• 検索結果がありません。

アヴァンギャルドとジェンダー

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "アヴァンギャルドとジェンダー"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

1 6 2

東 京 外 国 語 大 学 総 合 文 化 研 究 所   総 合 文 化 研 究   第 2 2 号 ( 2 0 1 8 ) T o k y o U ni v er sit y of F or ei g n St u di e s, Tr a n s- C ult ur al St u di e s N o. 2 2 ( 2 0 1 8)

に 、 「 新 し い 人 間 」 の ジ ェ ン ダ ー イ メ ー ジ に つ い て 報 告 し た 。   「 新 し い 人 間 」 は 、 未 来 派 に 始 ま る 歴 史 的 ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド

運 動 全 般 に 提 示 さ れ る キ ー 概 念 だ が 、 そ の イ メ ー ジ す る も の は 実 に 抽 象 的 で あ る 。 チ ュ ー リ ッ ヒ ・ ダ ダ に も 参 加 し 、 そ の 後 ベ ル リ ン の 表 現 主 義 グ ル ー プ に ダ ダ と い う 言 葉 を 紹 介 し た 、 ま さ に 表 現 主 義 と ダ ダ の 橋 渡 し 的 存 在 で あ る リ ヒ ャ ル ト ・ ヒ ュ

ル ゼ ン ベ ッ ク が 『 新 青 年 』 に 寄 稿 し た エ ッ セ イ 「 新 し い 人 間 」

一 九 一 七 年

) で は 、 「 新 し い 人 間 」 が 、 多 様 な 人 種 と 共 に 、 あ

ら ゆ る 性 に 及 ぶ 普 遍 的 イ メ ー ジ と し て 描 か れ て い る 。 『 新 青 年 』 と い う 雑 誌 タ イ ト ル は 男 性 的 な 発 信 を 前 提 と し て い る が 、 少 な

く と も ヒ ュ ル ゼ ン ベ ッ ク の テ ク ス ト に お い て は 、 ジ ェ ン ダ ー が 尺 度 と し て 明 確 に 意 識 さ れ て い る 。

 実 際 、 ダ ダ イ ス ト の 多 く の 作 品 に お い て は 、 「 新 し い 人 間 」 が 「 新 し い 女 」 に 言 い 換 え ら れ る 傾 向 が あ る 。 ベ ル リ ン ・ ダ ダ の 中 心 人 物 の ひ と り で あ っ た ラ ウ ー ル ・ ハ ウ ス マ ン は 、 古 い 男 性 性 に よ る 国 家 的 思 考 を 克 服 す る べ く 、 希 望 の 「 新 し い 女 」 を 、 来 た る 新 し い 社 会 の 「 新 し い 人 間 」 像 と す る 。 彼 の フ ォ ト モ ン

タ ー ジ ュ 作 品 に お け る イ メ ー ジ の 配 置 の 中 で 、 「 新 し い 女 」 は 、

「 玉 の よ う な 」 、 「 星 座 の よ う な 」 存 在 と し て 提 示 さ れ る 。 男 性 ダ ダ イ ス ト に よ る こ の よ う な 表 象 の 一 方 で 、 女 性 ダ ダ イ ス ト 達

ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド と ジ ェ ン ダ ー

  報 告

  小 松 原 由 理 ・ 西 岡 あ か ね

       

 近 年 、 ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド 運 動 の 中 で 女 性 芸 術 家 が 果 た し た 役 割 が 従 来 知 ら れ て い た よ り も 大 き か っ た こ と が 、 様 々 な 研 究 に よ っ て 明 ら か に な り 始 め て い る 。 本 ワ ー ク シ ョ ッ プ で は 、 こ

の 最 新 の 研 究 動 向 を 踏 ま え 、 主 に ド イ ツ 語 圏 の ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド 運 動 を 例 に 、 女 性 ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド が 芸 術 論 的 文 脈 の 中 で い か な る 男 性 / 女 性 表 象 を 生 み 出 し て い る か に 光 を 当 て る 。 同 時 に 、 ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド が 「 新 し い 人 間 」 を 探 究 す る 中 で 、 男 性 性 / 女 性 性 の 図 式 に 還 元 し き れ な い 多 様 な 性 の 体 験 が 表 現 さ

れ 、 支 配 的 な ジ ェ ン ダ ー 表 象 に 揺 さ ぶ り を か け る よ う な 人 間 像 が 生 み 出 さ れ る 様 子 を 明 ら か に す る こ と で 、 ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド に お い て ジ ェ ン ダ ー と い う 問 題 は 、 従 来 考 え ら れ て き た よ う な 周 辺 的 な も の で は な く 、 む し ろ 本 質 的 な 意 味 を 持 つ も の だ っ た こ と が 分 か る だ ろ う 。

小 松 原 由 理 (

神 奈 川 大 学

) 「 新 し い 女 / 新 し い 男 の 誕 生

? 

