九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
サウナ ニヨル セイリ シンリ ハンノウ ト カンゴ ヘノ オウヨウ
宮園, 真美
九州大学大学院保健学部門 臨床看護学講座
https://doi.org/10.15017/19720
出版情報:Kyushu University, 2010, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
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第2章
頸部下ドーム型サウナ使用時の若年者の生理・心理反応
16 2.1. はじめに
サウナの温 熱 効 果 は、末 梢 循 環 改 善 や発 汗 促 進 に関 わることが示 唆 されており(河 原 ら 2002)、温 熱 性 血 管 拡 張 作 用 は心 不 全 患 者 において、血 行 動 態 、神 経 体 液 性 因 子 、自 律 神 経 、血 管 内 皮 反 応 等 の機 能 改 善 効 果 をもたらしている(増 田 ら 2007、
木 原 ら 2003)。サウナによる効 果 は、心 不 全 患 者 への治 療 のみならずリラクゼーション や疼 痛 の緩 和 などにおいても証 明 されている(増 田 ら 2005)ことから、サウナのような温 熱 療 法 の活 用 は、高 齢 者 や入 院 患 者 を対 象 とした看 護 介 入 としても有 用 であると考 える。特 に高 齢 者 や入 院 患 者 にサウナを実 施 することで、薬 物 を使 用 しない安 全 な方 法 で質 の高 い睡 眠 や、疼 痛 緩 和 、リラクゼーション効 果 が得 られるならば医 療 費 高 騰 の抑 制 にもつながる可 能 性 がある。
そこで、本 実 験 はサウナの実 施 による基 礎 的 データの把 握 を目 指 して、対 象 を健 康 な若 年 者 に設 定 して行 った。サウナの種 類 は多 様 であるが、後 に高 齢 者 や患 者 へ使 用 するためにはより安 全 ・安 楽 な方 法 による実 施 が求 められる。体 位 は、血 行 動 態 の 変 動 を最 小 限 にするために、臥 床 状 態 で実 施 できるタイプが適 切 と考 えた。通 常 のサ ウナでは立 ち上 がりや移 動 が必 要 であり、その際 の血 圧 の変 動 が予 測 されたためであ る。また、一 般 的 な高 温 乾 式 (70-120℃)のサウナ室 へ入 室 し全 身 を曝 露 する方 法 に 比 べると、頸 部 以 下 のみサウナに曝 露 する方 法 は、頭 部 が熱 気 内 に晒 されず、通 常 の室 温 湿 度 において呼 吸 ができるのでサウナ内 で呼 吸 をするより比 較 的 呼 吸 が楽 に なると思 われる。また、先 行 研 究 においても頭 寒 足 熱 型 の温 度 勾 配 の方 が温 熱 的 不 快 感 は生 じにくいという報 告 (松 尾 ら 2006)もある。そこで今 回 は、臥 床 したまま頸 部 下 のみ遠 赤 外 線 による高 温 曝 露 ができる頸 部 下 ドーム型 サウナ(家 庭 用 遠 赤 外 線 サウ ナ、「スマーティF4-NX」(フジカ):有 機 炭 素 を材 料 とする面 状 発 熱 体 が反 円 状 の壁 面 に装 着 されているため、対 象 に向 かって遠 赤 外 線 が照 射 される。以 下 ドーム型 サウナ) を選 択 した(図 2.1)。
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図 2.1. ドーム型 サウナの外 観
図 2.2. ドーム型 サウナ内 温 度 :温 度 レベル高 の場 合 (株 )フジカ提 供 資 料 の一 部 を改 変
