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選挙にまつわる財源保障と財政の自治

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Academic year: 2021

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著者 堀内 匠

出版者 法政大学公共政策研究科『公共政策志林』編集委員

雑誌名 公共政策志林

巻 8

ページ 101‑116

発行年 2020‑03‑24

URL http://doi.org/10.15002/00023015

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はじめに

基 盤 行 政 で あ る 選 挙 行 政( 辻1991:2, 大 杉 2012:4)について民主・独立・自治性を考察する 方法としては,人事,財源,権限などのリソース配 分と統制の様態について分析する方法があるが,こ のうち財源については必ずしも十分な先行研究の蓄 積があるわけではなかった。

選挙財源は選挙行政体制にとって欠くことのでき ない柱であることは言うまでもなく,選挙を実施す るにあたっての財源保障体制は,国と地方間だけで なく,選挙管理委員会と首長部局間の財政関係の基 盤にもなる。そこで本稿は,中央―地方/一般行政

―選挙行政という縦横の関係軸を念頭に置きつつ,

自治体選挙行政体制のうちの財源保障について検討 を加えることとする。具体的には,交付税と国政選 挙の経費基準とが構築する自治体選挙の財源保障構 造の検討を通して,現行の選挙行政体制における二 つの自治,すなわち対国,対首長部局の二つの自治 の課題を考えたい。

1.選挙に関する財源保障の変遷

選挙財政の財源保障は,2つの系統によって構成 されている。

第一に,自治体が行う当該自治体の選挙について は,地方公共団体ごとの標準的な水準

4 4 4 4 4 4

における行政 を行うために必要となる一般財源として,選挙費お

選挙にまつわる財源保障と財政の自治

Financial Autonomy for the Local Elections in Japan

堀 内   匠

要約

基盤行政たる選挙行政の統治構造を把握するにあたって,人材,権限,財源の各リソースについて確認する のは有効な方法の一つだが,これまで選挙行政体制の財政構造に関する研究論文がほとんど無い。そこで本稿 では主として市町村の選挙行政について,財源保障の体制を分析する。

現行制度の起源は,シャウプ勧告にもとづく平衡交付金制度と国会議員の選挙の経費に関する基準法,公職 選挙法が成立した1950年にある。これ以降,自治体の選挙も含めて選挙の方法はすべて国会議員に準拠させつ つその財源については厳密な基準で保障する中央集権的な構造が構築された。

ただ,安定した財源保障制度として戦後の選挙執行を支えてきたこの構造にも問題がないわけではない。本 稿では,自治体選挙について,①交付税制度の一部に組み込まれたことによって生じた課題,交付税制度が時 間の経過とともに変容する中で生じた問題,国会議員の選挙経費に準拠する集権性などの「対中央」での財政 自治と,②首長部局に交付されるこれら財源によって財政的に支配される「対首長部局」での財政自治の二つ の軸から,自治体選挙行政の独立性,民主性のあり方について検討する。

キーワード

選挙,財源保障,財政の自治,政府間関係,行政管理

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よび選管費のいずれについても地方交付税上の基準 財政需要額に算入される。このことはつまり,交付 税上の措置を見れば,国が自治体選挙についてその 経費をどのように見做しているかを透かしてみるこ とができるということである。交付税は,需要額の 算定をめぐって,不交付団体も含めた全ての自治体 が関係するものであり,この構造には財政における 中央地方関係が含まれている。自治体選挙のような 自治体の固有事務について交付税が果たした役割 は,どうだっただろうか。

第二に,自治体は,当該自治体の選挙のみならず 国政選挙の執行も担うため,この経費については,

地方財政法に基づき,「国会議員の選挙等の執行経 費の基準に関する法律」(以下,「基準法」と呼ぶ)

の定めた額を国が負担し,都道府県を経由して市町 村に交付される仕組みができている。執行経費の基 準は国が定めるものだが,国政選挙の経費のみなら ず,実際には都道府県の選挙経費委託金の基準や,

交付税の需要額算定の基礎としても用いられる。し たがって,この基準は第一で挙げた交付税措置を含 む,自治体選管が担う選挙関連経費の執行全般へ影 響力を持つことになる。

財政制度は行政制度や政府間関係への規定力をも ち,その特質の帰趨を左右する。まず選挙に関する 経費の財源保障が現在のような形で確立された文脈 から,その体制を確認してみよう。

1.1 自治体選挙の財源保障

 選挙に関する費用は,戦後まもなくは補助率10分 の10の補助金1によって賄われていた。だが,シャ ウプ勧告(シャウプ使節団日本税制報告書)が,地 方自治体の歳出が国からの補助金に頼っていること を批判し,選挙行政に関するあり方についても「選 挙は地方団体の独立の事務として委譲されたが,そ れにもかかわらずこれらは地方団体が代行する国の 事務であるから直接の補助金および国の統制が必要 であるといった態度が広く行われている」,「中央政 府が,補助金を交付したり,しなかったりして,地 方当局にその仕事を与える傾向は減ぜられねばなら ない…地方に全面的に委譲できる事務は選挙管理

または地方的計画立案である」(第1次勧告附録A) 等と指弾したことで,選挙にまつわる補助金は一掃 され,地方平衡交付金で一般財源によって賄われる こととなった。

 ただ,周知の通り地方平衡交付金には問題があっ て,例えば需要額の算定をいわゆる積み上げ方式に よることが規定されていたが,総額は従来からあっ た地方財政計画を用いてマクロ的に地方財源不足額 を算出し,この地方財源不足額を基礎として平衡交 付金総額が決定されていた。また,地方財政計画上 の歳入の見積もりや歳出の積算について地方財政委 員会と大蔵省との意見がことごとに対立し,しかも 両者の力関係上,歳入について過大に,歳出につい ては過小に見積もられる等により地方財政の窮乏 を激化させる結果を招いたこと(石原1984:63-65) から短命に終わった。

