言葉 の意味 と用法
国 広 哲 弥
1.欝の意義乗 と拡張用法
「赤」とい う色名は典型的には血の ような色を指すが,一方で 「赤砂糖」
とか 「赤嬢」の ように典型的 「赤」からひ どくかけ准れた色彩 も指す。一 般に語の意味 ・用法を考えるとき, この典型用法 と拡棄用法の二つを区別 した上で,両者を十分に記述す ることが必葵であるO従来は典型的な用蔭 のみに注意を払 って,拡張用法の範囲を十分に明らかにす ることは等閑に 付されていた ように思 うo拡張用法の範関は言語に よってズレがあること が多いので,特に対照言語学的に謂査す ることが必要である。上記の 「赤 砂糖」は英語では ̀brownsugar'となるo 同じく 「赤い髪の毛」̀redhair'
と言 って も,その指す実際の色合いはかな り異なる。
2.固有名詞の意味
意味論で も一般の辞典でも,固有名詞は言語の周辺部に位置す るもの と して, ほとん ど取 り上げ られてこなかった。 もし我 々の雷語習得の 目標が, 言語表現の意味を十分に理解す ることであれは.そして当然そ うあるべ き であるが,多かれ少なかれ一般に知 られているとい う前提で用いられてい る固有名詞が何を指しているかが分からないでは,理解に支障をきたす。
一般の辞典編集でも,新語が現われ ると,それが一般化していな くて もい ち早 く取 り入れ ようとす るが,反対に,本国人の多 くが知 っていて も,潤 有名詞は固有名詞であるとい う理 由だけで採録しない とい う風潮がある。
た とえば,Edsel,WaiterMitty,Norman Rockwell,Houdiniな どが何 を指すかを知らないでは Tt'melの記事 も読む ことはできない。
3.表現練達の比較 :知覚報告 をめ ぐって
二つの言語の問で質の よい翻訳を行なお うと思えば,両 者 の 問 の表 現
ZZユ
構造の違いを知 ってお くことが肝要であるO一例 として知覚報告を取 り上 げ る。 「角を左に曲がると,ポス トがあ ります」は英語の普通の表現では,
LTurntotheleft,andymttL)illj;ndamailbox there.'とな り, イタ リ ック体 で示した知覚報告の部分が 日本語では欠けている。なぜ この ような 相違が生 じるかは, もう一つの表現構造の違いである英語の人間中心表現 に対す る日本語の状況中心表現の対応8・・1求めることができる.知覚報告は まさに人間が表に出て くる表現なのである。 日本語表現で人間が表面に出 ることを嫌 うことと, 日本文化 との相関関係については,安易に結論を出 さない ように注意が必要である。外界を描写す るには, どの言語でも人間 中心 と状況中心のどちかを選は ざるを得ないからである。
4.認知活動 と言語表現
どの言語の場合 も,言語表現の裏には人間特有の外界認知法がひそんで いる.物の形を変化の痕跡 ととらえるのがその一つである。 これは普通の 修辞的比境 とは区別 され るもので,後者がな くても構わない装飾的な もの であるのに対 して,前者は,それなしには簡潔な表現が不可能 とい う性質 のものであるO「木が倒れている」と言 うが,実際に倒れ るところ を見 て いな くても, こう言 うのが普通である。 これ も,ある静的状況を変化の痕 跡 ととらえる表現であ り, これを比像 と感じる人はいない と思われ る。 こ の ように認知活動を視野に入れた研究を認知言語学 と呼ぶ ことがあ り, こ の視点は特に意味論,表現構造論において有効であると思われ る。