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(1)

会社に対する商業登記請求権

著者

小関 健二

著者別名

Kenji Koseki

雑誌名

東洋法学

34

2

ページ

13-41

発行年

1991-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003526/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

(2)

会社に対する商業登記請求権

七六五四三二一・

目   次 はじめに 登記講求権 株式会社に対する登記請求権 有限会社に対する登記講求権 合名会社、合資会社に対する登記講求権 商号の変更、抹消登記請求権 廃止商号の抹消登記請求権

東洋法学

一三

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    会社に対する商業登記請求権      一四    一 はじめに  取引の安全保護の上で重要な役割を果たす登記には、権利関係の公示を目的とする不動産登記、船舶登記など各種 の財産に関するものと、権利の主体に関する商業登記、法人登記がある。そのほか特殊なものとして、夫婦財産契約 登記などもあるが、最も多く利用されるのが、不動産登記と商業登記である。また商業登記のうちでも会社の登記で ある。  ところで登記は、官公庁からの嘱託または登記官の職権によってなされる例外の場合もあるが、原則としては当事 者の申請がなければ行われない︵顛聾一産幾︶。  そこで商業登記において、登記の申請をなすべき当事者が登記の申請手続をしない場合に、その登記のなされるこ とを欲する第三者が、その当事者に対し登記申請手続をするよう求めることができるのか、そのような権利があるの かというのが、商業登記請求権の問題である。本稿は、そのうち会社に対する商業登記請求権について、具体的個別 にこれを取り上げて検討しようとするものである。    二 登記請求権  会社に対する商業登記請求権を論ずる前に、まず不動産登記における登記講求権について概観してみる必要がある。 これについては、既に多数の判例もあり、発表された論文も多く、特に幾代通教授の﹁登記請求権における実体法と

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       ハヱ  手続法繍は詳しい。  判例、多数説によると、不動産登記は登記権利者と登記義務者の共同申請によってなされるのを原則としている ︵郷燈魔六︶ことから、これを根拠に登記権利者は登記義務者に対して登記請求権を有するとされる。しかし、これは手 続法上の登記請求権であって、実体法上の登記請求権の根拠となるわけではない。登記をするのに手続上他の者の協 力を要する場合に、その者に対して登記手続の協力を求めることのできる実体法上の根拠が、ここにいう登記請求権 である。  それに対し、商業登記︵以下特に明記しない限り会社の登記のみをいう。︶においては、登記申請人は当事者すな        レ わち会社であって、会社の代表者が会社を代表して登記の申請をする︵醐幾︶。  商業登記においては、原則として登記すべき事項は登記後でなければ、善意の第三者に対抗することができず︵適 条︶、また、故意または過失によって不実の登記をした者は、その事項の不実なることを以て善意の第三者に対抗で きない︵踊条︶ということで、登記すべき事項を登記せずあるいは不実の登記を是正しないことによる不利益は、登記 申請人たる会社が受けるので、第三者が会社に対して登記申請手続をするよう求める必要はないようにも思える。  もちろん、法は一定の場合に会社に登記をなすことを命じ、これを怠ったときには、会社の代表者に過料の制裁を 科することとしている︵繭囎絨馴条︶。これを根拠に、会社の登記義務は公法上の義務であって、私法上の義務ではない       ハ レ として、会社に対する登記請求を認めない判例もあるが、公法上の登記義務と併存して私法上の登記義務を認める判    パゑレ 例もある。     東洋法 学      皿五

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    会社に対する商業登記請求権  そこで、会社の私法上の登記義務、相手方の会社に対する登記請求権の根拠が問題であるが、 よって異なるので、具体的個別にこれを検討する必要がある。 こ れ は _ 個 六 々 の 場 合 に ︵︸︶ ︵2︶

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 東京高裁昭和三〇年二月二八日判決︵高裁民集八巻二号一四二頁︶  東京地裁昭和二九年一二月二〇日判決︵下民集五巻二一号二〇七〇頁︶ 条一項、七七条、九二条、一〇一条︶。 の代表者は存在しなくなるので、存続会社又は新設会社を代表すべき者が消滅会社を代表して行なうことになる︵商登六九 五五条一項、七七条、九二条、一〇一条︶。また、合併により消滅する会社の解散登記の申講は、合併により消滅する会社  会社設立の登記は、当事者たる会社が未だ存在しないので、設立後会社の代表者となるべき者の申請によってする︵商登 七〇三頁以下、同巻六号八八七頁以下、五七巻三号三三七頁以下。  民商法雑誌四九巻一号三頁以下、同巻一号一九〇頁以下、岡巻四号四五六頁以下、五六巻四号五二七頁以下、同巻五号 三 株式会社に対する登記請求権  8 取締役、監査役の辞任による退任登記講求権  商業登記講求権の有無が問題として取り上げられた事例として、取締役や監査役を辞任したにも拘わらず、会社側 が何時までもその登記手続をしない場合に、取締役、監査役から会社に対して変更登記するよう求めることができる

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かに関し、辞任した監査役から会社に対して変更登記手続を求めた事件の判決がある。  東京地裁昭和二九年一二月二〇臼判決︵堺嘱縢瓶捲餅、︸︶で、﹁会社の商業登記に関しては不動産登記におけるように私 法上の権利関係に基づく登記権利者に対する意味での登記義務者なるものがなく、商法会社編においてその規定する 登記を為すことを怠った場合に一定の者に制裁を科する旨規定し︵竸欄囎鰍叶馴条︶これによってその登記を為すべきこと を強制していることをかんがえれば、会社の商業登記を為すべき義務は、本来国家に対するものであって、同登記を 求める私法上の権利が発生する余地がない筈のものと解すべきである。もっとも、合名会社、合資会社におけるよう に社員相互の契約関係が法入格形成の基礎となり、登記によりその関係が表示される場合には、登記が右契約関係に 基づく私法上の権利義務に影響を及ぽすこともあり得るので︵例えば同法第九十三条に規定する場合︶、商業登記に 関しても別に私法上の権利が発生する余地があると解し得るけれども、株式会社についてはこのようなことはなく、 取締役または監査役に関する商業登記の記載は会社の機関としての法律関係の表示に過ぎず、登記の変更によっては その個人の会社または第三者に対する私法上の権利関係に消長を来たさず、即ち辞任した監査役が登記簿上依然とし て監査役として表示されていても、そのことにょって何等の不利益を蒙るものではないので辞任した監査役は、会社 に対し、国家に対する義務に属する商業登記の変更登記手続をなすべきことを求める権利を有しないものといわなけ ればならない。﹂として、辞任した監査役の会社に対する監査役辞任による変更登記手続の請求を棄却した。  この事件の控訴審たる東京高裁昭和三〇年二月二八日判決︵靖臓覗嚥訊難︶は、﹁元来監査役と株式会社との関係は委任 に関する規定に従うのであって、その辞任は会社との問にあっては直ちに効力を生ずるのであるが、これを善意の第     東 洋 法 学      ︸七

