数学科学習指導案
指導者 広島県立五日市高等学校 教諭 松本 大地 1 日時・場所 平成 28 年7月 19 日(火)第1限目,7月 20 日(水)第2限目 1-3教室 2 学年・学級 1年3組 40 名(男 16 名 女 24 名) 3 単元名 二次関数 4 単元について (1)単元観 中学校では,具体的な事象の中から二つの数量を取り出し,それらの変化や対応を調べるこ とを通して,関数関係を見いだし表現し考察することを学習している。また,一次関数や関数 = などの単元を通して,表,式,グラフを相互に関連付けることも学習している。 本単元では,二次関数の値の変化について,グラフを用いて考察し,最大値や最小値を求め ることができるようにする。現実世界の課題から関数関係を見いだし,表・式・グラフなどを 用いて数学的に処理し,処理したことを現実の場面に戻して解釈することで,現実世界の課題 を解決する。このような一連の流れを通して,二次関数を具体的な事象の考察に活用できるよ うにするとともに,二次関数を用いて数量の変化を表現することの有用性を認識させることを ねらいとしている。 (2)生徒観 本単元に入る前に,関数の有用性についての意識調査をするため,事前アンケートを行った。 それぞれの質問項目に対して「役に立たない(1),あまり役に立たない(2),まあまあ役に 立つ(3),役に立つ(4)」の4段階で,各段階を数値で表して評価させた。事前アンケート の結果は次の通りである。 質問項目 回答の 平均値 Q1.関数のグラフをかくことは,課題を解決する上で役に立つと思いますか。 3.2 Q2.関数の式は,課題を解決する上で役に立つと思いますか。 3.1 Q3.関数で学習した内容は,現実の世界の課題を解決することに役に立つと思 いますか。 2.1 事前アンケートの結果から,Q3の「関数で学習した内容は,現実の世界の課題を解決する ことに役に立つと思いますか。」について否定的な傾向にあることが分かる。このことから,関 数の有用性を認識している生徒が少ないことが課題といえる。 (3)指導観問題解決の過程と関数的な考えを育てるための学習活動 問題解決の過程 関数的な考えを育てるための学習活動 1 問題把握・形成 事象の中から依存関係を見付ける。 2 見通しを立てる 何を とおき,何を とおけば,よりよく問題が解決できそうかを考える。 3 解決の実行 伴って変わる二つの変量がどのような依存関係にあるかを表,式,グラフを用いて 調べる。 4 検討 導かれた答えが問題の条件を満たすかどうかを確認する。 関数を活用することで現実世界の課題を解決できるということを通して,生徒に関数の有用 性を実感させたい。そのために,「陸上競技トラックの問題」を用いて,「現実世界の課題から 関数関係を見いだし,表・式・グラフなどを用いて数学的に処理し,現実世界の課題を解決す る」ことで,関数を用いた問題解決の理解を深めさせる。 陸上競技トラックの問題 競技場内に次の条件を満たす陸上競技トラックを設計したい。 条件 ・陸上競技トラックは図のような形状とする。 ・カーブの部分は半円である。 ・1周 400mの陸上競技トラックにする。 ・6人が同時に走れるようにレーンは6つ作る。 ・各レーンの幅は1mとする。 ・内側の長方形の面積ができるだけ大きくなるようにする。 競技場の大きさが縦 200m,横 100mであり,安全面を考慮して競技場の端から外側のトラック までの距離を 10m以上離す必要がある。このとき,条件を満たす陸上競技トラックを設計せよ。 問題解決の過程では,下の表のように,それぞれの過程において必要な関数的な考えを育て るための学習活動を組み入れる。 上の表の問題解決の過程1~4を「陸上競技トラックの問題」に,以下のように対応させる。 ◇(問題解決の過程1・2) 生徒が関数関係を見いだす場面を設定する。具体的には「この問題を解決するためには,