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ドーム型 サウナは大 ドーム内 にAヒーター、Bヒーター、小 ドーム内 にCヒーター、Dヒ ーターが装 備 されており、それぞれの面 から遠 赤 外 線 が照 射 される。図 2.2.は、ドーム 型 サウナ温 度 設 定 を出 力 100%にした場 合 のドーム壁 面 の温 度 とドーム内 (中 央 部 分 の)温 度 である。頸 部 下 ドーム型 サウナを使 った実 験 の先 行 研 究 はなく、その生 理 ・心 理 的 影 響 についての科 学 的 な検 証 は十 分 ではない。そこで、ドーム型 サウナ温 度 の 検 証 として、ドーム型 サウナの温 度 を通 常 のサウナ浴 で使 用 される温 度 70-120℃に近 い総 出 力 100%の最 高 温 度 と、温 熱 療 法 で使 用 される温 度 60℃に近 い総 出 力 50%の 中 間 温 度 で比 較 した。
深 部 体 温 測 定 については通 常 直 腸 温 、食 道 温 、鼓 膜 温 等 が用 いられるが、 今 後 高 齢 者 や入 院 患 者 を対 象 にサウナを使 用 した際 に直 腸 温 等 での評 価 が困 難 な場 合 も考 えられるため、熱 流 補 償 法 による深 部 体 温 計 を使 用 し、直 腸 温 と比 較 検 討 するこ ととした。
本 研 究 では次 の3つを目 的 とする。
①健 常 若 年 者 を対 象 とし、頸 部 下 ドーム型 サウナ使 用 時 の生 理 ・心 理 反 応 について 基 礎 的 資 料 を得 る。
②①の一 環 として、額 の熱 流 補 償 法 による深 部 体 温 と直 腸 温 の比 較 を行 う。
③①を基 に、高 齢 者 や入 院 患 者 を対 象 としたサウナ実 施 のための条 件 や方 法 を検 討 する。
19 2.2. 実 験 方 法
1)被 験 者
循 環 器 疾 患 等 の既 往 がない健 常 な若 年 男 性 10名 (年 齢 :20.9±1.3歳 、身 長 172.9
±7.3cm、体 重 62.3±6.5kg)とした。対 象 者 には、循 環 器 専 門 医 師 の問 診 票 による健 康 チェックを行 い、研 究 目 的 と内 容 について十 分 な説 明 を行 った上 で、書 面 による同 意 を得 た。本 研 究 は九 州 大 学 医 系 地 区 部 局 倫 理 審 査 委 員 会 の承 認 を受 けた。
2)実 験 期 間 .場 所
2007年 8月 に九 州 大 学 大 学 院 芸 術 工 学 研 究 院 環 境 適 応 研 究 実 験 施 設 において 実 施 した。
3)実 験 条 件
頸 部 下 ドーム型 サウナ(以 下 ドーム型 サウナ)は数 段 階 の温 度 レベルの設 定 が可 能 であるが、その中 で今 回 は、 総 出 力 100%:70-90℃(以 下 HL)と 総 出 力 50%:60-85℃(
以 下 ML)の2種 類 のサウナドーム温 度 を検 討 した。深 部 体 温 0.7-1.0℃の上 昇 を目 指 し 、 一 人 の 被 験 者 に 対 し 実 験 を 2 回 、 時 間 帯 を 統 一 し て 実 施 し た 。 室 温 22 ℃ 、 湿 度 50%に制 御 し、被 験 者 の衣 服 はトランクスとガウンタイプの病 衣 とした。
4)実 験 手 順 と測 定 項 目 (図 2.3.)
被 験 者 は排 尿 、200mlの飲 水 をした後 、実 験 室 へ移 り10分 間 の安 静 臥 床 とした。
その後 、事 前 に各 条 件 の温 度 レベルに設 定 し電 源 をONにしたままで準 備 しておいた ドーム型 サウナを、被 験 者 に被 せ30分 、電 源 をOFFして30分 、ドーム型 サウナを除 去 して30分 、計 100分 間 安 静 臥 床 とした。10分 間 の安 静 時 間 からドーム型 サウナを除 去 す る ま で の 100 分 間 に 、 血 圧 お よ び 心 拍 数 ( オ ム ロ ン デ ジ タ ル 自 動 血 圧 計 HEM-9000AI)、深 部 体 温 (直 腸 温 (Hardware LT-8 Series)と熱 流 補 償 法 (テルモ社 製 コアテンプCM-210型 )による深 部 体 温 (額 ))の測 定 を行 った。安 静 時 、サウナ内 電 源 ON、サウナ内 電 源 OFF、サウナ除 去 後 の4時 点 で、主 観 的 温 冷 感 (「熱 い」「温 かい」
「やや温 かい」「どちらでもない」「やや涼 しい」「涼 しい」「寒 い」の7項 目 )、温 熱 的 快 適