 地方制度調査会の答申を受け1954年度に成立し た地方交付税制度は,総額決定方式については一定 国税の収入額にリンクさせることとして地方配付税 制度に酷似させ,一方で各自治体への配分方式につ いては地方財政平衡交付金の方式を踏襲するものと なったものである。つまり交付税制度が,国政事務 の10分の10補助金や財政調整制度における官庁間 の対立から生じた不具合を乗り越えようとした一方 で,自治体の事務処理の経費について国が定める基 準財政需要額の考え方については地方財政平衡交付 金の考え方を引き継いだことをここで確認しておき たい。この額についてシャウプ勧告は「与えられる べき行政の単位数に妥当なしかし最低限度の量と質 との行政を可能にする単位あたり標準費用を乗じて 算出されるであろう」と述べている。

こうして地方交付税は,「地方団体の共有財産で あり…,その交付基準の設定を通じ,地方団体が,

ひとしくその行うべき事務を合理的かつ妥当な水準 において遂行することができるように,地方団体に 対し,地方税収入とあわせ必要な一般財源を保障す ること」(地方財政平衡交付金法の一部を改正する 法律案提案理由説明)2が基本理念とされた。民主主 義の基礎となる選挙に関する地方自治法および公職 選挙法の精神にそって,選挙事務の管理が適正かつ

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円滑に運営されるためには,その財政面の裏付けが 必要であることは言うまでもない(井1969b:22)。

自治体選挙は当然ここに含まれることになる。

1.2 国会議員の選挙に係る経費の財源保障

 一方で,国の選挙についての経費は,戦後も,

1947年の地方財政法施行で国政選挙経費の全額国 庫負担が謳われるまでは一部に自治体の負担が生じ ていた3。また地方財政法が制定されても,単に負 担区分が決定されたにすぎず,具体的にどの程度ま で国が支出するかについての規定がなく,もっぱら 予算措置に委ねられていたために,選挙のたびに自 治体側から国の支出が不十分であることが訴えられ る等していた。予算要求及び用紙の斡旋は全国選挙 管理委員会が所掌していたものの,当時は終戦直後 の物資困窮状況で,選挙の際に物資割り当てに苦労 する有様であった(内政史研究会1976a:101-102)。

こうした状況下にあっては,予算獲得のために自 治体選管委員が国への陳情を行うことすら必要と なっていたという(林田1958:171,内政史研究会 1976b:139)。

 国会議員の選挙等の執行経費の基準を法律で規定 するに至った直接の契機は,1949年1 月の第24回 衆議院議員総選挙と第1回最高裁判所裁判官国民審 査であった。この選挙が年末年始にまたがり,酷寒 の時期に,選挙公営拡充やはじめての裁判官国民審 査という自治体選管にとって未経験の事務を執行す る困難に見舞われたことから,自治体選管の負担が 極めて過重となった。この混乱においても,経費の 決定については国と自治体側とで必要額の決定に関 して意見が対立し,いったん決定した経費にさらに 不足分について補正予算でもって補わざるを得ない 状況となった。そうした反省と,自治体選管委員の 松崎権四郎らによる運動の成果が基準法である。事 務執行計画の立案にあたって所要経費があらかじめ 判明している必要があることや,都道府県ごとにバ ラバラだった配分基準について全国的な統一的基準 を設ける必要があることが認識され,法は制定され た(二井1978:278-279)。

 基準法は,投票所経費,開票所経費,選挙会経費

及び選挙分会経費,選挙公報発行費,候補者氏名等 掲示費,立会演説会費,新聞広告公営費,ポスター 用紙費,事務費の10項目で経費を区分し,それぞれ その基準額を有権者数,候補者数の数,世帯数等を 基準に定めたものであった。法はその後参議院選挙 のある3年ごとに見直されることとなって,現在で は経費の項目は21まで増加している。

1.3 選挙財政体制の確立

また,基準法が制定されたのは占領後期にあたる 1950年のことだった。この同じ年,地方平衡交付金 法が成立し,また,国と地方の選挙制度を統一する 公職選挙法(公選法)が成立した。この年に成立し た,選挙の執行とそれを支える財政的基盤と現行制 度との関係をどう理解すべきか。

前述の通り,交付税制度は国政事務の10分の10 補助金から脱却し,さらに財政調整制度における官 庁間の対立に自治体財政が巻き込まれる不具合を乗 り越えようとしたことから生まれた。だが一方で,

1950年の三法によって,自治体選挙を国政選挙の方 法と一致させて,費用面の考え方も国のそれに一致 させて,その代わりに国の方式下にある場合の財源 は保障するという集権的構造がすでに1950年に成 立していた,ということは忘れてはならない。現在 までに,選挙制度とその財源保障の体制が確立して 70年ほどが経つが,この間,選挙財政のあり方の適 否についてのみ取り上げて直接に議論されることは なくなったのである。

交付税化した後も,国は自治体の事務である選挙 行政に関する統制の手は緩めず,財政的に自治体の 自由度を制約する体制は引き継がれたといえるだろ う。地方財政制度の全体の趨勢に組み込まれた選挙 関連の財源保障のあり方について,この70年間の変 化なども含めて検証する必要がある。次節以降で見 ていこう。

