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古 田 俊 吉

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Academic year: 2021

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(1)

キャッシュ・フロー法人税の中立性

古 田 俊 吉

1 . はじめに

キャッシュ・フロー法人税は,法人企業の資金調達と投資に対する中立性,

および税務行政上の簡素さの観点から注目されている法人税である。この理由 は,キャッシュ・フロー法人税が企業の活動を資金の流出入から捉えることに ある。投資コストの即時償却を認める一方で資金調達コストの課税ベースから の控除を認めないことにより,通常の所得ベース法人税が内包する物理的減価 償却の測定や実質資金調達コストの測定といった技術的・税務上行政上の諸問 題を回避できる。また,投資コストの即時償却と資金調達コストの非控除によ

り,法人企業の資金調達と投資に対して中立的となる。

しかし,キャッシュ・フロー法人税の中立性が,個人のレベルで採用される 課税ベースと税率体系に大きく依存していることに注意が必要である。ミード 報告[ 1 3 ]はこの点で,個人のレベルで支出税を前提とし,キャッシュ・フロー 法人税を主張しているが,当分は,個人税において所得が課税ベースとして存 続すると考えられる。そこで本稿では,個人のレベルで所得税が採用されてい るという現実的設定の下で, R ベース方式および S ベース方式のキャッシュ・

フロー法人税の場合で,法人企業の資金調達および投資に対する中立性につい て検討する。 R+F ベース方式についてはこれまで諸側面から議論されてきて いるが,税務行政上は S ベース方式の方が R 十 F ベース方式よりも簡素と考え られることから, S ベース方式の観点から検討することには十分意義があると 思われる。

‑ 1 ‑

(2)

‑ 2 

2 . 資金調達に対する中立性

法人企業の資金調達に与える法人税の効果に関しては, K i n g [ 9 ,1 0 ]において 分析されている。そこで,彼のモデルをキャッシュ・フロー法人税の場合に適 用して,資金調達に対する中立性の問題を考察することにする。

はじめに分析の枠組みを示しておこう。 ) , ( m, c をそれぞれ個人のレベルの 所得税において適用される,配当所得の限界税率,利子所得の限界税率,およ び発生した資本利得の限界実効税率とする。また iを市場利子率, d ( t ) を t 期末 の 1 株当たりの配当, v ( t ) を t 期首の 1 株当たりの株式価格とする。なお,。,

m,  c および i は通時的に不変であるものとする。これより,資本市場の均衝 条件は,

( 1 )   i(l‑m)v(t)=(l‑O)d(t)+(l‑c)[v(t+l)‑v(t)] 

で与えられる。これは,均衝において債券投資の税引後収益率が株式投資の税 引後収益率に等しくなることを要求している。(1 )は各期において成立するから,

( 2 )   v ( O )  =v(t+ 1 )   Iβt+l 十~ [(1‑0)/(1‑c)]d(s / ) β 刊

を得る。ただし,

( 3 ) β =  1  +i(l‑m)  I  (1‑c) 

である。以下では,法人企業が株式価値の最大化行動をとるものとして,キャ ッシュ・フロー法人税の資金調達に対する中立性の条件を考察する。

まず,内部留保と新規株式発行による資金調達の決定に対する中立性の条件 を検討しよう。いま企業の借入政策は固定されたものとすると,ゼロ期には 2 つの代替案が存在する。

( P )   留保利潤から投資し,発行株式数を固定しておく。

( e )新規株式を 1 株当たりい( 1 )の価格でム n の数だけ発行し, l 株当たりの 配当を d P ( Q )から d e ( O )に増加する。

2 つの代替案において投資額が同ーとすると,新規株式発行額は v e ( l ) ム n で あり,他方,配当と租税支払いの増加は[ de(O)‑dP(O)Jn であるから,

‑ 2 ‑

(3)

