社会科における数理的モデル認識
福田 正弘*
(平成
1 6
年1 0
月2 9
日受理)So c i a lUn d e r s t a n d i n gwi t hMa t h e ma t i c a lMo d e li nSo c i a lSt u d i e s Ma s a h i r oFUKUDA
*( Re c e i v e dOc t o b e r2 9 , 2 0 0 4 )
0 は じめ に
本小論 は,社会科 にお いて数理教育 を展 開す るため に,社会科授業 で形成 を 目指す数理 的 モデル認識 に関 して基礎 的考察 を加 え,授業 開発 のための基本 スケ ッチを行 うもので あ る。
周知 の通 り,社会科 の教科書 や資料集, そ して授業 で は,多数 の統計 資料 が用 い られ, 数量 を用 いた社会把握 を子 ど もに行 わせて い る。 例 えば, われわれの調査 (福 田,
2 0 0 3 )
で は, あ る社 の中学校 用 の社 会科教科書 には, グ ラフと図表 が地理 的分野 で
1 2 3
,歴史 的 分野 で3 9
,公民 的分野 で9 9
件掲載 されて いた。生徒 は,社会科 の学習 にお いて,実 に多 く の数値 ・数量 に接 して い るので あ る。社会科学習で数量 が多 く用 い られ るの は,社会 を理解す る上 で効用が あ るか らであろ う。
社 会認識 にお け る数量 の効用 に着 目 し, 「社会認識 にお け る数量 の機能」 をわが国 の優 れ た古典 的 な社 会科 教 育実 践 か ら析 出 して い る研究 に岩 永
( 1 9 8 9
,1 9 9 2 )
が あ る。 氏 は,「山 び こ学校」 と 「村 の五年生」 を取 り上 げ, それぞれ の実践 にお け る数量 が持 っ社会認 識形成上 の意味 を分析 して い る。 その結果,数量 は社会 問題解決 において,問題 を構成要 素 に分解 し, その要素 間関係 を論理 的 に記述 す ることを通 して, 問題解決 の科学性 を保 障 す る機能 を果 た して い ると して い る。 例 えば, 山 び こ学校 の中で,江 口江‑ の 「母 の死 と その後」 は次 の よ うに分析, 整理 され る。 す なわ ち, 「母 はいか に死 に もの ぐるいで はた らいたか」 とい う問題 を,家計 の収支分析 とい う数量化 を通 して母 が減 らした借金 の額 と して表現 し直 され る。 そ して, これを契機 に して問題解決 の糸 口が家計 の収益構造 (土地 の狭陰 さ) に求 め られ, その点 を機軸 に した問題解決 が図 られて い るとされ るので あ る。 数量 が こう した認識 の契機 とな って い るとす るのであ る。
しか しなが ら, こう した数量 の機能 は,実 は数量 その もの機能 で はな く,数量 を用 いた あ るいは用 いよ うとす る認識 ス タイルその ものの機能 だ と言 えないだ ろ うか。 つ ま り,数 量化 す る以前 に,数量 を必要 とす る社会 モデルが あ ったので あ り,数量 が果 たす といわれ
た機能 は実 はその社会 モデルの機能 だ った とい うわ けで あ る。
一般 に,社会 的 な文脈 で用 い られ る数量 は, すで にあ る特定 の方法 で計量 され た数量 で
*長 崎大学教育学部 初等教育講座 (社会科教育)
あ る。 土地 の生産量 と面積 は,すでにその値 の使用 目的が決 ま ってお り, その 日的内で用 い られ る。 そ して,特定 の計量方法や単位 によ って,異体的な数値が計量 され るのである。
つ ま り,数量が先立 ってあるので はな く, その数量 を必要 とす る目的が あ り, その 目的 に 従 う 「社会 の数量 モデル」があ るのであ る。 そ して, この社会 の数量 モデルを生 み出す数 理 モデルがあるはずであ る。
われわれ は,社会科 において数理教育 を展開 しよ うとす るが, その 目指す ところは, こ うした社会 の数量 的認識 の基礎 にな る,数理的 モデル認識 の育成であ る。 本小論 で は,礼 会 の数理的モデル認識 に関 して基礎的考察 を加 え, それを もとに社会科授業開発のために, 幾 っかの具体 的な事例 につ いてその基本 スケ ッチを行 う。
