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イヌ下顎骨における合成ヒドロキシアパタイトの塡塞に関する研究 : 第2報 粒状緻密体の9ヵ月までの病理組織学的観察

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原 著 〔東女医大誌 第64巻 第5号頁430∼439平成6年5月〕

イヌ下顎骨における合成ヒドロキシアパタイトの填塞に関する研究

一第2報

粒状緻密体の9ヵ月までの病理組織学的観察一

η東京女子医科大学歯科口腔外科学教室(主任:扇内秀樹教授) 2》日本大学歯学部歯科理工学教室 3)東京女子医科大学第二病院歯科口腔外科   フジイ トシハル   ァベ ヒロユキ  マナカ ノブユキ   藤井 俊治1)2>・阿部 廣幸3!・真中 信之1)   カタウミ  ヒロァキ     オギウチ  ヒデキ   血紅 裕明1) ・扇内 秀樹1) (受付平成6年1月19日)        AStlldy on Synthetic Hydroxyapatite Consolidation of Canine Mandibular Bone Defects:The 2nd Report on Histopathological      Observation of Dense Parti¢les 9 Months Postoperatively       Toslliharu FUJII1}2), Hiroyuki ABE3}, Nobuyuki MANAKA2),        mroaki KATAUMI2)and Hideki OGIUCHI2}      llDepartment of Oral and Maxillofacial Surgery, Tokyo Women’s Medical College        2)Department of Dental Materials, Nihon University School of Dentistry 3)Department of Oral and Maxillofacial Surgery, Tokyo Women’s Medical College Daini Hospital    Following surgical procedures such as tooth extract玉on, defects usually exhib量t osseous healing relatiyely earlier, while regressive changes such as atrophy, osseous deterioration, etc are long term and it is difficult to preserve the law bone in constant morpho董og量cal condition. Conventionally, bone defects have been repaired by transplantation of autoplastic bone, homoplastic bone and heteroplastic bone, but there are problems w童th the supply sources, long・lasting inducting osteogenesis and immunity reaction. Under sμch circumstances, attention is now focused on hydroxyapatite as a more stable biomateria1.    However, most of the studies on t車is material relate to inducting oSteogenesis with pelvic and shin bones,‘and there have been very few studies describing its effects in preventing atrophy of the jaw bone.    The present authors performed mesio−distal channe恥g of extraction.、 wounαs in the canine mandible, and after consolidation with dense particulate hydroxyapatite, the resultant conditions were analyzed with microradiograms and fronl the histopathological viewpoint.    The results of our study suggest that hydroxyapatite is effective in preventing or delaying reduction of bucco・lingual width, hypertrophy or shrinking or, regressive changes such as osseous deterioration, occurr童ng in the 4th熟reek or thereafter the loss of teeth.       緒  言  生体は骨欠損が生じると結合組織と新生骨の再 生により欠損部.分の修復が行われるが萎縮を伴う ことが多く,常に一定の形態で修復されるとは限 らない1)2).通常では骨欠損部の形態の変化およ び,機能低下の防止を目的として骨移植術や人工 生体材料による修復が行われているが,抜歯や嚢 胞摘出などの際に口腔領域に生じる骨欠損を修復 一430一

(2)

する場合には欠損が小さいこと,欠損の形態が複 雑なことなどから人工隼体材料の中の一つである 粒状hydroxyapatite{(Ca1。Po4)6(OH)2}(以下 HAP)が多く使用されている3)∼6).

 しかしHAPについての研究は,大腿骨や脛骨

など比較的大きな骨の直接外力が加わらない部分 に埋入した実験が多く,考察も生体との親和性や 骨の形成速度についての報告が多い2)7)8).口腔外 科領域に骨欠損が生じた場合,創面が完全に閉鎖 される以前から咀囎圧や咬合力によるストレスが HAPに加わり,感染や移開の可能性が高く,この ような部分での骨欠損後の吸収萎縮防止の効果に 対する報告は少ない.  今回著者らはイヌ下顎骨臼歯部を抜歯して,抜 歯後の欠損部を前後的に骨削除し,溝状につなげ た人工的骨欠損を生じさぜ粒状緻密体を密に填塞 し,術後2,4,13,26,39週のcontact microradio−

gram(以下CMR)と病理組織標本を作製しHAP

周囲の骨形成状態,および顎骨の形態についての 観察を行ったので報告する.        材料および方法  1.実験動物  実験には体重10∼20kgの成犬を雌雄を問わず 用いた.  2.材料  三菱マテリアルセラミック研究所にて製造され 表1 化学分析 測 定 項 目 lg・】OSS 0.⑪6 CaO 55.99