( 4 ) ムn v e ( l )= [ d e ( O )  ‑dP(O) Jn 

となる。また, 2 つの代替案ともに同一の将来収益の流列を生み出すとの想定 から,

( 5 )   vP(l)n=ve(l) ( n 十ムn )

である。これより,(1 ) , ( 4 ) ,   ( 5 )を用いて,

( 6 )   v P ( Q )  ‑ve(O) =  ( ムn/n){(c ー θ ) / [ 1‑c 十 ( 1  ‑m)  i  J  }  V e   ( 1 )  

を得る。(6)において v e ( l ) と [1‑c+(1‑m) i ]は非負であるから, C く θであれ ば,法人企業にとって株式を有償減資(ムn く 0 )するのが得策となる。逆に O く

c であれば,法人企業にとって株式発行による資金調達の方が内部留保による 資金調達よりも有利となる。このことから,キャッシュ・フロー法人税が内部 留保と株式発行による資金調達の決定に対して中立的であるためには,配当に 対する限界税率と資本利得に対する限界実効税率を等しくなければならないこ

とがわかる。

次に,借入れと株式発行との間での資金調達方法の決定に対する中立性の条 件を明らかにしよう。内部留保の水準を所与とすると,資金調達の 2 つの代替 案は以下のようになる。

( e )   新規株式を l 株当たりい( 1 )の価格でム n の数だけ発行する。

( b )   ゼロ期末にムn v e( 1 )の額を借入れし, 1 期末に元利償還する。

2 つの代替案において,内部留保の水準は所与であり,ゼロ期に支払われる配 当が同一で、あるから(1 )より,

(  7 )   y b  (  0 )  ‑ y e  (  0 )   =  [  y b  (  1 )  ‑y e  (  1 )  ]  / β 

を得る。 2 つの代替案の投資額は同一であり,借入れによる利子支払いは両代 替案の配当と租税の総支払い額の差額となり,またキャッシュ・フロー法人税 においては支払い利子の控除が認められないことから,

( 8 )   ( n +ムn ) d e ( l )=ndb(l) +i ムn y e ( l )

となる。また,法人企業は借入れの返済のために, l 期末においてい( 2 )の価格 で株式をムn b 発行するものとすると,

‑ 3 ‑

(4)

‑ 4 ‑

( 9 )   ムn d e ( l ) =ム甘い( 2 )

となる。同一の将来収益の想定から, 2 期末における株式価格は 2 つの代替案 で等しく,したがって

( 1 0 )   ( n +ムn)ve ( 2 )   = ( n +ムポ) v b   ( 2 )   である。( 1 ) , ( 7 ) ,   ( 8 ) ,   ( 9 ) ,   ( 1 0 )より,

( 1 1 )   v b   ( 0 )   ‑ve  ( 0 )   = ( i / β 2 )   ( ムn / n )[(8‑m)/(1‑c)]ve(l) 

を得る。このことから, m く O であれば法人企業にとって借入れによる資金調達 が,逆に O く m であれば株式発行による資金調達が有利となることがわかる。

したがって,キャッシュ・フロー法人税が中立的であるためには,配当に対す る限界税率と利子に対する限界税率が等しくなければならない。

最後に,内部留保と借入れとの間での資金調達方法の決定に対する中立性の 条件を明らかにしよう。新規株式発行を所与とすると,法人企業にとっての代 替案は次のようになる。

( P )   留保利潤から投資し,ゼロ期末に d P ( 0 )の配当支払いを行なう。

( b )   ゼロ期末に借入れして d b ( O )の配当を支払い, 1 期末に元利償還する。

新規株式発行が所与との想定から,借入れは配当の減少によって賄われること になる。借入れによる資金調達は[db(O)‑dP(O)]n であり,これは 2 つの代替案 の配当と租税支払いの差額に等しいことを表わしている。これより, 1 期末に おけるキャッシュ・フローの制約は,

( 1 2 )   dP(l)=db(l)+(l+i)[db(O)‑dP(Q)] 