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感 (「とても快 適 」「快 適 」「やや快 適 」「どちらでもない」「やや不 快 」「不 快 」「とても不 快 」 の7項 目 )の自 己 申 告 による調 査 を行 った。実 験 の前 後 には、体 重 測 定 (測 定 精 度 1g:
ID1Plus KCC150;METTLER)と採 血 (血 算 、ヘマトクリット値 、ヘモグロビン値 )を行 った。
ドーム型 サウナ内 側 壁 面 の温 度 は、ドーム内 中 央 部 測 定 で97℃(上 半 身 上 部 )、72℃
(上 半 身 下 部 )、99℃(下 半 身 上 部 )、108℃(下 半 身 下 部 )であり、ヒーター最 上 部 中 央 で測 定 したドーム内 温 度 と乖 離 がないことを確 認 した(「製 造 元 フジカ」データ提 供 )。
実 験 中 のドーム型 サウナ内 の気 温 は放 射 熱 を遮 断 しその影 響 を排 除 した上 で被 験 者 の腹 部 付 近 で着 衣 に接 触 しないように測 定 (Hardware LT-8Series)した。
なお、熱 流 補 償 法 による深 部 体 温 測 定 は体 表 面 からの熱 の放 散 を見 かけ上 0にす ることで、体 深 部 から体 表 面 への熱 流 をなくして体 表 面 と体 深 部 とを熱 平 衡 状 態 とし、
その状 態 で体 表 面 温 度 を測 ることで体 深 部 と同 じ温 度 を計 測 して体 表 面 から間 接 的 に体 深 部 体 温 を測 定 するものである。深 部 体 温 測 定 装 置 内 は、体 表 面 に接 触 する測 定 面 側 から順 に第 1の温 度 センサ、第 2の温 度 センサ、ヒーターを備 えている。第 1の温 度 センサと第 2の温 度 センサとの間 には、断 熱 材 を備 える加 熱 型 の深 部 体 温 計 を用 い、
測 定 面 を体 表 面 に密 着 させて第 1の温 度 センサで体 表 面 温 度 を計 測 するとともに、第 2の温 度 センサでヒーター温 度 を計 測 し、それら第 1、第 2の温 度 センサの温 度 差 が0に 近 づくようにヒーターの温 度 を制 御 することで熱 流 を補 償 して深 部 体 温 を測 定 する。
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図 2.3. 実 験 手 順 と 測 定 項 目
22 5)統 計 解 析
測 定 結 果 は全 て平 均 値 (標 準 偏 差 )で示 した。深 部 体 温 、血 圧 、心 拍 数 の経 時 変 化 の検 定 には、2つの温 度 レベルと51回 反 復 する測 定 値 の時 系 列 変 化 、ドーム型 サ ウナ内 温 度 の経 時 変 化 の検 定 には7回 の反 復 する測 定 値 の時 系 列 変 化 に対 して、
反 復 測 定 分 散 分 析 (repeated-measure Analysis of Variance)を行 った。多 重 比 較 検 定 にはBonferroniを用 いた。体 重 減 少 、気 分 調 査 チェックリスト点 数 の条 件 間 および サウナ実 施 前 後 の比 較 、温 冷 感 ・温 熱 的 快 適 感 のサウナ10分 後 、30分 後 比 較 には、
対 応 の あ る t 検 定 (paired-t test) を 用 い た 。 ま た 、 統 計 解 析 ソ フ ト に は 、 P A S W S t a t i s t i c s 1 8 お よ び P A S W A d v a n c e d S t a t i s t i c s 1 8 を使 用 した。統 計 処 理 にお いて危 険 率 5%未 満 を有 意 水 準 とした。
23 2.3. 結 果
1)ドーム型 サウナ内 温 度 、直 腸 温
ドーム型 サウナ内 の温 度 を図 2.4.(A)に示 す。ドーム型 サウナ内 の温 度 は、ドームを 被 験 者 に被 せてから、HLは20分 で82.0(8.7)℃、MLは26分 で70.9(11.6)℃まで上 昇 し、