何が決まっていて何が変えられるか,そして,何を とおけばよいか」を生徒に考えさ せる。この問題では, とおく数量が複数(3パターン)あり,これら3つのパターンす べてを生徒から引き出す。 ◇(問題解決の過程3) 条件を満たす陸上競技トラックについて,グループで相談しながら考察を進めさせる。 ◇(問題解決の過程4) 問題の条件から,定義域を調べ,求めた解を吟味する必要があることに気付かせる。 3つのパターンの解答について,関数の式やグラフの違い,定義域の違いを比較することで, 解答の見通しの重要性や既習事項の理解を深めさせる。また,この問題を解決することを通し て,関数の式やグラフの必要性も生徒に感じさせたい。 5 単元の目標 現実世界の課題から関数関係を見いだし,表・式・グラフなどを用いて数学的に処理し,現 実世界の課題を解決することができる。 6 単元の評価規準 ①関心・意欲・態度 ②数学的な見方や考え方 ③数学的な技能 ④知識・理解 ア 二次関数とその グラフについて関 心をもち,それらを 二次関数の考察に 活用しようとして いる。 イ 関数の値の変化 を,グラフを用いて 考察しようとして いる。 ア 二次関数の式とグ ラフを関係付けて考 察することができる。 イ 文字定数を含む二 次関数の最大値・最小 値の問題を,場合分け を用いて考察するこ とができる。 ウ 現実世界の課題を 解決するために,関数 関係を見いだすこと ができる。 エ 数学を用いて処理 したことを現実の場 面に戻して解釈し,解 決方法を説明するこ とができる。 ア 与えられた関数 の式から頂点と軸 を求めることがで きる。 イ 二次関数のグラ フを用いて,最大値 や最小値を求める ことができる。 ウ 与えられた条件 に適する二次関数 を求めることがで きる。 ア 関数を式で表す 際,定義域の必要性 について理解して いる。 イ 二次関数の式や グラフの特徴につ いて理解している。 ウ 頂点や軸などの 二次関数の特徴に ついて理解してい る。 エ 連立三元一次方 程式の解き方を理 解している。
7 単元の指導計画と評価(全 13 時間) 学習内容 時数 評価 関 見 技 知 評価規準 評価方法 関数とグラフ 1 ◎ ④-ア ノート 行動観察 小テスト 発表 ワークシート 2次関数のグラフ 4 ◎ ◎ ◎ ◎ ①-ア ④-イ ③-ア ②-ア 2次関数の最大・最小 【本時5・6時間目】 6 ◎ ○ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ①-イ ③-イ ③-イ ②-イ,④-ウ ②-ウ ②-エ 2次関数の決定 2 ◎ ◎ ③-ウ ④-エ 8 本時の展開(5時間目) (1)本時の目標 陸上競技トラックの問題について,関数関係を見いだし考察することができる。 (2)観点別評価規準 現実世界の課題を解決するために,関数関係を見いだすことができる。 (数学的な見方や考え方) (3)準備物 ワークシート(陸上競技トラックの問題),教科書(新編 数学Ⅰ 数研出版) (4)学習の展開(5時間目) 教授・学習活動 (○教授,●学習活動) 指導上の留意点◇ 「努力を要する」状況と判断し た生徒への指導の手立て◆ 評価規準 〔観点〕 (評価方法) 導 入 10 分 ○ワークシートを配付し,本時の課題 を提示して,個人で考えさせる。 ●まず,「陸上競技トラックの問題」 の題意や条件を捉えてワークシー トに書き込む。 ◇陸上競技トラックの問題(図 や条件を含む)を拡大印刷し た紙を黒板に貼る。 ◇まず,題意や問題の条件を捉 えさせる。
展 開 35 分 ○この問題を考えるためには,何に注 目したらよいかを考えさせる。 ●まず,関数関係にあるものを見付け る。 ●次に,何を とおけば問題を解決 することができるかを個人で考え る。 ○4人のグループを作り,意見を交流 させる。 ●何を とおけばよいかをグループ で考察し,候補を挙げる。 ●グループで出た考えをまとめて発 表する。 ○各グループから発表された考えを 整理して示す。 ○この問題で関数関係となっている ものを多く挙げさせる。その関係と 結び付けさせて何を とおくかを 全体で考えさせ,できるだけ多く出 させる。 ●発表されたそれぞれの考えに対し て,解決の見通しをもつ。 ◆関数関係が見付けられない生 徒には,前時に学習した問題 を想起させる。 <前時に学習した問題> 長方形ABCDにおいて,2辺AB, BCの長さの和が 10cmであるとす る。このような長方形の面積の最大値 を求めよ。 ◇候補になりそうな を複数 挙げさせる。 ◇題意や条件についてもグルー プ内で確認させる。 ◇関数的な考えを育てるため に, とおくもののパターン 1~3すべてを生徒から引き 出す。