経済と経営 49‒1・2(2019.3)
〈論 文〉
企業経営者の戦略意思決定の傾向と形成過程の分析
-意思決定の判断基準要素としての経験の考察-
佐 藤 浩 史
Ⅰ はじめに
本稿は,わが国の企業経営者が経営の戦略意思決定における判断基準とそのメカニズムを探求す るため,これに先立つ職務の経験から意思決定過程の形成プロセスに影響する要因を分析する。 企業経営者がグローバルな市場に対応しなければならないと言われるようになってから久しい。 近年の経団連の会長コメントを複数年参照すると企業経営者は,グローバルな対応を求められてい る。また,経団連による人事・労務に関する企業経営者への意識調査では,働き方など労使に関す る報告が行われており,現在の企業経営者がどのような意識で企業経営に取り組んでいるか理解す ることができる。1この調査は,長期的に継続されており 2009 年調査と比較して労使間で議論さ れる上位項目に大きな変化はない。経済同友会の調査からも経営者の意識の変革が提言されており, 過去調査と比較すると取り組まなければならないとされる上位項目において大きな変化はない。2 これらの調査結果を踏まえて現在の企業経営者に二つの経営行為があることを類推することがで きる。わが国の企業経営者が新たな制度や基準の変更,革新的な技術などの変化に対してスピード やビジネスモデル等が十分に対応できていないというものと,日本的経営論に述べられるようなわ が国企業経営の特徴が経営者や企業の意思決定過程に深く浸透し変化していないからグローバルな 環境に対応することが都度求められるものであろうとする視点である。本稿では,後者のわが国企 業経営者の意思決定過程に浸透する特徴的なメカニズムが影響しているから変わらないのではない かという仮説をたて検討をしていく。 日本企業の経営の特徴とは,三種の神器と呼ばれる終身的雇用,企業別組合,年功賃金であり企 業内部を重視した経営の特徴とされる。3それを長期的に実践してきたわが国企業の経営者の経営 の意思決定は,どのようなものか,なぜそうなるのかという要因やメカニズムについての研究は多 くない。そこで現在における企業経営者が経営に関する戦略意思決定をおこなうにあたり,それに 先立つ判断基準はどのようなものであるか,これを理解することが重要であろうと考える。 企業経営者が現在のポジションで戦略意思決定をおこなう場面では,行動に先立つ判断が根拠な 1 一般社団法人日本経済団体連合会「2017 年人事。労務に関するトップ・マネジメント調査」2018 年 2 公益財団法人経済同友会「生産性革新に向けた日本型雇用慣行の改革へのチャレンジ-未来志向の「足るを知る」 サスティナブルな成長社会の実現-」2017 年 3 工業経営研究学会(2017) ,p.54 大平しに行われることはない。事実を認識し限られた情報から行動の結果を予測し意思決定をおこなう。 (H・A・Simon, 2009)企業活動の経験から情報を得る場合では,選択した意思決定の結果を評価 し次の意思決定の判断基準に組み込んでいると考えられている。 企業経営者の経験に対しての期待は,就任時に出身部門や実績,経歴などが新聞等メディアで取 り扱われることをみても出身部門に関しては表出の頻度が高い。この出身部門での経験に関心が集 まることは,企業経営者の経営の戦略意思決定を判断する場合の要素となっていることが類推され る。4 経営意思決定過程の先行研究では,日本企業経営者の意思決定プロセスを経営者から聞き取り分 析した結果と経験が経営者の意思決定に影響されていることが示されている。5また,わが国の企 業など組織における個人の意思決定モデルが述べられた研究では,わが国組織の中の個人は,意思 決定に先立つ情報を個人の外部である状況に求める行為が結果として見られることを説明してい る。6これらの先行研究からは,企業という経営組織の個人が仕事の経験という外部から得た情報 を自己の判断基準として戦略意思決定過程に取り込んでいるのではないかと考えることができる。 本稿では,この仕事の経験が行動決定の判断基準となっていることを理解するために企業経営者の 談話から調査をおこない,その傾向を抽出し要因の可能性を検討していく。
Ⅱ 本稿で参考にする先行研究
