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平成 18・19 年度学部進学留学生発音補講報告

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平成 18・19 年度学部進学留学生発音補講報告

柳澤 絵美

(2008. 10. 31 受)

【キーワード】 声道断面図、音声の視覚化、指導順序、学習者同士の評価

はじめに

 本稿は平成 18 年度および 19 年度に学部進学留学生を対象として行った発音補講 の報告をするものである。発音補講は、初級前半(4 月下旬〜 5 月上旬)と上級前半

(1 月下旬〜 2 月上旬)に行われ、18 年度および 19 年度の春学期においては、各ク ラスの主担任が発音に課題がある学習者に声をかけ、発音補講への参加を促すかた ちをとった。平成 19 年度の冬学期は発音に課題のある学習者に加え、発音に大き な問題が見られなくても、「日本語がもっと上手に話せるようになりたい」、「発音を もっと練習したい」という希望を持つ学習者が自由に参加できるようにして、「発音 クリニック」という名前で補講を行った。

1.  目的

 発音補講では、日本語母語話者と同じような発話を目指して厳密な発音矯正をす るのではなく、意味の弁別に影響を与えるような間違いを指摘・指導し、より円滑 なコミュニケーションを行える発音を習得することを第一の目的とした。その上で、

余裕があれば更に自然な発話に近づけるための練習を行った。

2.  補講実施日

 発音補講の実施日は以下の通りである。実施回数は春学期が 3 回、冬学期が 4 回 であり、1 回の補講時間は 1 時間から 1 時間半であった。春学期は日本語の授業、

冬学期は日本語に加え専門科目の授業が増えるため、補講はそれらの授業と重なら ないよう、5 限(16:30 〜)または 6 限(18:10 〜)の時間を中心に実施した。(一部、午 前中や 3 限目で授業が終わる学習者には、4 限(14:50 〜)に補講を実施した。)

 平成 18 年(春学期) 4 月 18 日、25 日、27 日(全 3 回)

 平成 18 年(冬学期) 1 月 25 日、2 月 1 日、8 日、15 日(全 4 回)

東京外国語大学

留学生日本語教育センター論集 35:121〜131,2009

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 平成 19 年(春学期) 4 月 23 日、5 月 7 日、14 日(全 3 回)

 平成 19 年(冬学期) 1 月 17 日、24 日、31 日、2 月 7 日(全 4 回)

3.  受講者

 発音補講の受講者はベトナムの学生を中心に、カンボジア、タイ、ラオスなど東 南アジアの学生であった。受講者数は平成 18 年度春学期 6 名、冬学期 5 名、平成 19 年度春学期 7 名、冬学期 15 名であった。

4.  補講内容

 補講は初級前半の時期から開始されるため、小さい単位である単音から始め、上 級前期にあたる冬学期にはより大きい単位である文レベルのイントネーションへと 進めていった。ここからは、それぞれの指導方法と練習について報告する。

4.1.  単音の指導と練習

 単音の練習では、まず 50 音図を配付し、全ての仮名を発音してもらって課題が ある音を確認した。その後、「し」、「じ」、「じょ」、「ち」、「す」、「つ」など受講者にとっ て発音が難しい単音の練習を行い、更に、単語レベル、短文レベルでも練習を行っ て、より自然な発話を目指した。

 第二言語習得において、目標言語の音韻で対立する音素が母語では対立しないと いうことがある。例えば、日本語では有気音と無気音の対立を弁別しない。そのた め、中国語を学ぶ際に、中国語における有気音と無気音の音韻的対立を聞き分けた り、発音し分けることに困難を覚える学習者がいる。同様に、日本語学習者にとっ て母語の音韻で対立していない音素や母語の音韻に存在しない単音を聞くことだけ で把握し、正しく知覚・発音するのは困難な場合があると考えられる。そこで、図 1 のような声道断面図を用いて、調音点と調音法について説明した。そして、ある 単音を発音する際の舌の位置などを教え、口腔の中の動きを内省しながら発話する 練習を行った。軟口蓋や口蓋帆など、口腔の後部を意識するのは難しいが、両唇や 歯茎、硬口蓋など口腔の前部の器官は舌が当たる感覚などが分かりやすく比較的内 省がききやすいため、図を用いて説明する方法は、教師の発音を聞かせるだけより 効果的であったといえる。例えば、「し」は「す」の発音時よりも舌が口の後ろの方に あることを教え、それを意識させながら「し」の発音を練習した。「しゅ」に近い発音 になってしまう場合は、唇を円唇化させないように横に引っ張るように意識させた。