1 モデル とは何 か 1.1モデルの定義
通常, モデル とは 「模型」 を指す とされている。模型 とは,本物 の ミニチ ュア版 を指す こともあ るが,本物 とは少 々姿 が異 な っていて もその 「機能」 をよ く実現 ・再現 している ものを指す こともある。 つ ま り,求 め る意味 によ って必要 とな る模型 も異 なるのである。
例 えば,飛行機 の場合,正確 な形 の再現 を求 め るな ら縮小 モデルが意味を持っ し,「飛行」
とい う機能 の再現 を求 め るな ら,全 く飛 ばないプ ラモデルよ りも,紙飛行機 の方が意味 を 持っか もしれない。
こうした常識的なモデル理解 は専門学 的 に も通用 し,辞典類 には次 のよ うな定義がなさ れている。
「客観的実在 や科学 のあ る一定 の領域 における もろ もろの対象,性質,関係が, ・・・
模写 された ものを意味す る。 ・・・モデル とな っている ものが内容的な対象系であ るか形 式的な記号系であ るか に応 じて, それぞれ 『内容的 ・技術的』 モデル と 『論理 的 ・数学的 モデル』 と称 され る。」 (哲学事典,1971)
「物理 ・生物 ・社会的 な システム (系) を理解す るために, それ とほぼ同様 な行動 をす る数学 ・物理 的な系」 (新版心理学事典,1981)
つ ま り, モデル とは実物 を模写 した もので あ るが, 内容 的な もの と形式 的 な ものの2種 が あ り,社会理解 のためのモデル は後者 とい うことな る。 簡単化すれば, 「複雑 な社会 シス テムを理解す るために作 られた,単純 な論理数学 的 システム」 とい うことがで きよ う。
1.2モデルの特徴
ところで, このよ うに単純 な論理数学 的 システムと して定義 されたモデルは, その論理 性 とシステムと しての機能性か ら,次 のよ うな特徴 を持っ と考 え られ る。
・簡潔性
複雑 な対象 を単純化 して表現 した ものであ るか ら簡潔性 は当然 であ るが, モデル記 述 の方法 と して 日常言語 による暖昧 さを,厳密 に定義 された言語,数式や論理式 によ っ て克服 して いる。
・抽象性
モデルは,現実世界か ら不要 な要素 を捨象 して,本質 的 と思 われ る必要 な要素 のみ で構成 され る単純 な世界である。 その意味で抽象的 な性格 を持っ 。
・普遍性
モデルは,少数 の要素 で構成 されてお り単純 であるので説明負荷が小 さ く,理解 さ れやす い。理解 されやす い ことは,間主観性 を確保 しやす く, その点で客観 的であ る といえ る。
・仮説性
モデルは世界説明のために,認識主体 が世界 に対 して当て はめた仮説 であ る。 それ ゆえ, モデルは仮説性 を免 れ ることはで きず,絶対的な真理性 を標梼 しえない。
・操作性
モデルは変数 によ って システムを記述 している。 その変数 には任意 の値 を入力で き, 結果 を シ ミュ レー トで きる。
・検証可能性
シ ミュ レー シ ョンによ ってモデルの当て はま り具合 や意思決定 の妥 当性 を具体的 に 検証 す ることがで きる。
・柔軟性
検証 によ って モデルの変数 や変数間の関係 を変更 してモデルの組 み替 え,追加 あ る いは廃棄が容易 にで きる。
2 社会認識 にお けるモデル 2.1認識 の指導性
社会認識 は,他 の認識同様,認識主体 の認識枠組 によ って社会事象が整理 ・解釈 され, その意味が把握 されて成立す る。 これ まで, われわれ は この認識枠組 を理論 や概念 と して 考 えて きたが, それ らを一括 して モデル と して考 え ることがで きる。 つ ま り,理論 や概念 は,社会 を見 る上 でのモデルの構成要素 の一つ, またはモデルその ものであると考 え るわ けであ る。
ところで,社会認識 の過程 を, モデルを用 いて説明す ると次 のよ うにな る。
・単純化 とアナ ロジー