本稿では,企業経営者がなぜそのような経営の戦略意思決定を行うのか,そしてなぜ継続する のかを理解するために意思決定過程における判断基準の要因を探索することが目的である。経営意 思決定については,限定合理的意思決定の理論を展開した H・A・Simon による情報探索からの代 替案の設計,そして代替案の選択という意思決定プロセスを前提として議論をすすめる。H・A・ Simon は,意思決定に先立つ判断として事実前提と価値前提によって情報探索され代替案にあげら れこの基準によって意思決定される。この意思決定過程の判断に伴う基準を改めて確認していくこ とでわが国企業の企業経営者における戦略意思決定の判断基準の要因を理解する手がかりになると 考えられる。 ⅰ)わが国企業経営者の意思決定過程の先行研究 わが国企業の経営意思決定過程の先行研究として,清水(1971,1981)は,日本企業の経営者か ら聞き取り調査を行い意思決定に影響する要因とプロセスを分析した。わが国企業の企業経営者は, 経営にかかわる経験を通じて経営ビジョンや戦略,社内の人に対しての意識が構築されるというプ ロセスがあることを述べている。この経営者における意思決定過程に経験という要素が影響すると いう結果は,経験から経営意思決定過程を探索できることを示している。 4 新聞等メディアでは,社長就任の紹介記事でほとんど出身大学など経歴が記載されている。 5 清水(1981)「最高経営者の意思決定の基本プロセス」『三田商学研究』24(3)では日本企業の経営の意思決定 プロセスが詳細に述べられている。 6 大平(2006)『変革期の組織マネジメント』第 1 章「わが国組織の人間モデルと意思決定における参照行動の検討」 は,我が国組織の中の個人の意思決定パターンについて検討されている。また,清水(1995)では,経営者の経営意思決定パラダイムとして企業内環境と企業外環境への 対応を述べるとともに経営理念を統合して戦略的意思決定を行っていると述べ経営者の意思決定過 程は,二段階からなり,まず企業外環境と企業内条件に経営理念を統合し行われる過程となる。次 の段階では,初めに形成された構想に直感や洞察で問題把握を行った後に経営層のメンバーで意思 決定してく課程があるとしている。(表 1)この研究の結論として状況と場面によって都度変わる ことを次のようにまとめている「企業外環境が高成長の時は,社長中心の意思決定が望ましく,低 成長のうちは役員の意思を中心に意思決定することが望ましい」(清水 1995,p.220)このようにわ が国企業経営者の意思決定は,組織内部重視が前提となっていることを示している。 表 1 経営者の意思決定過程 企業外環境 企業内条件 市場環境,資源環境,金融環境 国内外の技術革新 政策 教育,社会的価値観 国際的政治,社会・経済動向 最高意思決定機関の構成と運営役員と の関係 製品品質,製品構成,生産設備 技術水準,研究開発,販売チャンネル 組織構造,従業員資質 財務構造,資金調達 関係会社,労組,地域社会 出所)清水(1995)p.13 より筆者作成 ⅱ)わが国経営組織における個人の意思決定モデルの先行研究 大平(2006)では,わが国の経営組織における個人の意思決定モデルとして意思決定に先立つ価 値を外部に求める個人が検討されている。わが国組織に都度みられる横並びや察しの事例によれば 組織における個人の意思決定に先立つ価値基準が個人の外部の情報にあり,これを基準として参照 し意思決定するというメカニズムを提示した。また,組織における個人の意思決定の行為が継続す ることも示されている。組織のひとつの形態である企業の中の個人に置き換えることで,企業の意 思決定に先立つ判断基準の探索のモデルとして参考にすることができる。また,大平(2017)では, 企業を取り巻く環境が市場志向にシフトしているにもかかわらず組織(内部)重視であり組織全体 を重視する意思決定パターンについて,組織の中の個人が外部価値を参照して意思決定するメカニ ズムを持つパターン(日本型)と個人の内部価値と参照して意思決定するメカニズムを持つ個人(米 国型)の存在をわが国企業の行為事例に基づき検証した。これによりわが国組織の中の個人の意思 決定は,社会的に条件付けられて行為する個人の存在が確認された。