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また、日本語の「し」は歯茎摩擦音(英語の「Sea」や「CD」のような音)ではないこと を補足情報として伝えたところ、日本語で「シーディー(CD)」や「ディズニーシー」

などのカタカナ語を発音する際に学習者が「し」の発音に注意を払うようになると いう効果も見られた。

  「さ・す・せ・そ」  「し」

図 1.声道断面図(「さ・す・せ・そ」と「し」の子音)

 単音の発音で大きな問題になるものとして、破擦音の「つ」がある。「つ」の発音は 東南アジア系の学習者だけでなく、その他の言語を母語とする日本語学習者にとっ ても習得が困難であることが報告されている。助川(1993)では、日本語教育に携 わる 23 名の専門家に学習者の日本語発音上の問題点についてアンケート調査を 行った。その結果、12 言語の各母語話者に見られた日本語の発音上の問題点として、

「つ」が「ちゅ」になるという指摘は全 170 項目中 14 番目に多かったと報告されてお り、単音の間違いとしては 8 番目に多いものであった。

 「つ」の練習においては、上述した声道断面図を使った調音点と調音法を意識し た練習の他に、[s] の摩擦を出した状態で、舌先を軽く歯茎に触れさせるようにして、

[ts] の子音を発音する練習を行った。また、英語の発音を利用して、「Cats」を「つ」

の発音に応用する練習なども行ったが、英語でも [tʃ] のような発音になってしまっ ている学習者には有効ではなかった。

 1. で述べたように、発音補講では、意味の弁別に関わるような発音上の問題を指 摘・指導していくことを目的としているが、母音の無声化については簡単に扱った。

これは、上述した「つ」の発音時に、子音が「ちゅ」に近い発音であっても、母音が 無声化していれば「ちゅ」に聞こえにくくなるという効果があるためある。実際の 指導では、無声化が起こる代表的な音環境を示し、「つくえ」「くすり」「です」などの 有意味で母音を無声化させて発音する練習を行った。

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4.2.  モーラリズムと特殊拍の指導と練習

 世界の多くの言語は音節言語であり、音のまとまりを音節で捉えるが、日本語は モーラ言語と呼ばれ、音節だけでなく、それより更に小さい単位であるモーラ(拍)

も存在すると言われている。音節で音のまとまりを捉える言語の話者にとって、持 続時間をコントロールしなければならないモーラの感覚を身に付けるのは困難であ り、特殊拍の習得などは多くの言語話者にとって課題となっている。

 発音補講では、モーラを正しく習得するために、まず基礎知識として、①日本語 では仮名 1 文字が 1 モーラであること(拗音は 2 文字で 1 モーラ)、②特殊拍(撥音、

促音、長音)も 1 モーラを担うことを説明した。実際の指導では「音節」や「モーラ」

といった用語は用いず、「さくら」、「ざっし」、「せんせい」、「コーヒー」など、仮名で 書かれた単語を見せて、それがいくつの単位(モーラ)でできているか考えて「○」

で囲ませ、どこまでが 1 つの単位かを認識させた。そして、「ひらがな4 4 4 4」は 4 つ、「し4 んぶん4 4 4」も 4 つ、「がっこう4 4 4 4」も 4 つというように、特殊拍もその他の拍と同じ重さ を持つことを確認した。その後、文字ではなく、単語を読み上げた音声のみで何拍 の語かを数えさせ、更に、ディクテーションで仮名を書かせることでモーラの定着 をはかった。冬学期のクラスでは、ある程度の語彙や文法知識も身に付いているた め、川柳を使って実際に「5・7・5」の形になるように、モーラを数えながら文を作 る練習も取り入れた。

 モーラという単位に慣れてきたら、特殊拍を含む語と含まない語のミニマルペア

(例:「かこ vs かっこ」、「さま vs さんま」「とる vs とおる」)を聞き分ける練習と発音 し分ける練習を行った。促音の発話練習の際には、「いっぱい」、「かった」、「さっか」

のように促音部分が閉鎖音になるタイプと「いっさつ」、「いっしょ」のように摩擦音 になるタイプがあることを伝え、促音があった時に必ずしも息を止める必要はない ことを説明した。更に、単語レベルだけでなく、特殊拍が含まれる文と含まれない 文(例:「誰が来たのですか」vs「誰が切ったのですか」)を聞き分けたり発話したり して、文レベルでも正しい持続時間の調節ができるように練習をした。特殊拍の練 習では、4.4. で紹介する音声分析ソフトを使った指導方法も取り入れた。