MgO

く0.000 成 P205 42.43 Sio2 <0.000 A1203 0,002 Fe203 <0.000 SO3 0,003 分 Na203 〈0.OGO K20 〈0.000 TotaI 98,485 Ca/P 1,667 重 Cd μ9/ml 0.16 金属 Pb μ9/m1 0.10 Zn μ9/ml く0.10 ig・loss:1000℃のHAPが30分間係留したときの質量変化 率. 二 言

8

3000

iii}

6。。藍 300 L了=   ioO SECS P 貸 £ Ca/P昌二.674冊。ユ 0     ・.9・』‘一・91・4u・・h・6・45」 ・ 0.000  ま.000  2LOOO  3。OOO  4.OOO  5,000  8.OOO  フ。OOO  O.000  9.000  Σ0.OOO

  ENERGY

図1 X線回析 keV

(3)

たHAP ceramicで,製法は湿式合成された

amorphousのHAPから焼成温度1,200℃で焼結

成形した粒径0.5∼1.Omm不正球形の粒状緻密 体を試料とした.なお水銀圧入法による空隙率は 36.7%,平均気孔率は6.8%で以下の測定条件で 行った化学分析,X線回折,破壊強度および圧縮 変形曲線を表1,図1,表2,図2に示す.  1)日本電子社製JEM−1200EXにより加速電圧 12KV,視野倍率800倍で粒状切断面の測定を行っ た.その結果CaO 55.99%とP20542.43%で成分 の98.42%を占めておりCa/Pは1.667であった (表1).X線回析はASTM Card No.9−4329)と 表2 圧縮強度 測定項目 Min.∼Max. Ave. SD.

HAP

17.84∼86,83 37.45 18.27 1000N 500

 0

    1.25mm 図2 圧縮変形曲線 n=50 同一でありHAP特有のピークを示していた(図 1).  2)エイ・アンド・デイ社製フォースゲージにて 粒当りの破壊強度を測定し,50個の平均と標準偏 差を算出した(表2).またミネベア社製万能試験

器TCM−5000にφ5×20mmのactuaterを装着

して,φ5×5.5mmの金型にHAPを密に填塞し

圧縮強さを計測した(図2).なおTCM・5000の load cell ratingをま500.00kg, cross head speed は1.00000mm/minの設定条件で計測を行った. その結果平均破壊強度は37,45N/粒で,圧縮変形

曲線は高さ5mmの試料に対し50N/mm2の圧力

で約0.6mmの変形しか来さない力学的に高強度 のHAPであることが証明された.  3.実験方法  実験動物にイソゾール(0.5ml/kg)静脈麻酔と 2丁目ylocaine約4mlの局所麻酔を行い,下顎の 第一後臼歯を抜歯し,カーバイトバーにて前後的 に幅約4mmの溝状欠損の形成を行った。その後 右側にはHAP粒状緻密体を死腔ができないよう コンソリデーターにて可及的に一定の密度になる よう密に填塞し,他側を対照として粘膜の縫合閉 鎖を行った.  HAP填塞後2,4,13,26,39週経過した動物 の下顎骨を切り出し,10%ホルマリンにて1週間 以上固定した後樹脂包埋し,頬舌方向に切断した 薄切標本を作製した.また天然歯モデルとして抜 歯を行わなかった下顎骨も同様に標本を作製し た.  4.観察方法

 CMRとトルイジンブルー染色により観察を

行った。マイクロラジオグラムの撮:影には,軟X 線発生装置(ソフロンRO, M50型)を使用し,二 二からフィルムまでの距離を55mmとし,加速電 圧13.5kV,管電流3mA,照射時間は20分とし70 μmに研磨された標本をフィルム乳剤面に密着さ せて撮影した.現像はKodak社の処方で,フィル ムはEastman Kodak二二649−0を使用して観察, また70%アルコールに貯えられた70μmの切片を 水洗し1%トルイジンブルー染色液に入れて加 温,濾紙にて染色液を拭き取り100%エタノールで 一432一

