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九州大学病院歯科麻酔科における麻酔管理症例の検討

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(1)

九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

九州大学病院歯科麻酔科における麻酔管理症例の検 討

今田, 弘記

九州大学大学院歯学府

https://doi.org/10.15017/26334

出版情報:Kyushu University, 2012, 博士(臨床歯学), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

「九州大学病院歯科麻酔科における麻酔管理症例の検討」

今田弘記

九州大学大学院 歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野

指導:中村 誠司 教授

九州大学大学院 歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野

指導:横山 武志 教授

九州大学大学院 歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 歯科麻酔学分野

指導:怡土 信一 助教

九州大学大学院 歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 歯科麻酔学分野

(3)

目次

発表論文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

要旨 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

緒言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

Ⅰ.「麻酔管理症例の臨床統計学的検討」 対象および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

Ⅱ.「過去 6 年間の日帰り全身麻酔の臨床統計学的検討」 対象および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

Ⅲ.「大動脈弓に壁在性血栓を有する口腔外科手術患者の全身麻酔経験」 対象および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 47 結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 50

総括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 52

謝辞 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54

(4)

- 1 - 発表論文

本研究の一部は下記の論文に投稿した。

「Mallampati 分類による気管挿管難易度の予測精度に関する検討」

今田弘記,怡土信一,塚本真規,横山武志 日本口腔診断学会雑誌

「日帰り全身麻酔の術後合併症に影響を及ぼす要因の検討」

今田弘記, 怡土信一, 塚本真規, 横山武志 日本小児麻酔学会雑誌

「大動脈弓に壁在性血栓を有する口腔外科手術患者の全身麻酔経験」

今田弘記, 塚本真規, 中村裕一郎, 藤原茂樹, 坂本英治, 横山武志 日本歯科麻酔学会雑誌

(5)

- 2 - 要旨

安全な麻酔管理を行うにあたり、過去の麻酔管理症例の問題点について見直 し検討する必要がある。今回、九州大学病院歯科麻酔科が 2006 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 6 年間に担当した麻酔管理症例、日帰り全身麻酔症例 に対して、その背景について臨床統計学的検討を行った。また、2008 年 4 月か ら 2012 年 8 月までの全身麻酔の術前評価精度と、2008 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 4 年間の日帰り全身麻酔の術後合併症について検討した。更に、

術中に脳低灌流が懸念された悪性腫瘍手術に対する全身麻酔経験を併せて報告 する。

6 年間の総症例数は 4209 例で、全身麻酔 3005 例(日帰り全身麻酔 326 例を含 む)、静脈内鎮静法 998 例、局所麻酔における全身管理 206 例であった。年毎の 症例数変化で特徴的なのは、小児の全身麻酔増加していたことであった。これ は、口唇口蓋裂の手術件数と小児歯科の歯科治療症例の増加に起因すると考え られた。高齢者の症例は全体の 19.7%であった。また、既往症を有する患者の割 合は 76.2%を占めており、より慎重な麻酔管理が必要であった。揮発性吸入麻 酔薬ではセボフルラン、静脈麻酔薬ではプロポフォールの使用が多かった。近 年、全静脈麻酔の症例数も増加していた。気管挿管のほぼ半数が経鼻挿管であ り、術野が口腔領域にあることが多いためと考えられた。年毎にばらつきはあ るが、エアウェイスコープやファイバースコープの使用も増加傾向にあった。

実際に挿管が困難であった Cormack-Lehane(C-L)grade3 以上の症例で、術 前に挿管困難が予測された Mallampati class3 以上の症例の割合は 73.2%であっ た。一方で、術前に挿管が困難でないと予測される Mallampati 分類 class2 以 下の症例だったにもかかわらず、実際に挿管が困難であり C-L grade3 以上と評 価された症例の割合は 26.8%であった。術前挿管困難に対する評価の精度は他 施設と比べ比較的高かった。しかし、全身麻酔の気道確保において、術前に挿 管困難が予測できなかった場合、重大なトラブルにつながる可能性もある。そ のため、予期せぬ挿管困難症例に対してそなえることが重要である。肥満は気 管挿管難易度に影響を与えることもあるが、Mallampati 分類および

(6)

- 3 -

Cormack-Lehane 分類による挿管難易度評価において、BMI による有意な差異は 認められなかった。

6 年間の日帰り全身麻酔総症例数は 326 例で、そのうち術合併症について検討 した 4 年間の症例数は 256 例であった。帰宅の可否を判断するために、4 項目の 術後合併症(①飲水困難、②排尿困難、③ふらつき、④嘔気・嘔吐)の有無を 調査した。術後合併症を認めた症例は 54 例 (21.1%)であった。飲水困難 8 例、

排尿困難 27 例、ふらつき 16 例、嘔気・嘔吐 4 例であった。術後合併症と麻酔 時間、麻酔維持薬、既往歴との間にほとんど関連性は認めなかった。しかし、

術後合併症を認めた症例は、少なからず存在する。そのため、術後合併症の発 生を可及的に抑え、迅速な回復による早期の帰宅を可能にしなければならない。

症例報告では、右頬粘膜扁平上皮癌(T2N0M0)の診断で腫瘍切除術、植皮術 施行目的に入院された患者の全身麻酔管理を経験した。大動脈壁在性血栓、椎 骨動脈と両側内頚動脈の動脈硬化性病変による脳低灌流が懸念されたため、両 側前頭部に、INVOS®5100C(COVIDIEN、東京)のソマセンサーを装着して、混合血 酸素飽和度を測定した。INVOS®5100C による rSO2

(Regional Saturation of

Oxygen)は、左が 51-67%、右が 50-65%で推移し明らかな左右差を認めることは なく、またベースライン値から 20%以上低下することはなかった。INVOS®5100C による変動幅を評価することは、脳血流維持のモニタリングの 1 つとして有用 となると考えられた。

本研究によって得られた結果をもとに、今後より安全な麻酔管理を心掛けてい きたい。

(7)

- 4 - 緒言

日本では、ここ数十年、高齢化が急速に進んでおり、それに伴って循環器系疾 患や呼吸器系疾患、脳血管疾患などの既往を有するハイリスク症例が増加して きている。8020 運動の普及により、高齢であっても多数の歯牙を有する症例が 増加しており、抜髄や抜歯などの処置がしばしば行われている。また、インプ ラント治療の普及もあり、高齢者が侵襲的歯科治療を受ける機会が多くなって きている。 一方で近年の医療の進歩は目覚ましく、麻酔関連領域においても新 薬や機器の導入・開発により、周術期管理が変化してきている。このような医 療の進歩に伴い、障害児や低年齢児を中心とした日帰り全身麻酔下歯科治療も 可能となってきている。日本においても既に、日帰り全身麻酔専用施設を併設 している病院もあり、より専門性の高い麻酔管理が求められる。

このような変化の中で、歯科麻酔科の役割は重要であり、安全に麻酔管理を行 う事が要求される。そのため、当科における過去の麻酔管理をふりかえり、改 善点について見直す必要がある。しかし、現時点において過去の麻酔管理の臨 床統計されたものはない。

そこで、今回、九州大学病院において歯科麻酔科が 2006 年から 2011 年まで の過去 6 年間に担当した麻酔管理症例について、症例数、診断名、手術時間や 麻酔時間など、いくつかの評価項目の臨床統計を行い、当科における現在まで の麻酔管理の傾向や改善点、今後の対策を検討した。

全身麻酔を行う上で、術前の気道評価は重要な要素の 1 つである。気道確保 および気管挿管の難易度を術前に評価し、実際の挿管操作においてその難易度 を正しく判定することは、安全な呼吸管理において欠かすことができない。術 前の挿管難易度を評価する方法として Mallampati 分類が多用されている。同分 類は、座位で最大開口し声を出さずに舌を前方へ突出した状態の患者を評価す る。口腔内の視認可能な範囲によって class 1 から class 4 の 4 段階で判定す る 。 実 際 の 気 管 挿 管 時 に 直 視 で き る 喉 頭 領 域 を 評 価 す る 方 法 と し て は 、 Cormack-Lehane 分類が頻用されている。これは喉頭鏡で喉頭展開をした時の声 門の見え方によって grade 1 から grade 4 の 4 段階で評価する方法である。こ