2.選挙関係経費の財源

現在の選挙管理委員会の事務には,選挙管理委員 会の運営,選挙啓発関係,選挙人名簿の調製関係,

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政治資金の規正,最高裁判所裁判官国民審査におけ る裁判官の氏名等の掲示その他国民審査,検察官審 査員候補者名簿の調製,長および議員の選挙関係の ほか,海区漁業調整委員会選挙(都道府県のみ),

土地改良区総代の選挙,さらに衆参両院議員の選挙 事務,都道府県知事や議員の選挙などの関係事務が ある。

これらの選挙関係費用は,執行する事務内容に よって財政負担が区分されており4,そのうち一般 財源部分については,地方交付税で措置されること になる。選挙は,国や自治体など政府の正当性を確 保するための手段であって,その選挙を実施する団 体が費用を負担するのが原則である。したがって,

例えば国政選挙を実施するにあたっての費用は国庫 が負担し(公選法263条),市町村は経費を負担する 義務を負わない(地方財政法10条の4第1項)。ま た,都道府県の選挙の費用は当該都道府県の負担で ある(公選法264条)ので,市町村はその費用を負 担しない。その一方で,市議会議員選挙費と市町村 長選挙は特定財源なしの全額一般財源である。

他方,選挙管理委員会費は全額一般財源である が,公選法263条にあるとおり,国政選挙に関して も選挙事務のため参議院合同選挙区選挙管理委員会 並びに都道府県及び市町村の選挙管理委員会,投票 管理者,開票管理者,選挙長及び選挙分会長におい て要する費用は国庫補助がなされることとなってい る。具体的には国政選挙事務に伴う超過勤務手当な どがこれによってまかなわれる。その他に,選挙啓 発費は,公選法261条の2が国による補助を規定し ているため,特定財源のうち国・県支出金が2分の 1を若干上まわる程度計上され,残りは一般財源で ある。

要は,国政選挙は,自治体の一般財源で構築され た行政委員会を不可欠の構造基礎として存立してい る。だが上に述べた通り,建前上,都道府県や国政 選挙に関しては市町村の持ち出しはないという前提 なので,交付税上の財源措置はされていない,とい うことになる。

これを踏まえながら,選挙関係費用の財源措置の うち中心的な役割を担っている交付税と基準法のあ

り方について順に検討してみたい。

2.1 交付税措置

2.1.1 普通交付税

 選挙はいわゆる自治体の固有事務・公共事務であ るが,選挙の費用は交付税制度のなかに組み込ま れている5。事業経費の算出方法は明確に定められ,

財源が詳細に決まっている。では交付税化されたこ とは自治体選挙の執行体制にどのような意味を持つ のか。交付税が,国による選挙行政統治構造の一部 としてどのように機能しているのか,または齟齬を 生じているのかを見るために交付税制度のなかで選 挙財政の需要額算定について概観してみよう。

 選挙に関する経費は,普通交付税と特別交付税の 両者で措置されている。普通交付税は,地方団体間 の財源の均衡化を図ることを目的としていて,特定 の財源として交付されるものではない(地方交付税 法1条)。だが,その算定は,それぞれの自治体に ついて,財政需要と財政収入とを一定の基準によっ て測定し,財政需要額が財政収入額を超える自治体 に対してその財源不足額を補填することを目的とし て交付されるものである。したがって費目ごとに基 準財政需要額が定められている。次の数式に示す通 りである。

(基準財政需要額)―(基準財政収入額)

=財源不足額

(財源不足額)―{(基準財政需要額)×(調整額)}

=普通交付税額

このなかで,基準財政需要額は,(単位費用)×

(測定単位の数値)×(補正係数)で求められる。

選挙関係費用についての測定単位は人口である。

参考として最も細かい積算内容まで書き込まれた 1997年度普通地方交付税での市町村の単位費用を 本稿末の参考資料1に掲載する。単位費用の値は,

以下の図表1に示した標準団体の行政規模に関する 値であって,各自治体の人口で割り返して用いるこ とになる。

普通交付税では,基準財政需要額を算定するため

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の単位費用について,市町村分は第4款その他の諸 費(人口)として選挙管理委員会費と選挙費が細目 で設けられている6。経常的経費の性格をもつ選挙 管理委員会の運営に要する経費と,臨時的経費の性 格をもつ選挙・直接請求の執行に要する経費に分類 されていると読むこともできる。

ただ,交付税制度では,毎年経常的に支出が予定 される経費については普通交付税の基準財政需要額 で,一部の市町村だけに支出がみられる臨時的な経 費については特別交付税の特殊財政需要額で,これ を算定する建前となっているが,当該市町村の長お よび議員選挙費については,「選挙費の義務的性格 等にかんがみ,特別交付税よりも財源措置の的確 性,明確性にすぐれる普通交付税で算定する」方法 がとられてきた(井1969b:22-23,30)。

 したがって,臨時的経費としての性質を持つ長,

議員選挙費について,普通交付税の選挙費の単位費 用は選挙の所要額を算定しているが,このとき,選 挙は通常4年に1回行われるため,1回分の経費を 見積もった上で,実際に単年度で交付される額はこ の単位費用の2分の1(長と議会選挙は同額と見積 もられているので,実際には×2÷4で2分の1に なる)である。

 経常経費にあたる選挙管理委員会費及び選挙管理 及び啓発費について,旅費や報酬などは統一単価表 が用いられていて,需用費や役務費等については独 自の単価である場合もあれば,統一単価化されたも の(その他の需用費等)もある(井1969b:28,下 瀬1990:28)。また歳入には明るい選挙推進交付金 や選挙をきれいにする国民運動推進費補助金,常時 啓発費等の各種国庫補助・都道府県補助があるが

