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在外研究を振り返って

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Academic year: 2021

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在外研究を振り返って

物 部 ひろみ

1. はじめに

 『GR』編集長の中井敦子先生から、2012年度中に私がおこなった在外研究 の成果報告、そして在外研究に題材を得た学生会員向きのエッセーを、それ ぞれ2000字の長さで執筆し、第2号に掲載してはどうかというご提案を頂き ました。成果報告とエッセーを別々に書き始めたところ、徐々に内容が重複 してくるので、最終的に一つにまとめることにしました。最初は「報告」で 始まり、最後は「エッセー」で終わるという「鵺」のような代物ですが、学 生諸君がこれを読んで、「なにか楽しそう」「なにかワクワクする」という感 覚を少しでも覚え、外国生活や学究生活に対して興味を抱くようになってく だされば幸いです。

2. 研究・調査

 2012年4月1日から2013年3月31日までアメリカ合衆国ハワイ州ホノルル市 を本拠地にして在外研究に従事した。2012年3月31日に関西国際空港から出 国し、同日オアフ島のホノルル国際空港に到着。翌年3月31日にホノルルを 出発し、4月1日に帰国。4月初めから9月半ばまでハワイ州ホノルル市、ヒロ 市、カイルアコナ市、ライエ市、9月後半をニューヨーク州ニューヨーク市、

10月初旬から12月中旬までホノルル市、12月下旬から翌年1月中旬までペン シルバニア州フィラデルフィア市、メリーランド州カレッジパーク市、1月 下旬から3月末まで再びホノルル市で調査を行った。

『GR同志社大学グローバル地域文化学会 紀要』2, 2014, 191−196頁.

同志社大学グローバル地域文化学会 ©物部ひろみ

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 オアフ島ホノルル市では、ハワイ大学マノア校図書館、ハワイ州立公文書 館、ミッションハウス博物館、日本文化センター、ビショップ博物館、マキ キ教会で、太平洋戦争前、戦中、戦後の日系アメリカ人の歴史に関する史料 を集中的に調査した。以前から継続している複数のテーマに沿った内容(県 人会など日系移民と日本の出身県との越境的な関係、ハワイ先住民と日系人 の人種関係、日系人の自営農業者、日系二世と教育、日系二世と宗教、日系 二世と政治参加など)の史料を探した。ハワイ大図書館では、大学運営の内 部資料、貴重書、パンフレット、手紙などに目を通すことができた。ミッショ ンハウス博物館では、プロテスタント会衆派ハワイアン・ボード(ハワイ伝 道部)の日本人部の議事録や通信の記録、州立公文書館では土地所有に関す る史料、ビショップ博物館では戦前の写真を中心に調査した。また、今回の 在外研究中の間に、オアフ島ホノルル市で1950年代に結成された帰米二世の グループにインタビューを行うことが出来た。帰米とは、日本式の教育を受 けるためなどの理由で若い頃に日本に在住していた二世のことで、アメリカ 生まれにもかかわらず、日本文化の影響を色濃く受けて育った人たちである。

男女ともに90歳近い高齢者ばかりであり、ご自身の経験について詳しくお話 しいただき、多くの貴重なデータを集めることができた。

 ハワイ島ヒロ市ではハワイ大学ヒロ校図書館で、カイルアコア市ではコナ・

ヒストリカル・ソサエティでリサーチを行った。前者では、日系人自営農の サトウキビ栽培者、後者では、日系人コーヒー栽培者について調べた。カウ アイ島リフエ市では、リフエ市立図書館に行き、オアフ島では手に入らない 地元の歴史や政治に関する書籍を何冊もコピーすることが出来た。

 メリーランド州カレッジパーク市の国立公文書館では、ミリタリー・イン テリジェンス・レポートを主に見た。これは、アメリカ軍諜報部の集めた報 告書で、太平洋戦争前、戦争中のハワイ日系社会の知られざる一面を映し出 す第一級の史料である。また、白人たちが日系社会をどのように見ていたか、

日系人の指導者とどのように繋がっていたかを示す史料でもあり、大変興味 深かった。

 さらに、今回の在外研究中に始めた新しいプロジェクトの一つが、歌舞伎 や能などの日本の伝統的な舞台芸術が20世紀アメリカにおいて認知されてい

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くようになった経緯に日系アメリカ人がどのように関わっていたかというも のである。このテーマに関する史料を集めるため、ハワイ大学図書館、ペン シルバニア大学図書館、ニューヨーク市公立図書館で新聞や演劇雑誌、プロ グラム、脚本を中心にリサーチを行った。

3. 招聘先の研究者との交流

 今回の渡米に際しての受け入れ先は、ハワイ大学マノア校の Center for Japanese Studies(CJS)だった。CJSは、日本研究に関わるハワイ大各学部の 教員から構成されており、メンバーの顔ぶれは、アジア研究学部や、人類学 部、歴史学部など、さまざまな分野にまたがっている。CJSは2012年度に私 の他にも在外研究中の研究者を数名迎え入れており、学期の初めには我々の ために歓迎パーティーを開催し、一年間を通じてレクチャーなどの様々な催 しにも招いてくださった。

 このようなハワイ大学教員や他大学の研究者との交流を通して、在外中に 私は思いがけない研究テーマに取り組むことになった。歓迎パーティー時の 談笑から話が発展し、人類学部・学部長である Christine Yano 教授が主催す る「日本の大衆文化に見られるユートピアのイメージ」という国際プロジェ クトの一環として、映画『フラガール』(2006)でも有名になった福島県の スパリゾート・ハワイアンズ(旧・常磐ハワイアンセンター)に関する研究 をおこなうことにしたのである。ハワイアンズには元々興味を持っていたと は言え、ハワイ日系史の研究を主に行ってきた私のこれまでのテーマとは、

