九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
魚貝類の薬物代謝酵素活性を指標とする水域汚染の 判定
大嶋, 雄治
https://doi.org/10.11501/3088203
出版情報:Kyushu University, 1991, 博士(農学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
第3章 アサリ中腸腺の硫酸抱合酵素活性とフェノール化合物によるその誘導
水生動物に及ぼす環境汚染物質の影響として毒性, 蓄積性, 残留性などが挙げられ るが, 慢性的な影響として, 各種薬物代謝酵素K対する誘導作用が危倶される。 薬物 代謝酵素の誘導は, 元来生体K侵入した異物に対する解毒能の昂進という一種の生体 防御反応、である。 しかしそれは解毒そ促進する半面, ビタミンやホルモンなどの生体 微量成分Kも作用し, 生体内のバランスそ乱し, 生理的な障害を誘発する恐れがある。
よって本章では, アサリを選びその薬物代謝酵素活性に及ぼすフェノール化合物の影 響を検討した。
第1節 数種フェノール化合物による硫酸抱合酵素活性の誘導
第1章の研究により, アサリ中腸腺のシトゾル画分に硫酸抱合酵素系が存在するζ とそ明らかにした。 また. 小林らの研究46,47,48)によると. アサリそ亜致死濃度のペン タクロロフェノール(PCP)に曝露した場合, 時間の経過とともLとPCPの硫酸抱合体が 生成され水中の遊離型PCPは減少した。 またアサリ中腸腺のスライスそ用いてin νitroで、フ ェノール硫酸抱合体の生成が確認されている49)。 さらに 亜致死濃度のPCP�C 曝露した場合, 初め体内PCP濃度は 曝露時間と水中PCP濃度に比例して増加し, 外囲 水の数十倍にも達する。 しかし. しばらくすると外囲水PCP 濃度を一定に保ったにも かかわらず. 体内 濃度はむしろ次第に減少するととが報告されている50) 。 また別の実 験で, 亜致死濃度のPCP�C曝露され一時弱っていたアサリが, 曝露約3日以後からそ の活力そ回復したと報告51)されている。 これらの原因として, PCP曝露中にアサリの 解毒能, つまり硫酸抱合酵素活性が昂進されたととが示唆される。 よって本節ではア サリそPCPおよび数種のフェノール化合物に曝露し, 硫酸抱合酵素活性への影響を検
討した
1.実験方法
フェノール化合物としてPCP, レゾルシノール, p-クレゾール, p-クロロフェノール,
p-ニトロフ ェノールおよびフ ェノールを用いた。 大牟田市近郊の干潟より採集したア サリ(殻付平均体重12 g)を20個ずつの7グループに分け, 各供試フェノール化合物
0.1 ppmを含む海水301 (Cr 17 ... 18 %0)に3日間曝露した。 飼育水は毎日新しく調製し て取り換えた。 曝露期間中の水温は240Cであった。 曝露後解剖し, 中腸腺を取り出し て処理区別にプールした。 これらを第1章に述べた方法により細胞分画し(Fig.1-1),
得られたシトゾ ル画分はドライアイスーエタノール中で急速凍結した後-200C で保存 し, 後日硫酸抱合酵素 活性の測定に供した(Fig.ト17)。
試薬
PCPは東京化成より入手し, 再結晶させたものを用いた。 その他の試薬は市販特級 品を用いた。
2. 結果と考察
実験の結果をFig.3_130)に示す。 硫酸抱合酵素の活性は, PCP 区で 対照区(1.7 nmolJmin /g-liver)の240 %まで増加した。 ま たレゾルシノール, クレゾール, クロロ
フェノールおよびニトロフェノール区 は対照区に 対しそれぞれ 62, 50, 40, 12 %増加 したが, フェノール区では変化しなかった。 すなわち, 供試フェノール化合物のうち では, PCP が硫酸抱合酵素の活性を最もよく誘導する ことが明らかとなった。
小林らの研究明Lとよると, ヒブナ を0.1ppm PCP �ζ4日間曝露しでも硫酸抱合酵素 活性は 対照区に比べ 26 % しか増加しなかった。 このことより, アサリの硫酸抱合酵素 の活性はヒブナに比べて PCP �とより誘導され易いと考えられる。
A『《J
PCP Control
Resorcinol p-Cresol
p-Chlorophenol p-N itrophenol Phenol
。 2 3 4 5
Enzyme activity (nmollmin/g・liver)
Fig.3・1. Induction of the phenoトsulfate conjugating activity in the cytosol of short-necked clam mid-gut gland by 3・day exposure to phenols.30)
第2節 PCP長期曝露による硫酸抱合酵素活性の誘導
前節の実験から, アサリ中腸腺の硫酸抱合酵素活性の誘導斉IJとして, PCPが有効で あることが明らかになったので, 本節では長期間 PCP�と曝露したアサリにおける硫酸 抱合酵素活性の誘導と誘導された活性の持続性を検討した。
1. 実験方法
豊前市近郊の干潟で採取したアサリ(殻付き平均体重13g) 400個を, 0.1ppmの PCP海水1m3そ入れたパンライト水槽に最長5週間曝露した。 海水は隔日に換水を行
い. その換水時に供試貝を緑色鞭毛藻類Dunaliella s p.の培養海水(細胞濃度約4 x104 cells/ml) 5∞l中に2-3時聞入れて摂餌させた。 実験期間中の海水塩素濃度は17-18 児oであり, 水温は17-21 oCであった。 曝露開始より2週間後, 供試貝のうち10∞O個体 はPCP曝露を中止しι' 以後清j浄争海7水kで
飼育したものを対照区とした。 適当な期間ごとに各試験区の供試貝を20個ずつ取り出 し, 中腸腺を摘出し, 第1章で、述べた方法に従って細胞分画を行った。 得られたシト ゾル画分は, 液体窒素で急速凍結後-80oCで保存し, 後日第1章で述べた方法により 硫酸抱合酵素活性の測定に供し?と。
2. 結果と考察
実験期間中の水温とアサリ1個体当たりの軟体部重量の変化をFig. 3-2 �ζ示す。 水温 は, 実験開始時に210Cであったが次第に低下し, 実験終了時には170Cであった。 軟 体部の重量は, 対照区で実験期間中約1.8g前後と変化しなかった。 曝露区では実験開 始後軟体部重量は, 実験開始1週間後, 1.2gまで低下したが, その後回復し1.5g前 後を保った。 持続性試験区も曝露区と同様の傾向を示した。
硫酸抱合酵素の活性をFig. 3-330)に示す。 対照区の活性は, 実験期間中 5.2-7.2
ぷUFhE】
25
20 (。。)①」コ担問」φaεωト
15 (苛コ℃てこ刀cqO)HFち一ω言、AhuO心とoω
4 5 2 3
0 0
Weeks
Changes in the soft body weight of short-necked clam and water temperature during exposure to PCP for 5 weeks.
Fig.3・2.
0一一-0 Control-group Retention-group
①一一切
PCP-group
a‘ a・‘
‘.. 司..