(現在は明るい選挙推進交付金のみ),人口10万人程 度の都市に対する国庫補助金の見込額を基礎として 算定している(澤田1976b:15)。実際の補助金は,

交付税の補正とは異なる計算で算定されるので,実 際の額とはならない。

これら経費の基準は,基準法により算出したもの とされる(池田1971437。長と議会の選挙は同時 に行われる場合が多いため,標準経費の算定におい て2倍された額は投票・開票立会人等の経費等に関 して過大算定となるが,普通交付税上は同時選挙で はない団体を想定した算定である8

 また,公営の選挙運動費用のうち任意制の公営部 分については,当該選挙運動を公営で行うか否か当 該市町村の任意にまかされている性格上,普通交付 税および特別交付税ともにその算定対象とはなって いない(仲道1973:11)。

2.1.2 補正係数

ところで,地方自治法は普通地方公共団体,特別 区,政令指定都市の区に選挙管理委員会を設置する ことを義務づけていて,選挙管理委員は,その市町 村や区の規模によらず4人と法定されている(181 条第2項)。だが普通交付税では人口10万人の標準 団体についてこれを4人として積算しているもの の,需要額は自治体の測定単位(人口)を乗数とす るため,規模の大小により必ずしも4人分の報酬を 保障しないことになる。

そこで,規模の大小にかかわらず持たねばならな い組織の経費を確保するため9選挙経費についても 段階補正が用いられる。段階補正は標準職員配置を 実現できるよう係数が設定されている。標準職員配 置上は選管委員は人口によらず4人である。その他 に首長や議員,補助職員など必置の機関の人数を人 口段階ごとに定め(参考資料2参照),これを実現 するための財政需要額およびその単位あたり経費が 段階ごとに算定され,割落とし・割り増し率が求め られるので,人口によらず標準職員配置数分のみ措 置されることになる。

だが,このときの単位当たり経費は省令事項で,

政策的裁量が大きく,不透明であることが指摘され ている。また人口段階ごとの職員配置表に従って単 図表1 標準団体行政規模(1997年度)

項目 行政規模

人 口 100,000人 世 帯 数 35,000世帯 有 権 者 数 75,000人 支 所 数 2カ所 議 員 数 36人 選挙管理委員数 4人 公 平 委 員 数 3人 監 査 委 員 数 2人

出典:地方交付税制度研究会編(1997:381)

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位あたり経費の算出に組み入れられるのは必置の職 員のすべてではなく,例えば選挙長はここに含まれ ない。交付税は一般財源であるため,交付される総 額のなかで個々の自治体が報酬を支払う分は措置さ れているという説明がされるかもしれないが,国の 措置に自治体は口を挟めない10。とりわけ2002年か ら2004年の段階補正縮小11はいわゆる平成の大合併 期にその縮小によって小規模町村の存続可能性に危 害が加えられたこともあり,この係数設定にかかる 国の応答性確保は自治体財政運営の安定性の観点か ら極めて重要である。

なお,選挙関係の需要額算定にあたって段階補 正,密度補正,普通態様補正,寒冷補正,人口急増 補正,人口急減補正という各種補正が適用されるこ とも,地方自治法や公選法の趣旨にはそぐわない。

2.1.3 特別交付税

 特別交付税は,交付税総額の6%が充てられる。

特別交付税は,普通交付税の画一的算定では補えな い災害等のための特別の財政需要があること等の事 由がある団体に交付されるものである。つまり,特 交措置された場合,これらその年々の費目とは,い わば共通のパイを奪い合う関係にある。その意味で も,その選挙関連経費の財源確保は不安定であり,

不透明なものとなる。

選挙にかかわる特別交付税は,大別して,選挙執 行に要する経費と直接請求の執行に要する経費とに わかれる。本稿末に参考資料3として特別交付税に 関する省令(2006年のもの)に定められた選挙関係 経費の扱いについて掲載している。

選挙が任期満了を待たずに行われる場合,普通交 付税算入額の不足分を算定することを基本的な考え 方として,特別交付税第3条で措置される。すなわ ち,前回選挙後からそれまで毎年4分の1ずつ交付 されてきた普通交付税で既に交付された割合(年に 25%)を控除した残存率分が特別交付税として措置 される。

普通交付税と合わせて,市町村の選挙に対する財 政措置を直前の選挙からの期間で示せば図表2の通 りである。3年以内に選挙が行われると,需要額に 算入されていない年度分の80%が特別財政需要額

に算入されるので,地方税等による負担が生じる構 造となっている。

 特別交付税は,普通交付税とは異なって当然には 補正係数が設定されていない。普通交付税のように 詳細な内訳が明示されているわけではなく,単純に 有権者数,投票者数,開票所数によって額の多寡が 定まる。

 特別交付税で措置される選挙関連経費の第二は直 接請求に伴う住民投票が実施された自治体に交付さ れるものである。長や議会の選挙と異なり普通交付 税で措置されるものではないため,直接請求に伴う 住民投票の特別需要額は前回選挙からの年数で控除 されることはないものの,有権者あたりの経費が長 や議会選挙のおよそ半分とされている。投票所や開 票所の経費が長・議会選挙の場合と同額にされてい る点から推察すると,この差は他の公営費等の差を 勘案したものであろうか。

2.2 交付税による財政措置の課題

上で交付税における需要額の構造を見ながら指摘 した以外にも,自治体の選挙費用が交付税に組み込 まれていることで,交付税制度そのものの問題点を 反映した論点が生じている。

