小所低所にこだわる政治行政―「離都向村」に挑む 町村―
著者 鍛冶 智也
雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal
巻 110
ページ 1‑33
発行年 2021‑01‑25
その他のタイトル Governance of Small Community at the Shrinking Stage of Japan
URL http://hdl.handle.net/10723/00004039
小所低所にこだわる政治行政
―「離都向村」に挑む町村―
鍛 冶 智 也
序論
近年,日本の農山漁村地域の小規模自治体である「町」や「村」の行財政環 境は,大きく変動しており,これにより日本のガバナンスに新たな課題を提起 している。伝統的に日本は,集権的な融合型の統治構造であると考えられてき た。中央―地方関係が,必ずしも分権的な権限配置ではなく,地方自治体がそ の業務内容の決定権を充分にもっておらず,加えて業務遂行に際しての資金も 自前で調達しにくい集権的な行財政構造を有しているというわけである。一方 で,国と地方の行政機関が独立して設置されており,それぞれの担当する業務 も明確に分かれている「分離型」ではなく,地方自治体が中央政府の事務を担 い,自治体の担う業務の中に純粋に自治的な固有の業務と国に委任(委託)さ れた業務が混在している「融合型」と認識されている⎝₁⎠。
日本が集権的な統治構造か,分権的な統治構造であるかは,ここでは詳細に 歸去來兮
田園將蕪胡不歸 既自以心爲形役 奚惆悵而獨悲 悟已往之不諫 知來者之可追 陶淵明
検討しないが,2018 年度の全国の地方自治体の歳入に占める独自財源,すな わち地方税収入の割合をみると 40.2%となっており,地方交付税 16.3%(後述), 国庫支出金⎝₂⎠14.3%と国からの財政支出が 30.6%,残りは地方債 10.4%などと なっている。自治体の自主財源率⎝₃⎠の全国平均は,54.39%となっていて,財 源にみる自治権は 3 分の 1 から半分程度だということが理解できる。
一方,国全体の政府サービスが,どの程度地方自治体を通じてなされている かを測る指標として,最終支出ベースでみた国家財政および地方財政全体の歳 出決算をみてみることにする。2018 年度決算で,国と地方の財政支出の合計 から重複分を除いた歳出純計額は,169 兆 2,217 億円となっており,国が 71 兆 9,488 億円(全体の 42.5%),地方が 97 兆 2,729 億円(同 57.5%)である。これには,
国から地方自治体に対する支出 36 兆 51 億円,逆に地方自治体から国に対する 支出 7,054 億円があり,加減算している⎝₄⎠。しかし,この数値には公債費(20.6%
で,国対地方が 65 対 35 の割合)が含まれているので,これを補正すると,国と 地方は 36.7 対 63.3 になる⎝₅⎠。すなわち,日本の歳出を伴う政府系サービスは,
実に 3 分の 2(63.3%)は,地方自治体を通じてなされていることがわかる。行 政の対住民サービスは,地方自治体が多くの執行責任を担うが,その自治決定 権は限定的であることが理解できよう。こうした制約のなかで,町村行政がど のようになされているかについて,以下に行財政の視点から分析・考察する。
Ⅰ 地方自治の構造
1
二層制の地方制度日本の地方制度は,二層制の構造になっている。すなわち,基礎的自治体で ある「市」「町」「村」〔これに大都市特例である「都と特別区の制度」(以下「都 区制度」)下にある特別区である「区」も含まれるので,以下「市区町村」と記
す〕と広域自治体である「都」「道」「府」「県」である。都道府県と市区町村は,
互いに対等な地位を有する自治体であり⎝₆⎠,日本に住む者は,例外なく二層の 自治体の住民であり,アメリカ合衆国のように,自治体のない非法人化地域は 存在しない。
地方自治の母国とも言われているイギリスは,一時期,二層制から一層制に 転換したが,ウェールズ議会(1998 年)やスコットランド議会(1999 年),2000 年には大都市部のロンドン都庁(Greater London Authority)が設立されるなど,
二層制が復活しつつある。ポルトガルは,2013 年にリスボンとポルトの大都 市圏以外は一層制になったが,二層制への模索がなされている。フィンランド は一層制から二層制に転換しているなど,単一国家では二層制が中心で三層制 が増加しつつあり,連邦国家でも二層制と三層制が混在するなど,多層制化が 進捗している。
日本は,近代的な地方制度が採用された 1878 年から都市部は二層制⎝₇⎠,農 村部は町村と府県間の連絡調整の役割を果たす「郡」という地方行政機関が置 かれ,三層制となっていたが,1926 年に廃止された。現在は,住所表記とし て「郡」という名称が残存しているのみである。爾来,日本の地方制度は二層 制が続いている。
2
広域自治体―都道府県「都」は,現在,東京の大都市部地域に適用されている特例制度で,大都市 行政の一体性確保のため,上下水道,消防,都市交通,一部の都市計画事業と いった通常基礎的自治体の業務である事務を,広域自治体である都が管轄処理 することになっている。ただ一方で,地域衛生に関わる保健所,建築基準に関 わる建築主事,児童福祉に関わる児童相談所など,通常は基礎的自治体が所管 している業務ではない事務を,基礎的自治体である特別区が所管していたり,
統計調査に関する事務や野外広告物の規制といった,通常は広域自治体の首長
や行政委員会の権限であったりするものが,特別区の事務として移管されてい るので,特殊な事務配分になっている。
「道」は,19 世紀には植民地(開拓地)扱いであった北部の島嶼が,国内の 地方制度に編入される際,比較的広大であるために出先機関たる「支庁」を置 いたり,国の行政官庁である北海道開発局との共管事務があったりするため,
北海「道」にのみ適用されている。
「府」は,第二次世界大戦前までは,東京,大阪,京都の 3 地域のみに適用 されていた制度で,政治(東京),経済(大阪)および文化(京都)の中心地域 であり,人口の集積がなされていたため,府内の都市部では府―市―区の三層 構造を有していたため,「県」とは別称となっていたが,東京が都区制度に移 行した戦後では,単なる名称の違いでしかなく,県と同じ機能を有している。
そして「県」は,全国の広域自治体 47 の内,前述の東京都,北海道,大阪 府および京都府を除く 43 の自治体が県と称している。大規模な総合開発計画 の策定や治山治水事業と広い範囲にわたる事務(広域機能),国と市区町村との 連絡や市区町村相互間の連絡調整の事務(連絡調整機能)そして事務の規模ま たは性質において一般の市区町村が処理することが適当でないと認められた事 務(補完機能)が,広域自治体として県の権限として認められている。
3
基礎的自治体―市区町村市区町村は,基礎的な地方自治体として,住民の日常生活に密着した事務を 遂行する包括的な自治体である。日本においては,単一目的のサービス提供の ために設立された上下水道,公共交通,病院といった地方公営企業のような地 方行政機関は,主として地方自治体に吸収されているので,その意味でも市区 町村は総合的な行政機関である。2000 年に地方分権一括法が施行されてから,