(8)

- 5 -

れらの両分類を評価した他施設の報告では、Mallampati 分類によって実際の気 管挿管困難が予測できた症例の割合は 15.0〜87.5%、予測できなかった割合は 12.5~85.0%程度である。Mallampati 分類は世界中で広く使用されているにも関 わらず、このように気管挿管困難が予測できる確率は高くない。また、その予 測精度は施設によってかなりのばらつきがある。

そこで本調査では、2006 年 1 月から 2012 年 8 月までに行われた入院下での歯 科治療および口腔外科手術の全身麻酔症例を調査対象として、Mallampati 分類 と Cormack-Lehane 分類を比較し、術前における気管挿管難易度評価の精度につ いて検証した。

近年、需要が高くなる傾向にある日帰り全身麻酔では、患者が治療を受ける 当日に来院し、その日のうちに帰宅できるような麻酔管理が求められる。帰宅 後は麻酔科医や看護師が直接監視することができないので、安全な術後管理の ためには厳密な帰宅の判断が必要となる。日本麻酔科学会では、1999 年に発表 した日帰り麻酔の安全のための基準 1)において帰宅の基準を定めている(2009 年 2 月改訂)。しかし、帰宅の判断基準となる術後合併症について評価、検討し ている報告は少ない。近年、歯科では小児患者を日帰り全身麻酔で治療する機 会が増加しているが、歯科で実施される日帰り全身麻酔のための明確な指針や ガイドラインなどは未だ制定されていない。

そのため本調査において、2008 年から 2011 年までの過去 4 年間に我々が管 理した日帰り全身麻酔において、帰宅許可を判断するための術後合併症を調査 し、麻酔時間、麻酔維持、既往歴との関連性について検討した。

さらに、様々な循環器系疾患などの既往を有するハイリスク症例が増加する 中で、挿管操作のみならず、周術期管理中に予測される合併症を十分に把握し て対策を立てることも重要である。今回、右頬粘膜扁平上皮癌(T2N0M0)の診 断で、腫瘍切除術、植皮術施行目的に入院された患者に対して、術前検査にて、

大動脈壁在性血栓、椎骨動脈と両側内頚動脈の動脈硬化性病変による脳低灌流 が懸念された。脳低灌流は、循環不全により神経障害を引きおす可能性がある。

そのため、無侵襲混合血酸素飽和度監視システム、INVOS®5100C(COVIDIEN、東 京)のソマセンサーを両側前頭部に装着し、脳の混合血酸素飽和度の測定を行い

(9)

- 6 - 麻酔管理を行った。

Ⅰ.「麻酔管理症例の臨床統計学的検討」

2006 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの麻酔管理症例の統計

2008 年 4 月 1 日から 2012 年 8 月 31 日までの全身麻酔症例の術前評価精度

Ⅱ.「過去 6 年間の日帰り全身麻酔の臨床統計学的検討」

2006 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの日帰り全身麻酔の統計 2008 年 4 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの術後合併症

Ⅲ.「大動脈弓に壁在性血栓を有する口腔外科手術患者の全身麻酔経験」

の 3 つにテーマに大別し、それぞれ検討を行った。

(10)

- 7 -

Ⅰ.「麻酔管理症例の臨床統計学的検討」

対象および方法

2006 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 6 年間に、歯科麻酔科が管理した 全麻酔症例の臨床統計を行い、①症例数、②患者背景、③診断、④麻酔時間、

⑤手術時間、⑥麻酔方法、⑦気管挿管法について検討した。

2006 年 1 月から 2012 年 8 月までに行われた入院下での歯科治療および口腔外科 手術において、九州大学病院歯科麻酔科が管理した全身麻酔症例のうち、

Mallampati分類とCormack-Lehane 分類を共に評価していた症例、すなわち喉頭 鏡で喉頭展開を試み挿管した症例を対象として⑧挿管難易度の評価、について 後ろ向きに検討を行った。また、肥満による気管挿管難易度の影響について、

⑨BMI と Mallampati 分類および Cormack-Lehane 分類との関係を検討した。麻酔 記録、電子カルテを調査資料とした。

Mallampati 分類の評価は、手術前日の病棟における麻酔前診察時に行った。

評価時の患者の体勢は、座位、正面向き、最大開口、声を出さずに舌を前方へ 突出した状態とした。麻酔指導医および麻酔担当医が口腔内を確認し、軟口蓋、

口 蓋 垂 、 口 蓋 扁 桃 、 口 狭 、 口 蓋 舌 弓 、 口 蓋 咽 頭 弓 の 見 え 方 を 評 価 し た Cormack-Lehane 分類は、全身麻酔の気管挿管においてマッキントッシュ型のブ レードを使用して喉頭展開した時の声門部を観察した。声帯、喉頭蓋の見え方 を麻酔担当医が確認して気管挿管難易度を評価した。挿管困難とされる grade 3 または grade 4 と麻酔担当医が判断した場合は、麻酔指導医が確認して判定し た。

調査資料:麻酔記録、電子カルテ

場所:九州大学病院手術室、外来全身麻酔治療室、インプラントセンター

(11)

- 8 - 結果

① 症例数

6 年 間 の 総 症 例 数は 4209 例 で 、 全 身麻 酔 3005 例 、 静 脈内 鎮 静 (IVS:

intravenous sedation)998 例 、局所麻酔における全身管理(ST: standby)206 例であった。年毎の平均症例数は約 700 例であった(Fig.1)。

年毎の診療科別症例数は、口腔外科(顎口腔外科: Oral and maxillofacial oncology、顔面口腔外科: Oral and maxillofacial surgery の合計)が最も多 かった(Fig.2)。また、全身麻酔症例では 2010 年より小児歯科(Pediatric dentistry)の症例数が顕著に増加していた。(Fig.2a)。全身管理歯科(Special patient oral care unit)と義歯補綴科(Removable prosthodontics)は IVS での症例が多かった(Fig.2b)。

月毎の平均症例数に有意差はなかったが、8 月(72.8±6.6 例)、7 月(67.5

±6.5 例)、3 月(62.5±17.8 例)の順に多かった (Fig.3)。

(12)

- 9 -

454 494 489 515 536 517

165

174

135

180 174

170 54

37

24

28 29

34

0 100 200 300 400 500 600 700 800

2006 2007 2008 2009 2010 2011

(cases)

Fig. 1 年間別症例数

■: 全身麻酔; □: 静脈内鎮静法; : 局所麻酔における全身管理

(year)

(13)

- 10 -

0 100 200 300

2006 2007 2008 2009 2010 2011

0 20 40 60 80

2006 2007 2008 2009 2010 2011

0 10 20 30

2006 2007 2008 2009 2010 2011

(a) General anesthesia

(b) IVS

(c) ST

Oral and maxillofacial oncology Oral and maxillofacial surgery

Special patient oral care unit Removable prosthodontics Others

Pediatric dentistry (cases)

(cases)

(cases)

(year) (year)

(year)

Fig. 2

診療科別症例数

(a)全身麻酔; (b) 静脈内鎮静法; (c) 局所麻酔における全身管理

(14)

- 11 -

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

(cases)

(month)

Fig. 3 月別平均症例数

(15)

- 12 -

② 患者背景(年齢・性別・既往歴)

全症例の平均年齢は約 37.8±26.4 歳であった。14 歳以下の小児の総症例数は 1009 例(24.0%)、65 歳以上の高齢者は 831 例(19.7%)であった。小児の症例は 全身麻酔では多かったが(Fig.4a)、IVS と ST では少なかった(Fig.4b, c)。年毎 の変化をみてみると、特に小児の全身麻酔症例が増加していた(Fig.4a)。全症 例における性別は、男性 2252 例(53.5%)、女性 1957 例(46.5%)であった。

