• 検索結果がありません。

HOKUGA: 自治体財政の危機と再生 : 住民に何ができるか?(シンポジウム : 2009年北海学園大学市民公開講座住民参加による地域づくり)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "HOKUGA: 自治体財政の危機と再生 : 住民に何ができるか?(シンポジウム : 2009年北海学園大学市民公開講座住民参加による地域づくり)"

Copied!
11
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

タイトル

自治体財政の危機と再生 : 住民に何ができるか?(シ

ンポジウム : 2009年北海学園大学市民公開講座住民

参加による地域づくり)

著者

西村, 宣彦

引用

季刊北海学園大学経済論集, 57(4): 185-194

発行日

2010-03-25

(2)

1日目(2009年 10月 10日)

《シンポジウム》2009年 北海学園大学市民 開講座

住民参加による地域づくり

講演2 自治体財政の危機と再生

―住民に何ができるか?

西

地域づくりの視点,財政の視点

経済学部の西村です。よろしくお願いしま す。本学では地方財政論という科目を担当し ております。 本日の 住民参加による地域づくり とい う共通テーマで,私なりに理解しましたのは, 地域づくりというのは市役所だけがやるもの ではなく,住民が主体的に関わってやるもの である。しかも単にモノを言う,意見を言う というだけではなく,住民一人ひとりの行動 や実践を伴う形で進められるべきであると。 一方,地域づくりとこの講演のテーマであ る財政は,元々相性がよくなかったのではな いかと思います。医療・福祉の地域づくり, 教育・文化の地域づくり,農業,食と観光, 環境など,いろいろな地域づくりが掲げられ ますが,いずれであれ,お金が出て行きます。 財政は地域づくりへの制約条件であって,こ んな地域づくりをしたいという情熱に対して 水を差す,手綱を締めるというのが,財政の 役回りであったかと思います。もしかすると, 福祉や教育といったことに関心が強い人と, 財政に関心が強い人では,人間の性格類型も 異なるのかもしれませんが,そんな相性の悪 さにもかかわらず,今日,財政について話せ ということになったのは,地域づくりを え る際に,ますます財政問題を避けて通るのが 難しくなっているという現実があるからかと 思います。今日,追加資料でお配りした新聞 記事にもありますように,自治体の財政が大 変厳しい状況になっており,そのことを 慮 しながらでなければ,もはや地域づくりを進 めていくことはできない,ということです。 今日の私の講演に対して,皆さまの中には, どうやって財政破綻を回避するのか,いかに 財布のひもを住民の立場から縛っていくのか, という話を期待されている方もいらっしゃる かもしれません。それももちろん大事なので すが,私はそれだけに視野を狭めるべきでは ないということを,むしろ強調したいと思っ ています。財政の立場というのは,数字を見 て 出る が 入る より多い,じゃあ 出 る を削れという話と思われがちなのですが, それは狭い財政論です。広い財政論は,社会 全体の維持・発展という観点から,国民の負 担増も含めて必要な支出は残す,残すべきも のまでどんどん削っていくと,社会がガタガ タになり,財政悪化に歯止めがかからなくな る,そういうことも視野に入れる必要がある ということを,お話ししたいと えています。

自治体財政への関心の高まり

自治体財政に対する関心が大変高まってい ると私も感じていますが,その大きなきっか 185

(3)