(4)

脱水して染色標本を作製,石灰化像の観察も行っ た.          結  果  1.CMR天然歯モデル(図3)  天然歯の歯頸部付近まで細くてスムースな皮質 骨がのびておりその下方には下歯槽管が根尖に圧 迫されるような形で存在している.根尖の頬側に は一部に空洞化した海綿骨が認められるが全体的 図3 抜歯前(CMR)天然歯モデル に海綿骨梁は少ない.また皮質骨の周囲には短期 間に構築されたような新生骨はみられない.  2.2週間(図4)  !)対照側CMR  抜歯前のCMRと比較すると歯槽頂部はかなり の量の骨の消失が推測されるが,欠損内部は側壁 および深部から表層部に向かって旺盛な新生骨の 再生が認められる.また,頬側と舌側の皮質骨外 側にわずかながら顎骨内部に再生された新生骨と 同時期に発生したと思われる外骨膜性の仮骨が認 められる(図4左).

 2)HAP側CMR

 歯槽頂部の骨の消失は対照側と同様である.骨 欠損部分は深部および側壁から新生骨の再生が認 められ,一部のHAPを新生骨が取り囲んでいる. 表層中心部には新生骨はまだ認められない(図4 中).  3)トルイジンブルー染色  既存の骨内面から細い樹枝状の新生骨梁が

HAPを填塞した骨溝に向かって形成されてい

る.周囲が新生骨に囲まれているHAPが一部に 認められる(図4右).  3.4週間(図5)

 1)対照側CMR

左:対照側CMR,      図4 2週 中:HAP側CMR,右:HAP側トルイジンブルー染色.      一433一

羅・翻

(5)

縛熱

      図5 4週 左:対照側CMR,中:HAP側CMR,右:HAP側トルイジンブルー染色.  下顎骨上部に一部陥凹を認めるが皮質骨部分の 新生骨はほぼ完成しており骨梁の搬疎化が始まっ ている.海綿骨部分は特に骨梁が少なく下歯槽管 下方にも海綿骨が認められ,下歯槽管の上方移動 が推測される.また,舌側皮質骨外側にも2週間 と同様の新生骨の添加が一層認められる(図5 左).

 2)HAP側CMR

 側壁から再生した新生骨はさらにHAPを取り 囲んで,表層部も新生骨でほとんど閉鎖されてい る.また,対照側のような下歯槽管の移動は認め られない.頬側皮質骨の外側にかなりの厚みの外 骨膜性の仮骨が認められる(図5中).  3)トルイジンブルー染色 左:対照側CMR,    モ

磯銑

・1…盤藤ゴ

     図6 13週 中:HAP側CMR,右:HAP側トルイジンブルー染色. 一434一

(6)

 網の目状の新生骨が骨溝表層部から下顎骨外側 にまで連続して形成されているのが認められる. 全てのHAPが周囲を新生骨に取り囲まれている (図5左).  4.13週間(図6)

 1)対照側CMR

 下顎骨の外形は保たれているが,再生した新生 骨の骨梁は太くなり皮質骨,海綿骨とも霰疎化が 激しい.また,頬側皮質骨外側にも新生骨の成熟 した骨層が認められる(図6左).

 2)HAP側CMR

 表層部は陥凹もなく骨性閉鎖している.HAP 填塞部位の外層は緻密な骨で覆われているが中心 部の新生骨は消失している。皮質骨とHAP塊の 間に空洞化した骨層が認められる.下歯槽管は天 然歯モデルとほぼ同様の形態を保っていると推測 されるが下歯槽管下方に空洞化した層が認められ る.歯槽頂部の頬二幅は下歯槽管より下方に比べ 同じかそれ以上に広い(図6中).  3)トルイジンブルー染色  成熟した緻密骨質がHAPに密着しているが大 小の空洞化した部分が多数認められる.表層部も 骨性閉鎖に近い状態だが,中心部は骨が介在しな いHAPも多数認められる(図6右).  5.26週間(図7)

 1)対照側CMR

 舌側皮質骨は粗造で菲薄化し海綿骨部分の骨梁 の鐵疎化も一層激しい.頬側皮質骨の骨添加は歯 槽頂部にまで及んでいるがHAP側に較べ頬三幅 が狭い(図7左).