4.3.  アクセント、イントネーション、ポーズの指導と練習

 日本語の声の高低については、まず、語レベルのアクセントについて指導し、次 に、より広い範囲にかかってくるイントネーションを扱った。また、ある程度の長 さを持つ発話では聞きやすさに大きく影響するポーズについても指導した。

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 アクセントについては、まず、日本語のアクセントは英語に代表されるような強 弱アクセントではなく、高低アクセントであること、アクセントが違うと言葉の意 味が変わってしまうことがある(例:「雨 vs 飴」、「箸 vs 橋 vs 端」)ことを説明し、ア クセントの重要性を理解させた。次に、以下にあげる共通語における基本的なアク セント規則について説明した。① 1 拍目と 2 拍目の高さは必ず異なること、②アク セントは拍と拍の間で変わること、③ 1 つの単語の中では、一度下がったらニ度と 上がらないこと。練習では、単語レベルにおいては、「雨」と「飴」などのミニマルぺ アを用い、聞き取りと発話練習を行った。また、有意味語を使った河津他(2003)『東 京語アクセント聞き取りテスト』も実施した。更に、単語レベルだけでなく、短文 レベルでも聞き取りと発話の練習を行い、ある程度まとまった発話の中でもアクセ ントが正しく生成できるように指導した(例:「コーヒーを一杯ください」「コーヒー をいっぱい(=たくさん)ください」)。

 イントネーションの指導では、まず、疑問イントネーションを用いて、「五時」や

「コーヒー」などのアクセントを持つ単語と、「明日」や「紅茶」などのアクセントを持 たない語を比較し、アクセントがある語はアクセントを残して疑問イントネーショ ンをつける練習を行った。これは、学習者の誤用として、イントネーションによっ てアクセントが崩れるという例がしばしば見られるためである。

(例:ご じ  (五時)?   あ し た  (明日)?)

 また、中川(2001)で報告されている「への字型イントネーション」に注目した発 話練習も行った。授業では、まず、句頭や文頭ではピッチが高く、句末や文末に行 くにしたがって低くなっていくという「への字型イントネーション」について簡単 に説明した。次に、文を句ごとに区切ったフレージングとイントネーションを表す ピッチカーブが描かれた 200 字程度の短い文章を配付し、イントネーションを意識 しながら音読する練習を行った。教材は中川他(2007)『スピーチ・口頭発表のため の日本語発音練習(試用版)』を用いた。ピッチカーブが描かれていることで、視覚 的に「高い」・「低い」を伝えることができるため、耳で聞くだけでは声の高さの把握 が難しい学習者には効果的な補助となっていた。

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図 2:への字型イントネーションの例

(『スピーチ・口頭発表のための日本語発音練習(試用版)』より)

 ある程度の長さを持った発話においては、ポーズの挿入も聞き易さに大きな影響 を与えるため、必要な場所にポーズを入れる指導を行った。練習では、日本の文 化紹介の短いスクリプトを配り、ポーズが必要だと思うところに「レ」を書かせた。

その後、答え合わせをしながら、助詞の「は」の後、キーワードの前後など、ポー ズが入る代表的な部分を紹介し、実際に自分の国のことについて紹介する作文を書 いて、ポーズを意識しながら発話する練習を行った。

4.4.  音声分析ソフトを用いた指導と練習

 音声の習得においては、例えば、特殊拍の長さの調節について教師が「もっと長 く。」、「もっと短く。」などと指示をしても、学習者自身が自分の発音を認識できて いないために習得が進まないということがよくある。そこで、音声を視覚的に認識 することができれば、耳では捉えられなかった自分の発話が視覚情報の助けによっ て認識できるようになり、発音指導にも役立つのではないかと考え、音声分析ソフ ト(SIL Speech Analyzer)を練習に取り入れた。

 発音指導はコンピューター室で行い、学習者はイヤホン付きマイクを装着して、

自分の発話を録音した。そして、PC 画面上に映し出された音声波形やスペクトロ グラムを見て、自分の音声と教師が発音したモデル音声を比較し、単音の質や子音・

母音の持続時間などを調節しながら発話練習を行った。単音の練習では、教師の音 声を録音したモデル音声の図を資料として配付し、摩擦音と破裂音の違い(例えば、

「す」と「つ」の違い)などを視覚的に認識させることで、モデル音声と学習者の発音 を比較しながら調音法に気をつけて発話する練習を行った。特殊拍の練習では、特 殊拍を含む語と含まない語のミニマルペアを録音した教師のモデル音声とその図を 配付し、閉鎖区間、鼻音部分、長音部分および語全体の持続時間を計測することで、