男女比は、全身麻酔は男性が高く、IVS は女性の割合が高かった(データ未表 示)。既往歴では、3207 例(76.2%)に既往が認められ、高血圧症が 682 例と最 も多かった。次いで、喘息、糖尿病、薬剤や食物に対するアレルギーの順であ った。既往症を有さない症例は 1002 例(23.8%)であった (Table 1)。

Fig. 4 小児、高齢者の割合

(a) 全身麻酔; (b) 静脈内鎮静法; (c) 局所麻酔における全身管理

■: 小児(14歳以下); □: 高齢者 (65歳以上)

≤14 65≤

0 50 100 150 200 250

2006 2007 2008 2009 2010 2011

0 5 10 15 20 25

2006 2007 2008 2009 2010 2011

0 10 20 30 40 50 60

2006 2007 2008 2009 2010 2011

(a) General anesthesia (b) IVS (c) ST

(cases) (cases) (cases)

(year) (year) (year)

(16)

- 13 -

Previous disease

Number (cases) General

anesthesia IVS ST Total

Hypertension 393 224 65 682

Asthma 325 87 21 433

Heart disease 158 78 70 306

Allergy 205 56 32 293

Diabetes mellitus 159 90 30 279

Mental retardation 156 22 7 185

Otitis media 175 7 1 183

Dental phobia 22 121 20 163

Psychiatric disorder 69 77 9 155

Ophthalmopathy 104 36 5 145

Cancer (except oral area) 80 44 10 134

Renal impairment 78 21 3 102

Gagging reflex 8 58 2 68

Thyroid abnormalities 28 12 1 41

None 832 162 8 1002

Table 1 既往歴

General anesthesia: 全身麻酔; IVS: 静脈内鎮静法; ST: 局所麻酔における全身管理

(17)

- 14 -

③ 診断

術前診断は、悪性腫瘍が 645 例と最も多かった。次いで、口唇口蓋裂、多数 歯齲蝕、顎変形症、埋伏歯、良性腫瘍、歯牙欠損、嚢胞の順であった (Table 2)。

全身麻酔においては口唇口蓋裂が 617 例と最も多く、IVS および ST では歯牙欠 損や齲蝕、埋伏歯抜歯が多かった。

Preoperative Diagnosis

Number (cases) General

anesthesia IVS ST Total

Malignant Tumor 584 55 6 645

Cleft lip and plate 617 11 1 629

Dental caries 332 163 52 547

Jaw deformity 386 9 0 395

Impacted tooth 140 171 12 323

Benign Tumor 200 75 12 287

Missing teeth 8 222 40 270

Cyst 156 71 4 231

Fracture 204 22 0 226

Other tooth disease 18 65 54 137

Inflammation 69 30 4 103

Ptyalith 37 12 0 49

Others 254 92 21 367

Table 2 術前診断

General anesthesia: 全身麻酔; IVS: 静脈内鎮静法; ST: 局所麻酔における全身管理

(18)

- 15 -

④ 麻酔時間

全身麻酔の平均麻酔時間は 292.3±202.0 分で、最長 2117 分、最短 35 分であ った。IVS の平均麻酔時間は 109.4±46.3 分であった。全身麻酔、IVS 共に各年 の平均麻酔時間に有意差はなかった(Fig.5)。

⑤ 手術時間

全身麻酔の平均手術時間は 208.0±189.7 分であった。IVS の平均手術時間は 72.8±44.6 分であった。72.8±44.6 分であった。

0 50 100 150 200 250 300 350 400 450

2006 2007 2008 2009 2010 2011

duration of anesthesia (min)

General anesthesia IVS ST

(year)

Fig. 5 年間別平均麻酔時間

■: 全身麻酔; □: 静脈内鎮静法 ; : 局所麻酔下での全身管理

(19)

- 16 -

⑥ 全身麻酔導入法・維持法

麻酔導入は、急速導入 1991 症例(66.3%)、緩徐導入 992 症例(33.0%)、その他 22 例(0.7%)であった(Fig.6a)。緩徐導入では、笑気・酸素・セボフルラン(GOS)

による症例が多く 84.2%を占めていたが、近年では笑気を使用せず、空気・酸 素・セボフルラン(AOS)あるいは酸素・セボフルラン(OS)で導入する症例が 増加する傾向を示していた(データ未表示)。急速導入に使用した静脈麻酔薬は、

プロポフォールが 1377 例と最も多く、ミダゾラム 215 例、チアミラール 200 例 であった。チアミラールの使用は年々減少しており、2010 年以降はプロポフォ ールも減少していた。これらの麻酔薬に代わってミダゾラムの使用が増加して いた(データ未表示)。麻酔維持法においては、AOS による症例(麻薬またはプロ ポフォールとの併用を含む)は 1485 例、GOS による症例は 858 症例で、全身麻 酔症例の 78.0%がセボフルランを用いて麻酔維持されていた。プロポフォール とフェンタニルあるいはレミフェンタニルによる全静脈麻酔(TIVA)は 260 例

(8.7%)だった。2008 年以降は、笑気を使用した症例が急速に減少し、TIVA が増加する傾向にあった(データ未表示)。

IVS に使用した静脈麻酔薬は、プロポフォールが 653 例と最も多く、次いで プロポフォールとミダゾラムを併用した症例が 320 例であった(データ未表示)。

(20)

- 17 -

Fig. 6 麻酔導入法

(a) 麻酔導入法. ■: 急速導入法; □:緩徐導入法; : その他 (b) 麻酔導入に使用する薬剤. GOS: 笑気、酸素、セボフルレン;

(A)OS: 空気、酸素、セボフルレン または 酸素、セボフルレン; P: プ ロポフォール; F: フェンタニル; R: レミフェンタニル; MDZ: ミダゾ ラム; T: チアミラール

(a)

Rapid induction

66.3%

Slow induction

33.0%

Others 0.7%

(b) (cases)

0 50 100 150 200 250 300

2006 2007 2008 2009 2010 2011

P, F, R MDZ, F, R T, F

(year)

(21)

- 18 -

⑦ 気管挿管法

挿管方法は、経鼻挿管 1465 症例(48.8%)、経口挿管 1434 例(47.7%)、気管切 開術または永久気切孔からの挿管が 106 例(3.5%)であった(Fig.7a)。エアウェ イスコープを使用した症例は合計 41 例、ファイバースコープ使用症例は 28 例 であった。年毎のばらつきはあるが、2006 年と比較すると、近年ではエアウェ イスコープあるいはファイバースコープの使用が増加していた(Fig.7b)。

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

2006 2007 2008 2009 2010 2011 .OT

47.7%

NT 48.8%

Trach 3.5%

Airwayscope® Fiberscope (year) (cases)

(b) (a)

Fig. 7 気管挿管

(a)気管挿管法. OT: 経口挿管; NT:経鼻挿管; Trach: 気管切開術または永久気切 孔からの挿管

(b)年間別補助的気管挿管器具使用症例数. ■: エアウェイスコープ; □: ファイ

バースコープ

(22)

- 19 -

⑧ 挿管難易度の評価

Mallampati 分類(Fig.8)と Cormack-Lehane 分類(Fig.9)が共に評価されて いた症例は 471 例であった(Fig.10a, b)。これらの症例のうち、Mallampati 分 類において喉頭展開困難のリスクが高いと予想される class 3 以上の症例は 197 例(41.8%)であった。挿管困難の指標となる Cormack-Lehane 分類 grade 3 以 上は 41 例(8.7%)であった。実際の挿管困難症例(Cormack-Lehane 分類 grade 3 以上)で、Mallampati 分類 class 3 以上と評価し挿管困難が予測できた症例 は 30 例(73.2%)であった。実際の挿管困難症例(Cormack-Lehane 分類 grade 3 以上)で、Mallampati 分類 class 2 以下と評価し挿管困難が予測できなかった 症例は 11 例(26.8%)であった(Table3)。