40
,0 --h L〉
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C 30 ε
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0)
三
10w C
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。
。 2 3 4 5
Weeks
Fig.3・3. Induction of the phenol-sulfate conjugating activities in the cytosol of short-necked clam mid-gut gland by exposure to 0.1 ppm PCP for 5 weeks, and duration of its induced
activity a代er discontinuance of PCP-exposure.30)
• • PCP-group
①一一ーベD
Retention-group。--0
Control-group。。戸、J
nmolJmin/g-liverとほとんど変動しなかった。 乙れに対しPCP区の硫酸抱合酵素の活性 は, 実験終了時まで直線的に増加し続け, 2週間後には対照区の約4倍に, 5週間後に は約7倍の42 nmo1/minlg-liver に達した。 2週間PCP 曝露し?と後に清浄海水に移した 持続性試験区の本酵素活性は曝露中止時に対照区の4倍に誘導されていた。 清浄海水 に移すと, その活性は時間の京五邑とともに次第に低下したが, 3週間後の実験終了時 においてもなお対照区のl.5倍の値であった。
アサリをPCP�C曝露し?と後に清浄な海水に移した場合, 員体内のPCPは速やかに排 出され約い2時間後には 半減するo m53)しかし. Fig. 3-3 �C示すように. PCP �C よって誘導された硫酸抱合酵素活性の半減期は約2週間で, その低下はPCPの生物学 的半減期に比べて著しく緩慢であり, アサリ体内からPCPが消失した後も, 相当期間 保持されることが明らかになった。
本実験結果より, 低濃度PCP�Cアサリを長期間曝露した場合, アサリ体内のPCP量 が減少するぬ53)とともにその活力が回復する51)原因は硫酸抱合酵素活性が誘導され,
その解毒能が昂進したためであると考えられる。
第4章 コイ肝隣臓薬物代謝酵素活性と環境汚染物質によるその誘導
前章で, アサリをフェノール類に曝露すると中腸腺の硫酸抱合酵素活性が誘導され ることを明らかにした。 本章では, 魚類肝臓の薬物代謝酵素活性に対する環境汚染物 質の影響を明らかにすることを検討した。
第1節 数種環境汚染物質の経口投与による薬物代謝酵素活性の変動
魚類に有機塩素剤や有機燐斉IJなど数種の環境汚染物質を経口投与し, 魚類肝臓の MOおよび抱合酵素活性に及ぼす影響を検討した。
1. 実験方法
供試魚、としてコイを選ぴ, 環境汚染物質としてPCB ( polychlorinated biphenyl, octa),
y-BHC (1ム3人5,6-hexachlor∞yclohexane),p,p'-DDT [2,2di(p-chlorophenyl)-1,1,1-
廿ichloroe出ane]. PCP. フェニトロチオン[O,O-dimethyl0-(3-me出yl-4-ni廿opheny1) phosphorothioate] . フラゾリドン [八に(5-ni仕0- 2-furfurylidine)-3-amino-2由oxazolidone]を,
また酵素誘導斉Ijとしてラットで多く供試されている3-メチルコラントレン ( 1ムdihydro- 3-me出ylbe回U)a印加出rylene )を選んだ。 これらの薬剤を適量のアセトンに溶解し, 市販 のコイ用飼料 1 g当たり0.2 mgとなるよう添加し風乾してアセトンを除去したもの を薬剤添加飼料とした。
コイは熊本県八代市の養殖場より入手した。 水温200C. 11時間照明の循環式水槽
(60 l) 8個にコイ(体重約100 g)を7尾ずつ収容し2週間馴致した。 各試験区にそれ
ぞれの薬剤添加飼料3.5 g を毎日1回. 10日間連続投与した。 対照区には薬剤無添加 飼料そ同量投与した。 10日後に断頭によって脱血した後肝臓を摘出し, 第1章で、述べ
-60-
た方法により細胞分画を行った。 得られた画分はドライアイス ーエタノール中で凍結 後-800Cで保存し, 適宜薬物代謝酵素活性の測定に供し?と。
ミクロソーム画分についてP-450含量を測定するとともに, 電子伝達系酵素である
NADPH-シトクロムc還元酵素およびNADH-シトクロムbs還元酵素, ならびにアニリ ン水酸化酵素, 0-脱メチル酵素, N-脱メチル酵素, グルクロン酸 抱合酵素の活性を測 定し, シトゾ、ル画分についてし2-ジクロロー4-ニトロベンゼンーグルタチオン抱合酵素 の活性を, またホモジネートについて酸性およびアルカリ性ホスファターゼの活性を 測定し, 各画分の蛋白量を求めた。 これらの定量法は第2章と同様であった
試薬
BHC. DDT. PCB, 3-メチルコラントレンおよびフェニトロチオンは和光純薬工業 株式会社より. フラゾリドンは上野製薬より, PCPと1.2-ジクロロー4-ニトロベンゼン
は東京化成よりそれぞれ入手した。
2 .結果と考察
P-450含量および電子伝達系酵素の活性をFig.4-1臼)に示した。 P-450含量は対照区 で0.24 nmolJmg-protein であったのに対し, PCB区で0.63 nmolJmg-protein, 3-メチル
コラントレン投与区で0.54 nmol/mg-protein と対照区の2-3倍に増加し, Lidmanら11),
ADDISONら55)と同様の結果が得られた。 また, フラゾリドン区でも40% の増加が認 められたが, その他の薬剤ではP-450の誘導は 認められなかった。 ADDISONら56)はニ ジマスにDDT を投与 した場合, ラットで報告57)されているような酵素活性の誘導は起 こらないとしており, 本実験でも同様の結果が得られた。
NADPHーシトクロムc還元酵素の活性は , P-450が誘導されたPCB区で対照区に対 し26 %増加した。 またフェニトロチオン, PCPの両区で対照区に対し50および38 % 増加したが, フラゾリドン区とD町区では 対照区と同レベルであり 3-メチルコラン
。\N
Cytochrome P-450 NADPH-cyt.c reductase NADH-cyt.bs reductase
PCB '
.
3・MC ' '
FZD BHC
DDT PCP
MEP Cont.
。 0.2 0.4 0.6 Content (nmol/mg-protein)
.
. ' . . . E .
‘ . . 1
. '
. ' e
' 1
o 10 20 30 40
Activity (nmol/min/mg-protein)
。 2 3 4
Activity (μmol/min/mg-protein)
Fig.4・1. Induction of cytochrome P-450 content and activities of NADPH-cyt. c reductase and NADH-cyt. bs reductase in hepatic microsomes of carp by dietary administration of octachlorobiphenyl (PCB),
3・methylcholanthrene (3・MC), furazolidone (FZD), y-BHC, p,p'-DDT, pentachlorophenol(PCP) and fenitrothion (MEP) for 10 days.
トレンと BHC区では逆に対照区の 82 %および63 %に低下した。
同じく電子伝達系酵素であるNAD H- シトクロムbs還元酵素の活性はDDT区で3.5
μmol/ min/mg-proteinと対照区に対し80 %増加したが , 他はいずれも対照区とほぼ同程
度であり, P-450およびシトクロムc 還元酵素とは異なった傾向を示した。
Fig.4 -2 に水酸化酵素, 0-脱メチル酵素およびN-脱メチル酵素の活性を示す。 水酸化 酵素の活性は,対照区で0.02 nmolJminJmg-proteinであったのに対しフラゾリドン区お
よびPCP区で50 % 増加したが, フェニトロチオン区では25 % 減少した。 0-脱メチル 酵素の活性は対照区で0.19 nmolJmin/mg-proteinで、あったのに対し, いずれの投与区で
も増加し, 特に PCB投与区では最高の0.57 nmollminJmg-protein�ζ達し, 次いでDDT区,
PCP区. 3-メチルコラントレン区. BHC 区, フェニトロチオン区. フラゾリドン区の 順であった。 N-脱メチル酵素の活性は, フ ラゾリドン区およびPCP 区で対照区に対し 100, 80 %増加し, また PCB区, 3-メチルコラントレン区およびD町区では47 % 増加した。 しかしBHC 区およびフェニトロチオン区では逆に 24 %減少した。
本研究の結果と同様に PCB投与したコイで P-450および0-脱メチル酵素が誘導さ れるとMELANCON G 58)は報告している。 YANOとMATSUYAMA 59)はコイロCBを投与 するとその肝ミクロソーム中の
P-450含量とベンゾ、[a]ピレン水酸化酵素, O-,N-脱メチ
ル酵素の活性が誘導されるとともに, ステロイドホルモンの水酸化酵素活性が増加す るととを報告している。 またMAEMU孔屯とOMU孔t\.23)によるとヒブナに3-メチルコラン
トレンを投与した場合, P-450, N-脱メチル酵素, 0-脱メチル酵素活性は 誘導したが,
シトクロムc還元酵素活性は減少すると報告しており, 本研究でも同様の傾向が得ら れた
アルカリ性,目安性ホ スフ ァターゼ, グルクロン酸抱合酵素および1,2-ジクロロー4-ニ トロベンゼン ーグルタチオン抱合酵素の活性は, Fig. 4 -3に示すようであった。 アルカ リ性ホスファターゼの活性は, 対照区に対して BHC区で90 %増加した。 しかし他の 区では大きな差はなく,3-メチルコラントレン区およびフ ラゾリドン区では 逆に40 %
Aniline hydroxylase p-Nitroanisole 0・demethylase Aminopyrine N-demethylase PCB
3-MC
FZD
BHC
DDT
3と PCP
MEP Cont.