自分の発話とモデル音声を比べて、正しい発音に近づけるように練習を行った。授 業中は視覚情報を参考にしながら、教師が生徒の席を回り、個別に指導を行った。

以下に摩擦音と破擦音、および、非促音と促音の波形とスペクトログラムを示す。

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       「すき(摩擦音)」       「つき(破擦音)」

        s     (u)      k       i              ts (u)         k    i

図 3:摩擦音と破擦音の比較

         非促音      促音       t a       t a      t a       t        t a

図 4:非促音と促音の比較

5.  効果的な発音指導のための取り組みと心がけ 5.1.  発音指導の順序

 発音指導を行う際は、学習者にとってできるだけ負担が少ない順序で練習を進め ていくことが大切である。発音だけでなく、読解や文章表現、口頭表現にも共通す ることだが、大きな流れとして「易しいもの」から「難しいもの」へ、「短いもの」か ら「長いもの」へと練習を進めていくのが望ましいといえるだろう。

118ms

500ms

274ms

671ms

(無音区間)

(語全体)

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 発音指導の練習は大きく聞き取り練習と発話練習に分けられる。この 2 つを比べ ると、受身の要素が強い聞き取り練習より能動的に音を作り出す発話練習の方が難 しい活動であると考えられるため、最初は聞き取り練習から始めた方がいいだろう。

聞き取り練習というとある単音や単語などを聞かせて「私は何と言いましたか。」と 聞いてしまいがちである。しかし、この聞き取り練習は音の弁別が明確にできてい ない学習者にとっては負担が大きい。「易しい」→「難しい」の順序に沿った練習とし ては、まず、その音が他の音と区別できているかを確認する必要がある。例えば「つ」

と「ちゅ」を聞かせて「1 つ目と 2 つ目の音は同じですか。違いますか。」という聞き 取り練習を行う。そして、2 つの音が同じではないことが聞き取れるようになった ら、次に「私が言ったのはどちらですか。」と選択肢の中から発話された音を選ぶ練 習を行う。最後に、選択肢を提示せずに「何ですか。」という練習を行うといいだろ う。また、聞き取りをする音声の長さについては、最初は最も短い単音のレベルか ら始めて、次に単語レベル、最後に文レベルの聞き取りというように「短い」→「長 い」という順序で行うのがいいだろう。

 この段階を踏んだ練習の進め方は発話練 習においても同様であり、単音→単語→

(句)→文のように発話するものを段階的 に長くしていくことで、学習者への負担が 軽減されると考えられる。当たり前といえ ば、当たり前だが、「易しいものから難し いものへ」、「短いものから長いものへ」と いう順序を常に意識して練習をしていくこ とで、学習者への負担は軽減され、発音の 習得を促進することにもつながっていくの ではないだろうか。聞き取り練習の順序を 図 5 に示す。

   図 5:聞き取り練習の順序

5.2.  学習者同士での発話・聞き取り練習

 聞き取り・発話練習をする際は、教師の発話や CD などのモデル音声を一方的に 聞かせたり、それをリピートさせたりする練習だけでなく、学習者同士でお互いの 発音を聞き合って、正しく発音できているか確認する活動も取り入れた。例えば、「す

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き(好き)」と「つき(月)」というミニマルペアのどちらか一方を一人の学習者が発音 し、他の学習者がどちらに聞こえたか判断するような活動である。発話された音声 が学習者本人が発音しようと思っていた音ではない場合や、聞いている学習者が発 音された音を違う音に聞き取る場合があるため、基準を示すために、最後に教師が どちらの音に聞こえたかを伝え、必要に応じてコメントやアドバイスをしていった。

 学習者は教師の発話や CD の音声を聞く時には、モデルとなるような正しい音が 聞こえてくるという前提で聞いており、ある種安心した受身の姿勢でいると考えら れる。しかし、学習者同士で発音し合うと、必ずしも正しい音が聞こえてくるとは 限らないため、教師の発話を聞く時以上に集中し、身を乗り出すようにしてお互い の発話を聞いていた。そして、いろいろな学習者の発音を聞き、それに対する自 分の評価と教師の評価を比べることを通して、個人差はあるが、学習者の中にも正 しい音とそうではない音を分ける基準のようなものができてきたようであった。そ して、少し耳のいい学習者や正しい発音が生成できつつある学習者が、まだ課題 の残る学習者にコメントやアドバイスをするという姿も見られた。これは、教師の 発話をリピートするだけの受身の練習では得られない効果だったといえよう。中村

(2007)でも、ペア活動を意識的に取り入れ、学習者同士で発音をチェックし、コメ ントを出し合う取り組みを行ったところ、発音の練習に効果的であったことが報告 されている。