Fig. 8 Mallampati分類

Class 3

Class 2 Class 4

軟口蓋、口蓋垂、口 蓋扁桃、口狭、口蓋 舌弓、口蓋咽頭弓が 見える。

軟口蓋、口蓋垂、口 狭は見えるが他は見 えない。

口蓋垂の基部、軟口 蓋しか見えない。

軟口蓋も見えない。

Class 1 口蓋垂

口蓋扁桃 軟口蓋

口挟 口蓋舌弓

口蓋咽頭弓

(23)

- 20 -

Grade 1 Grade 2 Grade 3 Grade 4 声門

声帯 舌根

喉頭蓋

声帯が完全に見える。 声帯の後部のみが見える。 喉頭蓋のみが見える。 喉頭蓋も見えない。

喉頭蓋

Fig. 9

Cormack-Lehane

分類

MALL1 33.1%

MALL2 25.1%

MALL3 21.0%

MALL4 20.8%

(a) Mallampati分類

CL1 68.6%

CL2 22.7%

CL3 6.2%

CL4 2.5%

(b) Cormack-Lehane分類

Fig. 10 挿管困難評価

(24)

- 21 -

Table 3 Mallampati分類とCormack-Lehane分類の関係 class: Mallampati class; grade: Cormack-Lehane grade

Mallampati分類

Cormack-Lehane分類

grade 1, 2 grade 3, 4

class 1, 2 (例) 263 11

class 3, 4 (例) 167 30

(25)

- 22 -

⑨ BMI と Mallampati 分類および Cormack-Lehane 分類との関係

Mallampati 分類で気管挿管困難と予測された症例は、BMI が 25 kg/m2未満(普 通体重または低体重)161 例、25 kg/m2以上 30 kg/m2未満(肥満(1 度))32 例、

30 kg/m2以上(肥満(2 度以上))4 例であった。Cormack-Lehane 分類により気 管挿管困難と評価された症例は、BMI が 25 kg/m2未満 31 例、25 kg/m2以上 30 kg/m2 未満 10 例、30 kg/m2以上 0 例であった。Mallampati 分類および Cormack-Lehane 分類による挿管難易度評価において BMI による有意な差異は認められなかった

(Table 4)。

BMI

<25 25≦,<30 30≦

Mallampati分類

class 1, 2 (例)

〈挿管容易〉 221 45 8 274

class 3, 4 (例)

〈挿管困難〉 161 32 4 197

計(例) 382 77 12

Cormack-Lehane分類

grade 1,2(例)

〈挿管容易〉 351 67 12 430

grade 3,4(例)

〈挿管困難〉 31 10 0 41

計(例) 382 77 12

Table 4 BMI

Mallampati

分類、

Cormack-Lehane

分類の関係

(26)

- 23 -

Table 5 ASA (American Society of Anesthesiologists)の気道困難評価法 1. 上顎切歯の長さ

2. 閉口時の上下顎の切歯の関係 3. 頭頸部の可動性

4. 開口時の上下切歯間の距離 5. 口蓋垂の見え方

6. 口蓋垂の形 7. 下顎の伸展性 8. 甲状頤距離 9. 首の長さ 10. 首の太さ

11. 下顎を最大に前方へ出した時の切歯の位置

(27)

- 24 - 考察

九州大学病院は、ベッド数 1275 床、外来患者数は 1 日当たり約 2700 人とい う九州地域の中核医療機関である。歯学部附属病院は 2003 年に医学部附属病院 と統合し、2009 年には新しい外来診療棟を開院し、再生歯科・インプラントセ ンターを設置した。現在では、統合病院として歯科と医科が連携したチーム医 療を行っている。これらの変化に伴って、様々な全身疾患を持つ患者に歯科診 療を行う機会が増加してきており、周術期管理を行う歯科麻酔科の役割も重要 なものとなってきている。

今回、2006 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 6 年間の過去の臨床統計 を行い、改善点や今後の取り組みについて検討した。6 年間の総症例数は 4209 例であり、年間症例数は各年で著しい差はなかった。麻酔管理法別では、全身 麻酔が最も多く、症例の約 7 割を占めていた(Fig. 1)。麻酔管理法の選択には、

手術侵襲や手術時間、患者の基礎疾患、治療に対する協力度および患者自身の 希望をも考慮に入れた総合的な判断が必要である。当院における麻酔管理法の 第一段階の選択としては、手術または治療を行う診療科の判断による申請が基 になる。さらに術前の診察を含め歯科麻酔科医が、その選択が適正であるか否 かを判断する。

当科における全身麻酔症例数の割合は他施設と比較し多い2, 3)。これは IVS で 麻酔管理の難しい小児症例が多いことが要因の一つと考えられる。診療科別の 症例数では、小児歯科の症例数増加が特徴的であり、2009〜2011 年の症例数(計 292 例)は 2006〜2008 年(計 96 例)の約 3 倍であった(Fig. 2)。当科におけ る小児の症例数は、口唇口蓋裂に対する手術件数が多いため(Table 2)、他の 施設と比較するとやや多い傾向にある 2, 4, 5)。小児歯科の全身麻酔症例の増加

(Fig. 2a)は、小児や障害者に対する全身麻酔下歯科治療の増加に起因してい る。月別平均症例数をみると、8 月、7 月、3 月の順に症例数が多かったが(Fig.

3)、これは学童の長期休暇が影響していると考えられた。小児(14 歳以下)の 全身麻酔症例数の年次推移をみても、その増加は顕著であった(Fig. 4a)。

小児は、歯科治療に対する不安や緊張が強く、治療に非協力的なこともある。

(28)

- 25 -

従って、広範囲性齲蝕を有する患児の歯科治療や、比較的侵襲の大きい過剰埋 伏歯抜歯などに際しては、全身麻酔下での処置を行うことが必要な場合もある。

65 歳以上の高齢者の症例数は全体の 19.7%を占めていいた。年毎の推移は、

特に全身麻酔症例が徐々に増加する傾向を示していた(Fig. 4a)。他施設にお いては、高齢者の症例の占める割合が比較的高いところもある4, 6)。今後も高齢 者人口の増加が予想されるわが国では、全身管理がますます重要さを増してい くことが考えられる。

性別による症例数の違いをみると、全身麻酔症例においては男性がやや多い 傾向にある。しかし、IVS では女性の方が多く、他施設においても同じ傾向を示 す報告がある2, 3,7-9)。精神的疾患を有する割合が、女性に多いとする報告もある

9)。当院において、インプラント治療における IVS 症例が、男性と比較し女性の 方が約 15%多い(データ未表示)ことも女性が多い要因として考えられる。

既往を有する症例は、全体の約 7 割で(Table 1)、年毎の大きな変化はなか った(データ未表示)。高血圧症が最も多く、その他の心疾患を含めると、全体 の約 1/4 の症例が循環器系の疾患を有していた(Table 1)。高血圧症は動脈硬 化の要因となり、コントロール管理が悪ければ、心肥大や虚血性心疾患、脳血 管疾患、腎障害などを引き起こす可能性もあり、これらの合併症にも十分配慮 しなければならない。

全身麻酔では、気管支喘息や中耳炎を有する症例も多い(Table 1)。これら の既往症は、特に小児で多い(データ未表示)。当院では、口唇口蓋裂などの小 児の全身麻酔症例において滲出性中耳炎を合併している場合、口腔外科と耳鼻 科が合同で手術を行うことがある。その際は、口唇口蓋裂に対する手術が主と なるため、歯科麻酔科が全身麻酔を担当するが、中耳炎に対する処置時には、

医科麻酔科指導医が立ち会うことを原則としている。

麻酔時間に各年毎の有意な違いはなく(Fig. 5)、全身麻酔は 3 時間以上 4 時 間未満の症例が最も多く、他施設と比較し長い傾向にあった 2, 10, 11)

。悪性腫瘍

や顎変形症などに対する手術では、長時間の麻酔管理を要した症例もある。ま た、10 時間上を要した症例は約 6.9%であり、そのほとんどが悪性腫瘍に対する 手術症例であった。年ごとで、悪性腫瘍の症例数は増加傾向にはなかったが、

(29)