。 0.02 0.04 。 0.2 0.4 0.6 。 0.2 0.4
Activity (nmollmin/mg-protein)
Fig. 4-2. Induction of the aniline hydroxylase, p-nitroanisole 0・demethylase and aminopyrine N-demethylase in hepatic microsomes of carp by dietary administration of octachlorobiphenyl(PCB), 3・methylcholanthrene (3・MC), furazolidone (FZD) , y-BHC, p, p'-DDT, pentachlorophenol(PCP) and fenitrothion (MEP) for 10 days.
υ。\1
Alkaline phosphatase Acid phosphatase p-Nitrophenol -UDP
glucuronyltransferase
1,2・dichloro・4・nitrobenzene - glutathione transferase PCB
3-M
BHC DDT PCP
MEP Cont.
L
。 2 3 4 5
. . '
' a .
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‘ ' ' ' a
0 2 4 6 8 。
Activity (nmol/min/mg-protein) j
e
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' ' '
.
' '
1 J 0.05
j j
1
0.1 0 0.25
Fig.43.Induction of alkaline phosphatase,acid phosphatase,pnitrophenol-UDpglueuronyltransferase and 1,2・dichloro・4-nitrobenzene glutathione transferase in carp liver by dietary administration of octa- chlorobiphenyl (PCB), 3・methylcholanthrene (3・MC),furazolidone (FZD), y-BHC, p,p'-DDT, penta
chlorophenol (PCP) and fenitrothion (MEP) for 1 0 days.
NT: Not tested.
0.5
および23 % 減少した。酸性ホスファターゼの活性は, 対照区に対してどの試験区で も ほとんど変化しなかった。
グルクロン酸抱合酵素の活性は, 3-メチルコラントレン区で0.10nmo1/min/mg-
proteinと対照区(0.06 nmo1/minJmg-protein)に対し70 %近く増加した。 次いで、PCP,
フェニトロチオン, BHC , DDTの順で誘導されていた。 PCB区では対照区とほぼ同レ ベルであった。
グルタチオン抱合酵素の活性はPCP 区で0.44 nmo1/min/mg-proteinと対照区より34 % 増加した が, DDT 区では対照区とほぼ同じレベルであり, フェニトロチオン区では対 照区よりも33 %減少し, その他の区でも約24 %低い値を示した。
以上の結果より, 薬剤の投与により薬物代謝酵素活性が影響を受けることが明らか となった。 特に PCB�とよりP-450含量と0-脱メチル酵素活性が強く誘導された。
第2節 PCB長期投与による薬物代謝酵素活性の誘導
前節の研究により, コイLζPCBや3 -メチルコラントレンなどを投与するとP-450含 量と薬物代謝酵素活性が誘導され, 供試7種の薬剤のうちでPCBは最高のP-450誘導 性を示した。 PCBによる薬物酸化系酵素の誘導については多数報告されているが, 大 部分は比側ワ多量のPCBを1固ないし数回投与した場合の誘導性に関するものである。
本節では強いP-450誘導性を示したPCBをコイに長期間投与し, 肝臓薬物代謝酵素 活性の誘導を経時的に追跡するとともに, その誘導の限界および誘導された 酵素活性 の持続性も検討した。
-66-
i 実験方法
PCB投与実験
アセトンに溶かした PCB(東京化成PCB-48)を市販コイ用飼料lζ0.1 mg/g-dietとな るように添加した後. 風乾させ PCB 添加飼料とした。 供試魚、には, 八代市の養殖場よ
り入手し, 流水で、1カ月以上馴致飼育したコイ(平均体重約 80 g)を用いた。 供試魚 120尾を 6個の701水槽�C 20尾ずつ収容し, 流水(井戸水)で飼育した。 PCB 投与区で は80尾の供試魚に毎朝1尾当たり 0.4 gのPCB 添加飼料(0.05 mg PCB / 100 g- body weightJ day )を投与し, 夕 方飽食量のPCB無添加飼料を給餌しながら16週間飼育し た。 また, 実験を開始して4週間後にPCB区の供試魚、のうち20尾に対してPCB添加 飼料の投与を中止し, 無添加飼料のみを給餌し持続性試験区とした。 また, 対照区で
は40尾の供試魚化朝夕無添加飼料のみを給餌した。
実験中の水温は, 実験開始より10週間は約250Cであったが, 実験終了時の16週後 には21 oc �ζ低下した。 供試魚は誘導区で2, 4, 7, 10, 13, 16週後に, 持続性試験区 では7, 13, 1 6週後�C, 対照区では 0, 2, 4, 7, 10, 13, 16週後�C , それぞれ 5尾ず つ取り出し, プラスチックハンマーで頭を強く叩しミて気絶させた後, 腹部を解剖して 心臓にカテーテルを挿入し, 0.9 % NaCl 溶液を流して脱血を行った。 潅流を十分に行
った後, 肝臓を摘出し, 5尾分をプールし第1章の方法に従って細胞分画を行い, ミク ロソーム画分とシトゾル画分を得た。 得られた画分はドライアイスーエタノール溶液 で凍結した後, ディープフリーザーし800C)中に保存した。
酵素活性測定
得られたミクロソーム画分については, P-450 含量を測定するとともにNADPH-シ
トクロムc還元酵素, NAD H-シトクロムbs還元酵素, ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素, 0
・脱メチル酵素, N-脱メチル酵素およびグルクロン酸抱合酵素活性を, またシトゾル画 分についてグルタチオン含量および1-クロロー2,4-ジニトロベンゼンーグルタチオン抱
合酵素の活性を測定した。 グルタチオン含量はBAUERMEISTERら60)の方法(Fig. 4-4) で測定した。 それ以外の測定は, 第1章および第 2章に述べた方法によった
2.結果と考察
Fig. 4-5 �C示すように, 実験開始時には約75 g であった供試魚の(本重は次第に場〕日し,
実験終了時には約2倍に達した。
Fig. 4-6
54)�C P-450含量およびNADPH-シトクロムc還元酵素とNADH-シトクロム b5還元酵素の活性を示す
。P-450 の含量は対照区では 7週まで 約0.22 nmoVmg- protein のほぼ一定のレベルであったが, それ以後徐々に増加し, 実験終了時には 0.4
nmol/mg -proteinであった。 これに対しPCB投与区のP-450 含量は , PCB投与日数の経 過とともに増加し, 2週後には対照区の約2倍となり, ζの比率は実験終了時まで続 いた。 4週で PCB投与を中止した持続性試験区でも, 実験終了時まで 4週後のレベル を保った。
これに対して, P-450 �ζ電子を伝達する NADPH-シトクロムc還元酵素および
NADH-シトクロムb5還元酵素の活性は各試験区間で、大きな差は認められず, 飼育期
間の経過とともに次第に低下した。ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素, 0-脱メチル酵素およびN-脱メチル酵素の活性の変化は
Fig. 4-7 54) �と示すようであった。 対照区のベンゾ[a]ピレン水酸化酵素と0-脱メチル酵素 活性は実験期間中0. 011:t 0.004 および0.622土0.112 nmoνminJmg-proteinと 16 週間に わたってほ ぼ安定し?と値を保った。 しかし, ベンゾ[a]ピレンプk酸イヒ酵素の活性は PCB 投与により急激に増加し, 2週後には対照区の 22 倍に相当す る 0.207 nmol/minJmg-
protein �ζ増加し, 以後実験終了の16週後までほぼ同レベルを示した。 しかし2 週以後,
PCBの投与を継続したにもかかわらずほとんど増加が認められなか ったことは, 本酵 素の誘導に限界があることを示している。 持続性試験区で, 誘導された ベンゾ、[a]ピレ
ン水酸化酵素 活性は PCB投与を中止することにより次第に減少したが, 12週後にも対
-68-
Cytosol, 1.0 ml.