電 源 を切 ると急 激 に低 下 した。なお、ドーム型 サウナ内 温 度 はドーム内 気 温 のことであ り、放 射 熱 を遮 断 しその影 響 を排 除 したものである。
直 腸 温 の経 時 的 変 化 を図 2.4.(B)に示 す。直 腸 温 はHL、MLともに安 静 時 から除 々 に上 昇 し、電 源 を切 った後 も上 昇 が続 いた。体 温 下 降 はサウナを除 去 した約 10分 後 から見 られた。直 腸 温 の最 高 値 はHLが37.7(0.3)℃、MLが 37.6(0.4)℃であった。安 静 時 最 低 値 からの体 温 上 昇 は両 レベルとも約 0.8℃であった。分 散 分 析 の結 果 、温 度 レ ベ ル と 時 間 経 過 の 交 互 作 用 は 見 ら れ ず 、 時 間 経 過 に よ る 主 効 果 は 有 意 で あ っ た (F(50,450)=199.9, p<0.01)。温 度 レベルによる主 効 果 は見 られなかった。多 重 比 較 検 定 を行 ったところ、サウナ浴 前 値 平 均 と電 源 OFF後 0分 以 降 のデータに有 意 差 を認 め た(p<0.05)。
2)熱 流 補 償 法 による深 部 体 温 (額 )と直 腸 温
熱 流 補 償 法 による深 部 体 温 (額 )と直 腸 温 の経 時 的 変 化 をHLにおいて比 較 したも のを図 2.5.に示 す。直 腸 温 と同 様 にサウナ内 の電 源 ONの後 半 より体 温 が上 昇 し、電 源 OFFの時 点 まで同 様 の上 昇 を続 けた。安 静 時 最 低 値 からの体 温 上 昇 は熱 補 償 法 による深 部 体 温 も直 腸 温 も双 方 とも約 0.8℃であった。サウナを除 去 した回 復 期 には約 0.4℃の差 があったが、回 復 期 を除 き両 測 定 値 に大 きな差 異 はなかった。分 散 分 析 の 結 果 によっても、測 定 法 による主 効 果 は見 られなかった。温 度 レベルと時 間 経 過 の交 互 作 用 は 見 ら れ ず 、 時 間 経 過 に よ る 主 効 果 は 有 意 で あ っ た (F(50,450)=122.8, p<0.01)。多 重 比 較 検 定 を行 ったところ、サウナ浴 前 値 平 均 と電 源 OFF後 0分 以 降 の データに有 意 差 を認 めた(p<0.05)。
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図 2.4.レ ベ ル 高 (HL) と レ ベ ル 中 (ML) に お け る ド ー ム 型 サ ウ ナ 内 温 度 (A) と 直 腸 温 の 比 較 (B)
(A)
(B)
25 3)心 拍 数
心 拍 数 の経 時 的 変 化 を図 2.6.に示 す。心 拍 数 はHL、MLともにドームを被 せてから 徐 々に上 昇 し、電 源 を切 ってからも約 30分 上 昇 し続 けた。心 拍 数 の安 静 時 最 低 値 は HL が 65.3(15.1) 拍 / 分 、 ML が 60.8(10.1) 拍 / 分 で あ り 、 最 高 値 は HL が 92.8(16.3) 拍 / 分 、MLが89.2(18.1)拍 /分 と両 レベルとも約 28拍 /分 増 加 が認 められた。分 散 分 析 の 結 果 、温 度 レベルと時 間 経 過 の交 互 作 用 は見 られず、時 間 経 過 による主 効 果 は有 意 であった(F(50,350)=27.2,p<0.01)。温 度 レベルによる主 効 果 は見 られなかった。多 重 比 較 検 定 を行 ったところ、サウナ浴 前 値 平 均 と電 源 OFF20分 からドーム除 去 後 8分 の データに有 意 差 を認 めた(p<0.05)。
4)収 縮 期 血 圧