- 26 -

長時間に及ぶ症例では、一定時間毎に体液バランスや血液ガスなどの分析を行 い、適切な全身状態を維持することが必要である。また、薬剤の選択には、麻 酔時間が、薬の代謝と排泄、血中濃度や効果部位濃度の推移などに及ぼす影響 を考慮することも重要である。

IVS の麻酔時間は、平均 109.4±46.3 分であった(Fig. 5)。歯科診療におけ る静脈内鎮静法ガイドライン(日本歯科麻酔学会)では、合併症の発生頻度を 考慮して 2 時間以内の処置時間を推奨している 12)。本調査では、ほとんどの症 例が約 1 時間から 2.5 時間の麻酔時間だったが、3 時間以上に及ぶ症例もあった。

長時間の IVS では、体位や開口保持によって患者にかかる負担が大きいだけで なく、安定した鎮静状態を保つ事が困難になる。今後は、同ガイドラインに則 して 2 時間以内の処置時間を遵守するよう努めなければならない。

麻酔導入法は、急速導入の占める割合が高く(66.3%)、プロポフォールを使 用した症例が 1377 例(45.8%) と多数を占めていた(Fig. 6a)。年別では、チ アミラール、また 2010 年以降は、プロポフォールの使用症例が減少傾向にある のに対し、ミダゾラムの使用症例が増加していた。ミダゾラムは、循環動態の 変化に及ぼす影響が少なく、静脈投与時の血管痛も少ないとされる。また、健 忘効果も期待できる事から、その使用頻度が増加してきたと考えられる。

緩徐導入は、全身麻酔症例の 33.0%で施行されていた。これは、小児のみな らず、導入前の静脈路確保が困難な障害者などの症例で選択されたことによる。

麻酔維持には、多くの症例(77.9%)でセボフルランを使用していた(デー タ未表示)。近年では、イソフルランの使用が顕著に減少しており、TIVA は 2008 年より増加傾向にあった(データ未表示)。麻酔維持では、麻酔深度の調節性や 覚醒の質の向上、循環動態に与える影響あるいは生体内における代謝や排泄な ども考慮した薬剤の選択が必要である。当院では 2012 年よりデスフルランを導 入しており、今後さらに、症例に応じた適切な薬剤の選択が重要になる。IVS で は、ほとんどの症例でプロポフォールを主体とした方法が行われていた。プロ ポフォールは IVS に用いる薬剤として推奨されており、特に調節性に富み、嘔 吐反射を抑制する点でも有用である 12)。笑気吸入鎮静法は、当院では全身管理 歯科が独自に行っているが、当科が関与していないため今回の調査では除外し

(30)

- 27 - た。

気管挿管では、経鼻挿管が選択されることが多く(Fig. 7a)、経口挿管とほ ぼ等しい割合であった。経鼻挿管の症例数が多いのは、口腔領域を術野とする 歯科特有の傾向であり、他施設の歯科症例においても同様の傾向が報告されて

いる 10, 13)。経鼻挿管では、経口挿管にはみられない鼻出血、あるいは鼻の気管

チューブ接触部位の褥瘡など、合併症が発生する危険性がある。そのため、鼻 腔損傷を来しにくい気管チューブの選択や、鼻の保護テープの使用、チューブ 固定法の改善などによる十分な予防対策を講じなければならない。

挿管方法として、主に喉頭鏡を用いて挿管操作を行っている。他にも光原付 き挿管ガイドや挿管 Laryngeal mask airway(LMA)など、有用であるとされる器 具が開発されている。近年では、喉頭鏡以外の挿管器具としてファイバースコ ープ、あるいは 2006 年 7 月に発売されたエアウェイスコープが用いられる機 会が増加していた(Fig. 7b)。エアウェイスコープは、Charge Coupled Device(CCD)カメラと液晶モニターが装備されており、麻酔科医はモニター下で 声帯を目視、確認ながら挿管操作を行える特徴がある。そのため、挿管困難症 例には有用であるといえる。

しかし、これらの多々の挿管器具が開発されているが、挿管困難症例への対 応には種々の方法があり、必ずしも一つがいいとは言い切れない。また、麻酔 科医の技術や熟達度にも左右されることが考えられるが、エアウェイスコープ 使用症例では麻酔科医の技量は、研修期間に大きく左右されないという報告も ある14)。当科では、熟練した麻酔科医が 3 回以上の挿管操作を行ったか、また は挿管までに 10 分以上時間を要した症例を挿管困難症例と決めている。しかし、

各施設において、挿管困難症例の判定基準にはばらつきがあり、挿管困難症例 の発生頻度に差が生じる原因の 1 つであると考えられる。

術前に挿管困難が予測されている場合、全ての症例でこれらの挿管器具を準 備しておくべきである。上下顎骨骨折や顎関節強直症、悪性腫瘍術後などで開 口制限がある症例では、その程度によってファイバースコープあるいはエアウ ェイスコープを選択することが必要になる。また、喉頭鏡による喉頭展開が困 難と判断した時点で速やかにこれらの器具を使用することが、迅速かつ安全な 気管挿管操作において重要である。特に、2009 年はエアウェイスコープの使用

(31)

- 28 -

が増加していた。これは、骨折による開口障害や、悪性腫瘍術後の挿管困難が 予測される症例に対してエアウェイスコープが積極的に使用されたことが考 えられる。当科では、悪性腫瘍の全身麻酔症例が多い(Table 2)ため、今後も 喉頭鏡以外の挿管器具を使用する機会が増加していくことが予想される。

全身麻酔を行う上で、術前の気道評価は非常に重要な要素の 1 つである。気 道確保および気管挿管の難易度を術前に評価し、実際の挿管操作においてその 難易度を正しく判定することは、安全な呼吸管理において欠かすことができな い。当科では、術前の気管挿管難易度評価法として Mallampati 分類を用いてい るが、この方法で十分な気管挿管困難の予測が可能か否かを検証しなければな らない。そこで今回、2008 年 4 月 1 日から 2012 年 8 月 31 日までを対象期間と して、全身麻酔症例の術前評価精度について検討した。両分類が共に記録され ていた症例は 471 例であり記録の不備があった。これらの不備は現在では改善 されており、Mallampati 分類の正確な判定が困難な小児の症例を除き、全症例 における評価を行っている。術前の評価法としては Mallampati 分類が最も一般 的に活用されている15)。また、実際の挿管難易度の指標としては Cormack-Lehane 分類がよく用いられる。

実際の術前評価で、挿管困難が予測できた割合は 73.2%で、予測できなかっ た割合は 26.8%である。他施設の報告では、挿管困難が予測できた割合は 15.0

〜87.5% 、予測できなかった割合は 12.5~85.0%であった16-19)。従って、当科に おける Mallampati 分類による気管挿管困難の予測精度は比較的高かった。

(Table 3)。

しかし、全身麻酔の気道確保において、術前に挿管困難が予測できなかった 場合、重大なトラブルにつながる可能性もあるため、今後更に予測精度を高め る評価方法を考案していかなければならない。

また、Mallampati 分類 class 3 または class 4 では、喉頭展開が明らかに困 難な場合は、喉頭鏡で挿管できなかったためにエアウェイスコープやファイバ ースコープなどの器具を使用した症例もあった。これらの挿管補助器具を用い た場合には、Mallampati 分類 class 3 以上の症例でも挿管が容易であることが 多い。喉頭鏡による喉頭展開を試みていれば、Cormack-Lehane 分類で挿管困難

(32)

- 29 -

と評価された症例が含まれている可能性が高い。

高度の肥満患者では、頭頸部の過剰な脂肪組織によって下顎や頸部の可動範 囲が制限され、気管挿管が困難になることがある。Holmberg らは、BMI が 40kg/m2 を超える肥満患者では気管挿管が有意に困難になることを報告している 20)。一 方、肥満(BMI>32 kg/m2)が気管挿管困難を予測する感度は高くないという報 告もある16)。本調査では、Mallampati 分類、Cormack-Lehane 分類共に BMI によ る挿管難易度の差は認められなかった(Table 4)。これは、BMI が 40kg/m2を超 える肥満症例が 2 例のみであったことが影響しているのかもしれない。