Add 1.0 ml of 12% PCA.
Centrifuge at 3,000 rpm for 10 min.
与up. 0.2 ml PPt.
I
Add 2.5 ml of 5グ-dinitro-bis (2-ni甘obenzoic acid) Absorbance at 412 nm.Fig.4-4. Determination of glutathione content in cytosol of carp liver.60)
200
õ) 150
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吉
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。 4 8 12 16
Weeks
Fig.4・5. Changes of carp body weight during PCB administration.
• • PCB-group 企一一-Ã Retention-group 0-一一o Control
-70ー
。�点 。______-o
Cytochrome P-450 0.8
0.6 0.4 0.2 (C一20」a'oε~一OEC)
HC2coo
。
。 8 12 16
NADPH-cytochrome c reductase 4
50
25 (C一20」♀oE~c一ε~一OEC)
会〉一ちのOEKANC出
。
。 8 12 16
NADH-cytochrome b5 reductase 4
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。 4 8 12 16
Weeks
Fig. 4-6. Induction of cytochrome P-450 content and the activities of NADPH-cyt.c reductase and NADH-cyt. b5 reductase in hepatic microsomes of carp by dietary administration of PCB (0.05mg/
100g body weightJday), and duration of the induced content and activrries after discontinuance of PCB administration戸4)
Control O一一-0
Retention-group
&一一一&
• • PCB-group
0.3 C 吻ー. ;.町、〉、2 三足0.2
( 1 ・
t1J O>
0ε
ト c
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山2
c 0.1
。 1.5
0.9
0.3 1.2
0.6
(C一20」己80ε~c一ε\ちεc)
bszo何OEKANCU
Aminopyrine N-demethylase
。 0.4 0.3 0.2 0.1
(C一20」a'mE~c一ε\一oεc)
kAH5 一ちのOEKANCU
。
16 8 12
4
。
Weeks
Fig.4・7. Induction of the benzo[a]pyrene hydroxylase, p-nitroanisole 0・demethylase and aminopyrine N-demethylase in hepatic microsomes of carp by dietary administration of
PCB(O.05mg/
100g body weighUday), and duration of the induced content and activities after discontinuance of
PCB
administration.54)Control
。一一一〈コ Retention-group
&一一一‘
今JM勺I
照区の13倍に相当する高い値そ保った。
0-脱メチル酵素の活性は, PCB投与により2週後には約2倍に誘導されたが, それ 以降乙の比率は変化しなかった。 また持続性試験区の本酵素活性は, PCB投与を中止 すると水酸化酵素活性と同様に次第に減少したが, 実験終了時でも対照区の1.3倍の 値を示した。 以上の結果から , PCB投与によって P-450系酵素, 特に水酸化酵素の活 性が誘導され易いととが 明ら かになった。
しかし, N-脱メチル酵素活性はPCB投与区でも誘導が認められなかった。 ELCOMB
とLECH61)はニジマス�C ß-ナフトフラボンやARCHLOR 1242そ腹腔内注射により投与 し. ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素活性は誘導されたが, N-脱メチル酵素活性は誘導され なかったと, 本実験と同様の結果そ報告している。
Fig. 4_854) �ζ示すように. 肝ミクロソーム画分の グルクロン酸抱合酵素活性はPCB投 与により徐与に誘導され, 4週後lとはで対照区の約2倍に増加したが, その後次第に低 下し. 各試験区間における活性の差は小さくなった。
Fig.4_954) にグルタチオン含量, ならびに1ークロロ-2.4-ジニトロベンゼンと1.2-ジク ロロー4ー ニトロベンゼンに対するグルタチオン抱合酵素の活性そ示した。 グルタチオン
含量はPCB投与後 4日後から増加し 1週間後には最高となり, その後も対照区に比べ高い値を維持した。 持続性試験区ではPCB投与中止後 次第に低下し, 13週後には 対照区と同レベルになった。
グルタチオン抱合酵素の活性は, 両基質とも PCB投与により4週後には明らかな誘 導が認められ, その後16週後まで対照区より高い値そ保った。 しかし PCB投与を中 止してから9週後には対照区と同じレベルにまで低下した ANDERSSONら62)はニジマ
スにPCBそ投与し, 本実験と同様にグルタチオンおよびグルクロン酸抱合酵素活性が 誘導されたと報告している。 VOSSち63) はニジマスにエサより PCBを投与した時の P-450含量とMO 活性ぽ秀導そ報告しているが, 実験中の対照区における変動が大きく,
また抱合酵素には触れていない。
0.10
0.05 (C一20己『OE\C一ε\一OEC)
ご一〉一ちのωεhN
Cω
。
12 16 4 8
。
Weeks
Induction of the p-nitrophenol - UDPglucuronyltransferase in hepatic microsomes of carp by dietary administration of PCB (0.05mgパOOg body weightlday), and duration of the induced content and activities a代er discontinuance of PCB administration日) Fig.4・8.
Control
。一一一-0 Retention-group
A斗寸7,
&一一-A
• • PCB-group
50 Glutathione
� 40
さ2C
G28
3 30sc
ε20 。ε10 E
。
8 Weeks
Fig.4-9. Induction of glutathione content and glutathione transferase activity toward 1・chloro・2,4・dinitrobenzene and 1 ,2・dichloro・4・nitrobenzene in hepatic
cytosol of carp by dietary administration of PCB (0.05mgパOOg body weight/day), and duration of the induced content and activities after discontinuance of PCB administration.54)
0.8 -、
-50
E口L30-6
5ト� 9' 0.4
-〈zo E.-E
主
。 0.2E =1 0.0
0.8
・ ;5 内 t 豆主 与 c 0
?