収 縮 期 血 圧 の経 時 的 変 化 を図 2.7.に示 す。収 縮 期 血 圧 はHL、MLともにサウナを 被 せてからゆっくりとした上 昇 傾 向 があった。収 縮 期 血 圧 の最 低 値 は、ドームを被 せ10 分 後 にHLで106.0(6.0)mmHg、ドームを被 せて22分 後 にMLで106.7(8.7)mmHgを認 め た。最 高 値 はドームを除 去 した18分 後 にHLで113.0(6.8)mmHg、ドームを除 去 した16 分 後 にMLで114.0mmHg(10.4)であった。いずれも測 定 中 に約 7mmHgの上 昇 が見 られ た。分 散 分 析 の結 果 、温 度 レベルと時 間 経 過 の交 互 作 用 は見 られず、時 間 経 過 によ る主 効 果 は有 意 であった(F(50,450)=3.4,p<0.01)。温 度 レベルによる主 効 果 は見 られ なかった。
5)拡 張 期 血 圧
拡 張 期 血 圧 の経 時 的 変 化 を図 2.8.に示 す。HL、MLともにサウナを被 せてから徐 々 に 低 下 傾 向 を 示 し た 。 拡 張 期 血 圧 の 最 高 値 は い ず れ も 安 静 時 で 、 HL が 56.8(6.5)mmHg、MLが57.2(4.7)mmHg であった。最 低 値 はサウナ電 源 をOFFして20 分 後 にHLで47.8(5.8) mmHg、18分 後 にMLで50.5(6.9)mmHgであった。
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図 2.5. 熱 流 補 償 法 に よ る 深 部 体 温 (額 )と 直 腸 温 の 経 時 的 変 化
( HL に お い て 比 較 )
図 2.6. HL と ML に お け る 心 拍 数 の 経 時 的 変 化
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図 2.7. HL と ML に お け る 収 縮 期 血 圧 の 経 時 的 変 化
図 2.8. HL と ML に お け る 拡 張 期 血 圧 の 経 時 的 変 化
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どちらのレベルにおいても、約 7mmHgの血 圧 低 下 があった(p<0.05)。分 散 分 析 の結 果 、 温 度 レベルと時 間 経 過 の交 互 作 用 は見 られず、時 間 経 過 による主 効 果 は有 意 であっ た(F(50,400)=6.7,p<0.01)。温 度 レベルによる主 効 果 は見 られなかった。
6)体 重 減 少 量 およびヘマトクリット値
サウナ前 後 の体 重 減 少 量 の比 較 では、MLが810(258.5)g、HLが840(322.5)gで、両 レベル間 に有 意 差 はなかった。体 重 比 はサウナ前 からMLで0.2、HLで0.3減 少 した。
血 液 デ ー タ の う ち 、 ヘ マ ト ク リ ッ ト 値 の 平 均 値 は 実 験 前 は HL が 44.7(1.9)% 、 ML が 44.5(1.7)%で、正 常 範 囲 内 の変 化 であるが、実 験 後 に1.3-1.4%の増 加 が見 られ、両 レ ベルとも実 験 前 後 に有 意 差 があった(p<0.05)。レベル間 には有 意 差 はなかった。
7)主 観 申 告
温 冷 感 および温 熱 的 快 適 感 の変 化 を図 2.9.に示 す。温 冷 感 はサウナ内 に 入 って 10分 経 過 した時 点 でMLが0.7(1.1)g、HLが0.4(0.5)で、「どちらでもない」から「やや温 かい」と答 えていたが、30分 経 過 した時 点 でMLが2.5(0.5)g、HLが2.6(0.5)と、両 レベ ルとも全 ての被 験 者 が「温 かい」から「暑 い」と答 え、両 レベル間 に有 意 差 はなかった。
両 レベルともそれぞれサウナ内 10分 時 の値 とサウナ内 30分 時 の値 に有 意 な差 を認 め た(p<0.05)。温 熱 的 快 適 感 はサウナ内 に入 って10分 経 過 した時 点 ではMLが1.2(0.9)g、
HLが1.7(0.9)で、両 レベルとも「やや快 適 」から「快 適 」であったが、30分 経 過 した時 点 では、MLが-1(0.9)g、HLが-2.1(0.9)で、ほぼ全 員 が「やや不 快 」から「不 快 」を訴 えた。
両 レベルともそれぞれサウナ内 10分 時 の値 とサウナ内 30分 時 の値 において有 意 な差 を認 めた(p<0.05)。