けとなったのが,2006年6月に表面化した 夕張市の財政破綻です。 表面化した と言 うのは,実質的に破綻したのは 15年ぐらい 前だったと。しかしそれがずっと隠されてい て,ようやく表に出たのが 2006年というこ とですね。夕張市がその間,不適正な会計操 作を行っていたことも明らかになりました。 それを見た人々が うちのまちは大 夫なの か となって,自治体の財政問題がお茶の間 を賑わせるようになりました。 夕張市に注目が集まる中で,財政破綻した らどうなるのかということが,報道やワイド ショーなどを通じて,詳しく伝えられました。 第2の夕張になってはいけない とのかけ 声のもと,厳しい財政状況にあった自治体が, 財政のリストラを実行しました。財政のリス トラ,即ち歳出の削減は,住民の抵抗が大き く,通常は容易ではないのですが, 夕張の ようになったら大変だ と言えば説得力が出 てくるということで,夕張市は見せしめ的な 役割を果たすことになりました。 夕張市の財政問題が注目され,各自治体が 競うように財政リストラを実行した背景には, 1990年 代 か ら 進 め ら れ た 地 方 権 改 革 が あって, 権的な え方が少しずつ自治体の 現場ですとか住民の間に広がっていったとい うことがあります。 権的な え方というの は,基本的に,地域のことは地域で決める。 これまで国が決めていたのを地方が主体的に えて決める。これは大変よいことだという ことで幅広いコンセンサスを獲得し,改革も 100%順調というわけではないですが,一定 の前進が見られました。 この 権的な え方をさらに発展させてい くと,地域のことは地域が決めたのだから, その結果,まちが財政破綻すれば,自己責任 ですと。国の政策にも責任があるだとか,そ ういうことを言うのは甘えである。国に頼ら ず自助努力で何とかしなさい。まだまだ努力 が足りないということが,強調されたのが 2000年代の特徴です。そういう風潮が社会 全体に広がる中で,各自治体は財政リストラ に駆り立てられたということです。 この風潮は,おそらく地方自治の世界だけ ではなく,後でコーディネーターをされる川 村先生がご専門の労働問題,雇い止めされた 派遣社員の若者を, 甘えだ 努力が足りな い 自己責任 と切り捨ててしまう。そう いう風潮と軌を一にした,今日の日本に漂う 陰鬱な空気かと思います。 そういうことで,財政リストラが進められ ましたが,なかなか展望が見えてこないとい うのが,今の状況です。歳出を切り詰め,住 民の負担を増やして,何とか財政破綻を回避 する。早期 全化団体はいくつか出そうです が, 第2の夕張 (財政再生団体)となる自 治体は当面出ないようです。しかし今後の地 域づくりの展望が開けてきているかというと, そういう状況ではない。財政破綻を回避する のに精一杯というところが少なくないように 思います。 実際,現在の夕張市も,財政再 計画に基 づいて過酷な財政リストラを行い,急速に赤 字解消していますが,人口減少や地域衰退に は歯止めがかからず,むしろ加速している。 それが財政の弱体化を進め,行き着くところ はどこかというと,まちが消滅するというこ とにもなりかねません。そういう悪循環があ るわけですね。改革を進めたら,希望が見え てくるのかというと,見えてこない。 そういう意味でやはり無駄な支出,これは 当然切り詰める。それは当然のことで,いく ら強調してもしすぎではないと思いますが, と同時に,しかし何でも切り詰めればいいと いうわけではない。根本的なところで社会の 持続可能性,サスティナビリティを損ねるよ うな支出の浸食,これをやってはいけないと いうことを,夕張に通う中で感じています。 ただこれも,口で言うのは簡単なんですが, では実際に社会のサスティナビリティは維持

(4)

されているのか,損なわれているのか。これ は財政文書をいくら眺め回してもわからない のですね。新聞報道も記者が取材した範囲と なり,限界はあります。実際の市民生活がど のようになっているかという客観データは, 意外に存在しない。そういう面に目を向けよ うとすることが,財政の再生を えるときに も大事ではないかと思います。