選管の業務について,選挙人名簿の調製,点字器 の調整,選挙公報の発行,選挙運動の収支報告書の 公表,保存及び閲覧の施設に要する費用は「国にお いて財政上必要な措置を講ずる」(公選法261条の 1,262条)こととされるが,この国の財政上の措 置とは,交付金又は交付税措置を指すとされ,大部 分は普通交付税における基準財政需要額への算入と

図表2 市町村選挙に対する財政措置

100%

75%

50%

25%

20%

40%

60%

5%

10%

15%

0% 50% 100%

3ᖳ௧㜾 3ᖳ௧හ 2ᖳ௧හ 1ᖳ௧හ

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出典:大塚(2014:34)

(8)

して具体化されている。選挙の関連経費は,その特 質を踏まえてもなお交付税で措置するのが財政上必 要な唯一絶対の措置とすることで良いのか,問い直 す必要はないだろうか。二,三の例を挙げよう。

2.2.1 地方交付税の簡素化とアカウンタビリティ

 まず,地方交付税の難解性である。それは,制度 自体の複雑性ではなく,算定方法の不透明さが常に つきまとう点である。

各年の交付税算定にあたっては,地財計画は歳出 を見積もり,これに対する地方税,地方交付税の法 定率分,建設地方債などの通常の歳入を積み上げ,

なおも財源不足が生じる場合には,通常は法定率の 引き上げを行わず,総務,財務両省の折衝を通じた 地財対策で財源対策を講じる12。地財対策では,制 度改正などにともなう関連経費の算定額について説 明される場合があるものの,各単独事業の算定内容 は明らかにされない。したがって一体どの程度実態 あるいは国の省令的な政策などが反映されているの か不明である(飛田2013:61)。つまり交付税には 大蔵・自治両省の毎年の交渉の帰趨によって左右さ れる側面が相当程度存在する。

また,地財計画の歳出から基準財政需要額への個 別具体的な算入方法は,振り分けの基本的な考え方 はあるものの,その作業過程は国(総務省)に委 ねられており,いわばブラックボックスになって

いる(飛田2013:64)。このような政策的裁量の二 重のヴェールによって,地方交付税の算定額の根拠 には,自治体側との間で情報の非対称性が生じてい る。

 選挙関連経費を覆うヴェールを見てみよう。具体 的に,市町村の交付税需要額算定における選挙関係 経費の単位費用の推移をみればよくわかる(図表 3)13。選挙費が1993年,94年で急激に増額されて いるのは,公営費用として無料はがき代(1993年

〜),自動車使用およびポスター作成代(1994年〜)

が加算されたからであることはわかっている。

費目が固定した1969年以降,1993年前後までは 選挙関係経費はほぼ直線的に増額されてきたが,

1996年に選挙管理費が急激に落ち込んでいる。これ は需要額算定における職員数について,唐突に専任 職員(職員A区分)が3人から2人へ削減されたか らである。だが,理由説明資料がない。

 基準財政需要額の単位費用については,本稿末の 表のごとく詳細な経費区分と積算内容とでもって一 見緻密に算出されることになっているが,この緻密 さについては一貫しないという問題がある。本稿末 の表は1997年のもので,管見したところ選挙関連費 用についてはこの年が最も細かな積算内容が示され たものであるが,これをピークとして,以後,細か な積算内容が省略されてきている。省略された部分

図表3 選挙関係経費の単位費用の推移

㐽ᣪ⟮⌦ጟဤఌ㈕, 3357

㐽ᣪ⟮⌦㈕, 25237

ၤⓆ㈕*, 1798 㐽ᣪ⟮⌦ጟဤఌ㈕

H19㹳㸞, 19000 㐽ᣪ㈕, 28000

0 10,000 20,000 30,000 40,000

S35 S37 S39 S41 S43 S45 S47 S49 S51 S53 S55 S57 S59 S61 S63

H2 H4 H6 H8 H10 H12 H14 H16 H18 0H2 H22 H24 H26 H28 H30

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出典:各年度の地方交付税制度研究会『地方交付税制度解説(単位費用編)』より作成

(9)

については額の変更があった場合に省庁の職員の手 による解説文書が専門誌等で発表されることはある が,一貫しない。結局,選挙関連については,1994 年を最後にそうした毎年度解説は専門誌等では見ら れなくなってしまった。

 先述の通り,選挙費および選管費は2007年度か らは包括算定化され,選挙管理費,選挙管理委員会 費,啓発費は「選挙管理委員会費」に統合された。

需要額算定に関する詳細の省略・不透明化について は,この影響が深刻で,現在はその算定根拠につい て詳細がほとんど定かではない。このような新型交 付税への移行など「交付税算定の簡素化」は,前年 度までの配分結果から大きく乖離しないような工夫 がなされたとされる。だが,おそらく2007年度以降 はかつてのような積算内容や統一単価表にもとづく 算定は行われておらず,それ以降10年余,額の変動 がある場合,それは急激かつ無説明的に実施されて いる。とりわけ2012年に10百万円削減されており,

率にして3分の2程度まで総額が抑制されたことに ついて説明がない。このような急激な減少は職員報 酬部分の削減が原因と考えられるが,推測の域を出 ない。

職員にかかる需要額が減れば,事務局職員の削減 と兼職化を誘導するアナウンス効果が働くのだか ら,結局事務局機能は弱体化することになる。全国 市区選挙管理委員会連合会,都道府県選挙管理委員 会連合会等が総会で毎年行ってきた事務局増員要求 とは真逆の改定がこのような形で隠然と行われたこ とになる。財源保障と自治の観点から重大な変更で あり,合理的な説明が必要ではないか。