0 . 6
0.4
ミ
。 0.2 ξc
0.0
。
1・Chloro-2,4・dinitrobenzene - glutathione transferase
1,2・Dichloro・4・nitrobenzene - glutathione transferase
4 12 16
• • PCB-group 企一一-Â Retention-group 0-一一一o Control
第1節の実験結果と比較するとt
P-450含量と0-脱メチル酵素活性は同様に誘導さ
れた。 しかし, 同じ水酸化反応、で、もアニリンK対する活性がほとんど誘 導されなかっ たのに対し, ベンゾ[aJピレンK対する活性は 強く誘導された。 とれはそれぞれの基質 に作用するP-450のアイソザイムが異なるためと考えられる。 また. 前章では誘導さ れなかったグルタチオン抱合酵素活性が誘導された原因は, 投与期間が長かったためと考えられる。
以上の結果より, PCB投与によりMO活性が強く誘導されただけでなく, 抱合系酵 素の活性も誘導されるζとが明らかになった。
-76一
第5章 魚員類 の薬物代謝酵素活性を指標とする水域汚染の判定法
耕地, 山林の害虫駆除や除草のために散布された種々の農薬, あるいは各種化学工 場の排水など が流入するような水域に生息している魚貝類は, 環境汚染物質に特定さ れている化学物質の外にそれらの分解産物も含めて多種多様な有害物質に複合的に 汚染されていると推測される。
水域の汚染調査に当たっては. 一般に水中, 底泥中および魚員類の体内に含 まれる 汚染物質を分析する方法がとられているが, 複合的に汚染された水域で、は, 環境中お よび生息魚貝類の体内の各種有害物質を逐一同定し, 定量することは極めて困難であ り, 特に問題視されている物質に的を絞って分析が行われている。 すなわち, 複合的 汚染の濃度レベルが魚貝類を死に追いやるほどではないものの, 生理・生化学的に何 らかの影響を及ぼしている可能性が大きいと推定される場合でも, それ を化学分析に よって実証することは容易でない
さらに汚染が一過的か, あるいは断続的であれば, その汚染物質を環境水中から検 出することはもちろんの乙と, 特にそれがフェノール類のよう に残留性の 低い化学物 質であれば, 魚貝類の体内からも検出され難く, その被曝を実証することは一層困難 である。
本研究ではこれまでに魚貝類肝臓に薬物代謝酵素が存在し, その活性が環境汚染 物質など或種の化学物質により強く誘導され, また誘導された酵素活性は長期に亘り 持続することを明らか にした。 よってこれらの基礎実験結果を踏まえ, 生物相にまで 影響を及ぼしていないような低レベルの水域汚染判定の指標として, 薬物代謝酵素活 性の有用性を野外調査によって検討した。
第1節 急速凍結による肝臓の各種薬物代謝酵素活性の変動
本実験を行うに当たっては, まず生体の肝臓を摘出し, その薬物代謝酵素 活性を変 化させることなく速やかに細胞分画を行う必要がある。 貝類の場合は, 調査地点から 研究室 まで 生きたまま 持ち帰ることは比較的容易である。 しかし魚類の場合, 生きた まま正常な状態で研究室に持ち帰ることは, 調査地点が遠隔地であるほど困難である。
よって採取した現場で魚を解剖し, 肝臓を液体窒素で急速凍結 後 低温で保存したまま 持ち帰らざるを得ない。 しかしこの方法を用いた場合, 薬物代謝酵素活性 がどの程度 失活するか明らかでない。 よっ て本節では, 魚類の肝臓を供試し, 急速凍 結による 薬 物代謝酵素活性への影響について検討した。
1. 実験方法
福岡県津屋崎町地先で採捕したマコガレイCLimanda yolwhamae, marb1ed sole) C体 重374.5g) 1尾を生かしたまま研究室に運び, 直ちに肝臓を摘出した。 血液, 脂肪組 織, 結締組織などを除いた後, 細断して二等分し, 一方は直ちに細胞分画を行い, 他 方は液体窒素中に投入管速凍結し. -80・Cで3日間保存した後に細胞分画を行った。
後日, 両区のミクロソーム画分およびシトゾル画分についてP-4 50含量, グルタ チオ ン含量. NADPHーシトクロムc還元酵素, NADH-シトクロムbs還元酵素, ベンゾ[a]ピ レン水酸化酵素. 0-脱メチル酵素, N-脱メチル酵素, グルクロン酸抱合酵 素, 硫酸抱 合酵素, 1-クロロー2,4-ジニトロベンゼンおよび1,2ジクロロー4-ニトロベンゼンーグルタ チオン抱合酵素の各活性を測定し, 凍結による含量および酵素活性の変化を調べ?と。
結果
Fig. 5-1 �C実馬食品吉果を示す。 未凍結処理区に対する凍結処理区の含量および酵素活性
の比を%で示した。 凍結処理によって硫酸抱合酵素活性は44 %に低下したが, 他の酵
-78-
Cytochrome P-450
NADPH-cyt. c reductase NADH-cyt. b 5 reductase Benzo(a)pyrene hydroxylase p-Nitroanisole 0・demethylase Am inopyrine N-demethylase p-Nitrophenol - UDPglu-
curonyltransferase Phenol-sulfate transferase Glutathione
1,2・dichloro・4・nitrobenzene
glutathione transferase 1・chloro・2.4・dinitrobenzene
glutathione transferase
。 20 40 60 80
Recovery (0/0)
Fig.5・1. Recovery of cytochrome P-450 and glutathione content , and activities of NADPH-cyt c. reductase, NADH-cyt. b5 reductase,
benzo(a)pyrene hydroxylase, p-nitroanisole 0・demethylase,
aminopyrine N-demethylase, p-nitrophenol - UDPglucuronyl- transferase, phenoトsulfate transferase, 1,2・dichloro・4・
nitrobenzene - glutathione transferase and 1・chloro・2,4・
dinitrobenzene - glutathione transferase in liver of marbled sole after frozen in liquid nitrogen.
100
素活性は大部分が90 %以上, 少くと も80 %以上が保持されていた 。 すなわち, 肝臓 を液体窒素で急速凍結・保存するζとは. 硫酸抱合酵素以外の酵素活性の測定値に大 きな影響を及ぼさない ことが明らかになった。 魚類の硫酸抱合酵素活性は凍結処理に よって著しく低下するだけでなく, フェノール類への曝露によって誘導され難いので,
52)フェノール類による水域汚染指標としては , 第3章で述べたように, 誘導され易い 貝類の本酵素活性の方が優れていると考えられる。
第2節 魚類および貝類の薬物代謝酵素活性を指標とする汚染判定法
魚類が多環芳香族炭化水素など, ある種の化学物質に曝露されると, その 肝ミクロ ソームのMO活性, 特に多環芳香族炭化水素水酸化酵素活性が誘導されることが, 第
4章で明ら か にな
った。 との現象 を利用し,PAYNE附, BURNS65), STEGEMAN66)
DAVI民間らは 石油汚染の実用的モニターとして , 魚類肝臓のベンゾ[a]ピレン水酸化酵 素活性の有用性 について研究を行っている。 またBINDER68)らはPCB汚染との関連性 について報告している。 これらの研究は1987年, PAYNEらの総説69)に詳しく述べら れている。 しかしAHOKASら70)はパルプ工場と化学工場の廃水に汚染された湖の魚に ついて調査したところ, ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素活性が逆に低下していたと前述の 報告と相反する結果を示しているが, 乙れはMOなど薬物代謝酵素の活性が限定され た化学物質によってのみ誘導されるためであり, AHOKASらの調査対象湖の水中に は 誘導物質が含まれていなかったと考えられる。以上述べてきたように 諸外国に おけ る魚類の薬物代謝酵素活性を指標として水域
汚染を判定しようとする試みは, 全て石油やPCBなどによる汚染を意識しているため , いずれもMO活性, なかで、もベンゾ[a]ピレン水酸化酵素活性を対象として いる。 しか し, との方法だけでは他の汚染物質の指標として用いることはできない。 また単一種 の魚類にしぼった場合, 季節によっては成熟・産卵など生理的な影響に より活性が低
-80-
下し川4), サンフ。ルとして用いることができない。 また魚、の移動などにより採捕が困 難なこともある。
本論文第3章の研究で, アサリを フェノール類に曝露するとその中腸腺の硫酸抱合 酵素活性が誘導されることを実証したが, 同様のことがムラサキイガイでも明らかに されている75)。 また, 第4章 で, コイ�C PCBを長期間投与した場合, P-450含量. ベ ンゾ[a]ピレン水酸化酵素活性のみならずグルタチオン抱合酵素やグルクロン酸抱合酵 素の活性も誘導されるととを明らかにした。 よって, 移動性が小さくほぼ年聞を通じ て採集することができる貝類を用いて, フェノール類の汚染を反映する硫酸抱合酵素 活性を測定するとともに , PCBなと、芳香族炭化 水素類の汚染を反映する魚類の肝臓 MO活性および抱合酵素活性を測定し. これらの値を環境汚染の指標とし, より総合 的な汚染判定法の確立を検討した。
1.方法
供試生物
貝類として, 全国の沿岸, 特に内湾の干潟に普遍的に分布し, 移動性も低く水域の 様相をよく反映すると考えられるアサリを供試した。 しかし 干潟がなく アサリの採 取が困難な場所では, 岸壁などに広く分布するムラサキイガイ(Mytilus edulis ) を供試 生物とした。 ま?と供試魚としては各水域に広く分布し, 移動性が比較的低く, 入手が 容易なマコガレイ(Lima!Ula yokohamae)を選んだ。 採集時期は, それぞれの産卵期を避 けて行った。
調査地点
サンプリングI也点をFig.
5-2 �ζ示す。 北部九州、|の博多湾, 玄界灘, 別府湾、, 周防灘,
有明海の各水域そ調査対象とし, それらの海 域で石油施設, 化学工場があり汚染が進 行している水域およびその近傍で汚染していない水域を選ぴ, それぞれ調査地点を設 定した。 石油貯蔵基地のある博多港では, 石油が時々流失し, また港内に下水処理場
。
Hakata Bay (Mouth of Bay)
Fig. 5-2. Map of Kyushu Island showing sampling sites.