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図 2.9. HL と ML に お け る 温 冷 感 お よ び 温 熱 的 快 適 感
30 2.4. 考 察
1)体 温 変 化 と熱 補 償 法 による深 部 体 温 測 定
直 腸 温 は両 レベルともサウナによる温 熱 刺 激 によって約 0.8℃上 昇 した。これは湯 温 40℃に10-20分 間 入 浴 する場 合 と同 等 の体 温 上 昇 と考 えられる(樗 木 ら 2004)。今 回 の研 究 では、ドーム型 サウナの使 用 によって温 湯 を使 用 することなく、静 水 圧 の影 響 を 受 けずに、入 浴 と同 等 の体 温 上 昇 を認 めることができた。Law of Arrhenius(アレニウス の法 則 )にもあるように、温 度 は高 いほど生 化 学 反 応 速 度 が促 進 される(入 来 2005)た め、 今 回 の 平 均 0.8 ℃の 深 部 体 温 上 昇 に よ っ て、 身 体 の 活 発 化 は 期 待 できる と 考 え る。
本 実 験 では、直 腸 温 がHLにおいて最 高 37.7(0.3)℃まで上 昇 しており、鄭 ら(2004) による心 臓 負 荷 を軽 減 させる温 熱 療 法 (坐 位 式 乾 式 サウナ使 用 )において得 られてい る最 高 時 の深 部 体 温 38.1(0.4)℃に近 いレベルであることが示 された。鄭 ら(2004)の実 験 は、60℃の個 室 内 にある坐 位 式 乾 式 サウナに全 身 で15分 入 り、30分 保 温 する方 法 であり、本 実 験 のサウナ条 件 とは加 温 時 間 が異 なるが、サウナ加 温 後 の30分 間 の保 温 時 間 に体 温 上 昇 が約 1℃上 昇 する点 や最 高 温 度 が38℃近 くまで上 昇 する点 が共 通 している。従 って、本 実 験 で用 いた方 法 によって、鄭 ら(2004)が提 唱 する温 熱 療 法 による血 行 動 態 の改 善 や疼 痛 の緩 和 などの効 果 を望 む可 能 性 があることが示 された。
今 回 は額 からの測 定 が可 能 な熱 補 償 法 による深 部 体 温 の測 定 も実 施 し、直 腸 温 変 化 との比 較 を行 った。双 方 の温 度 は、サウナ内 で経 過 している際 には、同 様 な経 時 変 化 を示 した。しかし、サウナで被 う前 後 には曲 線 の乖 離 を認 めた。特 に、サウナ除 去 後 の回 復 期 に温 度 差 が大 きくなっていた。この理 由 は、熱 流 補 償 法 体 温 計 が外 気 温 を断 熱 材 で覆 ってその影 響 を遮 断 することで深 部 と等 しい温 度 を得 ることを原 則 として いるため、密 着 性 がわずかに損 なわれるだけで容 易 に周 囲 温 度 の影 響 を受 ける (吉 田 ・ 松 澤 1997) た め で あ る と 考 え る 。 今 回 使 用 し た 深 部 温 プ ロ ー ブ [ 型 式 : PD1 ] XX-CM210PD1 は 額 部 に 装 着 す る も の で 、 精 度 は ±0.2 ℃ 以 内 で あ る が 、
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φ43×8.5mmでやや大 きく、丸 みを帯 びた額 には密 着 がやや困 難 であることと、発 汗 の後 にサーミスタと皮 膚 の間 にずれが生 じやすいことなどによって、気 温 の影 響 を受 け、
大 きな温 度 差 が生 じていたと考 える。しかし、回 復 期 の乖 離 を除 けば両 測 定 値 に大 き な 差 異 は な く 、 電 源 OFF か ら 30 分 間 の ド ー ム 内 で の 直 腸 温 と の 差 異 は 0.02 ℃ か ら 0.07℃と0.1℃以 内 に収 まっていた。先 行 研 究 においても、熱 流 補 償 法 による深 部 体 温 測 定 値 は肺 動 脈 温 より0.3±0.3℃低 値 である(山 蔭 2005)と言 われており、温 熱 療 法 時 の額 部 の熱 補 償 法 体 温 測 定 値 と肺 動 脈 血 温 との相 関 係 数 が0.98であったとの 報 告 (Lees et al. 1980)もある。今 後 は、密 着 性 の課 題 を克 服 することによって、少 なく ともサウナ使 用 時 においては、深 部 体 温 の評 価 に熱 流 補 償 法 による深 部 体 温 計 を使 用 することが可 能 であると考 えた。