 2)HAP側CMR

 13週以上に皮質骨の外形は頬舌的に厚みがあ り,下歯槽管下方より歯槽頂側の方が明らかに広 い.HAPは表層部も深層部も太く緻密な骨梁で 覆われている.HAPを填塞していない部分の海 綿骨は骨梁が少なくなり13週以上に搬疎化が目立 つ.また,頬側皮質骨には対照側と同様に骨の添 加が僅かに認められる(図7中).  3)トルイジンブルー染色  填塞されたHAP塊の周囲から新生骨が消失し ており,完全に骨に囲まれたHAP粒の減少が目 立つ.また周囲骨は緻密であるが多孔化が著明で ある(図7右).  6.39週間(図8)

 1)対照側CMR

 頬二幅の減少と二次的な垂直方向の高さの減少 が認められる.皮質骨は内部へ肥厚化し海綿骨部 分に太い骨梁が存在するが海綿骨部分の占める割 左:対照側CMR, 1;:ll:継      図7 26週 中:HAP側CMR,右:HAP側トルイジンブルー染色.

(7)

左:対照側CMR,      図8 39週 中:HAP側CMR,右:HAP側トルイジンブルー染色。

轟騰

融駒

合は減少している.下歯槽管は他のCMRに比べ 小さい(図8左).

 2)HAP側CMR

 26週に比べ顕著な萎縮傾向がみられる.下歯槽 管下方には緻密ではあるが空洞化した骨が認めら れ,下歯槽管の上方移動が推測される.顎骨の外 形は下顎下縁から下歯槽管の移動した部分までは 緩やかな膨隆を来して膨らんでいるが歯槽頂部に 向い萎縮する傾向にある.また,填塞されたHAP の内部の2/3程度は緻密な骨で覆われているが上 方部1/3はHAPのみで顎骨の外形を保っており, CMRでの骨の存在は認められない(図8中).  3)トルイジンブルー染色  一部骨に囲まれたHAP粒も認められるが新生 骨の消失が目立つ.HAPは散在して空隙を生じ ているが個々のHAPに見られるクラックは標本 作製時に発生したもので,39週に至っても填塞期 間中に発生したと思われるマイクロクラックや HAPの破折片は認められない(図8右).          考  察  生体骨組織に生じた欠損は,必要に応じ自家骨, 同種骨,異種骨などの移植術と人工生体材料によ る修復補填が行われてきた.しかし,同種骨移植 はわが国の法令上供給が困難な上に,新鮮自家骨 一436 移植に比べ骨形成能がかなり劣っており,異種骨 移植については免疫の問題が解決しておらず,実 用の段階に至っていない.また,骨形成能に優れ た新鮮自家骨移植も二次的侵襲を加えなけれぽな らず,供給量,操作性および生体内での長期間の 安定性の点から,人工生体材料の応用も試みられ るようになってきた10).  また,人工生体材料の中には金属材料や高分子 材料なども含まれ,多種多様に応用されているが, 骨欠損部分の充填材料としては,骨と化学的に結 合する性質を持つとされるHAPが最も多用され ている1D刈4).  しかしHAPによる修復も雛型が多岐におたっ ており,修復部位や修復目的の違いにより応用す る材料の治療成績が異なる15).  今回の報告では各種の人工生体材料の中で填塞 後の粘膜の移譲が少なく,緻密な填塞に対しマイ クロクラックの発生が少ないことから,HAPの 粒状緻密体を使用した16}17).  本実験で使用したHAPは填塞初期には,対照 側に比べ骨の再生の点で多少遅延する傾向にある が,填塞後2週で新生骨の再生が認められ,深部 および側壁から再生した新生骨がHAPを取り囲 み,填塞後4週で幼弱ではあるが梁状の新生骨に

(8)

より表層部が骨性に閉鎖され,全てのHAPが新 生骨に囲まれていた.  これは填塞したHAPの種類,形態,填塞方法に より多少の違いはあるが,抜歯窩にHAPを使用 した寺岡18)や,同種骨と混合したHAPを使用し た田中19)の報告とあまり差は認められない.  13週から対照側は海綿骨部分の骨梁の織疎化が 進み,頬舌幅が減少していく傾向にあるのに対し, HAP側は綴疎化の傾向はあるものの,頬二幅の 減少などの外形の萎縮傾向は26週に至っても認め られなかった.また,対照側4週のCMRに見られ た下歯槽管の上方移動や下歯槽管と下顎下縁の間