このように,交付税の一部に組み込まれること は,選挙行政が一般行政の周縁部に位置付けられる ことを意味するものである。包括算定経費化は,投 資的経費と企画・総務費について行われたが,総務 費には行政委員会関係経費が含まれている。選挙関 連経費はもともと首長部局からの独立性が求められ る性質のものであるにも関わらず,極めて従属的で あり,脆弱な立場に置いてしまっている。少なくと も選挙関係経費の交付税上の位置づけは財政の自治 の観点で問題がある。

 また,特別交付税についても普通交付税と同様 で,算定基準の不可視化が進行している。特別交付 税に関する省令がつくられた1976年から一貫して 第3条の第1号に存在して算定方法が明示されてい たものが,2014年12月の省令改正によって第3 条 第2号および第5条第2項へ移され,単に「事情を 考慮して定める額」のなかに「道府県の知事又は議 会の議員に係る特別選挙等があるため,特別の財政 需要があること。」(12月交付分),「市町村の長又は 議会の議員に係る特別選挙等があるため,特別の財 政需要があること。」(3月交付分)として措置され る額の算定基準が明示されなくなった。経年変化す ら検証不能である。

2.2.2 事務局体制の実態との乖離の可能性

 選挙管理委員会事務局職員数については,人口規 模によって増減されるものではあるが,財源措置の 実態を見るとやはり問題がある。

地方自治法は選挙管理委員会の書記について,都 道府県および市には書記長と書記およびその他の職 員を,町村には書記およびその他職員を置くことと しているが,常設の事務局は任意設置とされてい る14。また交付税需要額算定においては選挙人名簿 の調製が柱として考えられている。選挙人名簿は住 民基本台帳を基にして作成されるのであるが,毎年 一回定期的に名簿調製を行う必要がある。これを勘 案したことが職員数は標準団体で専任4名(職員A・ 3人,職員B・1人)を算入することとした根拠で ある(澤田1976:30-)。

 2013年の大西らによる調査15では,図表4のよう な分布で,自治体全体の職員数と財政力指数に相関 し,職員数1,000人強の増大につき1名ほど多くな り,1,000人増大で専任の割合が1割ほど高くなる。

また財政力指数が0.1高まると職員は0.13人分の増大 となり,専任の割合は0.008高まるとされる(曽我 2018:64)。このように自治体規模と事務局職員数 の相関は以前から指摘されてきたことだが,それ自 体は交付税の制度上当たり前のことである。

 ただ,職員数については,実際には交付税が想定 しているような専任職員を必ずしも置くわけではな く,首長部局や他の行政委員会の事務局と兼務であ

(10)

る場合も多い。単純に人口規模でみれば人口25,000 人程度あれば専任職員を1名置けることになるとい う点について,これで十分実態を反映しているのか は定かではないという点が残る。

極端な事例で考えると,段階補正を加味した場 合,人口1,000人の町村には100分の15.84人分の職員 が配置される(2006年の場合)。この規模の自治体 ではおよそ6部署を掛け持ちする兼職職員1人分と いうことである。だが実際にはここまで極端ではな く,町村において専任・兼任問わず現在実際の職員 数はおよそ3.79人であり,1人から27人まで分布し ていて,中央値は3人台である(大西らによる2013 年の調査)。大西らの調査が把握し得た実態は,制 度上の財源措置とは整合するものとは見えない。

このような実態と財源措置の乖離について確認す るために,かつて1970年度及び71年度の選挙関係経 費市町村決算額と交付税上の需要額とが比較された ことがある(仲道1973:24-28)。人口段階区分ごと に一団体あたりの一般財源平均額を求め,これと想 定団体の選挙関係経費の交付税上の算入額とを比較 したものであった。この50年前の結論としては,普 通交付税においては,市町村が行う選挙執行経費な らびに選挙管理委員会の運営等に要する経費につい ては支障をきたさないよう十分な算入措置を講じて いると評価されていた。

だが,この検証も,選挙費と選管費を一括してお り,また特定の自治体からの情報提供を受けた決算

ベースの検証となっているなど,継続的に,あるい は現時点で,第三者の視点から確認する術ではな い。先述の通り,需要額上の職員配置は突如変更さ れることがあり,自治体は兼任や非常勤化で対応せ ざるを得ない実情がある。それで基準ごと減額され るのでは間尺に合わない16。国の唐突な決定に備え るためにも,せめて検証可能性を確保する必要があ る。

2.3 国会議員の選挙による自治体選挙執行に関する 基準

次に,国会議員の選挙の執行費用に関する基準法 である。

総務省は,基準法に基づき,都道府県が提出した 算定資料を基に執行経費を算定して,現在でもこの 費用を都道府県に交付し,都道府県は,当該交付額 のうち管内市町村分として交付を受けた額を市町村 に交付している。執行経費については,交付された 総額の範囲内で融通して補うことができるとされて いて,精算を要するものではない。

 選挙の財源保障は,選挙の方法をも規定すること は注意する必要がある。繰り返しになるが,基準法 の成立によって,予算獲得のために自治体選管委員 が国に陳情する必要性はなくなったものの,この影 響は自治体選挙の財源保障にも波及する。自治体選 挙関連経費の各種の経費及び積算根拠及び単価をこ の基準法に合わせて算定するからである。その経費

図表4 市町村選挙管理委員会事務局員数の分布(2013年)

0%

5%

10%

15%

20%

0 10 20 30 40

        出典:大西(2018)資料1より作成

(11)

積算の基準は「標準的な都道府県,市区町村につい て,数多くの実態調査を行い,諸般の資料の蒐集分 析の結果検討を重ね算定したもの」とされる(大倉 1977:38)ので,この際交付税の需要額算定にも 用いようというわけである。