この研究は,組織の中の個人 の意思決定メカニズムが継続的に組織重視になることを示し,組織としての企業と企業の中の個人 としての経営者を対象に分析する場合の参考になろう。 ⅲ)わが国企業経営者の意思決定傾向の長期的研究 佐藤(2010)では , わが国企業経営者における長期間の意思決定傾向を調査した。ここでは,雑 誌記事の談話をもとに定性的に分析した結果,従業員を重視した経営をおこなうという企業内部重 視の経営意思決定と市場を重視するという企業外部の意思決定傾向が表出され,1982 年から 2009 年までの 27 年間平均で 74.5%の割合で組織重視の意思決定を行っていた。この分析の副次的な結
果では,意思決定するにあたり,ミドルマネージャー時代の経験が企業経営者になってからの判断 基準になっていると述べた割合が各年約 20%程度みられた。長期的に経験にかかわる談話が一定 数存在することで経営者の経験を改めて検証することの必要性が示された。
Ⅲ 調査と分析
ⅰ)本稿での日本企業経営者の発言記録の収集は,日本企業の経営者の発言が長期に掲載されてい る日経新聞のインタビュー記事を利用する。日経新聞コラム『私の課長時代』は 2008 年から現在 まで長期に掲載されている。この記事は,課長時代の経験が自由発話として掲載されておりこれを とりあげるのは,①上述のように定性的分析法に利用可能であること②長期に継続されている記事 であり,新聞という社会一般的に公開された情報で偏向していない。このように考えることから分 析に利用した。先行研究の大平(2017)にあるようにわが国の組織の中の個人の意思決定モデルが 長期に組織重視となっていることをふまえ長期的な情報分析を行うには,長期に収載され一般化さ れている記事を利用することが利便的とし利用した。 ⅱ)分析の方法 分析方法は,定性的分析法(質的データ分析)を利用する。定性的分析法は,雑誌の記事などの 文字テキストを読み込み,そのプロセスを通して一定のパターンや文脈の意味の構造を解釈し,様々 な要因の間にどのような関係があるのか判定していくことができるというものである。 この分析方法は,佐藤郁也(2009)で詳しく述べられており,統計的分析手法を補い,質的調査 分析での客観性を確保していくうえで本稿での分析でも利用可能である。 分析の手順として①経営者の発言記録である記事を読み込んで,キーセンテンスを抽出する② キーセンテンスからキートピックを選定し,仕事の経験から経営にかかわるキーワードを抽出する, ③区分されたデータをパターンや傾向にまとめる。以上のプロセスで分析した。 企業経営者の意思決定に結びつく仕事観を分類するための分類規準は,清水(1995)と経営戦略 論と経営組織論にみられる企業内部と企業外部に志向しているキーワードを参考にした。7主観を なるべく排除していくために,これをテキスト・マイニングソフトウェア K・H・Coda で頻出語 検索し上位のキーワードに対して,元のセンテンスへ戻り頻出語の前後にから発話された言葉の使 われ方を確認し分析した。 7 清水龍榮(1981)の経営者の意思決定にかかわる環境的要素では,企業環境の内部重視と外部環境が存在するこ とが述べられており,これを分類の参考にした。Ⅳ 分析結果
ⅰ)分析対象の背景 2008 年~ 2016 年までのわが国企業経営者 149 人の発言記録から経営意思決定の要因を知るため に仕事観を抽出した。経営者の業種は,製造業 60%,サービス業 10%,小売業 8%,金融 6%,運 輸 5%,卸売り・建設業 4%,その他 3%であった。 ⅱ)わが国企業経営者の戦略意思決定の傾向 上記で収取したテキストデータを企業内部環境重視と企業外部環境重視に分類し傾向を比較し た。 2008 年~ 2016 年の全期間を合計すると企業内部環境重視の経営者は 53%であった。企業外部環 境重視の経営者は 47%であった。抽出期間を時系列でみた場合,企業内部環境重視と企業外部重 視の傾向が都度交差の傾向が示され,どちらかの割合が多いまま偏向し続けるような傾向はなかっ た。(図 1) 図 1 企業内部環境重視と企業外部環境重視の時系列比較 出所)日本経済新聞社「私の課長時代」から筆者分析・作成 ⅲ)検索抽出語からの仕事観 経営者の談話から頻出キーワード検索上位の「経営」と「現場」を示す。