歴 に見る地方財政危機

今は地方財政危機の時代ということですが, 実は地方財政危機というのは今回初めて起き たわけではなくて,戦後繰り返し起きていま す。今は第3次地方財政危機とか第4次地方 財政危機と言われています。第1次は戦後改 革期,朝鮮戦争の特需が終わった後の不況下, 戦後改革で地方自治体の役割が中学 の義務 教育など増える中で,財源が十 に保障され なかった。そういう中で多くのまちが赤字を 計上し,これらのまちに財政再 させること を目的に,地方財政再 促進特別措置法とい う法律ができた。夕張市に適用されたのもこ の法律ですけれども,このときは高度経済成 長がすぐに始まり,第1次地方財政危機は収 束しました。 第2次は 1970年代のオイルショックの後 ですけれども,国の政策として産業経済の発 展を優先させるという中で,革新自治体と呼 ばれるまちが次々と生まれて,生活環境や福 祉の充実を掲げました。税収の順調な伸びを 前提に,歳出を拡大させたところにオイル ショックがきて,都市部の自治体を中心に赤 字が出ました。これが第2次地方財政危機の 時代です。このあと減量経営が強調され,80 年代には国主導で地方行革が進められます。 80年代後半になるとバブル景気の中で自治 体の財政状況は好転しましたが,一方で,東 京や大阪では大規模な都市再開発事業が,地 方でも第3セクターを活用した地域活性化事 業が実施されて,そのいくつかはバブル崩壊 後に行き詰まり,今に至る禍根を残す結果と なりました。 第3次は 1990年代に入りバブル景気が崩 壊し,大都市圏の都府県を中心に税収が落ち 込み,財政悪化が進んだほか,不況対策やウ ルグアイ・ラウンド対策で 共事業が大幅に 増え,その財源として地方債が大量発行され, 債費が財政を圧迫する,それが 1990年代 後半から 2000年代前半の時期になります。 さらに第4次,これはあえて第3次と け なくてもよいかもしれませんが,第3次の重 い債務負担を背負う中で,今度は構造改革だ ということで,地方財政を支えてきた財源が 大幅に圧縮されました。いわゆる三位一体改 革ですが,これもやはり地方 権,地域のこ とは地域で決める,そして財源も国から地方 に移譲するということで,地方の税収は3兆 円増えました。けれども,国庫補助負担金は 4.7兆円,そして地方 付税は 5.2兆円削減 ということで,トータルでは地方の えるお 金は大幅に減りました。 これがどこに一番効いたかというと,財政 力が弱く,依存財源の割合が高い過疎地域に てき面に効きました。特に 2004年度は 地 財ショック と言われて,多くの自治体が予 算を組めないという事態になりました。その 中で象徴的に起きたのが,夕張市の財政破綻 ということです。実際はすでに破綻していた のですが,竹中平蔵氏が 務大臣になり,表 に出したということかと思いますが,地方財 源が圧縮される中で,より一層の地方財政改 革が求められることになりました。今日,新 たに世界金融危機に端を発する不況の中で, 扶助費などが膨らんでおり,第5次地方財政 危機となるのか,あえて ける必要があるの かどうかわかりませんが,こういう状況かと 思います。 夕張市の財政破綻は,今時代を追った中で, 第4次の時期に明らかになりましたが,端を 講演2 自治体財政の危機と再生―住民に何ができるか? 187

(5)

発したという意味ではもっともっと古く,第 3次のさらに前の時期に原因があるところに 特徴があります。

夕張市の財政破綻の歴 的経緯

―特殊性と普遍性―

夕張市が財政破綻した原因は,すでにいろ いろなところで言われていますので,簡単に したいと思っていますが,夕張市がかつて炭 鉱で栄えたまちであるというのは皆さまご承 知のとおりです。1960年代以降,高度経済 成長の中で全国の自治体の多くは飛躍的な発 展を遂げますが,夕張市は国の石炭政策に翻 弄される中で停滞・衰退を余儀なくされます。 1970年代末には中田鉄治さんというカリス マ市長が現れ,炭鉱の閉山で疲弊する地域の 再生・復興を掲げて,観光開発などに積極的 に取り組みました。当時としては大変先進的 な取り組みであったと評価されています。 炭鉱の閉山は集落単位の人口移動を伴いま すので, 共施設の再整備,学 を閉鎖して, 人が移ったところに新たに設置する。市営住 宅,水道, 衆浴場,道路など生活環境をフ ルセットで再整備し,また炭鉱会社が放置し ていった各種施設を撤去する仕事まで押しつ けられました。 共事業には,国の産炭地域 振興政策による優遇はありましたが,地方負 担もあります。地方負担 の財源は地方債が かなりの割合を占めていたので,1980年代 には地方債発行額が劇的に膨張し,1980年 代末からその償還費用が急激に増えるという 事態に直面しました。そうなると夕張市は, もともと人口が急減して,財政力が非常に 弱っていましたから,とても負担できない。 1990年代初頭には財政再 団体になるべ き財政状態になったわけですけれども,ちょ うど 1990年というのは夕張最後の炭鉱がな くなった年です。国の政策転換で地域経済が 大きなダメージを受けた結果,財政が悪化し たのに, とにかく財政再 に専念しなさい, 地域経済復興など知りません では,あまり にも無責任だし,ひどいじゃないかというこ とを,市長が国に強く主張しました。国も強 くは反論できない。じゃあどうしましょうか ということで,結局どういう経緯でというの は,当事者らが皆沈黙を続けているので,よ くわからない部 も多いのですが,脱法的な 赤字隠しが行われたということです。それは, 夕張市単独で暴走したというのではどうもな くて,国や道といろいろ協議しながら,この 方式ならまあ目を瞑れるというようなことを しながら,黙認されてきたというような話が, 1990年代中頃の市議会議事録などを読んで いくと出てきます。高次の政治的判断という ものが,55年体制の最後の時期になります けれども,あったのではないかと。 もし 1990年代前半に財政再 団体に移行 するという決断ができたならば,赤字は 10 億円程度だったわけですが,2006年まで 15 年近く赤字隠しが行われて,その間どんどん 赤字が積み上がりましたので,350億円とい う額になった。夕張市に残った1万人強の住 民には,大変大きな額となりました。 ここで,夕張市の財政破綻の特殊性と普遍 性について え て み ま す。 第 2 の 夕 張 云々と言われるのですが,各地域の置かれて いる状況や歴 的経緯はすべて異なります。 その意味ですべてのまちは特殊です。ただ財 政悪化を招いた諸要因の中には,多くの自治 体に共通するものと夕張固有のものがありま す。 ハコモノ整備への傾斜による地方債の 膨張 ですとか, 三位一体改革の影響 の ような要因は多くの自治体に共通するものと 言えます。 国依存,行政依存の体質 は, 夕張の地域性としてしばしば強調されますが, これを測定する指標というのは案外なくて, けっこう扱いが難しいと感じています。 急激な地域経済衰退 は,農林水産業や 鉱工業が主力産業の過疎地域に共通する問題