また,執行経費の基準は,交付税に反映されるこ とを通じて,都道府県選挙の費用に関する市町村へ の交付金の基準に転用される。都道府県の選挙費用 は,都道府県にとっては自ら基準法に関与すること も,執行を市町村への委託によらず行うこともでき ず,極めて他律的な構造で執行される。こうした他 律性は財政自治の観点から疑問である。

しかも,基準法の基準は会計検査の対象にもな る。例えば2010年の会計検査院報告によれば,2009 年の衆院選について,投票所事務,開票所事務等の 執行の実態が基準法に基づく経費の算定の内容とか

4

4離していないか,また,備品の購入状況は適切か などについて実地検査を実施していて,超過勤務手 当等の実績額が基準法の算定より大幅に少ないこ と,開票所等実配置人数が基準配置人数を下回るこ と,等が指摘された(会計検査院20102-3)。

 この会計検査院の報告は,会計検査院の職務に照 らせば適切だが,国政選挙の実務が市町村選管に委 任されており,市町村のリソースに依存している点 を勘案すると不適当である。先述の通り算定額につ いてはサンプリング調査で実態にあわせるよう3年 ごとに改定していて,実際かかった額を請求できる わけではない。

この方法をとっていながら,実績額について厳し く算定した場合,自治体が自ら努力して経費節減に 努めると,措置される額も減らされることになる。

国が自ら基準を定めるにあたっては,自治体がその 基準策定に自ら参加し,また自治体が工夫して削減 した場合の余剰について確保されるような運用が求 められる。

3.首長部局による予算調製,自律的収入な き予算

以上に見てきた水準に関する対中央従属性の他

に,現行選挙財政体制は首長からの独立性について 疑義がある。

すでに見てきた通り,行政委員会に関する経費も 交付税で措置されるので,自治体には首長部局へ一 般財源として交付されることになる。このような交 付のあり方では行政委員会としての独立性を財政面 で担保できず,職員配置や財政面において首長部局 への構造的依存が生じることになる。交付税を減額 されたことを口実として行政委員会から首長部局へ 職員の引き揚げが行われるようなことは許容できな いが,それを防ぐ手立てが制度的に十分とはいえな い。自治体の規模が小さいほどに選挙管理委員会が 首長部局に依存せねばならなくなる構造にも問題が ある。行政委員会としての特質を踏まえた財源保障 のあり方が必要となる。

選管費についても同様である。選挙管理委員会は 首長部局から一定の独立性を担保された行政委員会 だが,予算調製権については首長部局に専属するも のであって,また編成の手続きについては通常首長 部局と違いはない。選挙管理委員会の書記長から予 算要求を行い,財政担当課で査定を受け,首長から 議会に対して予算案として提出される手順は通常通 りである。

 また,基準法に基づく国政選挙執行経費の交付 は,都道府県の知事部局に対して行われ,そこから 市町村に交付される。確かに選挙の際の人員は選管 では足りず,知事部局職員が多く使われる。だが選 挙は有権者が自ら行うのが制度上の建前である。選 挙の執行に当たる有権者に対する協力費を首長部局 が払うわけではないはずで,こうした経費は直接選 管に交付する必要があろう。選管は首長の小間使い ではない。

 もちろん,予算編成が知事部局によって行われる ことには財政運営上の利点があるのも事実である。

選挙費について,任期満了に伴う選挙であれば交付 税などを用いることができるが,急な解散や辞職に 伴う選挙のような場合,補正予算を組んで専決処分 を行うことになる。知事部局の予算であるから,こ の財源には知事部局の繰越金や基金を充てることが 可能である。急な出費に備えた多額の基金の造成な

(12)

どにおいては,選挙管理委員会単独で行うよりは知 事部局に頼ることが至便ではあろう。

だが,収入としては一般財源として首長部局の財 布に入り,支出については知事部局によって査定を 受けて予算編成される。財政に関する現在の体制に おいて,自治体や自治体の選管に,工夫された独自 の事業を実施する裁量的余地は無い。

まとめ

本稿で概観してきたように,選挙財政は交付税と 国庫補助によって構成されていて,基本的な財源保 障が行き届いている。だが,課題も多い。

現行の選挙財政は,交付税算定が国庫補助の基準 によって影響を受けると共に,交付税そのものの決 定に対して地方団体側が参画することができない。

総務省と財務省の地財計画・措置をめぐる折衝にお いては選挙財政の特殊性が埋没する点と合わせ,地 方団体などの圧力団体すら首長部局にすぎないため 行政委員会である選挙管理委員会がアクターとして 不在である点は重要な制度的欠点といえる。

また,国政選挙についての補助は,選管費は考慮 されず,もっぱら選挙費補助であって,選管の維持 は交付税に依拠する構造になっている。そのため,

自治体の機関である選挙管理委員会には首長部局へ の財政的従属・依存をも生じる。国に対する自治,

首長部局に対する自治のいずれの観点から見た場合 でも,財政的自律・自立は毀損される。

財政制度は行政制度や政府間関係に対する規定力 をもつ。したがって選挙行政体制は戦後民主化にお いて首長部局や政党からの独立性を担保させようと したにもかかわらず,財政構造上の欠点を特質とし て含んだものとなる。

そもそも選挙制度は公職選挙法に一本化されてお り,自治体選挙の独自性を確保することは現状極め て困難である。さらに財政制度上も,自治体選挙の 財政保障は国政選挙のあり方に依拠しており,裁量 の幅は狭い。そればかりか委託金の余剰は,裁量の 余地として認められるのではなく,会計検査による 影響を受け,ぜい肉として削ぎ落とされるのだか