で与えられる。 2 つの代替案は等しい将来収益を生み出すとの想定から, 2 期 末における株式価格は等しくなければならない。したがって,(1 ) , ( 1 1 ) および( 1 2 ) から,

( 1 3 )   v b ( O )  ‑vP(O) =  {  [ d b ( O )  ‑dP(O)  J  (1‑0)i/β2 (1‑c) 2 }  (c‑m) 

を得る。これより, m く cであれば借入れによる資金調達が,逆に C く m であ れば留保利潤による資金調達が有利となる。したがって,キャッシュ・フロー 法人税が内部留保と借入れとの間での資金調達方法の決定に対して中立的であ

‑ 4 ー

(5)

るためには,利子所得に対する限界税率と資本利得に対する限界実効税率が等 しくなければならない。

以上の諸結果から,キャッシュ・フロー法人税が法人企業の資金調達に対し て中立的であるためには, m=c= 8 であること,換言すれば,個人所得税にお いて配当所得,利子所得および資本利得に対して同一税率が適用されることが 必要である。さらに,インフレーションが存在する場合には,これらの税率の 適切なインデクセーションが必要となる。

3 . 投資決定に対する中立性

キャッシュ・フロー法人税は,純粋利潤に課税し法人企業の投資決定に対し て中立的であることはよく知られている。ここでは前節と同様,個人レベルで 所得税が採られているものとして,キャッシュ・フロー法人税の投資決定に対 する中立性について考察する。

最初に,法人企業が投資を株式発行と内部留保によって資金調達する場合か ら考察しよう。 ρ を初期の株主の割引率, V(t), D(t),  E(t)をそれぞれ t時点 の,株式価値,支払い配当,新規株式発行額とする。法人企業はρ で割り引いた 配当の現在価値の意味での株式価値を最大化する行動をとるものとする。 t時 点、の法人企業の株式価値は,

ω  V 代 ) =  j~{(l一的 D(s)一c [令(s)一E伶

で与えられる o 資本市場の均衡条件を得るために,これを tで微分すると,

( 1 5 ) ρ ( 1‑m)V(t)  =  ( 1 − θ) D(t)  +  (1‑c)  [ V ( t )  ̲ ̲ : E ( t ) ]   が得られる。さらに, V(t)について解くと,

( 1 6 )   v 代 ) =  f~   [ { ( 1 一θ)/(ト c ( s 一E何 }e P (1‑m)/( 

を得る o 法人企業の目的は,したがって,一定の制約条件の下で(1 6 )を最大にす ることとなる。

いま,法人企業は生産関数 F(K)に基づいて単一の生産物を生産するものと する。ただし, F( K )  > O ,   F" (K ) く O とする。乙こで, K(  t ) は t 時点、の資

‑ 5 ‑

(6)

‑ 6 ‑

本ストックである。また, I ( t ) を t 時点の投資とすると, 3 を指数的な資本減耗 率として,

間 I( t )  =K(t) + oK(t) 

となる。なお,生産物価格 p(t)および資本財価格 P k( t )については,インフレ 率πは一定と想定し, p ( t )=pk ( t )  =ent とする。また, uを法人税率とし,個人 税の限界税率である, m, e ,   c とともに通時的に不変と想定する。さらに, a

を投資資金に占める株式発行の比率とし,これも通時的に不変とする。以下で は,特に必要でない限り,時間の記号は省略する。

t 時点、の支払い配当は,税引後利潤から投資支出を控除したものであるから,

T を税額として,

( 1 8 )   D 二 pF(K)‑(1‑a)pkl‑T

と表わされる。以上のような基本的設定の下で, R ベース方式および S ベース 方式のキャッシュ・フロー法人税について,投資決定に対する中立性の条件を 順に考察することにしよう。

まず, R ベース方式の法人税については,課税ペースは,財・サービスの販 売額から固定資産の購入額を控除した額であるから,

( 1 9 )   T=u[pF(K) ‑pkl] 