ダ ダ イ ス ト た ち の セ ル フ ポ ー ト レ ー ト と ジ ェ ン ダ ー 」  前 半 を 担 当 し た 小 松 原 は 、 と り わ け ダ ダ イ ス ト た ち が 好 ん で 創 作 し た セ ル フ ポ ー ト レ ー ト と い う 表 現 ス タ イ ル を 手 掛 か り

本 稿 の 著 作 権 は 著 者 が 保 持 し 、 ク リ エ イ テ ィ ブ ・ コ モ ン ズ 表 示 4. 0 国 際 ラ イ セ ン ス ( C C- B Y) 下 に 提 供 し ま す 。 htt ps:// cr e ati v e c o m m o ns. or g/li c e ns es/ b y/ 4. 0/ d e e d.j a

(2)

1 6 3

東 京 外 国 語 大 学 総 合 文 化 研 究 所   総 合 文 化 研 究   第 2 2 号 ( 2 0 1 8 ) T o k y o U ni v er sit y of F or ei g n St u di e s, Tr a n s- C ult ur al St u di e s N o. 2 2 ( 2 0 1 8)

は 、 踊 り 子 や 人 形 、 マ ネ キ ン と い っ た 、 身 体 性 を 前 面 に 出 し た

「 新 し い 女 」 像 に 「 新 し い 人 間 」 の イ メ ー ジ を 託 し て い る 。  こ れ ら の 「 新 し い 女 」 像 は 、 男 性 ダ ダ イ ス ト た ち に お い て

は し ば し ば 、 男 性 性 の 危 機 を 克 服 し 、 「 新 し い 男 」 を 描 く た め の パ イ ロ ッ ト イ メ ー ジ と し て 機 能 し て い る 。 ジ ョ ー ジ ・ グ ロ ス に よ る 、 自 由 自 在 で 柔 軟 な 身 体 を 持 ち 合 わ せ た 「 ゴ ム 男 」 の 表 象 や 、 男 性 ダ ダ イ ス ト の 作 品 に 多 く み ら れ る 「 機 械 人 間 」 の 表 象 は 、 い ず れ も 新 た な 「 男 性 性 」 を 再 構 築 す る た め の ト ラ イ ア ル で あ っ た と 言 え る 。 だ が 、 こ れ ら の 人 間 表 象 は 、 旧 来 の ジ ェ ン ダ ー ・ ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー を 一 層 強 固 に 反 復 す る も の で あ る が 故 に 、 男 性 ダ ダ イ ス ト の 描 く 「 新 し い 人 間 」 が 、 既 存 の 男 性 性 / 女 性 性 の 境 界 線 を ど こ ま で 塗 り 替 え 、 本 質 的 に ト ラ ン ス グ レ ッ シ ョ ン な 「 新 し い ジ ェ ン ダ ー 」 を 構 想 し え て い た か に つ い て は 疑 問 が 残 る 。

 ダ ダ イ ス ト た ち が 活 躍 し た 二 十 年 代 は 、 同 性 愛 研 究 が 大 き く 飛 躍 し 、 中 間 の 性 、 あ る い は 第 三 の 性 に 関 す る 認 知 が 進 み は じ め て い た 。 し か し 一 方 で 、 ダ ダ イ ス ト 達 は 未 だ 、 オ ッ ト ー ・ ヴ ァ イ ニ ン ガ ー 流 の 、 男 性 性 と 女 性 性 の 図 式 的 性 格 分 類 に と ら わ れ

て い た 。 こ の 点 で 、 男 性 ダ ダ イ ス ト の 両 性 具 有 的 作 品 は 、 両 性 の 属 性 の 根 本 を 問 い 直 す も の と ま で は 言 え ず 、 む し ろ ヴ ァ イ ニ ン ガ ー の ミ ソ ジ ニ ー 的 女 性 観 を 視 覚 的 に パ フ ォ ー マ ン ス す る