「補完性の原理」に基づいて国と地方間,そして地方自治体間の役割分担の原 則が確立し⎝₈⎠,基礎的自治体はそもそもの役割は,国から付与されるのではな
く,自ら規定することができるという原則となった。
前述した大都市特例の特別区である「区」を除き,「市」「町」「村」は,以 下に叙述するように人口規模が大きい順に概ね市,町,村と区分けされている が,原則的に市町村それぞれの自治体の間に権限の違いはない。むしろ,都市 部の自治体である「市」に,人口規模等の違いにより特例制度が設けられ権限 に大きな違いがみられる。政令指定都市(法定では人口 50 万人以上だが,運用は 人口約 70 万人以上),中核市(人口 30 万人以上),特例市(人口 20 万人以上)と,
人口の多い都市自治体には,より多くの行財政権限が与えられている。2014 年の地方自治法改正により,翌 2015 年に特例市制度が廃止された。同時に,
中核市の人口要件が「法定人口 30 万人以上」であったものが「20 万人以上」
に緩和された。改正法施行の時点で既に指定されている特例市を対象とする経 過措置として,従来の特例市の事務権限を引き続き保持し,2020 年 4 月 1 日 までの 5 年間に限り,人口が 20 万人未満になっていたとしても中核市に移行 できるものとしている。本稿では,引用する調査が 2015 年のものであるのに 加え,人口規模が財政構造にどのように影響を与えるかをみるために有用な区 分だと考え,敢えて分けて記載している。また,一般の市(人口 5 万人以上)に おいても,個別法の特例(政令指定)により個々の都市自治体(市)に都道府県 の権限の一部が委譲されている例も多くあるので,都市自治体は人口規模に応 じて,権限の多寡による序列が比較的細かく区分けされているが,自治体の名 称はいずれも「市」で同じである。
「市」となるための要件は,地方自治法第 8 条に記されており,3 つの要件 が挙げられている。すなわち「原則として人口 5 万人以上の人口を有してい る」⎝₉⎠「中心市街地の戸数が全戸数の 6 割以上である」「商工業等の都市的業態 に従事する世帯人口が全人口の 6 割以上である」となっている。しかし一度,
市になると人口減少などにより市の要件を満たせないようになっても,市のま までいることができる。これまで,市になった自治体が,町あるいは村になっ
た事例はない。ただし,分割により町村になったケースはある。なお,市であっ ても広さや市街地の配置などによっては,山間部や農村部が面積の大半を占め ている場合もあり,必ずしも町村より人口密度が高いというわけではない。
都市部でない地域は,町および村として区分されている。町と村の違いは,
各都道府県の条例で定められている⎝₁₀⎠。たとえば,東京都においては,町とし ての要件は 4 つ挙げられており,「人口 1 万人以上を有して,かつ,最近 5 年 間人口増加の傾向にあること」「中心市街地を形成している区域内にある戸数 が,総戸数の 4 割以上を占めるか,または連担区域内の戸数の合計が,総戸数 の 6 割以上を占めること」「商工業その他都市的業態に従事する者およびその 者と同一世帯に属する者の数の合計が,総人口の 6 割以上であること」「交通 機関および通信機関等が設けられ,土木,保健衛生,警防,教育及び文化等の 施設を有すること」となっている。
「市」「町」「村」の法的権限にほとんど違いはない。制度的な違いといえば,
以下の数点が挙げられる。会計監査の行政委員会委員である監査委員の事務局 については,町村の場合は設置しないことができる。また,議会事務局を設置 していない市は,書記長,書記をおかなければならないが,町村の場合は書記 長を置かなくてもよい。生活保護などの福祉事務や都市計画決定などの都市計 画にかかわる事務などが,町村にはない。そして,自治体としての最大の違い は,町村においては,議決機関である議会を条例で設置せずに,その機能を直 接民主制の手法を採用し,住民(有権者)全員から構成される町村総会がその 役割を果たすことができる⎝₁₁⎠。
Ⅱ 町村の行財政機能
1
二元代表制の政府構造日本の政府構造は,中央政府と地方自治体で代表制度が異なっており,世界 でも珍しい例である。中央政府は,もとより立法,行政,司法の三権は分立し ているが,議院内閣制を採用しており,立法と行政,すなわち国会と内閣の関 係は融合的である。これは,帝国議会以来,イギリスを模範としたヨーロッパ 型の政治制度を採用し,第二次世界大戦後も議院内閣制が存続した⎝₁₂⎠。一方,
戦前の地方制度においては,地方制度は変則的な制度となっていた。すなわち,
府県知事は国の内務大臣の任命職で公選されていなかったが,府県議会は公選 されており,準自治体であった。市町村では,地方議会が市町村長を選任する 間接的な選出方法を採用しており,フランスを模範とする,これもヨーロッパ 型の政治制度を採用していた。しかしながら,戦後においては,地方制度はア メリカを模範とする二元代表制を採用するに至り,今日では,国政が議院内閣 制の一元代表制,地方が機関対立主義的な首長制(大統領制)で二元代表制を 採用している。首長と地方議会は,それぞれ住民からの直接公選によって選出 される。なお,日本の地方制度には,地方固有の裁判所は設置されていない。
地方裁判所はあるが,国の司法制度の体系に位置づけられているものである。
市長,区長,町長,村長の首長は,自治体を「統括し,これを代表する」権 限があり,予算の調製・執行,事務事業の管理執行,議会への条例案など議案 の提案および決算案の送付,行政計画の策定,行政規則・要綱の制定,地方税 の賦課徴収,分担金加入金の徴収,過料の賦課,職員の任免および指揮監督,
事務組織の編成などの権限が与えられている。さらに,自治体が制定する法で ある条例の制定・改廃や予算についての議会の議決に異議がある場合,議会の
再議に付すためのいわゆる拒否権も有し,一定の場合に限り議会の権限に属す る事項を議会に代わって処分できる専決処分権も有している。
一方,地方議会は,予算案の議決,決算の承認,条例の制定の他,3 分の 2 以上の多数で首長の不信任決議ができる。この場合,首長は議会を解散するか,
辞職する。また,議会において証人喚問権ならびに刑事訴追権をもつ調査委員 会を設置できる。また,住民からの陳情や請願を受けて審議をすることができ,
条例や議案によらずとも,住民の代表として意見表明をすることができる。議 会の審議の場を通じて行政への監視と政策課題の提示をすることが主要な役割 である。
市区町村には,戦後改革の一環として教育委員会,選挙管理委員会,人事委 員会または公平委員会,固定資産評価審査委員会,農業委員会および監査委員 という行政委員会が設置され,政治的中立性の確保や多様な利害関係を調整し なければならない特定の行政分野に関しては,首長とは独立した合議制の行政 機関が設置されており,多元的な行政構造も有している。
2
町村自治体への民主的統制組織体としての町村の自治権の態様は,前記の如くであるが,町村の権力者 に対する民主的統制のあり方は,市と比較してどのようであろうか。
表 1 は,2015 年の地方統一選挙に際して,首長(区長,市長,町長,村長)と 地方議会議員の各選挙の投票率,競争率,女性占有率および平均年齢を比較し た表である⎝₁₃⎠。投票率とは,期日前投票を含めた投票率である。競争率は,当 選者数を全候補者数で割った数値である。女性占有率は,女性の当選者の比率 である。平均年齢は,当選者の平均年齢である。
