針として挙げられてい る。中小企業のビジネス環境の整備、裾野産業の育成、中小企業の輸出促進という政策体 系となっている。 マレーシアは1996年に中小産業公社が設置されたばかりであり、ブミプトラ政策が 輻輳している状況である。小規模な専門メーカーの少なさが内製化を促進し、それが専門 メーカーの創業を困難とする構造が指摘されている。中国では、1999年に初めて中小 企業白書が出版されている。中国では中小企業法制が遅れているが、会社法、外資企業法、 郷鎮企業法等、個別の企業に関する法体系は整備されている。 福島らの調査は、共著者間の連携が無く、各国の比較分析に課題がある。 水野博之(1998)は、アメリカ最強の産業が大学であるとしている。 我が国における近年の産業振興政策の重点は、大学の活用、産学官連携に移りつつある。 この政策の成果は、中核となる大学の実力に大きく依存している。 アメリカをベンチマークし、キャッチアップしようとする場合に、最も課題が多いのが この部分である。 アメリカ には、合衆国建国前に創設されイギリス流リベラルアーツ 教育に優れたハー バード大等の名門私立大学から、アメリカという移民社会の近代化に寄与した実学中心の 州立大学まで多彩な大学がある。財政的に力のある大学も多数存在している。 さらにはMITに代表される私立工科系大学、スタンフォード大学に代表される大学自 身がビジネスを創造する起業家的大学も力がある。 水野によれば、起業家的大学とは下記の特徴を持つ。 1) 受託研究収入を豊富に獲得し、優秀な研究者、学生を集める 2) 研究者の学外でのコンサルティングを制限付きで奨励する 3) 研究成果の商業化、地域への技術移転を促進する 4) リサーチパーク、研究コンソーシアムを作り、産学協同を進める 5) 研究者や学生のスピンオフを支援するために資金を提供する

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6) 起業家精神を持つ人材を養成するためのカリキュラムを開発する 7) 工学大学院と経営大学院が相互に乗り入れる 8) 技術者、経営者等の社会人の継続教育を重視する ニューヨーク州アルバニーにあるレンスラー工科大学では、レンスラー2000構想に 基づき、レンスラーテクノロジーパーク、インキュベーションセンターを設立した。 ナショナルセミコンダクタをテクノロジーパークに誘致し、学内ビジネスプランコンペ の優勝者には賞金とインキュベーション施設入居資格を与える方式を導入した。 大学、地元大手企業のGE、自治体の産学官連携がGEのリストラを機に強化されてい るという。日本の大学では、一部の先進的私立大学が形式的にこうしたシステムを模倣し 追随している状況である。

Chrisman,J.J.,Hynes,T. & Fraser,S.(1995)は、カルガリー大学の教職員に対する調査を 通じて、大学発新規事業創出のポテンシャルを明らかにしている。 367名の回答者のうち、124名は既に会社設立しており、非営利企業の設立はさら に重複も含めて25名、創業支援が同31名であった。 これら180社のうち、69社がコンサルティング等の従業員0名の企業であった。 累計140社が5名以下の従業員規模であり、合計723名の雇用が生まれていた。 一方、カルガリー大学の急激な予算カットは、諸活動に悪影響を及ぼしている。 有能な人材の流出、スキルの喪失が見られた。スピンオフや研究上のブレークスルーの 可能性も低下した。Chrisman らは、大学をダウンサイジングする方法次第では、新事業創 出プログラムに負の効果をもたらす点を指摘している。

Bray,M.J. & Lee,J.N.(2000)は、大学の技術移転より得られる歳入について論じている。 MITは、スピンオフ企業から株式を得る方式のパイオニアであり、1980年代に年 平均25社のスピンオフがある。アメリカの大学全体では、1996年に2530万ドル の株式売却があった。ただ、大学のアイデンティティの問題もあり、企業が現金を持たな い場合に株式を受け取る大学から積極的に株式を受け取る大学まで多彩である。 大学の技術ライセンスオフィスは、知的財産の対価を受け取る。伝統的にライセンス料 とロイヤルティは現金で受け取る。ライセンス料は一般に1万ドルから5万ドルで、販売 が確実な場合に25万ドルまで跳ね上がることもある。ロイヤルティは、2−5%が相場 で、15%と高い場合もある。これらの対価として株式を受け取る大学が出ている。 技術革新により大学の知財が無価値になるリスクが高いときにも株式を受け取るメリッ トがあるからである。株式で受け取っておけば知財が無価値になっても、そのスタートア ップ企業が別の新技術を開発出来たなら価値が生まれるということである。 8−12年は技術が実るのにかかる場合もあるが、IPOを早期に出来た場合は現金化 も早期に可能となる。一方、スタートアップはリスクも高いので、現金と株式を合わせて 受け取る場合が多いが、ビジネスに無知な発明家に対しては株式の取得はしない。 VCが立地する州に株式売却の成功例が集中しているという指摘もなされている。