認識対象 とな る社会 の事態 (複数 の社会事象か らなる)や社会 システムの中か ら必 要 な要素 を抽 出 し,単純化 モデルを作 る。 その際,類似的な機能 を示す他 のモデルを 探索 し, それに当て はめよ うとす る (アナ ロジー)。
・世界への当て はめ
作 り上 げたモデルを動か して,世界 に当て はめてみ る。 単純化 して選択 した構成要 素間の関係 が うま く機能 して いるか,被説 明事態 の現象が上手 く再現 して いるかを シ
ミュ レー シ ョンしてみ る。
・検証
必要 に応 じて,構成要素 で示 され る数値 デー タを現実 の世界か ら収集 し, モデルに 代入 し,現実 の世界での当て はま り具合 を検証 す る。
・残余要素 の取 り込 み
単純化 の過程 で捨象 された要素 を取 り込 み, よ り説明精度 の高 いモデルに改善 して い く。
このよ うに社会認識 は, モデル作 り ・当て はめか ら始 ま り, その検証 ・改善へ と進展 し てい くとい うモデルに指導 された過程 を辿 る。 モデルは社会認識 を指導 しているのである。
2 . 2
問題解決 とモデル社会認識 は 「ど うす ればよいか」 とい う実践 的認識 関心、の下 にな され る ことが多 く,
「なぜか」 とい う理論 的認識 関心、はその配下 に位置す るのが通常 であ る。 上 に示 した認識 過程 を問題解決過程 の脈絡 に置 き換 えて, モデルの働 きを書 き直 してみ ると次 のよ うにな
る。
・問題 との遭遇
・問題 の発生要素 の抽 出
・要素間関係 のモデル化 (アナ ロジーの探索)
・モデル構築
・当て はめ ・検証
・解決 のための最適解 の探索 あるいはモデル修正
問題解決が社会科学習 にお ける社会認識論 と して広 く認 め られ,問題解決学習が社会科 学習論 と して取 り入 れ られているが, ここに示 したモデルによる社会認識 は,従来 の問題 解決 に新 しい意味づ けを与 え る。 つ ま り,従来 の問題解決 は,仮説設定 ・仮説検証がその 核心部分 に位置 したが, その仮説 の意味が暖味であ った。 それを上 のよ うな特徴 を持っ モ デル と して定位す ることによ って,問題解決 自体が よ り精確 で,異体 的な もの となる。
3 数理 的モデル と社会認識
これ まで見 て きたよ うに社会認識 にお けるモデルは社会 システムを単純 な要素で説明す る論理数学的 システムである。 われわれ は世界 を 日常言語 で表現 して いるが, 日常言語 は 無定義 であ った り, あ るいは個人的 に使用 された りして いるので, 日常言語 による世界 の 表現 は,世界 を十分 に説明で きるもので はない。 モデルによ って世界 を説 明で きるために
は, 日常言語 を越 えた表現手法 を用 いる必要 があ る。
3.1モデルの表現手法 と数理的モデル
・イメー ジ (図) による表現
多 くの場合, モデルは図 と して示 され る。 図 は,要素間の複雑 な関係 を簡易 に表現 す ることがで きる。 例 えば,図1の 「年金会計推計 モデル」 は,年金会計 のあ る年度 の収入 と支 出, そ して積立額 を簡便
に表す図であ る。 つ ま り, これ は年 金会計 を 「風 呂の水入れ」 にアナ ロ ジー した もので,蛇 口か らは毎年 の 保険料払 い込 み額が入 り,水抜 き栓 か らは毎年 の年金支払 い額 が出て い き, その差額分がそれ まで溜 ま った 風 呂の水 に加算 されて い くとい う仕 組 みであ る。 この年金 の フローとス トックの仕組 みが簡便 に表現 されて いる。 モデルを着想す る際, まずわ れわれ は こうした図的 なアナ ロジー
を行 っているのである。 図 1 年金会計 モデル
・言語 (命題 による表現)
しか しなが ら, イメー ジによるモデル表現 は要素間の関係 を正確 に厳密 に表現す る ことがで きない。例 えば,上 の年金会計 モデルで は,毎年 の年金収支 の額 を,前年 ま でのス トックに加 え ることまで正確 に表現で きない。 また,収入や支出の項 目は何か,
どこまで含 まれ るかなど,細部 の記述 は コ トバを用 いた文表現 によ らざるをえない。