特別区と政令指定都市は,大都市地域であるが,大都市→都市→町村と,大 都市地域から農村地域へと移るに従って,投票率は高くなり,競争率は低くな り,女性占有率は低くなり,平均年齢は高くなる傾向にある。ただ,特別区長
選挙では,競争率,女性占有率,平均年齢は政令指定都市と逆転した数字になっ ている。
この数字から理解できることは,町村では政治参加の度合いが高いが,それ は政治的関心の度合いが高いからとは必ずしも言えず,伝統的な地域社会が強 固で投票に行くかどうかは都市部と違い「可視的」であるため,地域社会にお
表 1 首長選挙の比較
特別区 指定都市 一般市 町村 投票率 (%) 44.11 51.57 50.53
69.07
競争率 (%) 2.9 3.4 2.0
1.6
女性占有率 (%) 6.3 17.6 6.7
1.5
平均年齢 (歳) 64 59 60
62
資料)総務省『地方選挙結果調』2015 年より筆者作成。
表 2 地方議会選挙の比較
特別区 指定都市 一般市 町村 投票率 (%) 42.81 44.28 48.62
64.34
競争率 (%) 1.4 1.4 1.2
1.1
女性占有率 (%) 24.1 17.8 15.0
10.2
平均年齢 (歳) 51 53 58
62
資料)総務省『地方選挙結果調』2015 年より筆者作成。
表 3 地方議会議員数の比較
特別区 指定都市 一般市 町村 議員平均数
総数
/
自治体数 (人)39.2 302/23
59.3 1,186/20
22.9 17,693/772
12.2 11,315/929
資料)総務省『地方選挙結果調』2015 年より筆者作成。表 4 無投票選挙の当選者数の比較:その実数と割合
特別区・指定都市・一般市 町村 市区町村長 (人) 27(3.3%)
53
(5.7%)地方議会議員 (人) 263(1.3%)
930
(8.2%)資料)総務省『地方選挙結果調』2015 年より筆者作成。
いて投票行動への参加圧力が高い。実際の選挙では立候補者数と当選者がほぼ 変わらない数値になっており,無風選挙になっている。表 4 で示されているよ うに,無投票で当選した町村長(53 名)や町村議会議員(930 名)もいるので,
全体の人数を勘案した無投票当選の出現率は,町村長では市区の 1.7 倍,町村 議会議員では 6.3 倍になっている。町村においては,少なくともフォーマルな 競争である選挙では,政治的代表は住民による積極的な選好によっては選出さ れていない。地域社会における密接な人間関係が影響し,フォーマルな制度よ りも,よりインフォーマルな選別過程が有効に機能していることが,このこと から推定できる。町村では「選挙は告示されたとたんに終わる」⎝₁₄⎠と言われ,
候補選抜が選挙よりもより重要な手続きであると言える。町村長や町村議会議 員の有するフォーマルな権限が,インフォーマルな手続きの過程で埋没してい る可能性が示唆されている。
また,町村では,女性の代表性は極めて低い。都市部に比べて農村地域は,
農業の特性から共働きが多く,社会的に女性の社会進出の度合いは高いと考え られるが,政治的代表性はむしろ低く留め置かれている。議員の平均年齢も,
際立って高くなっている。有権者の平均年齢が高いことからくる結果でもある が,町村においては,社会構造的には偏った代表の度合いになっており,保守 性が濃い要因になっていることがわかる。
表 5 は,地方議会議員の当選者ではなく,候補者の職業の分布を表している が,町村議会議員の特徴は,なんといっても農林水産業関係者の多さである。
商業関係者も,人口規模が小さくなるに連れて割合が高くなっている。これは,
母体となる住民の職業分布を反映していると考えられる。他に特筆すべき点は,
「その他の職業」の割合が都市部の 2 分の 1 から 3 分の 1 しかないことであろ う。農村部の職業の多様性と同時に議員の職業の多様性が限定されていること が理解できる。後述のように,都市部の市議会議員の報酬は,比較的高額に設 定されており,報酬のみで生活がなりたち,専業で議員に携わることが可能な
生活給が支給されているが,農村部の町村議会議員の報酬は,低い水準である ことから,兼業を前提にした議員活動となり,季節によって必要な労働力の偏 在がある農業や土木業の従事者が,議員になりやすい構造を有している。
3
町村の連合組織個々の自治体は,単体としての影響力は小さいが,集合体として発言すれば 影響力を行使し得るため,自治体の規模および執行部と議決機関別に連合組織 を結成して,国政における地方行政に関わるさまざまな意思決定に関わってい る。すなわち,首長の連合組織として,全国知事会,全国市長会,全国町村会 があり,議会の連合組織として全国都道府県議会議長会,全国市議会議長会,
全国町村議会議長会の地方六団体がある。従来,自治体相互間の連絡調整や共 通の問題を協議し,中央政府に働きかけるロビー団体として活動していた。ま た,地方税の増税など,国会や内閣の権限に属することでも地方自治に影響を 及ぼすような政策を実施する際には,事前に地方六団体の承認を得るなどして,
形式的には地方自治体の同意を調達してきたが,1993 年に地方自治法が改正 表 5 地方議会議員候補者の職業別比較
% 特別区 指定都市 一般市 町村
教育 1.0 0.9 0.0
0.4
商業 2.6 1.2 5.5
7.9
農林水産業 0.0 1.5 7.8
27.7
専門職 1.9 1.6 0.8
0.5
会社員 13.9 12.7 19.3
19.1
団体役員 2.9 5.8 3.1
2.2
政党役員 7.5 8.1 4.7
1.9
無職 7.6 13.3 15.1
20.0
その他の職業 62.6 54.9 43.7
20.3
注記) 「専門職」とは,弁護士,会計士,医師,薬剤師,著述業,出版業,記者の合計 である。
資料)総務省『地方選挙結果調』2015 年より筆者作成。
され,「地方自治に影響を及ぼす法律又は政令その他の事項に関し,総務大臣 を経由して内閣に対し意見を申し出,又は国会に意見書を提出することができ る」(地方自治法第 263 条の 3)という意見具申権が付与されたことにより,より 積極的に制度改革等に影響力を行使できるようになった。
全国町村会や全国町村議会議長会は,若干の固有職員を有するが,基本的に 各構成自治体からの派遣(出向)職員により構成され,予算も構成自治体の出 資金によって運営されている。町村会館の運営など,若干の独自業務もあるが,
東京都千代田区の中央官庁街近くにオフィスを置き(全国町村会は国会議事堂や 首相官邸,自民党本部のある永田町,全国町村議会議長会は英国大使館や行政機関の分 署が置かれている一番町),基本的に全国の町村に共通する業務を行っている。
加えて,東京都には,東京都町村会と東京都町村議会議長会が設立され,都 内の町村間での連絡調整や共通課題解決のための調査研究及び協議の他,都知 事や都議会に対するロビー活動も行っている。地方六団体と同様,構成自治体 の派遣職員と出資金によって運営されている。全国の各都道府県にも同様に,
町村の連合組織が結成されており,それぞれ活動している。