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Harmon,B.,Ardishvili,A.,Cardozo,R.,Elder,T.,Leuthold,J.,Parshall,J.,Raghian,M.& Smith,D.(1997)は、大学から企業への技術移転は、新規事業創出、雇用創出へと貢献し、 技術進歩を促進し、社会の富を増大させると位置づけている。 Harmon らは、ミネソタ大学の技術移転オフィスから技術を移転され対価を支払ったイ ンタビュー了承企業19社を対象に調査を行った。ややデータ数が少ないが、大学と外部 の売り買いを通じての取引と、コラボレーションの基礎となるネットワーキングに着目し た分析を行っている。 19社のうち半数以上が大企業であった。また、大多数の技術移転が、それに先立つ既 存企業との長期的人間関係に基づいていた。 移転プロセスには5種類あった。 1) 大学で発明された技術が既存企業に売却 2) 大学で発明された技術が新しい企業に売却 3) 大学で発明された技術がVCに売却 4) 大学で発明された技術を売却するために創業 5) 企業で技術が開発されたが、地域にて大学の専門知識による支援を求めた Hills,G.E.(1988)は大学におけるアントレプレヌールプログラムについて、ビジネスプラ ン、ビジネスライフサイクル、ビジネスファンクションをベースとするとしている。

7.2

企業支援、金融等に関する先行研究

Struyk,R.J. & James,F.J. (1975)は、新規創業企業は、内部に保有できない不可欠のサー ビスを提供出来る地域に引き寄せられると述べている。Struyk,R.J. & James,F.J.は、都心 における 開業率の高さを指摘しており、Evans,A.W.(1985) はこうした都心部のインキュ ベータとしての機能について肯定否定の両論を示している。 Simon,H.(1955)は、企業家は事業アイデアを得た地域の近辺にとどまると述べている。 Watts(1987)の分析によれば、企業家達は居住地域で単純に起業する場合が多く、立地に ついて必ずしも深く考えていないという。 Watts(1987)は、都心部というよりむしろ、大学の近くの創業に着目している。 近年、新規創業支援政策としてインキュベーションには、注目が集まっている。

Smilor,R.W. & Gill,Jr,M.D.(1986)は、いち早くインキュベータについて調査分析を行っ た。Smilor は、テキサス大学のIC2研究所のエグゼクティブディレクターであり、名高い

Kozmetsky,G.と共にオースティンモデルの分析を1988年に行っている。

Smilor らの調査によれば、1983年以降、アメリカではインキュベータは急増し、1 985年に非営利団体NBIA(National Business Incubation Association)が設立された。 組織的には公共非営利、民間、大学付属の3類型がある。

インキュベータの基盤となるのは、公共インフラ、民間インフラ、業界ネットワーク、 教育システム、資金調達基盤、VCであり、企業家を輩出する母体は、大学、コミュニテ

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ィ、発明家、公共部門、企業、研究所であるとしている。 インキュベータは、VC以前のアントレプレヌールを支援するメカニズムの一種という 考え方が示されている。 80年代初頭のインキュベータには、二つの戦略があった。一つは、学校や倉庫、工場 といった古い建物や使用されていない建物を改修し、比較的安い料金でスペースを貸すこ と、もう一つは、経営資源面の支援をすることだった。テナント企業への出資も見られた。 近年は、人材、技術、資本とのマッチングが徐々に重要になってきている。 Smilor らは、インキュベータ成功の10要素として、1)ビジネスの実際に即した専門性、 2)資金調達と証券発行へのアクセス、3)現物による財政的援助、4)コミュニティによる支援、 5)アントレプレヌールのためのネットワーク、6)アントレプレヌールの教育、7)成功のイ メージ、8)大学とのつながり、9)明確な政策・手続きを含む簡潔なプログラム、10)テナン ト選択プロセス、を挙げている。 テナント企業が入居するメリットは、信頼性の増強、学習期間の短縮、問題解決の迅速 化、ビジネスネットワークへのアクセスの提供、であるとしている。 立地面では大半のインキュベータが都市部にあり、築後の年数が古い。90%以上のイ ンキュベータが、オフィスと工場を、55%が研究スペースを提供している。 リース期間は定めていないところの方が多い。 我が国では、インキュベータというと企業家支援のための箱もののイメージが強いが、 Evans のように地域が企業家の孵化機能を持つという意味で用いることもある。 我が国の現状は、新しい切り口の公共事業としての側面が強く、国がインキュベータの 管理者に短期的な研修を行い、インキュベーションマネージャーと呼び体裁を整えている 側面も否定できない。 KSPは、1989年にオープンした日本のインキュベータの先駆けである。 KSPの志茂武(1996)によれば、インキュベート事業はKSPとして採算が全く成り立っ ていない。入居企業の自立を当面の目標としており、入居希望者の訪問を待っている待ち の姿勢で、選考の篩が粗いと志茂は正直に述べている。