2)心 拍 数 、血 圧 変 化
ドーム型 サウナを使 用 した際 の循 環 動 態 としては、心 拍 数 が約 28拍 /分 増 加 、収 縮 期 血 圧 が約 7mmHg上 昇 、拡 張 期 血 圧 が約 7mmHg低 下 という結 果 を得 た。心 拍 数 に おいては、鄭 ら(2003)の実 験 では、60℃のサウナ内 で15分 間 曝 露 した際 の心 拍 数 上 昇 が20拍 /分 程 度 で温 熱 性 血 管 拡 張 を報 告 している。本 研 究 は健 常 若 年 者 を対 象 に基 礎 的 資 料 収 集 を目 的 としていたため、温 度 条 件 をそれぞれ70-90℃(HL)と中 間 温 度 60-85℃(ML)と高 めに設 定 し、曝 露 時 間 が30分 と先 行 研 究 より長 く行 ったため、
心 拍 数 の増 加 が大 きかったと考 える。しかし、最 高 値 92回 /分 (HL)は、適 度 な運 動 時 の心 拍 数 (最 高 心 拍 数 (=220-年 齢 )の60-75%)よりも少 なく(秋 山 2005)、高 齢 者 や循 環 器 疾 患 患 者 においても良 好 な血 行 動 態 範 囲 内 であると考 える。本 研 究 において、
サウナ使 用 による収 縮 期 血 圧 は7mmHgの上 昇 、拡 張 期 血 圧 においては7mmHgの低 下 が見 られた。収 縮 期 、拡 張 期 ともに血 圧 の変 動 が10mmHg以 内 というデータは、入 浴 で 言 え ば 湯 温 40 ℃ の 湯 に 入 浴 し 、 室 温 も 20 ℃ 以 上 に 保 た れ て い る 場 合 ( 輿 水 ら 2007)と同 程 度 であり血 圧 変 動 は少 ないと考 えられる。
収 縮 期 血 圧 の上 昇 は心 拍 数 の増 加 とともに循 環 血 液 量 の増 加 を示 しており、拡 張 期 血 圧 の低 下 はサウナの温 熱 効 果 による末 梢 血 管 の拡 張 にともなう末 梢 血 管 抵 抗 の
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低 下 を示 している。末 梢 血 管 抵 抗 の低 下 は、心 室 のポンプ機 能 負 荷 と、血 管 への負 荷 を軽 減 させる(木 原 ら 2003)ため、これらの生 理 反 応 は高 齢 者 や入 院 患 者 へ適 用 するための有 効 なエビデンスとなるものである。
3)体 重 減 少 量 、血 液 データおよび脱 水
体 重 に お い て は 810-840g の 発 汗 に よ る 減 少 が み ら れ た 。 ま た ヘ マ ト ク リ ッ ト 値 は 1.3-1.4%の上 昇 がみられ、両 温 度 レベルともに脱 水 傾 向 が示 された。脱 水 率 は両 レベ ルとも体 重 の1.3%(脱 水 率 (%)=(前 体 重 -後 体 重 )/前 体 重 ×100で算 出 )であり、口 渇 などの症 状 が現 れ始 める程 度 であった(山 門 1998)。今 回 、ほぼ全 被 験 者 が軽 度 の 口 渇 を 訴 え て い た が 、 血 液 デ ー タ に 変 化 を も た ら す 脱 水 率 2%( 山 門 1998 、 梶 原 ら 2002)までには至 らなかった。前 室 での200mlの飲 水 が脱 水 予 防 につながったと考 えら れる。
若 年 者 に比 べて細 胞 外 液 量 が約 10%少 ない高 齢 者 の場 合 は脱 水 になるリスクが高 く、異 常 の修 復 にも時 間 を要 する(内 田 2001)。そのため、サウナを高 齢 者 、入 院 患 者 へ適 用 する際 は、血 液 粘 性 の高 まりによる種 々の危 険 性 を回 避 するために、より一 層 の配 慮 が必 要 である。実 験 前 後 に水 分 補 給 を十 分 に行 うことはもちろんであるが、ど の程 度 の水 分 量 が必 要 なのか今 後 の実 験 で明 確 にしていく必 要 がある。また、水 分 出 納 に制 限 のある入 院 患 者 に関 しては特 に安 全 に留 意 して行 う必 要 がある。
