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(1)

レベル別に見る学習者のLL授業展開の好みの違い

著者 高木 紀子

雑誌名 英語英文学研究

巻 2

ページ 109‑117

発行年 1996‑10

出版者 東京家政大学文学部英語英文学科

URL http://id.nii.ac.jp/1653/00009596/

(2)

レベル別に見る学習者のLL授業展開の好みの違い

高 木 紀 子

1.はじめに

 LL教室は本来、個別授業に対応する設備を備えているのだが、鈴木

(1993)の調査によると、LL教室を使用する授業で個別授業を実践して いる短大は79校回答中2校のみであった。クラスサイズが問題にはなる が、学習者中心の授業に近づくためには、学習者一人一入の満足度も考慮 する必要がある。本稿では、佐野(1996)にて行った「学習者の好むLL 授業展開」の結果をふまえながら、学習者の英語力の違いによって提示方 法(ビデオ・キーワード・スクリプト)におけるLL授業展開の好みにも 違いがあるかを考察する。

2.本研究の背景

 メディアの波は今やとどまることを知らない。英語教育・教育工学研究 においても、メディアを利用した授業は幅広く研究されている。Baggett  and Ehrenfeucht(1983)は、教育用映画における視覚と口頭の情報の 符号化と保持について実証研究をおこない、メディア(映像・音声・テキ スト)を選択し、被験者に単独、連続または同時に提示した場合、直後の TFテストでは映像と音声の同時提示が最も効果があると報告している。

コミュニケーションの非言語手段の研究から、エンゲル(1981)はコミュ

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ニケーションの理解には、55%が顔や表情や動作で理解されていると定義 している。

 外国語の学習に関して、吉田(1984)は映像と音声併用の観点から、ビ デオ教材が音声テープ教材よりも学習効果を常にあげるのではなく、むし ろ音声テープのみを使用しりスニング訓練を行った方が、注意を聴覚だけ に集中できるので、リスニング能力は伸びる場合もあると述べている。し かしながら、音声のみの場合は、ラジオ、電話及び視覚障害者との会話に 限定され、実際のコミュニケーションにおいては、音声と視覚の刺激や発 信で成り立っていることは明らかである。映像効果についてKrashen(1988)

は、第二言語の教室では、絵や他の視覚教材は、子供にとっての「その場 主義」が果たす役割と同じ役割を大人の学習者に果たし、言語を習得する のに役立つ言語以外の資料を与えてくれると考えている。

竹蓋(1984)もヒヤリングを助ける外的要因は大きく、初期英語学習者に おける映像効果の大切さを述べている。Takai(1993)は音声テープと映 画ビデオの聴解力の比較を行い、ビデオ教材の方が音声テープよりも効果 を表す有意差が上位、下位群の学習者から確認できたことを報告している。

 また、学習者の英語力により、特有のメディア傾向を持つことを研究し た亀井・広瀬(1994)は、音声・映像・文字による映像が、聴覚・視覚を 通して同時に与えられる場合、上位群の学習者は、メディアを選択して言 語情報を解読する傾向があり、下位群の学習者はメディアを選択せず、様々 な情報を無意識に解読してるだろうと報告している。

3.調査方法 3.1.被験者

大学生 英語英文学科専攻 3.2.実験に使用した教材

2年生 45名

FAMILY ALBUM USA(NHK出版、ユ993)を使用し、ビデオとスク

リプトを使用した。竹蓋(ユ984)が学習効果があがらないと考えているedited

(4)

speechといわれるようなゆっくり聞き易いことを目的にしている教材では なく、自然な会話の早さで、日常的な場面で交わされるnatural speechの 教材である。またこの教材はepisodeで構成され、011er(1983,1993)の

エピソード仮説ωの点からも適切であると考える。

 授業内で行った内容理解テストは、自然に文脈情報が伝わるように物語 の展開に従って場面を抽出し作成した。このテストにおける問題文は問題 が理解できないことから生ずる誤答を避けるため、日本語で与えた。

3.3.調査手順

 1年間の授業で行った様々な授業指導過程を提示した質問紙(資料1)