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    会社に対する商業登記請求権       ︸八 三者に対抗するためには登記を要するのであるから、株式会社は監査役に対しその辞任を善意の第三者に対抗させる ために登記をなすべき義務を負うものといわねばなるまい。けだし、監査役と会社との関係が委任もしくは準委任の 法律関係であるからには、その終了に伴い、会社は監査役に対し会社に対する関係においても、また第三者に対する 関係においても辞任の効果を生ぜしめる措置を採り以って当該監査役をして会社との間において内外ともに全く無関 係の立場に置くことは委任もしくは準委任の本質からみて事理の当然と解すべきであるからである。このことは、た またま商法会社編において、その規定する登記を申請することを怠った場合に、その義務者に制裁を科することを規 定し、この義務の履行を強制していることと毫も矛盾するものではなく、この公法上の義務と前記私法上の義務とは 併存して何ら妨げないものである。﹂として、私法上の登記請求権を認めた。  竹内教授は、この判例評釈︵望別潮卦爵︶において、判決が変更登記請求権の実体法の根拠を商法一二条に求めたこ とに反対し、委任契約解除後の後始末の問題、原状回復の問題として考えるべきであるとされる。  岡山地裁昭和四五年二月二七日判決︵嘘臆聡驚鳩醜五︶も、﹁被告会社は原告に対し、右委任契約の終了に伴う契約上の 義務として、原告が取締役を退任した旨の変更登記をしなければならないと解する。なんとなれば、取締役が退任し た場合、その取締役にとっても右退任を善意の第三者に対抗するためには退任の登記が必要であるといえるし、なる ほど会社に対する関係ではすでに辞任の効力が生じているから取締役としての職務の執行に基づく責任を負うことは 法律上ありえないけれども、なお依然として取締役であると誤認され、その責任を追求されたときには防禦の措置を

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講じなければならない事実上の不利益を蒙るおそれがあること、また登記が残っていることによって事実上の推定を 受ける不利益があることなどを考えあわせると、会社が退任の登記をしてかかる不利益を除去すべき契約上の義務が、 会社と取締役との間の委任契約の内容に含まれるといわざるをえないからである。﹂として、登記請求権を認めてい る。        パこ  千葉地裁昭和五九年八月三一日判決︵謂顎構嚥聾恥、 ︶は、﹁原告は、被告の取締役を辞任したのであるから、被告は、 その旨の登記手続をなすべき義務があるのであって、被告がこれを任意に履行しない場合においては、条理上、原告 は、被告に対し、その旨の登記手続をすることを強制することができるものと解するのが相当である。しとして、登        ハえ  記請求権を認めてはいるが、その根拠を条理に求めている。これは高林判事の見解と同一である。  辞任した取締役や監査役が、その退任登記がなされていない場合に、商法二六六条ノ三による第三者に対する損害        湿 賠償責任を負うかという問題について、商法二一条、一四条の解釈をめぐって対立があるが、何れの説によるにせよ、 会社が退任登記をしないために、そのような紛争に巻き込まれるのであって、退任取締役、監査役は会社に対し登記 請求権を有すると解すべきである。その実体法上の根拠は、取締役、監査役と会社との関係が委任関係にあるので、 委任契約が解除されたときは、会社は原状回復義務︵銀継逝囎︶の一環として、委任契約の成立によりなされた取締役、 監査役の就任登記を、それが存在しない状態すなわち退任登記手続をしなければならず、会社がそれを怠るときは、     東洋法 学      一九

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    会社に対する商業登記講求権       二〇 退任取締役、監査役は会社に対しその登記手続をなすよう求める権利がある。  次に、取締役や監査役が辞任して欠員が生じたにも拘わらず後任者が選任されず、このため退任した取締役や監査 役が商法二五八条一項︵二六一条三項で代表取締役に、二八○条一項で監査役に準用︶によりなお取締役、監査役の 権利義務がある場合に、退任した取締役、監査役に登記請求権があるかが問題となろう。というのは、この場合登記 所は、会社が取締役、監査役の退任登記の申請をしても、後任者の就任登記の申請と同時でなければ、これを受理し ない取り扱いであり、最高裁昭和四三年二一月二四日判決︵響畷張肇産酷︶も、﹁商法一八八条二項、三項、六七条に よれば、株式会社の取締役または監査役の辞任は登記事項の変更にあたり、会社はその登記をしなければならないこ とはいうまでもない。しかし、商法二五八条一項、二八○条によれば、法律または定款に定めた取締役または監査役 の員数を欠くに至った場合においては、任期満了または辞任によって退任した取締役または監査役は、新たに選任さ れた取締役または監査役の就職するまでなお取締役または監査役の権利義務を有するのであるから、このような者に ついては、退任による変更登記をしたままにしておくことは取引の安全の見地からみて適当なことではなく、退任者 がなお取締役または監査役の権利義務を有することを登記公示することが必要であると解せられる。しかるに、法律 においては、この特別な場合に関する登記公示について明文の規定を欠いているので、このような場合には、取締役 または監査役の権利義務を有する退任者につき、登記簿上なお取締役または監査役の登記を存続させておくべきもの と解することは前叙の見地からして合理的理由があるというべきである。従って、取締役または監査役の任期満了ま たは辞任による退社があっても、商法二五八条一項の適用または準用をみる場合においては、いまだ同法六七条に定