(6)

ですが,産炭地域,中でも夕張市ではこれが とりわけ激甚だったということができます。 そして,極めて特殊な要因として 赤字隠 し があります。これが行われなければ,他 の要因があってもここまで極端な赤字には なっていません。しかもそれがどうも国ぐる みで行われていたのではないかという疑いが あるところも重要な点です。これらの諸要因 に対して,普遍的な問題には一般施策で,特 殊な問題には特例的な施策で対応するという のが,基本的な え方になると えています。

財政再 の取り組みと現行計画の問題点

財政再 団体に移行して何をするかという と,赤字が 350億円あるので,これをゼロに しましょうと。しかし1年では無理です,10 年でもまだ無理で,18年かけてゼロにしま しょうということです。当然,夕張市民の納 める税金だけではこんなものは返せません。 国の地方財政制度では,夕張市民が生活して いくために必要な財源を国が見積もって,税 収で足りない部 を地方 付税という形で 付します。これが主要な財源です。そして行 政サービスを標準以下に削って,職員給与も 削って,赤字を解消していきます。 赤字隠しの結果,赤字額が非常に巨大に なったということで,他の自治体への見せし めの意味もあり, 全国最低の行政サービス と全国最高の住民負担 ということが強調さ れました。小中学 が統廃合されて,小学 は7 あるものが1 に,中学 は4 が1 になることになりました。市民会館も廃止 する。 園も廃止する。市立病院は 131床 あった病床を 19床に減らして診療所に格下 げした上で, 設民営の指定管理者制度で, 民間の医療法人が運営することになりました。 金額的には職員人件費の削減が大変大きい です。人口が急減する中で,破綻当時の職員 数が人口に対して多過ぎたということは否め ません。310名いたのを一挙に 165名まで削 り,その後も減って現在では 147名になって いますが,計画よりも少ない職員数で,道庁 をはじめとする他の自治体から 22名の職員 が派遣されています。給与は実質4割カット が実行されています。 財政再 の状況ですが,毎年 10何億,20 何億と赤字を解消していく年次計画が,夕張 市の HP に載っていますが,今までのとこ ろ計画どおりに返しています。 ただ細かく見ていきますと,かなり計画か ら狂いも生じています。例えば税収,11億 円ほどの見込みが9億円しかないということ で,やはり想定以上の人口減少が進んでいる, これは国の研究所の人口予測が基になってい ますが,人口が減れば当然税収は減り,地方 付税の 付額も見込みより減るということ になります。 じゃあどうして計画通りに赤字を返してい けているのかというと,地道な歳出節減努力 に加えて,特別 付税という,これは 務省 がかなり裁量性を持って 付する地方 付税 の一種ですが,これを上乗せしてもらってい ます。病院を診療所に格下げしたことによる 特例加算もありますが,特別 付税はあまり アテにできるお金ではありません。 付税自 体も政府の方針が変わると小泉さんの時のよ うにまた,大幅に削られる可能性もあります。 こうして過去2年の状況から見えてきまし たのは,最初にも言いましたが, 財政再 と人口流出のジレンマ というものを,地方 財政では特に注意を払う必要があるというこ とです。財政再 を進めるには,歳出をでき るだけ削って住民負担を増やして,生まれた 余剰財源を赤字解消に充てる。そうすれば早 く財政再 が進むということですが,実際に 起きているのは,それを乱暴にやると,他地 域への人口流出が加速してしまい,税率は上 げたけれども,人口も税収も減るということ ですね。 189 講演2 自治体財政の危機と再生―住民に何ができるか?