8 ①頻出キーワード「経営」をどのように使ってミドル・マネジメント時代の経験を述べていたか 抽出した。企業内部環境を重視し「経営」という言葉を使っていた経営者が 55%,企業外部環境 が重視されていた経営者が 45%であった。内容分析をコード化すると,次の 4 つに分類された。「自 社の事業」,「自分の役割」,「職種の表出」,「外部の経営者」について述べられていた。 ②キーワード「経営」における企業外部環境重視の経営者は,自社の事業と外部の経営者の行動 や意識について述べていた。自社の事業について述べている経営者は,事業の目的を達成するため 8 紙幅の都合上,頻出語すべての分析を列記することができないため上位ふたつのキーワードを示し説明する。市場を常に意識する行動を持ったこと,戦略に対する認識が適切でなく失敗した経験があり,これ を再考しマネジメントにあたった経緯を述べていた。 外部の経営者に対しての行動を意識し述べていた経営者は,他社の経営者から経営哲学を学んだ こと,日常的な業務遂行中の自分の行動が顧客と自分の役割について述べていた。自分自身が個人 として受けた影響や行動方針が述べられていた。 キーワード「経営」で企業内部環境を重視していた経営者は,自分の役割と職種についての話題 を多く表出していた。ここでは,仕事で失敗した場面で仲間や上司によって状況が改善した事例や 自社の発展には社内の部署間の調整が重要であるなど社内のコミュニケーションと人間関係を重視 したマネジメントを行った経験を述べている。職種に関して表出している経営者は,自分が受けた 職種について部門全体や仲間など自分の周囲を含んだ責務を強く意識して行動したこと,社内の他 部門の問題が自身にも影響し解決が必要な場面で , その課題解決には,当該部門の本来の役割やあ るべき行動が重要であるなど自身の考えが述べられていた。(図 2) 図 2 キーワード「経営」 出所)日本経済新聞社「私の課長時代」から筆者分析・作成 ③キーワード「現場」では,企業内部環境について述べていた経営者は,66%,企業外部環境に 向けて言葉を使っていた経営者は 34%であった。この「現場」という言葉の使われ方として,社 会一般で認識される工事現場や売り場 , 現地を意味して使用される場合と顧客とのやり取りなど販 売活動が展開される場,社内の会議や事務所内で従業員が集まる場として認識されるという区別が 存在した。キーワード「現場」を表出した経営者は,企業内部環境重視の経営者が多く,マネジメ ントの職務についても支社や販売部門の従業員が活動する場へ出向き励ます行動をとったこと,上 司や部下と仕事外での関係構築と良好な関係を継続するために調整役を心がけて行動したことが述 べられていた。このキーワードを多く表出した経営者は,現場に対して自分を含む全体の場として 認識して使用していた。キーワード「現場」において企業外部環境重視の経営者は,顧客から評価 を得るために現場としての売り場を工夫したこと,従業員に顧客への対応が需要な職種であること から教育を強化した現場対応について述べられていた。(図 3)
図 3 キーワード「現場」 出所)日本経済新聞社「私の課長時代」から筆者分析・作成
Ⅴ 考察
わが国企業経営者におけるミドル・マネジメント時代の経験の談話記録 9 年間の結果から,全体 として企業内部環境を重視する経営者が多かった。しかしながら企業外部環境を重視する経営者の 割合が近年,徐々に増加する傾向を示した。(図 1) 先行研究の清水(1981)では,わが国企業の経営者における経営意思決定過程で社内の人間関係 が意思決定にかかわることを日本的意思決定過程と呼び,これがわが国企業経営者の意思決定過程 の特徴であると述べた。この社内の関係を重視する経営意思決定は,本稿での分析結果で企業内部 環境重視の経営意思決定を持つ経営者が多いこと,社内の人間関係を重視した経験から意思決定の 礎であることが述べられていた。この清水の研究と本稿の現在における企業経営者の戦略意思決定 の組織重視の傾向が重なる。 企業の内部を意識した意思決定行動については,大平(2006)のわが国組織の中の個人の意思決 定過程が周囲の行為を認識しこれを自らの意思決定要因に組み込んでいるメカニズムを述べた先行 研究に近似する。