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める登記事項の変更を生じないと解するのが相当である。﹂として、これを是認している。  しかしながら、本件は取締役、監査役の辞任による退任登記申請を却下した登記官の処分を争い、登記官を被告と して提起された訴訟についての判決であり、退任取締役、監査役の会社に対する登記請求権の有無とは直接関係はな い。すなわち、退任取締役、監査役から会社に対し退任登記申請手続請求の訴が提起されたときに、会社は、後任者 が選任されておらず取締役、監査役の権利義務を有する場合であるから登記事項に変更が生じておらず登記申請義務 がないという抗弁を提出して、これが認められるであろうか。裁判所はおそらく、会社は自ら後任者の選任手続を解 怠しておきながら、そのような抗弁は認められないとして、退任取締役、監査役の登記請求を認めるであろう。その 場合、その判決によって直ちに退任登記はできないかも知れないが、間接強制により会社に後任者の選任を促せばよ い︵騒条︶. ︵1︶ この事件の事実関係は、判決文のみからでは明らかでない。というのは、判決文によれば、原告は訴提起後の第一回霞頭  弁論期霞に取締役辞任の意思表示をしたのに、被告会社はその登記手続をしないというが、それは当然であって、訴提起前   に登記できる筈がない。推測するに、原告は訴提起前に取締役辞任の意思表示をしたのに会社がその登記手続をしないから   その登記手続を求めるといって訴を提起したが、その辞任の効力が認められそうにないので、第一回口頭弁論期日に改めて  辞任の意思表示をしたというのであろう。また、﹁被告の商業登記簿謄本︵資格証明のため提出されたもの﹀によれば、原  告は、昭和五四年四月二八日被告の取締役に就任し、引き続いてその地位にあった事実を認めることができる。﹂とあるが、 東 洋 法 学 二一

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会社に対する商業登記請求権 二二   その後同五六年、五八年に重任しているのであれば格別、そうでなければ、辞任の意思表示をした同五九年七旦三日当時   既に任期満了により退任となっており、辞任というのはおかしい。 ︵2︶高林克巴・商業登記請求権﹁松顕判事在職四十年記念﹁会社と訴訟﹂上﹂八九頁。 ︵3︶東京地裁昭和五七年四月一六日判決︵判例時報一〇四九号二一二頁︶は、﹁当裁判所は、この場合自己の辞任登記がなさ   れておらず不実の登記が残存していることを知りながら過失で不実登記のままこれを放置していたとき、またはこれと同視   すべき程度の重大な過失にょりその事実を知らずに放置していたときに限り、その登記につき登記義務者と同様の責任を負   担させ、その者は右の登記が不実である旨を善意の第三者に対抗し得ないと解すべきと思料する。﹂と商法一四条の適用を   認めたが、控訴審たる東京高裁昭和五八年三月三〇日判決︵判例時報一〇八○号一四二頁︶は、﹁取締役、監査役の辞任は、   会社内部の関係としては登記をまたずに絶対的に効力を生ずるものであるから、辞任した取締役がその旨の登記がないから   といって、会社内部においてあるいは取締役会に出席し、あるいは日常他の取締役の業務執行を監視するなどの職務を遂行   することは法律上も事実上も不可能であり、監査役についても閥様であるといわねばならない。してみれば、被告打本らは   その辞任の後は、被告田中は長坂久江が監査役に就任した後は、それぞれ取締役または監査役として誠実に職務を遂行すべ   き権限ないし義務自体がなかったものであり、仮りに原告に対する関係でそうでないとしても、原告の主張する損害発生の   原因たる事実が、被告らの辞任が効力を生じた後にかかわるものである以上、被告らの誠実な職務遂行は事実上期待するこ   とができないのであるから右損害が被告らの悪意または重大なる過失によって生じたものということはできないのであって、   原告の請求はその余の点を案ずるまでもなく失当というほかはない。﹂と、上告審たる最高裁昭和六二年四月一六日判決   ︵判例時報二一四八号一二七頁︶は、﹁株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにも拘わらずなお積極的に取締役とし   て対外的または内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じ   て当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法︵昭和五六年法律第七四号による改正前のもの、以下同じ。︶二六六条   ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである︵最高裁昭和三三年㈲第三七〇号同三七年八月二八   鰯第三小法廷判決・裁判集民事六二号二七三頁参照︶が、右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の

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代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が 存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法一四条の類推適周により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締 役でないことをもって対抗することができない結果、同法二六六条ノ三第 項前段にいう取締役として所定の責任を免れる ことはできないものと解するのが相当である。﹂と、何れもその適用を否定した。  商法一二条、一四条は、登記申請人たる会社についての規定であり、商法一四条については、例外としてその登記申講に 積極的に加功した者にも類推適用される︵最高裁昭和四七年六月一五日判決・鍛高裁民集二六巻五号九八四頁参照︶と解す べきであるから、退任取締役、監査役については、辞任による退任登記をしないことに明示的に承諾を与えた場合にのみ ︵黙示の承諾は含まない。V、当該退任取締役または監査役に適用されるとする右最高裁判決が妥当である。  口 取締役、監査役の任期満了による退任登記講求権  取締役、監査役の任期が満了すれば、当然後任者が選任され、その就任登記と同時に前任者の退任登記がなされ、 前任者が再選されればその重任登記がなされる。したがって、取締役、監査役の任期満了による退任登記請求権が問 題となるとすれば、任期の満了により退任したにも拘わらず後任者選任の手続が行われず、登記がそのままになって いる場合であろう。任期満了による退任は、辞任のように委任契約の解除ではないが、期臼の到来により委任契約は 終了するのであるから、辞任の場合と同様に民法五四五条を類推し、退任取締役、監査役は原状回復請求権を有し、 会社は退任取締役、監査役に対し、就任を前提としてなした就任登記を、就任前の登記のない状態に戻すすなわち退 任登記をなす義務があると解せられる。 東 洋 法 学 二三