パターン1~3がすべ て出ない場合,陸上競技トラ ックの内側の部分で決まって いるところと変えられるとこ ろに着目させて,考察しやす くする。 ◆パターン1~3以外の考え で,題意を適切に捉えられて いないと考えられるものは, 現実世界の課 題を解決する ために,関数関 係を見いだす ことができる。 〔数学的な見 方や考え方〕 (行動観察,ワ ークシート) <予想される生徒の反応> とおくもの ・内側の長方形の縦の長さ(パターン1) ・内側の長方形の横の長さ(パターン2) ・半円の弧の長さ(パターン3) ・競技場の端から外側のトラックまでの距 離 ・内側の長方形の面積
○グループごとに,解決の方法として 示された中から一つ選ばせる。 具体例を用いながら説明し, 題意を正しく捉え直させる。 ◇一つのパターンに偏らないよ うに選ばせる。 ま と め 5 分 ○次時は,選んだパターンについてグ ループで考察し,問題を解決してい くことを伝える。 9 本時の展開(6時間目) (1)本時の目標 陸上競技トラックの問題を考察し,解決することができる。 (2)観点別評価規準 数学を用いて処理したことを現実の場面に戻して解釈し,解決方法を説明することができる。 (数学的な見方や考え方) (3)準備物 ワークシート(陸上競技トラックの問題),解答プリント,教科書(新編 数学Ⅰ 数研出版) (4)学習の展開(6時間目) 教授・学習活動 (○教授,●学習活動) 指導上の留意点◇ 「努力を要する」状況と判断し た生徒への指導の手立て◆ 評価規準 〔観点〕 (評価方法) 導 入 5 分 ○前時を振り返り,本時も「陸上競技 トラックの問題」を考察していくこ とを伝え,本時の流れを説明する。 ◇前時は「何を とおけばよい か」を中心に考察し,3つの パターンの候補が出たことを 確認する。 ◇本時は前時に選んだパターン についてグループで考察し, 問題を解決していくことを確 認する。 展 開 40 分 ○グループで関数の式を作らせ,それ を基にそれぞれでトラックを設計 させる。 ●関数の式を導き,内側の長方形の面 積が最大となるときを求める。 ◇グループで相談しながら考察 を進めさせる。 ◆平方完成が難しい生徒に対し ては,具体例( = −2+ 2 など)を解かせ,それを参考 に考えさせる。
●問題の条件から,定義域を求める。 ●パターンごとの解答を求める。 ○解答プリントを配付して,自分の考 えとの違いに気付かせる。 ●答えからどのようなトラックの形 状になるかを求め,発表する。 ◇問題の条件から,定義域を調 べ求めた解を吟味する必要が あることに気付かせたい。生 徒が気付かないときは,問題 の条件を再度確認させる。 ◇関数の式やグラフの違い,定 義域の違いを比較すること で,理解を深めさせる。 ◇難しい場合は,教師が説明を 補足する。 数学を用いて 処理したこと を現実の場面 に戻して解釈 し,解決方法を 説明すること ができる。〔数 学的な見方や 考え方〕 (行動観察,ワ ークシート) ま と め 5 分 ●陸上競技トラックの問題を振り返 り,学んだことや感想をワークシー トに記入する。 ○ワークシートに記入したことを発 表させ,全体で共有する。 ◇問題解決の流れを振り返らせ る。 10 参考文献 片桐重男(2004 年):『新版 数学的な考え方とその指導 第1巻 数学的な考え方の具体化 と指導』明治図書出版 岩田耕司(平成 26 年):小山正孝編『教師教育講座 第 14 巻 中等数学教育』協同出版
ワークシート
2次関数の最大・最小の応用
問題 競技場内に次の条件を満たす陸上競技トラックを設計したい。 条件 ・陸上競技トラックは図のような形状とする。 ・カーブの部分は半円である。 ・1周 400m の陸上競技トラックにする。 ・6人が同時に走れるようにレーンは6つ作る。 ・各レーンの幅は1m とする。 ・内側の長方形の面積ができるだけ大きくなるようにする。 競技場の大きさが縦 200m,横 100m であり,安全面を考慮して競技場の端から外側のトラ ックまでの距離を 10m 以上離す必要がある。このとき,条件を満たす陸上競技トラックを設計 せよ。 ポイント・・・何を とおくか (自分の解答)1年( )組( )番 氏名( )