-82-
。 。
グ!?rmou
の排水口もあり, ひどく汚染されている。 乙れとの比較対照地点として, 博多湾内で 汚染が進行していない湾口部, 湾央部, 海の中道, 大岳の海岸, およびその近くで外 海に面し汚染源のない玄界灘で津屋崎と福間を選定した。 有明海では, 化 学工場地帯 の大牟田市地先, 三出巷外, その対照地点として約40km離れた緑川河口を選定した。
別府湾では 化学工場や石油精製基地のある乙津川河口と乙津泊地を, また周防灘では 宇部市地先 を, またその対照地点として近傍の大野川河口と周囲に汚染源 のない周防 灘の豊前市地先を選定した。
試料の採集と調製
各調査地点で採取した員類は, 実験室に持ち帰り一晩清浄海水で、飼育した 後, 常法 に従い細胞分画を行った。
マコガレイは釣り, 定置網および刺綱により採取した。 供試魚は直ちに解剖して 肝 臓を摘出した。 得られた肝臓は液体窒素中で急速凍結した後ドライアイス中に入れた まま研究室 に持ち帰り, ディープフリーザー( -80 OC)中 に保存した。 後日試料を0.9
%食塩溶液中で解凍し, 結締組織, 脂肪組織, 血液などを除去した後、細胞分画を行つ
?し
分析
員類のシトゾル画分について, 硫酸抱合酵素の活性を測定した。 マコガレイではミ クロソーム画分とシトゾル画分について, P-450含量, グルタチオン含量, NADPH-シ
トクロムc還元酵素, NADH-シトクロムbs還元酵素, ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素, 0 -脱メチル酵素I N-脱メチル酵素, グルクロン酸抱合酵素およびグ ルタチオン抱合酵素 の各活性をζれまでに述べた方法により測定した。
2.結果と考察
貝類
1984年10 - 11月アサリについて実施した調査の結果をFig. 5_376)に示す。 石炭を主 原料とする化学工場地帯である有明 海(三池港外)で採取したアサリの硫酸抱合酵素活 性は6.6 nmollmin/g-1iverであり, 約40 km離れた有明海(緑川河口)に比べ約5倍も高か
った。 また化学工場地帯の月IJ府湾(乙津川河口)でも同様に5.5 nmo1/口山/g-liverと高く,
約3 km離れた対照の別府湾(大野川河口)の約2倍の値であった。 生活廃水を主な汚 染源とする博多湾(海の中道)で採取したアサリは, 2.7 nmol/min/g-liverと中間的な値を 示した。 清浄な周防灘(豊前)のアサリは有明海(緑川河口)と同じレベルであった。
1984年6 月, ムラサキイガイで行った調査結果は Fig. 5-476)に示すようであった。
石油貯蔵施設や福岡市中部下水処理場放流水の排出口のある博多港内, および化学工 場 地 帯 の 別 府 湾(乙津 川 河 口 )で 採 取 し た イ ガ イ が , そ れ ぞ れ 1.9および 1. 8 nmol/min/g-liverと高し汁舌性を示した。 また, 乙津川河口から更に約500 m海側にある 乙津泊地でも1.0 nmo1/min/g-liver と高い値を示した。 これに対して, 博多湾(大岳)お よび玄界灘に面する福司など汚染地域から離れた所で採取したイガイの本酵素活性は,
それぞれ前者の1 /3 および1110 の低い値であった。
供試員のベン、ノ[a]ピレン水酸化酵素活性はいずれも痕跡程度に過ぎず, 各水域間で、
の比較は ほとんど不可能であった。 STEGEMAN 25) はムラサキイガイでベンゾ、[a]ピレン 水酸化酵素活性の存在を報告しているが, 本研究で供試した買で活性が検出できなか
ったのは, 誘導が極めて弱かったためと考えられる。
マコガレイ(1984年5 月)
1984年5月に採集したマコガレイの平均体重をFig. 5-5に示す。 玄海灘(津屋崎)の 供試魚の体重は 320 g であったが, その他では 120 -
160
gとほぼ同じ大きさであった。これらの供試魚のP- 450含量, および電子伝達系酵素の活性をFig. 5-6 76)に示す。
-84-
Hakata Bay
(Umino Nakamichi) AriaJくe Sea
(Omuta) Ariake Sea
(Miike) Ariake Sea
(Midori river mouth) Suou Sea
(Buzen) Beppu Bay
(Otozu river mouth) Beppu Bay
(Oono river mouth)
0 2 4 6 8
Activity
(nmol/min/g・mid-gut gland)
Fig.5・3. Regional difference in the activity of phenol - sulfate transferase in mid-gut gland of short-necked clam (1984/10・11 ).
Hakata Bay (Hakata POパ)
Hakata Bay (Ootake)
Gennkai Sea (Fukuma)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Beppu Bay (Otozu po吋)
。 0.5 1.0 1.5 2.0 Activity
(nmol/min/g・mid-gut gland)
Fig.5・4. Regional difference in the activity of phenol - sulfate transferase in mid-gut gl司nd of mussel(1984/6 ).
- 86-
Hakata Bay (Hakata PO吋)
Hakata Bay (Mouth of Bay)
Gennkai Sea (Tuyazaki)
Suou Sea (Buzen)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
o 100 200 300 400
Body weight (g)
Fig.5・5. Average body weight of marbled sole collected from various regions. (1984/5)
Hakata Bay (Hakata PO吋)
Hakata Bay (Mouth of Bay)
Gennkai Sea (Tuyazaki)
∞∞ー
Suou Sea (Buzen)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Cytochrome P-450 NADPH-cyt.c reductase NADH-cyt. b5 reductase
80 0 0.5 1.0 1.5 2.0 Activity
(μmol/m in/mg-protein)
Fig.5・6. Regional difference in the cytochrome P-450 content and the activities of NADPH-cyt. c reductase and NADH-cyt. b5reductase in liver of marbled sole (1984/5).
。 0.5 1.0 1.5 2.0 0 Content
(nmollmg-protein)
Activitiy
(nmol/min/mg-protein) 20 40 60
P-450含量は博多湾(博多港)で採取した供試魚、が1. 3nmol/mg-proteinと最高値を示し,
博多湾(湾口部)や清浄水域の玄界灘(津屋崎)に比べ約4倍高かった。 また, 周辺 に化学工場が存在する別府湾(乙津川河口)で採捕された供試魚は, 博多湾(博多港) の1/2の値では あるが. 対照の周防灘(豊前)の2倍の値であった。
NADPH-シトクロムc還元酵素の活性は. P-450 と同様の傾向を示し, 博多湾(博多 港)で50 nmol/minJmg-proteinと, 他の調査地点にくらべて約2.5倍も高い値であった
これに対してNADH-シトクロムbs還元酵素の活性は博多湾(博多港). 玄海灘(津 屋崎)および 周防灘(豊前)で 同レベル(
1.6μmo1JminJmg-protein
)であり, 博多湾 (湾口)および別府湾(乙津川河口)でもその約80 %を示し, 地域差はほとんど認められなかった
次にFig. 5-7
76)にベンゾ[a]ピレン水酸化酵素 . 0-脱メチル酵素およびN-脱メチル酵
素活性を示す。 ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素の活性はP-450と同様の傾向を示し, 博多 湾(博多港)で1.9 nmol/min/mg-proteinと最も高く, 同じ博多湾の博多湾(湾口)の 約 3倍の値であっ た。 また別府湾(乙津川河口)でも博多湾(博多港)の1/2 であった が. 周防灘(豊前)の2倍の値であった。0-脱メチル酵素の活性はベンゾ、[a]ピレン水酸化酵素と同様 , 博多湾(博多港)が 1.6 nmol/minJmg-proteinと最も高く, ついで周防灘(豊前)で前者とほぼ同じ値を示し. �Ij 府湾(乙津川河口)がその約2 /3であり, 博多湾(湾口) , 玄海灘と低下した。
N-脱メチル酵素の活性は. 71<-酸イヒ酵素や0-脱メチル酵素とは異なり, 周防灘(豊前) で0.88 nmol/min/mg-protein と最も高く , 次いで 博多湾(博多港)と別府湾(乙津川河 口)でそれぞれ 0.77 および0.66 nmol/minlmg-proteinと若干低下した。
次にグルクロン酸抱合活性をFig. 5-8 �ζ示す。 本酵素活性は調査地点で大きな差が認 められず\いずれも0.6 3,... 0.95 nmol/minJmg-proteinの範囲内であった。
Fig. 5-9 �Cグルタチオン含量およびグルタチオン抱合酵素の活性を示す。 グルタチオ ン含量および1.2-ジクロロ-4-ニトロベンゼン ー グルタチオン抱合酵素活性は, 全調査
\0 C
Hakata Bay (Hakata PO吋)
Hakata Bay (Mouth of Bay)
Gennkai Sea (Tsuyazaki)
Suou Sea (Buzen)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Benzo[ a]pyrene hydroxylase
o 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 Activity
( nmollmin/mg-protein)
p-N比roanisole O-demethylase
。 0.5 1.0 1.5 2.0 Activity
(nmol/min/mg-protein)
Aminopyrine N-demethylase
一一→
o 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Activity
(nmollmin/mg-protein) Fig.5・7. Regional difference in the activities of benzo[a]pyrene hydroxylase, p-nitroanisole 0・demethylase
and aminopyrine N-demethylase in liver of marbled sole (1984/5).