東京の連合組織は,東京都府中市に所在する東京自治会館に事務所を構えて いるが,ここでは,東京町村会および東京町村議会議長会の事務局を置くだけ でなく,多摩地域の 12 市および 13 の一部事務組合と共に都内の 5 町 8 村が共 同で行政委員会,すなわち公平委員会を設置しており,東京都市町村職員退職 手当組合を所管している。さらに,加盟する市(10)や一部事務組合(16)数 は上記と若干異なるが,13 町村が加わる東京都市町村議会議員公務災害補償 等組合を結成して共同処理している。また,八王子市,青梅市,あきる野市を 加えた 13 町村で東京都市町村林野振興対策協議会を会館内に常設し,林業行 政の推進を図っている。この連合の際立った特徴としては,多摩地域の東京都 市長会と共同で東京市町村自治調査会を会館内において,共同事業や調査研究 および市民活動支援をも担っていることであろう。小規模自治体では困難な業
務について,共同で取り組むことのできる枠組みを提供している。
4
町村の人的資源と人材供給町村職員の給与水準は,都市自治体の職員や都道府県職員と比べて低い。
2015 年の総務省『地方公務員給与実態調査』によれば,給与水準の低いワー スト 200 自治体の内,町村は 188 町村(94.0%)を占める。ワースト 500 自治 体をみても,町村は 426 町村(85.2%)を占めている。農村部は物価水準が低 いとは言え,広域的な視点において,必ずしも魅力的な職場ではないが,家業 を継がない第 2 子以降の人びとにとって,安定した職場を提供している。
地方議会議員の報酬は,どうであろうか。一般的な傾向として,村→町→一 般市→特別区→指定都市と人口規模が大きく,あるいは都市部に近くなってい くに従って,報酬額は高くなっている。具体的に東京都の市区町村の例を見て みると(2015 年の数字),月額の議員報酬が最も高額な東京都内の自治体は足立 区の 621,000 円で,中野区の 584,100 円まで,八王子市が 590,000 円と中野区 の上位にきていることを例外に,23 の特別区が上位を占めている。市では,
八王子市を筆頭に清瀬市の 418,000 円まで,市自治体が占める。日の出町が 345,000 円と清瀬市に続き,以下大島町の 200,000 円まで檜原村の 261,000 円の 例外を除き町自治体が占めている。大島町より少額なのは全て村で,青ヶ島村 は 100,000 円となっている。ちなみに,東京都内に政令指定都市がないので比 較ができないが,近隣の政令指定都市である横浜市の議員報酬は 953,000 円,
川崎市は 830,000 円である。青ヶ島村と横浜市とでは,議員報酬の差は 9.5 倍 もの開きがあり,地方議員職の職務期待値が大きく異なっていることが理解で きよう。都市部の地方議員は,専業で専門的に住民の意思を吸収し,政治行政 に反映させることが職務上期待されて報酬額に示されているが,農村部の地方 議員は,非常勤で行政部門との橋渡し役を期待されているため,政治的機能が 異なっている。
一方,横浜市長(1,428,000 円)と青ヶ島村長(600,000 円)との給与の格差は,
2.4 倍であり,常勤職である首長の給料の格差は議員報酬ほどの違いはない。
同様に,自治体職員給与を比較すると東京都内でもっとも平均職員給与が高い 自治体は,郊外に位置する三鷹市(470,173 円,平均年齢 43.2 歳)〔横浜市の 437,901 円より高い,平均年齢 40.8 歳〕と最も低い青ヶ島村(217,992 円,平均 年齢 33.5 歳)は,2.2 倍の開きとなっており,職員トップの首長の給料格差と ほぼ一致している。市と町村間では,行政職の給与は約 2 倍,政治職の報酬は 約 10 倍の違いがあることがわかり,行政部門と政治部門との関係が,市にお ける役割期待と町村における役割期待が異なることがここで了解できる。人口 規模の小さい町村では,住民の多様な政治的意思を政策に反映させるための草 の根の代表に対する経済的障壁が都市部よりも高いことが理解できる。伝統的 には,農村地域は同質的な価値観が共有されていると認識されてきたが,今後 の若年層の流入を進めていくためには多様化を図っていかなければならない面 もあり,議会の代表制をどうのように担保していくかは,大きな課題であろう。
図 1 議会改選定数に占める無投票当選者数の割合の推移(各統一地方選挙時)
資料)総務省『地方選挙結果調』各年版より筆者作成。
0 5 10 15 20 25
1 9 5 5 1 9 5 9 1 9 6 3 1 9 6 7 1 9 7 1 1 9 7 5 1 9 7 9 1 9 8 3 1 9 8 7 1 9 9 1 1 9 9 5 1 9 9 9 2 0 0 3 2 0 0 7 2 0 1 1 2 0 1 5 町村議会議員 市議会議員 指定都市議会議員
こうした格差は,小規模自治体における代議制にどのような課題を突きつけ ているだろうか。先にみた,小規模自治体における議員の担い手が極めて限ら れているのは,どういった理由からだろうか。図 1 は,表 4 を別の角度から経 年変化をみたものである。すなわち,第 3 回統一地方選挙⎝₁₅⎠以降の議会改選 定数に占める無投票当選者数の割合の自治体の規模別推移である。町村議会議 員は,高度経済成長期には安定して比率が低かったが次第に比率が高まり,最 近では 20%を超える状態が続いている。一方,指定都市を含む市議会議員は,
若干比率は高まる兆候はみられるもの一貫して 5%以下の水準を保っている。
こうした町村議会議員のなり手不足は,いかなる要因が考えられるのだろう か。第 1 に,先述したが,小規模町村においては,会期日数は限られていると はいえ,他の職業と兼業するには平日昼間開催される定例会出席など議員活動 に係る時間的拘束が大きく,議員報酬だけでは生計を立てていけないという状 況にあるものと考えられるためである⎝₁₆⎠。第 2 に,地方議会は,長年の制度改 革により,議員としての専門性がより強く求められるとともに時間的にもより 拘束されるようになり,一般住民が議会に参画しにくくなっているためである。
第 3 に,近年,各市町村において議員定数の削減が進められてきたため,元々 議員定数が少ない小規模町村ほど,議員の業務負担感が増加してきたものと考 えられるためである。第 4 に,小規模自治体の地方議会議員に係る兼職禁止及 び請負禁止は,人口や事業所がそもそも少ないことに加え,公務部門の人材や 町村との取引関係がある事業者等が議員になり得ないことによる実態的影響が 大きいものと考えられるためである。第 5 に,議員活動の際,地方自治法上の 法規制のほか,各企業等の就業規則などによって兼業が困難な場合があるため である。
こうした現状に対して,総務省は現行の地方議会のあり方を維持できること を前提に,「集中専門型」と「多数参画型」という新しい形態の議会を条例によっ て選択可能とする提言を行った。集中専門型とは,少数の専業的議員による議
会構成とし,豊富な議会活動を行うことを想定しており,議員には生活給を保 障する水準の充分な議員報酬を支給する類型である。一方,多数参画型とは,
多数の非専業的議員による議会構成とし,夜間や休日を中心とする議会運営を 行うが,契約の締結などを議案対象から除外することなどによって,議員の仕 事量と負担を軽減し,それに見合った副収入的な水準の議員報酬を支給する類 型である⎝₁₇⎠。