 こういった学習者同士で評価し合う活動を行う際は、クラスの雰囲気作りが非常 に重要である。ただでさえ苦手な発音を教師や他の学習者の前でしなければならず、

更に評価までされるというのは学習者にとって大きな負担となりえる。しかし、黙っ ていては発音の練習にならないため、「間違えても恥ずかしくない」、「気軽にどんど ん発話できる」という雰囲気を作ることが、次の発話やコメントを促し、練習の充 実にもつながっていくと考えられる。

6.  今後の課題

 今後の課題としては、まず、レベルに合わせた指導内容の検討があげられる。学 部進学留学生のコースでは、例年、発音補講は年に 2 回行われている。1 回目は来 日して 1 ヶ月程度の初級前半、2 回目は上級前半の時期である。上級前半になると、

学習者にもある程度の文法知識や語彙などが入っているため、日本語での説明もし やすく、実際の練習でも長い文や様々な語彙を使うことができた。一方、初級前半 の段階では、作業の指示も英語を交えて行っており、練習に使える単語や文も非常

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に限られていた。しかし、発音上の課題の意識化と矯正は、できるだけ早い時期に 行っておいた方がいいため、文法の知識や語彙が十分ではなくても、やはり初級の 段階で補講をしておく必要があるといえるだろう。これまでは、初級前半のクラス でも、できるだけ多くの情報が与えられるように、浅く広く単音からアクセント、

イントネーションまで色々なものについて扱った。しかし、そのために未習の語彙 や文法が登場してしまうこともあり、明日からすぐに使える発音指導にはなってい なかった部分もあった。今後は、限られた語彙と文法で初級の学習者にどこまで効 果的な発音指導ができるか考えていきたい。また、上級の学習者にはスピーチや朗 読など、もう少し長さがあるまとまったものを聞きやすく上手に発話する練習も取 り入れていきたい。

 次に、補講の期間が挙げられる。現在、発音補講は年に 2 回、短期集中で行われ ており、18、19 年度は 1 学期と 3 学期合わせて 7 日間の実施であった。短期集中で あるため、インプットばかりが多くなり、補講期間が終わってしまえば授業で会う こともなくなってしまうため、その後の経過を観察し、必要があればもう一度指導 をするということができなかったのは残念であった。春学期の補講で、どうしても

「つ」の発音ができずに苦労していた学習者が、冬学期の補講で会った時にはきれ いに「つ」を発音していたこともあり、どのような過程でその音の習得に至ったの かということも、補講の期間が長ければ観察できたのではないだろうか。学部進学 留学生のコースでは、12 月に大学進学に関わる重要な試験があるため、秋学期は 発音補講をしている時間的余裕がないのかもしれないが、春・秋・冬のそれぞれの 学期で短期集中の補講を行ったり、1 学期間継続して授業を行うことができれば、

もっと丁寧に時間をかけて発音を直していくことができると考えられる。

 最後に、補講が終わった後で、学習者に何か 1 つでも音声面に関して自信を持っ てもらえるような授業を目指していきたい。19 年度の補講に参加した学生の中に、

単音の発音に大きな課題があり、補講クラスの中でも一番苦労していた学習者がい た。意思の疎通にも支障をきたすことがあり、発音には強い苦手意識を持っている ようであった。しかし、アクセントやイントネーションを扱った授業で、音の高さ に関しては敏感であることが分かり、アクセントの聞き取りテストではクラスの中 で上位に入っていた。今まで、小さな声で恥ずかしそうに発音をしていたその学習 者が、アクセントの授業の時は得意気に嬉しそうな顔をしていたのがとても印象的 であった。苦手とするものの中でも、何か自信につながるような要素があれば、今 後も積極的に取り上げ、学習者の力を伸ばすサポートをしていきたい。

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参考文献

河津基・鮎澤孝子・許舜貞(2003)「東京語アクセント聞き取りテスト用 CD の開 発」特定領域研究(A)マルチメディア・ネットワークシステムの高度化の研究,

NIME

助川泰彦(1993)「母語別に見た発音の傾向−アンケート調査の結果から−」『日本語 音声と日本語教育』文部省重点領域研究「日本語音声」平成 4 年度研究成果報告 書 , pp.187-222.

中川千恵子(2001)「「へ」の字型イントネーションに注目したプロソディー指導の試 み」『日本語教育』110, pp.140-149

中川千恵子・中村則子・許舜貞(2007)『スピーチ・口頭発表のための日本語発音練 習(試用版)』早稲田大学日本語教育研究センター

中村則子(2007)「発音クラス授業報告」『東京外国語大学留学生日本語教育センター 論集』33, pp.179-189

参照

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