Hakata Bay (Hakata PO吋)
Hakata Bay (Mouth of Bay)
Gennkai Sea (Tuyazaki)
Suou Sea (Buzen)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
o 0.3 0.6 0.9 1 .2 Activity
(nmol/min/mg-protein)
Fig.5・8. Regional difference in the activity of p-nitrophenol
- UDP
glucuronyltransferase in liver of marbled sole (1984/5).
\0 ト、主
Hakata Bay (Hakata PO吋)
Hakata Bay (Mouth of Bay)
Gennkai Sea (Tuyazaki)
Suou Sea (Buzen)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Glutathione 1,2・Dichloro・4・nitrobenzene - glutathione transferase
o 1 2 3 4 5 0 5 10 15 20
Content Activity
(μmol/g・liver) (nmol/min/g・liver)
1・Chloro・2.4 dinitrobenzene - glutathione transferase
o 10 20 30 40 50
Activity (μmol/min/g-liver)
Fig.5・9. Regional difference in the glutathione content and activities of 1,2・dichloro・4・nitrobenzene - glutathione transferase and 1・chloro・2,4 dinitrobenzene凪glutathione transferase in liver of marbled sole (1984/5).
地点で差がな く,グルタチオン含量 は 3.0� 3.5μmolJg-liver, 1ユジ クロロ-4-ニトロベ ンゼンーグルタチオン抱合酵素 活性は 12.6 � 15.4 nmolJmin/g-liver の範囲内であった。
これ に対して1-クロロー2,4-ジニトロベンゼン ーグルタチオン抱合酵素活性は , 調査地 点間で差が認められた。 博多湾(博多港)で31 μmolJmin/g-liverと 最も高く, ついで玄 海灘がその2/3, 博多湾(湾口)および別府湾(乙津)で約1/2, 周防灘(豊前)で113
と低下した。
1984年5月の調査 で,マコガレイ肝臓の薬物代謝酵素のうち, 調査地点間で差が認 められたのは, シトクロム P-450 含量およびNADPH-シトクロムc還元酵素, ベンゾ la]ピレン水酸化酵素, 1-クロロー2,4ージニトロベンゼン ーグルタチオン抱合酵素の各活 性であった。 博 多湾(博多港)および別府湾(乙津川河口)でP-450含量およびその 関連酵素の 活性が誘導されたのは, 石油なと、芳香族炭化水素類の汚染によると考えら れる。 また, 周防灘(豊前)では P-450含量が低かった に もかかわらず, 0-, N-脱メ チル酵素の活性が高く, 前者と は異な ったタイプの誘導が起ζった可能性がある 。
マコガレイ ( 1984年11月)
1984年11月 調査時におけるマコガレイの平均体重を Fig. 5-10 �C示す。 全調査 区で 163 - 212 gとほぼ同じ大きさであった。
これらの供試魚、のP-450含量, および電子伝達系酵素の活性をFig. 5-11 �C示す。 シ トクロムP-450 含量 は 5月の調査と同様の傾向を示し 別府湾(乙津川河口)で最も高 く 0.62 nmol/mg-protein, 博多ア湾(博多港)でも 0.51 nmol/mg-proteinと高かったのに対し,
同じ博多湾(湾央), 博多湾(湾口)および周防灘(豊前)で採取した供試魚、のそれ らは, 約 1/2 であった。 また, 石油精製基地がある 周防灘(宇部)で採捕された供試 魚は 別府湾(乙津川河口)のものの約2βの値では ある が, 対照の周防灘(豊前)の2 倍も高かった。
NADPH-シトクロムc還元酵素の活性は, 博多湾(博多港), 博多湾(湾央)で 17 nmol/ min/mg-protein,月Ij府湾(乙津川河口)で15 nmol/min/mg-proteinと他の調査区 に比
、.,FVy
、l
a fmf B 向P句,α
B a B3 且'EB.,ιr、同匂旧d司川ω叶duuuHh引MH1H
1
Hakata Bay (Mouth of Bay)
Suou Sea (Buzen)
15t: her m州) Iぶ
Suou Sea (Ube)
。 100 200 300
Body weight (g)
Fig.5・10. Average body weight of marbled sole collected from various regions. (1984/11)
-94-
、‘IFVJ 、‘E,F四川JA川口uVJRy: aFad B a
B3 A,,.
‘ 冶 同氾旧d ,晶、
.剖
M引Hh川U 叶du
H
I
H 1
Hakata Bay (Mouth of Bay)
ー市vul
Suou Sea (Buzen)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Suou Sea (Ube)
Cytochrome P-450
o 0.25 0.50 0.75 1.00 0
Content (nmol/mg-protein)
NADPH-cyt.c reductase NADH-cyt. bs reductase
5 10 15 20 0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5
Activity
( nmol/min/mg-protein)
Activity
(μmol/min/mg-protein)
Fig. 5・11. Regional difference in the cytochrome P-450 content and the activities of NADPH-cyt. c reductase and NADH-cyt.
bs
reductase in liver of marbled sole (1984/11).べ2-3倍も高い値であった。 NADH-シトクロムbs還元酵素の活性は博多湾(湾央) で 1.7μmolJmin/mg-proteinと 最 も 高か っ たが, その他の調査地点で は 1μmmolJ
minJmg-protein前後とほとんど差がなかった
次にFig. 5-12 �ζベンゾ[a]ピレン水酸化酵素, 0-脱メチル酵素およびN-脱メチル酵素 の各活性を示す。 ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素の活性は 4月と同様の傾向を示し博多湾
(博多港)および別府湾(乙津川河口)で1 nmol/min/mg-proteinと最も高く, 次いで周 防灘(宇部) で
0.6 nmo1/min/mg-proteinで、あった。 これに対して,
対照の水域で、はいずれも0.2-0.4 nmol/ minJmg-proteinの低;し吋直であった。
0-脱メチル酵素の活性はベンゾ[a]ピレン水酸化酵素と同様, 博多湾(博多港)が0.8 nmol/min/mg-proteinと最も高く, ついで別府湾(乙津川河口), 周防灘(宇部)の順で あった。 これらに対して, 清浄な海域では博多港の1/2 -1/4の値であった。
N-脱メチル酵素の活性は, 博多湾(博多港)で0.54nmolJminJmg-proteinと最も高く,
次いで. 博多湾(湾央), 月Ij府湾(乙津川河口)で0.35 nmolJminJmg-protein であり,
周防灘(宇部)および博多湾(湾口)では最 高値の1/5以下であった。
次にグルクロン酸抱合 活性をFig. 5-13 �C示す。 本酵素活性は5月の調査では調査地 点問で大きな差が認められ なかったが, 11月の調査時ではP- 450含量と同様の傾向を 示し, 博多湾(博多港)で0.6 nmo1/min/mg-proteinと最も高く, 次いで別府湾(乙津川 河口) で0.45 nmol/minJmg-proteinであり, 博多湾(湾央), 博多湾(湾口), 周防灘
(宇部), 周防灘(豊前)の順に低下した。
Fig. 5-1 4 �Cグルタチオン含量およびグ ルタチオン抱合酵素の活性を示す。 前回の調 査結果と同様グルタチオン含量および 1,2-ジクロロー4-ニトロベンゼ、ン ー グルタチオン 抱合酵素活性は調査地点間でほとんど差がなかった。
トクロロー2,4ージニトロベンゼンーグルタチオン抱合酵素活性は 5月の調査に比べそ の活性が1/2以下に低下して いたが, 博多湾(博多港), 博多湾(湾央), 博 多湾 (湾 口 ) , 周 防 灘 (宇 部 ) お よ び別府 湾 ( 乙 津 川 河 口 ) でいずれ も 12 -16
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Hakata Bay (Hakata PO代)
Hakata Bay (Middle of Bay)
Hakata Bay (Mouth of Bay)
ー司、司|
Suou Sea (Buzen) Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Suou Sea (Ube)
Benzo[ a]pyrene hydroxylase
。 0.5 1.0 1 .5 2.0
p-Nitroanisole 0・demethylase
。 0.5 1.0
Aminopyrine N-demethylase
1.5 0 0.20 0.40 0.60 0.80 Activity
(μmol/min/mg-protein) Content
(nmol/mg-protein)
Activitiy
(nmol/m in/mg-protein)
Fig.5・12. Regional di仔erence in the activities of benzo[a]pyrene hydroxylase, p-nitroanisole 0・demethylase and aminopyrine N-demethylase in liver of marbled sole (1984/11).