総務省の設置した研究会は,2017 年 6 月に四国山地の中央に位置する人口 人の高知県大川村⎝₁₈⎠の和田知士村長が,次の村議会議員選挙の立候補者が定 数に満たない事態に備えようと「町村総会」の設置の検討を表明したことをきっ かけとして設置され,上記のような提言に至ったわけであるが,大川村では村 議会を廃止し,村総会を設置することは断念した。さらに,集中専門型や多数 参画型の新しい形態で運営する条例も制定する方向で改革するのではなく,村 議会議員に立候補するにあたって兼業の制限対象にならない企業や団体を公表 する条例を 2019 年 3 月に制定した。同年 4 月の施行後に,請負比率の低い森 林組合など 3 団体が兼業可とされ,村民が立候補しやすい環境が整えられた。
結果として定数 6 に対して,現職 4 名,新人 3 名の立候補となり,8 年ぶりの 選挙戦が繰り広げられ,新人 2 名が当選して議員となった⎝₁₉⎠。新たに当選した 一人である和田将之議員は,5 年前に地域おこしに取り組む「緑のふるさと協 力隊員」として移住してきた 28 歳の若者である⎝₂₀⎠。村の活性化を伴う新しい 風が吹き始めたと言われている⎝₂₁⎠。
5
町村の税財政構造全国の市町村の財政状況をみてみる。都道府県を含めた地方自治体全体の歳 入の構成比は,既にみたとおりであるが,2015 年度の市町村自治体においては,
地方税 32.3%,地方交付税 17.0%,地方債 15.3%,都道府県支出金 6.7%,そ の他 25.4%となっている。市町村の地方税は,市町村民税と固定資産税が中心
となっている。市町村民税は,法人の所得に応じた部分もあるが,個人の所得 額に応じた課税が中心であり,固定資産税は土地などの固定資産に課税される 課税であるため,都道府県税である企業の収益に課税される事業税に比べて,
景気の変動を受けにくく,安定した性格を有している。
地方交付税は,本来地方の税収入とすべきであるが,地方自治体間の財源の 不均衡を調整し,すべての地方自治体が一定の水準を維持しうるよう財源を保 障する見地から,国税として中央政府が代わって徴収し,一定の合理的な基準 によって再配分する,いわば「国が地方に代わって徴収する地方税」(固有財源)
という性格をもっている。地方交付税の総額は,所得税・法人税の 33.1%(2015 年度から),酒税の 50%(2015 年度から),消費税の 19.5%(2020 年度から),地方 法人税の全額(2014 年度から)としている。
各自治体の普通交付税額=(基準財政需要額-基準財政収入額)=財源不足額 基準財政需要額= 単位費用(法定)×測定単位(国調人口等)×補正係数(寒
冷補正等)
基準財政収入額=標準的税収入見込額×基準税率(75%)
となっている。自治体の基準財政収入額が基準財政需要額を上回っている場合,
地方交付税は交付されない(不交付団体)。2019 年度は,86 地方自治体が不交 付団体となっている。都道府県では唯一東京都が不交付で,残りは市町村であ る⎝₂₂⎠。この内訳としては,市 51,町 27,村 7 となっている。人口に比して大 企業の工場群や空港が所在したり,発電所とその関連施設が設置されたり,観 光地や別荘地として固定資産税他の税収が多額の市町村が不交付団体となって いる。各自治体の基準財政収入額を基準財政需要額で割った数値が財政力指数 で表されるが,2019 年度の全国の市町村の財政力指数の平均は 0.51 である。
2018 年度の全国市町村の経常収支比率は,93.00%になっており,漸増傾向で 財政の硬直性が増している⎝₂₃⎠。
以下に,人口規模の違いと財政指標との連関をみて,町村の税財政環境を理
解してみる(2015 年度決算)。政令指定都市,中核市,特例市は,先に説明した とおりであるが,中都市は 10 万人以上 20 万人未満の人口の都市,小都市は 5 万人以上 10 万人未満の人口の都市を示す。また,人口 1 万人以上の町村を便 宜上中町村,人口 1 万人未満の町村を小町村と記すこととする⎝₂₄⎠。人口規模を 細かく刻んだ方が,町村の税財政の特徴がより理解できると考えたためである。
財政力指数の高い順にみると,政令指定都市(0.86),特例市(0.88),中核市 及び中都市(0.80),小都市(0.56),中町村(0.54),小町村(0.28)となっており,
中核市以外の市町村については規模が大きいほど財政力指数が高くなっている。
経常収支比率は,経常収支比率の高い順にみると,政令指定都市(96.7%), 小都市(92.4%),特例市(92.2%),中核市(92.2%),中都市(92.2%),中町村(89.8%), 小町村(87.5%)の順となっている。小都市が例外的に高い数値を示しているが,
傾向としては,人口規模が大きいほど,財政構造の弾力性は低くなっている。
小規模自治体の方が,財政構造の弾力性が高いというのは,専門家以外には一 般的な印象とは異なっているだろう。
さらに,実質収支比率⎝₂₅⎠の高い順にみると,小町村(6.6%),中町村(6.3%), 小都市(5.4%),中都市(4.8%),特例市(4.3%),中核市(3.4%),政令指定都
表 6 人口規模の違いによる自治体の主要財政指数の比較
指定都市 中核市 特例市 中都市 小都市 中町村 小町村 財政力指数 0.86 0.80 0.88 0.80 0.56
0.54 0.28
経常収支比率 96.7 92.2 90.0 92.2 92.489.8 87.5
実質収支比率 1.1 3.4 4.3 4.8 5.46.3 6.6
地方税構成比 41.2 39.3 44.2 38.0 27.125.0 13.0
地方交付税比率 5.1 9.4 7.0 11.0 23.324.4 37.1
国庫支出金比率 18.9 17.9 15.7 15.5 12.610.1 8.6
都道府県支出金比率 4.5 7.1 6.7 7.2 7.27.4 7.9
実質公債費比率 9.8 8.9 8.1 7.5 9.48.5 9.6
資料)総務省『地方財政白書』2020 年度版(2018 年度決算値)より筆者作成。市(1.1%)となっており,規模が小さいほど実質収支比率が高くなっている。
これも上記の経常収支比率と同様に,財政構造の弾力性を測る指標であるが,
同じ傾向であることがわかる。
地方税の構成比の高い順にみると,特例市(44.2%),政令指定都市(41.2%), 中核市(39.3%),中都市(38.0%),小都市(27.1%),中町村(25.0%),小町村(13.0%)
となっており,総じて規模が大きい自治体ほど地方税の歳入総額に占める割合 が高くなっている。財政自主権は,小規模自治体は極端に低い傾向にあること がわかる。
一方,地方交付税の構成比の高い順にみると,小町村(37.1%),中町村(24.4%), 小都市(23.3%),中都市(11.1%),中核市(9.4%),特例市(7.0%),政令指定 都市(5.1%)となっており,特例市以外の市町村については規模が小さいほど 地方交付税の歳入総額に占める割合が高くなっている。これは地方税構成比と は,およそ表裏の関係にある。