に と ど ま る 。 こ れ に 対 し 、 女 性 ダ ダ イ ス ト に よ る 脱 性 的 な セ ル フ ポ ー ト レ ー ト や 人 形 、 ダ ン ス パ フ ォ ー マ ン ス は 、 両 性 の 境 界 線 そ の も の を 取 り 壊 し 、 塗 り 替 え 、 飛 躍 す る 強 度 を 持 つ 。 こ れ こ そ が 女 性 ダ ダ イ ス ト の オ ー サ ー シ ッ プ の 強 度 の 証 と も な っ

て い る 。 ゆ え に 、 ル ー ス ・ ヒ ー マ ス の 言 葉 を 借 り れ ば 、 「 女 性

ダ ダ イ ス ト と は 、 最 も 男 性 ダ ダ イ ス ト が 恐 れ る 存 在 で あ っ た は ず 」 な の だ 。

西 岡 あ か ね (

東 京 外 国 語 大 学

) 「 ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド 神 話 と 女 性 の エ ク リ チ ュ ー ル 」

 後 半 を 担 当 し た 西 岡 は 、 初 期 表 現 主 義 の 詩 人 ゲ オ ル ク ・ ハ イ ム に 関 す る 伝 記 的 テ ク ス ト を 例 に 、 ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド 運 動 が 文 学 史 記 述 の 中 で 神 話 化 さ れ て ゆ く 過 程 で 、 ジ ェ ン ダ ー の 問 題 が ど の 様 に 現 れ て い る か を 報 告 し た 。

 表 現 主 義 な ど 、 ド イ ツ 語 圏 の 前 衛 芸 術 運 動 が 展 開 さ れ た 過 程 で 特 に 発 達 し た 表 現 ジ ャ ン ル が 様 々 な 伝 記 的 テ ク ス ト で あ る 。 こ こ に は 回 想 録 や 自 伝 は も ち ろ ん 、 手 紙 、 日 記 、 ア ン ソ ロ ジ ー の 序 文 、 あ る 作 家 の 作 品 集 へ の 寄 稿 な ど 、 様 々 な タ イ プ の テ ク ス ト が 含 ま れ る 。 そ の 際 、 あ る 前 衛 的 グ ル ー プ に 属 す る 芸 術 家 が 、 そ の グ ル ー プ の 中 心 と な っ て い る 特 定 の 詩 人 に 関 し て 、 そ の 行 動 や 身 体 的 特 徴 に 作 品 以 上 に 注 目 し 、 そ の 人 と な り を 繰 り 返 し 語 る と い う 特 徴 が あ る 。 こ れ は 、 こ う し た 人 物 が あ る 種 の 人 間 的 魅 力 や カ リ ス マ 性 を 持 っ て い た こ と の 証 明 の よ う に も

見 え る 。 し か し 、 サ ブ カ ル チ ャ ー 的 芸 術 運 動 で あ る 表 現 主 義 が 、 現 存 す る 芸 術 シ ス テ ム か ら の 離 脱 を 主 張 し 、 新 し い 「 別 の 」 芸

術 実 践 を 確 立 す る た め に 、 そ の 裏 付 け 、 あ る い は 実 践 者 た ち の 結 節 点 と な る 組 織 や 指 導 的 ・ 象 徴 的 人 物 像 を 必 要 と し て い た と い う 文 学 社 会 学 的 な 背 景 を 考 慮 し た と き 、 件 の 伝 記 的 語 り の 集 積 が 、 グ ル ー プ の 集 合 的 ア イ デ ン テ ィ テ ィ ー を 保 証 す る 「 象 徴

(3)

164

東京外国語大学総合文化研究所 総合文化研究 第 22 号(2018)

Tokyo University of Foreign Studies, Trans-Cultural Studies No.22 (2018)

的人物像」を、テクストの語りを通じて構築しようとする文学的営為であったことが分かる。

  事実、初期表現主義の芸術家グループ「新クラブ」のメンバーたちによって伝えられる、サークルの中心的詩人であるゲオルク・ハイムの姿は驚くほど似通っており、描写に用いられる語彙も奇妙なまでに共通している。いわく、「血色の良い顔色」や「若々しく、溌剌とした」態度、更には「がっしり」して「アスリート的」なスタイルなどが強調されることで、唯美主義的な詩人像が暗に否定されているのだ。すなわち、示し合わせたような伝記的語りの集積は、歴史的な「実像」を伝えているというよりはむしろ、グループの提唱する綱領に従ってある特定の詩人像を演出しようとする試みだと読むことが出来る。このような語りの実践を通じて、表現主義詩人は行動する「男性的」人物像(」、」、)に回収されてゆく。確かに表現主義の綱領には、イタリア未来派のようなあからさまに女性蔑視的言説は見られないが、その芸術実践は一義的に男性の、より厳密には青年の運動として構想されているのだ。