(7)

財源を捻出するために学 を廃止すれば, 夕張は好きだけれども,さすがにもうここで 子どもを育てるのは無理だと,若い人が出て いく。そうなると結局,財政再 も停滞する。 ではどうすればいいか。これは難しい問題な ので,ジレンマと言っているのですが,地方 財政というのはオープン・システムと言って, 住民の出入りが自由な中で,居残った住民の 自己責任ばかり問うて負担を強いても,実は 平でも現実的でも何でもないということを 冷静に える必要があります。しかし現状は, 他の自治体の財政も厳しいことや,うやむや に さ れ た 過 去 の 経 緯 も あって, 夕 張 市 が 作った借金は夕張市が返すのが当たり前 と いう精神論的からなかなか抜け出せずにいま す。

財政再

から 財政再生 へ

現在,新しい法律ができて,現行の財政再 計画の内容を大幅に見直して,新しい計画 を策定しようとしています。今度は 財政再 ではなく 財政再生計画 と名前が変わ るのですけれども,現行計画は赤字の解消に 力点を置き過ぎていて,夕張市の地域事情を 踏まえた住民生活への配慮や,地域の再生と いった視点は軽視されていた。新計画では, 住民生活を支える観点から必要な経費を積極 的に盛り込もうとしています。最終的にどの 程度盛り込まれるかはまだわかりませんが, まずは道を粘り強く説得し,最終的には国の 同意を得ていく必要があります。 こうした動きは,この3年間の 自治体財 政再 に関する認識の発展の成果 と言える のではないかと思います。2006年段階では, 財政再 計画というのはとにかく赤字を解消 する計画であって,それ以上でも以下でもな かった。余計なことは えなくてもいいとい う え方が一般的であった。しかし巨大すぎ る赤字を抱えてしまった夕張市が実際に財政 再 をはじめると,財政再 の社会的・経済 的効果に目を向けないわけにはいかなくなり ました。それを無視した乱暴な赤字解消計画 では,結局住民が地域に住めなくなり,住民 解消計画になってしまう。それはそれで結構 という確信的な見方もありますが,財政再 計画を住民追い出し計画として うというの は,やはり制度の趣旨から著しくかけ離れて います。 今後住民が減っていくのは避けられないに しても,夕張に一定数の人が住み続けていく 中で,財政再 下でも立場の弱い人でも生活 していけるように配慮しようと知恵を る。 そして 10数年後にどういう形で地域を再生 させるのかを え,その実現に向けて一歩ず つ取り組む。これがとても重要で,財政再 下の自治のあり方を示したと思います。赤字 解消がすべてに優先という発想で,支出は削 れるだけ削ればいい,削りやすいところから 削ればいいで終わってはならないのです。こ れまでの自治のあり方に問題があったからこ そ,財政再 過程を通じた自治力の向上が図 られなければなりません。 地域再生ということで えると,雇用の 出・維持も重要で,夕張市民の関心も非常に 高いことがわかっていますが,一方で雇用の 場ができても,そこで生活ができなければ, 近隣市町村から通勤する形になってしまい, 地域再生への効果は限定的になります。です から生活基盤の維持と雇用の 出・維持が, 車の両輪となるような形で地域の再生を描い ていく。そういうものを新しい計画では盛り 込んでいきたいということを夕張市は言って いて,道も基本的に認めようという方向で進 んでいます。 新計画のポイントをいくつか挙げると,小 学 の統廃合,私は残念に思っていますがこ れはもうかなり避けがたい状況です。しかも 当初は,1 に統合する代わりに各地区にス クールバスを走らせて,子供の通学の安全を