Feeser,H.R. & Willard,G.E.(1989)は、インキュベータを活用して急成長する企業の創業 者は、低成長企業の創業者と異なっている点があると指摘している。 高成長企業の創業者は、社会の公器と言えるような大きい利益追求型企業出身である場 合が多く、インキュベータの技術や市場の傾向と類似している。低成長企業の創業者はそ の反対である場合が多い。 Merrifield,D.B.(1987)は、インキュベータについて、事業魅力度と適合度を用いた分析図 表を提案しているが、インキュベータに適用する手法としてはさらに検討の必要がある。 Mian,S.Z.(1997)は、大学における技術系インキュベータ(UTBI)の評価について論じ ている。 評価アプローチとしてはいくつかの切り口がある。

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ゴールアプローチでは、目的の明確性、実現性、組織構造と戦略、継続性と成長性がポ イントとなる。システムリソースアプローチでは、資本調達、施設内のチャンピオンとマ ネジメントチーム、テナントとなる企業家、教職員や学生の雇用、知識や設備、制度的支 援、地位やイメージの確保が重要となる。

図7−1 インキュベータの活動の諸条件と結果

(Smilor,R.W. & Gill,Jr,M.D. 1986. The New Business Incubator. D.C.Heath and Company.「邦題:インキュベー ター、1988、パンリサーチインスティチュート株式会社、中田智夫、富永重俊監訳」より引用)

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ステークホルダーアプローチでは、大学、施設管理、テナントの企業家、その他公民双 方の利害関係者達の満足度に着目する。 内部プロセスアプローチでは、管理面の支援、意思決定と方針、テナントのネットワー キング、コミュニケーションとチームワーク、企業の成功と成長が問われる。 Mian による評価モデルは、UTBIプログラムと、大学、企業家、コミュニティ、その 他利害関係者の間の相互関係に基づく構造となっている。 評価項目は、成果パフォーマンス、管理方針と実践、サービスとインパクトに大別され る。成果パフォーマンス関連の評価項目は、1)プログラムの発展と維持、2)テナント企業 の成長と生存、3)大学のミッションへの貢献、4)コミュニティへのインパクトである。 管理方針と実践に関連する評価項目は、1)プログラム目標、2)組織とガバナンス、3)財 務と資本調達、4)目標市場、5)入居と卒業の考え方、6)テナントのパフォーマンスの評価 方針、7)株式とロイヤルティの方針、8)知財保護の方針である。 サービスとインパクトに関連する評価項目は、1)インキュベータの共有サービス、2)大 学関連のサービスである。 伊藤正昭(1997)は、先端技術分野でベンチャービジネスを育てるためのインキュベータに ついて、成功しているとは言い難く、日本企業がそのまま集積の厚いアメリカに吸引され てしまうことも考えられると述べている。 地域の基盤整備施策の代表例として、工業団地の造成が挙げられるが、百瀬恵夫(1979) は中小工業団地に着目して論じている。 百瀬は、イギリスのニュータウン政策では、過密都市に散在する中小企業を工業団地に 集団化して都市の再開発を行うという観点があったと述べている。我が国の中小工業団地 は、近代化・高度化という規模のメリットを追求する中小企業政策を反映したものである。 イギリスのマンチェスターに設立されたTrafford Park Estates(1896)、アメリカのシカ ゴに誕生したClearing Industrial District(1899)が工業団地の原点である。