として与えられる。これから,( 1 9 ) と ( 1 8 )より配当は,

( 2 0 )   D =   (1‑u) [pF(K) ‑pkl] +apkl  となる。また,( 2 0 ) を ω に代入すると,

( 2 U   V (ド j~{[(日)(日)/(日][附) ‑I] 

一 [ ( f J ‑ c )   I  (1‑c) ]al}e 一 ( ρ(l‑m)/(1‑c)‑11") ( s ー t > d s

となる。これから,法人企業が V(t )を最大にする l 階のオイラー条件を求め ると,

( 2 2 )   F '  (K) ‑ o=  [ ρ( 1‑m)  I  (1‑c)  − πJ ( 1 +ご)+と

を得る。ただし, ξ = (0‑c)a/[ ( 1 ーの( 1‑u)]である。これからわかるよう に,資本コストは法人企業の投資決定は法人税率 uに依存し, R ベース方式の

‑ 6 ‑

(7)

法人税は中立的ではない。中立性が満たされるのは,配当に対する限界税率と 資本利得に対する限界実効税率が等しい場合ということになる。ただし,。= c の場合においても,資本コストは個人税の m と C に依存する。なお,法人企業 の投資決定がインフレーション率と独立であるためには,個人税において諸税 率が適切にインフレ調整されていなければならない。

次に, S ベースの法人税について,法人企業の投資決定に対する中立性を検 討しよう。 S ベース方式の法人税における課税ベースは,支払い配当から株式 発行額を控除した額であるから, E=apkl より,税額は,

( 2 3 )   T u(D‑apkl)

で与えられる。( 2 3 ) を ( 1 8 )に代入すると配当は,

( 2 4 )   D =   [ 1 / ( 1 十 u)][pF  ( K )   p k   I]+  a  p k   I  のようになる。さらに,( 2 4 )を伽)に代入すると,

( 2 5 )   v  ( t )   =  f  ~   [ { (1‑ e )   (1‑c)  ( 1 u ) ][附) ‑I] 

‑[  (  e‑c)  I  ( 1  ‑c)  J  a l } e ‑ ( P   (l‑m)/(1‑c) ーπ) ( S‑t)dS

となる。同様に, v ( t )が最大となる 1 階のオイラ一条件を求めると,

( 2 6 )   F '  (K) ‑ o 二 [ ρ ( l‑m)/(1‑c ) − π J ( 1   +ご)+ご

を得る。ただし,ご= ( 1   +u)  (8‑c) a/ ( 1 −θ )である。この式が示すように,資 本コストは法人税率 u に依存しており, S ベース方式の法人税も法人企業の投 資決定に対して中立的ではなしユ。 S ベース方式の法人税が中立的であるのは,

R ベースの場合と同様 m=Bの場合においてである。ただしこの場合において も,資本コストは個人税における m と c に依存する。また,インフレ率からの 独立性の条件も R ベースの場合と同様である。

これまでは,法人企業が株式発行と留保利潤から投資資金を調達するものと 想定していた。次に,法人企業の資金調達が借入れと留保利潤によってなされ るものとして,キャッシュ・フロー法人税の投資決定に対する中立性の条件に ついて考察する。この場合,初期の株主が保有している株式を別にすると,法 人企業は株式を発行しないことから凶は,

‑ 7 ー

(8)

( 初 V (ド j~ {  (1‑ 8)D  ( s )  ‑c ( s )  }e‑P  o‑m t > d s

と書き換えられる。( 2 7 ) を t で微分し,資本市場の均衡条件を求めると,

( 2 8 ) ρ( 1‑m) V  ( t )   =  (1‑8 )  D  ( t )   +  ( 1 ‑ c )  V  ( t )   が得られる。これを v ( t )について解くと,