ただ し, 日常言語 は無定義 で使 われ るので, ここで は定義 された コ トバ によ って, モ デルの諸要素 と要素間関係が命題 と して記述 され る必要 があ る。
・数式 や論理式 (数式 による表現)
命題 による表現 は個 々の要素,関係 を精確 に記述 し,解釈 の揺 れを防止 す る。 しか し,命題 による表現 はすべて文表現 になるために,情報量 が大量 にな る。 さ らに,静 的 なモデルで はな く, ダイナ ミックな動 きをす るモデルで は,命題 によ ってその動 き を表現す ることは不可能 である。
例 えば,上 の年金会計 モデルで,年金 ス トックの表現 は, t年度 の保険料払 い込み 額 をIN(t),年金支払額 をOU(t),年金収支 をS(t),昨年度末 の年金 ス トックをR(t‑1)
とす ると,
S(t)‑IN(t)‑OU(t) R(t)‑R(t‑1)+S(t)
と書 くことがで きる。 この式 は,年金会計 の ダイナ ミックさを極 めて簡便 に表現 して いる。 しか も, それぞれの変数 に値 を入力す ることによ って,年金会計 の将来推移 を シ ミュ レー トで きる。 社会事象 には もっと複雑 な動 きを示す ものがあ るが, それ らを 表現す るには数式 が不可欠 であ る。 また,数値表現 に馴染 まないモデルは論理式 で記 述 で きるであろ う。
われわれ は, こうした数式 ・論理式 を用 いて表現 されたモデルを数理的 モデル とよ び, イメー ジや言語 によ る表現 と共 同 して有効 な社会認識 を形成す ると考 え る。
3.2数理的モデルによる社会認識 の特徴
数理的 モデルによる社会認識 は, これまで述べ たモデルによる社会認識 に加 えて,次 の よ うな特徴 を持っ 。
・シ ミュ レー シ ョン的認識
モデルの操作性が高 いので,任意 のパ ラメー タに入力 して演算 を実行 で きる。 した が って, 自身 の思考 の現実的 な帰結 を見 ることがで き,具体‑抽象‑具体 とい う思考 統合が可能 であ る。
・漸進 的問題解決 (社会工学的 アプ ローチ)
モデルで表現 された システムで最適解 を出す とい う問題解決手法 を とる。 解決 され ない残余問題 はモデルの改良 によ って解決策 を探 るとい う漸進主義的なアプ ローチを す る。 これ は,肯定か否定か によ って二値対立的 に論 じられ る社会問題解決 アプ ロー チに対 して,新 しい解決 ス タイルを示す ものであ る。
・モデル反省的認識
しか しなが ら,議論 で はモデルを常 に意識す ることにな り,批判 は シ ミュ レー ショ ン結果 とい うよ りも, そ うい う結果 を導 いたモデルその ものに対 してな され る。 現 モ デルの前提条件 を越 え るよ うな超 システム的 な解決策 は,別パ ラダイムのモデルを構
築す ることで実現 され る。
・文理融合 の総合的認識
こうした思考 は,文科系 とか理科系 とい った これ までの学校教育 の教科体系 を越 え た知識,能力 を総動員 した総合的な ものである。
4 数理 的モデル認識 を育 てる社会科授業
数理的モデルによる社会認識 を子 どもに育て るにはどのよ うな教育 プ ログラムが必要か。
本来,文理融合 の総合的な認識であ るので,社会科 とい う従来 の教科 目の中で論ずべ きこ とで はないか も しれないが,社会科 と してで きることを中心 に考 えてみたい。
基本的 に,数理的 モデルによる社会認識 を子 ど もに育 て る社会科授業 と して は,子 ど も が,社会 の中か ら数理 的モデルを抽 出 し把握す る授業 と,数理的 モデルを構築 し社会 に当 て はめ る授業 の2つが考 え られ る。
4.1数理的モデル獲得授業
社会 の中か ら数理的 モデルを把握す ることを 目指す授業 は,社会事象 を数理的 に捉 え る 訓練 と して社会科授業 を捉 え る立場 であ る。 数理的 モデルによる社会認識 は,社会問題 の 解決 のために,現実社会 に数理 的 モデルを当て はめ,社会問題 の発生 メカニズムを再現 的 に示 し,説 明す ることであ る。 そのためには, ど うい う仕組 みで社会事象が制御 され,礼 会問題 が発生 して いるのかを把握す る訓練 が必要 である。