イギリスは政府主導型の工業団地整備であり、アメリカでは民間主導型である点が異な っていた。 イギリスでは不況地域の失業問題との関連がある政策となった。産業集中の抑制、人口 集中の抑制の考えが、Howard,E.の田園都市の思想に基づくニュータウン計画、産業配置政 策につながり、日本の三全総に影響を与えている。 田園都市(Garden City)は、仕事、住居、レクリエーションの三大機能がバランスしてい るという特徴を持つが、ニュータウンの問題は、住居を決めると職業選択もなされてしま うというところにある。 アメリカでは1950年代に工業団地が急増した。イギリスのように失業問題、過疎過 密問題から造成されたのではなく、急速な工業発展に応じて造成された。 工業地区(Industrial District)に民間業者が造成する方式となっている。

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我が国の高度化事業における集団化の思想は、共同化、協業化を必須とするものであり、 海外にて工業団地造成目的とされる地域開発・工業化とは異なる独特のものであると百瀬 は指摘している。 工業団地の経済性は、優れた立地やレイアウト、安価な工業用地、諸施設にあり、大規 模な異業種団地の場合は規模の外部経済も期待できる。 Mumford,L.(1938)は、Howard,E.による田園都市(Garden Cities)という概念は、洪水地 帯に作られる貯水池のような存在であり、メトロポリスに無秩序に流れ込む人口の勢いを 弱めるものであるとしている。 都市と田舎の調和を Howard が訴え1904年に初めての田園都市事例がイギリスで生 まれたが、産業集中化のメリットを上回ることが出来ずに運動が停滞し、田園都市構想に 影響を受けてアメリカにおいてもグリーンベルト構想が生まれたが、それも実現されなか ったとMumford は指摘している。 加藤恵正(1988)は、1980年代のイギリスのEZ(Enterprise Zone)政策について、都 市ゾーン、近郊ゾーン、遠隔ゾーンと分けて税優遇する方式を紹介している。この政策は、 実験的試みのため、1980年代で終了している。 川端基夫(1998)は、工業団地や工場誘致はまちづくりの外に置かれてきたとしている。 ある企業の配下の一工場を誘致するのは、市町村の財政面に対する法人住民税と固定資 産税の貢献、雇用面の効果、産業振興という面の効果を期待する定番政策であるが、まち づくりという視点の評価は十分行われてこなかったという指摘である。 1980年代に類似した誘致条例が日本中で作られ、どの様な企業を誘致しようといっ た戦略や企業理解が十分ではなかったとしている。 清成忠男(1981a)は、地方の支援機関としての商工会議所と商工会に着目し、地域振興に ついて分析している。 1980年前後には既に企業誘致が困難となり、内発的な新産業育成が重要となりつつ あった。就業の場がなければ地方への定住促進という三全総の構想も画餅に終わる。 一方、産業が優位に立つと住みづらくなり、生活が優位に立つと食えなくなるという表 現を清成はしている。就業の場は定住の必要条件にすぎない。高次の生活文化、良好な生 活環境が重要となる。 清成は、イノベーター、イノベーターの活動を理解する初期導入者(アーリーアダプター) の重要性、地域活動を進める大衆の水準に依存していると産業振興について認識を示して いる。イノベーターは、商工業者とは限らず行政、農協にいる場合もある。 初期導入者は、イノベーターに比べて地域内の信頼が厚く組織力に富む。 革新の成果が普及し出すと追随者(フォロワー)が続き革新は成功する。 清成は、そうした成功に導くには、ビジョン作りや人材育成の機能を商工会議所や商工 会に期待するとしている一方で、現実には商工団体は、調整に関する権限を持たず、官公 庁的な色彩が強いと指摘している。

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松田修一(1996)は、1963-74/1975-84/1985- の3期間の企業家に対する調査から、流 通サービス産業が増加し、製造業の構成比が低下している傾向、大学院卒が創業していな い現実、支援システムが年々充実しそれが実感されていることを明らかにしている。 浜田康行(1996)は、新技術・新事業・創業等への投融資をベンチャーファイナンスと定義 している。ベンチャーファイナンスの中心的存在として、ベンチャーキャピタル(VC)を位 置づけている。VCの第一歩は勘であり、アントレプレヌールの有無を感じるかどうか等、 勘の良い人間のする仕事であると指摘している。 イギリスのマーチャントバンカーが、アイデアや情報を重視し、将来を見込んで中小企 業に投資するのが元祖のVCのルーツだという。 マーチャントバンカーは色々な仕事をやっているが、アメリカにVC部門だけが切り離 されて上陸して、中小企業育成に加えてアメリカンドリーム的色彩が加わり、現在のVC のスタイルが完成されたというのが浜田の分析である。 我が国第一号のVCである京都経済同友会が1972年に設立したKED(京都エンター プライズデベロップメント)について、浜田はVCに不可欠なリーダーシップが不足してい たため1980年に解散したと解説している。 現在最大手のジャフコ(当時、日本合同ファイナンス)が1973年に設立されているが、 証券会社がリーダーシップをとったこと、野村証券の北裏喜一郎社長が一流のインベスト メントバンクを目指し、アメリカに学ぶという姿勢をとったことが特徴であった。 ただ、VCは本来個人の資金で投資するものだが、日本では組織が他人の資金を使って 投資する商売として展開した。VCという商売は、当初5年程度、キャピタルゲインが得 られないので、我が国では、外資系銀行から借りた資金を消費者金融業等に迂回融資する ノンバンク業も手掛けて立ち上げた。