(8)

確保するという話でしたが,今年の春になっ て急に,やっぱりお金がかかるので路線バス 方式にする,そのほうが地域 通の維持にも なるという話が出てきて,地元の子育て世代 の親御さんたちも大変心配していると聞いて います。 市立診療所は夕張希望の杜という医療法人 財団が指定管理者になりましたが,最初に出 てきたのは,施設の老朽化で暖房費がかかり すぎるという問題で,費用の一部を市が補助 することになりました。ただこれも抜本的な 解決策ではないので,市はまちの中央に位置 する清水沢地区に,診療所を移転・新築する 構想を打ち出し,地域再生を目指す新計画の 目玉とする えです。 また最近,診療所の病床利用率の低さが, 希望の杜の経営を圧迫している問題が浮上し ています。診療所の病床は 19床で,病院時 代からかなり減らしたのですが,現在稼働し ているのは5∼8床程度ということで,これ は法人理事長の在宅医療を推進し,できるだ け入院を避けるという方針もあって,19床 満床になることはほとんどないそうです。し かしその結果,19床体制を維持するために 毎 月 400万 円 ぐ ら い の 赤 字,年 に す る と 5,000万円ぐらいの赤字になる。ですから, もし 19床を維持する必要があるというなら, やはり一定の財政支援をすべきではないか, もしできないなら,病床廃止,無床化もやむ を得ないという話も出てきており,市は新計 画で一部負担金を盛り込む方針です。 他にも,職員処遇の改善ですとかいろいろ ポイントがありますが,こういうことをどん どん積み重ねていって,支出が膨らめば,赤 字解消が遅れるのは当たり前ですが,ではど うするのかというと,財政再生期間を 長し て,ペースを落とす形でゆっくり返していく というのが一つの選択肢。これが現在,可能 性としては最も高いと言われています。しか し私は,赤字負担配 のあり方を根本的なと ころからもう一度議論して見直すことがあっ てもよいと思っています。 現在は 350億円の赤字を夕張市の責任で解 消するという枠組みで,それは夕張市の責任 だから当然だということです。しかし赤字隠 しが行われた経緯は,未だきちんと検証され ていません。道や国も黙認していたんじゃな いかと私も言うのですが,それで終わりです。 結局うやむやなまま夕張市だけが悪いとされ ても,事実が明らかにされない限り,住民が 心から納得することはないでしょう。道や国 の関わりを明らかにしつつ,新政権が掲げる 地域主権型の地域づくりのために,夕張市の ような地域ではどうしても過去の清算措置が 必要であると,そういう観点から赤字減額を 議論していく必要があるように思います。

自治再生の取り組み

―住民参加の視点から

もっとも,住民生活に配慮しながら地域再 生を目指そうということで,赤字減額も含め て現行計画を大幅に見直す,という話で終 わってはダメで,過去の反省も踏まえて,夕 張市の自治能力を高めるという視点が重要で す。道も国も赤字隠しに関わっていたのでは ないかといっても,夕張市自身にも反省すべ き点があるのは疑う余地がありません。夕張 市のこれまでの自治のあり方を反省し,改善 していく取り組みが求められます。 自治というのは行政,議会,住民それぞれ の手で担われていて,それぞれ反省すべき点 がある。行政はいろいろな事情があって,脱 法的な赤字隠しを行い,長きにわたって自ら 修正できなかった。議会もチェック機能を果 たせず,行政を追認した。議会にはちゃんと 報告されていたのですね,特殊財源を活用し た,云々と。しかし夕張復興のためにはそれ もやむを得ないということで,それ以上追及 しなかった。住民もやはりお役所任せの意識 191 講演2 自治体財政の危機と再生―住民に何ができるか?