( 2 9 )   v  (ド f~ {  [  (円) ( 1 一 叩 山 一 ( ρ(l 一 …

を f 辱る。

ここで, B(t) を t時点の借入額とすると,市場利子率は i であるから,支払い 配当は,

( 3 0 )   D=pF(K) ‑PkI+B‑iB‑T 

で表わされる。いま,法人企業の借入れが株式価値の一定割合 α として制約され ているものとすると, B = αV, B = αV である。

まず, R ベース方式のキャッシュ・フロー法人税について,投資決定に対す る中立性の条件を考察しよう。 R ベース方式の場合の税額は,

( 3 1 )   T=u[pF(K) ‑Pkl] 

となる。これを( 3 0 )に代入して,借入制約を用いると,支払い配当は結局,

( 3 2 )   D=(l‑u)[pF(K)‑PkI ] + αV‑iαV 

で得られる。( 3 2 ) を ( 2 9 ) と ( 2 8 )に代入し, l 階のオイラ一条件を求めると,

( 3 3 )   F '  (  K) ‑ o  =  < P   i  +  (  1  ‑ < P   [ ) ρ ( l‑m)/(1‑c ) ] − π  を得る。ただし, φ =[  ( 1 − θ ) α ] / [ 1‑c+ (1‑8 ) α ] 

である

0

( 3 3 )からわかるように,法人企業の資本コストは法人税率には依存しな い。したがって, R ペースの法人税はこの意味において,投資決定に対して中 立的であるということができる。ただし,資本コストは個人レベルの限界税率 に依存する。また,資本コストがインフレ率と独立であるためには,個人税率 のインフレ調整が必要である。

次に, S ベース方式のキャッシュ・フロー法人税の場合で,法人企業の投資 決定に対する中立性の条件を考察しよう。 S ベース方式の場合の配当は, T=

‑ 8 ‑

(9)

u D ,   B = αV,  B = αV を用いて,

( 祖 ) D=[l/(l+u)][pF(K)‑Pkl+αV‑iαVJ 

で得られる。 R ベースの場合と同様の手続きで l 階のオイラ一条件を求めると,

( 3 5 )   F '  ( K )   − δ = ψi+ ( 1 − ψ ) [ρ ( l‑m)/(1‑c ) ] − π 

を得る。ただし, ψ 二 [ ( 1   e ) αJ/[(1‑c)(l 十 u ) 十 ( 1‑ f J ) α ] 

である。( 3 5 )からわかるように, S ベース方式の法人税の場合は,法人企業の資 本コストは法人税率に依存する。したがって Rベース方式の法人税とは異なり,

S ベース方式の法人税は,投資決定に対して中立的でないということができる。

ただし,株主の税引後の割引率が市場利子率に等しければ,資本コストは法人 税率に依存しない。ここで,法人企業の借入れが資本ストックの価値の

a

定割

台 α に制約されている場合についてもみておこう。この場合は, B = αpkK, B ニ αpkK となる c これより配当は,

( 3 6 )   D ニ [ 1 / ( 1   +u) ][pF(K) ‑Pkl+αpkK‑iαpkK] 

で与えられる。これを( 2 助に代入し, 1 階のオイラ一条件から,

( 3 7 )   F '  ( K )   − δ 二 α i 十 ( 1 − α ) [ρ( 1‑m)/(l‑c)‑n] 

を得る。これからわかるように,資本コストは法人税率 u には依存しない。し たがって,倍入れが資本ストックの価値の

a

定割合 α の場合には, S ベースの法 人税は法人企業の投資決定に対して中立的であるといえる。ただし,資本コス

トは個人税率に依存している。また,インフレ率に対する調整の必要について は先に述べたとおりである。

4 . む す び

これまで,個人税としては所得税が採用されるという現実的な設定の下で,

R ベース方式と S ベース方式のキャッシュ・フロー法人税について,法人企業 の資金調達および投資の決定に対する中立性について考察してきた。分析の諸 結果から次のようにいえる。まず第 1 に,個人レベルの課税において,配当,