ジャフコは我が国最初のGeneral Partners と Limited Partners からなるベンチャーキ ャピタル投資組合を立ち上げたが、民法上の任意組合という方法を国税庁と折衝をして作 り上げた。また、VC本体が過半数の株を持つことは独禁法のガイドラインにふれるが、 複数の投資組合の出資が合わせることで、多額の投資を実施できるようになった。 ファイナンスについては、Bygrave,W.D.&Timmons,J.A.(1993)がベンチャーキャピタル について、体系的に論じている。特に革新的で高い報酬が得られるクラシックVCの変容 と復活について詳述している。1980年代後半に、LBOやM&Aへの投資がふくらみ、 有能な経営陣による実績ある企業への投資に注目が集まった。 1960−1970年代のクラシックVCは、1)経営陣と市場の可能性に投資する、2) 企業価値上昇のための企業育成に注力する、3)スタートアップとアーリーステージに専念 する、4)リードインベスターになる、5)10年あるいはそれ以上の長期投資とし、適切な 時期に成果を求める、6)新規ファンドの募集は既存ファンドのパフォーマンスが良くなっ てから行う、7)案件開発や金融テクニックに走って目的を見誤らない、といったルールを 守る存在であった。

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1980年代に急激にVCファンドに資金が集まりだし、機関投資家の資金に依存し、 クラシックVCらしさを喪失させる圧力が加わったと述べている。 新種のマーチャントキャピタルは、1)ベンチャー資金が流入しているうちに新しいファン ドを立ち上げる、2)投資の入り口から出口までを短縮するために金融テクニックに頼る、3) 早期に、しかも何度も資金回収を行うために、加熱したIPO市場を利用する、4)共同投資 に徹し決してリードインベスターにならない、5)金額が大きくリスクの小さい、そして投資 回収の早いレーターステージのLBOとMBOの案件を探す、6)過小評価されていると思わ れる公開株にも投資する、7)経営陣の能力はあまり気にせず必要なら後で入れ替える、それ よりもリミテッドパートナーの意向を重視する、8)倒産する前に売り抜ける、という投資戦 略を持っていると指摘する。 忽那憲治(2002)は、我が国では、1999時点で、VCが新規公開企業株式の3%未満し か保有していない事例が8割以上であると述べている。また、忽那は1999年時点で日 本では大手証券会社3社の新規公開引き受けシェアが8割以上、10社の引き受けが10 0%と寡占市場であるのに対し、アメリカでは上位証券会社3社シェアが約3割、上位1 0社で7割弱と分散化されている点を指摘している。 メガファンド(レーターステージ、LBO等が多い)、メインストリームファンド(民間独 立系、大手SBIC等)、セカンドティアファンド(SBICが中心、劣後債への投資中心)、 ニッチファンド(独立系のシーズ、アーリー投資中心)、金融機関系列ファンド、事業会社 系列ファンドというVCのグループ分けについても述べている。 ベンチャー企業は付加価値が高く、景気後退期であっても研究開発投資への積極性があ る。Bygrave らは、ハイテクベンチャー育成に寄与してきたクラシックVCの衰退を危惧 している。一方、企業家側からの、「VCは従業員をやめさせ、新会社を設立させるバルチ ャーキャピタルである」との批判も紹介している。インテルとAMDの「破壊的競争」に ついては、国際競争力を強化しているという評価を下している。 Bygrave らは、1986年の税制改革でキャピタルゲインに対する優遇措置を撤廃した 結果、ハイリスクな長期投資のクラシカルVC投資から、流動性の高い低リスク投資への 移動が起こったと税制改正の必要性を指摘している。