また,国庫支出金⎝₂₆⎠の構成比の高い順にみると,政令指定都市(18.9%), 中核市(17.9%),特例市(15.7%),中都市(15.5%),小都市(12.6%),中町村(10.1%), 小町村(8.6%)となっており,規模が大きいほど国庫支出金の歳入総額に占め る割合が高くなっており,国政の補助金政策に依存している傾向がみてとれる。
一方,都道府県支出金⎝₂₇⎠の構成比の高い順にみると,小町村(7.9%),中町 村(7.4%),小都市及び中都市(7.2%),中核市(7.1%),特例市(6.7%),政令 指定都市(4.5%)となっており,総じて規模が小さいほど都道府県支出金の歳 入総額に占める割合が高くなっており,県政の補助金政策に依存している傾向 がある。
全国市町村全体の実質公債費比率は,9.0%(2018 年度)となっている。個別 には,過去 3 年間の平均が 20%以上の場合,国は自治体の起債に対して制限 を加えることになっている。実質公債費比率の高い順にみると,政令指定都市
(9.8%),小町村(9.6%),小都市(9.4%),中核市(8.9%),中町村(8.5%),特
例市(8.1%),中都市(7.5%)となっている。20 万人前後の中規模自治体の実 質公債費比率が低いことから,財政運営における自治体の適正規模をはかる上 で重要な指標であることが理解できる。
財政規模は,当然のように,自治体の規模に比例するため,人口の多い都市 自治体は町村自治体よりも財政規模は大きい。しかしながら,個別に財政状況 を観察してみると,財政規模が大きければ財政は健全に運営されているか,と いえば必ずしもそうとは言えないことがわかる。町村は,経常収支比率は低く,
実質収支比率が高く,そして実質公債費比率が低いことから,財政運営上は都 市自治体よりも健全な状況を呈していると考えられるが,一方で,税財政に占 める地方交付税や外部からの支出金(特に都道府県支出金)の割合が高いため,
自主的な財政運営がしにくい状況下にあると分析できる。実際のところ,地方 交付税上の基準財政収入額は,地方税収入の 75%しかカウントしないで算定 されるので,残りの 25%は留保財源となり,事実上の地方税構成比を隠され たかたちで引き上げているとも言える⎝₂₈⎠。自治体の人口規模の拡大に伴う財政 規模の拡大は,行財政の自主性は高まるが,財政運営の健全性はかえって低ま ることを示している。町村は,少ない収入源の中でやり繰り上手な運営をして いるとも言える。
人口縮小時代の到来が予想され,騒然となった要因は,「多くの人びとは経 済成長と規模の拡大は不可分の関係にあると信じている。『大きいことは,い いことだ』という信奉である。合併によって自治体の規模を拡大しようとして きた。それによって市町村の間に指定都市・中核市・特例市・一般市・町村人 口規模による序列化が生じた。本格的な人口減少社会に向かって,ただでさえ 人口規模の小さい町村は『限界自治体化』するのではないかという暗い予想も ある。しかし,小さいことは,われわれの暮らしにとって,そんなにマイナス 要因なのであろうか」⎝₂₉⎠。むしろ,「人口が減少すればするほど市町村の存在価 値は高まるから消滅など起こらない」⎝₃₀⎠ともいえる。これまでの指標をみる限
りでは,町村合併によって人員やサービスの削減がないのであれば,自治体規 模の拡大が必ずしも財政運営上の健全化からくる行政サービスの充実化をもた らすわけではないことがここで理解できる。むしろ,合併がなんらかの「削減」
をもたらすのであれば,ただでさえ少ない地域の公務の担い手が減り,「小所 低所」に目配りをして,きめ細やかな行政サービスの取捨選択や優先度に基づ く拡大が難しくなり「やり繰り上手」ができずに,むしろ自治の危機をもたら す結果となるであろう。
Ⅲ 町村行政の今後の課題
1
小規模自治体数の減少と面積的規模の拡大ここ数年,町村自治体の数は,急速に減少してきた。いわゆる「平成の大合 併」⎝₃₁⎠が本格化する前の 2002 年 4 月の市町村数は,市が 675,町が 1,981,村 が 562 の計 3,218 であったが,2020 年 9 月には,市が 792,町が 743,村が 189 の計 1,724 と基礎的自治体数が半減,特に,町村の数は 3 分の 1 に激減した。
すなわち,基礎的自治体の地理的広域化が進み,財政的大規模化が進行したと 言える。加えて,日本の全人口の 88.8%が市の行政区域に住むことになり,町 村の住民の割合は 11.2%ということになった。
中央政府は,合併特例債や地方交付税の算定の特例により,小規模自治体の 合併を誘導したが,1 割程度の住民が 932 の町村に住み続けることになった。
地方交付税制度は交付税特別会計の借入が限界に達しており,既に実質的に破 綻状態に近く,今後地方交付税の交付は従来のように安定せず,小規模自治体 の財政は従来のような健全性は確保しにくくなろう。地方交付税が歳入全体の 3 割から 4 割を占める財政構造にある小規模自治体にとって,数パーセント規 模でも地方交付税の削減がこの先続くことになれば,小規模自治体の財政構造
は急速に悪化していくことになる。
税財政のみならず行政執行能力にも課題はみられる。小規模自治体である町 村は,多くは農山漁村地域に所在しており,過疎地域自立促進特別措置法や山 村振興法などいくつかの法制度によって,町村の業務の一部を都道府県が代行 する制度がある。当該法制度の地域指定を受けている町村のうち,39.1%にあ たる 227 町村がその適用を受けている状況にある。最も多いのは「過疎道路」
で過疎地域指定を受けている町村の 37.3%にあたる 166 町村が適用,「過疎下 水道」では 18.0%にあたる 80 町村,「山村道路」では 14.3%にあたる 59 町村,
「半島道路」では 18.3%にあたる 19 町村,「豪雪道路」では 9.9%にあたる 15 町村が適用を受けている。
この代行制度は,過疎地域における基幹的道路や公共下水道の幹線管渠等の 整備事業を都道府県が政令の定めにより,それぞれの管理者である町村に代 わってその権限を行使し,事業に関する経費は当該都道府県が負担する仕組み である。これは,過疎地域のみでは整備が困難な場合においては,町村を都道 府県が補完する制度になっている。周辺自治体との協力によって,事務を共同 処理する手法もさまざまに制度化されており,単独の町村で対処できない場合 の解決手段も制度的に準備されている。
さらに,法令上義務づけられた事務のうち,専門的な職員の配置状況,事務 処理体制等からみて町村が単独では実施することが困難と考えられる事務とし ては,国民健康保険,介護保険,障害者自立支援,土木・建築(設計・施工), 消防・救急,消費者保護などに係る事務を処理する際,保健師,社会福祉士,
社会教育主事,栄養士,土木・建築技師,学芸員などの専門職職員が町村に充 足しない例もあり,周辺の大規模自治体や都道府県からの派遣(出向)職員を 円滑に進める運用もみられ,町村行政を補完する仕組みがある⎝₃₂⎠。
この他,「都道府県や市町村の垣根を越えて,希少化する人材を柔軟に活用 していく仕組み」⎝₃₃⎠が,各地域で構築されてきている。地方自治法に定められ