かなり方向性の異なるものである。本研究では、東北の福島県に於いて「楽 園ハワイ」のイメージが、いかに地域の人々の間で独自に形成され、享受さ れ、商品化され、消費されてきたかを歴史的・社会的・経済的文脈から検証 する。福島県は、移民のネットワークを通じて19世紀末からハワイと継続的 に交流があり、福島の人々は、産業の衰退や天災などで地元が危機的状況に 陥る度に、局面打開の方策としてハワイのイメージを戦略的に用いてきた。

特に1960年代に炭鉱業に代わる新ビジネスとして開設された常磐ハワイアン センターに焦点を当て、センターが発展・衰退期を経て、東日本大震災後に 東北復興のシンボルとして再び全国的に脚光を浴びるようになった現時点ま

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でを考察する。

 Yano 教授は、このプロジェクトの総勢10人のメンバーで “Seeking Paradise:

Utopic Visions in Japanese Popular Culture” と題されたダブルパネルを組んで、

来年の Association for Asian Studies(AAS)の年次大会に参加申請をされ、

2014 年3月にフィラデルフィア市で開催の大会で成果発表することが決定し

た。私のパネルの司会は Yano 教授、コメンテーターは、オーストラリアの モナシュ大学アジア研究所所長 Koichi Iwabuchi 教授である。また、このパ ネルの参加者は、学会発表の内容をもとに学術論文を各自執筆し、オースト ラリアの日本研究ジャーナルの「日本文化における楽園のイメージ」という 特集号に出版する予定である。

4. 学会参加

 在外研究中に、知り合いの若手研究者に声をかけ、日系アメリカ人二世に 対する教育をテーマに四人でパネルを組んで海外の学会で発表をすることに した。私がオーガナイザーとなり、プロポーザルを書いてアジア研究の代表 的な国際学会である Association for Asian Studies(前述のAAS)と The 8th International Conference of Asia Scholars(ICAS)の二つに申請した。幸いどち らも無事審査に通ったので、2013年3月に AAS(カリフォルニア州サンディ エゴ市開催)、在外研究から帰国後の2013年6月に ICAS(マカオ開催)に出 席し、それぞれの学会で一人30分程度の研究発表を行った。共に私がこれま で参加したなかで最大規模の学会であったので、他のパネルの発表を聞きに いったり、ディナーのテーブルで他国の研究者と話をしたり、大いにアカデ ミックな刺激を受けることができた。

5. 旅 行

 在外研究中には、以前から一度訪れてみたいと願っていた場所に行く機会 に恵まれた。例えば、ハワイ全島を通して最初に砂糖プランテーションが造 られたカウアイ島のコロアという小さな町に私は昨夏初めて行き、プラン テーション跡や、記念碑などを見て歩いた。また、カリフォルニア州のマン ザナール強制収容所も訪問することができた。マンザナールは太平洋戦争中

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に日系アメリカ人が「敵性外国人」として収容された場所であり、現在跡地 は博物館になっている。日系史を研究している私は、一度この目で見ること を望んでいたが、ロサンジェルスから遠く離れた内陸部に位置しているので、

なかなか実行に移すことは難しかった。幸い今回同行者が見つかり、巡り合 わせで元旦にマンザナールへ到着した。凍えるような寒さの中、荒涼とした 風景を目の当たりにし、強制収容所の生活をわずかながらも追体験すること が出来た。これから日系人の強制収容について論じる度に、バラックの窓越 しに見えた、際立って白い雪山を私は思い起こさずにはいられないだろう。

研究するうえで史料の活字を追うことも重要であるが、やはり実際にその歴 史が生まれた場所に赴き、その場の空気を吸う経験は、何にも増して学問に 対する好奇心や熱意を高めてくれるのではないだろうか。

 さらに東海岸での調査旅行中には、マサチューセッツ州のアーモスト大学 に再訪する機会を得た。1990年代に卒業した学校であり、初めて海外体験を 積んだ思い出の場所であるが、長年一度も訪れることができなかった。今回 アーモスト大のほか、近隣のスミス大学、マウントホリオーク大学まで足を 伸ばしたが、懐かしいキャンパスや街が、昔のままの姿であることに感動し た。広大なバード・サンクチュアリに連なるアーモスト大、湖や庭園のある スミス大、おとぎの国のように手の込んだ赤煉瓦の建物が並ぶマウントホリ オーク大の構内は、相変わらず小さな宝石のような美しさで、そこに佇むと 時が止まったように感じられ、20年ぶりに自分の原点に戻ってきた心地がし た。東海岸では、ニューヨークのエリス島移民博物館、ボストンやコンコル ドの独立戦争ゆかりの地なども訪れた。旅行中に写真を多数撮ったので、機 会があれば学生に見せて、外国の歴史や文化、そして留学に対する若い人た ちの興味をかき立てる一助にできればと思う。

6. おわりに

 以上のように、在外研究中に、これまでの研究テーマの追加調査を行った り、成果をまとめたりする時間が取れたうえ、今後に続く新しい研究にも着 手することが出来ました。このような素晴らしい機会を与えていただき、同 志社大学および所属先のグローバル地域文化学部に対し、心から感謝してお

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ります。在外研究から得た成果を研究発表や出版、授業という形で大学と学 部にお返ししていくことができれば幸甚に存じます。

マンザナール強制収容所跡(カリフォルニア州)

ワイピオ・ヴァレー(ハワイ州)

参照

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