近年,わが国企業の海外展開が増加する中では9,グローバルな市場環境での対 応や市場内で優位を確保する戦略的経営が求められる。このことを鑑みてわが国経営者の経営意思 決定を類推すれば,わが国経営者の戦略意思決定の傾向は,企業外部環境重視の経営意思決定の割 合が多くみられるはずである。しかしながらわが国企業経営者は,企業内部環境重視の戦略意思決 定傾向を示した。この傾向を具体的に知るためにミドルマネージャー時代の経験談話から「経営」 と「現場」に関するキーワードがどのように使われていたか分析した結果,どちらも企業内部重視 の経営意思決定の意味でミドル・マネジメント時代の経験を述べていた。社内での自分の役割を認 識し,これに添った行動をしていた。 仕事の遂行に伴い課題解決の事例では,上司や同僚など社内の人間関係を調整することが自分の 役割と認識し行動していた。生産性の向上を求められる場面でも社内のコミュニケーションや良好 な関係性を確保した経験が企業経営者になった現在の戦略意思決定に役立っていると述べていた。 9 外務省在留邦人数調査統計「日系企業推移」平成 28 年要約版に示されている。キーワード「現場」においても,販売部門の従業員とかかわることができるという意味の現場,コ ミュニケーションが取れる現場を大事にするという企業内部環境を重視の経営意思決定の割合が多 く見られた。 ミドル・マネジメント時代に社内の上司や同僚,部下との関係とそのコミュニケーションや社内 での自分の役割などを重視した行為があり,この行為の結果が経験として経営者の意思決定に先立 つ要因となり企業内部環境重視の経営意思決定傾向となっていた。 わが国企業の経営者の意思決定の要因は,社内のコミュニケーションや関係性が重視されていた。 わが国企業経営者の意思決定過程に先立つ判断の基準は,自分を含む上司や同僚,仲間など全体と の関係性を巻き込んだ状況で行為できるかというものであった。 ここまでの分析結果を先行研究に述べられていた外部環境と対比して社会的な条件とどのような 傾向をしめすのか確認が必要と判断したため,経営者の意思決定傾向とわが国 GDP を時系列で比 較した。(図 4)2008 年は,低い GDP に対して企業の内部を重視する割合が多いが 2009 年以降で GDP が高い場合に企業の内部を重視する経営者の割合が多い。本稿の先行研究でみた清水(1995) では,好況のときに経営者は企業の内部を志向すると述べた意思決定の傾向に一致した。また,大 平(2017)では,わが国組織の中の個人が周囲の状況を情報として意思決定の判断基準として取り 込んでいるメカニズムを述べているが,本稿図 4 の傾向から社会経済状況という企業外部の環境と いう周囲と経営者自身がおかれた状況としてとらえることも可能であろう。 図 4 わが国経営者の意思決定傾向と GDP 推移 出所)内閣府国民経済計算データ,筆者調査データより作成
Ⅵ 結語
わが国企業経営者における経営意思決定の要因を分析した。ミドル・マネジメント時代の経験に ついて述べている談話記事から多頻出キーワードを抽出し前後の文脈からその使われ方を分析し た。その結果,わが国企業経営者の戦略意志決定の要因は,ミドル・マネジメント時代の経験の影 響を受けており,特に社内の人間とその関係性を重要と考え行為する傾向が多いようである。つま り戦略意思決定の判断基準は,ミドル・マネジメント時代の経験内容によるものと考えることもできよう。また,GDP の時系列推移と企業経営者の戦略意思決定傾向の推移を比較では,GDP が上 昇すると企業内部環境重視の企業経営者が増加の傾向を示すデータが参考として示された。企業経 営者という組織の中の個人の意思決定過程に自分自身がおかれた状況を参照する意思決定モデルの 存在が示された。この傾向がなぜそうなるのか研究を進めたい。 本稿で利用した情報は,企業経営者への聞き取り記事という情報を参考に分析した。社会一般が 認識できる媒体の使用ではあったが二次情報というバイアスを完全には否定できない。今後は,企 業経営者に直接聞き取りを行うなどにより二次情報の不十分さを排除した資料で分析することが必 要であろう。これは,今後の課題として引き続き研究課題としておきたい。