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    会社に対する商業登記請求権      二四  この場合、後任者が選任されておらず、取締役、監査役の権利義務を有する者として、退任登記申請が登記所に受 理されないとしても、このことについては、8の辞任の場合について述べたと同様に考えればよい。  次に、任期が満了して退任したにも拘わらず重任登記がなされている場合がある。これには、再選されたが就任を 承諾していない場合と、総会決議のなされていない場合とがあるであろう。後者の場合は、決議不存在確認請求の訴 を提起し、その判決が確定すれば裁判所の嘱託によって登記が抹消される。また、前者の場合も後者の場合も、就任 を承諾していないのであるから、次の日の場合と同一の理由により重任登記の抹消を求める訴を提起してもよい。し かし、これらによっては、重任登記が抹消されるのみであるから、これと併せて、前述の任期満了による退任登記手 続の請求をもしなければならない。  国 取締役、監査役の就任登記抹消講求権  取締役や監査役がその就任を承諾していないにも拘わらず、その就任登記がなされている場合に、会社にその抹消 登記を求めることができるか、その請求権の根拠は何かについては、後述の合資会社に関する東京地裁昭和三五年一 一月四日判決︵一八頁︶を引用して人格権ないし氏名権の侵害に対する救済として抹消請求が許されるとするものも あるが、氏名権あるいは人格権から直ちにそのような請求権が発生するか明らかでない。  取締役、監査役と会社との間の関係は委任に関する規定に従うのであるから、被選者がその就任を承諾しなければ 就任の効力は生じない︵録鮎四︶。就任の効力が生じていないにも拘わらず、就任の登記がなされていれば、これは無

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効の登記といわねばならない。  されば、取締役、代表取締役、監査役の就任登記の申請書には、その就任を承諾したことを証する書面が添付書類 として要求されているのであって︵鏑澄杁黎躁廊︶、就任を承諾していないのに就任登記がなされているということは、 ﹁就任承諾書﹂が偽造されたかあるいは総会議事録に﹁被選者はその就任を承諾した。繍と虚偽の記載がなされてい るのかの何れかであろう。  このように、取締役、監査役の就任登記は、会社と取締役あるいは監査役との間に委任契約が成立したことを前提 としてなされるのであるから、その前提要件たる委任契約が不成立あるいは不存在であるにも拘わらず、その就任登 記がなされているときは、委任契約の当事者たる会社および取締役、監査役は、事実に反する登記を是正するため、 その登記の抹消を求める権利があるというべきである。  しかしながら、現行商業登記法においては、登記された事項に無効の原因があるときには、当事者すなわち会社は その登記の抹消を申請することができるとし︵縞澄興二〇駄︶、取締役、監査役からの申請は認められない。したがって、 取締役、監査役は会社に対して、委任契約の不成立あるいは不存在を理由に、無効原因のある就任登記の抹消の申請        パき をするよう求めるほかないのである。  東京地裁昭和三七年二月六日判決︵評服タ筆雛︶は、原告が被告会社の取締役に就任することを承諾したことがない にも拘わらず、被告会社の登記簿には、原告が取締役に就任、退任を数回繰返した旨の登記がなされているので、そ の登記の全部抹消を求めた事件について、その最後の取締役就任登記の抹消請求を認め、﹁右就任登記の抹消を求め     東洋法学       二五

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    会社に対する商業登記請求権       二六 る部分も、真実に合致しない自己に関する登記の抹消を求める趣旨においてこれを正当として認容すべきである。﹂ としたが、それ以外の登記抹消請求に対しては、﹁登記簿上過去において取締役に就任、退任した者が、真実は取締 役に就任、退任した事実がないとしても、右の登記簿の記載にょり現在もなお、取締役であるか、その権利義務を有 することを疑われる関係にないかぎり、その者は右登記の抹消を請求すべき法律上の利益はないものと解すべきであ る。けだし、その登記によりその者の権利関係につき、何らの影響をも及ぼさないからである。﹂として、これを認 めなかった。 ︵i︶商業登記法二〇条ないしコニ条には職権抹消の規定があるので、取締役、監査役は、   て、職権の発動を促がしてもよさそうであるが、登記官は形式的審査権しか有しないので、  書面により無効の原因が確認できる場合でなければ、職権抹消は期待できない。もっとも、  ば、これを提出して職権発動を促すことができるであろう。 登記官に無効の原因事実を示し 登記簿および申請書とその添付 公文書によりそれが証明できれ 四 取締役、監査役の退任登記抹消請求権  取締役、監査役が辞任もしていないのに辞任による退任登記がなされた場合に、当該取締役、監査役は会社に対し、 その登記の抹消を申請するよう求める権利があるか。この場合は、前記圓において述べたと同様の理由で、登記され た事項に無効の原因があり、当然抹消登記請求権が認められる。

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 これに関し、元監査役から会社に対し、既に閉鎖された登記簿の監査役退任登記の抹消を求めた事件についての東 京地裁昭和六三年七月七日判決︵幽醐縛翌建八︶がある。裁判所は、﹁商業登記簿の役員欄は、現在の役員構成を公示す るとともに、過去の役員の就任、退任、辞任等の経過をも公示する機能を有していることに鑑みると、これにつき誤 った登記がなされそのために第三者が直接に利益を害せられる場合に限って、第三者は右登記を是正するため、会社 に対し商業登記法による抹消登記手続を求めることができると解すべきである。﹂旨判示し、登記請求権のあること は認めたが、辞任の日が登記簿の記載と異なるに過ぎない事実を認定し、﹁してみると、本件登記甲及び乙は、原告 の被告両社の監査役辞任の日が実体関係と異なるに過ぎないが、かかる場合は、商業登記法によると被告両社は同法 一〇七条の登記の更正を求めうるに過ぎないものであるから、原告が、被告両社に対し、右辞任登記の抹消登記手続 を求めうる理由はない。したがって、原告の右請求は理由がない。﹂として、請求自体は認めなかった。その結論は 妥当である。  働 取締役、監査役の就任登記講求権  株主総会において取締役、監査役が選任され、当該取締役、監査役が就任を承諾したにも拘わらず、その就任登記 がなされない場合に、取締役、監査役から会社に対しその就任登記をするよう求める権利があるか。  商法一二条が、登記申請人たる会社についての対抗要件であるとすれば、就任登記の解怠により取締役、監査役個 人に法律上の不利益はない。しかし、取締役、監査役には、登記簿により取締役、監査役に就任の事実を証明し得る