Dean,V.D. & Giglierano,J.J.(1990)は、シリコンバレーのVCの評価基準について、初期 段階はマネジメントチームを重視し、その後のステージでは、市場ニーズ、技術や製品の 特徴を重視するという傾向を示している。ROI目標は、初期段階には41−60%、セ カンドステージ以降は21−40%を期待するVCが多い。 アメリカのエンジェルについては、小門裕幸(1996)が実態について述べている。 ベンチャー企業、支援企業、VCが多数あり、それらに関与する人達が時にはエンジェ ルになるという事例を小門はいくつか示している。

Freear,J.,Sohl,J.E. & Wetzel,Jr,W.E.(1994)は、エンジェルと非エンジェルはどこが違う かについて分析している。Freear らは、エンジェルを“informal venture capital”という

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フレームワークでとらえている。 まだベンチャー投資経験のない個人投資家の26%はベンチャー投資をポートフォリオ に全く加える考えはなく、ポートフォリオに加えたとしても、せいぜい9%までである。 一方、ベンチャー投資経験を持つエンジェルと目される人々の多くは、ポートフォリオ の5−50%をベンチャー投資に振り向けても良いと考えている。 また、エンジェルは自宅から300マイル以内の投資先が過半を越えるなど、ある程度 地域性があることも示されている。ベンチャーに関心ある個人投資家をいかに増やすかが 重要であるという指摘がなされている。 忽那憲治(2002)は、名前を公表すると出資依頼者が殺到するので匿名を希望するエンジェ ルが多く、そのためどこにエンジェルがいるのか分かりにくい点を指摘している。

Mcgrath,R.G.,Macmillan,I.C.,Yang,E.A. & Tsai,W.(1992)は、中国本土の企業家と台湾の 企業家を比較し、資本主義になじむ台湾人企業家の方が、ダイナミックな変化に挑む等、 カルチャーが個人レベルで影響しているという分析結果を示している。

7.3

産業政策、企業家支援等に関連するその他先行研究

7.3項では、その他、公共経済学、厚生経済学、都市計画、行政学、政治学等に関連 する領域として、公的セクターの役割、まちづくり等の先行研究についてまとめる。 Strange,S.(1996) は、グローバル企業、非政府組織の役割が拡大している様を“The Retreat of the State”と表現している。

Pigou,A.C.(1952)は、経済システムの働きに欠陥が見出された場合、それを政府の行動に より是正するとしている。 一方、Coase,R.H.(1988)は、Pigou 以後、出てきた外部性(externality)という造語につい て、それを見出した場合は政府が介入するというやり方は誤りだと指摘し、「社会的費用」 という語句を用いている。つまり、社会的費用が発生していたとしても、それを除去する のに費用が大きくかかるなら介入しない方がよいという考え方である。 また、政府は私的組織に比べて少ない費用でことを成しうる力を持っているが、行政機 構はそれ自体、費用無しには動けない。その上、政府は政治的圧力を受け、競争によるチ ェック無しに作用する。この様に誤りを免れない政府が設けた制限規制や区域規制が経済 システム作動の効率性を高めるとは限らない。ただ、Coase は、政府がどこまですべきかの 境界については何も語らないと述べている。 Williamson,O.E.(1986)は、市場の失敗について、市場交換を内部組織に代えれば取引費 用が削減されるという意味で用いている。 Williamson は、独占が解体して寡占になったとしても独占を矯正したことにはならない という考え方に異論を唱えている。内部組織が契約に比べて適応の面では優位であること をそうした見解は考慮に入れていないというのである。 今井賢一ら(1988)は、市場の失敗について、1)生産要素の分割不可能性、2)生産規模の

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拡大による規模の経済性、3)市場に反映されない外部効果、4)不確実性の存在、といった 場合に生じるとしている。

アメリカ大陸に大企業、大量生産が誕生し、見えざる手から経営者の見える手に実権が 移ったのである。公害などの外部性も政府の規制を必要とした。結果的に、市場と組織の 双方によって経済の秩序を形成するという二分法の考え方が定着するに至った。