を作成し、授業最終時に調査を行った。また、学力判定基準になるように 英検2級ヒヤリングテスト(年2回/4月・1月)、および総合能力テスト

(年1回)を実施し、被験者の学力を標準偏差で表し、3段階に分けた。

4.結果と考察

 学習者の英語力によって、以下のように上位群と下位群の間に提示方法 の好みの違いがみられた。

ユ)UNIT 2−7 スクリプトを配布して同時にビデオを見る。

    すき蕊霧≦どちらでもない、蔦rとら瓢、きらい

上位群 0%

下位群 14%

14%

29%

29%

50%

21%

07%

36%

O%

 上記の表から、スクリプトとビデオの併用は、下位群に人気がある(す き+どちらかというとすき=43%)。2種類のメディア併用は、文字に よって聞き取れない部分を補うことができ、Krashen(1981,88)の提唱す るAffective Filter(2)が効果を示しているように思われる。上位群は、

わからないなりにまず自分自身の能力で、教材に取り組みたいという意識

が見られ、文字による音声の聞き取りの妨害をさけたいという傾向がみち

(5)

れた。

 亀井・広瀬(1994)は、理解するときに、上位群の被験者は音声を重視 している傾向があり、下位群はすべてのメディアを利用している傾向があ ると報告している。しかし下位群の外国語学習者にとって、スクリプトの 併用は無意識のうちに音声を無視して文字に集中してしまう危険性が高い

と思われる。

2)UNIT 3−9 キーワードや重要表現はビデオを見る前に提示。

   すき謹麩どちらでもない、誘『とら継、きらい

上位群 0%

下位群 ユ4%

21%

29%

43%

43%

21%

14%

14%

0%

 言語能力を含む文化的背景などの包括的な言語運用能力が求められたい る現在、スキーマーの重要性は認められているところだが、学習者の持っ ているスキーマーの量の違いにより、キーワードなどの提示方法は英語学 習を促進させたり、妨げたりする傾向が見られる。下位群では(すき+ど ちらかというとすき)が43%という数値をあげている。学習者一人一人 が満足できるために、キーワードは、個別にプリントなどで、ビデオを見 る前に提示する方法も一つである。

3)UNIT 5−161回の授業でエピソード(ACT l−3)すべての場面を1度

に見る。

    すき謹毯どちらでもない謹とら艦、きらい

上位群 36%

下位群 07%

14%

21%

29%

43%

21%

07%

O%

21%

 これは上位群、下位群の間にあまり差がないように思われるが、上位3

名と下位3名を比較したところ興味深い結果が表れた。上位3名は、すき

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2名、どちらかというとすき1名で、下位3名の全員は、きらいを選択し

た。

Krashen(1981)は第二言語習得に関して、

In order to acquire, two conditions are necessary. The first is comprehensible (or even better, comprehended)input containing i十1, structures a bit beyond the acquire s current level, and second, a low or weak affective filter to allow the input  in .      (Krashen,1981:33)

言語の習得には、Comprehensible Input(理解可能なインプット)が必要 であるとしている。英語力による授業展開の好みの違いに見られるよう に、この理論が学習者側からも支持されたといえる。つまり、上位3名は Comprehensible Inputの量を自分で確かめたいがため、一度にepisode

をすべて見たいという希望があるが、下位3名の選択にはIncomprehen−

sible Inputに対する不安感が表れている。

5.おわりに

 学習者の英語力により、以上のようにLL授業展開の好みに違いが見ら れた。Motivationの段階においては、学習者の好みは学習の要因の一つ になる。学習者一人一人と教師との接点を結ぶため、それぞれの学習者の ニーズを考え、満足感を与えることができるよう配慮する必要が、教師に 求められている。

 よい授業とは、学習者全員に効果を与える授業であるといわれている。

この提示方法の好みの違いが、実際に学習効果を上げることができるかは、

次回に機会を改めて考察したい。

(7)

資料1

LL授業展開について

次の項目に対して、LL授業の好きな授業展開を12345の中から選ん で○をつけてください。  (1は自分の考えに合わないもの、5は自分の 考えに一番合うものと考えて下さい。)

鍵NIT 1.騰矯i理解のた轟磯設期繕鍵蓬驚

1.)内容理解のための設問を解く。 5すき 4どちらかというとすき 3どちらでもない 2とちらカとレうときらし

    を     ヘ      へ

1きらい

2.)ビデオを見てから内容理解のための    5 4 3 2 1   設問用紙を配布。

3.)ビデオを見てから内容理解のための    5 4 3 2 1   設問の後、ビデオをもう一度見る。

4.)内容理解のための設問用紙を配布      5  4  3  2  1   してからビデオを見る。

灘簸餐2 輩嬢難鍵1麟綴鷺霧慈

5.)スクリプトを配布。      5  4  3  2  1 6.)ビデオを見てからスクリプトを配布、   5 4 3 2 1   もう1度ビデオを見る。

7.)ビデオを見てからスクリプトを配布。   5 4 3 2 1

8.)スクリプトを配布して同時にビデオを見る。5 4  3  2  1

(8)