(9)

があったということで,新聞や広報でも黒字 と 表されていたのを見抜けなかったと責め るのは酷だと思いますが,反省すべき点はあ るということで,具体的にどう変わっていけ ばいいのかということです。 もうあまり時間がありませんけれども,今 日のテーマは 住民参加 ということですの で,住民レベルの動きを追いますと,夕張市 民というのは元々明るい気質と言われていて, 地域活動への参加も決して低くありません。 文化活動などについては非常に活発なまちで, そういう伝統があります。 ところが,市政に関わるような問題につい ては,誰もが発言できるような場はなかった。 地域の各種団体を代表するような人たちの意 見が,住民の意見ということで,多様な生活 状況の住民の声を聴くような場はなかった。 これは夕張市に限らず,農村地域ではどこで もそうかもしれませんけれども,そういう風 土の中で,新しく市長になった藤倉肇市長は, ゆうばり再生市民会議 という住民が誰で も参加できる場を作りました。自由に参加し て,まちづくりに関われるということで,福 祉,環境,観光の3つの部会で活動が行われ ました。その中で,夕張を桜の名所にしよう とマップづくりをする 桜マッププロジェク ト や, 命のバトン という独居老人が倒 れた場合に備えて,治療歴を記録したキット を冷蔵庫に保管するなど,住民発案の事業と して,すでにいくつかの成果が上がっていま す。 再生市民会議は,行政が財政再 計画とい う足かせをはめられて何もできないので,住 民にできることをやろうというのが,当初の 囲気だったと聞いていますが,高齢者が非 常に多い夕張で,ボランティア活動だけでは やはり限界がある。そこは行政の責任という ものがやっぱりあるんじゃないかということ を, 財政再 団体だから仕方がない では なく,きちんと議論しようと変わってきまし た。新しい財政再生制度について勉強しよう と, 務省から派遣されていた職員を招いて 学習会を開いたり,市議会での議論を追うた めに議会傍聴の活動を始めたり,また今,財 政再生計画に関する住民説明会が市内6地区 で開かれているのですね。これに手 けして 出席して,質疑内容を記録し,情報の共有を 図ったり,自らも積極的に発言していくと いった活動をしています。新計画を策定する 過程で,こういう新しい動きが出てきている と言えるのではないかと思います。最近では, 市内に産廃処 場を 設するという計画が浮 上しまして,その是非を えるために,再生 市民会議のメンバーらが中心になって,専門 家を東京から招いて学習会を開くということ もやっています。 さらに重要と思いますのは,再生市民会議 のメンバーがやはり中心になっていますが, 住民が主体となってアンケート調査を企画, 実施したことです。財政再生計画に住民の声 を反映させると言っても,地域の世話役の方 や声の大きい人だけが住民ではもちろんあり ません。また普通に生活していて入ってくる 話は,同じような年齢,同じような価値観, 同じような生活水準の人です。しかし地域に は多様な人が暮らしていますので,それらを 掴もうとすれば一定規模の定量的な調査を行 う必要があります。我々も学生と昨年,小規 模な調査をやりましたけれども,何か研究者 は,夕張市は高齢者が多いので高齢者を対象 とした調査をやったけれども,実際,夕張で 大変な思いをしているのは子育て世代で,現 役世代を対象とした調査が必要だ。そういう 動きもあって,少しずつ住民自治の息吹のよ うなものを感じています。 議会についても少しだけ触れておきます。 自治再生という意味では大変重要なのですが, 隣に栗山町という議会改革の先進地があるに もかかわらず,破綻前と変わらない内向き姿 勢という話を聞くことが多いですが,それで

(10)

も少しずつ,議会主催の住民懇談会を初めて 開催するなど,ゆっくりではあるかもしれま せんが,変わってきている面もあると,期待 を込めて紹介しておきたいと思います。