  更に、同時代においては運動の遂行そのものと重なりあう芸術実践であった伝記的語りの行為は、文学史記述という営為へと移行することで、アヴァンギャルドをめぐる一種の神話形成へと向かう傾向がある。すなわち、ハイムに関する回想的語りは、オフィシャルな文学史的記述としての体裁を取ることで、「新クラブ」の芸術実践とその体現者である詩人ハイムの(姿)比類のない創造的革新性を文学史的に再=演出しようと試みているのだ。この文脈にお いて見ると、「新クラブ」のメンバーたちの回想が、ハイムの姿の「自然さ」を強調し、あからさまに芝居がかった、演出的な彼のポーズを逆に作為のなさの現れと読み変えようとする、奇妙な傾向を持つ理由が分かる。すなわち自然さの演出、あるいは演出されていないことを演出するという、この特異な描写傾向の裏には、本来文学的に構成された綱領的な「表現主義詩人」の姿に真正性を獲得させようとする意図が隠されているのだ。  上述のような自伝的語りの戦略を用いて男性アヴァンギャルドが構築した、反逆的青年の運動としての表現主義神話に対し、この運動に参加した数少ない女性アヴァンギャルド達は、彼女たち独自の自伝的語りの実践を通じて、男性アヴァンギャルドによる語りを修正しようと試みている。エミー・バル=ヘニングスは、文学史家カール・ゼーリッヒに宛てて、「新クラブ」のメンバーたちが彼に伝えた、粗野で活動的な青年ハイムの姿は「扮装された」姿に過ぎないとしてこれを否定し、彼は「男性達が見ていたのと違った風でもありえた」のだと主張する。その際、彼女が描いて見せる「天使のような」、死に魅せられた「オフェーリアの恋人」としてのハイム像もまた、極めて文学的なイメージを伝えており、おおよそ「リアル」な伝記的描写とはかけ離れている。しかし、男性アヴァンギャルド達の語りの実践がいわば「真正さ」の演出を目指していたのに対し、彼女はそもそも自らの語りに「真正さ」の保証を与えようとはしていない。むしろ、非現実話法を用いつつ、ことさらに「女性」の視点を強調することで、「ありえた」別のハイム像を創出しようとしている。ヘニングスによる、女性の文学史

(4)

165

東京外国語大学総合文化研究所 総合文化研究 第 22 号(2018)

Tokyo University of Foreign Studies, Trans-Cultural Studies No.22 (2018)

的語りによって「男性的」アヴァンギャルド像を問題化しようとした試みは、男装という手段でアヴァンギャルドの実践をパロディー化した、エルゼ・ラスカー=シューラーの芸術実践とも通じるものがある。こうした女性アヴァンギャルドによる芸術実践の試みに光を当てることで、彼女たちが、「青年の運動」として構想されたアヴァンギャルド運動の中で、自身の芸術実践をどの様に位置づけようとしていたのか、また「困難な女性のオーサーシップ」をどの様に確立しようと試みていたのかが明らかになるだろう。二〇一八年十月三日(水)

参照

関連したドキュメント

“Archaeology a nd Contemporary Society” planned by authors a nd hosted by Center for Cultural Resource Studies, Kanazawa University, and informants of our fieldwork

Working memory capacity related to reading: Measurement with the Japanese version of reading span test Mariko Osaka Department of Psychology, Osaka University of Foreign

歴史的経緯により(マグナカルタ時代(13世紀)に、騎馬兵隊が一般的になった

As a matter of fact, in our recent meta-analysis pooling all available studies dated up to July 2018 [5], we included a total of 6 cohort studies consisting of 1213 patients

 2016年 6 月11日午後 4 時頃、千葉県市川市東浜で溺れていた男性を救

瀬戸内海の水質保全のため︑特別立法により︑広域的かつ総鼠的規制を図ったことは︑政策として画期的なもので