しか し,現実 の社会 は,無限の変数 によ って事象が生起 してお り,単純 なモデルで は説 明で きない。 こうした現実 の複雑性 を無視 して,子 ど もに社会 の説明を求 めて も,子 ど も は混乱す るばか りであ る。結局,子 ど もの社会認識 は表層的な社会説 明 に留 ま り,単純 な モデルの把握す らで きないで終 わ る。
こうい う場合, や は り制御変数 を少数 に して, もっと説明 しやす い単純 な社会事象 を子 ど もに提示 し,子 ど もにモデルが見えやす くすべ きであ る。 また, モデルによる認識 は, 仮説的 ・実証的であるので, モデル獲得 の脈絡 は仮説 ・検証 が反復す るよ うな体験 的な文 脈であ るべ きであ る。 こう した ことか ら,適切 な学習方法 と してモデル獲得型 のゲ‑ ミン
グ ・シ ミュ レー ションをあげることが で きる。
たとえば,図2で示 され るモデルは, 横浜国立大学経営学部 が提供 して いる
ビジネ スゲ ー ム (YBG) の 「ベ ー カ リーゲーム」 を制御 して いる ビジネス モデルであ る。 このゲームは,パ ン屋 (ベ ーカ リー) を経営 す る シ ミュ レー ション ・ゲームである。 プ レイヤーは, パ ン屋経営 の意思決定 を行 い,他 のプ
レイヤーとともに形成す る市場 か らの 反応 を経営結果 と して受 ける。 その結 果 を見 なが ら,次 の意思決定 を行 って
い く。
ベーカリーゲームのビジネスモデル
逮
図2 ベーカ リーゲームの ビジネ スモデル (横浜国立大学経営学部,白井宏明氏提供)
プ レイヤーの意思決定項 目は,製品の販売価格,製 品の製造数, そ して材料 の調達数 の 3つであ る。 現実 のパ ン屋 の経営上 の意思決定 は多数 に及 び, こんなに単純 で はない。 し か し, モデルを現実 に合わせて複雑化 して も, ゲームが複雑 にな るだ けで, プ レイヤーが 能力的 に対応 で きなければ, ただあてず っぽ うで意思決定 を行 うだ けにな る。 ベーカ リー ゲームは, こう した点 に配慮 し,極 めて単純 な ビジネスモデルによ って構築 されている。
社会科授業 を数理的 モデルを把握す る訓練 と して考 え るな らば,教育 目的 によ ってモデル の難易 を設定 したゲー ミング ・シ ミュ レー ションは有効であ る。
4.2数理的モデル適用授業
数理 的 モデルを構築 し社会 に当て はめ る授業 は,社会科授業 を数理 的モデルを用 いた問 題解決 の訓練 と して考 え る。 ここで は社会問題 を数理 的な問題 と して解釈 し,社会問題 を 説 明す る数理 モデルを考案 し,実際 に シ ミュ レー トしてみて,問題 の最適 な解 を求 めてい くとい う学習 を行 う。 授業 の実際で は,必ず しも問題解決 にまで至 らな くて も,社会 問題 を数理 的 モデルで説 明で き, その発生 メカニズムを シ ミュ レー トで きればよい と考 え られ る。
こう した授業 と して,例 えば,将来人 口推計 モデルを構築 し, その推計 シ ミュ レー ショ ンか ら人 口問題 の解決策 を考 え るとい う授業 が考 え られ る。 巻末 の添付資料 は, その骨格 とな る人 口推計 モデルを高校生用 に解説 した ものであ る (平成13年 には,実際 に,表計算 ソフ トEXCELを用 いて高校生 に推計 を行 わせた)。
現在,社会科 で は,社会問題 に対 す る子 どもの意思決定能力 を育成 しよ うとす る授業が 脚光 を浴 び,子 ど もに様 々な意思決定 を行 わせ る傾 向が ある。 しか し,子 ど もが十分 な問 題分析力や解決能力 を持 たないまま政策的課題 に対 して意思決定 に走 らせ るの は, シ ミュ レー シ ョンゲームであてず っぽ うの意思決定 を行 う以上 に問題 だ と思 われ る。 ま してや, 社会問題 の淵源 をす ぐ価値葛藤 に持 って行 き,価値観 の対立図式 で問題 を設定す るや り方