Mallampati 分類は、簡易的な方法で気管挿管難易度を評価できる反面、患者 の口腔内における舌の相対的なサイズや突出度、姿勢や体格などに評価結果が 影響を受けることもある。また、小児では、術前診察で十分な協力が得られな い場合、Mallampati 分類を評価する事が困難となることもある。そのような症 例では、Mallampati 分類だけによる術前評価では、正確な気管挿管難易度を予 測することができないため、他の評価法を併用しなければならない。

当科で行っている術前評価法は Mallampati 分類を主に活用しているが、他に も、下顎の前方移動困難の指標として、upper lip bite test の下顎切歯で上唇 を咬む評価法や、下顎突出テストとして mandibular protrusion test、頸部伸 展の評価として Delikan sign などが挙げられる。

また、Shiga らは、Mallampati 分類と下顎正中から甲状軟骨までの距離の計 測を組み合わせた評価法が有用であると報告している 21)。アメリカ麻酔科学会

(ASA: American Society of Anesthesiologists)のガイドラインに記載され ている複数の気道評価法22) (Table 5)を組み合わせて総合的に評価することで、

術前の評価制度が高まることが期待できる。

現在、我々は、予期せぬ挿管困難に対する準備だけでなく、より精度の高い術 前気道評価法に関する新しい基準の検討を進めている。

(33)

- 30 -

Ⅱ.「日帰り全身麻酔の臨床統計学的検討」

対象および方法

2006 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 6 年間に歯科麻酔科が管理した日 帰り全身麻酔症例の臨床統計を行い、①症例数、②患者背景、③診断名、④麻 酔時間、⑤手術時間、⑥麻酔導入法・維持法について検討した。

2008 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 4 年間に管理した日帰り全身麻 酔症例の⑦術後合併症について後ろ向きに検討した。帰宅の可否を判断するた めに 4 項目の術後合併症(①飲水困難、②排尿困難、③ふらつき、④嘔気・嘔 吐)の有無を調査した。飲水、排尿、ふらつきは、麻酔終了 2 時間後に確認し た。腸蠕動音が確認できない場合や飲水時の誤嚥、嚥下不可能などが見られた 場合を飲水困難とした。排尿の有無は飲水の前または後に確認した。立位、歩 行時の自他覚的ふらつきを確認したが、日常生活において立つことができない 患者は、座位または半座位での姿勢維持におけるふらつきを他覚的に判断した

。嘔気・嘔吐は帰宅時までの有無を評価した。これらの術後合併症と麻酔時間

、麻酔維持薬、既往歴との関連について検討した。

統計学的解析は、分散分析法(analysis of variance: ANOVA)および Scheffe 法による多重比較検定(麻酔時間)または Fisher の正確確率検定(麻酔維持薬

、既往歴)を行い、有意水準を 5%として判定した。

調査資料:麻酔記録、電子カルテ

場所:九州大学病院手術室、外来全身麻酔治療室

(34)

- 31 - 結果

① 症例数

6 年間の総症例数は 326 例で、年ごとの平均症例数は 54 例であった(Fig.11)。

診療科別症例数では、小児歯科が最も多く、2010 年、2011 年では顕著な増加を 認め、90 症例を超えていた。6 年前と比較し、約 4 倍の症例数であった。次い で口腔外科、全身管理歯科の順であった(Fig.12)。

② 患者背景(年齢・性別・既往歴)

平均年齢は 12.8±14.5 歳であった(Fig.13)。14 歳以下が 245 例、65 歳以上 が 6 例と大部分が小児症例であった。2011 年の平均年齢は 10.3±10.9 歳であり、

2006 年、2007 年と比較し低年齢化傾向にあった。最年少年齢は 5 ヵ月、最年長 年齢は 60 代であった。性別は、男性 197 名(60.4%)、女性 129 名(39.6%)であっ た。年間別では 2007 年、2008 年以外は男性が多い傾向にあった(Fig.11)。

既往歴は 236 例(72.4%)に認められた。多い順に、喘息 62 例(19.0%)、精神発達 遅滞 55 例(16.9%)、薬剤や食物に対するアレルギー39 例(12.0%)、てんかん 29 例(8.9%)であった(Table 7)。喘息は 2010 年、2011 年の 2 年間は 2006 年から 2009 年までの 3 年間と比較し増加傾向にあった。

(35)

- 32 -

(cases)

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

2006 2007 2008 2009 2010 2011

female male

Fig. 11 年間別症例数

■: 男性; □: 女性

(year)

(36)

- 33 -

0 10 20 30 40 50 60 70 80

2006 2007 2008 2009 2010 2011 (year)(year)

Fig. 12

診療科別症例数

Oral and maxillofacial oncology Oral and maxillofacial surgery

Special patient oral care unit Removable prosthodontics Others

Pediatric dentistry (cases)

(37)

- 34 -

-10 0 10 20 30 40 50

2006 2007 2008 2009 2010 2011

Fig. 13 年間別平均年齢

(year) (age)

(38)

- 35 -

③ 診断

術前診断は、多数歯齲蝕 185 例(56.7%)が最も多く、次いで上顎正中過剰埋伏 歯 51 例(15.6%)、埋伏智歯を含む埋伏歯 33 例(10.1%)、舌小帯強直症 11 例(3.3%) の順であった(Table.6)。年間別では、多数歯齲蝕、上顎正中過剰埋伏歯抜歯な どの一般歯科治療処置が増加傾向にあった。

Preoperative diagnosis

Number (cases)

2006 2007 2008 2009 2010 2011 total

Dental caries 10 22 16 23 52 60 185

Impacted maxillary central

supernumerary tooth 2 2 3 6 17 21 51

Impacted third molar 6 9 5 3 4 6 33

Ankyloglossia 1 1 1 3 4 1 11

Cyst 0 1 1 2 1 1 6

Others 1 13 5 2 13 6 40

Table 6 術前診断

(39)

- 36 -

Number (cases)

2006 2007 2008 2009 2010 2011 total

Asthma 5 8 3 3 26 17 62

Mental retardation 2 10 10 9 6 18 55

Allergy 4 5 1 5 10 14 39

Epilepsy 0 7 3 4 6 9 29

Otitis media 1 4 1 2 7 1 16

Cerebral palsy 0 1 1 1 2 8 13

Down syndrome 0 1 2 1 6 2 12

Depression, Panic disorder 1 4 1 0 2 4 12

Pneumonia 0 2 0 0 5 3 10

Hyper tension 1 3 1 0 1 0 6

Dental phobia 0 0 0 3 2 1 6

Heart disease 0 0 2 0 2 1 5

Diabetes mellitus 1 1 0 0 0 1 3

Others 1 7 1 0 3 1 13

None 5 9 9 11 25 31 90

Table7 既往歴

(40)

- 37 -

④ 麻酔時間

年ごとの平均麻酔時間は 195.1±82.9 分であった。2010 年、2011 年では平均 麻酔時間が 200 分を超えており、2006 年と比較し長くなる傾向にあった (Fig.14) 。

⑤ 手術時間

年ごとの平均手術時間は 134.7 分±78.5 分であった、麻酔時間と同様、長く なる傾向にあり 2010 年、2011 年では 140 分を超えていた(Fig.14) 。

0 50 100 150 200 250 300 350

2006 2007 2008 2009 2010 2011

Duration of operation Duration of anesthesia

(year) (min)

Fig.14 平均手術時間、平均麻酔時間

■: 麻酔時間; □: 手術時間

(41)

- 38 -

⑥ 麻酔導入法・維持法

麻酔導入は急速導入 65 例(19.9%)、緩徐導入 261 例(80.1%)であった(データ 未表示)。緩徐導入では GOS と筋弛緩薬ベクロニウムを併用した症例が 183 例と 最も多かった。麻酔維持薬では GOS で維持した症例は近年減少傾向にあった。