    東洋法学      

二七

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    会社に対する商業登記講求権       二八 等の利益もあり、会社は、取締役、監査役が就任したときは法律上その登記をしなければならないのであるから、取 締役、監査役は、委任契約の成立を根拠に、会社に対し就任登記の申請を求め得るものと解せられる。  もっとも、取締役は取締役会の構成員として代表取締役の職務執行の監督権があり︵籍、蘇○︶、監査役も代表取締役 の職務執行の監査権があるので︵嫡一蘇四︶、代表取締役に登記申請をなすよう請求すればよい。代表取締役がこれに応 じない場合には、取締役会を開いて解任し、後任者により登記申請をすればよいが、これが不可能な場合は訴を提起 するほかない。  ㈹ 株主の会社に対する登記講求権  株主総会において定款変更の決議が成立し、登記事項に変更が生じたにも拘わらず、会社がその登記手続をしない 場合に、株主は会社に対し、その登記手続を求める権利を有するかという問題がある。  株主は会社の構成員として、総会決議が成立したならば、それが法に従って執行されることを監視する権利がある のは当然である。しかしながら、具体的な事項については、特に法に定める場合以外は、直接の権利行使は認められ ない。  本件のような場合に、特に株主の権利を認める法の規定はなく、執行機関として代表取締役が選任されているので あるから、それが不適任であれば解任し、適任者を選任して間接的に打開を計るほかない。

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四 有限会社に対する登記講求権  有限会社に対する登記請求権については、株式会社に対する登記請求権と全く同一に解せられる。  有限会社に対する登記請求事件として、福井地裁昭和六〇年三月二七臼判決︵鐙融ん鏑醇瑚鰍︶がある。﹁右の認定事実 によれば被告会社には原告の取締役辞任の登記がなされたとしても定款に定められた員数の取締役が存在しているこ とが明白である。そうすると被告会社は原告のために有限会社法一三条三項商法一五条商業登記法一四条の規定にの っとり、右の辞任登記手続をなす義務を負っているものと誤めるのが相当である3として、請求を認めているが、 本件は、被告会社の代表取締役が所在不明で公示送達により審理されたものである。 五 合名会社、合資会社に対する登記講求権  合名会社、合資会社においては、株式会社、有限会社と異なり、社員の住所、氏名、社員の出資の目的およびその 価格または評価の標準が登記事項となっており、更に、合資会社では、各社員の責任の有限、無限の別、有限責任社 員については、出資の目的、その価格および履行部分が登記される︵繭防姻縫顛︶。そして、社員は会社の債権者に対 して直接責任を負い︵繭凱切幾訊亙縢剣︶、退社した社員の責任については、退社の登記の日を基準として責任の有無が 決せられ︵鏑勧︶、最終的に社員の責任が消滅する基準日が解散登記の日である︵鏑無照︶など、社員にとって商業登記は 重大な利害関係を有することになる。

    東洋法学       二九

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    会社に対する商業登記請求権       三〇  そのため、会社がなすべき登記を怠ったり、誤った登記をした場合には、社員は会社に対し登記の申請あるいはそ の是正を求めざるを得ない。社員のこのような会社に対する登記請求権は、社員権の内容の一つとみてよい。なんと ならば、合名会社、合資会社の社員は、前述のとおり会社の債権者に対し社員個人として直接責任を負い、その責任 が登記と密接な関係にある制度であるにも拘わらず、社員には登記の申請権はなく、会社の申請によってのみ登記が なされるからである。  次に、判例に現れた登記請求権行使の実態を概観してみることにする。 qD  東京地裁昭和三五年一一月四日判決︵イ服塗昏蜷を︶は、合資会社の社員となったこともないのに、有限責任社員と して登記されているとして、社員でないことの確認とその登記の抹消登記手続を求めた事件について、﹁登記抹消請 求は、人格権ないし氏名権の侵害に対する救済として、当然なし得るものと解すべきである﹂として、これを認めて いる。これに対する控訴審たる東京高裁昭和三六年四月一二日判決︵断服牒炬一藷︶は、﹁商業登記に関する法規には不動 産登記法におけるが如く登記権利若は登記義務なる文字はないが、この故を以てかような権利義務が存在しないと断 ずることができるであろうか。元来合資会社は各社員が出資をなして共同の事業を営むことを本来の目的とするもの であるから、社員登記は会社の自由であり、会社が社員に対し社員登記をなすべき義務を負担しないとするときは、 会社において社員登記をしない以上は社員は永久に社員たる資格に基づく権利を第三者に対抗し得ないこととなり、 その利益を害せらるべきこと多大であるといわざるをえない。しかしてこれを甘受しなければならない根拠はないの で、商法第一四九条、第六四条第一項第一号において会社は社員の氏名住所及びその責任の有限または無限なること