の骨の添加は,HAP側では39週のCMRで認め

られるものの,ほとんどのCMRで認められな

かった.また,下歯槽管はそれぞれに不規則な形 態を示していたが,対照側が継時的に縮小する傾 向にあるのに対し,HAP側の大きさの変化は認 められなかった.さらにHAP粒より上方へ移動 ないし肥大したものは1例もなく,2週および13 週のように填塞時に下歯槽管ぎりぎりまでHAP が密に填塞されているCMRでは,下歯槽管は天 然歯モデルとほぼ同一の形態をしていた.  しかし,39週になると両者とも退行性変化が著 しく,対照側では歯槽頂部の垂直方向の2次的消 失を含めた顎骨全体の萎縮と顎骨内部への皮質骨

の肥厚化が,HAP側ではHAP填塞部位上方1/3

の歯槽頂部の骨の消失と頬側皮質骨の消失が認め られた.  以上のことは,天然歯モデルでは歯根が存在し ていたことにより下歯槽管の上方移動の防止,頬 舌的な萎縮を防止していたものが,対照側では歯 の欠損とともにその効果が失われ,萎縮傾向が顕 著に現れるのではないかと考えられる.ところが, HAP側のように歯が欠損してもその欠損部分に HAPのような人工生体材料を密に填塞すると, 歯根と同じような効果を発揮し,歯槽突起部分の 幅の萎縮や,下歯槽管の移動などの形態的変化を ある程度防止する.しかし,これも永続的な効果 ではなく,39週では対照側に比べ萎縮傾向は少な いものの,退行性変化の影響はある程度受けるも のと推測された.  また,対照側の下歯槽管が縮小する傾向につい ては,顎骨全体の萎縮に対応して起こる退行性変 化の一つで,著者らは海綿骨の消失や皮質骨の肥 厚化も,総て歯の消失による顎骨の弱体化を補う ために,生体側が反応する力学的なホメオスター シスの一現象と推測している.  今回のCMRでは骨の銀疎化,多孔化,空洞化, 皮質骨の粗造化,頬濡話の減少などの退行性変化 は,下歯槽管より上方で顕著に認められ,下歯槽 管より下方の下顎下縁には,ほとんど変化が見ら れなかった.  若月20)は家兎の下顎下縁にHAP多孔体池魚を 填塞し,填塞後4週で骨膜下に形成された新生骨 が緻密化し,近遠心側の母埋骨の間を完全に架橋 し,ほぼ下顎骨本来の外形を再現することを報告 している.また,整形外科領域でも加藤ら21)が成長 期の脛骨の骨欠損部にHAPを填塞し,骨膜性骨 新生像が著明で,皮質骨の欠損部が完全に再構築 されている症例を報告している.また,前述の佐 藤ら1)は,主に脊椎疾患を有する患者11例に対し, 骨移植の際に欠損を生じる腸骨部にHAP多孔体 を応用し,その際に生じる陥凹変形がHAPを填 塞することにより全例防止できたことは,腸骨の ような比較的外力が加わらない部分に応用したた めではないかと推測している.  これらの報告から,たとえ下顎下縁に骨欠損を 生じさせても,この部位は腸骨や成長期の脛骨の ように,生体の治癒機転により大きな陥凹を伴う ことなく修復されることが示唆された.  すなわち下歯槽管の上方部分では,その外形を 維持するために有効であった天然歯による骨内部 へのストレスの伝達が失われ,さらに歯肉への直 接的な咀血圧が下顎骨の最上層部で,骨の長軸に 直角な方向に骨膜上から加わるために,骨を吸収 させるが,その影響は主として下歯槽管上部で終 わり,下歯槽管の下部である下顎下縁は,歯の喪 失による顎骨内部へのストレスの消失,もしくは 咀塒圧による退行性変化の影響を受けにくく,腸 骨や脛骨の長幹部と同じようにあまり外形の萎縮 を来さないで,形態の維持が行われている部分で あるためと推考された.