対して AOS で維持した症例は増加傾向にあった。2010 年より筋弛緩薬ロクロニ ウムの使用が増加していた。

⑦ 術後合併症

4年間の総症例数は256例で、男性161名(62.9%)、女性95名(37.1%)であった。

平均年齢は10.0±10.4歳、14歳以下は208例(81.2%) であった(データ未表示)。

診療科別症例数では、小児歯科が最も多く70.7%を占めていた。既往歴は多い 順に、喘息49例、精神発達遅滞43例、薬剤や食物に対するアレルギー30例であ った(1症例で複数の既往歴を有する場合有り)(Table.11) 。術式は、多数歯 齲蝕に対する歯科治療153例、上顎正中過剰埋伏歯抜歯47例、埋伏智歯抜歯18例 の順に多かった(データ未表示) 。

術後合併症を認めた症例は 54 例であった。飲水困難 8 例、排尿困難 27 例、

ふらつき 16 例、嘔気・嘔吐 4 例(飲水困難と排尿困難の両方がみられた症例が 1 例)であった。排尿困難やふらつきを認めた症例が多かった(Table.8) 。

各々の術後合併症が発生した症例の平均麻酔時間は、発生しなかった症例に 比べ、嘔気・嘔吐以外は長い傾向にあったが有意差はなかった(Table.9) 。

術後合併症と麻酔維持薬との関係では、揮発性吸入麻酔薬セボフルランを主 に使用した症例に、術後合併症54例の全てが認められた。嘔気・嘔吐を認めた 症例は、AOSで維持した4症例のみであった。AOS・プロポフォール・フェンタニ ルまたはレミフェンタニル(F(R))で維持した症例は、笑気・酸素・セボフル ラン(GOS)に比べて、ふらつきの発生率が有意に少なかった(p<0.05)。また プロポフォールとF(R)による全静脈麻酔(TIVA: total intravenous anesthesia) で維持した症例にこれらの術後合併症はなかった(Table.10)。術後合併症と既 往歴との関係では、既往のない症例と各々の既往を有する症例で、術後合併症 の発生率に有意差はなかった(Table.11)。

(42)

- 39 -

Number of cases*

Inability to drink water

Inability to

urinate Lightheadedness Vomiting Nausea

Complication (–) 219 170 240 252

Complication (+) 8 27 16 4

Undeterminable 29 59 – –

* Data were examined from 2008 through 2011.

Table 8 術後合併症

(43)

- 40 -

Duration of general anesthesia (min)*

Inability to drink water

Inability to

urinate Lightheadedness Nausea Vomiting

Complication (–) 195.5 ±81.1 196.0 ±83.1 199.3 ±84.6 200.5 ±82.9

Complication (+) 246.1 ±107.8 208.2 ±69.1 217.2 ±65.2 196.8 ±133.9

* Data were examined from 2008 through 2011.

Table 9 術後合併症と麻酔時間の関係

(44)

- 41 -

maintenance of anesthesia

Total cases of general anesthesia

Number of cases (% of the total cases of general anesthesia)*

Inability to

drink water Inability to urinate Lightheadedness Nausea Vomiting

AOS 141 4 (2.8) 18 (12.8) 10 (7.1) 4 (2.8)

AOS, Propofol, F (R) 84 3 (3.6) 9 (10.7) 3 (3.6) 0 (0.0)

GOS 12 1 (8.3) 0 (0.0) 3 (25.0) 0 (0.0)

Propofol, F (R) 6 0 (0.0) 0 (0.0) 0 (0.0) 0 (0.0)

Others 13 0 (0.0) 0 (0.0) 0 (0.0) 0 (0.0)

* Data were examined from 2008 through 2011.

Table 10 術後合併症と麻酔維持薬の関係

(45)

- 42 -

previous disease

Total cases of general anesthesia

Number of cases (% of the total cases of general anesthesia)*

Inability to drink water

Inability to

urinate Lightheadedness

Nausea Vomiting

Asthma 49 2 (4.1) 4 (8.2) 2 (4.1) 1 (2.0)

Mental retardation 43 2 (4.7) 7 (16.3) 3 (7.0) 1 (2.3)

Allergy 30 0 (0.0) 0 (0.0) 1 (3.3) 0 (0.0)

Epilepsy 23 1 (4.3) 3 (13.0) 2 (8.7) 1 (4.3)

Cerebral palsy 12 1 (8.3) 2 (16.7) 1 (8.3) 0 (0.0)

Down syndrome 11 0 (0.0) 2 (18.2) 0 (0.0) 0 (0.0)

Heart disease 5 1 (20.0) 1 (20.0) 1 (20.0) 1 (20.0)

Others 10 0 (0.0) 3 (30.0) 0 (0.0) 1 (13.0)

None 76 3 (4.0) 10 (13.2) 8 (10.5) 1 (1.3)

* Data were examined from 2008 through 2011.

Table 11 術後合併症と既往歴の関係

(46)

- 43 - 考察

日帰り全身麻酔では術前・術後の管理を外来と在宅で行うことから、入院下 で行う全身麻酔よりも一層厳重な周術期のケアが必要と考えられる。日本麻酔 科学会では 1999 年に日帰り麻酔の安全のための基準1)を制定している(2009 年 2 月改訂)。歯科麻酔においてもこの基準に則った麻酔管理が要求されるが、歯 科治療の現状に即した、さらに詳細な指針についても考慮すべきだと思われる。

今回、2006 年 1 月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 6 年間の臨床統計的観察 を行い、今後の日帰り全身麻酔のあり方について考察を行った。また、日帰り 全身麻酔は、帰宅後は麻酔科医や看護師が直接監視することができない。その ため、安全な術後管理のためには厳密な帰宅の判断が必要である。そこで、2008 年1月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 4 年間を対象期間として、帰宅の可否 を判断するために、術後合併症の有無を後ろ向きに検討を行った。

総症例数は326症例であった。2010年、2011年では顕著な症例数の増加を認め

(2008年:12例、2011年:70例)(Fig.11)、これは小児歯科の歯科治療の増加 によるものであった。また、近年、小児の口腔内環境は極端に齲蝕が多いかほ とんどない、というように二極化の傾向があり23)、多数歯の齲蝕治療を必要とし ている小児患者が増えていることが、その背景にある。更に、2010年より健常 児であっても、歯科治療に非協力的な患者の全身麻酔を積極的に受け入れるよ う、方針の変更をしたことも影響しているのかもしれない。術前診断では、多 数歯齲蝕や上顎正中過剰埋伏歯抜歯などの、一般歯科治療症例が大部分を占め ていた(Table 6)。小児や障害者では、家庭での口腔ケアが困難なこともあり

、広範囲性齲蝕がみられ易く、他施設でも同様に齲蝕を小児の高頻度疾患とし て挙げている24)

既往歴では、236例(72.4%)に既往が認められ、喘息が62例 (19.0%) と最も多 い。近年、小児喘息は増加し、その発症は低年齢化してきている。当科におい ても、ここ2年の症例数は非常に増加しており、今後も増加が予測される。喘息 の呼吸器合併症が、麻酔導入時に約60%発生したという報告もあり、発作の予防 や対応、患者の情報収集は重要である。森田らは、小児の喘息患者が吸入麻酔

(47)

- 44 -

薬の種類によって、周術期管理中の発作発症頻度には有意差がなかったとして いる25)。今回の検討で発作発症頻度は不明であるが、気道刺激性のあるイソフル ラン使用症例は1症例のみであり、喘息を考慮した麻酔管理であったことが考え られた。

平均麻酔時間は 195.1±82.9 分であった(Fig.14)。他施設における平均麻酔 時間は約 2 時間前後であり 26-28)、若干長い傾向にあるといえる。日本麻酔科学 会では手術時間、麻酔時間に詳細な時間は記載されていないが、当科では手術 時間を 2 時間以内、最長で 3 時間以内と決めている。しかし、実際には 3 時間 以上を要した症例がある。そのような症例では帰宅時間が遅くなるだけでなく、

