九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
災害時の緊急支援物流システムとその運用実態の分 析にもとづく物流システムの改善に関する研究
胡, 雨吟
https://doi.org/10.15017/4060147
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式2)
氏 名 :胡 雨吟
論 文 名 :災害時の緊急支援物流システムとその運用実態の分析にもとづく物流シ ステムの改善に関する研究
区 分 :甲
論 文 内 容 の 要 旨
近年、世界中で大規模な自然災害が多発している。自然災害に対する予測技術は高度化しつつあ るとはいえ、突然の自然災害は、被災各地に壊滅的な打撃を与えている。大地震を始めとし、気候 変動に起因する近年の災害の発生件数、被災者数はともに倍増しており、最近の30年間を見ても、
1987年~2016年の年間平均値は、被災人数で約2億2千万、犠牲者数で約6万、被害額約350憶ド ル以上であり、世界全体に占めるアジアの被害状況は、発生件数で世界の約4割、死者数の約6割、
被災者数の約9割、被害額で約5割にも及んでいる。
自然災害の中で、地震は発生する時点、場所および影響範囲などが、他の災害より予測困難であ り、有効な事前の予告や避難指示も難しい。また、強震度による自然の崩壊ほか、電力・水道、道 路、河川堤防などのインフラの被災、震災後の伝染病の流行などの二次災害と間接災害が被害を大 きくしている。地震の被害を最小限にとどめるためには、適時に効果的な救援活動が重要である。
特に震災直後の数日間は、被災者の救援活動のための貴重な時間であるが、二次災害による交通の 寸断にために、救援活動が非常に困難になるという状況にある。このため、物資支援活動に関して は、物流拠点と施設の整備、物資支援活動の事前計画と実行方法等について十分に研究し、迅速で 的確な実現可能性の高い緊急支援システムを構築することが求められている。
これらの現状を踏まえ、本研究は、道路運輸に関わる緊急支援物流システムについて、国際比較 分析を行い、事前の輸送計画に適用可能な数理モデルの検討を行ったうえで、熊本地震後の道路混 雑とその影響の分析、物流システムの構成や集積拠点の運営管理の実態調査と分析を行い、緊急支 援物流の体制の問題点を明らかにすることによって、実現可能性の高い今後の災害対策の改善策を 提案したものである。
本論文は、序論、本論および結論を含む7章で構成されている。
第1章では、序論として、本研究の背景及び目的について述べ、既往の研究を整理し、本研究の 構成を述べている。
第2章では、近年の海外および日本国内の緊急支援物流システムに関する基礎理論と技術の進捗 状況を文献に基づいて考察している。具体的には、災害後の緊急支援物流システムの定義、特徴と 果たすべき役割について述べ、災害頻発国の自然災害発生状況を調べた上で、代表的な3種類の緊 急支援システムの構成、現状の問題点を比較・分析したうえで、緊急支援物流システムの現状を明 らかにし、今後の緊急支援物流システムの改善点について考察している。
第 3 章では、緊急支援物流システムにおいて重要な支援物資の道路輸送に関する理論について、
過去の研究成果を整理した上で、代表的な最短時間と最高信頼度を目的関数とした緊急支援物資輸 送問題の最適化モデルを紹介し、これら2つの目的を同時に考慮するデュアル目的の最適化モデル を提案したうえで、それを四川大地震における緊急物資輸送の事例に適用して、有効性を確認して
いる。
第4章では、震災後の道路網の交通処理機能のレベルが、救援物資輸送に対して重要な影響要因 であるという認識から、熊本地震による道路の通行止めが九州全域の広域道路網の機能低下に及ぼ した影響を全体的にかつ定量的に評価することを目的としている。このため、熊本地震による九州 全域の通行止めデータを収集整理し、通行止め箇所の分布とその時間的変化を明らかにするととも に、通行止めの解除段階に応じた道路網への交通量配分計算によって、各段階の総走行時間と時間 損失額を算出している。さらに、東九州自動車道が九州の南北交通流動に対する九州自動車道の代 替路として機能し、震災後の広域交通における時間損失の抑制に寄与したことを明らかにしている。
第 5 章では、自治体や民間組織による災害時の初動、緊急対応等における救援物資輸送の実態、
緊急輸送道路の交通状況を明らかにすることを目的として、熊本地震における中小輸送事業者の輸 送実態と輸送経路および物流現場での支援物資の処理作業の実態の把握を行った。その結果として、
政府主導による輸送は、集積地と輸送ルートが定められ、統一管理システムがある程度機能してい たのに対し、自治体や民間組織による輸送では、必要物資に関する情報の遅延のため需給バランス がとれず、また輸送ルートの道路混雑や情報不足から輸送に長時間を要したこと、物資集積拠点で の作業体制の不備と集積拠点から避難所までの輸送計画の不十分さのために、現場での様々な混乱 を招いたことを示した。そして、これらを通して、熊本地震で東日本大震災の教訓が生かされた点 とそうでない点を明らかにしている。
第6章では、各章で得られた成果についてまとめ、第3,4,5章で得られた結果をもとに、震災 後の道路交通と支援物資に関する課題の対応策と物流システムの改善について提案している。
最後に第7章では、各章の結果を総括している。