Hakata Bay (Hakata POパ)
Hakata Bay (Middle of Bay) Hakata Bay
(Mouth of Bay)
Suou Sea (Buzen)
Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Suou Sea (Ube)
」一一」
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 Activity
(nmol/min/mg-protein)
Fig.5・13. Regional difference in the p-nitrophenol - UDPglucuronyltransferase in liver of marbled sole (1984/11).
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Hakata Bay (Hakata PO吋)
Hakata Bay (Mouth of Bay)
ー甲小wl
Hakata Bay (Middle of Bay) Suou Sea
(Buzen) Beppu Bay
(Otozu river mouth)
Suou Sea (Ube)
Glutathione
。 2.0 4.0 6.0 8.0 0 Content
(μmol/g-liver)
1 ,2・Dichloro・4・nitrobenzene - gl.utathione transferase
ド ミI
I5 10 15
1・Chloro-2,4 dinitrobenzene同 glutathione transferase
20 0 10 20 30
Activity (nmol/min/g・liver)
Activity (μmol/min/g・liver)
Fig.5・14. Regional difference in the glutathione content and activities of 1,2・dichloro・4・nitrobenzene
glutathione transferase and 1・chloro・2,4・dinitrobenzene - glutathione transferase in liver of marbled 50Ie (1984パ1).
�moVminJg-liverであり, :t也点間で大きな差は認められず, 周防灘(豊前)ではその1/2 以下の値であった
1984年5月の調査時の値と比較すると, 11月の値は全般に低く, 特に博多湾(博多 港)のP-450含量, ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素および0-脱メチル酵素の活性は 1/2で
あり, NADPHーシトクロムc還元酵素活性も 1/3であった。 この原因としては, マコガ レイは夏季に沖に出て行き秋季 から春季に かけて接岸するととが明らかにされており 77), 11月には接岸したばかりで, 汚染物質への曝露期間が短く, 誘導の初期と考えら れる。 またグルクロン酸抱合酵素活性は, PCB誘導実験 によりその誘導の初期段階 に増加するが, その後次第に低下したことを 明らかにした。 5月の調査結果と異なり 11月で活性に差が起こった原因は, 前にも述べたように11月は曝露期間が短 かったた めではなし功ユと考えられる。
以よの結果より, 化学工場や石油施設の ある博多湾(博多港), 別府湾(乙津川河 口) , 有明海(大牟田), 周防灘(宇部)でイ共試貝の硫酸抱合酵素活性お よびマコガ レイのP-450 含量, ベンゾ[a]ピレン水酸化酵素, シトク ロムc還元酵素, 0-, N-脱メ チル酵素. グルクロン酸抱合酵素, 1-クロロー2,4..-ジニトロベンゼン ー グルタチオン抱 合酵素などの活性が高くなり, 汚染の指標として有用であることが明らかとなった。
Fo限EMANら78)も野外で採取した カレイのベンゾ[a]ピレン水酸化酵素活性が 高いこ とを観察し, その原因が多環芳香族炭化水素の汚染によると報告している。 さらに COLLIERら79) はカレイ科の一種�C , 多環芳香族炭化水素が多く含まれている底泥抽出 液を注射すると, その薬物代謝酵素活性が誘導されると報告しており, 薬物代謝酵素 活性と汚染との因果関係を証明している。
しかしFAIRら鉛)はハタ科の一種を, またGEORGEら聞はカレイ科の一種を用い. 予
めカドミウム投与した魚ではMO活性の誘導が阻害されることを報告している。 との ことより, 少くともカドミウムに汚染され た地域では, 魚類の薬物代謝酵素活性を環 境指標として 用いることに問題があると考えられる。 また本実験Lζ供試したマコガレ
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イは秋から春にかけて接岸するが, 夏には沖合に遠ざかってしまい採取が困難である。
さらに, 産卵も薬物代謝酵素活性に影響し, 特に産卵前後の雌の活性は著しく低下す るので注意しなければならない。
しかしながら, 本研究結果から明らかなように, 適当な員類と魚種を選ぶならば , その薬物代謝酵素 活性, 特Lζ員類中腸腺の硫酸抱合酵素活性および魚類肝臓のP-450 含量とMO活性はいず、れも生息水域の汚染の様相を反映し, 特に低レベルの複合的汚 染水域にお いては, 従来の化学分析による方法を補完する水域汚染判定の指標として 有用であると考えられる。
総 括
農薬を初めとする種々の化学物質による環境汚染の進行により, 環境汚染物質や 薬剤による生体汚染が進行している。 現在, これら化学物質の毒性・蓄積性・残留 性について多くの研 究が行われているが, これらの基本的な要因のーっとして, 生 体の薬物代謝能が深く関与していることは明らかである。 しかし未だ魚 貝類の薬物 代謝酵素に関する知見は乏しい。
よって本研究では, 魚貝類の薬物代謝能 を解明するため に, まず再現性 のある肝
細胞分画法を確立し , 薬物代謝酵素活性の存在する画分を明らかにするとともに魚種 聞の本酵素活性を比較した。 次いで, 種々の化学物質による魚員類肝臓の薬物代謝 酵素活性の誘導とその限界, 誘導された活性の持続性を明らかに した。 さらに,
環境汚染物質により薬物代謝酵素活性が誘導されるととに着目し, アサリとムラサ キイガイの中腸腺お よびマコガレイ肝臓の薬物代謝酵素活性を指標とす る水域汚染 の判定法を検討し. 以下の結果を得た。
1. ヒプナ, クルマエピ, アサリおよびラットの各肝臓における薬物代謝酵素
活d性
ヒブナ肝臓を ホモジナイズし, 遠心分画して得られた核, ミトコンドリア, リソ ゾーム, ミクロソーム およびシトゾルの各画分について, DNA量, およびそれぞれ
の標識酵素 であるコハク酸 ー シトクロ ム c還元酵素, 酸性ホスフ ァターゼ NADPH-シトクロムc還元酵素および乳酸脱水素酵素の各活性を測定した。 その結 果, リソゾームの標識酵 素である酸性ホスファターゼ活性の分布に若干の問題があ るが, 他の画分では それぞれの標識酵素活性および分布量が最も高く, 本条件下の 細胞分画は良好であると判定された。 クルマエビ中腸腺では, 酸性ホスファターゼ と乳酸脱水素酵素の 活性はそれぞれの標識画分で、高く, 両面分の分離は良好と判定
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