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を登記することを要すとし、同法第六七条︵第一四七条にて合資会社の準用︶においてその変更ありたるときは亦そ の登記をなすことを要すと規定したのは、一面において会社の登記に関する公法上の義務を定めたものであるが、他 の一面においてはまた会社の社員に対する私法上の義務すなわち社員をして完全に会社の社員たることを得せしむる 義務したがってその結果として社員に対し社員登記をなすべき義務をも認めたものと解するのが相当である。︵献確琳 群鯛瞭馳坐蚕㌔蹴蟹鮪嘉田糊鰍劉綱︶してみると、本件の如く事実に抵触する登記の存する場合には、非社員は会社に対し 該登記の抹消を請求し得ること理の当然であるから、被控訴人の本件登記抹消請求も正当として認容すべきである。﹂ として、控訴を棄却した。  この両判決に対する鴻教授の評釈が、ジュリストニ八七号九六頁に掲載されているが、同教授は、二審判決の理由 は登記抹消請求の理由づけにならないとし、諸外国の例を引用して一審判決の氏名権に賛成される。しかし、わが国 の現行法の下では、商法九二条の場合のように規定のある場合は格別、一般的に氏名権あるいは人格権から登記抹消 請求権が認められるとするのはいかがかと思われる。  では社員権を根拠とすることができるかというに、本件では原告は社員ではないというのであるから、社員権は根 拠とはならない。結局、株式会社の取締役、監査役就任登記抹消請求権のところで述べたと同様に、本件は無効の登 記であるが、無効登記の抹消申請が会社からしかできないので、無効の登記により社員とされた者は、直接登記所に 抹消登記の申請ができず、会社に対し登記の抹消を申請するよう求めるほかないのである。 働 東京地裁昭和四〇年九月二一日判決︵獅嘱墜翫難九︶は、有限責任社員たる原告が持分を被告に譲渡して退社し、被

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    会社に対する商業登記講求権      三二 告が入社した旨の登記がなされているが、そのような事実はないとして、会社に対しその抹消登記手続を求めた事件 について、﹁商法の定めている会社に関する登記は公益的目的のために法律が定めたもので、したがって会社に関す る登記をする義務は、本来的には、会社の国に対する公法的な義務であり、その点で不動産の得喪変更に伴って生ず る登記義務とはその性質を異にするものといわなければならない。しかしながら、合資会社の有限責任社員は、登記 にょって善意の第三者に社員たる資格を対抗することができるに至るのであり、その意味で登記によって法律的な利 益を受けるものであるから、当事者は、通例は自己が社員であることの登記の履践を希望するものといえよう。した がって、原告がそれを希望しない等反対の特別事情の主張立証のない本件では、原告が出資をして被告会社の有限責 任社員となるに際し、原告と被告会社︵設立中の会社︶との間に、被告会社は、原告に対し、原告が被告会社の社員 である限り、そのことを登記し、原告をして社員たる資格を第三者に対抗することを得させる処置を講ずる義務︵し たがって、何らかの理由によって原告が社員である旨の登記を抹消した場合には、これを回復する義務を含む。︶を 負う旨の暗黙の合意があったものと認めるのが相当である。﹂として、これを認めた。  この判決は、登記が社員の第三者に対する対抗要件であるという前提に立っているが、登記申請権者たる会社のみ の対抗要件であるという説を採った場合の説明に困る。登記請求権が社員権に含まれると考えれば、対抗要件は問題 とならない。 ㈲ 大阪高裁昭和四〇年一月二八日判決︵ザ服藻監爺︶は、合名会社における社員の入社、退社、持分変更の登記がな されているが、それが事実に反するとして、変更登記等を求めた控訴審判決であるが、まず他の社員に関する部分に

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ついて、﹁一般に合名会社の登記事項が客観的に事実に吻合しないときは、会社は商法第六七条により変更登記をな すべき公法上の義務を負うと共に、他面当該不実登記の対象となった者︵仮に登記該当者と称する︶に対しても、私法 上変更登記義務を負う︵従って登記該当者は会社に対し登記の変更を訴求しうる︶ものと解する余地はあるけれども、 登記該当者に非ざる他の社員から会社のみを相手方として、かかる登記の変更を訴求しうるということはたやすく是 認することができない。﹂として、登記請求権を認めず、自己に関する部分については、﹁合名会社の社員となったこ とは登記がなければ第三者に対抗しえないのであるから、会社は入社した者に対しその対抗要件を具備せしめて完全 な社員たるの地位を取得せしむべき義務、即ち入社による変更登記手続をなすべき義務を負担するものであり、商法 第六七条の規定は、一面において会社の登記に関する公法上の義務を定めると共に他面においては当該社員に対する 私法上の義務をも認めたものと解すべく、従って控訴会社は被控訴人貴代子に対し、同人が前記持分譲受による入社 をなした旨の変更登記をなすべき義務がある。﹂として、請求を認めた。  この判決も前記東京地裁判決と同様、登記の第三者対抗要件を根拠としている。 ㈲ 東京地裁昭和三四年一〇月二日判決︵餌毅諜か船肇鍬︶は、存立時期の満了によって解散した合資会社と登記簿上の代 表社員を被告とする事件について、﹁原告が被告会社の清算人であること、ならびに被告小林せんは被告会社の無限 責任社員および清算人でないことの確認﹂と﹁原告の退任登記、被告小林せんの代表社員就任登記、被告小林せんの 責任変更登記の抹消﹂を被告会社に求めた事件であるが、前段の確認請求を認め、後段の抹消登記請求を棄却した。 その理由は、﹁右変更登記は、前記認定事実に反するものであるから、この登記は事実に反するものとして許すべか