9.)スクリプトの説明の時、その表現の文化  5 4 3 2 1   的背景などを覚える。

簸灘蒙璽3難錨嚢雛《簸纈鍵慧織饗難灘難灘難灘総難謝韓麗蔭爆

10.)キーワードや重要表現はビデオを見る前  5 4 3 2 1   に提示。

11.)キーワードや重要表現はビデオを見    5 4 3 2 1   てから提示。

12.)ビデオを見て重要表現を提示し、     5 4 3 2 1   もう1度ビデオを見る。

鍵藪護i4 灘鐙叢灘糠糠驚穫蕪

13.)ビデオの音声のみを聞く。        5 4 3 2 1

14.)ビデオの音声を先に聞き、        5 4 3 2 1   次に映像を見る。

15.)ビデオの映像を見てから、次に音声を聞く。5 4 3 2 1

難簸澱i5 慈灘灘磯魏i溝鰺嚢灘鷺鰻藍鷺蓬

16.)1回の授業でエピソード(ACTI−3)すべて 5 4 3 2  1   の場面を1度に見る。

17.)1回の授業では1つのACTのみを見る。  5 4 3 2  1 18.)エピソードすべての場面を1度見てから、 5 4 3 2 1  ACTを見る。

  (例;全,ACT 1・全, ACT 2・全, ACT3)

19.)最初にエピソードすべてを1度通して見て 5 4 3 2 1   からその日のACTを見る。

   (例;全,ACT l・ACT 2・ACT 3)

20.)その日のACTを見てから、最後にエピソード5 4 3 2 1

  すべてを通して見る。

   (例;ACT 1・ACT 2・ACT 3,全)

(9)

(1)011erはエピソード仮説について、語学学習における場面文脈の関連  性が増すほど、情報が学生の長期記憶に保存されやすいと主張している。

(2)ここでは、Krashenの提唱するAffective Filterの要因になる、英  語が聞き取れないかもしれないという学習者の不安感を排除してOut−

putを促進させる役割を果たしている。

参考文献

Baggett and Ehrenfeucht(1983). Encoding and Retaining information   ln the Visuals and Verbals of an Educational Movie, Educαtionα1   00mmunicαtionαnd Technology Joumα1, vol.31, PP.23−32

K・a・h・n(ユ981)・ P・in・iples and P・α・tice in Sec・nd Lαng・age   Acquisition, Prentice Hall Internationa1.

Krashen and Terrell(ユ988). The Naturαl Apρroαch, Prentice Hall.

Oller(ユ983)。  An integrated pragmatic curriculum:ASpanish   Program in J。W.011er, Jr.&P.A. Richard−Amato(eds)Methods   thatω・r崩sm・rgasb・rd・プideαS!・r 1αnguage teαchers,

  Rowley:Newbury House Publishers, INC., pp.20−37.

011er(eds) (1993). Methods thαt ωorん 皿∴Plus evidences αnd reαsons   ωhJノ, Heinle&Heinle.

Stempleski, Tomalin(1990). Video in Action,Prentice Ha11.

Takai(1993). Are movies really effective for Japanese students   to lmprove their listenin g comprehension ability?:Apilot   study.  『小樽商科大学人文研究』86集、 pp.U7−137.

亀井節子・広瀬,恵子(1994).外国語理解におけるメディア多重化の効果:

 学習者の英語力との関係で,Lαnguage Lαboratory,31, pp.1−17.

(10)

鈴木純子(1991).「私立短期大学英語・英文科におけるLLの授業に関す  る実態調査報告書」,『和洋女子大学紀要』,第31集(文系編),

 PP.1−42.

竹蓋幸生(1982).『日本人英語の科学』,研究社出版.

竹蓋幸生(1984).『ヒヤリングの行動科学一実践的指導と評価への道標一』,

 研究社出版.

平良辰夫(1993).「CAI英語クローズ学習によるエピソード仮説の立証」,

 語学ラボラトリー学会,第33回全国研究大会 発表要項.

吉田一衛(編)(1984).『英語のリーディング』

 英語教育モノグラフシリーズ  大修館.

参照

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