は,共通理解 の可能性 や妥協 による解決 の方 向性 を妨 げ ることになる。
数理的 モデルはそれ 自身価値 中立的であ るが, あ る目的 に依存す るとい う意味で は道具 的で あ り,価値 の拘束性 を受 ける。 しか し,意思決定 の結果 を具体的 に示す ことがで き, それを通 しての相互批判 は,安易 に価値 の対立 と して問題 を解決不能 なアポ リアに遠 ざけ ない。価値 が対立す るな ら, その対立 の中で相互 に認 め うる社会 システムを構築 してい く べ きであ る。 数理 的モデルはそ うした社会形成 を可能 にす るのであ って, そのための思考 方法 を社会科授業で育ててい くべ きであ る。
5 おわ りに
本小論 は,社会科 において数理教育 を展開す るために,社会科授業 で形成 を 目指す数理 的 モデル認識 に関 して基礎的考察 を加 え,異体的な事例 をあげなが ら授業開発 のための基 本 スケ ッチを行 った。
その内容 を整理 してお くと,次 のよ うにな る。
・モデル とは世界 システムの論理数学 的模型 であ り, われわれが世界 を認識す る際 に, 世界 に当て はまめて いるものであ る。
・問題解決 と して捉 え られ る社会認識 においてモデルは指導的 な働 きを してお り,社会
認識過程 をモデルによ る認識過程 と して捉 え ることがで きる。
・モデルが元来論理数学 的 な性格 を持 っ ことか ら, モデル は数理 的で あ る。 数理 的 モデ ル は社会問題解決 の シ ミュ レー シ ョンを可能 に し,具体 的解決 に寄与 す る。社会科授 業 で は,数理 的 モデルによ る社会認識 を育成 すべ きであ る。
・社会科授業 を数理 的 モデル認識 の訓練 と して捉 えた場合,社会現象 か ら数理 的 モデル を把握 す る授業 と,数理 的 モデルを社会 に適用す る授業 の2つが考 え られ る。
これ らの考察 を通 して,数理 的 モデル認識 を育成す る新 しい授業像 を構築 して い く上 で 必要 な論点 を出 し,具体 的 なプ ラ ンを提示 した。今後, これ らのプ ラ ンに基 づ いて行 った 授業実践 につ いて報告 し, その成果 を評価 して い きたい。
付 記
本稿 は, 平 成15‑16年度 文部科学 省科学 研究費補助 金特 定領域研 究(2)(領域 名 :新 世 紀型理数科 系教育 の展 開研究),研究題 目名 「社会科及 び社会 系教科 にお ける数理教育 の 実践 と評価」 (研究代表者 :福 田正弘,課題番号 :15020251) の研究成果 の一部 で あ る。
文 献
福 田正 弘(2003).『社会科及 び社会系教科 にお け る数理教育 の可能性』,平成14年度科学研 究費補助金特定領域研究(2)研究成果報告書.
福 田正 弘 ・山下英 明(2003).「数理 的思考 を活用 した歴史授業
」
『長 崎大学教育学部紀要教 科教育学』41号,pp.1‑14.岩永健司(1989).「社会認識過程 にお ける数量 の機能一 『山 び こ学校』 の場合‑」,全 国社 会科教育学会 『社会科研究』37,pp.125‑135.
岩永健司(1992).「社会認識過程 にお ける数量 の機能II‑ 『村 の五年生』 の場合‑」,全 国 社会科教育学会 『社会科研究』40,pp.53‑62.
日本数理社会学会(2004).『社会 を (モデル) でみ る‑数理社会学 への招待‑』,勃葦書房.
巻末資料
1.将来人 口推計 モデル 1.1将来推計 の困難 さ
推計 ‑既知 の ものか ら未知 の ものを知 る こと
我 々に とって分か って い ること :過去 のデー タと, そ こか ら読 み取 れ る傾 向 J
これを もとに,将来 を推計
将来 の姿 ‑過去 のデー タを (傾 向) の方 向 に変化 させ た姿
例 えば,人 口が毎年1%ずっ増加 して い るな ら,来年 は今年 の1%増 しと推計 で きる。
しか し, この推計 は,
(傾 向) が過去 の デー タか ら見 出 され る こと (傾 向) が将来 も継続す る ことが保証 され る こと
を前提 に している。 社会の場合,両方 とも怪 しい ?