外来終了時間内に帰宅できないことが考えられる。

この 6 年間において、入院管理へと移行した症例はなかったが、2012 年には 手術時間の延長により、十分な覚醒状態を確認することが出来ず、外来診療時 間内に帰宅できない症例が散見された。そのため、緊急時に入院できるベッド が確保されていなければならないが、予定時間内に終了出来る様に、治療計画 の立案や見直す事が前提とされる。そして、各診療科に手術時間に関する再確 認と、周知徹底を図る事が重要である。

当院は医科と歯科が統合されており、小児の心臓手術や臓器移植手術前の歯 科治療などの症例に関しては、歯科治療であっても設備や人手の確保が整った 中央手術室で治療を行っている。今後は中央手術室の利用を増やし、外来全身 麻酔室での待機症例を減らしてくことを検討している。そのため、各診療科が 2 週間前に歯科の手術編成会議を行い、中央手術室と外来全身麻酔室の有効利用 を図る様な体制を現在指導している。

日帰り全身麻酔では麻酔終了後、しばらくの間、術後回復のためのスペース が必要である。現在、処置室と回復室を同じスペースとして利用せざるを得な い状況下であるため、日帰り全身麻酔症例を 1 日に 1、2 例しか行えないのが現 状である。そのため、外来診療室以外のスペースの使用を可能にする事によっ て、効率化が図れる。現在病院側に要望を出しているが、今のところ解決には 至っていない。

2008 年1月 1 日から 2011 年 12 月 31 日までの 4 年間の 256 例に対して、歯科

(48)

- 45 -

麻酔科が帰宅の可否を判断するため、4 項目の術後合併症(①飲水困難、②排尿 困難、③ふらつき、④嘔気・嘔吐)の有無を調査している (Table.8)。

これらの術後合併症を認めた症状は 54 例(21.1%)である。福田らは、日帰り 全身麻酔における帰宅後の電話確認で、約 3 割に何かしらの不快症状を認めた と報告している 25)。評価した麻酔後の経過時間に違いはあるが、本調査の術後 合併症の発生は特に高率ではない。

排尿困難症例27 症例と最も多い割合を占めていたが、排尿に関しては術中の輸 液量と尿量が関係している。しかし、輸液量が多い場合でも術中に排尿があれ ば、術後の確認時には排尿を認めない事が考えられる。そのため、結果的に割 合が多くなったことが考えられた。

麻酔時間は約3時間前後であった。近年、当科における麻酔時間は長くなる傾 向にあるが、麻酔時間は各々の術後合併症の有無で有意差はなかった。しかし

、それは術後合併症が発生した症例が少なかったことに起因するのかもしれな い。症例数を増やして検討することが必要だと思われる。また、帰宅時間の延 長や覚醒不十分で入院を余儀なくされる可能性を考慮すると、手術時間、麻酔 時間にある程度の基準を設ける必要性があると考えられる。

麻酔維持薬では、主にセボフルレンを使用した症例に、術後合併症の全54例 が認められた。セボフルランは術後嘔気・嘔吐の危険因子とされ、AOS管理症例 141症例中4例(2.8%)で認めた。プロポフォールを併用した症例では嘔気・嘔吐 はみられなかった。また、GOSとAOS・プロポフォール・フェンタニル(レミフ ェンタニル)の症例でふらつきの発生率に有意差を認めた。これらは、プロポ フォールの制吐作用に加えて、麻薬を併用することで吸入麻酔薬の濃度を抑え られた可能性も示唆された。TIVAで管理した症例では、術後合併症はみられな かったが、TIVAの症例数が6例と少なかったので、症例数を増やして検討する必 要がある。

既往歴では、精神発達遅滞や自閉症の障害者は嘔吐発生率が高いという報告 もある25)。本調査では精神発達遅滞の1例のみに嘔吐が認められた。意思疎通が できない障害者では術後合併症の確認が困難なこともあるため、障害者の症例 では、付き添いの家族と協力して術後合併症の発見に努めることが重要である

(49)

- 46 - と考えられた。

こられの術後合併症を認めた症例は、少なからず存在する。そのため、術後 合併症の発生を可及的に抑え、迅速な回復による早期の帰宅を可能にしていか なければならない。適切な麻酔維持や麻酔時間に関して改善していくことが必 要である。

(50)

- 47 -

Ⅲ.「大動脈弓に壁在性血栓を有する口腔外科手術患者の全身麻酔経験」

対象および方法

右頬粘膜扁平上皮癌(T2N0M0)の診断で、腫瘍切除術、植皮術施行目的に入 院した患者の麻酔管理を行った。入室後、酸素化を行う前に両側前頭部に無侵 襲混合血酸素飽和度監視システム、INVOS®5100C(COVIDIEN、東京)のソマセンサ ーを装着し、脳の混合血酸素飽和度のベースライン値を測定した。BIS センサー は、左前頭部でソマセンサーより上方に装着した。ニコランジル 1.5mg╱h の持 続投与を開始した後に、レミフェンタニル 0.1μg/kg/min、フェンタニル 50μg、

ミタゾラム 5mg で麻酔導入し、ロクロニウム 30mg 投与し経鼻挿管した。導入後、

大伏在静脈に静脈路と、右橈骨動脈に観血的動脈圧ラインを確保した。

麻酔維持は酸素 1L/分、空気 3L/分、レミフェンタニル 0.1-0.25μg/kg/min、

セボフルラン 1.0-1.4%で行った。フェンタニル(総投与量 400μg)と 20 万倍ア ドレナリン含有 1%リドカイン 15ml を使用し、手術終了後にジクロフェナック 50mg を挿肛した。麻酔記録は 5 分毎に行った。

(51)

- 48 - 結果

① 症例

72 歳男性、163cm、53kg。

右頬粘膜扁平上皮癌(T2N0M0)の診断で腫瘍切除術、植皮術施行目的に入院し た。20 年前から 25-30 本/日の喫煙歴があり、肺機能検査で 1 秒率 44%、%肺活 量 81.3%、1 秒量 1.06L、肺活量 2.61L の閉塞性換気障害を認め、慢性閉塞性肺 疾患(COPD)と診断されていた。投与薬はモンテルカストナトリウム(シング レア®)、アンブロキソール塩酸塩製剤(ムコソルバン®)とチオトロピウム臭化 物水和物(スピリーバ®)を吸入しており Hugh-Jones 分類Ⅱ度であった。

顔面・頸部 CT で、大動脈弓に多発する壁在性血栓が指摘された。脳血管外科 に対診したところ、頸部血管超音波検査で石灰化プラークによる左鎖骨下動脈 から、椎骨動脈の狭窄や閉塞、両側内頸動脈の軽度狭窄を認め、脳底動脈及び 末梢側に異常は認めなかった。

また、冠血管造影 CT を行ったところ、セグメント#1(右冠動脈近位部)に軽 度狭窄、#2(右冠動脈中間部)に中等度狭窄があり#6(左前下行枝近位部)、#9

(左前下行枝第 1 対角枝)に石灰化プラークと遠心部に軽度狭窄、#13(左回旋 枝遠位部)に石灰化プラークの中等度狭窄を認めた。心臓超音波検査では中等 度の僧帽弁逆流と三尖弁逆流を認め左室駆出率は 75.6%であった。術前の右上 腕で測定した血圧は 128/70mmHg、左上腕では 89/59mmHg であった。胸部 X 線写 真、心電図、生化学検査では特記すべき異常を認めなかった。

今回、大動脈壁在性血栓、椎骨動脈と両側内頚動脈の動脈硬化性病変による 脳低灌流が懸念されること、そのため INVOS®5100C で測定することを本人に説 明し同意を得た。

② 経過

入室時の血圧は右上腕で 121/65mmHg、左上腕で 82/53mmHg、心拍数 62 回/分、

SpO298%であった。酸素化を行う前に両側前頭部に INVOS®5100C のソマセンサー を装着しベースライン値は左 59%、右 60%で測定開始した。BIS センサーを左前

Table 1 既往歴
Table 2 術前診断
Fig. 5 年間別平均麻酔時間
Table 3 Mallampati分類とCormack-Lehane分類の関係 class: Mallampati class; grade: Cormack-Lehane grade
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参照

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