ている自治体事務の広域的処理の方法には,地方自治法第 284 条に基づく一部 事務組合と広域連合がある。一部事務組合は,ゴミ処理や消防などの事務の共 同処理で全国的に幅広く採用されているが,主に市町村間の広域連携協力が中 心で都道府県が参加する例は例外的である⎝₃₄⎠。このため,広域自治体である都 道府県も参加できる広域連合の制度が考案され,広域的な行政の執行に際して,
直接国または都道府県から権限委譲を受けることができ,個々の市町村では実 施困難でも,広域的団体であれば実施可能な事務を,法令や条例の定めるとこ ろにより,直接広域連合が処理することができる。介護保険や高齢者医療制度 などの事務の共同処理で 111 団体が設置されている。その内,県が直接構成団 体となっている広域連合は 3 例のみであるが,都道府県内の全自治体が参加し ている広域連合は 48 例あり,この場合は事実上,都道府県も関与することに なっている。こうした広域連合では,都道府県が町村行政を補完している⎝₃₅⎠。 さらに,総務省の要綱に基づく制度で,定住自立圏や連携中枢都市圏におけ る協約や連携協定による手法もとられている。すなわち,広域連合のような組 織体を設置して対応するのでなく,政策ベースによって課題解決に取り組む手 法で,「自治体・地域が創意工夫を凝らして人口減少・超高齢社会に対処して いくためのツール」⎝₃₆⎠として,機動的に町村が活用している連携も各地にみら れ⎝₃₇⎠,町村行政を補完している。
2
人口減少時代の新たな価値観日本は,国民人口が減少期に入っただけでなく,以前から進んでいた農村地 域の社会減が進行し,町村はダブルパンチで高齢化と共に人口が減少してきて いる。住民が地域に住み続ける価値を見出さなくなった時,その地域の衰退は 始まる。地域が活力あるものになるかどうかは,その地域の人々が地元に魅力 を感じ,磨くことができるかにかかっている。したがって,人口が減ることに よって活力がなくなるわけではなく,人口減に先立って魅力を失っているので
ある。同時に,人口が増えている地域は,そのことだけで魅力ある地域とはさ れず,新たに転入してきた住民が,地域に愛着をもつことができなければ,活 力は失われる。
2015 年度末,人口減少の時代が到来する中,活力ある地域をつくり「まち・
ひと・しごと創成」のために,全国の自治体は人口ビジョンと総合戦略を策定 する作業に追われた。総人口の自然増が当面見込めない中で,社会増による人 口増加策を競ったところで,人の奪い合いが始まり,全体としてみれば消耗戦 となる。人口増加と経済成長を前提とした行政サービスの構築という過去の「ビ ジネスモデル」に固執して,成長戦略を果たそうとすれば,「プロクルステス
(prokrustes)の寝台」⎝₃₈⎠になりかねない。今,行政は,地域は,「ものの捉え方」
の価値観の岐路に立たされている。
3
小規模自治体の存在意義高度成長期は,全国的な人口増で都市と都市人口が拡大基調にあったが,都 心は若年人口が減って高齢化し,鉄道会社が輸送を担うだけでなく同時にデベ ロッパーでもあるという日本特有の事情により,都市郊外あるいは近郊に急速 な地域開発が進攻し,住民生活の歪みはまずこの地域に顕在化した。その深刻 な課題を解決するため,住民が行政の政策過程に直接参加する先進的な自治の 試みは,大都市の周縁の自治体に特徴的に見られた。自治意識の高い地域は,
いわば新興地域というパラドックスが存在した。解決すべき課題の多さが自治 意識を高揚させ,自治を拡充してきたわけである。
図 2 は,東京都内の都心,郊外,そして周縁の人口の推移をみたものである。
変化が分かりやすく比較できるように,人口規模が同じ地域を抽出している。
都心部である港区は,戦後の一時期を除けば昭和初期より一貫して人口増がみ られ,一度 1959 年にピークを迎えた後減少するが 1996 年に底を打ち,2030 年まで増加すると予測されている⎝₃₉⎠。2008 年に全国総人口がピークを迎えた
後,数少ない人口増を示す地域の一つである。次に,東京区部と隣接している 郊外地域である三鷹市は,高度成長期に急増したが,1980 年に減少した後は 停滞期に入り,2019 年から減少期に入った。東京圏の周縁部にあたる郡部お よび青梅市は,2000 年まではゆっくり増加していくが,その後直ぐに減少が 始まっている。東京西部の町村は,人口増においてはレイトカマーであり,人 口減においてはファーストランナーになっている。
全国の農村部の人口の推移も,上記の東京郡部と似た傾向をもつものも多い が,漸減が始まった時期はまちまちで,早くに減少期を迎えている地域も少な くない。さらに小規模自治体に焦点を絞ってみると,2015 年 4 月から 2019 年 4 月までの 4 年間で,住民がゼロになって消滅した集落は,全国で 164 になっ ている。この数字は,調査対象市町村(1,045 市町村)⎝₄₀⎠の集落(76,710 集落)の 0.2%に相当する。集落支援員や地域おこし協力隊などサポート人材が活動す る集落の割合は 34.8%で,2015 年の前回調査から 6.7 ポイント拡充したにもか かわらず,人口減は加速するとみられ⎝₄₁⎠,近い将来に消滅する可能性がある集
0 50000 100000 150000 200000 250000 300000
1 9 6 0 1 9 6 5 1 9 7 0 1 9 7 5 1 9 8 0 1 9 8 5 1 9 9 0 1 9 9 5 2 0 0 0 2 0 0 5 2 0 1 0 2 0 1 5 港区 三鷹市 青梅市+東京都郡部
図 2 都市圏内の地域別人口の推移
資料)総務省統計局『国勢調査』より筆者作成。
落は,全体の 5%近くになり,3,622 集落にのぼるとみられている⎝₄₂⎠。 経済成長が終焉しパイが縮小するなかで,住民の豊かさや福祉をどのように 最大化していくのか,方法も解も一つではない。これまでの価値観を転換し,
堅実な取組で住民の福祉を増進させることに成功した自治体は,実は以前より 過疎化が進行し,苦闘してきた地域である。北海道東川町,茨城県大子町,和 歌山県有田川町,島根県海士町,徳島県神山町といった小規模自治体が,自治 のユニークな取組で全国的な脚光を浴びているが,地域振興でよく言われる「よ そ者」(外部からの客観的なものの見方ができる),「わか者」(しがらみなくチャレン ジできる),「ばか者」(信念をもって活動に打ち込める)ばかりに頼った取組では ない。こうした「三者」を応援隊としつつも,地元住民が危機意識をもって対 話の中で主体的に取り組んできた成果である。共通しているのは,大都市とは 無関係な地域で,人口も少ない町村である。大都市に比べて暮らし方の選択肢 が多くない分,一つひとつの関係を大切にしているように思われる。
住 み よ い 地 域 の た め に 自 治 意 識 が 重 要 で あ る こ と は, レ ジ リ エ ン ス
(resilience)とか,ソーシャルキャピタル(social capital)とか,シビックプラ イド(civic pride)とか,外国語を使って喧伝されている。しなやかな強靱性や 非脆弱性を意味するレジリエンスや社会関係資本と訳すソーシャルキャピタル を測る指標は,地域の自主活動組織やボランティア活動の参加者数だったり,
選挙での投票率だったりして,地域の信頼性の高いネットワークの充実度を示 している。こうした人と人の繋がりや地域への愛着が,単に郷土愛に留まらず
「自分たちが地域をつくりあげている」と認識し,地域づくりに関わる主体で あると自覚するシビックプライドとなると説明されている。