利子,資本利得に対してそれぞれ異なる税率が適用される場合には,キャツシ

‑ 9 ‑

(10)

‑ 1 0  

ュ・フロー法人税は法人企業の資金調達の方法に対しては中立的ではないとい うことである。第 2 に,投資決定に対する中立性に関しては, R ベース方式,

S ベース方式ともに一定 の借入れ制約が中立性のために必要になるということ である。第 3 に,キャッシュ・フロー法人税がインフレ率と独立であるために は,個人税率の適切なインデクセーションが必要であるということである。

ただし,上のような非中立性は,キャッシュ・フロー法人税によるものでは なし個人税における税率の相違によってもたらされている。キャッシュ・フ ロー法人税それ自身は,中立性の観点からは理想的な法人税であるといえる。

したがって,個人レベルにおいて所得税が採られている場合においても,所得 ベースの法人税をキャッシュ・フロー法人税に移行することによって効率利得 が得られる可能性が大きいといえる。

( 注 )

1  )例えば, K i n g [ l l ] , Kwon[l2 ]をみよ。

2 )   R ベース, S ベース, R+F ベースの各課税方式の詳細については, 、 ド報告[ 1 3 ]を参照されたい。各課税ベースは以下のように示される。

R ベース方式の法人税は,法人企業が実物取ヲ|から得るネットのキャッシ ュ・フローを課税ベースとする。課税ベースは一般的な場合で,財・サービ スの販売額+固定資産の売却額一原材料の購入額一賃金・給与支払額ーその 他のサービス購入額一固定資産購入額,として計算される。

S ベース方式は,法人企業と株主との聞のキャッシュ・フローに着目し,

法人企業から株主へのネットのキャッシュ・フローを課税ベースとする。具 体的には課税ベースは,株式有償減資+株式取得額十支払配当,として計算

される。

S 十 F ベース方式の法人税は,法人企業の実物取引および金融取号|から生 じるネットのキャッシュ・フローを課税ベースとする。具体的には課税ベー スは,財・サービスの販売額+固定資産売却額+借入増加額+株式を除く金

‑ 1 0  ‑

(11)

融資産の減少額十受取利子一原材料購入額一賃金・給与支払額ーその他サー ビス購入額一固定資産購入額一借入金返済額一株式を除く金融資産の増加 額一支払利子,として計算される。

3)ここでは,確実性と取引費用がゼロであることを仮定している。これに関 しては K i n g [ l O ]を参照。なお,インプレーションに関しては次節で明示的に 導入する。

4 )個人のレベルにおいて包括的所得税が採られている場合には,この条件を 満たす。またこの場合には,租税は最終的に個人が負担するとの観点、に立て ば,法人税の存在根拠は厳密にはない。しかし,包括的所得ベースの個人所 得税を理想的な形で実現することは不可能であり,法人税との調整が必要と なる。法人税と個人所得税との実際の調整方法については, Anderssonand  N  o r r m a n [ l ] ,   Boadway, B r u c e  and M i n t z  [ 6 ] ,   ミード報告[ 1 3 ]をみよ。

5)法人企業の株式価値の最大化あるいは富の最大化行動と資本コストに関す る分析については, A u e r b a c h [ 2 ,3 ] ,  Bergstrom and S o d e r s t e n [  4 ] ,  Edwards  and Keen[7 ]をみよ。

6 )支払い配当に対する制約は当然考えなければならないが,ここでは分析の 簡単のために,自由計画区間を想定している。この問題については,

Bergstrom and S o d e r s t e n [  4 ]をみよ。

7 )   Boadway, Bruce and M i n t z [  5 ]では, R ベース方式と R+F ベース方式 のキャッシュ・フロー法人税の場合で,法人企業の投資決定に対する中立性 の条件を吟味している。 R ベース法人税の場合には,彼らと同様の結論が得

られる。

参考文献

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1 2  ‑

参照

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