南部鶴彦(1982)は、独禁法が“anti-trust law”であって“anti-monopoly law”ではない ことについて、Standard Oil が、トラスト証券と引き替えに経営権を取得し大きくなって いった歴史にふれている。Standard Oil は、他社のパイプライン建設の妨害を行い、その 企業の買収を行った。独立系パイプライン業者に原油が回らないように、精油所や油井の 買収、プレミアム価格での略奪的価格設定も行った。 1890年に成立したシャーマン反トラスト法は必ずしも機能しなかったが、1914 年のクレイトン法として拡張された。適用除外は、農業、労働組合、外国での商業、小企 業等であった。我が国の独占禁止法では、鉄道、電気、ガスは適用除外されている。 競争が特定産業において破滅的であるなら、それを補正するための政府の介入は正当化 されることになる。視点としては規範的な観点、実証的な観点の二つがある。南部は市場 の失敗について、実証的観点の重要性を挙げている。市場における競争のメカニズムに任 せておくと独占均衡以外にはその産業の存続が不可能な事態が不可避的に発生することを 自然独占という。南部は、市場が失敗する代表的なケースとして、1)公共財の供給、2)外部 性の存在、3)規模に関する収穫逓増と自然独占、4)幼稚産業、を挙げている。 Evans,A.W. (1985)は、工業の集積と似た概念として“社会的集積”という概念を打ち出 している。1)友人となりたい人間を近隣の人間として得ることを望む、2)異なる人々は異な るサービスを要求し、その供給において規模の経済性が働くので、市場の大きさが必要と なる、3)高所得の集団は好ましい自然環境に対する願望を持つ、広い敷地や庭園にも支出す る、といった点を挙げている。 Evans 的な観点に立つなら、研究機関を集積させる政策を立案する場合、研究者が好む 環境を整備し、社会的集積を促進することが重要である。Evans は、都市の成長は人口増 により計られ、国の経済成長は所得により計られると述べている。 清成忠男(1990)は、市場と政府とノンプロフィットセクターの混合経済、三つのセクター のジョイントが重要になりつつあると述べている。 グローバリゼーションにより、地域と国と超国家機構の利害調整が重要となりつつある。 地域は競争の単位ではなく、競争は企業が単位となる。政府は株式市場の整備が重要な 役割となる。 シリコンバレー型の地域を形成するには、ビジネスインフラが必要となり、社内に法律、 経理、人事等の専門家がいなくともアウトソース出来るかどうか、VCの有無、ビジネス モデルに対応したあらゆる世界最高のものが揃うかどうかが問われる。パブリックマネジ メントプログラム、ビジネススクールの学生が非営利組織と協力して社会的な活動をする

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といった大学の貢献も重要となる。小門裕幸(1996)は、ネットワーキングのための技術フ ォーラムがシリコンバレーには多数成立する風土があると指摘する。ビジネススクールの 学生がボランティアで運営するハイテク・クラブという講演会もある。 三つのセクターの混合形態として、第一セクター(国や地方公共団体)、第二セクター(民 間の営利企業等)の中間的存在に第三セクターがある。第三セクターについては宮木康夫 (1995)が、企業目的が公共貢献であり利潤獲得ではないと定義している。 公共貢献と利潤獲得という矛盾する要素を共存させていくのではなく、事業の主導権は 公共側にあり、経営の自主権を持ち民営的経営を行う。 ただ、こうした定義は広く認知されたものとは言えない。 公企業の影響力は国により異なり、日本では近代工業化が公企業により担われ、その後 公企業が補助的役割に転じていく歴史を持っている。 第三セクターの定義としては、公私共同出資企業全般、自治体出資法人、国の特定法律 の指定を受けた法人、NPOを含めた概念と様々なものがある。

Kotler,P. ,Haider,D. & Rein,I.(1993)は、マーケティング領域から地域研究へのアプロー チを行っている。1990年代にアメリカの多くの自治体を襲った財政危機、経済状況の 悪化を指し、それをKotler らは「まち」の病気と呼ぶ。 急激な技術変化、国際的競争、政府内の力の移動をその原因とし、アトランタオリンピ ック誘致や高速原子加速器の誘致といった事例を成功例としてあげている。 Kotler らは、地域のマーケティングの対象として、1.ビジター、2.住民と働く人々、 3.企業や産業、4.輸出市場、を挙げている。 企業誘致の際の基本条件としては、1)地元の労働市場、2)顧客やサプライヤーへのアクセ ス、3)開発施設・インフラの質、4)交通網、5)教育訓練機会、6)生活の質、7)企業環境、8) R&D施設へのアクセス、9)資金供給源、10)税制・規制、であるとしている。 ハイテク企業については、創業コストよりも質の高い大学、技術者や研究者にとっての 地域の魅力度が重要であると指摘している。 1970年代に、多くの州で誘致のためのインセンティブが導入された。特に高賃金の 自動車メーカーが熱心に誘致された。しかし多くの地域がインセンティブを導入すると、 お互いの優位性が薄れてくる。企業の拠点統廃合や移転がスピードアップし、インセンテ ィブへの見返りが不十分な事例が増え、1990年代にはネガティブな見解が増えていき、 成果が得られなかった場合の罰則規定、インセンティブのキャンセル等が導入された。 市民誘致については、やや具体的な論理展開が不足しており、裕福な高齢者の誘致等の 事例紹介に止まっている。 企業誘致に有効な地域のイメージ向上については、企業経営におけるブランディングの 手法を重視することが必要となる。