地域の安全・安心について見てみても,このことは如実に示されている。警 察が刑法犯として認知した件数は,2002 年の 285 万件をピークに減少し続け,
2018 年には 81.7 万件と戦後最少を記録している。一方で,警察の検挙率は低 迷しており,1953 年に 70.4%だったのが,2018 年は 37.9%で,10 年以上 3 割
台を続けている。また,犯罪を認知してから検挙するまでの平均日数も,2006 年の 37 日から 10 年後の 2015 年には 55 日と 1.5 倍になっており,官による公 安が飛躍的に向上したわけでもなさそうである⎝₄₃⎠。その一方で,防犯ボラン ティアに参加する人の数は,2003 年に 17.8 万人だったのが,10 年後の 13 年 には 274.7 万人と 15 倍に増え,住民の防犯意識の高まりが犯罪の抑止力になっ ており,住民による地域を守る日常的な活動が,地域に安全・安心をもたらし ている。地域のレジリエンスの担い手は,行政から地域住民へと比重が移動し てきている⎝₄₄⎠。地域住民による「小所低所にこだわる」きめ細やかな活動が,
地域のレジリエンスを強固にし,QOL(Quality of Life)を向上させている。
自治権とは,主として土地利用の強制執行を含む警察権と課税自主権を有し ていることを指すが,これまでみてきた通り,日本の地方自治体はどちらもか なりの制約を受けているため,自己決定権と拡大解釈して,自治立法の範囲,
地方議会の有用性,住民参加の度合い,地域内自治組織の公共性を尺度とする 場合が多いが,いずれの指標も住民の主体的なかかわりが伴わなければ効果を 得られない。行政改革,行政評価,自治基本条例,そして総合戦略と,その時々 で自治の工夫の流行り廃りがあり,自治体職員は流行を追うことの「改革疲れ」
で手詰まり感を呈している。町村行政においては,住民間の対話と合意を促す ことで無関心や諦めを克服し,意欲と共感を育て,多くの住民に当事者意識を 醸成することこそが,実は自治の「古くて新しい」課題であろう。
今般のコロナ禍による在宅勤務の増加によっても,大都市から農村地域への 移住の増加による不動産売買の大きな波は現時点では観測されてはいないが,
これを機に「帰りなん,いざ」と思い,田園生活を始めた人々も少なからずお られるであろう。予測されていなかった新型のウィルスが多くの人々に「離都 向村」の機運を伝染させ,さらに住みよい地域づくりのための自治意識を培養 するのではあれば,大きな対価を支払った代償として,奇貨居くべしと考える べきだろうか。
[附記]
この論文は,もともと中国で出版された张立主编『东亚乡村建设与规划』中 国建筑工业出版社,2020 年,に锻冶智也「日本小规模自治体―村镇的行政―」 として所収されている論文の日本語版に大幅に加筆・修正したものである。
2016 年 12 月 20 日から 26 日まで,中国各地からの都市計画の専門家によっ て構成される「日本の町村におけるまちづくり及び行財政制度」に関する調査 団が来日した際,東京の農村地域のまちづくりに関する調査の企画調整と随行 を行った。12 月 23 日に調査団員に日本の町村行財政に関するセミナーをした が,後日,中国都市計画学会副理事長であり,上海の都市計画分野の名門大学 院である同済大学大学院建築都市計画学院の赵民教授から論文の寄稿を求めら れ提出したものが上記の書籍に所収された。本稿が基本的な制度解説に多くの 紙面を割いているのは,こうした経緯があるためである。
ちなみに,冒頭に引用した「かへりなんいざ 歸去來兮辭」という陶淵明の 詩の一部は,中国語版には記していない。
上記調査団は,12 月 21 日(水),府中に所在する東京都町村会・東京都町村 議会議長会の名倉衡事務局長,川地雅文次長,大房史明事務課長に,そして檜 原村企画財政課の藤原啓一企画財政係長,幡野敦史主事に,ヒアリングを行い 筆者も同行した。翌 22 日(木)には,東京都総務局行政部振興企画課の菅瀬 優生課長代理,田辺俊幸多摩振興担当に,そして奥多摩町の河村文夫町長にヒ アリングを実施することができた(役職は全て当時)。このヒアリングの成果は,
主に調査団の研究成果に反映されているが,この論文にも多くの示唆が与えら れている。ここに記して,感謝申し上げたい。
注
( 1 ) 天川晃「変革の構想:道州制論の文脈」(大森彌・佐藤誠三郎編『日本の地方政府』
東京大学出版会,1986 年所収 111-137 頁)。
( 2 ) いわゆる補助金で,使用用途が指定されており,国の負担割合も決まっている。
( 3 ) 自主財源比率の全国平均は,自主財源比率=(都道府県の自主財源額+市区町村の 自主財源額)÷(都道府県の歳入+市区町村の歳入)として算出した。地方自治体の財 源には,自らの権限で収入しうる財源と,国を経由する財源で自治体の裁量が制 限されている財源とがある。前者を自主財源と呼び,後者を依存財源という。自 主財源の中心は言うまでもなく地方税であり,そのほか,条例や規則で徴収でき る使用料や手数料なども自主財源である。依存財源の典型は国庫支出金(補助金)
であり,地方交付税も国の一般会計を経由してくることもあって依存財源とされ る。地方債については,原則的には起債自由(地方自治法 230 条)であるから自主 財源であるはずだが,許可制度があるため(地方自治法 250 条)に依存財源に分類 されている。
( 4 ) 国の歳出額は,一般会計と交付税及び譲与税配付金特別会計,エネルギー対策 特別会計,年金特別会計,食料安定供給特別会計,自動車安全特別会計,東日本 大震災復興特別会計の 6 特別会計との純計決算額である。国から地方自治体に対 する支出は,地方交付税(地方分与税,地方財政平衡交付金,臨時地方特例交付金およ び特別事業債償還交付金等を含む),地方特例交付金等,地方譲与税および国庫支出 金(交通安全対策交付金,国有提供施設等所在市町村助成交付金および地方債のうち特定資 金公共投資事業債を含む)の合計額であり,地方の歳入決算額によっている。また,
地方自治体から国に対する支出は,地方財政法第 17 条の 2 の規定による地方自 治体の負担金(地方の歳出決算額中,国直轄事業負担金に係る国への現金納付額および国 に対する公布公債の元利償還額の合計額)である。
( 5 ) 総務省自治財政局『令和 2 年版 地方財政白書』(平成 30 年度決算)2020 年 2 月。
( 6 ) 2000 年 4 月の地方分権推進一括法の施行以来,従来,都道府県の事務とされて いた「統一的な処理を必要とする事務」は法律上行われなくなった。「都道府県下」
の統一性を担保するため,市町村の事務処理について,都道府県が制約を課する ことは望ましくないと考えられるようになった。
( 7 ) 東京,京都,大阪の三大都市は,例外的に府―市―区の三層制が敷かれていた。
( 8 ) 補完性の原理とは,個人や地域の団体が自ら処理できる事柄を,広域の団体が 奪ってはならないという原則で,個人の自由や住民の自治を尊重するキリスト教 の思想を基礎にしており,1988 年にヨーロッパ地方自治憲章がこの原理に立脚し て制定された。
( 9 ) 1965 年以降は,市町村の合併の特例に関する法律(2004 年法律第 59 号の新法では