結びにかえて

私自身がこの間,ささやかながら関わって きた夕張の話をさせていただきましたが,夕 張市の財政破綻を機に自治体財政 全化法と いう法律ができて,これまで指標が1つだっ たのを,4つに増やして財政状況をチェック しましょうということになりました。今度は 普通会計の赤字だけでなく,全会計の連結赤 字や, 債費やその他の債務負担の大きさな どを含めてチェックすることになり,夕張市 がやったような赤字隠しは難しくなり,財政 の透明性は高まりました。そういう意味で, 国の法改正により改善された部 はあるので すが,それでも経済情勢が厳しい中で財政も 厳しいということで, うちのまちは大 夫 なのか と不安に感じている方は多いと思い ます。 私が夕張問題に関わり出した当初から疑問 に感じていたのは,夕張バッシングというの が当時非常に強くて, 夕張市民はなっとら ん どうしようもない と口々に言う。そ ういう風潮があったわけですけれども,果た して私たちには彼らを批判する資格があるの だろうかと。たまたま人口が多く,財政力の あるまちにいるから,財政破綻しなかっただ けじゃないのか。そんな思いがあったわけで すが,それでも夕張市民にやはり問題があっ たというならば,それは叩くことが目的では なくて,逆にどういうふうであれば及第点と いうことになるのか。その基準が曖昧なまま 批判してもフェアではないし, 設的な話に もなりません。単なる恣意的なイジメですね。 この基準は夕張市だけではなく,他の自治 体にも平等に適用されなければなりません。 例 え ば,住 民 自 身 が 自 治 体 財 政 を 厳 し く チェックするような活動を行う。札幌でも さっぽろのおサイフを知る会 という市民 団体がありまして,札幌市の 財政白書 を 自 たちで作ってしまうんですね。これは大 変な作業だったと思います。地方財政の仕組 みはやはり一般の方には相当複雑ですので, しかも若い人ではなくて 60歳前後の方が苦 労しながらエクセルをいじって,10人ぐら いで作ったと聞いております。 こういう活動は札幌市だけではなく,いろ いろな地域で行われていて,まちの財政状況 を調べる。財政収支の赤字,黒字を見るとい うのが,第一歩であると思います。財政収支 が大幅に赤字になると夕張市のようになって 大問題だ。しかし冒頭に言いましたように, 財政収支を黒字にするというのは,これは目 的ではないのですね。あまりにも財政収支が 悪化すると,最低限のまちづくりも成り立た なくなる。それでどこにはお金を投じるか, どこは削るべきかということを見ていくこと になりますが,そうすると,繰り返しになり ますけれども,予算や決算といった財政資料 にあたると同時に,住民のくらしの実態はど うなのか,どこにニーズがあるのかを住民自 身の手で調べる。先ほど夕張の事例では子育 て世代 600人近い人を対象に,これは夕張市 の人口からするとかなり多い数なのですが, アンケート調査を行うというような活動は大 変有意義なものだと思います。 財政に対する不安が強い状況では,財政の 無駄を削るという面が強調されて,この間も 自治体の職員を減らして,民間委託を進める, 非正規職員を増やすといったことが行われて きました。これは 安上がりな行政 で大変 結構と言われるのですが,手放しで喜ぶので はなくて,それが社会にどのような影響を及 ぼすのかを注意深く見ていく必要があります。 安上がりはいいけれども,結局,若い人たち がまともな雇用に就くことができない。民間 193 講演2 自治体財政の危機と再生―住民に何ができるか?

(11)

も大変だということもあるのですけれども, 行政もそれに倣って,そういう状況が社会の 隅々にまで浸透していくと,日本社会を再生 産していくということ自体が極めて難しく なっていくと見ています。 財政が危機に陥ったとき,これは人気がな いのですが,負担能力のある人々に負担を求 めるという選択肢も える必要があります。 第一次大戦で敗戦国になったオーストリアの 国家財政が破綻したときに,これは著名な近 代経済学者で,財政社会学の祖とも言われて おりますシュンペーターという人が,一回限 りの財産税で破綻から国家を救うべきという ことを主張したという話を紹介して,私の講 演を終わらせていただきます。

参照

関連したドキュメント

手動のレバーを押して津波がどのようにして起きるかを観察 することができます。シミュレーターの前には、 「地図で見る日本

子どもたちは、全5回のプログラムで学習したこと を思い出しながら、 「昔の人は霧ヶ峰に何をしにきてい

地区住民の健康増進のための運動施設 地区の集会施設 高齢者による生きがい活動のための施設 防災避難施設

だけでなく, 「家賃だけでなくいろいろな面 に気をつけることが大切」など「生活全体を 考えて住居を選ぶ」ということに気づいた生

 英語の関学の伝統を継承するのが「子どもと英 語」です。初等教育における英語教育に対応でき

   遠くに住んでいる、家に入られることに抵抗感があるなどの 療養中の子どもへの直接支援の難しさを、 IT という手段を使えば

子どもたちが自由に遊ぶことのでき るエリア。UNOICHIを通して、大人 だけでなく子どもにも宇野港の魅力

自然言語というのは、生得 な文法 があるということです。 生まれつき に、人 に わっている 力を って乳幼児が獲得できる言語だという え です。 語の それ自 も、 から