(9)

表3 抜歯後の退行性変化 歯槽頂部の変化 下謝槽管 感染 欠損部 恊V生 表層部の 恊ォ閉鎖 高 さ 頬舌幅 欠損部 フ骨梁 骨梁の 洞化 移 動 大ぎさ 外骨膜 ォ仮骨 移開 対照側 無し 2週で m認 n骨にて4週で成 ツ鎖 2週まで急 モノ減少 サの後緩徐 ノ減少 継時的に減

逕タ疎4週か

4週か 迥J始 ?宸ノ4週で レ動 継時的 ノ縮小 顎骨内恬タに 滑ヨし ト出現 無し HAP側 無し 2週で m認 纃怩ノて4週で幼 ツ鎖 2週まで急 モノ減少 サの後著変 ウし 26週まで変 サ無し R9週で減少 13週か 逕タ疎

13週か 迥J始 39週で竄竢纒 へ移動 向的な マ化無

週で最 蛯R X週で消

し AP側は対照側に較べ骨新生が遅れる傾向にあるが萎縮,搬疎化などの退行性変化の影響も受けにくい. しかしながら,対照側の4週のように,下歯槽 が上方移動すれぽ,下歯槽管と下顎下縁の間に 多孔化,空洞化した骨が見られるようになるの ,口腔内では天然歯根が機能することにより, 歯槽管にストレスを伝え,二次的効果として下 槽管より下方の下顎下縁の維持安定に影響を及 していることも推測された. 皮質骨外側で観察された新生骨の形成は,4週

HAP側で特に顕著に観察されたが,抜歯前の

MRでは観察されない.抜歯後は対照側, HAP ともほとんどのCMRで観察され,長期になる. 従い形成量の減少が顕著であった.これは骨梁 形成状態から考え,顎骨内部に形成された新生 とほぼ同時期に形成されていること,下顎骨の 側は抜歯の際に粘膜骨膜の剥離を行った以外. ,何も行っていな:いことなどから,抜歯後に粘 の縫合をする際,皮質骨と骨膜の間に生じた空 に血液が貯留し,反応性にできた骨で,下顎下 に比べるとこの部分の骨の新生や吸収は比較的 発に行われているのではないかと推測された. しかし,常に増骨の方が活発に行われるわけで なく,39週のように長期的には反応性の骨は消 する傾向にあり,特に顎骨内部の海綿骨梁が消 し,皮質骨様の骨におき代わる時期には,顎骨 囲で見られた反応性の骨も消失するのではない と推測された. 歯牙欠損後の生体の反応と変化をわかりやすく 括表に整理すると,表3のごとく生体の骨新生

対照側で4週までに,HAP側で13週までに完

され,退行性変化はその後徐々に起こるが,歯 頂部の変化は,抜歯直後に急激な高さの減少が

438

り,その後は対照側の頬舌幅と高さが徐々に減

していくのに対し,HAP側の頬舌幅の減少は

6週まで認められず,高さの減少も著明には現れ かった. Abeら22)は本来骨のない空洞であるイヌ前頭 を開洞し,HAPを填塞後12カ,月の間飼育し,そ 修復過程についての病理組織学的な検索を行っ 結果,開洞部を元の形態のまま閉塞させるのに, APの填塞は有効であることを報告している. 歯が失われた顎骨の外形を元の状態に回復し,

持することは困難であるが,今回使用した

APのように硬強度な穎粒を密に填塞すれぽ, リュウムのある顎骨を残存させることが可能で ると推察された.今後さらに生体内に填塞され

HAPの長期的な挙動や,応力の伝達機構に関

る研究の必要性も示唆された.         結  論 著者は,イヌ下顎骨の歯の欠損後の萎縮を防止 る目的で,雑種成犬12頭について第一後臼歯を

歯後骨溝を形成し,HAP粒状緻密体を填塞し

歯前の状態および対照側と比較して以下の結論 得た.

1)外骨膜性の仮骨はほとんど全てのCMRに

められ,13週頃にはほぼ成熟した骨になった. かし,その後は顎骨内部の海綿骨と同様に消失 る傾向にあった. 2)対照側,HAP側とも空洞化などの退行性変 は下歯槽管より上方で顕著に認められたが,下 下縁での変化はほとんどみられなかった. 3)対照側は外形の縮小化に伴い下歯槽管も縮 する傾向にあった.