例えば,1%の人 口増加率 は,実 は少子化 による減少分を,長寿化 による増加分でカバー した ものだ と した ら,長寿化が限界 に行 き着 いた ときには妥 当 しな くなる。
さて, どうして推計すればいいだろうか ?少 な くとも,全体 の傾向が こうだか ら,次 も こうだろうで は通用 しない。
1.2基本的な考え方
前年 のデータを引 き継 ぐ漸化式 の発想
来年 の人 口‑今年 の人 口‑来年 の死亡者数 十来年 の出生児数
‑来年 の生残者数 十来年 の出生児数 (海外移動 は考慮 しない)
来年 の生残者数 ‑今年 の生残者数 ×生残率 来年 の出生児数 ‑今年 の女子生残者数 ×出生率
ただ し,生残率 も出生率 も年齢層 によ って異 なる。
また,出生可能 なのは女子だ けなので,男女別 データ,推計が必要。
J
各年齢男女別 に推計す る必要。
1.3コーホー ト要因法
年齢層 を単位 とす る推計方法 を, コーホー ト要因法 とい う。
人口推計の手順
0歳 1‑ 100歳以上
国立社会保 障 ・人 口問題研 究所 『日本の将来推計人 口平成 14年1月推計』2002年 、厚生統 計協会、p.8を一部簡略化
1
. 4
推計式求 め る人 口 :任意 の年次tの総人 口TN(t) 男 の総人 口TNm(t) 女 の総人 口TNf(t)
Ⅹ歳 の男 の人 口‑Nm(Ⅹ,t)
Ⅹ歳 の女 の人 口‑Nf(Ⅹ,t) TN(t)‑TNm(t)+TNf(t)
= コ Ⅹ歳 の人 口‑N(Ⅹ,t)
=X∑Nm(‑0 Ⅹ,t)+差.Nf(Ⅹ,t)
=Nm(0,t)
+
xSlNm(Ⅹ,t)+Nf(0,t)+x$lNf(Ⅹ,t)t年度 の出生児数
年齢別 出生率‑F(Ⅹ,t)
出産可能 なの は15‑49歳 の女性 49
N(0・t)‑x$15(Nf(x,t)*F(x,t))‑Nm(0・t)+Nf(0・t)
男児 出生性比‑SRBm(t)女 児 出生性比‑SRBf(t) 男児 出生数Nm(0,t)‑SRBm(t)*N(0,t)
49
=SRBm(t)*xE5(Nf(x・t)*F(x・t)) 女児 出生数N∫(0,t)‑SRB∫(t)*N(490,t)
‑SRBf(t)
*
xB5(Nf(x,t)*F(x・t)) 生残人 口男子年齢別生残率‑Sm(Ⅹ,t) 女子年齢別生残率‑Sf(Ⅹ,t) 男子生残人 口Ⅹ∑Nm(‑1 Ⅹ,t)‑xSl(Nm(Ⅹ‑1・t‑1)*Sm(Ⅹ‑1,
t ‑ 1 ) )
女子生残人 口Ⅹ∑Nf(‑1 Ⅹ・t)‑xS,(Nf(Ⅹ‑1,t‑1)*Sf(Ⅹ‑1・
t ‑ 1 ) )
よ って,
49
TNm(t)‑SRBm(t)*∑(Ⅹ‑15Nf(Ⅹ,t)*F(Ⅹ,t))+∑(Ⅹ‑1Nm(Ⅹ‑1,t‑1)*Sm(Ⅹ」,レ1)) 49
TNf(t)‑SRBf(t)
* X
∑(‑15Nf(Ⅹ,t)*F(Ⅹ,t))+∑(X
‑1Nf(Ⅹ1,t‑1)*Sf(Ⅹ‑1,t‑1)) ゆ え に,TN(t)‑TNm(t)十TNf(t) 49
‑SRBm(t)
* X
∑(‑15Nf(Ⅹ,t)*F(Ⅹ,t))+∑(X
‑1Nm(Ⅹ‑1,t‑1)*Sm(Ⅹ‑1,t‑1)) 49・SRBf(t)誓 15(Nf(Ⅹ,t)*F(Ⅹ,t))+X∑(‑1Nf(Ⅹ‑i,t‑1)*Sf(Ⅹ‑1,tl1))