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    会社に対する商業登記講求権       三四 らざるものであって、抹消されなければならない。そうして、原告は前記認定のとおり被告会社の清算人であるから、 非訟事件手続法第一四八条の二の規定によって前記変更登記の抹消を申請することができる。従って、原告は裁判所 に対し抹消糞記手続の請求をするまでもなく、自ら前記変更登記の抹消を申請すればよいのであるから、原告の本訴 抹消登記手続の請求はその利益がない。従って、原告の抹消登記手続の請求は失当であるから、棄却を免れない。﹂ というのであり、妥当な結論である。 ㈲長野地裁飯田支部昭和三三年八月三〇日判決︵都畷篠畷騰凱︶は、合名会社の清算結了登記につき、その申請書の添 付書面たる清算人が計算の承認を得たことを証する書面に毅疵があるとして、社員から会社に対しその抹消登記手続 を求めた事件について、その事実を認定したうえ、﹁非訟事件手続法により清算結了登記申請には清算人が計算の承 認を得たことを証する書面を必要とするところ、本件の場合、その承認は形式上も内容上も甚だしい毅疵があって、 法の要求するところを満していないというべきであり、従って、結了登記申講は要件を備えず、登記を許すべきでは なかったのであるから、その抹消を求める原告の請求は理由がある。﹂としている。    六 商号の変更、抹消登記講求権  次に、会社の商号に関して、その変更または抹消の登記を求める権利について検討する。 8 合名会社、合資会社の退社員の商号変更講求権

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 商法九二条は、合名会社、合資会社の商号中に社員の氏または氏名が用いられていた場合に、その社員が退社した ときは、退社員はその氏または氏名の使用をやめるよう請求することができる旨規定する。これは、退社員の氏また は氏名が、退社後も会社の商号中に用いられることにより、退社員に商法八三条による自称社員の責任が生ずるおそ れがあるからである。  本条に基づく請求事件の判例は見当らないが、次に述べる類似商号使用に対する差止請求事件と同様に考えればよ い。したがって、その商号の使用禁止、商号の変更請求のほか、更に商号の抹消登記をも請求できると解せられる。 商号の変更を命ずる判決が確定したときは、間接強制︵城徽条︶によるほかないが、抹消登記を求めた場合は、判決確 定により強制履行︵眠鍋条︶ができる。  口 類似商号の変更登記、または抹消登記講求権  同一または類似の商号を登記した会社に対し、商法一九条、二〇条、二一条あるいは不正競争防止法一条一項一号、 二号を根拠として、商号の変更登記手続あるいは抹消登記手続を求めることができるかという問題である。  まず、商法一九条に違反して登記がなされた場合に、先に登記した者は後に登記した者に対してその抹消登記請求 権を有するかについて、本条は公法上の義務であるという理由で消極に解する説もあるが、本条は﹁類似商号なり や﹂、﹁同一営業なりや﹂の判断を要する部分もあり、私法上の義務をも定めたものと解し、積極に解すべきである。  東京地裁昭和二六年一月一七日判決︵ザ服騰己難︶は、﹁被告は、原告の既登記商号と類似の商号の登記を受けたもの

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    会社に対する商業登記講求権       三六 というべきであるから、被告の商号の登記は、商法第十九条の規定に違反して受理せられた違法の登記であることが 明らかであって、被告に対し、商号専用権に基づき、その商号登記の抹消登記手続を求める原告の講求は、正当とし てこれを認容すべきである。﹂とした。  次に、商法二〇条、二一条あるいは不正競争防止法一条一項による差止請求権については、登記商号の変更登記請 求権または抹消登記請求権が含まれるかであるが、登記商号をそのままにして置いたのでは差止の実効は上らないの で、抹消登記請求権は認めるべきである。変更登記請求権については後述する。  さて、商号登記抹消請求権についてであるが、静岡地裁浜松支部昭和二九年九月一六日判決︵邸嘱礁∬噌畝︶は、日本 楽器製造株式会社から山葉楽器製造株式会社に対する不正競争防止法一条二号に基づく商号登記の抹消登記手続の請 求を次のとおり認めている。﹁以上の理由により、被告は原告に対しその余の点に関する判断をまつまでもなく被告 商号中﹁山葉楽器﹂なる文字を使用することができず、従ってこれが抹消登記手続をなす義務があることは明らかであ るが、原告は被告商号全部の使用禁止を求めるのでこの点につき判断する。被告の商号﹁山葉楽器製造株式会社﹂の中、 右﹁山葉楽器﹂なる文字を削除すれば残るところは﹁製造株式会社﹂の六文字だけとなるところ、商号の本質は、企業の 個別化のための名称であると解されるから、右六文字を以てしては商号の体をなさないものと認められ、かような場 合被告に対しその商号全部の使用禁止及びこれが抹消登記手続を求める原告の請求は許容されるものというべきであ る。﹂  ところが、東京地裁昭和三七年六月三〇日判決︵堺嘱諜か駈鰹ハ︶は、株式会社三愛︵銀座︶から株式会社三愛︵北千

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住︶に対する商号の抹消登記手続請求について、﹁本件において明らかにされた事実関係のもとにおいては、不正競 争防止法第一条の規定による原告の請求は理由があるものということができることは、すでに前段において説示した ところにより明らかであるが、このことから直ちに、被告は﹁株式会社三愛﹂なる商号の抹消登記手続をすべき義務が あるものということはできない。けだし、株式会社の商号は、いうまでもなくその会社を特定し、かつ、これを他の 会社と識別するための表示として欠くことができないものであり、商法は、株式会社の商号を定款の必要的記載事項 とし、かつ、会社の設立の登記における必要的登記事項としているところであるから、株式会社である被告について、 登記上、全くその商号をなくしてしまうことは、法律上、許されないものと解するを相当とするからである。しかし ながら、他面、被告が﹁株式会社三愛﹂なる商号を使用することが法律上許されないものであること前叙のとおりであ る以上、その使用禁止の実効あらしめるために、被告は、その商号を右使用を禁止された商号以外の商号に変更する 登記手続をすべき義務あるものと解するのが相当である。﹂また、﹁商法第二十条第一項及び第二十一条に基づき、商 号の抹消登記手続を求める原告の請求は、たとえ、右各法条に定める要件を具備するとしても、商号抹消登記手続を 求めることが許されないものであることは、前判示のとおりであるから、理由がないものといわざるをえない。﹂と してこれを認めず、予備的請求である﹁株式会社三愛の商号を他の商号に変更登記手続をせよ﹂という商号変更登        ハこ 記請求権を認めた。  また、神戸地裁昭和四二年七月一七日判決︵欄胴塒瀬醜九︶も、商号登記の抹消を求めたにも拘わらず、﹁そうすると、 原告の本訴請求︵択一的請求関係︶は、他の請求につき判断するまでもなく、商法第二一条に基づく請求として、被告     東 洋 法 学      三七