ら,財政制度が選挙行政の硬直化を引き起こしてい るとも言える。

日本で選挙財政の自治17はいくつかの基本事項は 実現されているとされる。一方で,日本の他の地方 財政体制と基盤を共有しており,その結果,中央統 制が働く。シャウプ勧告以前のような10分の10国庫 補助といったあり方の方が良いと言い切ることも難 しいが,交付税での措置のあり方に疑問なしとは言 いがたい状況であることもまた事実である。

選挙に関する財政自治の実現に向けては,本稿で 確認してきた問題点を改めることが第一である。例 えば,交付税については,一括算定から行政委員会 関係経費を再び分離し,その増減に関する監視と説 明の応答体制を確保すべきである。また,先に自治 体選挙制度のあり方を見直して自治体の裁量に幅を 持たせつつ,それと同時に,財政面について,基準 法のあり方についても,選管の意見聴取の機会を設 けるなどしていくのも良いだろう。

選挙行政は基盤行政として民主政治を具現化する ための必須の行政分野であり,首長部局からの独立 性等を考慮すれば,その財政的負担のあり方など検 証すべき内容は多いはずである。これを地方財政全 体の問題の一部として外在的に捉えるのではなく,

選挙自治の実現方策として主体的に捉え直す視点が 必要である。

19491950年度には「地方公共団体選挙事務費交付 金」(裁判所が所管)として府県に対する10/10国庫補助

(大蔵省財政史室編1978571附属資料)だったが,1950

年度をもって廃止された。

 第19回国会衆議院地方行政委員会195420  地方財政法以前の負担制度の沿革は二井開成(1978

275-277)参照。

 市町村レベルでの選挙関連予算の考え方については 池田清(1971)参照。

 本稿では紙幅の都合から市町村の財政構造を検討の 対象とし,以下都道府県の選挙財政については検討しな い。因みに,都道府県の選挙関連経費の交付税需要額算 定は,市町村に対する交付金が経費区分として設けられ ている以外は市町村の需要額算定と基本的な構造を一に している。市町村に対する交付金は,投票所,開票所,

選挙会,事務費,選挙公報発行費等の経費について「国 会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律の例によ

(13)

る」旨が明記された積算根拠が示されている。このなか で,知事と議会で選挙会やポスター掲示の費用負担に 差が設けられている点は特徴的である。なお,都道府県 の標準団体は人口170万人で一貫しているが,市町村数,

投票所,開票所の数などは年によって異なっている。

 農業委員の選挙関連事務に要する費用については市 町村分の農業行政費において,海区漁業調整委員の選挙 関連事務に要する費用については都道府県分の水産行政 費において,それぞれ算定される。ここでは省略する。

1950年に成立して以降,参議院選挙が行われる年に 合わせて改正されることが多い(澤田197635。とりわ け第次〜22次改正は年ごと)。近年では改正頻度が 下がり,年ごとに見直しが行われているようである。

経費積算の基準については,標準的な都道府県・市区町 村についての実態調査・諸般の資料の蒐集分析による

(大倉197738)。

 農業委員会などもほぼこれに則った費目で算定され ている。解散がないので特別交付税で措置されるものは ない。

 段階補正には行政事務のいわゆるスケールメリット を反映させる役割ももつ。

102004年度から国と地方の協議の場が制度化されたが,

交付税の透明化がはかられたとは言い難い。

11 小規模団体にあっても職員の兼務や外部委託等によ り合理的・効率的に行財政運営を行っている地方団体も あることを踏まえ,全団体の平均を基礎として割増率を 算出する方法を改め,合理的・効率的な財政運営を行っ ている上位分のの団体のへ金を基礎として割増率を 算出する方法が導入されたことがあった。2010年に割増 率は復元された。(石原2016302-303)いわゆる平成大 合併を促進する要因となったと指摘されている。

12 基本的な流れについては飛田201354以下を参照。

13 図の「啓発費」には,期間によって次のものが含ま れる。公明選挙費(1960-1968),選挙啓発費(1969-1974),

常時啓発費(1975-1979),選挙をきれいにする国民運動 推進費(1975-1979),明るい選挙推進費(1980-1981),

棄権防止・選挙常時啓発費(1982-2006)。

14 補助職員に関する規定は,自治法制定当初には任意 であったものが,常時啓発事務を行うにあたって任意設 置では支障があること等を理由として必置に改められた ものである(自治庁1954290)。常設の事務局につい ては1961年の選挙制度審議会答申で必置とすべきとした が,政府はこれを必置としなかった。選挙または当表示 に必要な職員を常時抱えておくことは不経済であるから とされる(自治省1965302)。

152011-14年度科研費補助金・基盤研究(A)「選挙ガバ ナンスの比較研究」(研究代表者・大西裕)による。と りまとめの成果は大西2018に詳しい。

16 注11で指摘した事項。

17IULAInternational Union of Local Authorities)が1998

年に策定した「世界地方自治憲章」草稿では,財政の自 治について,①財源の裁量性,②業務に対する財源の十

分性および権限移譲にともなう財源の付与,③財源に対 する自己決定権,④地方税の一般性伸縮性柔軟性,⑤財 政調整制度の必要性,⑥財政調整ルール策定への地方 自治体の参加保障,⑦移転財源に対する裁量性の尊重,

⑧資金調達方法の充実,を列記している(要約は飛田

2013ivによる)。

参考・引用文献 著書

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大西裕(2018)『選挙ガバナンスの実態』ミネルヴァ書店 会計検査院(2010)「国会議員の選挙等の執行経費の交付

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(15)
(16)
(17)

参照

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