九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
鉄道高架橋防音壁の吸遮音性能の違いを反映した騒 音低減評価に関する研究
佐藤, 大悟
http://hdl.handle.net/2324/4110415
出版情報:九州大学, 2020, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
(様式6‑2)
氏 名 佐 藤 大 悟
論 文 名 鉄道高架橋防音壁の吸遮音性能の違いを反映した 騒音低減評価に関する研究
論文調査委員 9 主 査 九州大学 教授 尾 本 章 副 査 九州大学 准 教 授 鮫 島 俊 哉 副 査 九州大学 准 教 授 高 田 正 幸
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
鉄道騒音に対して,遮音壁は最も基本的な騒音制御デバイスの一つである。これまでに用いら れているものとしては,その高さがレールから2m程度のものが多かった。しかし近年では,車 両の高速化などに伴う音源の音響パワーレベル上昇に対応し,さらに鉄道特有の広範囲にわたる 音源分布に対応するために,既存の防音壁にlm程度の嵩上げが施されることがある。防音壁は 一般的に高さが高いほど減音の効果は高くなる。しかし,鉄道高架橋においては,防音壁自体の 重量や,強風に伴う風荷重の影響等による構造物強度に配慮し,嵩上げに本体よりも軽量な材料 を用いる場合や,先端に工夫を行うことで高さを上げずに等価的に遮音性能を確保する場合,ま た吸音性の材料を音源側に配置するなどの工夫が行われることがある。
本研究の主たる課題は,特に防音壁の嵩上げに関連したものである。実際に高さを上げる場合,
前述の重量の問題などから,既存の遮音壁と比べて薄く面密度が低い材料が用いられることが多 い。つまり基本的な透過損失が必ずしも十分ではない材料が併用される場合が多く存在する。一 方,防音壁全体の設計段階において,精密に性能を把握することは重要である。しかし,必ずし も材料の透過損失の差異が考慮されるとは限らず,十分な遮音性能を有する剛な材料が嵩上げさ れていると扱われることがほとんどであった。
本研究はこの点に注目し,透過損失が十分ではない材料を嵩上げに用いる場合に,遮音壁背後 の音圧に与える影響を定量的に把握することを目的としている。具体的には,`嵩上げの部分に用 いられる材料の,レベル (dB)で与えられる有限な音響透過損失の値に基づいて減衰効果を付与 し,全体の透過音を評価する手法を提案している。この方法は,エネルギーの減衰量である透過 損失値を,等価的に複素波数へ変換する斬新なものであり,有限要素法による音響解析手法に適 用可能であり,親和性が高い手法である。
なお,防音壁材料の遮音性能を詳細に考察する手法としては,材料自体が振動し,音を再放射 することを勘案した音響振動連成問題を解く方法が知られている。しかし,この方法においては,
振動をモデル化するために,材料物性値の妥当性を実験的に検証する必要があるなど,別の困難 さを伴う。これに対して本手法は,音響透過損失の値をレベルで与えれば,一意に等価的な波数 が算出され,より直感的に結果を得ることができる実用性の高いものであると考えられる。
提案する手法の妥当性に関しては,無響室内に設置した車体およぴ防音壁の模型を用いた精密 な実験により検証されている。なお,解析においては干渉性の音源,実験においては非干渉性の 線音源を用いており,両者の間には不可避な差異が含まれる。ここでは両音源による距離減衰の 差を考慮した簡易的な換算手法を提案し,直接的な比較を行うことに成功している。
解析と数値計算の結果によれば,嵩上げに用いる材料の透過損失が十分ではない場合,特に回 折角が深い領域において,無視できない差が生じることが明らかになった。さらに実用性を考慮 して,嵩上げと吸音性の材料を併用する手法についても検討を行い,それらの有効性と限界を数 値シミュレージョンによって明らかにしている。
上述のように,実際に防音壁を設計する際に,より現実に近い条件を簡易的に勘案することが 可能となった。また騒音対策の意味で安全側の値を想定するために考慮すべき要素が明らかにな ったという点からも,本研究の意義は大きい。騒音制御の分野をはじめとして,環境音響分野に 対しての貢献度は大きいものと考えられる。このため,論文調査委員全員一致で,本論文は博士
(工学)の学位に値するものと認める。