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 4)HAPは,抜歯後におこる退行性変化を防止 または遅延させる効果が認められた.  なお本論文の一部は,1991年第36回日本口腔外科学 会総会,1992年第22回日本口腔インプラント学会総 会,1993年第47回日本口腔科学会総会において発表し た.       文  献  1)佐藤良治,古屋光太郎,四宮謙一ほか1長骨稜採    二心の骨欠損部充填材としてのハイドロキシアパ    タイト.多孔体の使用経験,整災害30:    1439−1443, 1987  2)奥野正孝:上顎歯牙抜去後の顎堤の形態変化及び    下顎歯の位置的変化に関する実験的研究。補綴誌    12:308−336, 1968  3)阿部廣幸,真中信之,藤井俊治ほか:合成ヒドロ    キシアパタイトの顎嚢胞への応用.Dental    Implant 10:241,1985  4)Abe H, Manaka N, Fujii T et al:Application    of sintered synthetic hydroxyapatite particles    to maxillofacial bone defects J Njhon Unjv    Sch Dent 28:272−286,1986  5)若月達也,中島信也,原田康ほか:多孔性    Hydroxyapatite穎粒の臨床応用.口上誌 36:    82−95, 1987  6)西連寺永康,柳澤定勝,吉峰一夫ほか:日本大学    歯科病院における合成ヒドロキシアパタイトを用    いた歯槽堤造成法の臨床治験.Dental Implant    11 :15−48, 1986  7)森井孝通:合成ハイドロキシアパタイトのラット    の大腿骨,脛骨における骨反応と合成ハイドロキ    シアパタイトセメント.リウマチ 29:423−424,    1989  8).須田昭男,佐藤隆司,三浦由太ほか:良性腫瘍に   対するセラミックス人工骨の使用一臨床と実験    一.整災害 33:193−200,1990  9)Joint Committee o聾Powder DiHlraction Stan・   dard:ASTM powder X−ray diffraction pat−   terns index N o.9−432. Am Soc Test Mater 9:   542, 1984  10)鶴木 隆:組織の移植.「標準口腔外科学」(高橋   庄二郎,園山 昇,河合 幹ほか編),pp322−343,   医学書院,東京(1985) 11)山室隆夫:整形外科最近の進歩1.整形外科用生体   材料研究の現況と今後の展望.整災外 30:   1129−1138, 1987 12)大西正俊,山崎安晴,仲井義信ほか:人工骨とし   ての多孔質アパタイ.トー臨床応用を中心として   一.歯科ジャーナル 17:623,1983 !3)長岡英一,平井 直,河野 弘ほか:顎堤保全を   目的とする抜歯窩挿入型ハイドロキシアパタイ   ト・セラミックス・インプラントの臨床応用.日   口腔インプラント誌 3:52−64,1989 14)丹羽滋郎:合成水酸化アパタイトの臨床応用と展   望. JJoint Surg 8:1771−1777, 1989 15)大西正俊:シンポジウム インプラントの現況と   将来一入工歯根と入工骨,その特性と適応一5.ハ   イドロキシアパタイト(ブロック).口科誌 38:   1150−1151, 1989. 16)柳澤定勝:歯科臨床に用いる合成ハイドロキシア   パタイトとは一その概要と使用時の注意点一.日   歯評論 556:121−125,1989 17)水城春美,清水正嗣,作田正義ほか:口腔外科領   域における緻密質穎粒水酸アパタイト骨補填材の   臨床評価一9施設における共同研究一.日口外誌   39 :1057−1068, 1993 18)寺岡道博:抜歯創の治癒過程に関する研究一骨除   去を伴う犬の抜歯窩にHydroxyapatite穎粒   (Calcitite穎粒)を填塞した例の検討一.日大歯学   63:665−673, 1989 19)田中 滋:抜歯創治癒過程に関する研究一難抜歯   窩に70℃加温同種小骨片およびHydorox−   yapat蓋te穎粒を墳算した例の検討一.日大歯学   67:520−531, 1993 20)若月達也:顎骨欠損部へのHydroxyapatite   (HAP)豆咲後の治癒過程に関する実験的研究。歯   科学報 85:931−952,1985 21)加藤龍一,三上隆三,井上 肇ほか:ハイドロキ   シァパタイト・セラミックの成長期骨への使用経   験.整災害 32:759−762,1989 22)Abe H, Manaka N, Fujii T et al:Histopath−   ological observation of dense particu玉ate   hydroxyapatite consolidated in the frota董sinus   of dogs. J Nihon Univ Sch Dent 32:240−246,   1990

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