4)温 冷 感 と温 熱 的 快 適 感
HLにおいてもMLにおいても、サウナ内 で10分 経 過 した時 点 まででは「快 適 」である という結 果 を得 た。通 常 の70-120℃の乾 式 サウナでは全 身 をサウナ内 に曝 露 するため 5分 間 程 度 の実 施 が最 も多 く(水 田 ら 1975)、10分 間 サウナ内 において快 適 感 を維 持 するためには、今 回 のように顔 面 を曝 露 しない方 法 が適 していると考 える。しかし、サウ ナ内 で30分 間 過 した時 点 では、不 快 を訴 える傾 向 にあった。多 量 な発 汗 を清 拭 せず にもしくは洗 い流 さずに安 静 にしたため、温 熱 的 不 快 が訴 えられたと考 える。高 齢 者 への適 用 の際 には寒 暖 への感 受 性 の遅 れがある(栃 原 2003)ため、主 観 申 告 と客 観 的 なデータとの関 係 性 を常 に考 慮 する必 要 がある。
33 5)設 定 温 度 レベル
ドーム型 サウナ内 温 度 レベルは最 高 温 度 (HL:70-90℃)と中 間 温 度 (ML:60-85℃) に設 定 し、実 際 の温 度 レベルの比 較 において両 者 には有 意 差 が認 められた。しかし、
直 腸 温 、心 拍 数 、収 縮 期 血 圧 、および拡 張 期 血 圧 において反 復 測 定 分 散 分 析 を行 ったところ、全 てレベル間 に有 意 差 が見 られなかった。本 実 験 で使 用 した中 間 温 度 帯 と最 高 温 度 帯 が70-85℃の部 分 で重 複 していたことが一 因 とも考 えられる。しかし、加 温 から保 温 の段 階 で心 拍 数 、拡 張 期 血 圧 においては僅 かに差 が見 られる傾 向 あり、
今 後 高 齢 者 へ実 施 をする際 にはこれらの差 異 についても考 慮 した上 で、温 度 レベル の選 択 が必 要 と考 える。今 回 の結 果 では、双 方 の温 度 帯 が同 様 のサウナ効 果 をもた らすことが示 され、60℃という設 定 は、鄭 ら(2004)が行 っている温 熱 療 法 のサウナ温 度 であり、今 後 のサウナ使 用 時 の温 度 設 定 の指 標 になると考 える。
34 2.5. まとめ
頸 部 下 ドーム型 サウナの使 用 は、入 浴 と同 程 度 の体 温 上 昇 が見 込 まれるが、静 水 圧 による影 響 や体 位 変 動 による負 荷 もないため、血 圧 の変 化 が小 さく、心 負 荷 が軽 減 され、温 熱 効 果 を安 全 に利 用 できる有 効 な方 法 であると考 えられ、高 齢 者 への適 用 の 可 能 性 が示 唆 された。高 齢 者 への適 用 の際 には、体 温 の評 価 として熱 補 償 法 による 深 部 体 温 測 定 を使 用 する可 能 性 が示 唆 された。
サウナによる多 量 の発 汗 と脱 水 に関 しては、若 年 者 において約 800g以 上 発 汗 を認 めても事 前 の飲 水 によって脱 水 を予 防 できる。しかし、水 分 出 納 に関 する機 能 は、若 年 者 と高 齢 者 では異 なる点 もあるため十 分 な注 意 が必 要 である。
サウナの設 定 温 度 については60℃を下 限 に今 後 の検 討 が必 要 である。曝 露 時 間 や方 法 、脱 水 対 策 や快 適 感 など、高 齢 者 へ適 用 する際 の課 題 が今 回 の結 果 から明 らかになった。次 章 では、高 齢 者 を対 象 とした実 施 によって、高 齢 者 へのサウナ適 用 の際 の指 標 を明 確 にするとともに、サウナによる循 環 器 系 をはじめとする各 機 能 の改 善 や、気 分 的 変 化 、痛 み、不 眠 などの苦 痛 の軽 減 への効 果 についても明 らかにして いく。