この分野では、Aaker,D.A. & Joachimsthaler,E.(2000)によるブランドエクイティという 思想が重要である。ブランドエクイティとはブランド資産の集合であり、ブランド認知、

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知覚品質、ブランド連想、ブランドロイヤルティにより構成される。それぞれについての 論理的なマネジメントが求められるという考え方である。

Bull,I. & Winter,F.(1991)は、コミュニティの違いが創業や成長に影響するという問題に 取り組んだが、データ的には明確な結論を示すに至っていない。Bull らが先行研究のサー ベイを通じて着目したのは、コミュニティの特性、人口統計、インフラストラクチャ、企 業家の選好、コミュニティのカルチャーや刺激、大学の影響である。 Mumford,L.(1938)は、欧州における都市成立の歴史について詳述している。 城壁に囲まれた中世都市における都市拡張やギルドの仕組み、新大陸の小麦地の耕作を 通じた食糧供給が、人口増加を可能とし、メトロポリスを生み出した19世紀の流れにつ いて述べている。 産業革命後の工場の排出物による汚染や貧民街の成立を、非常なる産業都市とMumford は表現した。1)自給的な地域、2)専門化した地域、3)先進文化により代表される地域、に3 類型している。 歴史は国家の歴史であり、事件の中心地は常に首都であり、19世紀の指導者達は地域 主義に地位を与えるのを分割主義と同一視し拒んだ。地域は、地層構造、土壌、地形、排 水、気候、動植物生活の共通条件によって形成された単位領域であるとしている。 Mumford は、新しい都市の核として学校を位置づけている。 宇沢弘文/茂木愛一郎(1994)は、コモンズ(commons)という社会的共通資本の存在に着目 している。宇沢は、社会的共通資本を、自然資本、社会的インフラストラクチャ、制度資 本に分類している。自然資本とは自然環境であり、社会的インフラストラクチャとは、道 路、港湾、文化施設といった都市を構成する物理的、空間的施設である。制度資本は、教 育、医療制度、司法、行政、金融制度、警察、消防等であり、さらには市場も含まれる。 社会的共通資本から生み出されるサービスは、公共財(public goods)であり、社会的共通 資本の使用に伴い限界的社会的費用(Marginal Social Cost)が発生する。社会的な限界収益 と限界費用を斟酌して、ある特定の社会的共通資本への投資が決まる。企業の投資時のD CF法によるキャッシュフロー計算と同様のロジックである。問題は、宇沢が述べている ように、費用と収益を厳密に計測することがほぼ不可能であることである。 宇沢は、社会的共通資本のマネジメントについて、最も明快な場合は、全て政府により 行われる場合であるとするが、このような形態は必ずしも効率的に機能するとは限らない ので、公共事業体、公益企業体として運営されるのが望ましい場合が多いと指摘する。 コモンズについては、小さい例としては共同管理されている漁場、牧草地崩壊が挙げら れ、大きい例としては大気といった自然環境も挙げられる。我が国においても、入会(いり あい)というシステムが機能していたが、明治政府による財産の国有化、私有化、新たな入 会成立規制の結果、林野入会というシステムは衰退していった。 コモンズは利己的な個人の集合を前提とすると崩壊が不可避とする学説もあるが、各国 で有効に機能してきた事例も多い。

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浅子和美/國則守生(1994)によれば、コモンズの第一の概念とは自由参入が認められる資 源であり、大気等のグローバルコモンズがこれに含まれる。 一定の利用者集団が定められ、その構成員は自由に利用できるコモンズ概念もある。 資源の利用が一定の集団に限られ、規律が定められ、利用に当たって義務関係や種々の 権利が伴っている場合もある。 浅野らによれば、1)オープンアクセス資産、2)公共(国有)資産、3)コミューナルな(コミュ ニティ共有)資産、4)私有資産、に資源保有の概念は分類される。 ゲームの理論における非協調解ではなく、コミュニティがサステイナビリティを理解し た上で協調的な行動をすることが重要となる。

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参照

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