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    会社に対する商業登記請求権      三八 に対し商号使用の差止めを求めることはすでに理由があるというべきである。ところで、被告が前叙の次第で﹁摂津 冷蔵株式会社﹂なる商号を使用することが法律上許されないのであるが、このことから被告が右商号の抹消登記手続 をすべき義務が生ずるわけではなく、商法の建前上、株式会社である被告につき登記上その商号をなくしてしまうこ とは許されないものといわなければならないから、結局、被告はその商号を右使用を禁止された商号以外の商号に変 更する登記手続をすべき義務があるものと解するのが相当である。﹂として、抹消登記請求は認めず、変更登記を命 じた。  しかしながら、会社の商号登記が抹消されたからといって会社が消滅するわけではなく、会社は新たな商号を定め て登記すればよいのであって、登記実務上も、商業登記法二四条一五号は﹁商号の登記を抹消されている会社が商号 の登記をしないで他の登記を申請したときしは申請を却下するものとし、商業登記等事務取扱手続準則七五条には ﹁会社が商号の登記を抹消された場合において、登記に関してその会社を表示するには、抹消された商号に﹁抹消前 商号﹂の字を冠するものとする。﹂と定めてある。また、差止請求権の範囲としては、使用が差止められた商号の登記 を抹消するまでであって、更に、新たな商号の登記まで求める権利はないものと解せられる。  次の判例は何れも、商号変更による新たな商号が使用差止の対称となり、その商号変更の登記の抹消を命じたもの である。  最高裁昭和三六年九月二九臼判決︵畷驕識眠聾館巻︶の東京瓦斯事件において、一審の東京地裁は不正競争防止法一条 二号により差止請求権を認め、﹁右には本件に於て原告が請求する右商号の使用の禁止及其登記の抹消は当然包含す

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るべきものである﹂とし、二審の東京高裁は商法一二条による差止請求権を認め、﹁なおその使用禁止の目的を達す るために控訴会社のした右商号の登記の抹消登記を求めることもできるとすることが相当である。﹂としている。  東京地裁昭和三六年二月一五日判決︵嘩服諜孕藷聾︶は、株式会社明治屋から株式会社池袋明治屋に対する事件で、 ﹁不正競争防止法により商号の使用の差止を求めうる者は、右商号が登記されたときは、右差止を実効あらしめんが ため、右登記の抹消をも求めうると解すべきであるから、前記請求のうち、被告がした現商号へ変更する前記登記の 抹消を求める部分は、理由ありとして認容すべきである。﹂と判示している。  大阪地裁昭和三七年九月一七日判決︵邪嘱縢た硫難九︶は、松下電工株式会社からナショナルパネライト商事株式会社に 対する事件で、不正競争防止法一条一、二号に該当するとし、﹁右の商号使用差止を実効あらしめるためには、右文 言に﹁株式会社﹂と付記されたにすぎない︵籟離川七︶被告会社の現商号への変更登記の抹消を求める原告会社の本訴請求 も、正当として認容すべきである。﹂とした。  京都地裁昭和四〇年一二月二二日判決︵堺嘱縢吐鵡二︶は、株式会社ナガサキヤから株式会社長崎本舗に対し不正競争 防止法一条二号により商号使用差止を求めた事件で、原告は、商号変更登記の抹消のほか﹁被告は、﹁株式会社長崎 本舗﹂の商号を変更しなければならない。﹂旨の判決を求めたが、﹁その使用禁止の目的を達成するために被告会社の した前掲商号変更登記の抹消登記手続をも求めることができるものと解するのが相当であり、以上の結果本件におい ては被告会社は必然的にもとの商号﹁株式会社ビクター﹂に復帰することになるが、積極的に﹁株式会社長崎本舗﹂の商 号を変更すべきことまでを求めうる請求権の根拠はみいだしえないものというべきである3旨判示し、商号変更の

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    会社に対する商業登記請求権       四〇 請求を棄却した。この点は、前述の私見︵二六頁︶と同じであり、賛成である。  さて、これらの判決は、何れも商号変更登記の抹消を命じ、変更前の商号に戻すことを考えているが、そのような ことが許されるであろうか。会社の商号変更の登記は、会社の定款変更の結果なされるのであって、その定款変更の 手続に毅疵がない限り、商号変更登記の抹消はできない筈である。商号使用差止の目的を達成するため、その登記齎 号分抹清は認められても、膏号変更登記分抹清を求める権利はないと解する。登記商号の抹消を命ぜられた会社は、 定款を変更して元の商号に戻すか新たな商号に変更するかの自由がある筈である。 ︵1︶ この判決は、控訴審たる東京高裁昭和三九年五月二七日判決︵下民集一五巻五号一二〇七頁︶、   二年四月一一日判決︵最高裁民集一二巻三号五九八頁︶でも認められた。 上告審たる最高裁昭和四 七 廃止商号の抹消登記講求権  商法三一条は会社の商号にも適用されるので、会社の定款変更により商号が変ったにも拘わらず、商号変更の登記 がなされない場合あるいは、会社が正当の事由なく二年間その商号を使用しないすなわち営業活動をしない場合︵鏑一、一 条︶に、利害関係人はその商号の抹消を登記所に請求することができる。その利害関係人とは、この商号が存在する がために、類似商号として登記申請が受理されない者である。

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 本条を根拠に、利害関係人は会社に対し商号抹消の登記請求権を有すると解することができるか。登記官には形式 的審査権しかないので、会社から形式的に理由のある異議が述べられたときは、申請は却下され︵縞鐙旺匠喚シ条○︶、 目的を達することができないので、これを積極に解すべきである。すなわち、利害関係人は訴を提起し、商号の廃止 あるいは変更の事実を主張、立証して、商号の抹消登記手続を求めることができると解せられる。 東 洋法 学 四一

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